イを為す牛である勿れ

言われた工場跡に着き、中に入った。そこは魔物だらけだった。魔物を倒しつつ、奥へ進む。そして、ある部屋にたどり着いた。

「ここ…牢屋、だよね?」

トレーナーがキョロキョロと周りを伺いながら言った。その部屋は鉄格子で区切られた部屋だった。捕まったのならここにいるはずだ、と思い至ったトレーナーは、1つ1つの区画を順に見ていく。だが、実は全ての区画が入口から見えていたのだが、どう見ても、どの区画にもリンクは見当たらなかった。しょんぼりして、トレーナーは3人のもとに戻ってきた。

「捕まっているとしたら、こういう部屋だと思ってたんだが……。マルス、どう思う?」

ロイが聞くと、難しい顔をしたマルスは言った。

「まず考えられるのは、捕まっている部屋はここではない。または、ダークリンクが嘘を言った。」

「妥当な考えだな。罠の可能性を考えていなかった。」

フォックスが言った。フォックスの顔は、非常に暗かった。

「……なんか、それだけじゃなさそうだな?」

フォックスの顔を伺いながら、ロイは言った。だが、フォックスは何も答えない。仕方なく、ロイはマルスに目を向けた。

「大体、まず、って?」

「黒幕はガノンドロフだとみていいのなら……リンクは、もしかすると……。」

マルスは言いよどんだ。

「何?」

トレーナーが答を急かした。

「薬を飲まされて、操り人形の可能性がある。」

答えたのはマルスではなく、フォックスだった。

「なっ……!?なんでそんな、ありえないだろっ!!」

ロイが叫んだ。トレーナーはすぐに反応できなかったが、やがてハッとした顔をした。

「もしかして……!あの時の?」

フォックスは頷いた。へなへなとトレーナーは座り込む。

「そんな……。だったら、リンクは、また、すごく傷ついて……!?」

マルスはトレーナーの肩に手を置いた。

「トレーナー。まだ気落ちするのは早いよ。可能性の話であって、本当にそうかは分からない。」

「とにかく、リンクを探そう。見つけられれば、全部解決する。」

フォックスの言葉に3人は力強く頷いた。



部屋を見つけるごとに中を確認したが、リンクは見つからなかった。一番奥まで来て、扉を発見した。もう他に部屋はない。黙ってマルスが扉を開けた。最後に見つけた部屋は暗かった。パソコンが置かれているらしく、そのモニターの明かりでかろうじて先が見える程度だ。4人はアイコンタクトを取ると、無言で中に侵入する。中央あたりまで来た時、フォックスが耳をピンと立てた。何かが動く気配を感じ、フォックスは上に目を向ける。目を凝らすと、何かが落ちてきていた。

「気をつけろ!上から何か来る!!」

「フォックス!?」

慌てたようなその声は、残りの3人のものではなかった。ハッとした4人は声のした方―落ちてきているもの―に目を向ける。フォックスが見たときは、先頭を歩くマルスに真っ直ぐ向かってきていたのだが、落ちた場所はマルスから逸れていた。カン、と鉄が地面に当たる音がした。落ちてきたものは、人間だった。上手く着地したようで、何事もなかったように立ち上がった。その人をよく見ると、それは、

「リンク!!」

探し人だった。リンクは剣を持っていたようで、剣を柄に戻していた。トレーナーは嬉しそうにリンクに飛びついた。リンクは驚きを露にしたものの、トレーナーを受け止めた。

「トレーナー。どうしたの?フォックスと……あと2人いる?じゃ、なくて!大丈夫だった!?ごめん、敵だと思って……。」

リンクはトレーナーをやんわりと離れさせながら、申し訳なさそうに言った。

「君が軌道修正したおかげで、無傷だよ。君も無事のようで、よかった。」

マルスがにっこり笑いながら言った。そして、ロイに目を向ける。

「君の言う通りだったね、ロイ。」

「え、何が?」

ロイはマルスの意図を読めずに疑問符を付けていた。

「え、ロイも来てるの!?ロイ、頼まれてた買い物、持って行けなくてごめん!!夕食、どうなった?」

ロイがいると分かった途端、リンクが矢継ぎ早に言った。

「あ、それならなんとかなったから、大丈夫、気にするな。」

あまりに必死に言うリンクを見て、ロイは憤りも忘れた。

「本当にごめん。次の当番の時は手伝うね。」

尚も申し訳なさそうにリンクは続けた。ロイは慌てて手を振る。

「そこまでしなくていいって!もともと、俺が買い忘れたのが悪いんだし!」

“フォックスとトレーナーが正解だった!!”

ロイは、美化とか言ってごめんなさい、と心の中で謝った。

「そういえば、どうしてここに?」

「実はね―」

マルスはダークリンクのことを話した。

「俺と入れ替わってた……そんなことが……。」

リンクは驚いていた。

「入れ替わりについては大した問題じゃなかったから気にしないでね。それで、リンクが捕まったって聞いたから、助けに来たんだ。」

トレーナーが締めくくった。

「そっか。ありがとう。それにしても……思ってたより時間が経っている……。朝食も、多分なかったよね?ごめん。」

ソニックになんて言おう、とリンクは頭を抱えた。フォックスはため息を吐く。

「お前な……。事情が事情だから、気にするな。それで、リンクの方は何があったんだ?」

「え?あー……。」

罪悪感から立ち直れないまま、リンクは回想した。更に気を落とす。

「罠にひっかかっちゃって……。気付いたら、この建物にいたんだ。」

マルスは呆れたように首を振った。

「その罠の内容を聞きたいな。」

「……………。情けなさ過ぎて、」

「いいから。」

マルスは言い逃れをしようとするリンクを遮り、先を促した。

「……ホント、単純な罠だよ。トラックの中に猫が入りこんでしまったから助けて欲しいと頼まれて、トラックに入ったら、閉じ込められちゃった。」

ようやくリンクは説明した。ため息を吐き、自分の失態を責めている様子だ。

「大丈夫だったの?その後、何もされてない?」

トレーナーが心配そうにリンクを覗き込んだ。

「その後のことは覚えていないんだ。多分、トラックの中には睡眠ガスか何か仕掛けてあったんだと思う。目が覚めたときにはここの牢屋だった。でも、異変は感じないし、何も変なことはされてないと思うよ。」

リンクはトレーナーを安心させようと、微笑みかけた。

「でもよかったな。最悪の可能性はなかったわけだ。」

ロイが明るい声で言った。

「最悪の可能性?」

リンクが不思議そうに問う。

「こいつら、お前が操り人形にされてんじゃないかって言いだしてたんだ。」

「……ロイ、君ね……。」

お気楽そうに言うロイに、マルスは無神経だと呆れていた。やはり、リンクの表情が曇った。

「操り人形……。そっか、ダークリンクがいたんだもんね。あいつがいてもおかしくない……。」

そこではじめて、ロイは自分の失言に気付いた。

「あ、でも、大丈夫だったんだからさ、そんなに気に病むなよ。」

ロイは取り繕うように言った。マルスとフォックスは批難の目をロイに向けた。

「ねぇ、この後どうするの?」

トレーナーが聞いた。残りの4人は顔を見合わせた。

「帰るか。リンクも無事だったんだし。」

ロイが言った。しかし、リンクは申し訳なさそうに口を開いた。

「あの、来てもらって悪いんだけど……。先に帰ってもらってもいいかな?」

マルスはじっと真剣な顔でリンクを見つめた。

「何か用事でもあるのかい?」

リンクは頷いた。

「ガノンドロフがいるなら、対処していきたいんだ。」

「あのお方ならいないぜ?」

突然、第三者の声がした。リンクはビクリとすると、顔を引き締めて声の方を見た。フォックス、マルス、ロイも身構えつつ声がした方を確認する。唯一犯人が把握できなかったトレーナーも、敵だということは理解し、モンスターボールに手をかけた。
パチン!辺りがいきなり明るくなった。

「マジで来たんだぁ?ホント、お人好しだなぁ!!」

5人の視線の先には、ダークリンクが立っていた。ケラケラと笑っている。

「ダークリンク!」

リンクはダークリンクを睨みつけていた。

「お前……!!オレと入れ替わって、みんなに何かしてないだろうなっ!?何かしてたら、」

「してたらどーすんの?リーンク君ー?」

リンクを遮り、ダークリンクはリンクを挑発した。リンクは剣を引き抜いた。

「ただじゃ済まさないっ!!」

リンクはダークリンクに襲い掛かった。ダークリンクも応戦する。剣と剣、または剣と盾のこすれる音がひっきりなしに響く。

「わざわざオレと入れ替わって、何がしたかった!?」

剣を振り下ろしながら、リンクは聞いた。ダークリンクはそれをひらりと避け、反撃して言い返した。

「しつけぇ!そいつらに聞かなかったのか?目的なんざ知らねぇんだよ!」

リンクはダークリンクの攻撃を剣で弾き返す。

「知らずに実行していたって?無理がある!!」

ダークリンクは弾かれた反動で怯んだ。その隙を逃さず、リンクは一撃をお見舞いする。

「くっ……!」

ダークリンクはバックステップで一度リンクから距離をとった。間合いを詰めようとするリンクに、ジャンプ斬りを繰り出す。それをリンクは横っ飛びして避けた。再び剣の斬り合いを始める。シャキン!と剣と剣が重なり、力比べとなった。

「答える気はない?それとも余裕がないだけ?」

まだ涼しい顔をしているリンクに対し、ダークリンクは息が乱れ始めていた。

「っ!俺、は!お前の代わりにスマッシュブラザーズに入り込めっつわれただけだっ!理由なんか聞いてねぇっ!」

半ば自棄になってダークリンクは言った。言いながら、ダークリンクは力を加える。リンクは負けじと押し返した。そして、ダークリンクを振り切る。そのまま、リンクがダークリンクを弾き飛ばした。地面に倒れ込んだダークリンクを、リンクは斬りつける。ダークリンクは為す術もなく地面にふせた。ゼェハァ言いながら、その場に蹲っている。ダークリンクが限界だと悟ったリンクは、それ以上追撃せずに、間合いをとった。剣を構えたまま、ダークリンクを見つめる。
やがて、ダークリンクは上半身を起こし、リンク達の方を見た。

「チッ……所詮、俺はコピー……本物には、勝てない、か……。」

ダークリンクは顔を歪め、息も途切れ途切れに言った。

「あいつ……ガノンドロフはどこ?」

リンクはダークリンクを見つめたまま、感情のない声で聞いた。

「ハッ……。ここには、いねぇ。一体、どこに、いるんだろー、な?」

リンクは顔を顰めた。

「居場所も知らないの?」

「なぁ。俺を、なんだ、と、思ってる?ただの、手下だぜ?しかも、任務、失敗してる、し。」

ダークリンクは自嘲した。

「捨て駒、なんだよなぁ……。」

リンクや、動向を固唾をのんで見守っていた4人は、息をのんだ。

「だけど……お前ら、も、無事に、帰れる、か、な………?」

そう言ったきり、ダークリンクは崩れ落ち、動かなくなった。そして、消えていく。それをリンクは無表情で見つめていた。そんなリンクの様子をフォックスは心配そうに見る。

「リンク、」

「大丈夫だよ。」

フォックスの心配そうな声を遮り、リンクは言った。4人に背を向けていたリンクだったが、向き直る。その時には、いつもの様子のリンクだった。

「手出ししないでくれて、ありがとう。」

「……いや、むしろあれは入り辛かったというか……。」

ロイは困ったように答えた。

「ねぇ、ダークリンクの最後の言葉だけど。どういう意味だと思う?」

マルスが聞いた。

「オレも気になったけど、よく分からないんだ。」

リンクは言いながら、首を傾げた。そして、固まった。

「どうしたの、リンク?」

不思議そうにトレーナーが聞いた。

「あれ、見て!」

リンクは4人の後方を指さした。そこにはパソコンが置いてあり、モニターに数字が映し出されていた。よくよく見ると、それは時間で、カウントダウンされている。

「なんなんだ、これ……?」

ロイが呟いた。フォックスはパソコンに走り寄り、操作し始めた。次々とウィンドウを出しては何かをしている。機械に詳しくない4人は、フォックスに任せるしかなかった。



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