記念・リクエスト

心の底で思うこと

「レッドはさ、いつも一緒にいてくれる存在がいていいね。」

「え?」

それは日も傾きかけた夕刻のことだった。僕、レッドとリンクは森でのんびりしていた。そろそろ帰ろうかというときに、突然リンクはあんな発言をした。唐突なことに驚いて、僕の思考は一瞬止まる。しかしすぐに、一緒にいてくれる存在がポケモン達を指すことに気が付いた。

「まぁ……うん、ゼニガメ達には感謝しているよ。」

が、如何せんリンクの意図が読み取れない。それを悟ったらしいリンクは、苦笑して言った。

「いや、ごめん。急にこんなこと言われてびっくりするよね。……オレにもいたんだ、相棒と呼べる存在が。」

そしてリンクは悲しそうな顔をした。僕はおや、と思った。

「いた?」

リンクは過去形で言った。今はいないということなのだろうか。

「うん。でも、もういない。今から考えるとあんまり長い期間じゃなかった……。ハイラルを救うのにかかった時間だけだった。そのうちの一人が、黄昏時が好きでさ。ちょっと思い出しちゃったんだ。」

僕はリンクに身を寄せた。要するに、リンクは今、寂しいんだ。

「リンク、またいつか、その人たちにも会えるよ。」

リンクは困ったように笑った。そして言う。

「……うん、そうだね。」

“……もう、会えない存在なんだけどな。”

リンクのその様子を見て、僕は信じてもらえていないことが分かった。手法を変えてみることにする。

「寂しいんだよねリンク。でもさ、ここにはたくさんの仲間がいるよ。僕はリンクとずっといるし、フォックスやマルス達だって、みんなリンクをほっとかない。でしょ?」

再び、リンクは曖昧に笑った。これも効果がないか…とレッドは落胆する。辺りはだんだんと暗くなりつつあった。

「何か問題があるの?」

リンクは表情を消した。言おうか言わまいか迷っているのがうかがえる。

「ねぇ、言ってくれないと分からないよ。」

僕はしびれを切らしてリンクに言った。それでリンクも言う決心がついたようだった。

「……君達とも、いつまで一緒にいられるのか分からない。もう君達は……オレにとって、かけがえのない存在になっているから……別れるのが相当辛いものになっているはず。だから……別れるのが怖い。」

僕は口ごもった。今まで完全に忘れていた。出会いの数だけ別れがある。この大会が終わってしまったら、みんなと……リンクと、別れなければならないのだ。それはリンクの言うようにとても耐えがたいものだろう。でも、と僕は思う。そんなことを考えてたら、出会うこともできなくなる。ここでへこたれていてはダメなのだ。それをどうやってリンクに伝えよう?

「レッド?」

呼ばれてリンクを見ると、完全に困った顔をしていた。

「ごめん、そんなに難しく考えることじゃないんだ。ただの戯言だと思って忘れて。」

いつの間にか険しい顔をしていたらしい。だけど、これはスルーできる問題じゃない。

「忘れられない。むしろ忘れない。リンクがそんな不安を持ってたなんて、全然気づかなかった。」

リンクは目を伏せた。

「いつも思っているわけじゃないよ。ただ今日はちょっと思い出しちゃっただけ。」

ほら、また嘘でごまかそうとする。一度捕まえた尻尾は放さないよ。

「別れるのって確かに嫌だよね。寂しくなるのも当然。じゃあどうしたらいいのかな、僕達。」

リンクは明らかに嫌そうな顔をした。あんまり考えたくない問題らしい。が、僕は黙ってリンクの答えを待った。

「……耐えるしか、ないんじゃない?」

観念したようにリンクは答える。そう、リンクはずっとそうやって生きてきたんだね。

「それもひとつの方法。辛かったよね、リンク。」

リンクはポカンとした顔をした。

「他にも方法があるの?」

「あるんじゃないかな。可能性って無限だと思うな。」

リンクの表情がわずかに明るくあった……気がする。リンクは真剣に考え始めた。やがて、リンクはレッドを見た。

「分からないよ。レッドはどうやって耐える?」

リンクは困惑した表情に戻っていた。辺りは真っ暗になっていた。

「僕は次の出会いを楽しみにするな。別れた人との思い出はもちろん大事にして、でもそこにとどまらずに次に進む。僕と別れた人は進む道が違った、だから仕方ないと思う。」

僕なりの答をリンクに示した。本当は自分で見つけるべき答で、ちょっと言い過ぎたかもしれないけど……。リンクは僕の答を吟味しているようだった。

「進む道が違った、か……。確かにそうだよね。でも、寂しさには変わりがない。」

尚も困った顔をするリンク。僕はある提案をしてみることにした。

「じゃあリンク。もしこの先寂しいと思うことがあったら、僕を思い出してよ。僕は心の中でリンクとつながっている。それがいつどんな時だって。ね?」

一瞬あっけにとられたリンクだったが、クスクスと笑いだした。

「レッドは優しいね。今度やってみるよ。」

「うん、やってみて。」

僕はリンクに笑いかけた。ふと空を見ると、あまたの星がキラキラと輝いていた。



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