集合&結成!?スマッシュブラザーズ!!
部屋に残ったのはフォックス、マリオ、ピーチ、マルス、リンク、ターマスだけだった。ほとんどの人が出ていったのを確認すると、リンクはターマスに歩み寄った。
「……ターマス、どうしてゼルダにまで……!」
「それは私ではありません。」
ターマスは短く答えた。リンクは呆れ果ててため息をついた。
「じゃあ、他に誰が?言っておくけど、ゼルダが自発的にやったとは考えられないから。」
側で2人の言い争いを眺めていたマリオは、ピーチに向き直った。ピーチは1人、楽しそうに2人を見ている。それで、マリオは確信した。
「……ピーチ、お前じゃないのか。」
「えぇ、そうよ。」
ピーチは悪いとは全く思っていないようで、さらっと答えた。リンクは驚いてピーチを見た。
「……何やらせてるんだよ………。」
マリオはため息をついた。
「だって、ゼルダったらため息ばっかり。よくよく話を聞いてみれば、リンク!あなたは帰ったかもしれないって言いだすじゃない。私は、あなたはなんて無責任な人なのかしら、と思ったわ。それで、ゼルダにそう言ったら、「そうですね、少なくとも説明は最後まで聞いていくかもしれません。」って答えたのよ。彼女は100%あなたが帰ると思っていたわ。それなら、と思って、私はさっきの事をさせたのよ。あれだけ思われてるあなたなら、あんなことされたら、帰れないでしょ?」
ピーチの言い訳という名のスピーチが終わる頃には、リンクは目を伏せていた。
「…他に方法はなかったのかよ……。」
マリオは頭を抱えていた。
「あなたってかわいいのね。」
ピーチはそう言い残すとスキップでもしそうな雰囲気で部屋を出ていった。マリオはまた ため息をつくとリンクに向き直った。
「あー……リンク?ピーチの言うことは気にするな。あいつは楽しんでるだけだから………。」
リンクは小さく頷くと部屋を出ていった。後を追うようにフォックスも出ていく。
「……あそこまでがんじがらめにされちゃうと、ちょっとかわいそうかな…。」
マルスが呟いた。
「…ピーチがもう少し気のきいた言い方が出来ればいいのだが………。」
「彼女は悪くないよ。」
マルスは意味有りげにターマスを見た。
「……さてと、俺も風呂に入ってこようかな。」
マリオは唐突にそう言うと、周りの反応を待たずに行ってしまった。
“……す、すごく突然行動する人だな………。”
マルスがこっそりとそんなことを思ったのは仕方ないだろう。
マリオが出ていくと、部屋にはマルスとターマスだけが残っていた。すると、ターマスはマルスに向き直った。
「マルスさん、折り入って話があるのですが……。」
「……何かな?」
マルスは少し身構えながらターマスを見た。
「あそこまで言われたリンクが、まだ帰ろうとするとは思いません。しかし……念のため、彼を見張っていただけませんか?夜のうちに………なんてこともあり得ますから。」
それを聞いたマルスは力を抜き、思案した。やがて、おもむろに口を開いた。
「……いいよ。ただし、条件がある。」
ターマスはマルスの目を見つめた。
「………その条件とは?」
マルスは一息ついた。
「この大会の目的……教えてくれないだろうか?」
「それは無理です。」
ターマスは即答した。すると、マルスはクスッと笑った。そして挑戦的な目をターマスに向けた。
「それとも………君のことをみんなに話してしまおうか?」
ターマスは背筋に寒気を感じた。
「私のことを……ですか。一体何を………?」
マルスはこれ以上ないという程の笑みを作ると言った。
「…………主催者さん?」
ターマスは一切の表情を消した。
「何の話でしょうかね。」
「君は、招待状を書いたのは主催者本人だと言った。」
「えぇ。」
まだ言っているのかとターマスは内心呆れていた。それに気付かずにマルスは続けた。
「だけど君はこうも言った。「招待状を書かせていただきました」と。」
この大会が強制だと教えてくれた時だけど、とマルスは付け加えながら、ターマスの様子を伺う。ターマスは相変わらず無表情のまま話を聞いていた。
「それに、極めつけはこれだ。」
マルスは当番の原案が書かれた紙を取り出した。
「手紙と同じ字で」
「もういい。もう十分だ。」
ターマスがマルスを遮って言った。深いため息を吐いたりなんかしている。
「……主催者だと認めるんだね?」
「あぁ、認める。」
ターマスは疲れ切ったようだった。深くソファに寄りかかった。
「それで、目的か正体か、どちらをとる?」
マルスは交渉に踏み込んだ。今度はターマスが考え込んだ。
“……目的はまだ知られたくはない。しかし、正体をバラすにも時期が早すぎる。どうしたものか……… ! この手なら、どうだ?”
ターマスはマルスを伺うように見た。そしてゆっくりと切り出した。
「……私からは話さない。が………リンクに聞くといい。…あいつが話すかどうかは知らんが………。」
マルスはターマスを見つめ返した。
“何か腑に落ちないな………。”
マルスは違和感を感じていた。が、最終的にはそれで手を打つことにした。
「分かった。それでいいよ。」
マルスはそう言うと、部屋を出ていった。
一方、部屋を出たリンクはバルコニーにやってきていた。手すりから身を乗り出して空を見上げた。
“……こんなところ、あったんだ………って、”
リンクは俯くと、ため息を吐いた。
“本当にここ、どこだよ!……ワープさせられてから、位置が全然掴めない……。まぁ、ここも静かだからいいけど……。”
リンクはピーチの言葉を思い返した。
“……なんだかなぁ……。”
リンクは再びため息を吐いた。その時だった。
「お前、結構な苦労人だな。」
突然、リンクの後ろから声がした。リンクが驚いて振り向くと、フォックスが立っていた。
「う、うわっ!フォ、フォックス!?何でこんなところに………。」
「ずっとついてきてたんだよ。……勇者なら気づけよなぁ………。」
リンクはまた、ため息を吐いた。
「……確かに……。今日は……いろいろあって疲れちゃったのかな……。ハハッ……情けないや……。」
フォックスはやれやれと首を振った。
「そこまで言うなよ……。ところで、ゼニガメの件、一番気にしてるのはお前じゃないのか?」
「え?」
突拍子もない話にリンクはすぐについていけなかった。漸く意味を理解すると、少々慌てたように返した。
「そ、そんなまさか!それなら、オレよりトレーナーの心配を」
「している奴は多い。」
フォックスはリンクを遮って言った。リンクが何も言わないうちに続ける。
「だが、オレとしてはお前の方が心配だな。」
「……どうして?」
リンクは本当に不思議そうな顔をしていた。
「お前、あの時割って入ったろ?あの時は感情的になっていたが、本当は穏便にすませたかったんじゃないのか?そして今、もっと上手に丸く治められなかったのかと悩んでいる………。違うか?」
リンクはフォックスから顔を背け、何も返さなかった。しかし、フォックスは気にした様子はなく、そのまま続けた。
「しかも、事の発端は自分だと思ってるだろ。だから他の奴らの中に入っていくことができない………。」
リンクは戸惑いを見せた。
「後、お前集団生活に慣れてないだろ。」
リンクは暫く黙っていた。が、やがて、フォックスに顔を再び向けると言った。
「……まぁ、ね。今までずっと、単独行動してたから……。」
「やっぱりな。だが、お前は筋違いな事を言ってる訳でもないから、そのうち打ち解けられるさ。安心しろ。だから……この大会にお前も参加しろよ。」
リンクは顔を曇らせた。
「……そのつもりだよ。」
フォックスはにやりと笑った。
「まぁ、あれだけいろんな奴に引き留められちゃ、帰るに帰れないか。ついでに聞くが、お前が遅くなったのは、帰る、と言ってこの建物中逃げ回ってたからじゃないのか?」
リンクは苦虫を噛んだような顔をしていた。
「……正解。でも……どうして?」
「お前の言う我が儘ってのは何か考えたらそれに行き当たった。それだけのことさ。」
リンクは肩を落とした。
「……なんかオレ、今日全然いいとこないね……。」
今度はフォックスがため息を吐いた。
「……何でそうなる……。……あ、それで思い出した。リンク、割って入るのも程々にしとけ。」
「……オレの身がもたなくなるから?」
半分やけになりながら、リンクが訊いた。フォックスは頷いた。
「その通りだ。それに、お前、朝早いんだろ?」
「あ、その点は問題ないよ。オレ、3日に一度の仮眠でも過ごせるから。」
フォックスは頭を抱えたくなった。
“それ自体が問題だ……。”
が、なんとか持ち直した。
「……そうか。後……何か困ったことがあったら、1人で抱え込まずに話せよ。」
リンクはただ頷いただけだった。フォックスは内心ため息を吐きながら、戻る、と言って中に入っていった。リンクはバルコニーに来てから何度目かのため息を吐いた。
“……困ったことがあったら話せ……か。でも…さすがに聞けないよ……自分の部屋がどこにあるかなんて………。”
部屋を出たマルスはリンクを探して歩いていた。すると、窓から外を見ている人を見つけた。マルスは迷う事なくその人に歩み寄った。
「アイク!こんなところで何をしているんだい?」
アイクは静かにマルスを振り返った。そして、
「自分はその質問をあいつにしたいが。」
と窓の方を顎で杓る。
「……あいつ?」
マルスは窓を覗いた。そこからはバルコニーが見えていた。
「あぁ、リンクか……。確かにね。だけど……どうして聞かない?」
アイクは暫く黙り込んだ。マルスが辛抱強く待っていると、アイクは一つため息をついて言った。
「……そう容易く聞ける程の仲ではない。」
今度はマルスが黙り込んだ。マルスはアイクの言いたいことを正確に理解していた。暫く考えを巡らせていたが、いい機会だと思い口を開いた。
「その件で言いたい事がある。……アイク、君はもう少し大人になるべきだよ。」
アイクはマルスをまじまじと見つめた。
「……何が言いたい?」
「君は濡れた事に関して怒り過ぎだ。それに……それをトレーナーやリンクに当たっても何の意味もない。」
「何故だ?……確かにリンクは関係なかったが、トレーナーは」
「彼はトレーナーとしての責任を果たしている。彼はゼニガメの代わりにきちんと謝った。……彼にできたのはそれぐらいだったと僕は思うね。それと……あれから彼はずっとおどおどしている。気づいていたかな?」
アイクは再び黙り込んだ。じっと遠くを見つめている。やがて、小さく頷いた。
「………一応な。だがそれは……そうだな、確かに自分のせいだろう。」
マルスはホッと息を吐いた。
「分かってはいるみたいだね。」
「……理解力がない訳ではない。」
そう言い捨てると、アイクはどこかへ行ってしまった。それを見送ったマルスは再び窓を覗いた。
「さてと。僕はリンクに用が……って、あれ?」
リンクはバルコニーを去った後だった。
“……長く話しすぎたな。”
マルスはリンクの部屋に向かうことにした。
そのころ、トレーナーはアイクの部屋の前にいた。浮かない顔をしていたが、意を決すると扉を叩いた。しかし、やはりその音は弱々しかった。アイクは出てこない。
“……いない……のかな……。ここだったよね……アイクさんの部屋………。”
トレーナーはため息を吐いた。
“……早く会わないと、言えなくなっちゃうよ……。”
そこへタイミングがいいのか悪いのか、アイクがやってきた。
「……こんなところで何をしている?」
発せられた声は不機嫌そうだった。
「え、えっと……その……あの……。」
トレーナーのなけなしの勇気は引っ込んでしまった。トレーナーを一瞥して、アイクは扉に手をかけた。
「あ、ちょ、ちょっと待って下さい!」
部屋に入ってしまうと思ったトレーナーは、思いがけず強い調子でアイクを引き止めた。仕方なくアイクは振り向く。
「………何だ。」
「あ、あの…………………すみませんでした!」
トレーナーは深く、しかも勢いよく頭を下げた。アイクは驚いて数歩下がる。呆気にとられて言葉を失っていたが、やがて額に手をやるとため息を吐いた。
「…………顔を上げろ。」
トレーナーはアイクを伺いながらゆっくりと頭を上げた。
「……そこまで怒っていない。……もう気にするな。」
「………え?」
トレーナーは狐につままれたような顔をした。
「……もう、怒ってない。」
アイクは繰り返した。すると、トレーナーは困ったように俯いた。暫く口をパクパクさせていたが、恐る恐る言った。
「……な、殴らないの……?」
トレーナーは怯えた眼をしていた。
「は?」
対してアイクは、あまりに予想外の問いを処理しきれていなかった。トレーナーはぽつりぽつりと言葉を足していく。
「……だって、あの時……皆で話し合ってた時、殴りたいって……あなたが……。」
アイクは難しい問題を解いている気分だった。が、思い当たる節があったらしい。アイクはトレーナーに目を向けた。
「……お前は、それをずっとひきずっていたのか?」
トレーナーは小さく頷いた。アイクは呆れたように息をはいた。
「……勢いだった。……悪かったな。」
「…………………え?」
状況に着いてきていないトレーナーを無視して、アイクはさっさと部屋に入っていった。残されたトレーナーは惚けた顔をしていた。
“……とりあえず、許してくれた………ってことだよね…?でも……なんで僕なんかに謝ったんだろう……?”
疑問は残ったものの、そこに居続ける訳にもいかないので、トレーナーは部屋に向かって歩き出した。
「あ。」
トレーナーが歩いていると緑を見つけた。
「リンク!」
呼び掛けるとニコニコしながら駆け寄っていく。
「……トレーナー。どうしたの?」
リンクはトレーナーを認めると笑みを浮かべた。理由を問われ、トレーナーは困ったように頭をかいた。
「いや……別に。居たから話しかけただけ。どこ行くの?」
リンクの笑みが苦笑いに変わった。
「どこって……ちょっと説明できないなぁ………。君は?」
「僕は自分の部屋に戻るところ。……帰るんじゃないよね?」
トレーナーは不安そうにリンクを見た。リンクは首を振った。すると、すぐにトレーナーは再び笑みを浮かべた。
「よかった。ところで……僕達、よくここで会うね。」
「え?」
リンクは一瞬ぽかんとした顔をするとキョロキョロ辺りを見回した。
“そっか……大体分かってきた。”
実は、リンクは迷っていたのであった。
「そうだね。ありがとう、トレーナー!」
リンクはそれだけ言うと、歩き去っていった。
「え……?ありがとう………?」
再び取り残されたトレーナーは不思議そうに呟いた。
“……僕、何かいい事したっけ?”
トレーナーが首を傾げていると、声がかかった。
「あぁ、トレーナー。いいところにいたね。」
マルスだった。挨拶程度に手を上げてやってくる。
「リンク、知らないかい?部屋にも戻っていないようなんだけど……。」
「え?あ、さっきまで話してたよ。」
もやもやした気持ちを一先ず置いておき、トレーナーはマルスの問いに応じた。すると、マルスは見るからに落胆していた。
「……入れ違い、か。どっちの方に行ったかな?」
「うーん、確か……。」
トレーナーは少し悩んだがすぐに思い出してみんなの部屋の方を指差した。
「あっちだよ。」
そして、ふと気付いたことがあった。トレーナーはマルスに言ってみる。
「ねぇ、マルスっていつもリンクの事探してない?」
「え?あぁ、確かに……。」
マルスは含み笑いをした。
「僕はリンクに用事が多いようだね。」
そのまま、礼を言うと彼は歩いていった。
トレーナーと別れたリンクはみんなの部屋に来ていた。辺りを見回している。
「あれ……ターマス、ここにいると思ったんだけど……。」
思わず呟いたリンクの声を聞き留めた者がいた。
「あいつならもう帰ったぞ。明日の朝、また来ると言っていたが?」
スネークだ。それを聞いたリンクは
「……そう。ありがとう。」
とだけ言うと、すぐにまた部屋を出ていった。
「……? あいつ、何か用でもあったのか?」
スネークが疑問を口にすると、様子を見ていたフォックスが口を開いた。
「……多分、ターマスぐらいにしか頼れないんだろ。」
そしてフォックスも部屋を後にした。
みんなの部屋を出たリンクは玄関辺りまできていた。
“……参ったな……ターマス以外にオレの部屋、知ってる人って居たっけ……。諦めて野宿でもしようかなぁ………。”
「何か言うことがあるんじゃないのか?」
リンクが物思いに耽っていると、後ろから声がした。
「……フォックス……。」
また気付けなかったと自己嫌悪に陥りながら、リンクは振り返った。
「お前、困ってるんだろ?」
フォックスは回りくどく言うのを止め、直球を投げた。
「困ってなんか……ないよ。」
そういうリンクの声は覇気がない。フォックスはじっとリンクを見つめた。やがて、諦めたリンクがため息をついた。
「……分かったよ。確かに困ってる。けど……君じゃどうしようもないと思う。」
今度はフォックスがため息をついた。
「そんなの分かんないだろ。取り敢えず言ってみろよ。」
「……笑わないでよ?」
フォックスは頷いた。リンクは目を伏せる。
「……自分の部屋……どこか分からない。」
「は?」
笑いはしなかったが、フォックスはそれ以上何も言えなかった。それを説明要求だと受け取ったリンクは経緯を話し出した。
「ターマス、人をワープさせる力を持ってるでしょ?それで、オレ、いきなり部屋にワープさせられたんだ。その後、戻るつもりもなかったから、周りの様子をよくよく見ないでこっちまで来てたから……」
「部屋の場所どころか、まわりに何があったのかも分からない、か。」
驚きから回復したフォックスがまとめると、リンクは頷いた。フォックスは腕を組んで考え出した。
「確かにそれじゃあオレも分からないな……。空いてる部屋、片っ端から見ていくか?部屋の特徴なら覚えているだろ?お前以外の奴の部屋なら知ってるから、だいぶ絞られるが。」
「それはいい案とは言えないね。」
廊下の向こうから誰かが歩いてきた。
「本人がそこにあった物を動かしてない限り、部屋の様子はどこでも同じだよ。」
マルスだった。呆れたようにフォックスが訊いた。
「お前な……いつから聞いてたんだよ?」
「空いてる部屋を見ていく、という辺りからだね。それで、誰が……リンク、君か……。やっと見つけた。」
マルスは少し疲れたようにリンクを見た。リンクは驚いて聞き返す。
「あれ……オレのこと、探してた?」
マルスは頷いた。すると、フォックスが本題に戻す。
「……リンク、だったらどこをお前の部屋にしても同じじゃないのか?」
「そうだけど……一応、あれで決定だし……。」
「なら、どうするんだ?」
リンクは言葉を詰まらせた。すると、隣から救いの手が差し伸べられた。
「僕が君を連れていくよ。丁度、君に用事があった訳だしね。」
「マルス、お前……?」
フォックスはマルスの言葉に含まれたことの真偽を計り切れなかった。すると、マルスは頷いた。
「リンクの部屋なら知っている。僕の部屋の隣だよ。」
すると、フォックスはニヤッと笑った。
「そうか。なら、俺はもう必要ないな。」
そう言うなり、元来た道を戻っていった。
「あ……。」
リンクが引き止めようとした時には、もうフォックスの姿はなかった。
“まだ礼も言ってないんだけど……。”
「じゃあリンク、行こうか。」
マルスはフォックスが行ってしまうのを確認すると歩きだした。
「あ、マルス。オレに用があるって言ってたよね?何だった?」
マルスは歩みを止めた。少し思案していたが、再び歩き出した。
「君の部屋に行ってから話すよ。あまり大きな声で言えないことだからね。」
「……ここ……一番奥じゃないか……ハハ……ホント、情けないね………。」
マルスがリンクを部屋まで連れてくると、リンクはこう呟いた。心なしか長い耳が下がって見える。
「そんなに落ち込まなくても……。ところで、中に入ってもいいかな?」
「ん、あ……そうだね。」
マルスの言葉によって我に返ったリンクは、マルスを中に招き入れた。
「ところで、用って?」
よっぽど気になっていたらしい。中に入るなりリンクは用件を聞いた。マルスはしばらく間を置いてから切り出した。
「リンク、君はこの大会……いや、僕達が集められた本当の目的を知っているようだね。」
リンクはすぐには答えられなかった。訝しそうにマルスを見た。マルスはじっとリンクが何かを言うのを待っている。リンクは黙っているわけにはいかず、取り敢えず正直に答えた。
「……まぁ、ね。ターマスに聞いたの?」
「そうだよ。それで……その内容を教えてはくれないかな。」
マルスの口調はあくまでも疑問だったが、有無を言わせない強さがあった。しかし………
「……ごめん、無理。」
とリンクは答えた。そこでマルスは少し事情を話してみることにした。
「ターマスが君に聞いてくれと言った。だから君に聞いたんだけど……?」
リンクは黙っていた。
“……内容知らないってことは、話すな、ってことだよね……。ターマス、君ってつくづくひどいと思うよ………。”
リンクはため息をついた。リンクにとって、黙っていなければならないのは明白だった。
「……内容知ってるって言っても、詳しくは知らない。」
「知っている部分だけでいい。」
「……………。ターマスも君に話してないようだけど……。」
マルスは言葉を失った。リンクは聞けばすぐに話すだろうと思っていた。が、リンクに話すつもりがないのがはっきりした。しかし、確認せずにはいられなかった。
「ターマスに口止めされているから話せない。そういう事かな?」
リンクは小さく頷いた。だが、マルスは諦めがつかなかった。説得を試みた。
「彼が僕に、君に聞け、と言った時点で君への話す許可はおりた、とは考えられはしないかな?」
それを聞いたリンクは、慎重に言葉を選びながら、ゆっくり言葉を継いだ。
「……確かに、その通りだと思う。けど……オレはそれを聞いていない。……君を疑ってるワケじゃないんだけど……話すな、って言われてるから。……多分……話してもよくなったら、自分で皆に話すんじゃないかな…………。」
マルスは話を聞きながら唸った。
“……なるほど……。だからターマスはリンクに聞け、と言ったのか。あの言い方にはひっかかっていたけれども……確かにリンクは、責任を押し付けるのには丁度いいのかもしれない。”
そして、マルスは明日ターマスを問いつめよう、と心に決めた。
「分かった。……すまなかったね、こんなこと聞いて。」
マルスは部屋を出ていった。リンクはふぅーと息を吐いた。
“……よかった……諦めてくれた……。”
しかし、この話はここで終わった訳ではないのを、リンクはまだ知らない。
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「……ターマス、どうしてゼルダにまで……!」
「それは私ではありません。」
ターマスは短く答えた。リンクは呆れ果ててため息をついた。
「じゃあ、他に誰が?言っておくけど、ゼルダが自発的にやったとは考えられないから。」
側で2人の言い争いを眺めていたマリオは、ピーチに向き直った。ピーチは1人、楽しそうに2人を見ている。それで、マリオは確信した。
「……ピーチ、お前じゃないのか。」
「えぇ、そうよ。」
ピーチは悪いとは全く思っていないようで、さらっと答えた。リンクは驚いてピーチを見た。
「……何やらせてるんだよ………。」
マリオはため息をついた。
「だって、ゼルダったらため息ばっかり。よくよく話を聞いてみれば、リンク!あなたは帰ったかもしれないって言いだすじゃない。私は、あなたはなんて無責任な人なのかしら、と思ったわ。それで、ゼルダにそう言ったら、「そうですね、少なくとも説明は最後まで聞いていくかもしれません。」って答えたのよ。彼女は100%あなたが帰ると思っていたわ。それなら、と思って、私はさっきの事をさせたのよ。あれだけ思われてるあなたなら、あんなことされたら、帰れないでしょ?」
ピーチの言い訳という名のスピーチが終わる頃には、リンクは目を伏せていた。
「…他に方法はなかったのかよ……。」
マリオは頭を抱えていた。
「あなたってかわいいのね。」
ピーチはそう言い残すとスキップでもしそうな雰囲気で部屋を出ていった。マリオはまた ため息をつくとリンクに向き直った。
「あー……リンク?ピーチの言うことは気にするな。あいつは楽しんでるだけだから………。」
リンクは小さく頷くと部屋を出ていった。後を追うようにフォックスも出ていく。
「……あそこまでがんじがらめにされちゃうと、ちょっとかわいそうかな…。」
マルスが呟いた。
「…ピーチがもう少し気のきいた言い方が出来ればいいのだが………。」
「彼女は悪くないよ。」
マルスは意味有りげにターマスを見た。
「……さてと、俺も風呂に入ってこようかな。」
マリオは唐突にそう言うと、周りの反応を待たずに行ってしまった。
“……す、すごく突然行動する人だな………。”
マルスがこっそりとそんなことを思ったのは仕方ないだろう。
マリオが出ていくと、部屋にはマルスとターマスだけが残っていた。すると、ターマスはマルスに向き直った。
「マルスさん、折り入って話があるのですが……。」
「……何かな?」
マルスは少し身構えながらターマスを見た。
「あそこまで言われたリンクが、まだ帰ろうとするとは思いません。しかし……念のため、彼を見張っていただけませんか?夜のうちに………なんてこともあり得ますから。」
それを聞いたマルスは力を抜き、思案した。やがて、おもむろに口を開いた。
「……いいよ。ただし、条件がある。」
ターマスはマルスの目を見つめた。
「………その条件とは?」
マルスは一息ついた。
「この大会の目的……教えてくれないだろうか?」
「それは無理です。」
ターマスは即答した。すると、マルスはクスッと笑った。そして挑戦的な目をターマスに向けた。
「それとも………君のことをみんなに話してしまおうか?」
ターマスは背筋に寒気を感じた。
「私のことを……ですか。一体何を………?」
マルスはこれ以上ないという程の笑みを作ると言った。
「…………主催者さん?」
ターマスは一切の表情を消した。
「何の話でしょうかね。」
「君は、招待状を書いたのは主催者本人だと言った。」
「えぇ。」
まだ言っているのかとターマスは内心呆れていた。それに気付かずにマルスは続けた。
「だけど君はこうも言った。「招待状を書かせていただきました」と。」
この大会が強制だと教えてくれた時だけど、とマルスは付け加えながら、ターマスの様子を伺う。ターマスは相変わらず無表情のまま話を聞いていた。
「それに、極めつけはこれだ。」
マルスは当番の原案が書かれた紙を取り出した。
「手紙と同じ字で」
「もういい。もう十分だ。」
ターマスがマルスを遮って言った。深いため息を吐いたりなんかしている。
「……主催者だと認めるんだね?」
「あぁ、認める。」
ターマスは疲れ切ったようだった。深くソファに寄りかかった。
「それで、目的か正体か、どちらをとる?」
マルスは交渉に踏み込んだ。今度はターマスが考え込んだ。
“……目的はまだ知られたくはない。しかし、正体をバラすにも時期が早すぎる。どうしたものか……… ! この手なら、どうだ?”
ターマスはマルスを伺うように見た。そしてゆっくりと切り出した。
「……私からは話さない。が………リンクに聞くといい。…あいつが話すかどうかは知らんが………。」
マルスはターマスを見つめ返した。
“何か腑に落ちないな………。”
マルスは違和感を感じていた。が、最終的にはそれで手を打つことにした。
「分かった。それでいいよ。」
マルスはそう言うと、部屋を出ていった。
一方、部屋を出たリンクはバルコニーにやってきていた。手すりから身を乗り出して空を見上げた。
“……こんなところ、あったんだ………って、”
リンクは俯くと、ため息を吐いた。
“本当にここ、どこだよ!……ワープさせられてから、位置が全然掴めない……。まぁ、ここも静かだからいいけど……。”
リンクはピーチの言葉を思い返した。
“……なんだかなぁ……。”
リンクは再びため息を吐いた。その時だった。
「お前、結構な苦労人だな。」
突然、リンクの後ろから声がした。リンクが驚いて振り向くと、フォックスが立っていた。
「う、うわっ!フォ、フォックス!?何でこんなところに………。」
「ずっとついてきてたんだよ。……勇者なら気づけよなぁ………。」
リンクはまた、ため息を吐いた。
「……確かに……。今日は……いろいろあって疲れちゃったのかな……。ハハッ……情けないや……。」
フォックスはやれやれと首を振った。
「そこまで言うなよ……。ところで、ゼニガメの件、一番気にしてるのはお前じゃないのか?」
「え?」
突拍子もない話にリンクはすぐについていけなかった。漸く意味を理解すると、少々慌てたように返した。
「そ、そんなまさか!それなら、オレよりトレーナーの心配を」
「している奴は多い。」
フォックスはリンクを遮って言った。リンクが何も言わないうちに続ける。
「だが、オレとしてはお前の方が心配だな。」
「……どうして?」
リンクは本当に不思議そうな顔をしていた。
「お前、あの時割って入ったろ?あの時は感情的になっていたが、本当は穏便にすませたかったんじゃないのか?そして今、もっと上手に丸く治められなかったのかと悩んでいる………。違うか?」
リンクはフォックスから顔を背け、何も返さなかった。しかし、フォックスは気にした様子はなく、そのまま続けた。
「しかも、事の発端は自分だと思ってるだろ。だから他の奴らの中に入っていくことができない………。」
リンクは戸惑いを見せた。
「後、お前集団生活に慣れてないだろ。」
リンクは暫く黙っていた。が、やがて、フォックスに顔を再び向けると言った。
「……まぁ、ね。今までずっと、単独行動してたから……。」
「やっぱりな。だが、お前は筋違いな事を言ってる訳でもないから、そのうち打ち解けられるさ。安心しろ。だから……この大会にお前も参加しろよ。」
リンクは顔を曇らせた。
「……そのつもりだよ。」
フォックスはにやりと笑った。
「まぁ、あれだけいろんな奴に引き留められちゃ、帰るに帰れないか。ついでに聞くが、お前が遅くなったのは、帰る、と言ってこの建物中逃げ回ってたからじゃないのか?」
リンクは苦虫を噛んだような顔をしていた。
「……正解。でも……どうして?」
「お前の言う我が儘ってのは何か考えたらそれに行き当たった。それだけのことさ。」
リンクは肩を落とした。
「……なんかオレ、今日全然いいとこないね……。」
今度はフォックスがため息を吐いた。
「……何でそうなる……。……あ、それで思い出した。リンク、割って入るのも程々にしとけ。」
「……オレの身がもたなくなるから?」
半分やけになりながら、リンクが訊いた。フォックスは頷いた。
「その通りだ。それに、お前、朝早いんだろ?」
「あ、その点は問題ないよ。オレ、3日に一度の仮眠でも過ごせるから。」
フォックスは頭を抱えたくなった。
“それ自体が問題だ……。”
が、なんとか持ち直した。
「……そうか。後……何か困ったことがあったら、1人で抱え込まずに話せよ。」
リンクはただ頷いただけだった。フォックスは内心ため息を吐きながら、戻る、と言って中に入っていった。リンクはバルコニーに来てから何度目かのため息を吐いた。
“……困ったことがあったら話せ……か。でも…さすがに聞けないよ……自分の部屋がどこにあるかなんて………。”
部屋を出たマルスはリンクを探して歩いていた。すると、窓から外を見ている人を見つけた。マルスは迷う事なくその人に歩み寄った。
「アイク!こんなところで何をしているんだい?」
アイクは静かにマルスを振り返った。そして、
「自分はその質問をあいつにしたいが。」
と窓の方を顎で杓る。
「……あいつ?」
マルスは窓を覗いた。そこからはバルコニーが見えていた。
「あぁ、リンクか……。確かにね。だけど……どうして聞かない?」
アイクは暫く黙り込んだ。マルスが辛抱強く待っていると、アイクは一つため息をついて言った。
「……そう容易く聞ける程の仲ではない。」
今度はマルスが黙り込んだ。マルスはアイクの言いたいことを正確に理解していた。暫く考えを巡らせていたが、いい機会だと思い口を開いた。
「その件で言いたい事がある。……アイク、君はもう少し大人になるべきだよ。」
アイクはマルスをまじまじと見つめた。
「……何が言いたい?」
「君は濡れた事に関して怒り過ぎだ。それに……それをトレーナーやリンクに当たっても何の意味もない。」
「何故だ?……確かにリンクは関係なかったが、トレーナーは」
「彼はトレーナーとしての責任を果たしている。彼はゼニガメの代わりにきちんと謝った。……彼にできたのはそれぐらいだったと僕は思うね。それと……あれから彼はずっとおどおどしている。気づいていたかな?」
アイクは再び黙り込んだ。じっと遠くを見つめている。やがて、小さく頷いた。
「………一応な。だがそれは……そうだな、確かに自分のせいだろう。」
マルスはホッと息を吐いた。
「分かってはいるみたいだね。」
「……理解力がない訳ではない。」
そう言い捨てると、アイクはどこかへ行ってしまった。それを見送ったマルスは再び窓を覗いた。
「さてと。僕はリンクに用が……って、あれ?」
リンクはバルコニーを去った後だった。
“……長く話しすぎたな。”
マルスはリンクの部屋に向かうことにした。
そのころ、トレーナーはアイクの部屋の前にいた。浮かない顔をしていたが、意を決すると扉を叩いた。しかし、やはりその音は弱々しかった。アイクは出てこない。
“……いない……のかな……。ここだったよね……アイクさんの部屋………。”
トレーナーはため息を吐いた。
“……早く会わないと、言えなくなっちゃうよ……。”
そこへタイミングがいいのか悪いのか、アイクがやってきた。
「……こんなところで何をしている?」
発せられた声は不機嫌そうだった。
「え、えっと……その……あの……。」
トレーナーのなけなしの勇気は引っ込んでしまった。トレーナーを一瞥して、アイクは扉に手をかけた。
「あ、ちょ、ちょっと待って下さい!」
部屋に入ってしまうと思ったトレーナーは、思いがけず強い調子でアイクを引き止めた。仕方なくアイクは振り向く。
「………何だ。」
「あ、あの…………………すみませんでした!」
トレーナーは深く、しかも勢いよく頭を下げた。アイクは驚いて数歩下がる。呆気にとられて言葉を失っていたが、やがて額に手をやるとため息を吐いた。
「…………顔を上げろ。」
トレーナーはアイクを伺いながらゆっくりと頭を上げた。
「……そこまで怒っていない。……もう気にするな。」
「………え?」
トレーナーは狐につままれたような顔をした。
「……もう、怒ってない。」
アイクは繰り返した。すると、トレーナーは困ったように俯いた。暫く口をパクパクさせていたが、恐る恐る言った。
「……な、殴らないの……?」
トレーナーは怯えた眼をしていた。
「は?」
対してアイクは、あまりに予想外の問いを処理しきれていなかった。トレーナーはぽつりぽつりと言葉を足していく。
「……だって、あの時……皆で話し合ってた時、殴りたいって……あなたが……。」
アイクは難しい問題を解いている気分だった。が、思い当たる節があったらしい。アイクはトレーナーに目を向けた。
「……お前は、それをずっとひきずっていたのか?」
トレーナーは小さく頷いた。アイクは呆れたように息をはいた。
「……勢いだった。……悪かったな。」
「…………………え?」
状況に着いてきていないトレーナーを無視して、アイクはさっさと部屋に入っていった。残されたトレーナーは惚けた顔をしていた。
“……とりあえず、許してくれた………ってことだよね…?でも……なんで僕なんかに謝ったんだろう……?”
疑問は残ったものの、そこに居続ける訳にもいかないので、トレーナーは部屋に向かって歩き出した。
「あ。」
トレーナーが歩いていると緑を見つけた。
「リンク!」
呼び掛けるとニコニコしながら駆け寄っていく。
「……トレーナー。どうしたの?」
リンクはトレーナーを認めると笑みを浮かべた。理由を問われ、トレーナーは困ったように頭をかいた。
「いや……別に。居たから話しかけただけ。どこ行くの?」
リンクの笑みが苦笑いに変わった。
「どこって……ちょっと説明できないなぁ………。君は?」
「僕は自分の部屋に戻るところ。……帰るんじゃないよね?」
トレーナーは不安そうにリンクを見た。リンクは首を振った。すると、すぐにトレーナーは再び笑みを浮かべた。
「よかった。ところで……僕達、よくここで会うね。」
「え?」
リンクは一瞬ぽかんとした顔をするとキョロキョロ辺りを見回した。
“そっか……大体分かってきた。”
実は、リンクは迷っていたのであった。
「そうだね。ありがとう、トレーナー!」
リンクはそれだけ言うと、歩き去っていった。
「え……?ありがとう………?」
再び取り残されたトレーナーは不思議そうに呟いた。
“……僕、何かいい事したっけ?”
トレーナーが首を傾げていると、声がかかった。
「あぁ、トレーナー。いいところにいたね。」
マルスだった。挨拶程度に手を上げてやってくる。
「リンク、知らないかい?部屋にも戻っていないようなんだけど……。」
「え?あ、さっきまで話してたよ。」
もやもやした気持ちを一先ず置いておき、トレーナーはマルスの問いに応じた。すると、マルスは見るからに落胆していた。
「……入れ違い、か。どっちの方に行ったかな?」
「うーん、確か……。」
トレーナーは少し悩んだがすぐに思い出してみんなの部屋の方を指差した。
「あっちだよ。」
そして、ふと気付いたことがあった。トレーナーはマルスに言ってみる。
「ねぇ、マルスっていつもリンクの事探してない?」
「え?あぁ、確かに……。」
マルスは含み笑いをした。
「僕はリンクに用事が多いようだね。」
そのまま、礼を言うと彼は歩いていった。
トレーナーと別れたリンクはみんなの部屋に来ていた。辺りを見回している。
「あれ……ターマス、ここにいると思ったんだけど……。」
思わず呟いたリンクの声を聞き留めた者がいた。
「あいつならもう帰ったぞ。明日の朝、また来ると言っていたが?」
スネークだ。それを聞いたリンクは
「……そう。ありがとう。」
とだけ言うと、すぐにまた部屋を出ていった。
「……? あいつ、何か用でもあったのか?」
スネークが疑問を口にすると、様子を見ていたフォックスが口を開いた。
「……多分、ターマスぐらいにしか頼れないんだろ。」
そしてフォックスも部屋を後にした。
みんなの部屋を出たリンクは玄関辺りまできていた。
“……参ったな……ターマス以外にオレの部屋、知ってる人って居たっけ……。諦めて野宿でもしようかなぁ………。”
「何か言うことがあるんじゃないのか?」
リンクが物思いに耽っていると、後ろから声がした。
「……フォックス……。」
また気付けなかったと自己嫌悪に陥りながら、リンクは振り返った。
「お前、困ってるんだろ?」
フォックスは回りくどく言うのを止め、直球を投げた。
「困ってなんか……ないよ。」
そういうリンクの声は覇気がない。フォックスはじっとリンクを見つめた。やがて、諦めたリンクがため息をついた。
「……分かったよ。確かに困ってる。けど……君じゃどうしようもないと思う。」
今度はフォックスがため息をついた。
「そんなの分かんないだろ。取り敢えず言ってみろよ。」
「……笑わないでよ?」
フォックスは頷いた。リンクは目を伏せる。
「……自分の部屋……どこか分からない。」
「は?」
笑いはしなかったが、フォックスはそれ以上何も言えなかった。それを説明要求だと受け取ったリンクは経緯を話し出した。
「ターマス、人をワープさせる力を持ってるでしょ?それで、オレ、いきなり部屋にワープさせられたんだ。その後、戻るつもりもなかったから、周りの様子をよくよく見ないでこっちまで来てたから……」
「部屋の場所どころか、まわりに何があったのかも分からない、か。」
驚きから回復したフォックスがまとめると、リンクは頷いた。フォックスは腕を組んで考え出した。
「確かにそれじゃあオレも分からないな……。空いてる部屋、片っ端から見ていくか?部屋の特徴なら覚えているだろ?お前以外の奴の部屋なら知ってるから、だいぶ絞られるが。」
「それはいい案とは言えないね。」
廊下の向こうから誰かが歩いてきた。
「本人がそこにあった物を動かしてない限り、部屋の様子はどこでも同じだよ。」
マルスだった。呆れたようにフォックスが訊いた。
「お前な……いつから聞いてたんだよ?」
「空いてる部屋を見ていく、という辺りからだね。それで、誰が……リンク、君か……。やっと見つけた。」
マルスは少し疲れたようにリンクを見た。リンクは驚いて聞き返す。
「あれ……オレのこと、探してた?」
マルスは頷いた。すると、フォックスが本題に戻す。
「……リンク、だったらどこをお前の部屋にしても同じじゃないのか?」
「そうだけど……一応、あれで決定だし……。」
「なら、どうするんだ?」
リンクは言葉を詰まらせた。すると、隣から救いの手が差し伸べられた。
「僕が君を連れていくよ。丁度、君に用事があった訳だしね。」
「マルス、お前……?」
フォックスはマルスの言葉に含まれたことの真偽を計り切れなかった。すると、マルスは頷いた。
「リンクの部屋なら知っている。僕の部屋の隣だよ。」
すると、フォックスはニヤッと笑った。
「そうか。なら、俺はもう必要ないな。」
そう言うなり、元来た道を戻っていった。
「あ……。」
リンクが引き止めようとした時には、もうフォックスの姿はなかった。
“まだ礼も言ってないんだけど……。”
「じゃあリンク、行こうか。」
マルスはフォックスが行ってしまうのを確認すると歩きだした。
「あ、マルス。オレに用があるって言ってたよね?何だった?」
マルスは歩みを止めた。少し思案していたが、再び歩き出した。
「君の部屋に行ってから話すよ。あまり大きな声で言えないことだからね。」
「……ここ……一番奥じゃないか……ハハ……ホント、情けないね………。」
マルスがリンクを部屋まで連れてくると、リンクはこう呟いた。心なしか長い耳が下がって見える。
「そんなに落ち込まなくても……。ところで、中に入ってもいいかな?」
「ん、あ……そうだね。」
マルスの言葉によって我に返ったリンクは、マルスを中に招き入れた。
「ところで、用って?」
よっぽど気になっていたらしい。中に入るなりリンクは用件を聞いた。マルスはしばらく間を置いてから切り出した。
「リンク、君はこの大会……いや、僕達が集められた本当の目的を知っているようだね。」
リンクはすぐには答えられなかった。訝しそうにマルスを見た。マルスはじっとリンクが何かを言うのを待っている。リンクは黙っているわけにはいかず、取り敢えず正直に答えた。
「……まぁ、ね。ターマスに聞いたの?」
「そうだよ。それで……その内容を教えてはくれないかな。」
マルスの口調はあくまでも疑問だったが、有無を言わせない強さがあった。しかし………
「……ごめん、無理。」
とリンクは答えた。そこでマルスは少し事情を話してみることにした。
「ターマスが君に聞いてくれと言った。だから君に聞いたんだけど……?」
リンクは黙っていた。
“……内容知らないってことは、話すな、ってことだよね……。ターマス、君ってつくづくひどいと思うよ………。”
リンクはため息をついた。リンクにとって、黙っていなければならないのは明白だった。
「……内容知ってるって言っても、詳しくは知らない。」
「知っている部分だけでいい。」
「……………。ターマスも君に話してないようだけど……。」
マルスは言葉を失った。リンクは聞けばすぐに話すだろうと思っていた。が、リンクに話すつもりがないのがはっきりした。しかし、確認せずにはいられなかった。
「ターマスに口止めされているから話せない。そういう事かな?」
リンクは小さく頷いた。だが、マルスは諦めがつかなかった。説得を試みた。
「彼が僕に、君に聞け、と言った時点で君への話す許可はおりた、とは考えられはしないかな?」
それを聞いたリンクは、慎重に言葉を選びながら、ゆっくり言葉を継いだ。
「……確かに、その通りだと思う。けど……オレはそれを聞いていない。……君を疑ってるワケじゃないんだけど……話すな、って言われてるから。……多分……話してもよくなったら、自分で皆に話すんじゃないかな…………。」
マルスは話を聞きながら唸った。
“……なるほど……。だからターマスはリンクに聞け、と言ったのか。あの言い方にはひっかかっていたけれども……確かにリンクは、責任を押し付けるのには丁度いいのかもしれない。”
そして、マルスは明日ターマスを問いつめよう、と心に決めた。
「分かった。……すまなかったね、こんなこと聞いて。」
マルスは部屋を出ていった。リンクはふぅーと息を吐いた。
“……よかった……諦めてくれた……。”
しかし、この話はここで終わった訳ではないのを、リンクはまだ知らない。
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