短編の短編
※フォレストページ時代は中編として公開していましたが、思ったより短い話だったので、こちらに格納しました。
―――――――――――――
「なぁなぁ、俺らの紹介ムービーみたいなの作らないか?」
事の発端は、マリオのこの一言だった。
「兄さん、何それ?」
ルイージは、呆れたように言った。マリオの突拍子な発言は今に始まったことではない。だが、その場にいたメンバーは何を言い出すのかとマリオを見るのみだ。それに対し、呆れていてもすぐに対応するルイージは、慣れたものである。
「何それって、そのままだよ。俺達がどんな集団で、何をやっているのか誰かに知ってもらうための映像を作るんだ。ストーリーとかつけたら、なかなか面白いものができると思うぞ。」
ルイージの呆れ顔や唖然とするメンバーをものともせず、マリオは力説した。
「それ、スマッシュブラザーズみんなで作るの?」
ルイージにマリオを止める気はなさそうだった。マリオに先を促す。
「当たり前だろ?全員が揃って、はじめてスマッシュブラザーズなんだからな!」
「ってか、誰得?」
驚きから回復したネスが言った。マリオはニヤリとする。
「俺得!」
「………………。」
辺りは静まり返った。流石のルイージも何も言わない。当たり前だ。要するに、マリオは、自分の楽しみのためだけにスマッシュブラザーズ全員を巻き込んで紹介ムービーを作ろうとしているのだ。自分勝手もいいところである。
「コホン。とにかく!作るぞ、紹介ムービー!!」
マリオは冷え切った場の空気を切り替えるように咳払いすると、再びみんなに言った。どうやら、マリオの中では、紹介ムービーを作ることは、決定事項のようだ。
「それ、何の役にも立たないよね?」
ネスはマリオの決意を揺らそうと試みた。だが、時既に遅し。
「でもでも面白そー。みんな呼んでくるね!」
カービィはそう叫ぶと、勢いよくみんなの部屋を出て行ってしまったのだ。
「あーあ……。」
「これはやる流れだな。」
「全く、マリオもめんどくさいこと考えてくれるわよね。」
残されたメンバーは口々に文句を言った。だが、止めようとはしない。止める労力を使うより、好きにやらせた方が疲れない…のかもしれない。
メンバーが全員集められた後、一悶着あったが、紹介ムービーを作る方向で話がまとまった。
「で、構成は?まさか、一からみんなで考えるとかないだろうな?」
渋々、と言った具合にフォックスが聞いた。すると、マリオが意気揚々と口を開く。
「それは、俺を中心に、」
「待って。」
が、嬉々としたマリオの声は、サムスに遮られた。サムスは嫌そうな顔をしている。
「まさか、主役はあなた?」
「当然☆」
サムスの指摘に、マリオはにっこり笑って答えた。
「論外だっ!」
「おい、論外ってどういうことだよ。主役はニンテンドーの顔の俺に決まっているだろ!」
マリオが言うと、場は騒然となった。
「えー、ボク主役したい!」
「主役の座は譲れないぜ?」
「ぼくだって主人公したい!」
「僕/私達だって!」
「ボクもー!」
「おいおい、そこは大人の俺を立ててだな、」
「大人なら子供に譲るのが常識でしょ!!」
激しい言い争いが勃発した。自然と、言い争うメンバーとそれを遠巻きに眺めるメンバーに分かれる。
「なんか…いつかを思い出すような風景だね…。」
トレーナーが呟いた。いつかとは、リーダーを決める争いをした時だ(『リーダーは誰だ!?参照』)。しかし今回は、主役をやると言い出したマリオと、それに反対するメンバーの言い争いなので、構図は少々異なる。だが…自分が主役になろうとしているという点では、共通しているようだ。
「ったく、どーでもいいが、本当に作るのか?」
本当にどうでもよさそうにファルコが言った。どうでもいいどころか、うんざりした様子だ。ムービー作成を止める気力はなかったが、やる気はないらしい。
「作らないという選択肢はなさそうだけど……。」
ピカチュウがファルコを気にしながら言った。ファルコはため息を吐く。
「ファルコ、諦めろ。」
フォックスが苦笑して言った。そして、言い争うメンバーに目を向ける。残りの人も、そちらに目をやった。
「全員が主役、じゃダメなのかな……?」
困ったように言い争う人達を見つつ、リンクが呟いた。そのつぶやきを聞き取ったスネークは両手を上げた。
「それでいけんこともないと思うが……あの調子じゃなぁ……。」
結局、マリオが主役になった。また、映像の構成もマリオのイメージを使用することに決まった。……というより、ほとんどの人が考えることを放棄した。メンバーは外に出て、撮影の準備をした。一通り準備ができると、マリオは指示を出し始めた。
「まず最初は俺とリンクとゼルダのシーンな。リンクとゼルダは前に出てきてくれ。」
言われたリンクとゼルダはマリオの前に立った。
「言い忘れていたけど、筋書きはこうだ。俺がみんなに戦いを挑んで、勝ち進む。」
「……納得いかないわ。」
サムスがこぼした。ファルコンは苦笑いして、サムスを諫める。
「まぁ、これは作り話だからな。我慢しろよ。」
サムスはイライラと首を振った。しかし、それ以上は何も言わなかった。
「じゃー、俺が走っていくから、リンクとゼルダは協力して俺を倒すフリをしてくれ。くれぐれも当てるなよ!」
「分かりました。」
リンクはただ頷いた。
「えー、マリオ、そこは本気で来てもらって避けなきゃ。」
ネスが茶々を入れた。
「いいんだよ!ここはコンの中じゃないんだ、もしもがあったら大変だろ!」
「じゃあ撮るからな。マリオ、好きなタイミングで行ってくれ。」
カメラマン役に任命されていたスネークが言った。そうしなければ、なかなか始まらないだろう。
「じゃあっ!」
マリオは走り出した。目の前で構えているリンクに向かっていく。リンクが剣を振るう。マリオは右へ左へと避ける。リンクは、マリオが動くタイミングに合わせて、それと逆方向に剣を振り下ろした。マリオが跳んで、リンクに上から殴りかかる。反射的にリンクは横っ飛びして避けた。拳が地面に叩きつけられる。マリオは舌打ちしてリンクを睨みつけた。そこへディンの炎が迫る。マリオがそれに気づき、避けようとするが……バァーン!ディンの炎はマリオに直撃した。
「カット、カァーット!!」
ロイが叫んだ。
「マリオ、ダメじゃん。」
ポポが笑って言った。そして、意地悪くナナが言う。
「やっぱり主役、代わる?」
「代わらねぇよ!」
「マリオ、大丈夫?」
ピーチがマリオの側にやって来た。立ち上がりながら、マリオは頭をかいた。
「あぁ。みっともないとこ見せたな。」
「マリオさん!」
そこへゼルダが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?すみません、私としたことが、つい……」
“リンクがやられているように見えるやり方に、つい腹を立てて本気でいってしまいましたわ……!!”
「い、いや……避けられなかった俺にも非はあるからさ……。」
嫌な汗を感じながら、マリオは答えた。
“なんか、ゼルダから黒いオーラが出ているような気が……。”
「なぁ、マリオ。」
フォックスがマリオに近づいてきた。
「やっぱり、その場で臨機応変に、じゃなくて、動きを決めないか?そうじゃないと、今みたいなアクシデントが多発すると思うんだが……。」
「いや!それだとどこか不自然になる。どうしても演技になるからな!俺は、自然な動画が撮りたいんだ!!」
フォックスの提案は、あっさり却下された。
「自然なって……。」
“お前が勝ち進むという設定自体に無理がある気がするんだが……。”
スネークの心の声は、マリオには届かなかった。更にマリオの主張は続く。
「第一、がんばればできるだろう!証拠に、リンクとは上手くいったんだからな!」
それを聞いたリンクは苦笑いした。
“……オレはいつもやっていることだから慣れてるけど。みんなには難しいと思うよ。”
「リンク、ゼルダとのシーンは撮れたことにしよう。次はフォックスとファルコだ!」
「はいはい。」
「はぁ……俺かよ……。」
マリオに呼ばれた二人は前に出てきた。フォックスは諦めつつも、仕事を全うしようとしていた。だが、ファルコは……言うまでもないだろう。
「で?俺達もお前を狙いつつ、外せばいいんだな?」
フォックスが話を先に進める。マリオは大きく頷いた。
「俺はここを走り抜けるから、当てないように撃ってくれ。」
「めんどくせぇ。」
ファルコは銃を構えた。
「さっさとしろ。当たりそうになっても避けろよ。」
「ハハッ……。」
フォックスは乾いた笑いを漏らした。そして、この先の展開を予測してため息を吐いた。だが、それには一切触れなかった。
フォックスはロイを見た。
「ロイ、今回は俺達もタイミングを計りたい。秒読みを頼む。」
「え?俺、そういう役?」
ロイは驚いてフォックスを見た。少し寂しそうだ。
「ちゃんと出番はあるだろうから、やってくれ。さっきもカット入れてただろ。」
やれやれといったようにフォックスが言うと、ロイはホッとしたようだった。
「あぁ……了解。」
そして、ロイは三人とスネークが準備完了かを確認する。大丈夫そうだと判断すると、ロイは秒読みを始めた。
「じゃあ行くぞ。3……2……1……テイク1!」
マリオが走り出す。次の瞬間、ピュン!ファルコがブラスターを撃った。
「痛ぇ!!」
マリオは身をよじる。始まって早々、当たってしまったようだ。
「あ、悪い悪い。」
口ではそう言ったものの、ファルコに悪びれた様子はなかった。
「お前、当てる気満々だっただろう……。」
フォックスが呆れて言った。しかし、こうなることを予見していながら何も言わなかったフォックスも同罪かもしれない。
そうこうしながらも、なんとか撮影が終了した。
「じゃあスネーク。今まで撮ったシーンを上手い具合に繋げてくれ!俺が走り抜けているように、上手にな!!」
マリオが言うと、スネークは呆けた顔をした。が、すぐにマリオを睨みつける。
「は……?まさか、動画編集も俺にさせる気か?」
「YES!」
「おい、」
「スネーク!よろしくねー!!」
スネークは拒否しようとしたが、文句を言う隙もなく、カービィがキラキラした目で言った。
「スネーク、ビデオ作れるの!?すごいすごい!!」
「すごーい!!」
更に、カービィの隣でゼニガメとピチューが無垢な目でスネークを見つめる。
「こら、ゼニガメ……。」
フシギソウが控えめにゼニガメを叱責するが、純粋な子供に期待のまなざしを向けられては、もはやスネークに逃げ場はない。
「ま、スネークが編集をするなら、心配はいらないわね。」
「頼んだぜ、スネーク!」
「く……。」
その上、サムスやソニックにも裏切られ、丸め込まれる形でスネークが編集を行うことになった。
「じゃあみんな、お疲れさん。解散としようか!!」
そう言うと、マリオはその場を去っていった。それを見送ってしまってから、スネークは我に返った。
「待てマリオ!お前、監修すらしない気か!!」
だがマリオの姿はもうない。他に頼れそうな人も、いつの間にかいなくなってしまっていた。気付くと、リンクが残っているだけだった。
「みんな行っちゃったね……。……手伝ってあげたいのはやまやまだけど、オレ、機械は全然分からないから……。頑張ってね、スネーク。」
スネークはもう何も言わず、うなだれた。
数日後。スネークは動画編集を完了させ、みんなで鑑賞することになった。
「どんなものになっていても文句言うなよ。」
スネークはスクリーンに映像を映した。
マリオが現れた。アピールしながらかっこつけて登場する。そして、走り出した。リンクとゼルダが現れる。リンクがマリオに襲い掛かった。リンクが剣を振り下ろすと、マリオはそれとは逆によけ、リンクを攻撃する。ここまではよかった。……そう、ここまでは。リンクに攻撃を避けられた後、マリオにディンの炎が肉薄した。マリオはそれで吹き飛ばされた。だが、再び立ち上がって走り出した。今度はフォックスとファルコが現れる。いきなり撃たれた。痛みに身をよじるが、再び走る。アイスクライマーの登場。向かって行くと、ナナのアイスショットにぶつかり、それに怯んだところをポポにハンマーで殴られた。それでもマリオは走る。
次に現れたのはサムスだった。現れた途端、サムスは最大まで溜めたチャージショットを撃った。マリオはぎょっとして逆方向に走った。つまり、チャージショットから逃げた。そのままマリオは走り続ける。
「おい、スネーク!これじゃ、ゴールに辿りつかないじゃないか!」
マリオは思わず声をあげた。
「文句を言うなと言っただろう。それに……こうしないと、どうしてもサムスのシーンが繋がらなかった。」
スネークはため息を吐いた。
「……なぁ、そこじゃないだろ、言うべきこと……。」
そうなのだ。問題は別のところにあった。マリオが文句を言う間もムービーは続いていた。その内容が……アイクやマルス、ロイが出てくると、マリオはアイクやロイに斬りつけられた。ポケモン達からはでんきショックやみずてっぽう、はっぱカッターなどを喰らい、ファルコンのパンチに当たり、ピーチでさえもフライパンをマリオに直撃させてしまい…………早い話が、マリオがひたすらやられる動画が完成していた。
「これは……フフッ、傑作ね。」
ムービーが終了すると、サムスが笑い出した。それにつられてロイが爆笑する。
「これならマリオが主人公でもいいや。つーか、俺じゃなくてよかった。」
「スネーク……俺への嫌がらせか?」
マリオがイライラとスネークを睨みつけた。スネークはやはり疲れた顔をして答えた。
「マリオ。あの撮影ははっきり言って失敗だ。成功していたのは、初めのリンクとの対決のみ。お前、撮影時、攻撃を喰らわなかったことあったか?あの撮影で、お前が勝ち進むなんていう動画は無理だ。むしろ、あのつぎはぎみたいな撮影をここまで繋げたことに感謝しろ。」
「まじか……。」
「ま、まぁ、スマッシュブラザーズの紹介ムービーとしては上出来じゃないかな。みんなの活躍を上手く繋げているからね。」
落ち込むマリオを励まそうとマルスが言った。確かに、マリオが最初に述べた目的は、スマッシュブラザーズを知ってもらうことだった。それを考慮すれば、目的は達成できたといえる。だが、マリオは落ち込んでいた。
「俺の活躍は……?」
「設定ミスだね。そもそも、自分をかっこよく見せる動画を作ろうって企んでたんでしょ?そんなことを目論むこと自体が間違ってるよ。」
ネスが冷たく言った。しかし、設定ミス、と聞いてマリオの動きが止まった。マリオはしばらく考え込む。そして、パッと顔を輝かせた。
「……じゃあ、もう一度、」
「二度目はないぞ。」
だが、メタナイトに一刀両断され、マリオは再びうなだれることになった。
「マルスの言う通り、いい記念作品ができたと思えばいいじゃない。ね、マリオ。」
ピーチが諭すと、マリオは顔を上げ、ハハハ、と笑った。
「ま、共同作品としてはいいか……。」
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「なぁなぁ、俺らの紹介ムービーみたいなの作らないか?」
事の発端は、マリオのこの一言だった。
「兄さん、何それ?」
ルイージは、呆れたように言った。マリオの突拍子な発言は今に始まったことではない。だが、その場にいたメンバーは何を言い出すのかとマリオを見るのみだ。それに対し、呆れていてもすぐに対応するルイージは、慣れたものである。
「何それって、そのままだよ。俺達がどんな集団で、何をやっているのか誰かに知ってもらうための映像を作るんだ。ストーリーとかつけたら、なかなか面白いものができると思うぞ。」
ルイージの呆れ顔や唖然とするメンバーをものともせず、マリオは力説した。
「それ、スマッシュブラザーズみんなで作るの?」
ルイージにマリオを止める気はなさそうだった。マリオに先を促す。
「当たり前だろ?全員が揃って、はじめてスマッシュブラザーズなんだからな!」
「ってか、誰得?」
驚きから回復したネスが言った。マリオはニヤリとする。
「俺得!」
「………………。」
辺りは静まり返った。流石のルイージも何も言わない。当たり前だ。要するに、マリオは、自分の楽しみのためだけにスマッシュブラザーズ全員を巻き込んで紹介ムービーを作ろうとしているのだ。自分勝手もいいところである。
「コホン。とにかく!作るぞ、紹介ムービー!!」
マリオは冷え切った場の空気を切り替えるように咳払いすると、再びみんなに言った。どうやら、マリオの中では、紹介ムービーを作ることは、決定事項のようだ。
「それ、何の役にも立たないよね?」
ネスはマリオの決意を揺らそうと試みた。だが、時既に遅し。
「でもでも面白そー。みんな呼んでくるね!」
カービィはそう叫ぶと、勢いよくみんなの部屋を出て行ってしまったのだ。
「あーあ……。」
「これはやる流れだな。」
「全く、マリオもめんどくさいこと考えてくれるわよね。」
残されたメンバーは口々に文句を言った。だが、止めようとはしない。止める労力を使うより、好きにやらせた方が疲れない…のかもしれない。
メンバーが全員集められた後、一悶着あったが、紹介ムービーを作る方向で話がまとまった。
「で、構成は?まさか、一からみんなで考えるとかないだろうな?」
渋々、と言った具合にフォックスが聞いた。すると、マリオが意気揚々と口を開く。
「それは、俺を中心に、」
「待って。」
が、嬉々としたマリオの声は、サムスに遮られた。サムスは嫌そうな顔をしている。
「まさか、主役はあなた?」
「当然☆」
サムスの指摘に、マリオはにっこり笑って答えた。
「論外だっ!」
「おい、論外ってどういうことだよ。主役はニンテンドーの顔の俺に決まっているだろ!」
マリオが言うと、場は騒然となった。
「えー、ボク主役したい!」
「主役の座は譲れないぜ?」
「ぼくだって主人公したい!」
「僕/私達だって!」
「ボクもー!」
「おいおい、そこは大人の俺を立ててだな、」
「大人なら子供に譲るのが常識でしょ!!」
激しい言い争いが勃発した。自然と、言い争うメンバーとそれを遠巻きに眺めるメンバーに分かれる。
「なんか…いつかを思い出すような風景だね…。」
トレーナーが呟いた。いつかとは、リーダーを決める争いをした時だ(『リーダーは誰だ!?参照』)。しかし今回は、主役をやると言い出したマリオと、それに反対するメンバーの言い争いなので、構図は少々異なる。だが…自分が主役になろうとしているという点では、共通しているようだ。
「ったく、どーでもいいが、本当に作るのか?」
本当にどうでもよさそうにファルコが言った。どうでもいいどころか、うんざりした様子だ。ムービー作成を止める気力はなかったが、やる気はないらしい。
「作らないという選択肢はなさそうだけど……。」
ピカチュウがファルコを気にしながら言った。ファルコはため息を吐く。
「ファルコ、諦めろ。」
フォックスが苦笑して言った。そして、言い争うメンバーに目を向ける。残りの人も、そちらに目をやった。
「全員が主役、じゃダメなのかな……?」
困ったように言い争う人達を見つつ、リンクが呟いた。そのつぶやきを聞き取ったスネークは両手を上げた。
「それでいけんこともないと思うが……あの調子じゃなぁ……。」
結局、マリオが主役になった。また、映像の構成もマリオのイメージを使用することに決まった。……というより、ほとんどの人が考えることを放棄した。メンバーは外に出て、撮影の準備をした。一通り準備ができると、マリオは指示を出し始めた。
「まず最初は俺とリンクとゼルダのシーンな。リンクとゼルダは前に出てきてくれ。」
言われたリンクとゼルダはマリオの前に立った。
「言い忘れていたけど、筋書きはこうだ。俺がみんなに戦いを挑んで、勝ち進む。」
「……納得いかないわ。」
サムスがこぼした。ファルコンは苦笑いして、サムスを諫める。
「まぁ、これは作り話だからな。我慢しろよ。」
サムスはイライラと首を振った。しかし、それ以上は何も言わなかった。
「じゃー、俺が走っていくから、リンクとゼルダは協力して俺を倒すフリをしてくれ。くれぐれも当てるなよ!」
「分かりました。」
リンクはただ頷いた。
「えー、マリオ、そこは本気で来てもらって避けなきゃ。」
ネスが茶々を入れた。
「いいんだよ!ここはコンの中じゃないんだ、もしもがあったら大変だろ!」
「じゃあ撮るからな。マリオ、好きなタイミングで行ってくれ。」
カメラマン役に任命されていたスネークが言った。そうしなければ、なかなか始まらないだろう。
「じゃあっ!」
マリオは走り出した。目の前で構えているリンクに向かっていく。リンクが剣を振るう。マリオは右へ左へと避ける。リンクは、マリオが動くタイミングに合わせて、それと逆方向に剣を振り下ろした。マリオが跳んで、リンクに上から殴りかかる。反射的にリンクは横っ飛びして避けた。拳が地面に叩きつけられる。マリオは舌打ちしてリンクを睨みつけた。そこへディンの炎が迫る。マリオがそれに気づき、避けようとするが……バァーン!ディンの炎はマリオに直撃した。
「カット、カァーット!!」
ロイが叫んだ。
「マリオ、ダメじゃん。」
ポポが笑って言った。そして、意地悪くナナが言う。
「やっぱり主役、代わる?」
「代わらねぇよ!」
「マリオ、大丈夫?」
ピーチがマリオの側にやって来た。立ち上がりながら、マリオは頭をかいた。
「あぁ。みっともないとこ見せたな。」
「マリオさん!」
そこへゼルダが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?すみません、私としたことが、つい……」
“リンクがやられているように見えるやり方に、つい腹を立てて本気でいってしまいましたわ……!!”
「い、いや……避けられなかった俺にも非はあるからさ……。」
嫌な汗を感じながら、マリオは答えた。
“なんか、ゼルダから黒いオーラが出ているような気が……。”
「なぁ、マリオ。」
フォックスがマリオに近づいてきた。
「やっぱり、その場で臨機応変に、じゃなくて、動きを決めないか?そうじゃないと、今みたいなアクシデントが多発すると思うんだが……。」
「いや!それだとどこか不自然になる。どうしても演技になるからな!俺は、自然な動画が撮りたいんだ!!」
フォックスの提案は、あっさり却下された。
「自然なって……。」
“お前が勝ち進むという設定自体に無理がある気がするんだが……。”
スネークの心の声は、マリオには届かなかった。更にマリオの主張は続く。
「第一、がんばればできるだろう!証拠に、リンクとは上手くいったんだからな!」
それを聞いたリンクは苦笑いした。
“……オレはいつもやっていることだから慣れてるけど。みんなには難しいと思うよ。”
「リンク、ゼルダとのシーンは撮れたことにしよう。次はフォックスとファルコだ!」
「はいはい。」
「はぁ……俺かよ……。」
マリオに呼ばれた二人は前に出てきた。フォックスは諦めつつも、仕事を全うしようとしていた。だが、ファルコは……言うまでもないだろう。
「で?俺達もお前を狙いつつ、外せばいいんだな?」
フォックスが話を先に進める。マリオは大きく頷いた。
「俺はここを走り抜けるから、当てないように撃ってくれ。」
「めんどくせぇ。」
ファルコは銃を構えた。
「さっさとしろ。当たりそうになっても避けろよ。」
「ハハッ……。」
フォックスは乾いた笑いを漏らした。そして、この先の展開を予測してため息を吐いた。だが、それには一切触れなかった。
フォックスはロイを見た。
「ロイ、今回は俺達もタイミングを計りたい。秒読みを頼む。」
「え?俺、そういう役?」
ロイは驚いてフォックスを見た。少し寂しそうだ。
「ちゃんと出番はあるだろうから、やってくれ。さっきもカット入れてただろ。」
やれやれといったようにフォックスが言うと、ロイはホッとしたようだった。
「あぁ……了解。」
そして、ロイは三人とスネークが準備完了かを確認する。大丈夫そうだと判断すると、ロイは秒読みを始めた。
「じゃあ行くぞ。3……2……1……テイク1!」
マリオが走り出す。次の瞬間、ピュン!ファルコがブラスターを撃った。
「痛ぇ!!」
マリオは身をよじる。始まって早々、当たってしまったようだ。
「あ、悪い悪い。」
口ではそう言ったものの、ファルコに悪びれた様子はなかった。
「お前、当てる気満々だっただろう……。」
フォックスが呆れて言った。しかし、こうなることを予見していながら何も言わなかったフォックスも同罪かもしれない。
そうこうしながらも、なんとか撮影が終了した。
「じゃあスネーク。今まで撮ったシーンを上手い具合に繋げてくれ!俺が走り抜けているように、上手にな!!」
マリオが言うと、スネークは呆けた顔をした。が、すぐにマリオを睨みつける。
「は……?まさか、動画編集も俺にさせる気か?」
「YES!」
「おい、」
「スネーク!よろしくねー!!」
スネークは拒否しようとしたが、文句を言う隙もなく、カービィがキラキラした目で言った。
「スネーク、ビデオ作れるの!?すごいすごい!!」
「すごーい!!」
更に、カービィの隣でゼニガメとピチューが無垢な目でスネークを見つめる。
「こら、ゼニガメ……。」
フシギソウが控えめにゼニガメを叱責するが、純粋な子供に期待のまなざしを向けられては、もはやスネークに逃げ場はない。
「ま、スネークが編集をするなら、心配はいらないわね。」
「頼んだぜ、スネーク!」
「く……。」
その上、サムスやソニックにも裏切られ、丸め込まれる形でスネークが編集を行うことになった。
「じゃあみんな、お疲れさん。解散としようか!!」
そう言うと、マリオはその場を去っていった。それを見送ってしまってから、スネークは我に返った。
「待てマリオ!お前、監修すらしない気か!!」
だがマリオの姿はもうない。他に頼れそうな人も、いつの間にかいなくなってしまっていた。気付くと、リンクが残っているだけだった。
「みんな行っちゃったね……。……手伝ってあげたいのはやまやまだけど、オレ、機械は全然分からないから……。頑張ってね、スネーク。」
スネークはもう何も言わず、うなだれた。
数日後。スネークは動画編集を完了させ、みんなで鑑賞することになった。
「どんなものになっていても文句言うなよ。」
スネークはスクリーンに映像を映した。
マリオが現れた。アピールしながらかっこつけて登場する。そして、走り出した。リンクとゼルダが現れる。リンクがマリオに襲い掛かった。リンクが剣を振り下ろすと、マリオはそれとは逆によけ、リンクを攻撃する。ここまではよかった。……そう、ここまでは。リンクに攻撃を避けられた後、マリオにディンの炎が肉薄した。マリオはそれで吹き飛ばされた。だが、再び立ち上がって走り出した。今度はフォックスとファルコが現れる。いきなり撃たれた。痛みに身をよじるが、再び走る。アイスクライマーの登場。向かって行くと、ナナのアイスショットにぶつかり、それに怯んだところをポポにハンマーで殴られた。それでもマリオは走る。
次に現れたのはサムスだった。現れた途端、サムスは最大まで溜めたチャージショットを撃った。マリオはぎょっとして逆方向に走った。つまり、チャージショットから逃げた。そのままマリオは走り続ける。
「おい、スネーク!これじゃ、ゴールに辿りつかないじゃないか!」
マリオは思わず声をあげた。
「文句を言うなと言っただろう。それに……こうしないと、どうしてもサムスのシーンが繋がらなかった。」
スネークはため息を吐いた。
「……なぁ、そこじゃないだろ、言うべきこと……。」
そうなのだ。問題は別のところにあった。マリオが文句を言う間もムービーは続いていた。その内容が……アイクやマルス、ロイが出てくると、マリオはアイクやロイに斬りつけられた。ポケモン達からはでんきショックやみずてっぽう、はっぱカッターなどを喰らい、ファルコンのパンチに当たり、ピーチでさえもフライパンをマリオに直撃させてしまい…………早い話が、マリオがひたすらやられる動画が完成していた。
「これは……フフッ、傑作ね。」
ムービーが終了すると、サムスが笑い出した。それにつられてロイが爆笑する。
「これならマリオが主人公でもいいや。つーか、俺じゃなくてよかった。」
「スネーク……俺への嫌がらせか?」
マリオがイライラとスネークを睨みつけた。スネークはやはり疲れた顔をして答えた。
「マリオ。あの撮影ははっきり言って失敗だ。成功していたのは、初めのリンクとの対決のみ。お前、撮影時、攻撃を喰らわなかったことあったか?あの撮影で、お前が勝ち進むなんていう動画は無理だ。むしろ、あのつぎはぎみたいな撮影をここまで繋げたことに感謝しろ。」
「まじか……。」
「ま、まぁ、スマッシュブラザーズの紹介ムービーとしては上出来じゃないかな。みんなの活躍を上手く繋げているからね。」
落ち込むマリオを励まそうとマルスが言った。確かに、マリオが最初に述べた目的は、スマッシュブラザーズを知ってもらうことだった。それを考慮すれば、目的は達成できたといえる。だが、マリオは落ち込んでいた。
「俺の活躍は……?」
「設定ミスだね。そもそも、自分をかっこよく見せる動画を作ろうって企んでたんでしょ?そんなことを目論むこと自体が間違ってるよ。」
ネスが冷たく言った。しかし、設定ミス、と聞いてマリオの動きが止まった。マリオはしばらく考え込む。そして、パッと顔を輝かせた。
「……じゃあ、もう一度、」
「二度目はないぞ。」
だが、メタナイトに一刀両断され、マリオは再びうなだれることになった。
「マルスの言う通り、いい記念作品ができたと思えばいいじゃない。ね、マリオ。」
ピーチが諭すと、マリオは顔を上げ、ハハハ、と笑った。
「ま、共同作品としてはいいか……。」
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