死んだ町に居座る適合者
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瓦礫の町を一人と幻影の白虎がねり歩く。
人も居ない。
建物も全て壊れている。
アクマの残骸も散らばり、生き物の気配がない。
「もっと早くこうするべきだった。瑠璃に甘えすぎたな」
町の外周から中央までぐるっと歩いてきて、椿は月を見上げた。
「長き歳月この地を見守りし、白虎よ。約定は果たされた。天へと帰れ。天翔・解約天儀」
静かに紡ぎ出された言葉に反応して、地面が光る。
白虎が歩いた道が光り、町が昼の如く明るくなる。
白虎が飛び、空へと駆けていく。
「あそこか。自分から居場所知らせるなんてバカな奴。オイ行けよ」
レベル3の声にレベル1のアクマの群れが、白虎が空に消えた場所へ突撃していく。
町の光が落ち着いた。
夜空がざわついて、球体状のアクマの群れが見えてくる。
椿はイノセンスを発動させ空へと標準を合わせる。
「来い。アクマども。終わらせよう。元気でな、瑠璃」
「……………つ、ばき?」
「あ、起きたの、瑠璃さん?」
「………」
瑠璃はミランダに応えることなく、顔を上げて耳を動かす。
椿を探しているのだろうか。
彼女の事を話すべきかミランダが迷っていると地面が揺れた。
「きゃっ!」
「ミランダ!」
天井が崩れてきたのをクロウリーが二人を守るように覆う。
揺れは収まらず、崩壊が続く。
「ちっ崩れるぞ、ミランダ外へ!」
「えぇ、瑠璃さん、動ける?」
二人に守られながら、瑠璃は立ち上がり外へ向かう。
彼らが地下部屋から出て少し離れたところで、町の瓦礫がズンと沈んだ。
地下のスペースが潰れたのだ。
「危なかったである。ミランダ、大丈夫か?」
「えぇ」
「椿!」
瑠璃が町の方へ走り出す。
アクマの砲撃が見て取れた。
「待って!瑠璃さん!離れると傷が戻るわ!」
「ミランダ、行くである。椿は一人でアクマと戦っている。椿と合流したら、リバースを解いて、リカバリーをかけ直してほしいである」
「!」
「私が時間を稼ぐから急ぐである!」
「わかったわ、行きましょう!」
クロウリーの意図を理解して、二人も瑠璃に続く。
「もっと火力を集中しろ。この程度で死ぬなよ。エクソシスト!」
「俺は、エクソシストじゃない、ただの壊れた人間だ!」
アクマ達の死の砲撃の合間に、いく筋もの光の矢がアクマ達を穿つ。
「一人で頑張りすぎだ!」
「っ!クロウリー?」
椿の後ろからクロウリーが飛び出す。
彼女を狙っていたアクマ達を切り裂き、爆風が覆う。
「ミランダ!今だ!」
「リバースを解除。間に合って!リカバリー!」
「っ!、黒い、時計?」
ほんの一瞬、3人に傷が戻るが、ミランダの頭上に浮かんだ黒いレコード時計盤が、全員を最善の状態を保つために時間を吸い込んでいく。
「コレで戦える」
「瑠璃、なぜ来た!休まないと!」
「お前が笑わなければ、休む意味などない」
獣人型の瑠璃がクロウリーに加勢しアクマを壊していく。
「あまり私から離れないで。傷が戻ってきたら私の近くに戻ってきてほしいの。できればあまり怪我して欲しくないのだけど」
苦笑するミランダ。
「仮初の回復なんだな。見た事ない人みたいなアクマもいる。保証はできぬが、瑠璃を生かすために使わせてもらうぞ!」
「レベル3よ。椿ちゃんも気をつけて?貴女が居なくなったら瑠璃さんが悲しむわ」
「…行ってくる」
ミランダの忠告に悲しい笑顔を浮かべて、椿も加勢する。
闇夜に響くアクマの砲撃と、爆発音。
「さぁ、今宵も貴様らの血を全て飲み干してやる!」
「強いのがいる」
「あーぁ、せっかく連れてきたレベル1なのに、全部壊されちゃったな。やっぱ雑魚はダメだな。遊ぼうぜ?」
「まかせろ!」
レベル3のアクマがカラフルなボールを投げつけてくるが、全て椿の矢が撃ち落とす。
「ばーか!まだ終わってないぜ!」
破壊されたボールはネット状に広がり、着地直後のクロウリーと瑠璃を捕獲した。
他の場所にもネットがへばりついている。
「なんだこれは!」
「力が、抜けてく」
ネットから出ようとして、内側から引きちぎろうと暴れる二人だが、破れなかった。
「無駄無駄!そのネットは俺の能力。イノセンスの力を吸ってネットはより強く貴様らを絡める取るんだよ」
「ミランダ。大丈夫、か?」
「っ!椿ちゃん!」
ネットに捕まったのは2人だけではなく、ミランダを庇う形で椿も捕まっていた。
「はは、遠距離系が捕まってちゃ何もできないよな?さーて、どいつから殴り殺してやろうか?」
地面に足をつけて舌舐めずりするレベル3。
「っ!!ガァー!!」
「邪魔」
渾身の力で地面蹴った瑠璃も拳一つで吹き飛ばされ、別のネットに背中から捕縛され、虎の姿に戻ってしまった。
「まだだ!」
背後からの狙ったクロウリーも、蹴り飛ばされ木々をなぎ倒しに岩にぶつかり血が舞った。
「そこで見学してろ?」
崩れかけるクロウリーに向けてアクマが追加の攻撃を放ち、首と四肢をネットで押さえた。
「く、忌まわしい網だ」
暴れても血を失いすぎていて力が抜けていく。
「まずは女からだよなぁ?その方が後から殺す奴らと楽しめる」
クロウリーと瑠璃に背を向けて、椿達に向かってカツカツと近寄るレベル3。
「椿、逃げろ!椿!」
「もう逃げるかよ。ミランダ、さっきの約束守れよ?」
「椿ちゃん?」
硬い声に不安を覚えるミランダを無視して、椿は弓に集中する。
「イノセンス、貴様はこんなものではないだろう?守るんだ。力を、寄越せ!」
椿の弓が強い光を発して、ネットが内側から少し広がる。
バチバチと音を立ててネットと光が争う。
「無駄だって!足掻いたってダークマターのネットは壊れない」
「所詮、ネットだろが。隙間があればいいんだよ吹き飛べ、クソアクマが!」
光が巨大な弓を型取り、イノセンスの力とダークマターが均衡する。
「まだ抵抗するんだ?無駄なのになぁ?」
「無駄かどうか試してみるか?」
弦を引く。
白く輝く矢の切先がレベル3の胸の直近まで伸びていた。
「この距離なら外さない」
「お前。自分を犠牲にする気?壊れかけてるぜ?」
「構うものか、守れるなら!」
ビキビキと音を立てて椿の両腕から顔にかけて六角形のヒビが入っていた。
それでも、弓を限界まで引く。
光が辺りを強く照らす程、強まった。
「椿!」
「やめて椿ちゃん」
「クッソ、こんなもの!」
「こいよ、イノセンス。ぶっ壊してやる!」
「壊れるのはテメーだ!」
3人の声を無視して、矢を放った。
レベル3が両手で受け止めるが、勢いに後方へと飛ばされる。
地面に足を食い込ませて耐えるレベル3に追加の矢を打ち込む。
2射、3射、4射と追加の矢が、寸分の狂いもなく同じ所へ放たれる。
「ぐっ、がぁがぁああ!いの、センスめ!」
「消し飛べ、アクマ!」
一番大きな5射目が光の洪水と化して、アクマごとあたり一帯を吹き飛ばした。
全員のネットが砕けて消える。
「る、り。もう...自由だ。待たせて悪い、自由にい。きろ」
「椿ちゃん!なんで、どうして傷が、時間が吸えないの?」
「椿!」
「無理をしすぎだ!」
解放された瑠璃とクロウリーがミランダの元に戻るが、椿はうつ伏せに倒れていた。
左腕のリングにヒビが入り、椿の体にも六角形の模様が浮かんでいる。
「コレは?」
「ミランダ、落ち着け。タイムレコードは止まってないんだな?」
「えぇ、常に最善の状態を保つリカバリーをかけてるのに、椿ちゃんの時間が吸えないのよ!今の状態で発動を解いたら!」
「…失礼」
クロウリーは壊さないように慎重に椿を背負う。
「瑠璃、町の出口はどちらかわかるか?」
「ついて来い。椿は…助かるな?」
「あぁ、治せる者が居るの所へ連れて行く」
「待ってクロウリー、ゴーレムに案内してもらうわ。私連絡取って案内するわ!」
「頼む」
瑠璃を先頭に一向は歩き出す。
ファインダー部隊と早く合流するためにミランダはゴーレムで連絡を取る。
町の最後の瓦礫を過ぎる時、瑠璃は振り返った。
「瑠璃さん、寂しい?」
「この町にはもう、何もない。椿を縛る物もな」
「二人とも、椿の為にも急いだほうがいい」
「えぇ、今いくわ」
「乗れ。その方が早い」
「ありがとう、瑠璃さん。助かるわ」
瑠璃がミランダを乗せて走り出す。
それに合わせてクロウリーも走る。
(…ミランダのリカバリーがあるとはいえ、血を失いすぎた。頼む、教団に着くまで持ってくれ)
クロウリーはいつもより早い心臓の鼓動に焦りを感じながら、来た道を戻る。
(見えた!)
「瑠璃止まれ、迎えだ」
数分走ったところで、前方から4等立て馬車が見えた。
「すみません、エクソシスト様。虎用の檻の手配に時間がかかってしまって」
「これは」
「瑠璃さんをここに入れるの?」
「ご理解ください、虎は猛獣です」
馬車の後ろに、サーカスでよく見るような頑丈な檻が接続されていた。
「構わない。開けてくれ」
「しゃ、しゃべった!」
檻の扉を開けていたファインダー達が驚くが、自分から進んで檻へと歩む瑠璃。
「私も外にいよう。ミランダ、椿を頼めるか」
「る、り」
「椿ちゃん、気がついたのね?」
虚な瞳が瑠璃を探す。
「ミランダ、馬車の方に乗ってくれ。体力を少しでも温存したほうがいい。私は後ろに乗る。二人は一緒にいた方がいい」
「で、でも」
「本部との通信を頼む」
檻の扉を閉めようとしていた合間に身を滑り込ませて、クロウリーは瑠璃の側に椿をそっと下ろす。
「クロウリー殿、中にいては!」
「構わない!出してくれ」
「アクマが来る前に出してください。日が昇る前にゲートを潜りましょう」
「わかりました、出します」
ミランダが馬車に乗り込んでから出発する。
方向を変えて、傾きかけた月の下をランプの明かりを頼りにゲートのある町へと馬車が駆ける。