死んだ町に居座る適合者
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孤独だった。
暗く深い森の中、獲物を探して彷徨うだけの生活。
ふと開けた場所に出た。
人の町だ。
空腹とただ生きるために獲物を狩るだけの生活に飽きていた。
大きな建物の方で何かが風を切る音がする。
興味本位で足を向ける。
「危ない!」
ちぃさな子供が目の前に突然出てきた。
肩から棒のようなのが突き出ている。
「~様、なんてことを!早く医者を!」
「怪我はない?澄んだ蒼の瞳、きれい」
その子は血の匂いをさせながら倒れた。
パタパタと人間に囲まれる。
(あぁ、ここでも、拒絶されるのか)
「おい、この虎。白虎様の生まれ変わりでは?額に十字の模様があるぞ!」
「しかし毛並みが黄色い」
「そんなことは関係ないだろ!先代が亡くなったばかりなんだ!器になる可能性があれば!」
わけのわからないことを喚く大人達の中で、子供が動いた。
「血の匂い、嗅いでも襲わないのね?賢い子。誰かこの子に食事を」
「~様動いてはなりません!」
「~様今肩の矢を抜きますので、少し我慢してください」
「いいから、この子に食事をあげて!お腹空いて森から降りてきたんでしょ?…なんなら、私を食べる?」
どこか寂しげな瞳で、地に濡れた手を伸ばしてくる子供。
大人が名前を言ってる気がするが聞き取れない。
手の血を舐めて拭ってやれば、微笑んだ。
眩しい物を見るように目を細めているが悲しそうにも見えた。
「優しい子。あなたの名前は、瑠璃。きれいな瞳と同じ色。気に入ってくれたら嬉しいな」
笑ったまま今度こそ意識をなくして倒れた。
大人達は何か喚きながら子供を連れてく。
会話の中で、子供の名前を何度も聞いた気がするが覚えられない。
空腹も忘れ、子供についていった。
怯えない子供が気になった。
子供の部屋でしばし大人達が行き交う。
新鮮な肉が出され、空腹を思い出して食らいつく。
「お納めください、瑠璃様」
「次期当主がお決めになられました」
「どうか、この町に白虎様のご慈悲のあらんことを」
空腹だったからそのまま食べてたが、わけのわからないことを大人達は口にして、 俺の前で地面に頭を擦り付けてた。
意味がわからない。
食べ終えて毛繕いをしていると、子供の声がした。
「瑠璃、は?」
「~様、気がつかれましたか?」
「瑠璃は、どこ?」
なんとなく、子供が寝ている場所に近寄る。
呼ばれた気がしたのだ。
名前など今までなかったから、居心地が悪い。
「ついてきてくれたんだ、瑠璃。嬉しいな」
子供は怯えることなく、頭を撫でてくる。
「瑠璃さえ良ければ、ここにいて?ココを瑠璃の居場所にして?」
他の大人と違って、この子の言葉はわかりやすかった。
「~様、目が覚めたのなら、包帯を変えましょう」
「~様医者が参りますので、何か食べれそうですか?」
「あぁ、新しき守神を、‥様ご自身の身を挺して守るなんてなんと慈悲深い」
「弓道教師は首だろうな、注意不足だ」
「うるさくてごめんね、ご飯はちゃんともらえた?」
大人達の言葉に返事をせず、小さな手で撫で続けるこの子を、守りたいと思った。
1人にしてはいけないと。
寂しい目をして笑うこの子に、笑顔を。
頬を舐めてやればくすぐったいのか、笑った。
この笑顔がずっとあればいい。
子供が眠りについてから、大人達が俺にまた頭を下げにきた。
何やらついてこいと言ってるみたいで、従ってみれば床に変な模様がある部屋に出る。
模様の中央に、他の虎がいた。
ぐったりと横に倒れていた。
生きてる気配はしない。
恐る恐る近づく。
模様の中に入った瞬間、光に包まれる。
「~~~、~~~」
少し遠い人間の声。
何をしているのかわからない。
目の前の虎が、霧になり絡み付いてくる。
慌てて逃げようとしても、模様の外に出られない。
引っ掻いても、噛みついても弾かれる。
怖かった。
霧が俺の中に入ってくる。
(いやだ、怖い怖いこわいっ)
頭が身体中が痛かった。
こんな目に合わせた人間が憎い。
殺してやる。
早くここから出せ!
「何してるの!」
「!!」
子供の声で大人達の声が止まった。
模様の中から出れて、近くにいるはずの人間を食い殺したくて唸った。
思いの外、人間達は遠くにいて、子供だけが近づいてきた。
「ごめんね、こわい目に合わせて。痛かったよね?」
牙をむき出しにしていても、すまなそうに手を伸ばす子供。
「くるな」
舌が人の言葉を発すると思わず、驚いていたら、子供は厳しい目をして背を向けた。
「勝手なことをして!許さない!」
子供の左手の方が光り、弓になった。
矢のない弓を大人達に向ける子供。
小さな手が弦に触れればそこから光の矢が生まれる。
場の空気が変わった。
大人達は謝罪の言葉を並べ立てる。
「申し訳ありません、~様!」
「しかし、先代が亡くなられたばかりのところに、新しき資格を持つ虎が現れたのです」
「これは白虎様の思し召し」
「現に加護の移し替えが完了しました」
「うるさい!勝手な行動でこの子を痛めつけないで!」
大きな声で大人達を黙らせた子供。
何やら息が荒い。
光る弓がこの子を苦しめてるようだ。
「だいじょぶ、もう、痛くない、やすめ」
勝手に言葉が出た。
人の言葉を使ったことのない舌の動きに慣れない。
「瑠璃、ごめんね。人の勝手で。瑠璃にはこれからたくさん辛い思いをさせちゃう。頑張るから、瑠璃が苦しまないよう頑張るから。もう少しだけココにいて?わがまま言ってごめん。必ず自由にするから」
人の言葉を話す俺に、子供は泣きそうな顔で謝った。
「~様、母君の容態が!」
「…行かない。母さんには父さんがついてる。母さんは私が嫌い」
一瞬で暗い瞳に変わり、大人の言葉に答えて、弓をしまった子供。
そのまま倒れると思って、支えようと前足を伸ばしたら、見たことのない腕があった。
「おぉ、白虎様の力が宿ってるぞ!」
「さすがは~様が庇っただけのことはある!」
「これでこの町も安泰だ!」
「あつい、子供、どうする?」
見たことのない自分の腕に身を預ける子供を誰も助けようとしなかった。
「瑠璃様、今姿鏡をご用意します」
「~様は瑠璃様を気に入っておられるようですので、どうかそのままで。今毛布をお持ちします」
大人達が忙しなく散っていく。
自分がどうなってしまったのかわからなかった。
虎の前足とも、人の腕とも違う。
足の調子もなんか違う気がする。
尻尾はあるようだ。
耳も今までと同じように聞こえる。
匂いは、少しわかりにくくなった気がする。
水があれば姿を確認できると思って匂いを嗅ぐが、水の音すら聞こえない。
人の建物はこれだから嫌いだ。
「鏡をお持ちしました!どうかこちらでご確認ください!」
大人がカガミというものを持ってくる。
「なんだ。これ」
そこには、人の顔をした自分がいた。
顔だけじゃない。
体も人だ。
虎の模様をそのまま人に貼り付けたような。
尻尾はある。
前足の爪が長く伸びて、うまく踏ん張れないから、後ろ足で立ってみる。
片腕に子供を抱えたまま立ってみれば、後ろ足だけで立てた。
「これが?」
「我らは今のお姿を、獣人型と呼んでおります。魔なるものから、この街を守る際は今のお姿をお使いください」
「このすがたを?」
(こんなの、バケモノだ)
言葉に出さず心の中で吐き出す。
(バケモノにした人間、許さない…けどこの子供は)
荒い呼吸だが、腕に縋り付く子供を守りたいと思った 。
この子供だけは、自分を守ってくれる。
「瑠璃様、申し訳ないのですが、~様を我らに預けてくださいませんか?まだ矢の傷による熱が下がっておられないようです」
「運ぶ」
大人が子供に手を伸ばそうとするのを断って歩き出す 。
2足で歩くのは変な感じだ。
「どこにいけばいい?」
「こ、こちらになります!」
大人が慌てて案内をする。
ベットに寝かしつけた後、子供の熱が覚めるまで側にいた。
人の姿は疲れるから、眠れば元の姿に戻れていた。
数日が過ぎて、子供が起きた。
大人達は肉をくれてた。
毎日持ってくるから、狩りをしていた頃より体に肉が付いたと思う。
「る、り」
「おきたか」
子供の寝ているベッドに頭を乗せる。
嬉しそうに手を伸ばしてきて頭を撫でる子供。
「側にいてくれてありがと。わたしね、椿っていうの。覚えてくれたら、嬉しいな」
「つ、ば、き?」
「そう、覚えてくれたんだね。瑠璃、わたし頑張るから。自由にしてあげるからね」
それから、椿は宣言した通り頑張ってた。
光る弓を的に向かって毎日打って。
大人になる為だと、本を読んだり何かを書いたり。
見回りだと言って、建物を抜け出す。
興味本位でついていけば、一人で町の大人達に挨拶していた。
町の人間は自分を見ると、深く頭を下げる。
意味がわからなかった。
「この町はね、虎が好きなんだよ。守り神なんだって。町の人達は、瑠璃を傷つけないから大丈夫だよ」
優しく笑う椿。
でも、どこか寂しそうだ。
理由は親のことらしい。
ある日、椿が呼ばれて後をついて行った。
「父さん。なんですか?」
入った部屋には、ベッドに背を預ける女と側に立つ男が一人。
椿に何かするなら守ろうと思って側にいた。
椿は手を握り閉めて硬い声だった。
「新しい守神とはうまく言ってるかね。椿」
「はい、父さん。問題ありません」
「自慢の娘だな、家宝にも認められて、新たな守神もちゃんと躾けられているようだ」
「なにが、自慢の娘ですか。祭壇の家宝を盗む罰当たりで、気味の悪い子。こんなバケモノ産むんじゃなかった!」
「こら、落ち着かないか、この子はバケモノなんかじゃないさ。町の者も次期当主として信頼している」
「なにが次期当主のよ!虎を崇める町なんてうんざりだわ!お金があると思って嫁いできたのが間違いだったのよ!出て行きなさい!私の前にもう姿を見せないで!」
「失礼します、母さん」
「私はお前の母なんかじゃないわ!その呼び方しないで!あぁ、お前なんか産まなければ良かった!」
「すまないな椿、母さん今日は調子悪いみたいなんだ。部屋で休みなさい」
「はい、父さん」
椿は涙ひとつ見せず部屋を出た。
小さな体で扉を開けるのも大変そうだったから、手伝ってやる。
「ありがとう、瑠璃。ごめんね。親がうるさくして。耳痛かったよね?」
俺を撫でる手は、震えていた。
「母さんに認めてもらえるよう、頑張らなきゃ」
ぽつぽつと床が濡れた。
椿が泣いてる。
「わっ、瑠璃、なにするの?」
気がつけば人型で椿を抱えてた。
「我の前では、なみだ、隠さなくていい。子供は泣くものだ」
「な、泣いてない。瑠璃、言葉うまくなったね。えらいね」
手を握って涙を我慢して、我の顔に手を伸ばす椿。
小さな手が暖かいと思った。
この子を守りたい。
笑ってほしい。
我慢するな。
もっと笑って。
背伸びもしなくていい。
守るから。
笑ってくれ、椿。