死んだ町に居座る適合者
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クロウリーとミランダはゲートを通り、現地ファインダーと合流して目的地に向かって歩く。
「死んだ町、ですか?」
ミランダがファインダーから詳細を聞いて疑問をあげる。
「えぇ。今から行く町は、アクマの攻撃で廃墟と化しています。けれど、今もアクマの襲撃が止んでません」
「目的はイノセンスの破壊であるか?」
「おそらく。元々、西の守神:白虎の住う町としてある程度名のある町でしたが」
「西のしゅしん、びゃっこ?」
「中国神話の中で、方位を守る神を指す言葉だそうです。4つの神がいて、西は白い虎の神が守護してると伝えられてます。現実にはいないとされてきましたが、町では当主の家で代々虎を飼って大切にしていたそうです」
「その虎がイノセンスと関係あるであるか?」
「可能性はあります。アクマが町を襲撃した際に虎を見たと報告があり、クラウド元帥の寄生型イノセンス獣に近いのかもしれないというのが教団の考えです。 それともうひとつ、虎の他に町の方角から光る弓矢を見たとの情報も入ってきてます」
「弓矢?イノセンスが、二つあるってことかしら?」 「戦わずして説得できれば良いのであるが」
「…私、どうして町を離れたくないのか知りたいわ。私のイノセンスで何か役に立てばいいのだけど…」
暗い顔のミランダにクロウリーは明るく声をかける。
「これは良い機会だと私は思うである。アレンやラビ、リナリーが私を教団で受け入れてくれたように、きっとこれから会う適合者もホームにいるような家族が必要である!」
「そうね、私もみんなに支えられてここにいられるもの。頑張りましょう!クロウリーさん!」
「あの、頑張るのはいいんですけど、道こっちなので、迷わないでくださいね?」
ファインダーの言葉に指摘され、別の道を行きかけていた迷子常習犯2名は大人し くファインダーについていく。
「…ココで合っているの?」
「えぇ、間違いありません」
「瓦礫の山しかないである」
3人の前にあったのは、クロウリーが言う通り、破壊された瓦礫の山。
元は町であったらしき廃墟の所々にアクマの残骸が見られる。
「こんなにたくさんのアクマを倒せる人がいるなんて」
「気をつけてください。奥に建物の形が残ってる場所が見えますか?あそこに適合者が今も住んでるみたいです」
「人も家畜の匂いも何もしないである。こんな所にどうして住んでいるのであるか?」
「わかりません。ただ…」
「ただ、なんであるか?」
「捨てられない過去が重荷になりすぎていると。ティエドール元帥がいらした時に、悲しい目で残した言葉です」
「捨てられない過去…」
(エリアーデ)
過去という単語に、ミランダもクロウリーも胸の奥に痛みを感じた。
これから出会う適合者にも何か事情があるのだろうか。
「ミランダ、大丈夫であるか?顔色が優れないである」
「!!、大丈夫よ。それよりクロウリーさんも体は大丈夫なの?その、この前のコム イさんの薬の件…」
「大丈夫である。私ならこの通りピンピンしているである!」
廃墟の中を歩きながら、ガッツポーズをとってみせるクロウリーにミランダはくすりと笑った。
(…誤魔化せたであるか?正直、あの一件以来、時折体が重くなるである。暫くアクマの血を飲んでないからであるか?後遺症ではないといいのであるが)
「着きましたよ、お二人とも。この屋敷跡に適合者が」
「止まれ!」
ファインダーの声にキツい声音が被さる。
身を硬くする一行に対して、女の声だけが響く。
「その胸の紋章。お前らまた懲りずにやってきたのか。帰れ!アクマ退治ならしてやってるだろ!これ以上関わってくるな!」
「っ、退がれ!」
殺気を感じたクロウリーがマントを広げたのと、光の矢が飛んで来たのは同時。
矢の軌道を外したクロウリーに影が迫る。
「新手か!」
瓦礫の影から飛び出してきたのは、大きな虎。
凶悪な牙が狙うのは、固まっていたミランダ。
「危ない!」
「きゃっ!」
ファインダーがミランダを押し倒し、虎の一撃を免れた。
普通の虎よりも一際大きい個体のようだ。
虎は振り返り毛を逆立てて威嚇している。
「大丈夫ですか、エクソシスト様」
「えぇ、ありがとう」
起き上がるミランダ達に再び声がかかる。
「警告はしたぞ。次は外さない」
場の緊張が高まる。
大柄の虎は牙を剥き出しにして威嚇をし、クロウリー達の正面までゆっくりと歩く。
「やはり戦わなければダメか」
クロウリーの言葉に続いて、虎が何かに気づいたようにその身を返して、建物の奥へと跳躍する。
「え、な、なに?」
「!ファインダー、ミランダを連れて隠れていろ!アクマだ!」
「邪魔が入ったな、まずは奴らの掃除だ。瑠璃、行けるか?」
「いつでも行ける」
崩壊しかかってる建物の奥で、何か光ったと思った瞬間、男の声がする。
「椿、無理するな」
「コイツらを排除したら、スカウトのお断り対応だな。忙しいってのにさ!」
会話を皮切りに、アクマ達が森や空から姿を表す。
「イノセンス発動!千年公に捕まった魂に休息を。広範囲射撃、レリーフア ロー!」
姿を見せていない女性の声が響き、アクマの群れへと大量の弓矢が突き刺さる。
イノセンスによる攻撃を受け、その場で爆発する者 。
仲間の死をもろともせず更に突っ込んでくる者。
「おい、紋章の奴ら、戦えるなら手伝え!」
「言われなくても、歯が疼くわ!」
弓の攻撃を免れた残りのアクマ達を獣の腕を持つ男が切り裂いていく。
クロウリーもそれに負けじと、アクマに噛み付いて血を吸い自身の体を強化する 。
(ドクン)
「っ、またか」
一体倒した所で地面に足をついたクロウリーにミランダが近づく。
「クロウリー、大丈夫!」
「あぁ、心配ない。久々のアクマの血に身体中の血が騒いでいるだけだ。ミランダは離れていてくれ。今はまだ力を使うな」
「でも私も何か役に立ちたいのに」
「戦闘だけが、エクソシストの仕事ではない。お前の力は、二人の適合者を連れて帰る理由探しに使うべきだ。ファインダーは引け。ここからは私達の仕事だ!」
戦闘モードのクローリーが的確に指示を出しつつも、アクマの攻撃をマントで弾い て迎撃していく。
ファインダーと共にミランダも攻撃が届かない範囲に避難した。
その合間にも適合者2名は、レベル1の掃討を続け、レベル2と向き合っていた。
「やっぱレベル1じゃ、エクソシストに歯が立たないか。じゃぁ、俺様の能力で壊れちまいな!ボイドプレス!」
ケタケタ笑いながら、攻撃を仕掛けてくるアクマに対して、適合者2名は冷静だ。
互いに反対方向に攻撃を避けて、瓦礫にかかった緑色の粘液がぶくくと音を立てて石を溶かしたのを確認すると、すぐに行動に移った。
「瑠璃、あの戦える黒服連れてこい。アクマは俺が押さえておく!」
「椿、気を付けろ」
獣人型から虎へと変身してクロウリーの方へ向かった瑠璃。
椿は左手に装備している弓をレベル2の悪魔に向ける 。
光る矢がアクマに向かうが素早く躱された。
「そんな弓なんかで俺は倒せないよぉだ」
「イノセンス、第二開放。断罪の矢」
アクマの挑発にも乗らず、椿はイノセンスに意識を向け巨大な弓矢をつがえる。
そこへクロウリーを咥えてきた瑠璃が戻る。
首元のマントを捕まれ連れてこられたクロウリーは虎から逃れようと抵抗していたが、瑠璃に地面に雑に投げ捨てらた 。
「黒いの、いきなりだが合わせろ。乗れ。空中戦でもアクマに当たるまでコイツは追い続ける。トドメは任せた」
「貴様ら、初対面の相手に対して扱いが雑ではないか」
「使えるものは使うだけだ。お前、アクマの血が吸えるのだろう。いい栄養補給じゃないか」
「いつまでお喋りしてんだよ!怒った!みんなまとめて溶けちゃえ!ボイドブレス!!」
2人のやりとりにアクマが怒って吐き出した大量の猛毒液を、獣人化した瑠璃がその前足の牙で十字に切り裂き、活路を開く。
「行け!黒いの!」
「黒いのではない!アレイスター・クロウリー三世だ!」
椿に反論しながらも、彼女の放った断罪の矢に飛び乗るクロウリー。
矢は逃げるアクマを追跡しぶつかる。
激しい衝撃でアクマがのけぞったところをクロウリーが血を吸って蒸発させた。
クロウリーが着地したところで、椿が声をかける。
「ひと段落か。手伝わせて悪かったな。クロウリーとやら」
「構わない。これが仕事だからな」
「もう1人の黒服の女は戦えないのか?」
「ミランダは凄い能力なのである!」
「…なんか、お前、キャラ違くない?」
「そうであるか?歯が疼かなければ、いつもこうである」
「訳ワカンねぇやつ。瑠璃。もう1人の黒服女連れてきて。まともな部屋で話そう。外に出てるとアクマ共がひっきりなしにきやがる」
虎に戻っていた瑠璃が尻尾を振ってミランダの元へ向かう 。
「あの虎は寄生型であるか」
「貴様らの言葉ではそうらしいな。あの子はこの村の守り神だったんだ。もう、守る町もないが…ついてこいよ、地下にまだ崩れてない部屋がある」
一瞬、暗い瞳をして歩き出す椿。
深い紺色の髪を低い位置で束ね、アジア系の少し黄色味がかった肌色。
中華系のノースリーブトップスは、色褪せた緑で、下は動きやすそうなアジア系の服装だ。
左手首に、白いリングをしている。
彼女が、弓矢の適合者で間違いないだろう。
全く別人なのに、何故か後ろ姿にエリアーデが重なって見えて瞬きする。
「えーと。なんと呼べばいいであるか?」
胸の内の戸惑いを隠すように尋ねるクロウリー。
「あぁ、名乗りが遅れたな。椿だ。花のツバキと同じ。この家では代々、子供に花の名前を付ける習わしでな。もう、その風習が継がれることもないが」
瓦礫の屋敷を地下へと続く階段を降りながら、椿はどこか悲しげに呟く。
「ふぁ!ちょっと。どこいくのー!!」
半狂乱な声に振り返れば、瑠璃色の瞳の虎の背にミランダがしがみ付いていた。
「瑠璃、お疲れ様。降ろしてあげて」
「ミランダ、大丈夫であるか?」
椿の指示に瑠璃は身を低くし、クロウリーが怯えてるミランダに手を貸して手伝う。
「この子、さっき襲ってきた虎よね?だ、大丈夫なの?」
怯えるミランダを安心させるためか、瑠璃は獣人型に身を変える。
「と、虎が!ひ、人になった?!」
精悍な顔立ちに、虎の時と同じ瑠璃色の瞳。
虎柄の髪の間から、ぴこぴこと獣の耳が覗く。
両腕は大きな爪を持つ獣のそれに、下半身も虎のままだが、ふりふり揺れる尻尾が愛らしく見える。
「我はイノセンスと一緒になった。言葉話せる。人は襲わない。怯えるな」
長身のクロウリーより、少しだけ視線が高い瑠璃が、ミランダを落ち着かせようと、顔ににくきゅうを押し付ける。
(なに。このにくきゅう!ぷにぷに。ふわふわ!)
「…落ち着いた、な?」
ほわほわ顔のミランダを見て、瑠璃は虎へと姿を戻した。
途端、身を固くするミランダに横目でため息をついて、椿の隣に並ぶ。
「落ち込むな瑠璃。外の人間からしたら、虎は怖い生き物なんだよ。町の守り神と して生きてきたお前には辛いよな」
瑠璃に話しかけながら、頭をポンポンと撫でてやる椿。
「あの、えっと。びっくりしちゃってごめんなさいね?わ、私、ミランダ・ロッ トーっていうの。ミランダって呼んでもらえたらっ」
「とにかく歩け、地下に行く。エクソシストがまた来たとアクマたちが知れば、襲撃が止まなくなる」
崩れかけてる階段を3人と1匹で降りれば、地上の瓦礫の屋敷よりもだいぶまともな部屋に出る。
「ここは、いったい何の部屋であるか?」
「この屋敷に代々伝わってた家宝を飾ってた祭壇の間だ。同時に瑠璃の居場所でもあった。そこは今も変わらないがな」
話しながら、椿はランプへ火を灯して部屋を明るくする。
「祭壇に飾られてたのって?」
「今はこの左手にあるリングだよ。飾られてた時は物凄くデカくてさ。大人1人潜り抜けられる大きさだったんだが。小さい頃、好奇心に負けて触れたら、外せなくなってな」
椿は左手首のリングを、目の前にかざしてため息をついた。
「適当に座れよ。ろくな家具なんてないが」
ヒビの入った壁に背中を預けて座る椿の隣に、瑠璃が寄り添って身を横たえて喉を鳴らす。
椿達の向かいの壁側にミランダ達も腰を下ろした。
「あの。さっきはごめんなさい!えっと、瑠璃さんのこと怖がってしまって」
「虎に対して恐怖を抱くのが普通だろ。この町は白虎を信仰してきたから、当主の家で虎を祀る風習があってね。だから町の人間は虎には友好的だった」
「瑠璃は、椿が小さい頃から一緒であるか?」
「そうだな。物心ついた頃には一緒に遊んでいた。夜には、町の見回りも兼ねて 散歩をするのが習慣だった」
先程から、椿の言葉は全て過去形だ。
「あ、あの!この町が、こんな風になってしまった理由って、聞いてもいいかしら?」
オズオズと、ミランダが尋ねる。
深いため息をついてから、椿は言葉を吐き出す。
「お前ら、今までココに来た奴らから何も聞いてないのな?この話するのも飽きたのだが」
ポンポンと瑠璃の尻尾が椿を包む 。
「ありがとう、瑠璃。少し長くなるから肩の力を抜けよ。瑠璃、外の見回りしてきてもらえるか?」
片耳を軽くパタつかせて、瑠璃は椿の側を離れて外へと続く階段へと姿を消した。
「さて、始めに確認して置きたいんだが。お前らは、他者から認めてもらえないもしくは、大切なもの失ったことはあるか?」
2人は椿の言葉に息を飲む。
それぞれのエクソシストになる前の過去が脳裏をよぎる。
ミランダは、巻き戻しの町にいた頃の自分を。
クロウリーは、愛するエリアーデのことを。
「…何かしら該当するものがあるみたいだな。別の質問で誤魔化さない分、他の黒服の奴らよりマシだな。ほら、受け取れ」
椿は、無造作に何かを投げた。
反射的にクロウリーがキャッチしたのは水筒だ。
「ほら、もう一つ。ここで出せるのはその程度だ。まだ生きてる井戸から汲んだ水だから、飲みながら聞けよ」
そう言いながら椿も、水筒を開けて水を飲む。
どこから話そうか思案しているようにも見えたが、一呼吸大きく息を吸って、上を見上げて己の過去を語り始めた。