これが僕らのありがとう

拝啓 パルテナ様へ
僕は今日、カービィとお出かけをしてきました。そこで、とても感心することがあったんです。


そこまで書いて、ピットは一息吐いた。

「本当、カービィのこと見直したよ。」





僕、ピットはカービィと一緒に街に来ていた。

「ね!ピット!買おうよぉー!!あれすごくおいしそー!!」

…もう何度目になるかわからないカービィのおねだりに、僕はとうとう折れた。

「……それだけだよ?」

そして、お金を渡す。

「わぁい!ありがと、ピットー!!」

にこぉと笑い、カービィは店の方に走っていった。…おつかいの途中だけど、ま、いっか。カービィもすごく喜んでるし、うん。ふとカービィを見やると、カービィは丁度店員さんからクレープを受け取っているところだった。

「ありがとう、店員さん!またねーっ!!」

…あれ?僕は首を傾げた。その間にもカービィはこっちに向かってきている。カービィの持っているクレープは普通のクレープ。別段変わったところはない。

「はい、ピット!おつり!」

「え、あぁ、うん。」

僕はカービィからおつりを受け取る。あ、もしかして…

「カービィ、そのクレープ、まけてもらった?」

「え?そんなはずないけど…290円って書いてあったよ?」

えーと、僕がカービィに渡したのは300円で、戻ってきたおつりは10円だから…うん、正しい計算だ。

「じゃあ、何か特別なクレープ?」

「んー?別にいつもと変わんないよ?なんで?」

いつもと、ってカービィ、そんなしょっちゅう食べてるの…じゃなくて、普通だったらなんで「ありがとう」なんだろう…。




その後もカービィのありがとうは続いた。
八百屋さんで買ってありがとう。
魚屋さんで買ってありがとう。
お肉屋さんで買ってありがとう。




「はい、お金!ありがとう!」

「はいよ。また来てくださいな。」

最後のお店でも、やっぱりカービィはありがとうを言った。どうして?お金を払っただけの商品をもらっているだけなのに。




帰り道、僕はその疑問をカービィにぶつけた。

「え、なんでって?だって、いいことをしてもらったらお礼を言うのは基本でしょ?メタもよく、ちゃんとお礼を言いなさいって言ってるし。」

「そうだけど。お金を払っているのは僕らで、お礼を言われるのは僕らなんじゃないの?」

「お金なんて関係ないよー。八百屋さんだったら野菜をくれるし、魚屋さんだったら魚をくれる。それなのにお礼を言わないのは変だよ。それに、ありがとうはみんなをニコニコさせる魔法の言葉なんだよ。いっぱい言わなくちゃ、損!!だからボクは、何かしてもらったら、絶対ありがとうって言うんだ。」

確かに、やってもらったことに対してお礼を言わないのは変だな…。それに、魔法の言葉、か…。ピットは今日のことを思い返してみた。クレープ屋さんも八百屋さんも、他のどんなお店でも、カービィがありがとうと言った瞬間に顔が明るくなっていた気がする。ありがとうは言われて嫌な言葉じゃないし、そもそもお金を払っているからと言って言っちゃいけない言葉じゃない。そうだ、僕はなんておかしな思い込みをしていたんだろう。




いい言葉だと知っていても、なかなか言えないありがとうという言葉。でも、カービィみたいにちょっとしたことでも言えたら、世界は一変しますよね。僕もカービィを見習って、たくさんありがとうを使いたいと思います。 
敬具 ピットより
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