イを為す牛である勿れ
トレーナーとロイは訳が分からない、というようにマルスを見た。一方フォックスは、ポカンと一瞬なったものの、すぐに状況を理解し、悔しそうな顔をした。誰と問われた当の本人は、先程と同じ体制のまま、マルスを見つめていた。その顔から感情は伺えない。だが、やがて、クックッと笑い出した。ギラギラとした目をマルスに向ける。
「へーえ?分かっちゃったんだ?」
トレーナーとロイは息をのんだ。
「俺、お前と会うのははじめてだと思うんだけど、何で分かった?」
こいつらにバレるのは時間の問題だと思ってたけどな?と付け加えながら、リンク……だと思っていた者は、ニヤニヤとマルスを見ていた。マルスはそいつの腕を掴んだまま、肩をすくめた。
「君、自分でボロを出したことには気づかない?」
「あー、まぁ、頼まれごとしてたり当番だったりしたと知った時はやばいと思ったな。だけど、上手くかわしたと思ってたんだけど?」
相変わらずリンクのニセモノは笑みを浮かべてマルスを伺った。
「かわせていなかったから、フォックスやトレーナーに心配かけちゃったんだよ。まぁ……他にも色々あるけど……僕が確信したのは君の闘い方を見た時。……何が、とは教えてあげないけど、全然違ったよ、戦法。」
すると、リンクのニセモノは不機嫌になった。
「チッ。闘い方まで寄せてられっかよ。普段の生活を真似るのでも大変だったんだからな。」
「……気付けなかった俺が言うのもなんだが……普段の生活も似てなかった。少なくとも、普通には見えなかった。」
尚も悔しそうな顔をしたまま、フォックスが言った。リンクのニセモノは鼻で笑った。
「ハッ、そーかよ。あんなお人好しの真似なんざ、端からムリだった、ってワケか。」
リンクのニセモノはイライラとしていた。その様子を呆然と見ていたトレーナーだったが、
「君……リンクじゃ、なかったの……?」
と乾いた声で呟いた。すると、そいつはケラケラと笑った。
「そのとーり!軽く騙されて、チョロいなーと思ってたんだけどなぁ?」
「ふざけないでっ!!」
トレーナーが手を上げた。だが、その手をフォックスが掴み、トレーナーを思いとどまらせる。
「落ち着け、トレーナー。感情的になるな。」
叩かれそうになったというのに、リンクのニセモノはケラケラと笑ったままだった。
「おーおー、怖いねぇ。」
そして、更に癇に障ることを言う。トレーナーはもどかしそうにリンクのニセモノを睨んだ。
マルスはフォックスに目配せした。マルスの意図をくんだフォックスは軽く頷き、トレーナーの手をギュッと握った。
「ねぇ。君に色々と聞きたいことがあるんだ。」
マルスがそう言っても、リンクのニセモノは笑みを崩さない。
「何々ー?言っとくけど、俺は裏事情、全然知らないぜ?」
「そう?じゃあ、答えられる範囲でいいよ。」
「へー、いいんだ?やっぱあいつの知り合いなだけあって、お人好しなのな?」
マルスが言うごとに、リンクのニセモノは茶々を入れる。だが、マルスはそれで冷静さを失うわけがなかった。とはいえ、お人好し、という言葉にマルスは思わず苦笑する。
「……彼ほどお人好しではないと思うな。それで。その言い方から察するに、君はリンクを知っているね?」
マルスの質問に、リンクのニセモノは眉を顰めた。
「はぁ?何を言い出すかと思えば……。当たり前だろ?じゃなきゃ、フリなんてできねぇし。」
マルスはそいつの馬鹿にした様子に、気分を害することなく続ける。
「そうだね。それだけ君は、彼をよく知っているということ。だから、リンクの世界の住人で間違いないね。ガノンドロフの手下?」
マルスが聞くと、リンクのニセモノは首を傾げてみせた。
「さぁね?」
「はぐらかすんだね。じゃあ合っているということかな。」
にこやかにマルスが言うと、一気にそいつの機嫌が悪くなった。
「チッ、メンドクセー奴。」
マルスは構うことなく、尋問を続ける。
「ガノンドロフの指示でリンクのフリをしていた?」
リンクのニセモノは真顔になった。じっとマルスを見つめる。
「……お前、分かっているな?」
「さぁ?」
先程、リンクのニセモノがやったようにマルスははぐらかした。
「くそっ、あいつより質がわりぃ。」
リンクのニセモノは歯ぎしりした。
「目的は知ってる?」
「知らねーよ、満足か。」
リンクのニセモノは冷たく言い捨てた。だが、マルスは信じなかった。
「……。目的に関しては全然見当がつかないんだよね。スマッシュブラザーズが関係しているのか、それともリンク個人に関するものなのか。」
だから、マルスは目的の話題を更に掘り下げようとした。リンクのニセモノの様子を伺いながら、真実に近づけようとする。だが、
「だーかーら!知らねぇって言ってるだろ!」
リンクのニセモノは、むしゃくしゃしながら喚いた。
“……本当に知らないのか。”
その様子を見て、マルスは信じることにした。
「それじゃあ、入れ替わりのことを聞こうか。リンクはどうしたの?ロイの話だと、買い物に行って帰ってきたときから変だったようだね。だから、その時に入れ替わったんだよね?」
マルスが話題を変えると、興奮しかけていたリンクのニセモノは、少し落ち着いた。
「あいつが何してたかなんて知らねー。あぁ、でも、そーいえば、俺がここに来たら、買い物がどーのこーの言われたな。」
記憶を辿る素振りを見せながら、リンクのニセモノは言った。マルスは納得したように頷いた。
「なら、タイミングはその時だね。リンク本人が戻ってこなかったことから考えると、リンクに何かした?」
「さぁな。」
間髪入れずに、リンクのニセモノは短く答えた。
「何をしたの?」
「おい、俺の答は無視か。」
イラッとしたようにリンクのニセモノは言った。とうとうマルスを睨んでいる。
「いや、何かしたことは確実だろう?」
マルスは悪びれることなく言った。リンクのニセモノはそれで諦めたようだった。
「……そーかよ。ハァ。騙して連れ去った。俺はそれを見届けてからここに来た。」
諦めたリンクのニセモノは、聞かれていないことまで話した。それを、その後具体的にどうしたのかは知らないというそいつのアピールだと、マルスは受け取った。マルスは、リンクに何が起こったかの追及はそれ以上しないことにした。
「連れ去った……か。場所は?」
「教えるとでも?」
挑戦的にリンクのニセモノが言った。マルスは難しい顔をしてリンクのニセモノを見つめる。すると、リンクのニセモノは肩をすくめた。
「と、言いたいとこなんだけど。バレたら場所を教えてやれって言われてるからなー。工場跡だよ。街はずれにある。」
「工場跡、か……。なんとも如何にもな場所だね。」
マルスはつい、感想を述べた。
「そういえば。君は一体何者なんだい?」
「あー、そっか。まだ自己紹介してなかったっけ?」
突如、そいつはケラケラ笑い出した。そして、自分の周りにいる人を一通り見た。
「俺はな……ダークリンクって呼ばれている。」
すると、そいつから色が消えた。真っ黒だ。しかし、形はリンクをかたどっている。マルスは驚いて、掴んでいた手を離してしまった。
「予定よりも早く終わっちまったから、おっこられるなー、俺。」
その言葉とともに、ダークリンクが消えた。
「えっ!?消えた……!?」
びっくりして4人はダークリンクの居た場所を見つめた。だが、トレーナーはすぐにハッと我に返ると走り出した。すでにフォックスはトレーナーの手を離していたので、トレーナーが走るのを許してしまった。すぐに反応できなかった3人だったが、慌ててトレーナーを追った。玄関に辿り着く前に、フォックスが追い付き、トレーナーを引き留めた。
「離してっ!早く!早くリンクのところに行ってあげないと!!」
トレーナーが叫んだ。
「だから落ち着けって。今のまま飛び出しても、いいことは何もない。」
フォックスがトレーナーを宥める。だが、トレーナーは興奮したままだった。
「だけど!!リンクに何かあったら……!!」
「トレーナー。フォックスの言う通りだよ。リンクが心配なのは分かるけど、まずは落ち着いて。」
マルスもトレーナーを宥めようと試みる。
「落ち着いてなんかいられないよ!!みんなは平気なの?リンクが危ないのに!!」
だが、トレーナーはどんどんヒートアップしていく。
「平気なわけないだろ。だけど、そんな風に取り乱しても、リンクが助かるわけじゃない。」
ロイに指摘され、トレーナーはたじろいだ。
「それ、は……そうだけど……。」
「ほら、深呼吸して、トレーナー。」
マルスが促した。トレーナーは少し渋ったが、ゆっくりと深呼吸した。それでどうやら落ち着いたようだった。
「……ごめん。焦ってもどうしようもないよね。」
気落ちしてトレーナーは言った。それを元気づけようと、ロイが言う。
「まぁ、捕まったのはリンクだからな。自力でなんとかしてるかもしれないぞ。」
だが、その言葉は逆効果のようで、トレーナーは恨めしそうにロイを見た。ロイはたじろいだ。
「いや、あのさ、最悪の事態は免れてるよ、きっと。」
弁解がましくロイは言葉を続ける。マルスはため息を吐いた。
「ロイ。現にリンクは帰ってきていないんだ。楽観的すぎるのは問題だよ。」
“……いや、リンクの強さは本物だぞ?”
ロイは思ったが、声には出さなかった。
「それで。今の状況を分かっているのはここにいる4人だけ。他の人は……、」
「ねぇマルス。落ち着いたからって、早く行かなきゃいけないのは変わらないよ。」
ともすれば考え込みそうなマルスを遮り、トレーナーが焦れて言った。
「そうだね。そうだけど、」
「他の奴への説明が必要なら、マルス、お前残るか?」
マルスが考えていることを大体読んだフォックスが聞いた。すると、マルスは返答につまった。その様子を見て、ニヤリと笑う。
「多分、4人ともリンクのことを心配して……いや、ロイ、」
「いや、行きます。行かせてください。」
フォックスの言わんとすること―あまりリンクが心配でないなら、残って説明役になれ―が見えたロイは、慌てて言った。フォックスは満足そうに頷いた。
「なら、この4人で行こう。他の奴は事後報告で問題ないだろ。」
4人は会場を後にした。
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「へーえ?分かっちゃったんだ?」
トレーナーとロイは息をのんだ。
「俺、お前と会うのははじめてだと思うんだけど、何で分かった?」
こいつらにバレるのは時間の問題だと思ってたけどな?と付け加えながら、リンク……だと思っていた者は、ニヤニヤとマルスを見ていた。マルスはそいつの腕を掴んだまま、肩をすくめた。
「君、自分でボロを出したことには気づかない?」
「あー、まぁ、頼まれごとしてたり当番だったりしたと知った時はやばいと思ったな。だけど、上手くかわしたと思ってたんだけど?」
相変わらずリンクのニセモノは笑みを浮かべてマルスを伺った。
「かわせていなかったから、フォックスやトレーナーに心配かけちゃったんだよ。まぁ……他にも色々あるけど……僕が確信したのは君の闘い方を見た時。……何が、とは教えてあげないけど、全然違ったよ、戦法。」
すると、リンクのニセモノは不機嫌になった。
「チッ。闘い方まで寄せてられっかよ。普段の生活を真似るのでも大変だったんだからな。」
「……気付けなかった俺が言うのもなんだが……普段の生活も似てなかった。少なくとも、普通には見えなかった。」
尚も悔しそうな顔をしたまま、フォックスが言った。リンクのニセモノは鼻で笑った。
「ハッ、そーかよ。あんなお人好しの真似なんざ、端からムリだった、ってワケか。」
リンクのニセモノはイライラとしていた。その様子を呆然と見ていたトレーナーだったが、
「君……リンクじゃ、なかったの……?」
と乾いた声で呟いた。すると、そいつはケラケラと笑った。
「そのとーり!軽く騙されて、チョロいなーと思ってたんだけどなぁ?」
「ふざけないでっ!!」
トレーナーが手を上げた。だが、その手をフォックスが掴み、トレーナーを思いとどまらせる。
「落ち着け、トレーナー。感情的になるな。」
叩かれそうになったというのに、リンクのニセモノはケラケラと笑ったままだった。
「おーおー、怖いねぇ。」
そして、更に癇に障ることを言う。トレーナーはもどかしそうにリンクのニセモノを睨んだ。
マルスはフォックスに目配せした。マルスの意図をくんだフォックスは軽く頷き、トレーナーの手をギュッと握った。
「ねぇ。君に色々と聞きたいことがあるんだ。」
マルスがそう言っても、リンクのニセモノは笑みを崩さない。
「何々ー?言っとくけど、俺は裏事情、全然知らないぜ?」
「そう?じゃあ、答えられる範囲でいいよ。」
「へー、いいんだ?やっぱあいつの知り合いなだけあって、お人好しなのな?」
マルスが言うごとに、リンクのニセモノは茶々を入れる。だが、マルスはそれで冷静さを失うわけがなかった。とはいえ、お人好し、という言葉にマルスは思わず苦笑する。
「……彼ほどお人好しではないと思うな。それで。その言い方から察するに、君はリンクを知っているね?」
マルスの質問に、リンクのニセモノは眉を顰めた。
「はぁ?何を言い出すかと思えば……。当たり前だろ?じゃなきゃ、フリなんてできねぇし。」
マルスはそいつの馬鹿にした様子に、気分を害することなく続ける。
「そうだね。それだけ君は、彼をよく知っているということ。だから、リンクの世界の住人で間違いないね。ガノンドロフの手下?」
マルスが聞くと、リンクのニセモノは首を傾げてみせた。
「さぁね?」
「はぐらかすんだね。じゃあ合っているということかな。」
にこやかにマルスが言うと、一気にそいつの機嫌が悪くなった。
「チッ、メンドクセー奴。」
マルスは構うことなく、尋問を続ける。
「ガノンドロフの指示でリンクのフリをしていた?」
リンクのニセモノは真顔になった。じっとマルスを見つめる。
「……お前、分かっているな?」
「さぁ?」
先程、リンクのニセモノがやったようにマルスははぐらかした。
「くそっ、あいつより質がわりぃ。」
リンクのニセモノは歯ぎしりした。
「目的は知ってる?」
「知らねーよ、満足か。」
リンクのニセモノは冷たく言い捨てた。だが、マルスは信じなかった。
「……。目的に関しては全然見当がつかないんだよね。スマッシュブラザーズが関係しているのか、それともリンク個人に関するものなのか。」
だから、マルスは目的の話題を更に掘り下げようとした。リンクのニセモノの様子を伺いながら、真実に近づけようとする。だが、
「だーかーら!知らねぇって言ってるだろ!」
リンクのニセモノは、むしゃくしゃしながら喚いた。
“……本当に知らないのか。”
その様子を見て、マルスは信じることにした。
「それじゃあ、入れ替わりのことを聞こうか。リンクはどうしたの?ロイの話だと、買い物に行って帰ってきたときから変だったようだね。だから、その時に入れ替わったんだよね?」
マルスが話題を変えると、興奮しかけていたリンクのニセモノは、少し落ち着いた。
「あいつが何してたかなんて知らねー。あぁ、でも、そーいえば、俺がここに来たら、買い物がどーのこーの言われたな。」
記憶を辿る素振りを見せながら、リンクのニセモノは言った。マルスは納得したように頷いた。
「なら、タイミングはその時だね。リンク本人が戻ってこなかったことから考えると、リンクに何かした?」
「さぁな。」
間髪入れずに、リンクのニセモノは短く答えた。
「何をしたの?」
「おい、俺の答は無視か。」
イラッとしたようにリンクのニセモノは言った。とうとうマルスを睨んでいる。
「いや、何かしたことは確実だろう?」
マルスは悪びれることなく言った。リンクのニセモノはそれで諦めたようだった。
「……そーかよ。ハァ。騙して連れ去った。俺はそれを見届けてからここに来た。」
諦めたリンクのニセモノは、聞かれていないことまで話した。それを、その後具体的にどうしたのかは知らないというそいつのアピールだと、マルスは受け取った。マルスは、リンクに何が起こったかの追及はそれ以上しないことにした。
「連れ去った……か。場所は?」
「教えるとでも?」
挑戦的にリンクのニセモノが言った。マルスは難しい顔をしてリンクのニセモノを見つめる。すると、リンクのニセモノは肩をすくめた。
「と、言いたいとこなんだけど。バレたら場所を教えてやれって言われてるからなー。工場跡だよ。街はずれにある。」
「工場跡、か……。なんとも如何にもな場所だね。」
マルスはつい、感想を述べた。
「そういえば。君は一体何者なんだい?」
「あー、そっか。まだ自己紹介してなかったっけ?」
突如、そいつはケラケラ笑い出した。そして、自分の周りにいる人を一通り見た。
「俺はな……ダークリンクって呼ばれている。」
すると、そいつから色が消えた。真っ黒だ。しかし、形はリンクをかたどっている。マルスは驚いて、掴んでいた手を離してしまった。
「予定よりも早く終わっちまったから、おっこられるなー、俺。」
その言葉とともに、ダークリンクが消えた。
「えっ!?消えた……!?」
びっくりして4人はダークリンクの居た場所を見つめた。だが、トレーナーはすぐにハッと我に返ると走り出した。すでにフォックスはトレーナーの手を離していたので、トレーナーが走るのを許してしまった。すぐに反応できなかった3人だったが、慌ててトレーナーを追った。玄関に辿り着く前に、フォックスが追い付き、トレーナーを引き留めた。
「離してっ!早く!早くリンクのところに行ってあげないと!!」
トレーナーが叫んだ。
「だから落ち着けって。今のまま飛び出しても、いいことは何もない。」
フォックスがトレーナーを宥める。だが、トレーナーは興奮したままだった。
「だけど!!リンクに何かあったら……!!」
「トレーナー。フォックスの言う通りだよ。リンクが心配なのは分かるけど、まずは落ち着いて。」
マルスもトレーナーを宥めようと試みる。
「落ち着いてなんかいられないよ!!みんなは平気なの?リンクが危ないのに!!」
だが、トレーナーはどんどんヒートアップしていく。
「平気なわけないだろ。だけど、そんな風に取り乱しても、リンクが助かるわけじゃない。」
ロイに指摘され、トレーナーはたじろいだ。
「それ、は……そうだけど……。」
「ほら、深呼吸して、トレーナー。」
マルスが促した。トレーナーは少し渋ったが、ゆっくりと深呼吸した。それでどうやら落ち着いたようだった。
「……ごめん。焦ってもどうしようもないよね。」
気落ちしてトレーナーは言った。それを元気づけようと、ロイが言う。
「まぁ、捕まったのはリンクだからな。自力でなんとかしてるかもしれないぞ。」
だが、その言葉は逆効果のようで、トレーナーは恨めしそうにロイを見た。ロイはたじろいだ。
「いや、あのさ、最悪の事態は免れてるよ、きっと。」
弁解がましくロイは言葉を続ける。マルスはため息を吐いた。
「ロイ。現にリンクは帰ってきていないんだ。楽観的すぎるのは問題だよ。」
“……いや、リンクの強さは本物だぞ?”
ロイは思ったが、声には出さなかった。
「それで。今の状況を分かっているのはここにいる4人だけ。他の人は……、」
「ねぇマルス。落ち着いたからって、早く行かなきゃいけないのは変わらないよ。」
ともすれば考え込みそうなマルスを遮り、トレーナーが焦れて言った。
「そうだね。そうだけど、」
「他の奴への説明が必要なら、マルス、お前残るか?」
マルスが考えていることを大体読んだフォックスが聞いた。すると、マルスは返答につまった。その様子を見て、ニヤリと笑う。
「多分、4人ともリンクのことを心配して……いや、ロイ、」
「いや、行きます。行かせてください。」
フォックスの言わんとすること―あまりリンクが心配でないなら、残って説明役になれ―が見えたロイは、慌てて言った。フォックスは満足そうに頷いた。
「なら、この4人で行こう。他の奴は事後報告で問題ないだろ。」
4人は会場を後にした。
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