美しの薔薇は恋を知らず
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煉瓦作りの家が立ち並び、どことなく中世ヨーロッパを思わせるような古い佇まいの家が立ち並ぶ街。
そんなアクレイア王国の城下町の一角に王国騎士団の詰め所がある。
この物語は、その王国騎士団に所属する一人の女騎士のとある任務の話である。
アクレイア王国、騎士団詰所、隊長室前。
コンコンコンッ
小気味のいいドアのノック音で、部屋の主が中から返事をする。
「ソレイユか、入れ」
「よく私だと分かりましたね」
「呼んだのは俺だからな。それにここではノックをして入ってくる礼儀正しい奴はお前位だ」
女騎士の名はソレイユ。
薔薇のような瑞々しい紅い髪はショートヘアで整えられている。
青みのかかった緑の瞳。
整った顔立ちの女性だが、いかつい黒い騎士団の服装を着ているせいか女性らしいラインは打ち消され、胸の膨らみがかすかに女性であることを示している。
歳は21歳だが毅然としたその容姿からは歳に合わない冷静さと沈着さを醸し出している。
そして、彼女を部屋に呼びつけたのは上司であるサライスだ。
彼は執務椅子に座り、軍服帽のへりから中央で分けているダークブラウンの髪と、釣り目気味の眉と濃い藍色の瞳がソレイユを見やる。
立てば184㎝の身長を持ち、均整のとれた長身で年齢は、ソレイユの7つ上の28歳だ。
サライスの部屋には他に、日頃はいない2名の男性が居た。
一人は、別の隊の隊長であるハーシェン隊長。応接椅子の左側に座り、紅茶を嗜んでいる。
彼はサライスの同期で、同い年だ。
容姿は白みがかった金髪にはちみつ色の瞳をしている。
そしてもう一人は、この騎士団の医務員であるオズベイル。
こちらはハーシェンの向かい側に座り、手帳と閉じたり開いたりして暇を持て余している様子。
彼もまたサライスと同期の同い年であるが、生粋の女好きで女たらしでもあることで有名だ。
外見も悪くはなく、薄く入れた紅茶のような髪に、焦げ茶色の瞳。
相手に知的な印象を与えるフレームの眼鏡をかけている。
かつては彼も前線で戦い「神速の騎士」と謳われていたが、戦場での傷を理由に前線から退き、医務員となった経歴を持つ。
「ハーシェン隊長にオズベイルさんまでいらっしゃるとは珍しいですね」
「今回の任務で必要だからこの部屋に集めたまでだ。単刀直入に任務の話をするぞ」
書類片手にサライスが言葉を発する。
「今回の任務は明後日、隣国のオグデール国で開催されるパーティに、我が国の重要人物であるコーゼフ大臣が出席される。と言うわけで、大臣の護衛の任務が入った」
「サライス、そこからは僕が話すよ。元々は僕の隊が受けた任務なんだ。ソレイユ、あのね、そのコーゼフ大臣の護衛なんだけど、男所帯の僕の隊だけでは、遠距離からの警護しかできない。今回のパーティは大規模な物で、立食会形式なんだ。そこで、君に大臣の遠い親戚ってことで女性の警護役を頼みたいんだよ」
ハーシェンの言葉に、ソレイユが首を傾げる。
「私が大臣の遠縁の親戚役ですか」
「まぁ、大臣の一番近い所での警護だ。この場にいる全員が出席するからお前だけが特別扱いではないがな」
「そうですか、分かりました」
「ちょっと待った!せっかくの立食会パーティだぜ?警護って言っても、その場にいるだけなんだし、楽しまなきゃ損だって。折角だからドレス着ていけよ、ソレイユ」
ソレイユとサライスの会話に、オズベイルが割って入る。
「待ってください。オズベイルさん。スーツで十分ではありませんか?遠縁の親戚程度の扱いですし、私はそもそもスーツしか持ってませんよ?」
「堅物のソレイユの事だから、そんなことだろうと思ったよ。俺の知り合いに貸衣装屋が居るから話を通しておいてやるよ。女の子なんだからたまには着飾るのも大事だぜ?まずは明日行って、衣装合わせして来いって」
言いながら、オズベイルは持っていた手帳のページを開き、貸衣装屋までの簡単な地図を書いて、ソレイユにページをちぎって渡す。
「そこの店主、ちょっと変わってるけど腕は確かだから良い服を仕立ててもらえって。元々綺麗なんだからさ、たまには男ばかりのむさ苦しい詰所なんかよりも街に出て息抜きもして来いって」
「おい、オズベイル。ソレイユをあまり甘やかすな。と言ってもドレスは必要だな。ソレイユ。そう言うわけだから、明日の内にドレスを調達して置け。貸衣装代については、オズベイルにツケて良い。紹介代ってことでな」
「分かりました」
サライスの言葉に素直に頷くソレイユに対して、オズベイルが声を上げる。
「おいおい、2人して俺の扱い酷くない?」
「女たらしのお前の紹介と言うだけで怪しい店だからな。その位、奢ってやれ」
「ちぇっ、仕方ないなぁ。そう言うわけだから、明日その店言ってみなよ」
オズベイルの言葉に頷いて、ソレイユは確認事項を口にする。
「では、詳しい任務に就いては、ドレスを手に入れてからと言うことでいいですか?」
「あぁ、明日の衣装合わせが終わったら、当日に一度俺の部屋に集合。こいつらと合流してや警護の詳細を確認したらすぐに出発だ」
「分かりました。では、私はこれで失礼します」
一礼して、部屋を後にするソレイユを見送って男性陣3人が各々口を開く。
「大丈夫かなぁ、ソレイユ」
「ドレスの仕立て位、自分一人で出来るだろう。あいつも子供じゃあるまいし」
「けど、サライス?オズベイルが紹介する貸衣装屋だよ?何かありそうじゃない?」
「あのなぁ、あそこの店主は男だけど、根は良い奴で腕も確かだって」
「それが問題なんじゃない?」
「ソレイユはああ見えて、男嫌いだからなぁ」
サライスは手元の資料に目を落とす。
それはソレイユの経歴書だ。
そこには、親族の父親蘭に「家族に暴力を働いたのち蒸発」と書かれていた。
「全く、男嫌いな癖して負けん気が強いからなぁ。母親も体が弱いと聞く。家庭の事情がなければこんな男所帯の詰め所などに就職せずに済んだものの」
ため息をつくソレイユにハーシェンが言葉を発する。
「でも、頑張り屋さんだよね、ソレイユは。男以上に男前な所あるし、努力家だし」
「まぁ、努力家なのは認めるけどよぉ?何も魔物や盗賊とか他国との戦争とかの絶えないこの世界で可愛い女の子が騎士団なんかに入って良いもんかねぇ。女の子扱いされるの嫌ってるけど、案外あの子、緊張すると手とかすごく冷たい時あるんだよなぁ。俺、ちょっとした怪我でソレイユを診察したことあるけど、夏だったのにすっごく手が冷たくてさ。緊張してる?って聞いたら、固い声で少しって答えたんだぜ?アレは絶対男性恐怖症だって。それなのに、こんな場所にいるなんて俺はソレイユの気が知れないね」
「オズベイル、口が過ぎるぞ。家庭の事情がなければ彼女はこんな所へは来なかったはずだ。俺らにできるのは少しでもソレイユが男慣れして普通にふるまえるように環境調整してやる他にない」
「まぁ、サライスの言う通りかもねぇ。僕らには僕らにしかできない仕事をするまでだよ」
「ハーシェン、なぁに、年寄りくさいこと言ってんだよ。そんなんだから、若年寄なんて言われんだぞ?お前も少しは女の子に興味持ったら?」
「オズベイルには言われたくないなぁ。昔の威光を利用して女の子を口説き過ぎだよ。街に出れば女の子に毎回囲まれてるのはどこの誰だっけ?」
「うっ、ハーシェン。痛い所突いてくるなよ。たまの息抜き位、必要だって。そう言えばサライスも彼女居ないよな?ソレイユなんてどうよ?」
「部下と上司以外の関係を築けと?バカかお前は。恋愛とはそもそも相互に感情の好意がないと駄目だろうが。もし万が一にも俺がソレイユに好意を持っていたとしてもだ、あいつが受け入れないだろうよ」
「サライスも低姿勢だよね。でも、他の隊員よりもソレイユのこと、ちょっと特別扱いしてる時だってあるんじゃないかな?」
「それは、あいつが男共に負けないよう努力しているからな。その努力を汲んでやってるだけだ」
「はぁ、2人して釣れないなぁ。男女の上司と部下の恋って燃えない?」
「オズベイルはそればかりだな。そういうならお前がソレイユの相手になったらどうだ?」
「えー、俺にはソレイユは高嶺の花よん?あの美貌の花咲かせられるのは、一体誰だろうねぇ」
「オズベイル?そうやって人を弄ぶような発言が、周りを苛立たせるんだよ?」
にこやかなハーシェンの笑顔から、静かな怒気が含まれている。
紅茶を飲みながら涼やかな笑顔がまた怖い。
「わ、悪かったよ。怒るなって、ハーシェン。ま、明日、ここで落ち合おうぜ」
そう言って真っ先にオズベイルが席を立つ。
「僕はもう少し、サライスと作戦について詰めてから帰るよ」
「あ、そう。じゃぁ、お2人さん、またね」
会話を終えて、オズベイルが部屋を後にする。
「さて、サライス。本格的な仕事の話をしようか」
「あぁ、煩いのも居なくなったし、警護の詳細を詰めていこうか」
ソレイユとオズベイルが居なくなったことで、隊長格2名は、遅くまで綿密な警護計画を立てていった。
一方、先に部屋を出て行ったソレイユは、自室に戻り、街の詳細地図とオズベイルに貰った地図を見比べて店の場所を確認していた。
「・・・ドレスか。スーツで十分な気もするが、上官命令なら仕方ないな」
独り言を呟いて溜息を吐き出す。
自腹ではないとはいえ、自分がドレスを着ている姿を想像できないソレイユであった。