短編
ワアァァァ!!辺り一面に歓声が鳴り響く。
「第49回王立騎士団剣術大会!次はいよいよ、決勝戦だぁっ!!」
ワアァァァ!!!!更に大きく響く、歓声。城下に作られた会場は、熱気に包まれていた。
「出場者、前へ!」
号令と共に見えてくる、二人の影。ピシッとした動きで入場してくると、ピタリ、決められた場所で、礼儀正しく足を止めた。
南方に立つは、炎の騎士団、団長。赤いツンツンヘアーを振り回しながら、輝かしいばかりの笑顔を振りまく。己の名を呼ぶ声には愛想よく手を振り、時には剣を掲げて見せるなど、サービス精神が素晴らしい。
北方に立つは、氷の騎士団、団長。青いサラサラな髪をなびかせて、涼しい顔で相手を見据える。周りの声などなんのその、無表情の彼は、静かに試合開始を待っていた。
王立騎士団剣術大会といえば。観客たちが心待ちにしている風物詩がある。それは、試合前に己の欲を宣言するというもの。どこぞの勇者が魔王討伐メンバー入りを望んだことが始まりと言われているが、モチベーションアップに効果的、と誰も彼もが真似し始めて、とうとう毎試合ごとに宣言が行われるほどとなり、一時はイベント運営に差し障る事態にもなったとか。その結果、今や決勝戦進出者のみに認められた権利である。無謀な宣言も少なくなく、過去には王族との結婚を望んだ猛者もいたらしい。その結末までは記憶されていないが、憧れの人の望みは何ぞやと、観客達は興味津々でその宣言を待つのであった。
「お前の欲は、お前の野心は!?」
宣言を促すお決まりのフレーズ。観客たちの期待に対し、先に応えたのは炎の騎士団長だった。
「この国から飢えの消滅を!優勝して賞金を得て、炊き出しと低価格食堂の援助を行いたい!」
「おお、ぉぉお?」
観客の問いかけに、高らかに宣言した炎の騎士団長。晴れ晴れとした顔で自信満々な様子だ。はきはきとした強い宣言に大きく湧いた観客だが、すぐ、内容に疑問符を飛ばして尻すぼみになる。
気を取り直して、もう一方の宣言。
「お前の欲は、お前の野心は!?」
先程の動揺などなかったかのように、観客達は力一杯叫んだ。宣言をすべく、氷の騎士団長が口を開く。
「この国の全ての者に安心な寝床を。優勝した暁には、孤児院やホームレス支援を行う協会の援助を約束しよう」
「おお、ぉぉお?」
観客の問いかけに対し、淡々と宣言した氷の騎士団長。異論など寄せ付けないような涼し気な様子だ。静かだが堂々とした宣言に大きく反応した観客だが、またしても歓声に疑問符が混じる。
微妙な間が、生まれた。観客達は困惑した様子で二人の騎士団長を見る。だが、二人の騎士団長は観客の困惑に気付いているのかいないのか。明暗の差はあれど、二人の騎士団長はやり切った感を醸し出して、試合開始を待っている。観客達はおろおろとお互いに顔を見合わせた。
「……ま、炎の騎士団長様は真面目だから」
とある騎士が苦笑交じりに呟き。
「さ、流石、氷の騎士団長様です!お心構えが違います」
とある令嬢は、取り繕ったように囁いた。観客達は今ひとつ盛り上がり切れずに、しかし、やれやれと己を納得させる。観客の求めは、伝説に残るような、もっとドロドロとした欲だったのだ。会場になんとも言えない空気が流れていく。
その様子を見ながら、額に手をやるのは二人を焚きつけた王子だった。君達は皆の憧れの的だから、欲の宣言はしっかり考えておいてねと言ったはずなのに。悶々と彼は思う。それじゃあ公約じゃないか!政治活動かっ!!……もちろん彼は、声には出さない。その指摘一つあれば、会場の空気もまた変わっただろうに。
さて、当の本人達。
炎の騎士団長の心の内は。お腹すいた……早く終わらせてご馳走食べたい……、だった。当然、試合前もたらふく食べていて、英気は十分であるはずなのだが……彼は食をこよなく愛す男。名を、グラトニーと言う。ちなみに、彼がこの大会に参加したのは、100人前のご馳走を優勝のご褒美に吊り下げられたからだった。
一方、氷の騎士団の心の内は。眠い……さっさと終わらせて惰眠を貪りたい……、だった。かく言う彼は、連日しっかり休んでおり、体力は有り余っているはずなのだが……彼は睡眠をこよなく愛す男。名を、スロウスと言う。なお、彼がこの大会にエントリーしたのは、1週間の休暇を餌にされたことが理由である。
「双方、構え!」
審判の掛け声が辺りに響く。期待外れの宣言に一時緩んでいた場が、一気に引き締まった。音が消えた会場で、二人はサッと戦闘態勢へ。
グラトニーは大きく剣を振り上げて、前方に構えた。
スロウスは低い位置で剣を引き抜き、腰を落としていつでも踏み込める体勢をとる。
「この世の(主に俺の)食のために!」
「全ての(特に自分の)安眠のために!」
双方、叫ぶ。観客達は固唾を飲んで見守った。
「試合、開始!」
刹那、動く、二人。中央で重なる剣。高らかに響くは金属音。
「「この戦い、勝つ!!!!」」
戦いの火蓋が落とされた――。
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