美しの薔薇は恋を知らず
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1時間半程して、情報交換も一通り終わり、ちょっとした休憩を入れようと、コーゼフ大臣一行は壁際の椅子の並べられている一角に座った。
そこは、奥の部屋への通路に近い場所で、一番通路に近い場所にいたソレイユが通路の奥で何やら物音がする事に気がついた。
「サライスさん、情報交換も一通り終わりましたし、私少し席を外しますね。すぐに戻りますので、ご心配なく」
それだけ言って、ソレイユはサライスから手を放し、通路の中へと速足で入って行ってしまう。
「おい、ソレイユ。どこへ行く!っち!オズベイル、ハーシェン!作戦変更だ。狙撃部隊を出来るだけ、大臣周辺に固めろ!ソレイユが独断行動に入った!」
すばやく通信機に手を当てて、通信を取り始めるサライス。
「ちょっとちょっと、お姫様はどうしちゃったのさ!」
「文句を言ってる場合じゃないよ、オズベイル。僕ら、三人でソレイユを迎えに行かないと」
「あいつ、自分の今の美人度自覚してないからな、余計なことに巻き込まれる前に、迅速に戻る。大臣は狙撃部隊で固めて周りから見えないようにしろ」
「つっても、こっちは距離あるから合流まで時間かかるって!」
「ハーシェンそっちは?」
護衛二人を大臣の左右に配置して、自分は相方がいなくなった心配する素振りをしながら、大臣の前を行き来しながら、周囲を警戒しつつ、会話を続けるサライス。
「こっちは今、君達のほぼ真上にいるから、合流までさほど時間はかからない。けど、人数が足りないかな。僕を除けば狙撃部隊は3人だ。オズベイル達も同じ人数だから、全部隊集まらないと、大臣を隠せないよ」
「っち!ソレイユは何を考えて、俺らから離れたんだ!」
サライスが部隊編成をし直している頃、ソレイユは物音のした現場に到着していた。
そこには、一組の男女と二人組の男が口論していた。
どうやら、女性を巡って言い争いをしているらしい。
因縁をつけているのは、ソレイユから見て左手側にいる二人組の男達の方だ。
ソレイユは走りながら、左手で帽子のピンを外して、二組の間にすばやく割って入り、一番声をあげている大柄な男性の視界を帽子で塞いだ。
「なっ!」と男の声が聞こえたが、ソレイユは構わず真下からピンヒールで、蹴り上げる。
大柄な男は倒れると共に、ピンヒールのヒール部分が折れた。
倒れてきた男を支えて同時に転んだ後ろの男に対して、くるくると回りながら落ちてきたヒール部分を華麗に空中でキャッチして、素早くしゃがみ込み、意識のある男の首元にピンヒールの先を突き付ける。
「何で口論していたか、知らないが、公共の場で言い争いはよくない。こんな小さなピンヒールでも、動脈を突けば人を殺せることを知っているか」
低く、相手の反論を許さないソレイユの声に怯えて男は小さな声で、「す、すんませんでした!」と謝って、気絶している相棒を抱えて、奥の通路へと姿を消した。
ソレイユは彼らが落としていった自身帽子を拾い直して、頭に付け直す。
折れたヒールを左手で持ちながらどうしようかと考えていると、口論に巻き込まれていた男性から声がかかった。
「助けてくれてありがとう。可憐なご令嬢の君。あの二人、僕のフィアンセを寄こせとしつこくてね。本当に助かったよ」
「私からもお礼を言いますわ。本当に華麗な撃退振りでした。武術の心得でもあおりですの?」
「多少、護身術を習っているだけですわ。では、私はこれで」
「あー、ちょっと待って。さっきヒール折れちゃってたよね?良かったら僕に代わりの物を用意させてもらえないかな。少し時間はかかるだろうけど。もう片方と同じ物を用意させるようにするから」
「申し出は嬉しいが、これらの衣装は借り物なんだ。それにこんなパーティ会場にそんな物が売ってるとは思えないが?」
「じゃぁ、せめて、奥の部屋で待っていてくれないかな?修理師を呼んで直してもらおう」
「ちょっと、あなた、私との時間は?」
ソレイユにしつこく迫る男に対して、フィアンセと呼ばれた女性が声を掛ける。
ソレイユはその間にこの場所を素早く観察する。
どうやらそこは、通路の左手奥にいくつもの天幕が張られたベッドが用意されており、貴族達なりの《休憩》が取れるようになっている場所だった。
元々、二人はこの奥でゆっくり楽しむつもりだったらしい。
女性が腹を立てる前に自分はこの場を離れた方がいいと判断したソレイユは男の申し出を断る。
「修理師を呼ばなくても結構。待たせている人達がいるので、私は戻らねばならない」
「でも、そんなヒールが壊れた状態じゃ、歩きづらくないかな?10分、いや5分だけ時間をくれないか」
「その問題は不要、こうすればいい」
そう言って、ソレイユはもう片方の靴と、ヒールの折れた靴を脱いでタイツの状態で絨毯の上に立つ。
「まぁ!なんてはしたない!」
「そんな恰好じゃ、会場に戻れないよ!とにかく、そこの休憩椅子に座って!僕は修理師を呼んでくるから、僕のフィアンセと一緒に待っていてくれないか?」
「ちょっと嫌よ、私、こんな戦闘もできる美人さんと一緒に待ってろなんて!あなたとの時間の方が大事だわ」
「そんなことを言ってる場合じゃないだろう!さぁ、君、こっちに座って」
フィアンセを諌めて、男は通路の右側にある簡易休憩椅子にソレイユを座らせようとする。
「その必要はないな」
短くも端的に低い声が辺りに響く。
その声に振り向いたソレイユは驚いた。
そこには、肩を怒らせて堂々と立つサライスの姿。
その左右に、呆れ顔のオズベイルと、どこかこの状況を楽しんでいるようなハーシェンが、それぞれ腕を組んで立っていた。
「あのさぁ、状況を見れば大体のことは想像できるけど、その華麗な姿で暴れすぎだってソレイユ」
「何があったかちゃんと報告してもらうけど、一応、そちらの二人には引き下がってもらおうかなぁ。彼女のことは僕らで預かるよ。ね、サライス?」
それぞれ、一言ずつ、状況に対する感想を述べたオズベイルとハーシェンの言葉など聞きもせず、サライスはズカズカと歩を進める。
半分振り返り気味だったソレイユは、そんなサライスに対してしっかりと向き合った。
「状況説明を」
半分以上詰問と取れる口調でサライスが状況を問う。
「こちらの二人が、悪漢二名に絡まれていたのを発見しましたので、迎撃したまでです」
その詰問に対し、上を向いてサライスの瞳をまっすぐ見ながら、いつもの隊長へ報告するいつもの口調で淡々とソレイユは答える。
「ソレイユ、お前がその事態にいち早く気付いたのは、賞賛に値する。がだ。今、お前の立場は何だ?」
「コーゼフ大臣の護衛ですが、一段落ついたので、危険性の高い方を優先させてもらいました」
詰問するサライスと何の問題があるのか理解していない淡々としたソレイユのやり取りに、事の発端である一組の男女は恐怖にその場から動くことができず、固まっていた。
それらを気にする素振りは全くなく、二人のやり取りは続く。
「俺はコーゼフ大臣の護衛を離れていいと言う命令は出していない。何故、単独行動をとった。今の自分がどんな立場に立っているのか分かっているのか」
「私が駆け付けた段階で、隊長の命令を待っていたら、こちらの二名が怪我をする可能性がある状況でした。ヒールは折れてしまいましたが、男性二人組の撃退には成功しました。コーゼフ大臣の護衛を離れたのは、私達の後ろに2名。その他、離れた場所から、オズベイルさんの部隊とハーシェン隊長の部隊とでいつでも危機が迫れば狙撃で対応できる体制にありましたので、私一人が離れても問題ないと判断しました」
「あのよぉ、ソレイユ?今の自分の立場マジで分かってないだろ?お前の恰好は今、どんなだ?」
「???ドレスを着た令嬢役ですが、何か問題でもありましたか?オズベイルさん?」
「あー、こりゃ、飛んだ鈍感娘だ。あのな、ソレイユ?お前は今この会場で一番に目立ってる令嬢だ。その令嬢が突然、会場から消えて、代わりにコーゼフ大臣の周りにいかつい男共が集まり出したら、普通どう思うよ?」
「・・・・・・・何かの異常事態が発生したものと周囲は思うでしょうね」
オズベイルの問いに、かなり間をおいて答えたソレイユは、かなり自分の容姿に自覚が無いらしい。
それを面白がるように、ハーシェンが口を開いた。
「ほら、駄目じゃないか、サライス?お姫様の手は常に握ってないと?うちのお姫様は自分が十分美人だって気づいてないんだよ?」
くすくす笑いながら、サライスの後ろから声を掛けるハーシェンはこの状況を完全に楽しんでるようだ。
「・・・お前ら、言いたい放題言いやがって。後で見てろよ」
一度だけ振り返って二人に対して噛み付いたサライスは再度、ソレイユを見つめる。
「とにかく、この場は帰るぞ。お前のヒールが事故で壊れたと言うのが名目だ。理由は喋るなよ。ちょっと慣れなくて足首ひねった位にしておけ。いいな、ソレイユ」
始めよりもだいぶ柔らかい物言いに、ソレイユは無言で頷いたが、すぐに、今の自分の状況を思い出して首をひねる。
「なんだ、今度はどうした?」
「私、ヒール履いてません。この状態で、会場に出たら、また一騒動起こると思うのですが?」
「・・・・・・・・・はぁ」
額に手を当てて、盛大なため息をつくサライス。
そんな彼に、ほぼ同時に後ろから手が置かれる。
「サライス、ここは男だろ?アレしかなくない?」
「僕もオズベイルに同意見だね。男としてそれ位はしてあげた方が後々楽だよ?コーゼフ大臣にも理解してもらえそうだし」
完全にサライスをおもちゃにしている男性陣二名に、ギロッと二人を睨み付けて、サライスは答えを出した。
「・・・・そんなものこうすればいいだろ」
そういう言って、サライスはソレイユに近づき、持っていた靴を取り上げて、折れたヒールを靴の中にしまい、ソレイユをひょいっとお姫様抱っこして見せた。
「っ、サライス、隊長?!」
「ここでは、お前の婚約者だ。おい、そこの二人。ここで見たことは忘れて、とっとと、失せろ。これ以上、ソレイユに関わるな。いいな?」
最後はどすの聞いた声で、二人組、特に男の方にガンを飛ばして、威圧するサライスの気配にけなされて、男は慌てて、声にならない短い悲鳴を上げてフィアンセの手を取って、奥の部屋へと姿を消した。
「お前らも帰るぞ。二人とも自分の隊に指示を飛ばせ」
「そうだね。いやぁ、なかなかいい絵だねぇ」
「こりゃ、眼福だな。どうせだったら、俺がエスコートしたかったぜ」
「二人共、うるさいぞ」
サライスがソレイユをお姫様抱っこしたまま振り返って、三人で話しながら、一度サライスが目を閉じて、すぐ目の前にあるソレイユの顔を見る。
ソレイユも至近距離にある上司の顔にドキドキして、何を言われるのか緊張していた。
「ソレイユ」
「はっはい!」
思わず声が上ずってしまう。
「お前は自分が思っている以上に美しい。それは今日に限ったことじゃない」
「え?」
「だから、もっと自分を大切にしろ。お前は今この会場内で一番美しいから、余計な態度を取って目立つな。お前は女としての自覚が無さすぎる。今はこの会場で一番目立つ令嬢。そして詰め所では一二を争う技量と美しさを持った良い女。分かったな?」
叱ると言うよりも言い聞かせてくるような口調のサライスの口調に恥ずかしのあまり黙って頷くしかなかったソレイユであった。
自分のことをそんな風に評価してもらっているとは思わなかった。
だが、前半の令嬢設定は今日だけだとしても、後半の言葉が本心だとしたら、隊長は自分を異性として意識してくれている?
お姫様抱っこで抱えられながら一人悶々と考え込むソレイユであった。
その後、大臣達と合流したサライス達は、令嬢が道に迷った挙句、足首捻ってヒールが壊れてしまったので、大臣と共に、途中退席することとなった。
その事態そのものも会場をざわめかせたが、一行はそれらを無視して帰路についた。
こうして、女騎士の怒涛の任務は終わったわけだが、後日、オズベイル宛てに高額な請求書が届き、彼一人だけ頭を悩ませることなった。
そしてもう一つの進展があった。
サライスとソレイユの関係が多少、以前の淡々としたものから少々雑談を交えたものへと変わっていた。
それは後日、あの任務のことについて、隊長室で振り返りをしている時のことだった。
「お前は努力家だからな、その努力は認めてやる。この前の大臣の護衛は、ご苦労だったな。ドレス似合ってたぞ」
「サライス隊長は、演技上手でしたね」
二人とも、言葉の端々に笑顔がある。
普段なら、淡々とした物になる報告会もどこか今日は和やかだ。
「だが、最後の単独行動は失敗だったな。あれは慎むか、俺にもう少し状況説明してから行け」
「すみませんでした。もう警護は十分だったと思ったので」
くすくすと口元に軽く手を当てて笑うソレイユ。
それに対して、ドカッと椅子に座り、盛大にため息をつくサライス。
「・・・・・・・・・撮っておけばよかった」
「え?今なんて?」
「オズベイルに頼んで、お前のドレス姿を写真に残して置きたかっただけだ」
聞き返されてそっぽを向きながら、応えるサライスの顔は赤い。
「私、そんなに綺麗でしたか?」
首を傾げるソレイユに対し、サライスは椅子から立つと、執務椅子をぐるっと回ってきて、ソレイユと対面する位置に立つ。
「嫌だったら、拒絶しろよ?・・・そのっ、一人の男として、この位のことはしたいくらい、綺麗だった」
そして、長身のサライスが身をかがめて、ソレイユの唇を奪う。
突然の出来事に固まるソレイユだが、柔らかな唇の感触がそれ以上のことを求めていないことを理解して、自分の方からも少しだけ、押し返してみた。
「・・・嫌、だったか?」
「いいえ、サライス隊長の唇はとても柔らかいんですね、覚えておきます」
にっこりと笑顔を浮かべて、後ろで手を組みその場でくるっと回るソレイユのそれは、女の子の喜びのポーズそのものだ。
この二人が結ばれる日は、案外近いのかもしれない。
それを予兆させるささやかな甘い時間だ。
以前は、淡々としていた作戦会議の振り返りが恋の花が咲きそうな暖かな空気に包まれている。
これが許されるようになったは、もしかしたら、オズベイルのあの貸衣裳屋のおかげと、ざわめきが止まなかったパーティ会場のおかげだったかもしれない。
もちろん、これをハーシェンとオズベイルがドアの隙間から覗いており、ソレイユとのキスが終わったサライスが周囲を見渡した際に見つかりこっぴどく怒られたのと、散々、ソレイユとサライスが弄られたのは言うまでもない。
こうして、アクレイア国の女騎士、ソレイユのちょっと破天荒でちょっとだけ甘くて楽しい日々が好き去っていくのであった。
〜美しのバラは恋を知らず、 完。〜