死んだ町に居座る適合者
夢小説設定
本棚全体の夢小説設定夢小説の主人公は、その話に応じて容姿や性格などを設定しています。
全ての小説で、夢用のお名前を使用する場合は、こちらを使用してください。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
(あぁ、どうしよう、椿ちゃんに追いつけないわ。どこに行ったのかしら?)
迷子常習犯のミランダは、森の中を彷徨っていた。
(さっき無線ゴーレムは使えたから、万が一はクロウリーに連絡して迎えにきて貰えばいいんだけど、それじゃぁ、意味ないのよね。なんとしても椿ちゃんを見つけ出して、役に立たないと!)
夜の森の中を見渡して少しでも手がかりがないか探す。
ぱきりと足元で音がした。
小枝を踏んでしまったらしい。
「誰だ!」
「っ、椿ちゃん?」
鋭い声がした方に走る。
「ミランダか。なんで追ってきた?」
茂みをかき分けて、開けた所に出れば川沿いだった。
椿の手には、なにやら小さな赤い木の実がある。
「あの、何か力になりたくて…それ、何の木の実かしら?」
「アンタの力は時間を操ることなんだろ?瑠璃の側にいてくれた方がよかったのに」
「そ、そうかもしれないんだけど。椿ちゃんを一人にしないでって瑠璃さんがね」
「瑠璃が?そうか。早く帰らないとだな。コレ、キイチゴなんだ。野生の。小さい頃に森を探検して…味変えだって言って、瑠璃が肉と一緒に食べてたから。見つけられてよかった。少し食べてみるか?人も食べれるんだ」
「あ、ありがと。ん、美味しいわ!」
「毒味、ありがとな」
「ふぇ、ど、毒味だったの、コレ!」
「冗談だよ、行こう。瑠璃が待ってる」
どこか寂しげに笑って椿は歩き出す。
静かに流れる川に沿って町へと戻る。
ミランダも慌てて後を追った。
「なぁ、ミランダ」
「な、何かしら?」
「アンタは戦えないのにどうしてエクソシストなんてやってるんだ?」
「…私ね、エクソシストになる前は、何をやってもダメなやつだったの。ありがとうって一度も言われたことなかったの。でも、アレンくん達と会って、イノセンスの力で役に立てるんだって気づいて…私にも出来ることがあるって認めてもらえたのがすごく嬉しくてね。守りたいの、少しでも多くの人を」
「…博愛主義、なんだな。俺には到底見習えそうもない」
「椿ちゃんは、その、自分のことを俺って言うのね?」
「…父さんを殺した時に、それまでの自分も殺したんだ。強くなりたいから、呼称だけでも変えたんだ。気づく奴なんて今までいなかったな」
「もう、一人で頑張らなくていいのよ?私達にもその肩の重荷を背負わせて?ずっと瑠璃さんと二人だけでアクマを倒してきたのは辛かったでしょ?」
「重荷?辛いだと?アンタは、俺らの何を知ってると言うんだ?博愛主義者は嫌いだ。上部だけで取り入ろうとする!…怒鳴って悪い。川沿いに歩いていけば、クロウリーの元にたどり着けるから、先に帰れ」
「椿ちゃん!どこに行くの?」
「これ持ってけ。他に瑠璃に聞く薬草を取ってくる、迷うなよ」
ミランダにキイチゴを押しつけて、椿は森の中に姿を消した。
(怒らせちゃったわ。私、何わかったようなこと言ったのよ。力になりたいだけなのに)
夜風がミランダに吹き付ける。
川沿いだからか少し冷たい。
(椿ちゃんを追っても怒られそうだし…このまま歩けば辿り着けるのよね?瑠璃さん、キイチゴ食べてくれるといいんだけど)
自身を励ましてミランダは歩き出した。
(行ったか…瑠璃にこれ以上、無理をさせられない。なら、やることは一つだな)
木の影からミランダを見送り、椿は森の中を歩く。
夜の森は暗く何が出るか分からない。
でも探し物はさほど苦労せず見つかる。
それは白っぽい石で、虎を模してるようにも見えた。
(コレをしたら瑠璃怒るかなぁ…長く付き合わせてしまった…もぅ、守られてばかりじゃダメなんだ)
硬く石を握りしめて深呼吸する。
(俺はもう、弱くない。やれる。瑠璃を守るんだ)
決意を胸に椿が戻れば、ミランダとクロウリーが瑠璃の側にいた。
「椿ちゃん、お帰りなさい!」
「お帰りである!」
「瑠璃の容態は?」
「眠ってるわ。呼吸も落ち着いたみたい。けどなるべく早くお医者様に診てもらったほうがいいと思うわ」
「教団の迎えが来るのは明日の朝だったな」
「えぇ、瑠璃さんを運ぶ為の支度に時間がかかるって」
「そうか、今日はもう休んだ方がいい。いつアクマが襲ってくるか分からないからな。まともそうな布団探してくる」
椿は必要事項を確認して部屋の奥へと消え、二人の布団を持ってくる。
「コレを使え、ボロいので悪いな」
「ありがたいのである、椿も休むである。昼間からずっと戦い続けている」
「そう、だな。少し寝る。何かあったら起こしてくれ」
瑠璃の頭を優しく撫でて、椿は近くの壁に持たれて目を瞑った。
少しして寝息が聞こえてきてから、クロウリーがミランダにコソコソと耳打ちし、 さっき見た夢のことを話す。
「瑠璃さんが、椿ちゃんの夢を?二人とも互いの事ご大事なのね。クロウリー。私ね、考えたの。明日の迎えが来るまで、タイムレコードを発動するわ」
「しかし、それではミランダが眠れないである」
「大丈夫よ、寝ないのは慣れてるから。それよりクロウリーも休んで?首元から見えてるわよ?アクマの毒に犯されてるんじゃない?」
「ぬ、椿には言わないでほしいである。今日は久々にアクマの血を吸って体がまだ馴染んでないだけである」
そっぽを向いて、布団にくるまるクロウリー。
「おやすみなさい、クロウリー」
「タイムレコードは、瑠璃に使うである。私は寝れば治るである」
「無理、しないでね?…タイムレコード、発動!対象を包囲確定。これより私の発動停止まで秩序をロストします、リバース!」
ミランダのイノセンスが発動して、無数の時計が現れ皆を包む。
逆に回転する時計の針に合わせ、眠る3人から受けた傷の時間が吸い出されていく。
ミランダは集中する。
(お願い、私のイノセンス。みんなを今日、アクマと戦う前の状態まで戻して!)
「…なに、をした?」
「!瑠璃さん、目が覚めたのね?」
「椿は?」
「そっちで寝ているわ。みんなの傷の時間を少しだけ吸い出したの。今みんなの体は昼間のアクマと戦う前まで戻ってるわ。私が発動を止めたら時間が戻ってしまうのだけど」
「そうか。体軽いがもう少し寝る」
「えぇ、おやすみなさい」
「……………………ミランダ」
「ふぁ!つ、椿ちゃん起きてたの?」
「寝たふりだ。コレは出ても効果が続くのか?」
「えぇ、あまり離れすぎると傷が戻ってしまうのだけど」
「そうか」
短い言葉を吐き出して椿は立ち上がり、白い石で床に何か書き始める。
カツカツと石が床を擦る音だけが響く。
「なに書いてるの?」
「気にするな、昔から伝わる知識が活かせないか試してみるだけだ」
「?」
なんのことか分からず首を傾げるミランダに応えることはせず、黙々と書く作業を止めない椿。
「できた。ミランダ、瑠璃は寝ているな?」
「え、えぇ。安定した呼吸だわ」
「お前は寝なくていいのか?」
「えぇ、10日くらいなら寝なくても平気なの」
「変わったやつだな。一つ約束してくれないか?」
「約束?」
「…瑠璃のことを頼んだ」
「えぇ、私達に任せて?瑠璃さんも椿ちゃんの事も守るわ」
「…頼んだぞ。今から見る事聞く事は、誰にも話すな」
「え?」
「古いまじないの言葉だ。覚えないほうがいい」
怖いくらいに冷たい椿の視線に、ミランダは身を竦めた。
書き終えた床の模様に、手をついて椿は静かに言葉を紡ぐ。
「いにしえの約定を今宵、果たそう。我らが守護神の力の継承は終わり、この地は静かな安穏に包まれる。全てが終わる最後の夜、この地に眠る西神・白虎の御身が月明かりに舞う。招来、銀霊虎!」
床の模様が発光して、一瞬目を閉じるミランダ。
光が止んだと思って目を開けば、椿の側に大きな白い虎がいた。
ほのかに光って見える外輪が、揺らめいて幻想的だ。
「…白虎?」
「ミランダ、先程の約束忘れるなよ?」
「椿ちゃん?」
「外の見張りだ」
それ以上語らず外への階段へ向かう椿と、その後ろをついて行く白い虎。
「待って!椿ちゃんここから出たら危ないわ!」
「村を一周してくるだけだ、朝までには戻る」
「椿ちゃん!」
ミランダの静止も効かず、椿は外へ出て行ってしまった。
(み、ミランダ、落ち着くのよ。今動けるのは私しかいない。今リバースを解除したら、瑠璃さんとクロウリーの傷が戻ってしまう。それに、椿ちゃんも瑠璃ちゃんも互いをとても大事にしてるわ。リカバリーをかけ直しても、これ以上傷を負ったら発動を解いた時に、みんなが…)
ミランダが一人、手を握り考えてる間にも、外の時間は進む。