死んだ町に居座る適合者
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食事を終えてクロウリーに部屋まで送ってもらった椿と瑠璃。
「たらふくだから乗せたくない」
と瑠璃が言うので、クロウリーが椿を運ぶ。
ベッドに下ろした際に椿の髪がサラリと広がった。
紺色の髪が白いベッドによく映える。
白いうなじを見てクロウリーが呟いた。
(会った時から小さくて細いと思ったが、首も細いのだな。起きたらちゃんと食事を取ったほうがいいである)
「クロウリー、たくさん助けてくれてありがとう」 「仲間だから当然である」
ベッドの側に横になり毛繕いをしながら、礼を述べる瑠璃に、脳裏でエリアーデの首筋と椿を重ねかけていたクロウリーが現実に戻される。
「お前、何考えてた?今の顔、作り物だろ?」
「な、なんでもないである!後で化学班から呼ばれると思うから今は休むである」
「ずっと寝ていたがな。クロウリー、椿はこれからどうなる?」
「…装備型のイノセンスは、武器を作り直すか、結晶型に進化するである」
「進化?結晶型?」
「…今は休むである。私も満腹で眠いである」
大きなあくびをして、ココで寝まいと伸びしてクロウリーは部屋の扉を開く。
「ありがとう、クロウリー。ミランダにも伝えてくれ」
「わかったである、おやすみである」
うつらうつらとしたクロウリーが扉をしめた。
獣人型になりベットに腰掛け、にくきゅうでポフポフと椿の頭を撫でる。
「笑って眠る椿は、久しぶりだな。子供の時以来か」
独り言に返事をする者はいない。
「大きくなったな、もう22になるか。ココにいれば、椿の笑顔は守れるのか?」
「る、り」
寝言で名前を呼ばれ、瑠璃も笑った。
「安心して眠れ、側にいるから」
虎に戻り、顔を舐めてやってから横になる。
二人の寝息だけが部屋に響いた。
………コンコン
どれくらい眠っていたのか。
ドアのノック音に目が覚めた。
「誰だ?ココは?」
頭がはっきりしない。
確か、白く透き通った白いヘブラスカに会った後、クロウリーの腕の中で寝たのだったか。
「あったかかったな」
頬が熱くなる。
なんだろ?
まだ体調がおかしいのかな。
違うと心が否定する。
「恋、なんて無縁だと思ってたんだけどな…」
瑠璃と違い、細身だけどしっかりと支えてくれたクロウリーを思い出してボヤいた。
…コンコン
もう一度音がして、来客があったことを思い出す。
「あー、えっと、誰?鍵かかってないと思うから開けていいよ?」
少し声を張り上げれば、戸惑いがちに扉が開いた。
「あのー、起こしちゃいました?」
「ミランダ?何の用?」
「えーと、ジェリーさんにね。軽く食べれる物を作ってもらったの。椿ちゃん寝ながらクロウリーのチキンフライ食べてたから、お腹空いてると思って」
「は?俺が?寝ながら食ったの?」
「覚えてないの?」
「んー、ヘブラスカの後から記憶がない。暖かくて寝ちゃってたから」
クロウリーがとは言わなかった。
なんとなく気恥ずかしかった。
「瑠璃さんは寝てるのね?体の調子はどう?」
瑠璃の邪魔にならない範囲に椅子を持ってきて、ヘッドランプをつけるミランダ。
「お粥食べれるかしら?はい、あーんして?」
「…自分で食べれる」
「まだ左手本調子じゃないでしょう?お姉さんに手伝わせて?」
「お姉さんって、ミランダっていくつよ?」
「言ったら食べてくれるのかしら?」
「…意外と強情だよな、ミランダも。食えばいいんだろう、食えば」
はぐっと差し出された匙を咥える。
強く噛んだから、ミランダの手から匙が離れた。
そのまま使える右手でミランダが持つ鍋からお粥を掬う。
「右手は動くから食器持っててよ」
咀嚼しながら次の匙を口元に運べば、ミランダは笑う。
「ねぇ、椿ちゃん。今なら逃げ出せるのよ」
「なんの話だよ」
「…椿ちゃんのイノセンス。ヘブラスカが解除したって聞いたわ。イノセンスをつける前なら。もう、アクマと戦わなくていいの」
ミランダの言葉に息が止まった気がした。
「…イノセンス適合者の殺人鬼の就職先なんて、エクソシスト以外あるのかよ」
自分で言った殺人鬼という言葉に胸の内が重くなるが、引く場所もないのも分かっ てる。
「椿ちゃん、本当にいいの?今ならまだっ」
「俺は逃げない。それを教えてくれたのは、ミランダとクロウリーだ」
重い言葉のはずなのに、食事の手は止めない椿に、唇を噛み震えないように声を絞り出すミランダ。
「無理は、しちゃダメよ?」
「なんでミランダが苦しそうなんだよ」
「ご、ごめんなさい!」
「決意が揺らぐ前に、ヘブラスカの所に連れて行ってよ。瑠璃を驚かせたくない」
カランと匙を器に入れた。
「いいの?椿ちゃん」
「俺を仲間だと、言ってくれたからな」
クロウリーの顔が浮かんで、顔が赤くなるのを悟られたくなくて壁際を見る。
「我も行くぞ」
のそっとお盆を頭の上に乗せて瑠璃が起きた。
「起きてたの瑠璃さん」
「今起きた。椿歩けるか?」
「おはよう、瑠璃。大丈夫だと思うな」
器用に頭だけで食器類をサイドテーブルに置き、虎姿の瑠璃の背に手を置いて地に足をつける。
今度は立てた。
軽く足を振って感覚を確かめる。
「瑠璃、大丈夫。一人で歩ける」
「無理しないでね、外でコムイさんが待ってるわ」
「立ち聞きなんて、性格悪くね?」
「女子会話に、男性が入るのは不毛でしょ?」
食器を持ちながら、先導して扉を開けるミランダ。
「ミランダも何気に根性座ってる」
呆れ顔の瑠璃の背をポンポンと叩いて促す。
「行こう、瑠璃。力を返してもらいに」
ミランダの背を追う椿の揺らぎない背を眺めて、大きくなったなと思う。
全員が出て尻尾で扉を閉めれば、なぜか包帯でぐるぐる巻きのコムイがいた。
「瑠璃ー!コレ咥えといてー!」
廊下の角からリーバー班長が何かを投げて、反射的にソレを咥えた。
「「絶対離すなよー!」」
廊下の角からワラワラと顔を出してる化学班一同の殺意ある目が怖い。
どうやら、反射的に咥えたのはコムイに繋がってる包帯らしい。
(コイツ、何者だ?)
呆れた視線を投げれば、涼しげに笑うミイラ男。
「あ、ははー、捕まっちゃったんだよねぇ」
「「逃げるなよー!室長!」」
「ヘブくんの所に行くのさぁ、僕いないとダメなんだよねぇ。ミランダ食器片付けたら二人をお風呂に連れてってあげてね?」
「はい、椿ちゃんまた後でね」
「また後でな」
亡者のようにギラついた殺意を向けてくる化学班一同とミランダを見送って、怪我をしてるわでもないのに松葉杖を突いて歩くコムイについていく。
「なぁ、お前、一応責任者なんだよな?」
「これでも一応、中間管理職なんだよねぇ。椿くん、決意は揺らいでないかい?イノセンスともう一度同調したら、君はエクソシストとしてこれから生きていくことになる。 死んだとしても」
「弔ってくれる家族などもう居ない。瑠璃を一人にしたくない。ずっと、支えてくれたから。借りた恩を仇で返すほど捻くれちゃいない。今逃げたらココに連れてきてくれたミランダとクロウリーにも失礼だ」
コムイの言葉を遮って、揺るぎなく歩く椿。
「…決意は固いようだね。君の決意に神の加護があらんことを」
「それ、本心で言ってんの?人殺しに神が微笑むかよ」
「君の決意に敬意を評したつもりだよ。サポートしかできない僕らの精一杯だけどね」
「…やっぱ、あんたら性格悪」
「そんなこと言わないでよぉ。あ、お風呂上がりに瑠璃くんのイノセンス調べさせてね?ついでに色々サイズも計らせてもらうよん?」
「何をひらべる?」
コムイを拘束する包帯を咥えているから発音がおかしい。
「これから二人がエクソシストとして活躍するのに必要な物を作るんだよ」
「あの目立つ紋章の黒服か。瑠璃が着れる服なんて作れるのか?」
「そこは、我ら化学班にお任せあれ!あ、話してる内に着いたよ。ヘブラスカ、彼女の決意にイノセンスは答えてくれるかな?」
『もう、決意したのか』
二度目だが慣れない。
尻尾が膨らみ毛が逆立つのを止められない。
この透き通った白い奴、苦手だ。
「くどいな、てめーら。逃げないって決めたんだ。これまでの命とこれから背負う奴らの分まで、生き抜いてやるよ。あのクソデブを叩きのめしてやる」
不敵に笑う椿に、今までの暗い色はない。
己を高め挑戦する、高みを目指す者の横顔だ。
(強くなったな)
「始めてくれ、ヘブラスカ。俺のイノセンスを返してくれ」
『…わかった。イノセンスを出そう』
ヘブラスカの体内から一筋の光が流れ出る。
キューブ状のイノセンスが、椿の手の内に来る。
「お帰り、また一緒に戦ってくれ。仲間を守る力をくれ、イノセンス」
ギュッと手を握った。
祈るように、決意が逃げないように。
そっと手を開けば、液状化したイノセンス。
「これは、まさか結晶型!」
コムイの言葉を余所に、椿はソレを飲んだ。
「っ!ぁ、つぃ」
椿が喘ぐ。
「椿!」
心配で痛みに耐える椿に寄り添った。
「こたえて、くれ。イノ、センス」
椿の腕から血が溢れる。
血は地に落ちることなく、生き物のように、宙で形を作る。
ソレは赤い翼をはやした頭のない十字架をつけた天使に見えた。
「椿」
「…大丈夫、帰ってきた。お帰り。イノセンス、発動!」
赤い天使が溶ける。
そのまま形を変えて以前より鋭く、堂々とした白銀の弓を形作った。
白く光る弓に描かれてるのは椿の花に見えた。
天に向かい、弓の弦を爪引けば、目で追えない矢が天井を壊した。
降り注ぐ瓦礫を軽く弓を降れば、ぱんと音を立てて塵になる。
「あー、いいなこれ。接近戦でも使える」
発動を解けば、左手首に2本、右手首に1本の赤いリングがかかっている。
「ふむふむ、弓は両手で使うから、左右でリングの本数が違うのか…て勝手に天井壊さないでくれる?!」
「怒るなよ。試し打ちだし。使い物にならなかったら意味ないだろ?」
「直すの誰だと思ってるのさ!」
『科学班だな、コムイ』
「もう、ヘブくんも乗らないでよ!」
松葉杖を振り回し怒るコムイを見ながら笑う椿が愛おしいと思った。
「…椿、大好きだ」
「あぁ、俺も大好きだよ瑠璃。さ、ミランダが待ってる。ソレ、貸して?」
咥えていた包帯を椿に渡す。
椿はにこやかな顔でイノセンスを発動させて、包帯を弓につがえる。
「行ってらっしゃい、コムイ室長」
「へっ、て、うわーーーー!!」
コムイが光の矢に引っ張られて遠くへすっ飛ばされていく。
「椿。感化されただろ、ココの奴らに」
「だって、俺らだけ弄られてんのムカつくじゃん?」
「同意だ。…ヘブラスカ、我も強くなれるのか?」
『寄生型は、想い次第だ。私は知っている。臨界点を超えた寄生型を』
「では、励もう。椿に置いて行かれないように」
『瑠璃、お前が限界を超える時、守神白虎の名を継いでもおかしくないが、イノセンスは諸刃の剣だ。無茶はするな』
「忠告は受け取るが、保証はしない。あの子の笑顔を守れるのなら」
「瑠璃、行くよ?もう足は引っ張らないから」
「元々、引っ張られてなぞいない」
互いに肩で笑って一人と一匹は歩き出す。
新しい未来に向けて。