美しの薔薇は恋を知らず
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翌日。
ソレイユは隊の服装は街中で目立つと判断して、パンツスタイルのスーツを着て街に出張っていた。
カツカツカツと小気味のいい音を立てて、低いヒールの音が煉瓦畳の街中に響く。
オズベイルに貰った地図を片手に、街に繰り出せば、通り過ぎていく男性陣が必ずと言っていいほど、ソレイユの方を振り返る。
騎士団の服を着ていないだけなのだが、それでも異性の目を引くには十分な美貌を、彼女は持ち合わせていた。
が当の本人はと言うと、男性の視線がウザったくて仕方なく、半ば早足に街中を歩いていく。
やがて、煉瓦造りの街の一角にやたらと目立つ緑色の看板を掲げている店を見つけた。
オズベイルの地図に寄れば、そこが貸衣装屋らしい。
正面に回れば、看板には白い文字で堂々と『どんな衣装でもお貸しします。貸衣装はアンスロポスまで!』と書かれている。
緑の看板に、扉まで緑で、扉の左右にある大型ガラス窓からは、様々なドレス衣装が見えた。
(ココに入れと・・・)
内心、かなり引いているソレイユだが、上官命令だからと3回心の内で自身に暗示をかけて、ドアベルのついている扉を開いて中に入る
「「「いらっしゃい、ませー」」」
途端に響くのは一糸乱れぬ女性スタッフの歓迎の声。
「新規のお客様ですか、それとも誰かのご紹介ですか?」
一番近くにいた、金髪碧眼の紺色にふんわりワンピースの白エプロンをかけた女性が話しかけてくる。
「オズベイルさんの紹介で来ました」
素直にその女性に持ってきた地図を渡す。
そこには、オズベイルのサインが為されていた。
「あぁ、オズベイル様の紹介ですね。店長-!昨日、オズベイル様からご連絡のあったご令嬢のご来店です!」
「わ、私は決して令嬢などではっ」
「あらあら、オズベイルったらまた美人さんを紹介してくれちゃって♡これは、飾り甲斐のありそうな美しい原石ね♪」
ソレイユの謙遜の声を無視して、店の奥から筋肉逞しいノースリーブのスキンヘッドの男性が現れる。
口調は中性的だが、明らかに裏声を使っているのは明白で、俗にいうオネェ系と言う分類に入る人種だった。
そんな店長のテンションに若干身の危険を感じつつ、ソレイユは勇気を出して用件を伝える。
「りっ、立食会パーティ用にドレスを1着貸してほしいのですが」
「あらん?ドレス、1着だけと言わず、ヘアアクセから、ネックレスにショール、ドレスに合わせた手袋まで一式貸し出すのがウチのスタイルよん?オズベイルから金額はいくらになってもいいから、美しく可愛く女性らしく仕立てあげて頂戴って注文が入ってるのよ。てなわけで、奥の部屋で採寸してきてくれるかしら?もちろん、採寸は女性スタッフがやるから安心してねん?私はその間に、貴女に合いそうなドレスを何着か選んでみるわ♡」
「こちらへどうぞ~。採寸しますから奥の部屋で上着だけ脱いだらお声掛けください。スタッフ3人で採寸を行いますので、そんなに緊張なさらずにささ、奥へどうぞ」
初めに声をかけてきた女性が、店の奥にあるカーテンの引かれた部屋へとソレイユを案内する。
「上着は一度、お預かりしますね」
部屋の中に居た、ベージュ色のウエーブがかかったセミロングの髪の女性が、ソレイユが抵抗する間もなく、慣れた手つきで、スーツの上着のボタンを外して、するりと脱がせて壁のハンガーにかけてしまう。
中には四角い大きな姿鏡があって、頭から足元まで全て映る。
「では採寸しますね?」
今度は、黒髪ポニーテールの女性が声をかけてきて、メジャーを持ってソレイユに近づく。
気が付けば、金髪碧眼の女性もベージュのセミロング髪の女性もメジャーを持ってソレイユに近づいてきていた。
「あの、三人で、採寸するのですか?」
「その方が効率がいいですからね。店長、こっち準備できました!そっちの準備は良いですか?」
「全然、オッケーよ。はい、数字言っていって」
「「「はーい」」」
店長の声を合図に、女性スタッフ三人がそれぞれソレイユの体のありとあらゆる場所を図って数値を店長に伝えていく。
肩幅、首の長さや太さ、腕の長さや二の腕の太さ、スリーサイズ、股下、太もも周りの長さ、足のサイズ等々、一通り、体をくまなく採寸される。
カーテンの外では特にそれをメモを取るような音はせず、店長が何やら独り言を言いながら、服を選ぶ絹ずれの音だけが響く。
「店長、採寸終わりましたぁ」
金髪碧眼の女性が声を上げれば、他の二人の女性も引きさがり、ソレイユに上着が返される。
それを着ながら、部屋を出れば、店の中央にあったテーブルの上に所狭しと並ぶドレスの数々。
「・・・これを全部試着しろと?」
「そんな酷なことは言わないわよん。これは貴方のサイズを聞いてウチに置いてある商品の中からピッタリのサイズの服だけを厳選しただけ。中華系からハーフアップドレス、ロングドレスまで色とりどり、一つのタイプで色も5種類以上揃えてみたわ。さぁ、ここから好きな物を選んで頂戴?それに合わせて今度はヘアアクセや靴に手袋なんかも合わせていくから♡」
体をくねらせて上機嫌な店長に、半ば嫌悪感を抱きながらもソレイユは可能な限り感情を押し殺して希望を伝える。
「・・・今回、私は付き添いで行くだけで、目立つ服装は避けたいので、異文化過ぎる中華系は全て却下です。色合いも、派手な色は全てアウトでお願いします」
「あら、そんな綺麗な髪色をしているんだから、情熱的な赤とか、或いは、深海を思わせる上品な藍色なんていうのも合うと思うんだけど?」
「両極端な色合いも避けてください。かといって花嫁に行くわけでもないので、純白なんてもってのほかです」
店長が次に言い出しそうな色を先に先手を打って制して、机の上に並べられたドレスの内、片側だけにスリットが入り、もう半分がミニでふんわりと膨らんでいるタイプのドレスに目が行く。
スリットがわき腹下あたりまで入っているので、警護する上で走る時など動きやすそうだ。
「・・・・この白と薄ピンク色のグラデーションのドレスにします」
そう言ってソレイユが手に取ったのは、首元が少しばかりハイネックで、小さなフリルがあしらわれており、胸元の谷間の辺りが小さくダイヤ型に開いているスリット入りミニドレスだ。
「あらん?それにするのね、だったら、それに合わせて、ちょっと濃い色のピンク系のハット帽なんてどうかしら?」
店長が、ピンク基調のミニハットを持ってくる。
それにはピンクの薔薇が3つ配置されており、可愛らしいフリルのリボンで纏められていて、帽子の大きさにピッタリのコサージュとしてあしらわれている。
それはソレイユの髪色よりもやや薄く、薄紅色の赤い髪を引き立たせ、同時に青み掛かった緑の瞳を強調する。
姿鏡の前でドレスを体に合わせているソレイユの頭に、店長が帽子を前斜めから裏面についているクリップで髪に止める。
「・・・悪くないな」
自分で選びつつ綺麗な色あいに思わず、敬語が抜けるソレイユ。
「でしょう?クリップ止めだから少し踊ったりしてもズレたりしないわよ?」
「それは助かる。後は、靴とタイツか」
喋りながら、ドレスを机の上に一旦置くソレイユに対して、店長はどこからともなくヒールを持ってくる。
「あ、それはね、もう決めてあるのよん?はい、まずは靴のヒールの高さなんだけど、貴女ちょっと低いのを履き過ぎよ?女の子なら10㎝ヒールは当たり前よ?ほら、このピンクラメの入った銀色の靴を履いてみて?初めはちょっと怖いかもしれないけど、慣れれば簡単なダンスのステップも踏めるわよん?」
「私は踊る気などないのだが」
「まぁまぁ、そう言わずに、ドレスと貴女のサイズに合わせて選んでるんだから履いてごらんなさい?」
「・・・・何を言っても聞きそうにないな。すまない、少し肩を貸してくれ」
店長のテンションに押され気味のソレイユだが、さすがに慣れない高さのヒールを履いて転ぶのは避けたかったので、ベージュのウエーブのかかった女性店員の肩を借りる。
恐る恐る履いてみたそれは、ぴったりとソレイユの足にフィットして、女性店員から手を離して数歩歩いてみれば、そんなに足も傷まないことも確認できた。
「あら、貴女、レディがドレスで歩くなら腰から捻って前足を出すのよ。骨盤の関節を外側から内側に回して前に持ってくるイメージね。軽く腰を振って一本の見えない道の上を歩くことを意識するのが基本よ?ほら、こんな風に」
店長が見本を見せる。
男性ながら綺麗な歩き方だ。
それを真似してソレイユも歩いてみる。
「あら、やればできるじゃない?じゃぁ、次にそれに合わせる手袋とショールとタイツを合わせましょう♪」
店長の一言で、テーブルに広げられていた他のドレス類は、女性スタッフ達によって片づけられて、ソレイユが選んだドレスに合わせて、他のアクセ一式も揃えられていた。
薄ピンクの二の腕まである手袋に、薄いゴールドの入った薄生地のショール、そして、蝶が繋がるようにして飛んでいるようにあしらわれた白のタイツが並べられていく。
「じゃ、これらを全部奥の部屋で着てみてね?貴女達、このレディを頭の先からつま先まで綺麗に着飾ってお上げ。メイクもきっちり、ぬかりなくね!」
「「「はーい」」」
「じゃ、お召変えしますね」
金髪碧眼のスタッフがソレイユの肩を抱いて奥の部屋へと案内し、他の2名もドレスなど一式をそれぞれ手に持って、奥の部屋へと入っていった。
そうして、ソレイユは女性スタッフにお着替え人形にされること30分程度。
始めに来て着たスーツは紙袋に入れてもらい、すっかり、上流階級のレディへと変身した。
化粧やヘアセットの仕方まで一人で出来るように教わって、やっと解放された。
「・・・これで街中を歩けと?」
ソレイユは姿鏡を見て、自身のあまりの変身ぶりに言葉を無くしつつ、かろうじて言葉を吐き出した。
「あら、そこは大丈夫よ。ソレイユの取り計らいで、詰所まで馬車で送るように言われてるから呼んでおいたわ。玄関前に着けておいたからそのままの姿で乗り込んじゃいなさい♡」
上機嫌な店長に背を押されて、ドレス姿のソレイユは無理やり店を追い出される。
そこにはすでに馬車が扉を開けて、あまりソレイユの姿が外に見られない様にして待機していた。
ヒールの高い音を立てて馬車に乗り込み、そのまま送り出される。
馬車の中は、ソレイユ一人で、他には誰も居ない。
「あの馬車のお支払いは?」
思い切って御者台の運転手に聞いてみる。
「ソレイユ様より、お代はすでにいただいておりますので、お気になさらず」
「そうですか」
淡々とした運転手の短い答えに、それ以上返す言葉も無く、お着替え人形にされて疲れ切ったソレイユは、背もたれに体重を預けて、詰所までゆっくり休むことにしたのだった。