イを為す牛である勿れ

1分と経たないうちに、フォックスは手を止めた。画面を食い入るように見ながら、唸っている。

「まずいぞ。この建物中に爆弾が仕掛けられている。全て時限装置がついていて、残り時間はここに映されている時間だ。」

フォックスは画面の時間を顎でしゃくった。丁度、10分をきったところだった。マルスやロイは息をのんだ。トレーナーは呆然としている。

「解除できないの?」

リンクがそわそわして聞いた。フォックスは首を振った。

「試したが、ここからじゃ無理だ。爆弾1つ1つ解除するにしても、時間が足りない。」

「じゃあ、早く脱出しないと。行こう。」

状況を整理したマルスは、そう言うと、部屋を出ていった。ロイも、未だ頭が働いていないトレーナーを引っ張って、後を追っていく。フォックスも出口に急いだ。

「リンク!」

部屋を出る間際、ふと振り返ったフォックスは、慌てて叫んだ。リンクは依然としてパソコンの前にいた。唇を噛みしめながら、考え込んでいる。呼ばれて、リンクはフォックスに目を向けた。

「フォックス。悪いけど、先に、」

「リンク、無理だ、諦めろ。気持ちは分かるが。」

フォックスはリンクに最後まで言わせなかった。

「だけど……っ!!」

リンクの苦悩が分かっているフォックスは、心配の種を減らすため、口を開いた。

「幸い、この工場は街からはずれた場所にある。街に被害はない。それに、お前を探すために、全ての部屋を見たが、ここには魔物しかいなかった。」

「っ!じゃあ!」

フォックスは頷いた。

「爆弾を放置しても、建物が崩壊するだけだ。」

「そっか、よかった……。」

「無事に脱出してから言え。行くぞ!」

フォックスも部屋を後にした。リンクはモニターを振り返った。意を決すると、リンクも後を追った。タイマーは7分を切っていた。





フォックスとリンクが、マルス、ロイ、トレーナーに追いついたのは、工場の中間地点辺りだった。そこまでは何事もなく走っていたフォックスとリンクだったが、追いつくと、マルスとロイは魔物を蹴散らしていた。

「何してたんだよ!ここまで、俺とマルスで片づけたんだぞ、これ!」

ロイが怒鳴った。口を動かしている間も魔物を斬り捨てている。

「ご、ごめん!」

リンクは言いながら、まだ放心しているトレーナーに襲い掛かろうとした魔物を倒した。ロイ同様に敵を斬り捨てながら、マルスはチラリとリンクを見た。何故遅かったのか、大体見当がついているマルスだったが、そのことには触れないことにした。

「残り時間は何分だった?」

「オレが最後に見たときは7分だった!」

回転切りで魔物を一掃して、リンクは答えた。

「行軍していた時にあらかた倒したと思っていたが……次々と湧いてくるな。」

フォックスは嫌そうにブラスターで攻撃する。

「これでもまだましな方だよ。部屋を出たら、魔物で溢れかえっていたんだから。」

「俺とマルスに感謝しろよなっ!!」

マルスが説明すると、ロイは不機嫌そうに言った。それからは無言で、呆けているトレーナーを引っ張りつつ、魔物をなぎ倒しながら出口を目指した。残り時間もなくなりつつあるため、魔物を無視して走り抜けたいところだったが、魔物共がそれを許すはずもなく、全滅させざるを得なかった。そうして、ようやく出口までたどり着いた。

「なっ!?扉が閉まっている!?」

ロイは叫ぶと、いつの間にか閉じられた扉に走り寄った。

「手動じゃ開かねぇ!」

シャッター式だったその扉を開けようと試みたが、扉は非常に重かった。ロイはしばらく持ち上げようと必死になったが、力ずくでは開きそうにない。フォックスも操作パネルを見つけ、パネルの蓋を開いたが、すぐに首を振った。

「ダメだ、壊されている。」

しかし、そう言いながらも、フォックスはなんとか作動しないかとパネルをいじり始めた。

「まさかこうくるとは……。」


マルスは何か策はないか考え込んだ。リンクは他に出口はないのかと辺りを見渡した。しかし、窓一つ見当たらない。走ってきた道を思い返してみても、頑丈そうな壁が続いていたばかりで、窓などがあった記憶はなかった。

「戻るか?他にも出入口があるかもしれねぇ。」

リンクが回想していると、同じようなことを思いついたロイが言った。言っている最中も、扉を押したり叩いたり、アクションは起こしている。

「リンクを探している時に扉は全て確認したよね。外に続く扉はなかった。」

マルスが難しい顔をしながら言った。そして、フォックスの方を見る。

「フォックス、操作できそうかな?」

「ちょっと待て。」

聞かれたフォックスは忙しなく何かをしている。どうやら話す余裕はないようだ。パネルはフォックスによって、ほとんど解体させられていた。しばらくして、

「あぁ。」

とフォックスは呻いた。

「やっぱり無理だ。本から切られている。」

そんなフォックスを横目に見、マルスは扉に目を向けた。

「こうなったら破壊するしかないか……。」

「さっきから試しているが、ビクともしねぇ!周りの壁は、更に頑丈みたいだし!」

マルスの言葉にロイが喚いた。マルスは、それでも解決の糸口を探そうと、口を開く。

「フォックス、何か持っていないかな?」

フォックスは持ち物を確認した。

「スマートボムでもあればな……。…………待てよ。おい、リンク。お前、爆弾持っていなかったか?」

「持っているケド……。」

リンクは力なく言った。そして、扉に目を向ける。

「ヒビも入ってないから、壊せるか自信ないな……。でも、試すだけ、試してみるよ。」

ロイは扉から離れた。リンクはそれを確認して、扉に爆弾を投げつけた。バン!と爆発したが、扉は壊れるどころか、傷もついていなかった。

「もしかして、打つ手なしか……!?」

ロイが呆然として言った。4人が必死で脱出する方法を探す様子を、トレーナーはぼんやりと見つめていた。だが、この段になって、やっと衝撃から回復し、自分を取り戻した。今が外に出られない緊急事態だということを理解し、扉に走りよった。そして、扉を軽く叩く。4人は、突然動き出したトレーナーを驚いて見ていた。

「これなら、いける……!」

トレーナーはつぶやくと、振り返った。

「僕に任せて!扉から一度離れて!」

自身も扉から離れながら、トレーナーは叫んだ。4人はトレーナーに従った。何をするのかとトレーナーを見守る。トレーナーは、距離を保ったまま、扉の正面に立った。そして、ゼニガメ、フシギソウ、リザードンをボールから出した。

「あの扉を破壊するよっ!!ゼニガメ、フシギソウ、リザードン!さんみいったい!!」

ポケモン3匹は技を繰り出した。バーン!!大きな音とともに、土煙が巻き上がる。それがおさまって扉を確認すると、見事に穴が開いていた。

「さぁ、行こう!」

5人は外に出た。外に出て、建物から離れた時、バンバンバンと大きな音がし始めた。爆発が始まったのだ。リンクは思わず足を止め、建物を振り返る。

「足を止めるな!まだここでは十分な距離じゃない!破片がとんでくるかもしれないぞ!」

それに気付いたフォックスが喝を入れた。リンクは後ろ髪を引かれる思いで、フォックスに続いた。





安全な場所まで避難した5人は、ホッと息をついた。もう崩壊の音はしていない。建物の方を見ると、工場は跡形もなくなくなっていた。

「みんな、怪我はないかい?」

マルスが聞くと、ロイ、フォックス、リンクは口々に大丈夫だと答えた。

「トレーナーも大丈夫?気分はどう?」

マルスは、走り疲れてしゃがみこんでいるトレーナーを覗き込んだ。トレーナーは弱々しく笑った。

「大丈夫、だよ。」

「本当に?さっきは時間がなかったから気にかけてあげられなかったけど、精神的にもかなりダメージがないかな?」

トレーナーは首を振った。

「大丈夫。さっきはごめんね。僕、爆弾とか縁がなかったから、驚いちゃって。」

「それならいいけどね。」

そう言ったものの、マルスはまだ心配そうにトレーナーを見ていた。トレーナーはマルスに任せれば大丈夫だし、ロイとフォックスは問題なさそうだ、と思ったリンクは、再び工場跡に目を向けた。

「巻き込まれた人がいないといいけど……。」

リンクは不安そうだった。

「いやいや、あんな場所にあるんだぜ?問題ねぇって。」

呆れたようにロイが言った。気が抜けたようで、座り込んでいる。

「それにしても、よく分からない事件だったな。」

フォックスが腕を組みながら言うと、マルスが頷いた。

「黒幕に会えなかったからね。目的が分からないと、これからの対応に困る。」

「これからの対応?続くのか?こんなこと?」

ロイが不審そうに聞いた。

「それすら分からないのが、問題なんだよ。」

マルスが顔を顰めて言った。リンクはチラリとマルスを見た。そして、

「続くよ。」

と断言した。残りの人は、驚いてリンクを見た。

「どうしてそんなことが分かるんだい?もしかして、僕達と会う前に何か掴んでいたのかな?」

マルスが聞くと、リンクは目を瞑った。そのまま答える。

「……。いや、調べられたことは何もなかったよ。ただ……黒幕を倒せなかったから。あいつらは、これで終わらない。」

「そうか……。リンクの敵のことだもんな。お前が一番よく知ってるはずだ。」

ロイが納得する隣で、マルスは疑いの眼差しをリンクに向けた。

“この言い方は、何か掴んだんだ。何故言わない?それに……何故、「あいつら」なんだ?”

だがマルスは、今は追及するべきではないと判断し、疑問は心の中にしまった。

「さぁ、帰ろうか。」

マルスの一言で、マルス、ロイ、トレーナーが歩き出した。リンクはやはり未練がましく工場跡を見やる。フォックスはリンクの肩をポンポンと叩いた。リンクはフォックスに目を向けた。フォックスは静かに首を振ると、帰るぞ、というように会場の方を頭で示した。リンクはもう一度工場跡に顔を向けたが、フォックスに視線を戻した。そして頷く。2人もマルス達に続いた。こうして、リンクのニセモノ事件は幕を閉じた。



→あとがき
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