イを為す牛である勿れ

次の日。ソニックが一走りして帰ってくると、みんなの部屋でカービィが待ち構えていた。

「ソニック!!朝ご飯は!?」

ソニックを見るなり、カービィは開口一番、そう言った。その言葉にソニックは驚いてカービィを見た。

「は?まだ出来ていないのか?」

「出来てないどころか、キッチンにだーれもいないの!!どういうこと!?」

カービィは更にソニックに詰め寄った。ソニックは頭をかく。

「どういうことって俺に聞かれても……リンクはどうしたんだよ?」

「知らない。さっきヨッシーが探しに行ったけど。」

カービィは冷たく言った。そして手足をパタパタさせながら叫ぶ。

「とにかく、ご飯!!」

ソニックはため息を吐いた。

「仕方ねーな……今日は俺が作るか。Wait a minutes.」

ソニックはやれやれとキッチンへ入っていった。





一方その頃、ヨッシーは。

「うーん……どこで修行しているのかな?朝はどこかでやっているって聞いたことがあるけど……会場周りは一通り見たし……うーん……。」

玄関先で頭を悩ませていた。そこへフォックスがやってくる。

「ヨッシー?何をしているんだ?」

ヨッシーは憂鬱そうな顔でフォックスを見た。

「リンクを探しているんだ。朝ご飯がまだ作られていなくて……。」

フォックスは眉を顰めた。

「なんだと?」

「もうお腹ペコペコで……。リンク、どこで修行しているのか、知ってる?」

修行と聞いた途端、フォックスは気を緩めた。

「あぁ、時間を忘れているだけか。多分森だろ。見てきてやるよ。」

ヨッシーは跳び跳ねて喜んだ。

「うん、お願い!!」





しばらくして、みんなの部屋にはいい匂いが漂ってきた。ソニックがキッチンから出てくる。

「出来たぜ、カービィ。あ、ヨッシーもいたか。ってか、リンクは?」

ソニックはとりあえず、朝食を要求してきた二人に声をかけた。ヨッシーは朝食の方に目を向けながら答えた。

「見つからなかった。フォックスが森に探しに行ってくれてるよ。食べるね?」

「あ、あぁ……どうぞ。」

ソニックが言い切る前に、ヨッシーは朝食の方へ行ってしまった。ヨッシーを目で追ってテーブルの方を見ると、既にカービィは朝食にありついていた。

「私も食べるわね。」

「僕もー。」

「いただきます。」

既に起きていた何人かも、朝食に手をつけた。その様子を見ながら、ソニックは暫く呆けていた。だが、本来朝食を作るはずだった人のことを思い浮かべ、どうしたのかと少し考えた。しかし、すぐに、

「……また、俺に頼むのを忘れて出かけたのかな。」

と、結論づけ、乾いた笑みをもらした。
それからしばらくして、朝食を食べる人が変わりつつあるときに、フォックスが入ってきた。キョロキョロと部屋の中を見渡した後、首を傾げて、朝食を食べ終えたヨッシーのもとに行った。

「ヨッシー。リンク、来たか?」

「え?あ、そういえば……。」

ヨッシーは朝食を食べることに夢中で、リンクのことを忘れていたようだった。

「まだだよ。あれ?見つからなかったの?」

「あぁ。……まだ来ていないか……。」

フォックスは腕を組んで考え込み始めた。

「おい、フォックス。」

その様子を見たソニックが声をかけた。

「多分、言い忘れだろ。前にもあったし。」

そして、自分の結論を告げた。フォックスは、呆れた様子のソニックを見ながら、

「……そうかもな。」

と賛同した。

“やっぱり何かあったんじゃないか、あいつ。”

心の中でリンクへ小言を言いながら。

「って、リンク!?」

突然、ソニックが驚きの声をあげた。フォックスは、ソニックの声にびくりとしつつも、その目線を追った。すると、腰を抜かしそうになった。なんと、扉の前に、寝ぼけまなこなリンクが立っていたのだ。

「……?ソニック、何……?」

リンクはあくびを一つ漏らしながら、ソニックに聞いた。ソニックは状況を飲み込めないまま、言葉を紡いだ。

「何ってお前……今まで何してたんだよ?」

「……寝て、た……。……まずかった……?」

リンクはまだ眠そうだ。それで、ソニックはようやく理解した。リンクが朝食作りを怠けて、寝過ごしたということを。そして、怒りを露にする。

「……約束は?当番は?」

低い声で問うと、リンクは慌てたようだった。

「……ご、ごめん。忘れてた……。」

その様子を見て、ソニックはため息をついた。声の調子を戻して言う。

「ま、いいけどさ。明日からはちゃんとやってくれよ。」

「……うん。」

リンクはしゅんとしていた。

「なぁ、リンク、」

「ご、ごめん、フォックス。オレ、お腹がすいたから後でもいい?」

フォックスを遮って、リンクは朝食を指さした。フォックスは苦虫を噛んだような顔をしながら、

「……あぁ。」

とリンクの要求を聞き入れた。しかし、その後、フォックスはリンクに話しかける機会を失ってしまった。何故なら。

「おいリンク、俺ら今から乱闘行くけど、参加しないか?」

マリオがリンクを誘った。

「えっ?」

リンクはポカンとした顔をした。その顔を見ながら、ファルコンが

「……やらないか。」

と苦笑した。リンクは少し思案する。

「いや、やろうかな。」

「え!?」

話が聞こえてきた周りの人も驚いてリンクを見た。リンクはそのことに気付かず、

「……えっと……ダメ……?」

と不安そうに聞いた。マリオは、ハッと我に返る。

「いや、いいぜ!大歓迎だ!!行こうぜ!!」

そして、またとないチャンスを逃すまいと、リンクを急かしてメインルームへ行ってしまった。残された人は、それを呆然と眺めていた。





お昼ごろ。

「よぉ、マルス。お前、よくも昨日、呼び出されてくれたな。」

マルスがみんなの部屋に入ると、まず耳に入ってきたのがロイのこの言葉だった。何か不都合があったことを悟り、マルスは苦笑いをした。

「悪かったね、ロイ。当番を任せっきりにしてしまって。」

マルスは自分の非を詫びた。

「本当だよ。その上、リンクのせいでひどい目にあった。」

ロイの言葉に、マルスは首を傾げた。

「リンクに何かされたの?」

「いや、故意にされたわけじゃねぇけど。あのな――」

ロイは、前日フォックスに語ったように、マルスにも夕食作りのことを伝えた。それを聞いて、マルスはため息をついた。

「……そもそも買い忘れをしたロイが悪いんじゃないかな?」

「う……それはそうだけど……。」

マルスの指摘に、ロイはつまった。が、すぐに調子を取り戻す。

「って、そうだ。お前、今の話聞いて、何か違和感あるか?」

「違和感?それは、リンクについて?」

ロイは難しい顔をした。

「……そう聞くってことはあるってことだよな……。」

マルスは肩をすくめた。

「まぁね。でも……それはロイもだろう?」

ロイは首を振った。

「いや。俺は別に何とも思わねぇ。だけど……フォックスとトレーナーがさ、リンクが変だって言うんだ。」

ロイの説明に、マルスは腕を組んだ。

「そう。……彼等が言うんだから、確実だね。」

「おい、ロイ。」

遠くから声がかかった。声の方にはソニックがいた。

「あいつ、昨日から変なのか?」

「は?」

ソニックの質問に、ロイは言われたことが理解できず、聞き返した。

「今の話。最後らへんしか聞いていなかったから、何が変なのか知らねぇけど。」

ソニックが言うと、マルスの顔がいよいよ真剣そのものになった。

「ソニック。今の言い方だと、今日もリンクにおかしな点があった、ってことだね?」

「いやもう、変なことばかりだぜ。」

ソニックは朝のことを話した。それを聞いたマルスは口をあんぐりと開けた。ロイに至っては絶句だ。

「修行も朝食作りもしないどころか、寝坊……?その上、乱闘だって……?」

かすれた声でマルスが言った。

「な?もはや別人の域だよな。」

ソニックは考えることを放棄したような顔をしていた。

「リンクは今、どこに……?」

「まだ乱闘してるんじゃねーの?」

「……そう。ちょっと行ってみるよ。」

マルスは部屋を出ていった。そこでようやく、ロイは我に返った。

「え、おい、待て、俺も行く!」

驚きから回復したロイは、マルスを追った。





マルスとロイがメインルームに着くと、ゼルダが険しい顔をして乱闘の記録を見ていた。

「よ、よぉ、ゼルダ……。どうした?」

おずおずとロイが話しかけた。ゼルダはチラリと二人を見たが、その目線はすぐにモニターへ戻っていった。

「リンクが乱闘に参加していると聞いて、慌てて様子を見に来たのですが……。」

ゼルダはモニターをキッと睨んだ。

「何か悩みがあるのなら、相談してくださればよいものを。このように荒々しくストレス発散だなんて。」

「リンクらしくない闘いをしているんだね?」

マルスの問に、ゼルダは頷いた。ロイはモニターを覗き込んだ。

「あー、確かに普段より荒れてんな……。ってか、挑発行為してる!?何やってんだあいつ!?」

マルスは腕を組んで暫く考え込んだ。やがて、マルスもモニターを覗いた。すると、マルスはニヤリと笑った。それをロイは不思議そうに見る。

「マルス?」

「どういうことか分かったよ。それで、肝心のリンクは?」

「さぁ……私がここに来た時には既にいませんでした。」

マルスの様子に戸惑いながら、ゼルダは答えた。

「そう。じゃあ、部屋に行ってみるよ。」

クスリ、と笑みを残してマルスは去っていった。それをゼルダは不思議そうに眺めた。

「……どういうことでしょうか?」

ゼルダはロイに状況説明を求めた。

「あぁなったら、マルスは全部分かっていると思う。俺は、事の顛末を見に行くよ。」

ロイは再びマルスを追った。





ロイがマルスに追いついたのは、マルスがリンクの部屋の前に立った時だった。その時、いきなり扉が開いた。

「リンク!」

「待て!!」

中からトレーナーとフォックスの声が聞こえる。勢いよく出てきたリンクだったが、マルスをみとめると、かろうじて止まった。イライラしたようにマルスを見る。

「やぁ。少し話したいことがあるんだけど。」

リンクの様子にお構いなく、マルスは要件を告げた。

「マルス……。オレ、ちょっと急いでいるんだ。」

リンクが言い切った時、リンクの肩に手が置かれた。

「リンク、話はまだ終わっていないぞ。」

フォックスがリンクを引き留めようとしていた。フォックスはリンクを睨むように見ている。リンクはため息を吐き、やはりイライラと首を振った。

「オレは悩んでなんかいない。だから、君達と話すことはもうない。……手、離してよ。」

フォックスは納得がいかないようだった。しかし、ため息を吐くと、肩から手を退けた。だがその直後、リンクは腕を掴まれた。

「……あのさ、マルス。」

鬱陶しそうに、リンクは腕を掴んだ犯人を睨んだ。

「オレ、急いでいるって言ったよね?」

「なんで?」

涼しい顔をしてマルスは聞いた。リンクは気を落ち着かせるように深呼吸をしてから言った。

「……言わなきゃ、ダメ?」

マルスはクスリ、と笑みをこぼした。

「リンクなら、教えてくれたんじゃないかな。」

ハッとしたようにリンクはマルスを見た。マルスはにっこり笑いながらリンクを見ている。しかし、その目は少しも笑っていない。フォックスは眉を顰めた。トレーナーは不安そうにしている。ロイは困惑顔を隠さなかった。三者三様で、彼等はリンクとマルスを見守っていた。じっと見つめるリンクに対し、マルスは言った。

「君は、誰だい?」



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