月と桜と・・・
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日が暮れて、夜の帳が下りた頃、月が夜空に顔を出して、山の麓の桜を照らし出した。
八戒と同部屋の鬼宮はいつもの退治屋としての護符作り作業を終えて、集中を解いて窓の外を見やった。
鬼宮「夜桜、か」
八戒「凛華さんは、初めてですか?夜の桜は」
鬼宮「今まで、見てる暇なんてなかったからな。なんとなく、落ち着かない」
コンコン。
まるで、タイミングを計ったかのようにノックされた扉。
八戒「おや、天女さんにお迎えが来たみたいですよ?」
鬼宮「・・・俺は、かぐや姫じゃない」
八戒の冗談にも静かに返して、作業していた席を立ち、扉へと向かう。
鬼宮「テーブルの上、そのままにしてていいから先に寝てろよ。運転手は八戒だけなんだから」
八戒「そうですね、ではお先に休ませてもらいますね?」
八戒の言葉に手を振って返事をして、部屋を出れば、期待通り悟浄が待っていた。
悟浄「あー、悪いな。休んでるところ、呼び出して」
鬼宮「構わない。で、どこで話すんだ?ここで立ち話ってわけじゃないだろ?」
悟浄「ここの宿の屋上、いかね?喫煙所も兼ねてるみたいなんだわ」
鬼宮「下見してたのか?悟浄にしては念入りだな」
悟浄「俺様だって、たまにはな」
にっと笑いながら、さりげなく悟浄は鬼宮の腰に手を回してエスコートする。
彼女もそれを無下にしたりはせず、二人より沿って歩く。
屋上に着くと、夜桜が部屋から見るより、ずっと綺麗に見れた。
散る花びらが風に舞って、二人のすぐそばにまで落ちてくる。
鬼宮「綺麗だな・・・」
悟浄「・・・だな」
思わず桜に見惚れている鬼宮のすぐ隣にならんで、悟浄はいつもの如くタバコを吹かし始めた。
鬼宮「で、なんで呼び出したんだ?」
悟浄「そんなつめてーこというなよ。ちょっと夜桜を眺めに誘っただけだって」
くつくつと肩を揺らす悟浄。
彼はただ知りたかったのだ。
紅い月の夜ではなく、普通の月夜に。
彼女のことをより多く、もっと知りたくなったのだ。
夜桜がいい感じに雰囲気を作ってくれているので、言葉を選んで発する。
悟浄「凛華ちゃん」
鬼宮「ん?なんだ」
悟浄「愛ってなんだと思う?」
呼ばれて、彼のほうを向いた彼女はいつもとは違う少し真剣な表情に、一瞬、瞬きをして、首を少しだけ傾けて答えた。
鬼宮「一緒にいたい、とかじゃないのか?」
悟浄「んー、俺としちゃぁ、少し違うな」
鬼宮の期待通りの反応に内心嬉しく思いながら、悟浄はタバコを吸って煙を吐き出す。
鬼宮「じゃあ、なんだ?」
問うてきた彼女に、意地悪な笑みで答える。
悟浄「抱き合いたいって思うこと」
鬼宮は反射的に愛用クナイを彼氏の首元に突きつける所だったが、堪えて続きを促した。
この手の話は少しまだ抵抗がある。
でも、悟浄が見せた笑顔の裏に何かを感じた。
鬼宮「・・・それだけ?」
悟浄「そりゃ。抱き合いたいって気持ちだけじゃねーよ」
再び、タバコを吹かし始めた彼の次の言葉を、散りゆく桜に視線を移して静かに待つ。
悟浄は、口ごもりながら昔を懐かしむように、言葉を紡いだ。
悟浄「凛華ちゃん言ったよな。俺の髪と目が、血の色に見えたって」
鬼宮「ああ、確かに言ったな」
悟浄「俺的には、意外だったんだ」
鬼宮「?」
悟浄「凛華ちゃんはすぐに理由を話してくれたけどさ、正直、嫌われると思ったんだわ」
桜から視線を外さず語る悟浄の寂しそうな表情に、鬼宮の胸が痛みを訴える。
こんな表情をさせたくて言ったわけじゃない。
彼女の心境を知っているかのように、悟浄は言葉を続ける。
悟浄「でも、まぁ凛華ちゃんのおかげで、悪くないと思えたんだ」
鬼宮「そうなのか?」
悟浄「それだけ俺は凛華ちゃんに惹かれたってこと」
きっぱりと言い切り、ウィンクしてくる悟浄に鬼宮は真っ赤になる。
悟浄「なぁ、凛華ちゃん。この旅が終わったら」
鬼宮「終わったら?」
悟浄「一緒に添い遂げてみない?」
タイミングよく、桜吹雪が二人を包む。
風が強くて、藍色と紅色の二人髪がそれぞれ、桜吹雪の中に揺れる。
悟浄が持つタバコがぴしりと折れた。
緊張で手に力が入りすぎているのだろう。
それだけ、彼が真剣なのが嬉しく思えて、でも素直にはなれなくて、
鬼宮「・・・まぁ、自分は悟浄なら構わないけど?」
悟浄「!本当か?」
鬼宮「でも、まずは目下の桃源郷を平和にしないとな」
悟浄「それ、マジで考えてんの?」
雰囲気をぶち壊した彼女の現実的な言葉に、悟浄が目を見開く。
鬼宮「当然だろ?牛魔王を討伐しても、帰るまでが遠足っていうだろう?それに、元凶がなくなったからって人間がすぐに妖怪と和解するとも限らない。むしろ、退治屋の俺の仕事は増えそうだ」
悟浄「俺は、どこへでも凛華ちゃんと一緒に行くけどな?」
意地悪な笑顔の鬼宮に不敵な笑みを返して悟浄も笑う。
笑いながら、折れたタバコを踏んで消して、次のタバコを出そうとする悟浄の袖を鬼宮が引いた。
鬼宮「例え、天女のお迎えに月からの使者が来ても、着いてきてくれるか?」
悟浄「月からの使者なんて、俺が追い返してやるよ。最後まで見届けるのは俺様だからな」
鬼宮と悟浄の影が重なるように動いたのを、帰りが遅い彼女を探していた八戒が偶然見かけた。
八戒は、屋上へ続く扉の奥で、嬉しそうに口元に笑みを浮かべる。
そして、その場を立ち去った。
様々な形で変わりゆく姿はあれど、二人ならきっと乗り越えていけるだろう。
そして、夜は明けて、一行はいつも通り西へと旅立つ。
桜吹雪が、彼らの道中を見送った。
~月と桜と・・・完~