死んだ町に居座る適合者
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瑠璃を休ませるため、椿は瓦礫の山の中から使えそうな毛布を持ってきて床に広げる。
その上にそっとクロウリーが瑠璃を下ろした。
「瑠璃、大丈夫か?すまない、無理をさせすぎたな」
椿が優しく瑠璃の頭を撫でる。
荒い息を繰り返す瑠璃の蒼い瞳がクロウリーを見つめた。
「私に何か伝えたいのであるか?」
「...っ、...っ!」
言葉よりも吐息の音量が大きく聞き取れなかった為、クロウリーは瑠璃の口元に耳を近づけた。
瑠璃は椿に聞かれたくないのか、前足で椿を押して遠ざけようとする。
「瑠璃、水持ってくるな。クロウリー少し見ていてやってくれ」
奥の部屋へと椿が姿を消すのを待って、瑠璃は短い言葉を吐き出した。
「椿を頼む」
「瑠璃、何を言っているである!」
「椿に、笑顔をっ」
「今意識を失ってはダメである!椿を置いていっては!」
クロウリーの必死の呼びかけに答えず、瑠璃は静かに瞳を閉じた。
「瑠璃、瑠璃!目を覚ますである!」
「クロウリー、どうしたの?瑠璃さんの体調良くないの?」
「ミランダ!瑠璃が、瑠璃が起きてくれないである!私に椿を頼んだと言ったきりで!」
地下に降りてきたミランダに半泣きのクロウリーがすがる。
「お、落ち着いて?クロウリー?瑠璃さん、寝てるだけだと思うの。ほらお腹動いてるから、呼吸はしてるみたいだし…でも、あんまり良くはないかもしれないわ。飲み物だけでも口にしてくれるといいのだけど」
「ミランダ、戻ったんだな。少し手伝ってくれないか、瑠璃に水を飲ませたい。頭を支えてくれるだけでいいのだが」
「えぇ、手伝わせて?んーしょ、と。虎さんって頭だけでも重いのね!」
「今は容態が良くないから脱力してるんだろう、そのまま固定してて」
ミランダが瑠璃の頭を持ち上げて尻餅をつく。
膝枕する形になるが収まりが良かったのか、椿はそのまま、瑠璃の口元に指を入れて口を開かせて、こぼれないように水を飲ませた。
「瑠璃、私はお前が側にいてくれたから、自暴自棄にならず今日まで生きてこれたんだ。今お前が好きなものとってくるからな。少しだけ待っていてもらえるか?」
優しく瑠璃の頭を撫でる椿の表情は、柔らかくもどこか揺るがない決意を含んだ様に見える。
「あ、あのね、椿ちゃん。勝手な事かもしれないけど、瑠璃ちゃんのためにもお医者様にみてもらった方がいいと思って、教団の方で移動用の馬車を用意してもらえることになったの。明日の朝には到着するみたいだから」
「それは、教団に瑠璃を受け入れる余力があると判断していいんだな」
ミランダの提案を固い声の椿が遮った。
「え、えぇ。でも、できたら椿さんも一緒の方が瑠璃さんも安心するかなと思うのだけど…余計なお節介かもしれないけど…私のイノセンスは時間操作なの。その場限りの物だから治療ができるわけじゃないわ。私のタイムレコードは、受けた傷の時間を吸い取るリバースと、最善の状態を保つリカバリー。私がイノセンスを発動を止めない限り、吸い取った時間は持ち主に帰らないから、私から離れないように戦って貰えば、大きな怪我をしてもみんな命を繋ぐことができるの」
「言葉だけでは実感湧かないが、凄い能力なんだな。今の瑠璃の時間を吸い取っても発動を解けば、戻るのだろう?けどここではまともに瑠璃の治療ができないのも事実だな。教団の迎えが来るのは明日の朝か。クロウリー、ミランダ、少しの間瑠璃のことを見ててくれないか?少しでも回復につながる好物取ってくるから」
作り笑顔を貼り付けて、2人の返事も聞かずに椿は出ていった。
「女、椿を1人にするな。無茶をする、から」
眠っていたはずの瑠璃に驚くエクソシスト2名。
「え、でも、私瑠璃さんにリカバリーをかけてあげたいんだけど」
「我より、椿の心の時間を。あの子の、心は救えないのか?」
「私の力は、直すものじゃないの。仮初の…時間稼ぎの力なのよ。心までは直せないの。役に立てなくてごめんなさい」
「ミランダは椿を追って欲しいである。瑠璃は私が見ているから大丈夫である」
「で、でも私」
「行くである、ミランダ。今椿は1人である。これ以上一人で頑張らせない為に、私達が頑張るのである」
「わかったわ。行ってくるわね」
クロウリーに励まされ、ミランダは椿の跡を追った。
(迷うかもしれないわ、でも、立ち止まってるよりはマシ)
ミランダを見送り、クロウリーは自身のコートを脱いで瑠璃にかぶせた。
長身痩躯の彼のコートはギリギリ、瑠璃を覆えた。
瑠璃が薄く目を開き、弱い声で言葉を発した。
「もっと、近くにきてくれ。伝えたいのだ、あの子のことを」
瑠璃に促されクロウリーが近づけば、寄生型同士作用するのか、瑠璃の額にある十字模様とクロウリーの牙が薄く発光し始める。
「これは、いったい?なんであるか?」
瑠璃は何も答えないがその瞳には強い意志を感じる。
彼の十字の黒い模様が強く光ったと思った瞬間、世界が暗転した。