イを為す牛である勿れ

メインキャラとロイが中心です。
リンクの実力はばれております。
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「うわっ、買い出しに行ったばかりなのにアレもないコレもない…まじかー……。」

ロイがぶつぶつ言いながらキッチンから出てきた。みんなの部屋に居合わせたメンバーは、何事かとロイを見る。それには全く気が付かず、ロイは言葉を続けた。

「また買い出しか、めんどくせぇ。でも、夕飯の準備……あ゛ー、なんでこんな日に限ってマルスは国から呼ばれるんだよー!!」

それを聞いた人は、事情を理解した。そして、そそくさと部屋を出ていった。だが、自ら巻き込まれに行くお人好しが一人いた。

「ロイ、どうしたの?買い忘れ?」

リンクである。そこでようやく、ロイは他人の存在を思い出した。リンクに顔を向ける。

「あー、そうなんだよ……。今日の夕飯カレーにしようと思ったのに……ルー買い忘れた……。」

ロイはうなだれた。

「そっか……。いくつ買ってきたらいいの?」

パッとロイは顔を上げ、リンクを見た。

「え!?行ってくれるのか!?」

ロイの顔が輝いている。リンクはクスリと笑みをこぼした。

「だってロイ、今、夕食の準備しないといけないって言ったでしょ?今日、当番一人みたいだし……。オレ、行くよ?」

「サンキュー、リンク!!……あのさ、ついでといっちゃ悪いんだけど……、」

ロイはいくつかリンクに買ってきてほしい物を頼んだ。リンクは苦笑こそしたものの、二つ返事で引き受けると出かけて行った。

「助かった……。さて、調理、始めるか。」

ロイは、キッチンに戻っていった。





野菜などを人数分切り、炒め、……といったことをしているうちにずいぶん時間が経った。人数が人数なだけあって(一部大量に食べるヤツがいるのもあって)、準備に時間がかかる。水を張り、火が通り、後はルーを入れるだけ、という段になってロイは気付いた。

「あいつ、遅いな……。」

ロイは火を止めると、キッチンを出た。みんなの部屋には一時避難した人も含め、人が集まり始めていた。しかし、彼の姿はない。ロイがキョロキョロと辺りを見ていると、ピカチュウが声をかけた。

「ロイ、どうしたの?」

ロイピカチュウに顔を向ける。

「リンク、知らないか?」

そして、買い出しに行ってくれたリンクのことを聞いた。

「リンク?」

ピカチュウが首を傾げていると、ピットが反応した。ロイ達の方へ寄ってくる。

「リンクなら、随分前に会場を出ていくのを見たけど。」

「それさ、買い出しに行ったからなんだよ。だが、まだ帰ってこないんだ。」

ロイが事情を説明すると、ピットも首を傾げた。

「……確かに変だね。買い出しなら、とっくに帰ってきていい時間だ。」

ピットは窓の方を見た。しかし、そこには誰もいない。

「探しに行く?」

ピカチュウが聞くと、ロイは腕を組んだ。

「うーん……俺はリンクを信じてルーを待つべきか、何かあったと思ってルーを買いに行くべきか……。」

「ねぇ、リンクじゃなくてルーの心配?」

ピカチュウがロイを咎めた。するとロイは、両手を上げた。

「いや、リンクに何かあっても、あいつ自分で解決するだろ。それより俺は、自分の仕事を全うできるか心配すべきだ。」

「買い出しをリンクに頼んだ時点でアウトだと思うよ、ロイ。」

呆れた顔をしながらトレーナーがやってきた。そして続ける。

「リンク、いないんだって?僕、探してくるよ。ロイは、ルーが心配なら買ってこれば?」

ロイは少し考えたが、すぐにトレーナーに向き直った。

「……ルーは後一時間待っても来なかったら買いに行くとして……。トレーナー、探しに行かなくても大丈夫だって。リンクだぜ?」

「でも……。」

「あ!リンク、帰ってきた!」

不安そうなトレーナーを遮り、窓の外を伺っていたピカチュウが声をあげた。見ると、リンクが玄関をくぐり抜けるところだった。

「なんか、荷物少なくない?」

ピットが訝しげに言った。それはロイも感じており、無言で走り出した。気になったピカチュウ、トレーナー、ピットもゆっくり後を追うことにした。





「おい、リンク!」

ロイが玄関にたどり着くと、リンクは部屋に戻ろうとしていた。リンクは足を止めてロイを見る。必死な顔をしたロイを見ると、リンクは首を傾げた。

「何、ロイ?」

「何、じゃねーよ!お前、頼んだ物はどうした!?」

呑気なリンクにロイはまくし立てた。リンクは首を傾げたまま、目をパチクリさせた。

「頼んだ物……?えーと、……ごめん、ロイ、オレ、何か頼まれていたかな……?」

「……マジか……。」

リンクの様子にロイは肩を落とした。が、それも一瞬で、踵を返すと、玄関から出ていった。

「………??あ、トレーナー、ピット、ピカチュウ。」

ロイの様子を訳が分からずに見ていたリンクだったが、そこに3人が来たのを見つけた。声をかける。

「あれ?ロイは?」

ピットが聞くと、リンクはまた首を傾げた。

「なんか……よく分からない。」

「リンク、何かあったの?遅かったみたいだけど。」

ピカチュウが問うと、リンクは不思議そうな顔をした。

「……??別に何もないよ。それに……そんなに遅く帰ったつもりはないんだけど……。」

「買い物に行ってたにしては遅いと思うな。あれ?リンク、さっきも思ったけど、荷物は?」

ピットが言うと、リンクは息をのんだ。

「……。ごめん、買い物のこと、すっかり忘れてた。」

すると、ピットは目を丸くした。

「えー!?珍しいこともあるんだ!リンクが忘れるなんて!!」

リンクは少し顔を強張らせた。

「……ごめん。……オレ、部屋に戻るね。」

リンクはそう言うと部屋に向かって歩き出した。トレーナーはその後ろ姿をじっと見つめる。

「ねぇ、トレーナー。さっきから黙ったままだけど、どうしたの?」

ピカチュウがトレーナーを心配そうに見ていった。トレーナーはリンクが去った方に顔を向けたまま、横目にピカチュウを見た。

「……。ちょっと気になることがあって。僕、リンクを追うね。」

トレーナーは足早に去っていった。ピットとピカチュウは、それを不思議そうに見送った。





「リンク。」

リンクが部屋に入ろうとした直前、トレーナーが声をかけた。リンクは振り返った。

「何、トレーナー?」

リンクはまた、不思議そうに首を傾げた。トレーナーは、何かひっかかりを感じたが、すぐに来た目的を思い出した。

「悩みでもあるの?元気がなさそうだし……なんか、変だ。」

リンクは眉を顰めた。

「変……?何が?」

トレーナーはじっとリンクを見る。

「何がって言われると困るけど……いや、そもそも、リンクが人に頼まれたことを忘れるなんておかしいよ。さっき出かけた時、やっぱり何かあったんじゃないの?僕、力になるから。一人で抱え込まないで。」

リンクは無表情になった。少し考え込む。やがて、申し訳程度に笑みを浮かべて言った。

「本当に何もないんだ。出先で人助けをしたら、それで本来の目的を忘れてしまった、ただそれだけだよ。」

トレーナーは表情を歪めた。心配そうに口を開く。

「リンク、」

「ごめん、オレ、ちょっと疲れているんだ。部屋に戻ってもいい?」

だが、声をかけたトレーナーを遮って、リンクが言った。そう言われれば、トレーナーはそれ以上追及できない。

「……うん。でも、リンク、」

リンクはトレーナーが頷いたのを見るなり、トレーナーに最後まで言わせず、中に入っていってしまった。トレーナーはしばらくの間、扉を食い入るように見つめていた。





夕食の時間になった。カレーは無事、完成していた。

「ロイ、間に合ったんだね。」

ピットが感心したようにロイに言った。

「なんとかな。全く、リンクの奴には呆れたぜ。」

ロイはリンクを睨んだ。リンクは、マリオやピーチ達と談笑していた。

「本当に珍しいよね。リンクらしくないっていうか。」

「リンクがどうしたって?」

ピットが言ったところへフォックスが通りかかった。話に興味を持ったようで、近づいてくる。

「リンクさ、今日、ロイの頼みを忘れちゃったんだよ。」

ピットが答えた。するとフォックスは眉間に皺をよせた。

「……本当に?」

「おいおい、何疑っているんだよ。マジだよ。俺、慌てて買いに走ったんだから。」

ロイが言ったのを聞いて、フォックスはますます訝しんだ。

「よく状況が分からないから、何とも言えんが……」

「じゃあ、詳しく話してやるよ。」

「いや、それはいい。」

「聞けって。あのな――、」

フォックスの制止むなしく、ロイは事情を詳しく話して聞かせた。その話を聞いた後、フォックスは腕を組んで、眉を顰めていた。

「1つ、すごく疑問なんだが……。」

「なんだよ。」

フォックスが言うと、ロイは疑問点なんかないだろ、という風にフォックスを訝しげに見た。

「頼まれごとをしていたと知った後のリンクの行動が、部屋に戻る、だった?」

「そうだよ。その上、何かあったんじゃないかと聞いても、何もないの一点張りなんだ。」

答えたのはトレーナーだった。やってきたトレーナーの表情は暗い。

「ねぇ、フォックス。やっぱり変だよね……?」

トレーナーが聞くと、

「あぁ。」

とフォックスは頷いた。そして、リンクを盗み見る。リンクは今、子供達と話している。

「変だな。」

フォックスはそう言い切った。
ロイはトレーナーとフォックスの顔を交互に見た。

「…あのさ、今度は俺にも分かるように説明してくれないか?」

ロイが聞くと、トレーナーが身振り手振り交えて言った。

「だから、リンクの行動が変なんだってば。リンクらしくないっていうか……。多分、何か悩んでいると思うんだ。」

そう言ったトレーナーはしゅんとなる。

「変って何がだよ。確かにリンクが頼みごとを忘れるなんて、らしくないが、あいつも人間だ。そういうこともあるだろ。」

やれやれと思いながら、ロイは言った。

「百歩譲ってそれは問題ないとしよう。問題は、その後の行動だ。頼まれごとをしていたと気付いても、その後のフォローを何もしなかった。普段のリンクなら、お前を追うなり、手伝うなり、なんらかの行動をとるはずだ。」

フォックスが具体的に説明した。それを聞いて、ロイはポカンとフォックスを見た。

「いや……お前それ、いくらなんでもリンクを美化しすぎだと思うぞ。」

「うん、僕もそう思う。普通、そこまでしないって。」

ロイの言葉に、ピットが賛成する。

「美化とかじゃなくて、」

「美化だよ。」

反論しかけたフォックスだったが、ピットにピシャリと言われてしまった。ピットは続ける。

「二人がリンクのこと大好きってことはよく分かったけど、あんまり気にしすぎると嫌われるよ?」

ピットはそのままどこかへ行ってしまった。

「おい、ピット!……はぁ……何か変な勘違いをされた気がする……。」

落ち込むフォックスをしり目に、ロイは話を元に戻した。

「とにかくさ。リンクのことは大丈夫だって。仮に何か悩んでいるんだとしても、何も言ってこないってことは自分でなんとかできるって思ってるってことだろ?リンクを信じてやれよ。今、見たカンジ、普通だし。じゃ、俺は片づけあるから。」

言うだけ言うと、ロイはキッチンに引っ込んでしまった。それを見送ってから、トレーナーはフォックスを不安そうに見た。

「……フォックス、どう思う?」

フォックスは難しい顔をしながら、ため息をついた。

「まぁ、ロイの言っていることには一理あるな。……あいつは一人で抱え込みすぎるところがあるから心配だが……リンクが何かに悩んでいるという確証があるわけでもない今、様子を見るしかないだろう。」

「……そうだね。」

トレーナーは心配そうにリンクを見やった。



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