紅と藍の邂逅
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悟浄「お、おい、大丈夫か?」
隣の部屋に聞こえないように、小声で話しかけ、立たせようと手を差し伸べる悟浄の手を、シーツを掴んだままの手が跳ね除けた。
鬼宮「入るなって言ったのに。なんで、入ってきた。おかげで余計な体力使っちまっただろーが」
鬼宮の呼吸は、少しだけ荒く、ひどく苛立った声だった。
悟浄「あ、いや、なんつーか、その。怪我とか、気になって、さ」
差し伸べた手を拒まれて、その手を後頭部に回して頭をかきながら、悟浄は、居心地悪く答える。
その間に、鬼宮は、長い髪をふわりと纏ってテーブルに戻り、椅子を引いて、その上に体育座りをして蹲る。
鬼宮「ベッド、使えば?もう、夜も遅い。明日には旅立つんだろ。早く寝た方がいい」
部屋は、明かりも点けられておらず、カーテンも閉じられてなくて、窓からは、夜空に紅い月が浮かんでいた。
紅い光が部屋の中を照らすが、テーブルの上には何もなく、薬の調合をしていた様子はない。
辺りを見渡せば、部屋の隅に今日の買い物用品が置かれているだけ。
ベッドもシーツがないだけで、布団は使えるようになっている。
なのに、部屋には、妖気が充満していた。
ちょうど、1匹分の妖気だ。
その中心にいるのが、鬼宮で、悟浄は嫌な予感がして、声をかける。
悟浄「なぁ、薬の話、嘘だろ。なんで、あんな話、したんだ?それに、この札。妖気を封じる物だろ?」
鬼宮「・・・」
鬼宮は答えない。
代わりに、頭だけ、悟浄の方に傾ける。
長い髪がすらりと崩れ落ちて、長く尖った耳の先が、髪の間から見えた。
悟浄「おい、まさかっ」
鬼宮「・・・今日、だけだ」
悟浄の考えを打ち消すように、鬼宮がぽつり、ぽつりと言葉を紡ぎだす。
鬼宮「俺。狩りをな。しくじって、ある妖怪に、呪いを、かけられちまったんだよ。それが、コレ。紅い月が登る一日だけ、俺は、妖怪になっちまう」
そう言って、包っていたシーツから、片手だけを出す。
その手は、爪が異様に伸びて先端が鋭利に尖っている。
恐る恐る悟浄は、月明かりの指す窓際に歩み寄る。
その様子を目で追う鬼宮の瞳は、妖怪のように、瞳孔が縦に長くなっていた。
悟浄「おい、マジかよ」
絶句する悟浄に、鬼宮はただ死んだ魚のような精気のない瞳と抑揚で話す。
鬼宮「こんな、赤い夜の日は。眠れないんだ。だから、ベッドは好きに使っていい。このことは、他の奴らに話すなよ」
その瞳は、何も映していない。
絶望。
それを体現するかのように、シーツに包って蹲る彼女に、悟浄は無性に憤りを感じた。
ダンッ!
気が付けば、テーブルを強く叩いていた。
悟浄「何、死んだ魚の眼してんだよ!妖怪だとか人間だとか、関係ねーだろ!お前はお前だろが!何に絶望してんだよ!鬼宮ちゃんには、笑ってる顔が一番似合ってる!だから、その死んだ眼、俺が叩き起こしてやる!」
テーブル越しに、シーツの胸元を掴んで、無理やり上を向かせる。
鬼宮「な、何っ!」
バランスを崩して、テーブルの上に、片手を着いてバランスを取るも、上半身を乗せる形になった鬼宮の口を、悟浄の口が塞ぐ。
驚いて大きく見開かれる藍の瞳。
その瞳に映るは、強い意志を宿した真紅の瞳。
永遠とも取れる一瞬が過ぎた後、悟浄は顔を離して、上唇を舐める。
悟浄「・・・妖怪でも人間でもお前は、お前だろ?他の誰が否定しても、お前自身が、自分を否定しても、俺は、お前を否定しない。だから絶望してんじゃねーよ」
悟浄から解放された鬼宮は、ストンと椅子に座って呆けている。
そして、恐る恐る尖った爪を持つ手で、自身の口元を触る。
まるで、初めてキスをされた少女のような行動に、一瞬心配になる悟浄だったが、すぐに自身の体の異変に気付く。
突然、ぐにゃりと歪む視界。
ふらついて、一、二歩下がれば、ベッドの淵にぶつかり、バランスが取れず、そのままベッドに倒れこんでしまう。
(おい、なんだよ、これ。体がいうこと、きかねー)