美しの薔薇は恋を知らず
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サライスに呼び出されてから二日後。
作戦当日。時は夕暮れ時。
ソレイユは昨日のドレスを何とか一人で着て、パーティ用の化粧やヘアメイク等々を済ませて、自室にある姿鏡で昨日と同じように仕上がったか確認してから、サライスの居る部屋まで歩いていく。
だが、ソレイユを見ては、通り過ぎる隊員がどこぞの令嬢かとひそひそ声をあげる。
「おい、あれ、ソレイユじゃないか。あんな美人だっけ?」
「てか、なんであんな恰好、詰め所でしてんだよ」
「誰かの気でも惹きたいのか?いっちょ前に女ですって主張して」
「おいおい、あのソレイユだぞ。恋の相手なんているわけないって」
(二度とこんな恰好するものか)
心の内でそう誓って、早足にサライスの部屋へと向かうと、後ろから聞き慣れた声がした。
「おやおやぁ、君達さぁ、この時間は外の警備についてるはずだよねぇ?どうしてこんな所にいるのかなぁ」
「!!」
驚いて振り向けば、タキシード姿のハーシェン隊長が部下に指示を出すときの指揮棒を片手でポンポンともう一本の手に軽く叩きつけながら、部下達を叱責している。
がその声はどこまでも怒りの感情がなくにこにこしている雰囲気が後ろから見てても伝わって来る。
「それとも、僕の指示通り動けないのかなぁ?隊長の命令が聞けない場合はどうなるか分かってるよねぇ」
「ひぃ!失礼しました!外の見回り、行ってきます!」
「失礼しました!」
二人の隊員は黒い軍服をはためかせながら、慌てて外へと向かうため廊下を駆け出して行った。
「ソレイユ、うちの隊の連中が迷惑をかけたね。とっても似合っているよ。オズベイルの貸衣装屋は確かに腕がいいみたいだね。でも、ソレイユ自体が綺麗だから、薄化粧でもとても映えるね」
素行の悪い部下達を追いやって、ハーシェンは振り返り、ソレイユを気に掛ける。
「オズベイル隊長、あ、ありがとうございますっ」
恥じらいからか顔を赤くするソレイユに対して、
オズベイルは内心、(今日はお姫様の警護も必要かな?まぁ、サライスにやらせちゃおう)などと考えていた。
そのままの足で、自然と二人でサライスの部屋に向かう。
「サライス、僕だよ、入るよ」
言いながら、オズベイル隊長は、サライスの部屋の扉を開けて、さぁ入ってとソレイユをエスコートする。
「し、失礼します。支度に少々時間がかかってしまいました」
「おうおう、これまた美人さんに拍車がかかったねぇ」
「オズベイル、からかうものじゃない!」
「そういうサライスも顔赤いけど?ソレイユ、見違えたよねぇ。まさかこんな美人さんになるなんて僕も思ってなかったよ」
「あ、あのっ、似合わなかったでしょうか?」
タキシード姿のサライス、オズベイル、ハーシェンの前で、薄い桜色の手袋をした手を組んで恥じらうソレイユに対して、サライスが口を開いた。
「似合うかに合わないかで言えば、今回の任務に適したドレスの選択だと言えるな。その恰好なら何処の令嬢と紹介しても差し支えない。では、早速だが、作戦の説明に」
「ちょっと待った、サライス!美人になった部下に対しての褒め言葉がそれだけ?!もっと他にも言うことあるだろう?仮にもソレイユは女の子でここまでめかし込んだら、もう少し褒めてあげてもいいんじゃない?」
「あのな、オズベイル、今回の任務は、大臣の護衛だ。それに必要な格好をソレイユはしてきただけだろう。必要以上に褒めて作戦に支障が出たらどうする」
「あー、もう!これだから、乙女心の分からない頑固者は!こんなに綺麗になったんだから、ソレイユも護衛対象だろう!このミニふんわりハーフアップドレスからすらりと伸びる蝶の舞う白亜の足に傷がついたらどうするんの!しかも、左足側がスリット入っててほぼ片足丸出しじゃないか。ヒールもこんなに高い銀のピンクラメ入りだし!頭のミニハットでバラのコサージュが愛らしいと思わないのか?こんな美人を誰が守るんだよ」
「あぁ、それは問題ないよ、オズベイル。ちゃんとエスコートするからサライスが」
「はぁ、お前ら俺で遊んでないか?ソレイユはこれでも詰め所に身を置く身だ。自分の護衛くらい」
「サライス?今回は大臣の護衛が任務だけど、彼女は遠縁の令嬢設定だよ?令嬢が武術なんて普通身に付けてると思う?ここは隠密に大臣の側でにっこり笑っててもらえればいいの。もちろん、サライスは婚約者ってことできちんとソレイユを守るんだよ?」
「ちょっと待て、そんなの、作戦になかったはずっ」
「ここまで美人になったソレイユの努力を無駄にする気かい?いいかい、ソレイユ。馬車は3台で向かうね。もう大臣を乗せた馬車が到着する頃かな。君とサライスは大臣の馬車に乗って、僕とオズベイルは前後の馬車に乗るから。念のため、今回のルートは魔物や盗賊が少ないルートだけど、念のため偽造の馬車を走らせて、僕の部隊が迎撃してあるから安心してね。道中は安全だから、馬車の中でできる限り、コーゼフ大臣と親しくして、自然と遠縁の令嬢を演じられるように心掛けること。いいね?」
「分かりました、オズベイル隊長」
「サライスもそれでいいね。大臣の一番近くで護衛するのは、君達二人だ。あとは黒服の僕の隊の者が2人護衛に就くけど、念のため、これを装着してね?」
そう言われてオズベイルから渡されたのは、耳穴に入れるタイプの小型の通信機だ。
「僕らはもう、つけているから、右耳に装着して?中のボタンを押しながら話せば小声でも内容は全員に伝わるようになってる。逆に何もしてない時は、周囲の警護状況が実況されるから、コーゼフ大臣の行動に気を付けながら行動してね?」
「分かりました。あの、さっきの設定についてですが、サライス隊長にエスコートされることになるのでしょうか?」
オズベイルからの説明に、ソレイユが疑問を投げかける。
「それは当然だよなぁ、サライス?こんなお嬢様を一人で歩かせるわけにはいかないよなぁ」
「オズベイル、ふざけた口をきくとその口縫うぞ。まぁ、必要最低限の演技はしてやる。会場で浮きすぎるなよ、ソレイユ」
「分かりました。出来る限り大人しくしてます」
「良い心がけだ。ではそろそろ、コーゼフ大臣が到着する。俺らも移動するぞ」
サライスの一言で、それぞれ座っていたサライスとオズベイルは立ち上がり、簡単に服の皺を伸ばす。
「じゃぁ、行こうか」
ハーシェンの一言で扉が開かれ、全員が部屋から出て詰所の出口に向かう。
そこには、3台の馬車がすでに用意されており、オズベイルは先頭の馬車へ、ハーシェンは最後尾の馬車へと乗り込み、サライスはソレイユの手を取って、転ばぬように自然に配慮しながら、馬車の中へとエスコートする。
全員が乗り込んだのを確認して、先頭の馬車から走り出した。
「これはこれは、素晴らしい美人さんだねぇ」
「今回警護にあたらせてもらいますサライスと、遠縁の親戚役を演じますソレイユです。俺が出来るだけ彼女の事はエスコートしますので、大臣は各国との情報共有に専念してください」
サライスが大臣に自分らを紹介し、ソレイユも自身の事を紹介する。
「こんな恰好をしてますが、武術の心得はありますので、万が一は私達の後ろに隠れるようにしてください」
「ほっほっほ、こんな美人さんに守ってもらえるとは光栄だね」
少し小太りのコーゼフ大臣は穏やかな笑みを浮かべて笑う。
車内は、コーゼフ大臣とソレイユとサライスの三人だけだ。
他に二人、護衛が付くと言っていたが、後から合流するのだろうとソレイユが考えているうちにも、コーゼフ大臣が君達は夫婦なのかね?と尋ね、いえ、上司と部下の関係ですなどと、サライスが会話を進めていた。
他愛のない会話が続くこと20分程度で、馬車は目的地に着いたのか、静かに止まる。
20分の間に、ソレイユとサライスは偽名を使わずにコーゼフの遠縁の令嬢とその婚約者という立ち位置でパーティでは身内紹介という形で護衛に入ることに決まった。
初めはサライスから偽名を使った方がよいのではとコーゼフ大臣に提案があったのだが、王国騎士団に身内がいると言った方が社交の場では名が通りやすいとの大臣の意見から、ソレイユもサライスもこの場では本名で尚且つ婚約者という立ち位置に決まった。
ただし、ソレイユはあくまで令嬢。
詰め所にいる人物とは別人で、武術は身に着けていない普通の令嬢を演じることになった。
さて会場に到着すれば、すでに大勢の来客がおり、会場までは上りの階段になっている。
階段の街灯の下で、受付らしき執事が主賓客から招待状を受け取り中身を確認すると入る人数などを確認して、中に通していた。
「はい、こちらオズベイル。もう中で定位置についたぜ」
「こちら、ハーシェン。こっちも準備OKだよ」
右耳に入れた通信機から二人の声が聞こえる。
すでに二人は中の会場にいるようだ。
コーゼフ大臣もにこやかに笑い、今日はよろしく頼んだよと一声かけて、先に馬車を降りる。
サライスもそれに続き、ソレイユの手をさりげなく支えて、転ばないようにしてやる。
「足元、気をつけろよ。履き慣れない靴履いてるんだからな」
「はい、ありがとうございます」
素直に上司の手を取って、馬車を降りれば、サライスが手を返して、腕をくの字にしてそこにソレイユの手がかかるようにした。
「あ、あのサライス隊長?」
「ここでは、隊長と呼ぶな。それにこれも演技の内だ。こうでもしないと婚約者には見えんだろうが」
「あ、はい、すみません」
少し低めのサライスの声に身を固くするソレイユだが、彼女の歩幅に合わせて歩いてくれている彼に怒っているわけではないことを感じて、深呼吸をして昨日貸衣装屋に習った歩き方で、優雅に歩き始める。
いつの間にやら、背後に二人の警備服を着た二人の男性が来ていた。
おそらく、前後の馬車から降りてきたのだろう。
コーゼフ大臣を筆頭に受付を済ませて、5人は会場へと入った。
上り階段を昇り切って、会場に入ればざわめきが広がる。
「あれは、何処の令嬢かしら?とても愛らしいわ」
「あぁ、美しいね。できればこの場でお近づきになりたいね」
「ちょっと待って、あれはアクレイア国のコーゼフ大臣では?」
「コーゼフ大臣の身内に女性はいなかったと思うが?」
様々なさざめきが会場内に広がり、コーゼフ大臣一行が歩を進める度に自然と道が開けていく。
「これはちょっと目立ちすぎたかなぁ」
「呑気なことを言ってる場合ではないですよ、大臣。ソレイユが目立ちすぎてますね」
「私、目立ってますか?」
「自覚がないなら、重症だな。作戦を切り替える。ちょっと待っていろ」
そう言うと、サライスが右手を耳元に当てて通信を小声で開始する。
「おい、ハーシェン、オズベイル。狙撃部隊の範囲を広げろ。ソレイユの周辺を中心にしろ。コーゼフ大臣は俺と後ろの護衛で何とかする」
「わかったよ、サライス」
「OK~OK~。俺らはお姫様の護衛ね」
ソレイユの受信機にも二人からの返答が返ってくる。
そんなそれぞれの回答を聴きながら、ソレイユとサライス達の前にパーティの主催者が現れる。
「これはこれは、コーゼフ大臣。わざわざ護衛付きのご登場ですか。さすが軍事国アクレイア王国ですな。ところで後ろのお方はどこぞの令嬢ですかなあ?私の知る限りこれほどの美しい麗しのご令嬢がコーゼフ大臣の親戚にいるとは聞いてませんよ?」
「はは、そんな警戒しないでくれ。どこに行くにしても最低人数の護衛をつけてくのが、我が国のやり方なんだ。後ろの二人は気にしないでくれ。それと紹介しよう、私の遠い親戚にあたるソレイユと、婚約者のサライス君だ」
コーゼフ大臣は少し左によけて、サライスとソレイユが主催者に見えるようにする。
「お初にお目にかかりに掛ります。コーゼフおじ様の遠縁にあたります、ソレイユと申します」
右側のハーフアップになっているスカートに軽く手を添えて、挨拶をするソレイユ。
「ソレイユ君?もしかして、アクレイア国にいる女性騎士じゃないかね?大臣、そんな所に遠縁のご令嬢がいたのですか?」
「いやいや、詰め所にいる女性とたまたま偶然同じ名前なだけでね。この子はとにかくこういう社交の場は昔から苦手でねぇ。自由に生活させていたら、あまり社交礼儀を知らないんだがよろしく頼むよ。今回は婚礼が決まったから、これを機に社交の場にも出そうと思ってね」
「おじ様、今回は、おじ様がどうしても社交の場に出なさいと言うから来たまでです。私はこんな所、苦手なので今後は来ませんよ」
「ふふ、このように気丈な娘でね。この美人な姿を見れるのも今日限りだから皆さんにたっぷり紹介しないとな」
「おじ様!」
朗らかに笑うコーゼフ大臣に対して、素早く反論するソレイユをサライスが諌めた。
「ソレイユ、今は社交の場だ。あまりツンケンするな。笑顔を保つのも礼儀だぞ」
「サライス・・・さんがそういうなら、そうしますわ」
辛うじて、この場に合わせた言い方に切り替えられたソレイユだが、日頃「隊長」と呼んでるせいで、どうもなじまない。
それをフォローするようにサライスの口調が柔らかくなる。
「今日は楽しめ。でも、酔い過ぎるなよ?」
「・・・はい」
いつもは聞けないサライスの甘い声に頬が赤くなるソレイユの姿を見て微笑ましく思えたのだろう。
主催者が、サライスに関心を寄せる。
「サライス君だったね。君は王立騎士団の隊長ではなかったかな?かなり腕の立つと聞いているが二人の馴れ初めもぜひお聞きしたいね」
「いえ、偶然、買い物途中に礼儀のない市民に絡まれている彼女を助けたまでですよ」
「と、言うことはご令嬢の方から猛アタックしたのかなぁ?」
「そ、そんなことはありませんわ。ただ、お礼のお手紙を送ったら、お返事が来たので、だんだんとお手紙のやり取りをしていく中で、仲良くなっていっただけですわ」
作戦通りの返事をして顔をわざと赤らめてそれ以上の追求をさせないソレイユに対して、パーティ主催者も納得したようだ。
「素晴らしい馴れ初めだね。コーゼフ大臣の遠縁でなければ王立騎士団に手紙など、届けられないだろうに。まぁいい。今日は二人共、楽しんでいってくれたまえ。おい、そこの君、こちらの令嬢に我が国自慢のワインを」
通りかかったウエイターに指示を出し、主催者は「大臣も楽しんでいってくださいよ」と一言残して、去って行った。
すると、それを待ち構えていたように、彼らの周囲に着飾った各国の大臣クラスや令嬢がきた。
自然とサライスとソレイユもくっつくようにして大臣の後ろに立ち、必要であれば挨拶をして、警護をしながら、大臣の各国との情報共有に付きあった。
いつの間にやら、ソレイユ、サライス、コーゼフ大臣に飲み物が配られ、雑談や情報共有にますます花を咲かせるのであった。