短編の短編~学パロ~
「リンク君!」
オレが昇降口で靴を履いていると、聞きなれた――聞きなれたくなかったが――声がした。
「マルス先輩……どうしたんですか?」
オレは笑みを貼りつける。が、簡単に偽の笑みだと気付かれてしまった。
「そんな、無理して笑わなくてもいいんだよ。それで、今日、一緒に帰らない?」
「……………。」
ダメ、とは言えないしなぁ……。……あれ?
「先輩、今日部活あるんじゃないですか?」
「あるけどね。ロイに、今日、弓道部は休みだって聞いて抜けてきちゃった。」
「ロイ………。」
思わず低い声が出る。が、小声だったのでマルス先輩には聴こえてない……はず。ロイは後でとっちめよう。とりあえず今は、マルス先輩だ。
「部活さぼっていいんですか?剣道部は厳しいって聞いてますけど。」
「まぁね。でも、一日くらいさぼったって、エースの僕だから大丈夫だし。あ、でも、見つかると連れ戻されちゃうから、早く行こう。」
そう言うなり、マルス先輩はオレの手を引いて走り出した。
「ちょっと、マルス先輩!手、放してください!ちゃんと走りますから!」
「えー、それで逃げられても困るしなぁ。君、逃げ足速いし。」
あ、その手があった!でも今更遅いか……。
「逃げませんから!放してください!」
「お断りするよ。」
「え……。」
バッサリ切り捨てられてしまった。門を出る。右に曲がった。……え、右?
「マルス先輩、オレの家、逆なんですけど……。」
「あぁ、そうなの?それはいいこと聞いた。実は僕もそっちなんだ。だけど、そっちには何もないだろう?ちょっとお茶でもって思ってさ。」
一緒に帰るだけじゃなかった!!それにしても……これなら逃げられるかも?
「あの……今オレ、大したお金持ってません。」
「大丈夫、僕がおごるから。」
「悪いです!!」
「遠慮しない、遠慮しない!それとも何?先輩の命令が聞けないって?」
「いつから命令になったんですか!」
「さぁ?」
ニコニコとマルス先輩は言ってのける。オレらはもう歩くスピードになっていた。……手はつないだまま。
「あの、手……。」
「ダーメ、リンク君逃げるから。それに、もう着くよ。」
そんなこんなで、結局喫茶店に連れ込まれてしまった。お店に入って、ようやく手は放してくれたけど。
「いらっしゃいませ。ご注文は何になさいますか?」
「僕はアイスコーヒーで。リンク君は?」
「ア、アイスティーをお願いします。」
「かしこまいりました。」
店員はちょっと頬を赤らめて、注文をとると、奥に引っ込んでしまった。
「それだけでよかったの?遠慮しなくていいんだよ?あ、もしかして僕に合わせてくれた?」
「いえ、そのつもりは……。後、自分の分はちゃんと払うんで、」
「リンク君。こういう時は素直にありがとうございますって言うもんだよ。」
「ですが……。」
「あ、注文の品、来たね。」
オレの前にアイスティーが、マルス先輩の前にアイスコーヒーが並べられた。そこからは苦痛の時間だった。マルス先輩は話し上手だ。だから、沈黙がおりて、気まずくなるということはない。が……そもそもオレはマルス先輩が苦手だ。だから…先輩のペースに飲み込まれるのに抵抗があるというかなんというか……。
「さっきから全っ然笑ってくれないねぇ……。そんなに僕のことがキライ?」
そんなことを考えていると、そんな言葉がかけられた。ハッとした。いけないけない。いくら苦手でも、相手が不快に感じるようなことは避けなければ。オレは無理やり笑って、マルス先輩を見た。が、マルス先輩は言葉の割には悲しんでも怒ってもいなさそうだった。いつものように――いや、いつも以上に――ニコニコと笑って、その様は、まるで――楽しんでいるように見えた。
「さっきも言ったけど。無理して笑わなくてもいいんだよ。この僕が、自然と笑えるようにしてあげるから。」
オレは思わず笑みを消した。ゾッとした。どうしてかは分からないけど。
「さぁ、そろそろ帰ろうか。」
マルス先輩は立ち上がった。自然と伝票を手に取る。
「あ、先輩、オレの分、払います。」
財布を取り出しながら言う。
「往生際が悪いよ、リンク君。それに君、今お金ないんでしょ?」
「アイスティー代くらいならあるので、」
「まぁ、ここは先輩を立てて、僕に払わせてよ。あ、お勘定お願いします。」
結局、先輩に払われてしまった。
店を出て、学校を通り過ぎ、次の分かれ道で先輩と別の方向だったらしく、別れた。正直ほっとした。家にようやくたどり着いた。……疲れた……。ベッドに横になる。ご飯作らなきゃ……。……でもその前に。オレは時計を見た。……もう帰っているかな。オレは電話を取り出し、かけた。相手はもちろん……
「もしもし?リンク、どうした?」
ロイだ。
「ロイ!どうしてオレが休みって、マルス先輩に言ったの!?」
「う……マルス先輩言っちゃったのかよ……。悪かったって。俺、マルス先輩に弱み握られててさ、逆らえないんだよ……。だからさ、リンク。今度からマルス先輩に言われて困ることは俺に言わないでくれ!そしたら俺も、堂々と知らないって言い張れる!」
「そんなこと言ったって……。ロイ、君とは毎日昼食を、」
「あ、そのことなんだけどさ。悪い、明日から先輩らも一緒だ。」
「……明日から教室で食べていい?」
「マルス先輩のことだから、お前のこと教室まで迎えに行くと思うぜ。」
「……………。」
オレは天井を仰いだ。
「……オレ、どうしてマルス先輩にそこまで追い回されてるの……?」
「俺に聞かれても……。まぁ、悪い人ではないんだからさ。」
「それは分かるんだけど……。」
「じゃ、俺、明日も朝練あるから切るぜ。」
「……うん、またね。」
「あぁ。明日、絶対来いよ。」
電話が切れた。オレはため息を吐いた。
.
オレが昇降口で靴を履いていると、聞きなれた――聞きなれたくなかったが――声がした。
「マルス先輩……どうしたんですか?」
オレは笑みを貼りつける。が、簡単に偽の笑みだと気付かれてしまった。
「そんな、無理して笑わなくてもいいんだよ。それで、今日、一緒に帰らない?」
「……………。」
ダメ、とは言えないしなぁ……。……あれ?
「先輩、今日部活あるんじゃないですか?」
「あるけどね。ロイに、今日、弓道部は休みだって聞いて抜けてきちゃった。」
「ロイ………。」
思わず低い声が出る。が、小声だったのでマルス先輩には聴こえてない……はず。ロイは後でとっちめよう。とりあえず今は、マルス先輩だ。
「部活さぼっていいんですか?剣道部は厳しいって聞いてますけど。」
「まぁね。でも、一日くらいさぼったって、エースの僕だから大丈夫だし。あ、でも、見つかると連れ戻されちゃうから、早く行こう。」
そう言うなり、マルス先輩はオレの手を引いて走り出した。
「ちょっと、マルス先輩!手、放してください!ちゃんと走りますから!」
「えー、それで逃げられても困るしなぁ。君、逃げ足速いし。」
あ、その手があった!でも今更遅いか……。
「逃げませんから!放してください!」
「お断りするよ。」
「え……。」
バッサリ切り捨てられてしまった。門を出る。右に曲がった。……え、右?
「マルス先輩、オレの家、逆なんですけど……。」
「あぁ、そうなの?それはいいこと聞いた。実は僕もそっちなんだ。だけど、そっちには何もないだろう?ちょっとお茶でもって思ってさ。」
一緒に帰るだけじゃなかった!!それにしても……これなら逃げられるかも?
「あの……今オレ、大したお金持ってません。」
「大丈夫、僕がおごるから。」
「悪いです!!」
「遠慮しない、遠慮しない!それとも何?先輩の命令が聞けないって?」
「いつから命令になったんですか!」
「さぁ?」
ニコニコとマルス先輩は言ってのける。オレらはもう歩くスピードになっていた。……手はつないだまま。
「あの、手……。」
「ダーメ、リンク君逃げるから。それに、もう着くよ。」
そんなこんなで、結局喫茶店に連れ込まれてしまった。お店に入って、ようやく手は放してくれたけど。
「いらっしゃいませ。ご注文は何になさいますか?」
「僕はアイスコーヒーで。リンク君は?」
「ア、アイスティーをお願いします。」
「かしこまいりました。」
店員はちょっと頬を赤らめて、注文をとると、奥に引っ込んでしまった。
「それだけでよかったの?遠慮しなくていいんだよ?あ、もしかして僕に合わせてくれた?」
「いえ、そのつもりは……。後、自分の分はちゃんと払うんで、」
「リンク君。こういう時は素直にありがとうございますって言うもんだよ。」
「ですが……。」
「あ、注文の品、来たね。」
オレの前にアイスティーが、マルス先輩の前にアイスコーヒーが並べられた。そこからは苦痛の時間だった。マルス先輩は話し上手だ。だから、沈黙がおりて、気まずくなるということはない。が……そもそもオレはマルス先輩が苦手だ。だから…先輩のペースに飲み込まれるのに抵抗があるというかなんというか……。
「さっきから全っ然笑ってくれないねぇ……。そんなに僕のことがキライ?」
そんなことを考えていると、そんな言葉がかけられた。ハッとした。いけないけない。いくら苦手でも、相手が不快に感じるようなことは避けなければ。オレは無理やり笑って、マルス先輩を見た。が、マルス先輩は言葉の割には悲しんでも怒ってもいなさそうだった。いつものように――いや、いつも以上に――ニコニコと笑って、その様は、まるで――楽しんでいるように見えた。
「さっきも言ったけど。無理して笑わなくてもいいんだよ。この僕が、自然と笑えるようにしてあげるから。」
オレは思わず笑みを消した。ゾッとした。どうしてかは分からないけど。
「さぁ、そろそろ帰ろうか。」
マルス先輩は立ち上がった。自然と伝票を手に取る。
「あ、先輩、オレの分、払います。」
財布を取り出しながら言う。
「往生際が悪いよ、リンク君。それに君、今お金ないんでしょ?」
「アイスティー代くらいならあるので、」
「まぁ、ここは先輩を立てて、僕に払わせてよ。あ、お勘定お願いします。」
結局、先輩に払われてしまった。
店を出て、学校を通り過ぎ、次の分かれ道で先輩と別の方向だったらしく、別れた。正直ほっとした。家にようやくたどり着いた。……疲れた……。ベッドに横になる。ご飯作らなきゃ……。……でもその前に。オレは時計を見た。……もう帰っているかな。オレは電話を取り出し、かけた。相手はもちろん……
「もしもし?リンク、どうした?」
ロイだ。
「ロイ!どうしてオレが休みって、マルス先輩に言ったの!?」
「う……マルス先輩言っちゃったのかよ……。悪かったって。俺、マルス先輩に弱み握られててさ、逆らえないんだよ……。だからさ、リンク。今度からマルス先輩に言われて困ることは俺に言わないでくれ!そしたら俺も、堂々と知らないって言い張れる!」
「そんなこと言ったって……。ロイ、君とは毎日昼食を、」
「あ、そのことなんだけどさ。悪い、明日から先輩らも一緒だ。」
「……明日から教室で食べていい?」
「マルス先輩のことだから、お前のこと教室まで迎えに行くと思うぜ。」
「……………。」
オレは天井を仰いだ。
「……オレ、どうしてマルス先輩にそこまで追い回されてるの……?」
「俺に聞かれても……。まぁ、悪い人ではないんだからさ。」
「それは分かるんだけど……。」
「じゃ、俺、明日も朝練あるから切るぜ。」
「……うん、またね。」
「あぁ。明日、絶対来いよ。」
電話が切れた。オレはため息を吐いた。
.