一番怖いのは……

そして、リンクが寝込んでしまった朝に戻る。

「ふぁー………ハッ。」

トレーナーはガバッと起き上った。

「……ここ……。」

“……会場の、僕の部屋?”

「おはよー、レッド!」

ゼニガメがトレーナーに飛びついた。

「お、おはよう……。」

ゼニガメへの挨拶もそこそこに、トレーナーは隣を見た。リザードンは寝ていた。その隣にフシギソウが座っていた。トレーナーが困惑しているのを察したらしい。

「昨日、途中で寝ちゃったみたいだね。リザードンがレッドを抱えて帰って来たよ。」

「あ……そうか……。……リザードン、ありがとう。」

トレーナーはちょっと伸びをした。

「さて、と。2人はもうご飯食べた?」

「うん、食べてきた!」

元気よくゼニガメは答えた。トレーナーはフシギソウを見た。

「僕はまだ。でも、リザードンを待つよ。」

「そっか、分かった。じゃあ、先に食べるね。」

トレーナーは部屋を後にした。



「おはよう、トレーナー。」

トレーナーがみんなの部屋に入ると、フォックスが声をかけた。

「おはよう。」

それにトレーナーも挨拶を返す。

「昨日の急用ってなんだったんだ?」

「急用……?」

トレーナーは一瞬首を傾げた。が、すぐに合点のいった顔をした。

「あぁ、それは秘密。」

「……秘密ってなぁ……。」

「そのうち教えてあげるよ。ところで……今日は珍しく人が少なくない?」

トレーナーは朝に強い方ではない。よって、トレーナーが起きる頃には多くのメンバーがすでに朝食をとりに来ているのが普通だ。だが、この日は、フォックスとスネークしか部屋にいなかった。トレーナーに指摘され、フォックスは顔をしかめた。

「あぁ……バテたらしい。」

「なんで?」

「本気のリンクと戦って、だ……。」

答えたのはスネークだった。恨めしそうにフォックスが声を出す。

「……誰のせいだよ。」

「悪いとは思っている!しかし……断れなかった……。」

あわててスネークは弁解した。

「……なんで?」

そう聞くトレーナーの声は棘があった。

「言わせるな。……マリオとロイ、意外と怖いぞ。」

“ちゃっかり言ってるじゃないか。”

「おはよう、諸君!」

そこへ、噂のご本人、マリオが登場した。

「……おはよう……。」

トレーナーは気のない返事を返した。

「……ん?今日は出かけるんじゃなかったのか?」

「え?あぁ、今日じゃない。明日だ。」

「マリオ、出かけるんだ。一人で?」

トレーナーはマリオが出かけると聞き、目の色を変えた。だが、それに気付いたものはいなかった。

「いや、ルイージと一緒だ。」

“……なんだ……ルイージと一緒か……。でも、当たり前か……。”

「いつ戻るんだ?」

スネークが聞いた。

「明日の夕飯には戻るつもりでいる。」

「うわっ、寝過ごしたっ!」

その時、ロイが飛び込んできた。

「今日の朝食はなんだっ?」

「パンとおにぎりとサラダ。」

ロイの問いに、フォックスが短く答えた。

「あ、そっか。なら、食いながら行けるな!」

ロイはそう言いながら、パンを数個とり、おにぎりをほおばった。

「……何をそんなに急いでいる?」

スネークが不思議そうに聞いた。

「国から呼ばれたんだよ!明日大事な会議があるからって!それが、しかも今日から準備しねぇと間に合いそうになくってさ!」

あたふたとロイは部屋を出ようとした。トレーナーはハッとし、あわてて声をかけた。

「ねぇ!いつ帰ってくるの?」

「さぁな!明日の夕食に間に合ったらいい方じゃねぇか!?」

ロイは完全に行ってしまった。

“二人とも明日は夕食まで帰らない……十分時間はある。”

トレーナーは一人企んでいた。
その頃、ようやくカービィがやってきた。

「おはよー……ご飯できてるー?」

カービィは眠そうだった。

「あぁ……ちゃんといつも通りの時間に作ってったぞ、アイツ。」

フォックスはやれやれといった風にため息をついた。

「うわー……リンクもがんばるねぇ……。」

“誰のためだよ!そして、誰のせいだ!”

フォックスはキレかけたが、なんとか心のうちに留めた。

「それにしても、アイツにしては手抜きだな。」

マリオが言うと、フォックスはうなるように言った。

「……お前は知らないかもしれないが……リンクは20戦以上戦わさせられたんだ。疲れるに決まってるだろ。」

“……しかも全勝しやがったしな……。”

スネークはこっそりと思った。

「あーそっか。それはご苦労だったな。まぁ、今までズルしてたのが悪いと思うが。」

“……絶対覚えときなよ、マリオ……。今にひどい目に合わせるから……。”

「しかも……体調不良で寝込んでいるんだぞ……?」

フォックスの声が低くなった。しかし、マリオはそれに気付かない。

「あーそれは大変だなー。だが、自業自得だろ?」

フォックスはブラスターを取り出して、マリオを撃った。

「もう一回言ってみろ!」

緊急回避でなんとか避けたマリオは眉間に皺を寄せた。

「だから、自業自得だろ?……なんでお前が怒るんだ?」

フォックスがマリオにとびかかった。スネークが慌ててそれを止める。マリオはそのうちに逃げ出した。

「フォックスー、落ち着こう?」

「誰が!誰のせいで!あぁなったと!思ってるんだ!あの赤チビがぁ!!」

カービィの言葉もむなしく、フォックスは口汚くののしった。

「頼むから一度冷静になってくれ!気持ちは分かるが!」

スネークが言うも、フォックスはマリオを追おうとして暴れた。

「フォックス、落ち着いて。……僕が懲らしめてやるから。」

“マリオの方は量を増やそう。”

「「「え」」」

3人の声が重なった。その場の空気が凍る。恐る恐る、カービィが口を開いた。

「……トレーナー、今、何て言ったの?」

「2回も言わない。」

トレーナーはおにぎりを1つとった。

「あ、みんなにはナイショね。」

“……次からトレーナーはリンクのことで怒らせない方がいい……。”

スネークは心にしっかりと刻み込んだ。



次の日の昼食後。トレーナーはポケモン達と一緒に自分の部屋にいた。

「……さてと。やってこようかな。」

言いながら、トレーナーはリュックを持ち上げた。やはり、そのリュックは重そうだった。

「本当にやるのか?」

リザードンは引き返すのなら今だと言外に含めて言った。トレーナーはそれに気付いたかどうかわからなかった。なぜなら彼は、にっこり笑って

「もちろん。」

と言って出て行ってしまったからだ。

「……手伝った方がいいのかな……。」

フシギソウが困ったように言った。が、リザードンは首を振った。

「やめとけ。それでひっかかったら元も子もない。」

「……しばらくマリオとロイの部屋に近づかないでおこう……。」

ゼニガメが言うと、リザードンはフッと笑った。

「お前にしては懸命だな。」

「なんだよ!」

ゼニガメは反発した。



ドン!
その日の夜、大きな音が会場中に広がった。みんなの部屋に居合わせたメンバーは顔を見合わせた。

「今の音はなんだ?」

ファルコンが聞くと、

「各自の部屋がある方から聞こえた気がするよ!」

ピットが答えた。

「……行ってみよう……。」

ルカリオの一言で、3人は音のした方に向かった。



マリオの部屋の前にはマルス、フォックス、ルイージ、ヨッシーがすでにいた。

「……こ、これは一体……。」

マルスが言うと、ヨッシーが同調した。

「ひどい……としかいいようが……。」

「に、兄さん?大丈夫?」

ルイージが呼びかけた。

「大丈夫……じゃねぇ!一歩進むごとに……何かが……襲ってくる……うわ!まだあるのかよ!」

“アイツもすごいことするな……。”

犯人を知るフォックスはこっそりため息をついた。

「た、助けてくれー!」

「そ、そういわれても……。」

「まずはこの岩をどけないとね……。」

なぜ部屋の前でしゃべっていただけなのかというと、実は大岩が部屋の入口を塞いでいたからだ。どうするかな、と各自が思っていると、

「俺に任せろ!」

ピット、ルカリオと共にファルコンがやってきた。そして、

「ファルコーン・パンチ!」

岩を砕いた。ようやく中の様子が見られるようになった。中には倒れたマリオがいた。

「兄さん!」

ルイージがマリオに駆け寄った。

「……何が……あったの……?」

第三者の声がした。リンクが壁にもたれかかっていた。

「リンク!……これは……。」

リンクを刺激しないようにするにはどうしたらいいかと頭を巡らし始めたマルスだったが、隣でフォックスが言葉を引き継いだ。

「何でもない。………ただのイタズラだ。」

「そっか……。! ルイージ、気をつけて!君の左側に罠がズラーッと……。」

「……どんだけしかけたんだよ……。」

フォックスの呆れた声は誰にも聞こえなかった。

「リンク!お前だろ!この前の仕返しに」

「マリオ、彼にそんな体力があると思うかい?」

リンクを責め始めたマリオを、マルスがたしなめた。

「そうだよ!それに……リンク、熱は?」

ピットが心配そうに言った。

「……熱?……ないよ、大丈夫。」

リンクは否定したが、それを信じる気になれなかったマルスがリンクの額に手をやった。

「……嘘だね。リンク、部屋に戻って休」

「うわぁぁあああ!」

マルスの声を遮って、大声がした。フォックスはピンと耳を立てた。

「……今度はロイか。」

「罠の解除はワタシがしよう。ルイージ、ヨッシー、とりあえずマリオを部屋から出してくれ。」

ルカリオが提案すると、ルイージとヨッシーは素直に動いた。

「じゃ、俺達はロイの様子を見に行きますか。」

ファルコンが言うと、残ったメンバーはロイの部屋に移動した。



「うわっ!何だよ!次々と!」

ロイの部屋に行くと、ロイの叫び声が聞こえた。こちらも入口が岩で塞がっているため、中の様子はうかがえない。

「……とりあえず、砕くべきだよな?」

ファルコンが言うと、各自が頷いた。

「ファルコーン・パンチ!」

岩が砕けた。ロイが疲れた表情で座り込んでいるのが見えた。

「……こっちはまだマシだったね。」

ピットの声はロイには聞こえなかった。

「リンクー……疲れたところを狙うのはねぇーよ……。」

「……だから……オレじゃないって……。」

「え!?違うのか!?」

ロイは驚いた顔をした。

「うん、違う。」

そこへトレーナーがやってきた。

「じゃあ誰だよ……。」

しかし、ロイはそれ以上考えることはできなかったようだった。ロイはベッドに倒れ込んだ。そして言う。

「もう寝る。疲れた。おやすみ。」

その他の人は何も言えず、部屋の扉をそっと閉めた。
ロイの部屋の前で話し合いが行われていた。

「……一体誰が……やったんだろう……。」

リンクが弱々しく言った。相変わらず壁を背にもたれている。

「リンク、ここは僕達に任せて、休んだ方が……。」

そんなリンクを心配してマルスが言った。が、リンクは首を振った。

「そんなこと……言ってられない。敵かも……しれないのに。」

「そうか、敵か……。でも、だったらリンクは休んだ方がいいと思う。今のうちに回復した方がいいし。」

ピットが言うと、フォックスがため息を吐いた。

「だからさ、これはイタズラだって。リンク、ここは俺に任せて休め。」

“………読めた。”

「……でも……。」

なおもリンクは渋った。が、マルスがテキパキと指示を出し始めた。

「ピット、リンクを部屋まで連れていってくれるかい?」

「え?分かった。」

一瞬キョトンとしたピットだったが、すぐにリンクを引っ張って部屋に連れていった。疲れがとれきっていないリンクは、それに従わざるをえなかった。

「ファルコン、マリオの方が心配だから、そっちに行ってもらえないかな。」

「いいが……お前らは?」

マルスはにっこり笑った。

「僕達は一度 3人で 状況整理してみるよ。2人とも、それでいいね?」

「あ、あぁ。」

“……分かって言ってるな、コイツ……。”

「……うん。」

“……バレてそうで怖い……。”

「そうか。じゃ、そっちは任せるわ。」

ファルコンはそれで納得したらしく、それだけ言うと行ってしまった。

「さて、一度中庭にでも出ようか。多分、あまり人に聞かれない方がいい話し合いだから。」

マルスは先頭を歩き出した。トレーナーはため息を吐いた。それを横目に見ていたフォックスが言った。

「トレーナー……覚悟を決めといた方がいいと思うぞ。」

トレーナーは弱々しく頷いた。



中庭にやってくると、マルスはくるりとフォックス、トレーナーに向き直った。

「それで、僕が察するに……これは君達の仕業なんじゃないかい?」

「違うよ。」

トレーナーが即答した。マルスは意味ありげにトレーナーを見た。それを確認して、トレーナーは言い直した。

「確かに僕がやった。でも、フォックスは関係ない。フォックスは、今日、何かが起こるということしか知らなかったと思う。」

マルスはやれやれとため息を吐いた。

「そうか。……で、君はどう責任をとるつもりなのかな?黙っておくつもりかい?」

「ううん。明日ぐらいには話すつもり。」

トレーナーが言うと、フォックスが驚きの声を上げた。

「は……?おい、やめとけよ。あいつら、何するか分かんねぇぞ。」

トレーナーは俯いた。

「だけど……このままだと、疑われるのはリンクだから。」

「そう……。この件は君達に任せよう。だけど……トレーナー、どうしてこんなことをしたのか教えてくれないかな?」

マルスが聞くと、トレーナーはギュッと握りこぶしを作った。

「……許せなかったんだ、あの二人が。もちろん、いつかはバレることだってことも、原因を作ったのは僕だってことも……分かってる。だけど……リンクをひっかけた2人が、リンクを騙した2人が許せなかった。」

マルスは険しい顔をして腕を組んだ。

「……トレーナー、君の気持ちは分からなくもない。それどころか、君と似たような気持ちだ。だけどね、こんな風にやってしまったら、君は彼らと変わらない。」

トレーナーはますます恐縮した。が、マルスは優しくトレーナーを撫でた。

「……次からはやり方を考えた方がいいよ、レッド。」

「うん………って、え?」

トレーナーが名前を言われたことに気付いた時にはもう、マルスは行ってしまっていた。フォックスもしばらくポカンとしていた。が、やがて、トレーナーを見た。

「なぁ……今、あいつ、お前の名前……言ったのか?」

トレーナーはハッとした顔をし、ガバッとフォックスに向き直った。

「お願い、フォックス。僕の名前、ここだけの秘密にしておいて……!」

フォックスはトレーナーの勢いに気圧されながらも、頷いた。

「あぁ、かまわないが……何で言わないんだ?」

「……いつでも消えられるように。」

「え?」

フォックスはトレーナーの声をしかと聞いていた。が、トレーナーは聞こえてないと思ったようだった。

「ううん、何でもない。ごめんね、巻き込んじゃって。」

そしてそのまま会場内に戻っていってしまった。



次の日の朝、いつも通りの時間にリンクはよたよたとみんなの部屋に入った。

“あぁ、やっぱり誰もいない……さすがに2日続けて手を抜けないよなぁ……どうしよう。”

リンクはフラフラとキッチンへ入って行った。

“……ホットケーキなら、許してくれるかな……。”

ホットケーキを作っていった。フラフラしながらも、必要な枚数焼いた。

“向こうに運ばなきゃ……でも、落としたら大変だし……カービィに頼もう……。”

やはり足取り悪く、キッチンから出た。

“まだ誰も起きてきてないんだ……。早く部屋に戻りたいけど……待つしかないかな。”

リンクはソファに座った。誰かが来るのを待つはずだったが、睡魔に負け、寝てしまった。



「よぉ!アイク!」

ロイはみんなの部屋に行く道すがら、アイクを見つけ、話しかけた。

「……今日は朝からやけに元気だな。」

アイクが呆れて言うと、ロイは上機嫌で答えた。

「あぁ!昨日、帰ってすぐに寝たからさ、目覚めがいいんだ。」

「……そうか、それはよかった。」

「ところで、俺の愚痴聞いてくれよ!実は昨日――」

ロイはリンクにトラップを仕掛けられたと話した。

「――でさ、ひどいだろー?」

2人はみんなの部屋に入った。

「……悪いが全ては信じられん。」

何かを見つけてアイクは言った。

「なんでだよ?」

ロイは憤慨して言った。

「お前の話ではやったのはリンクだ。が……そんな体力があったとは思えん。」

「なんでそんなこと」

「見てみろ。」

アイクはソファの方を顎でしゃくった。

「……ウッソだろ……珍しー……写真でもとっとくか?」

「やめとけ。またやられるぞ。」

第三者の声がした。スネークがやってきていた。

「あー!やっぱリンクじゃん!」

ロイが叫んだ。

「……は?なんだ、まだ犯人知らないのか。」

「リンクじゃないのか?」

スネークは頷いた。

「じゃあ誰だよ?」

「多分、知らない人にとっては意外な人だよ、ロイ。」

マルスもやってきた。

「……マルス、誰がやったのか知ってるのか?」

「まぁ、ね。だけど、僕は教えないよ。」

ロイは手を剣の柄に持っていった。ロイの行動に気付いたマルスは、ため息を吐いた。

「……大人になろう、ロイ。」

「は?こっちは散々な目に合ったんだぜ?」

「僕は毎日君に散々な目に合されているけれどね。」

マルスはにっこりと笑った。が、目は笑っていない。

「う……わ、わかったよ……。」

「それにしても……そんなところで寝てると、風邪ひくぞ?」

スネークが言うが、リンクは起きない。アイクが無言でリンクに手をのばした。が、はねのけられた。アイクはムッとして前を睨んだ。が、そこにリンクはいなかった。

「リンク、どーしたんだよ?アイクは起こそうとしただけだぜ?」

剣を引き、構えたリンクがいた。

「……ごめん。寝ぼけてて……アイク、大丈夫?オレ……。」

「平気だ。それより……。」

アイクは、トロンとした目のリンクを見やった。

「部屋に戻って休め。」

「そうするよ……。あ、朝はホットケーキね……向こうに置いてあるから……。」

リンクはゆっくりとした足取りで部屋を出て行った。

「……あいつが心配だ。部屋まで連れていく。」

見かねたスネークがリンクを追っていった。

「とりあえず、リンクが作ってくれたホットケーキ、運ぼうか?」

マルスが言うと、2人は頷き、テーブルへ運んだ。

「なんかさ、一皿分くらい減ってないか?」

不審そうにロイがホットケーキを眺めながら言った。アイクが淡々と答えを出す。

「ヨッシーかカービィ、あるいは両方だろう。」

ロイはガクッと肩を落とした。

「ハァ……だろーな……。で、リンクじゃなかったら誰なんだよ?」

ロイはマルスを見やった。その目は射貫くようで、少々怖かった。が、マルスはそれに動じることはなかった。

「……ロイ、君は人を責める前に反省すべきだと僕は思う。」

マルスが言うと、ロイは仏頂面をした。

「ハ?何をだよ?」

「どうしてリンクは疲れ切ってしまったんだろうね?」

事実を突きつけると、ロイはうろたえた。

「……あれは!……確かに悪いとは思うけど……リンクの自業自得だって……。」

ロイはたじたじになりながらも、なんとか言葉を返した。

「自業自得、か。それは、リンクよりも君の方がしっくりくると思うね。」

「……っつ……。……って、やったのお前じゃないだろーな?」

「まさか。僕なら君の目の前でやるし、なにより、僕がやっていたら、君は一週間は目も開けない。」

“こいつ、王子らしからぬこと言ったー!マルスってこんなキャラだっけ?”

「とにかく、一度よく考えておくんだね。」

「……ごちそうさま。」

アイクはちゃっかり一人で食べていた。

「……お前な。」

アイクはロイの批難にも聞く耳を持たず出ていった。ロイはため息を吐いた。

「さて、僕達もいただこうか。」

マルスは食べ始めた。

“……俺の……自業自得?”

ロイは自問した。



夕方のみんなの部屋。そこには珍しくロイがいるだけだった。ロイは難しい顔をしてソファを陣取っていた。

「あぁーだりぃ……。」

そこへマリオが疲れた表情で入ってきた。

「マリオ、お疲れさん。」

ロイは表情を和らげて、ねぎらいの言葉をかけた。が、

「え?」

マリオから返ってきたのは疑問符だった。しかし、すぐに合点がいったらしい。

「あぁ、俺、今日は乱闘とか何もやってねぇよ。」

「は?じゃあなんでそんなに疲れてんだよ。ってか、何してたんだ?」

「寝てた。リンクにしてやられてな……。」

「……お前も?」

驚いたようにロイは聞いた。マリオもポカンとした顔をした。

「……と、いうことはロイもか?」

ロイは頷いた。

「まぁ、リンクじゃねぇみたいなんだけどさ。」

「じゃあ誰だよ?」

マリオはロイの隣に座った。ロイは問われて、再び難しい顔をする。

「わかんねぇから考えてる。」

その時、扉が開いた。誰が入ってきたのかと扉の方を見てみれば、トレーナーだった。トレーナーは二人を見つけるとそばに寄ってきた。

「あぁ、二人ともここにいたんだ。」

「ん?何か用か?」

マリオが問うと、トレーナーは頷いた。

「うん。……今日の夜、9時頃に、神殿に来てほしい。」

「それってコンのとこ?何でそこに?」

ロイが目を丸くして聞いた。

「……あまり人に聞かれたくない話だから。あ、二人で来てね。じゃ、後で。」

トレーナーはそれ以上の追及を許さず、言うだけ言うと出て行ってしまった。

「……何だと思う?」

ロイはまた難題が増えた……と思いながらマリオに聞いた。が、マリオは深く考えずに、

「さぁな……あいつのことだ、何かまともな相談だろ。」

と適当に答えていた。



夜、トレーナーはすでに神殿で待っていた。いささか、緊張した面持ちだ。

「よっと。」

「ここだな。」

そこへ二人が着いた。二人はトレーナーを認め、そばに寄ってきた。

「で、何だよ?」

マリオが言うと、トレーナーは二人を真っ直ぐ見た。

「今から僕の言うことに、二人は間違いなく気分を害する。だから……二人が冷静なうちに言っておくね。確かに僕は悪いことをした。だけど……後悔してないし、反省するつもりもない。それに……二人の制裁も受けるつもり。」

「……どうしたんだよ?何……言ってるんだ?」

ロイがわけが分からないといった風に聞いた。トレーナーは目をつむった。深呼吸する。

「マリオとロイの部屋にトラップを仕掛けたのは、僕だ。」

そして、再び二人を見据えた。

「…………………………………ハ???」

二人の声がはもった。沈黙の間合いもピッタリだ。

「……ウソ、だろ?」

「冗談、だよな?」

トレーナーは首を振った。

「何であんなことしたんだ?」

マリオが動揺したように言った。

「……許せなかった。リンクを騙した君達が、許せなかった。」

“……俺の……自業自得……こういうことか……。”

ロイは一人、納得していた。

「お前さ……ホントにリンクLOVEなんだな……。」

乾いた声でマリオが言った。

「そうかもしれない。ここまで頭にきたの……これで二回目だから。」

「二回目って……。」

“こいつ、前にもあんなことしたことあんのかよ……。”

しばらくマリオとロイがボケッとトレーナーをみつめていた。やがて、マリオが首を激しく振った。

「な、何やってんだよ……。」

ロイが驚いて聞いた。

「頭ん中の整理。……で、それを俺らに言ってどうするんだ?」

「……どうって……。」

「俺らに、リンクに謝れって言いたいのか?」

トレーナーは首を振った。

「……そこまでは考えてない。ただ、僕は……二人に反省してほしかった。……口で言えば良かったのかもしれないけど。」

「そうだな。」

マリオは握りこぶしを作った。

「そうか?……俺、トレーナーのやったこと、確かにあれはやりすぎかなーって気はするけど……それって、結局俺らのせいだったし……正しかった、とまでは言わないけど、完全に悪でもないと思うぜ?今、こうやって言ってきてくれたんだし。……むしろ」

「トレーナー、お前言ったよな?後悔も、反省もないって。……制裁も受けるって。」

トレーナーは静かに頷いた。

「おい、まさか、お前……。」

「悪い、ロイ。邪魔だ。」

マリオはロイを掴むと投げ飛ばした。

「うわっ!」

ロイはステージから落ちる寸前で着地した。

「マリオ、何すんだ……って、オイ!」

マリオがトレーナーに殴りかかっていく。トレーナーはよけない。ロイは慌てて駆け出した。マリオの拳がトレーナーにあたる――。
その直前、ピュン、と何かがマリオに当たった。マリオは驚いて飛んできた方を見やる。ロイは内心安堵した。

「……ホントは干渉するつもり、なかったんだけどな……悪い、トレーナー、撃たせてもらったぜ。」

陰からフォックスが出てきた。

「フォックス……。」

フォックスが現れたことで緊張の糸が途切れたらしい。トレーナーはへなへなとその場に座り込んだ。

「マリオ、君には制裁が必要みたいだね。」

マルスがフォックスと同じ場所から出てきた。

「はぁ?何が言いたいんだ?」

「普通、さっきの場面では反省すると思うね。そう、ロイみたいに。」

ようやく戻ってきたロイを見ながらマルスは言った。

「反省?あんな目にあったのに?」

マルスはにっこり笑って見せた。

「一度、二人で話そうか?」

マルスは有無を言わせぬ強さで言うと、マリオを掴み、離れていった。途中、コンに何かを叫んで、消えた。

「……マリオ、大丈夫かな……。」

ロイが思わずこぼした。

「平気だろ。というより、自業自得だ。」

フォックスが冷たく言い捨てた。

“……ってか、俺、許されたのか?”

ロイはまた難しい顔をした。

「……フォックス……。」

トレーナーが弱々しくフォックスを呼ぶと、フォックスはフッと笑った。

「礼はいらない。一応、助けたつもりだけど、あれ、邪魔したのと変わらないからな。」

「……そう。なら……どうしてここに?」

「マルスはもともと来る気だったみたいだが、俺はリンクの代わりにさ……って、こういうことお前がしてるって知ってたら、俺も見守るくらいはしに来たと思うが……。まぁ、とりあえず、リンクはお前がいないのに気付いた。で、あいつ病み上がりのまま探しに行こうとするもんだから、俺が探しに行くと言い聞かせて、スネークあたりに押し付けて俺が探しに出たんだよ。で、手始めにお前の部屋をのぞきに行こうとしたらマルスに会って、ここに来たってわけだ。」

「そうなんだ……ごめんね、迷惑かけちゃって。」

「……謝罪の言葉もいらない。お前、変なとこ……いや、やっぱなんでもない。」

トレーナーは一瞬首を傾げた。が、気にしないことにしたようだ。別の疑問を口にした。

「でも……どうしてマルス、僕がここにいること知ってたんだろう?」

「お前が俺らを呼びに来たときに聞いたんだと思うぜ。」

ロイが答えた。

「えっ?でも、あのとき誰も……。」

「マルスはキッチンにいた。だから、聞こえてたんじゃねぇか?」

「あぁ……そこまで考えてなかった……。」

「とにかく、一度戻ろう。そろそろリンクの方も心配になってきた。」

フォックスは言うなり帰っていった。トレーナーは立ち上がった。

「……なぁ、トレーナー。」

トレーナーはロイの方を見た。

「……悪かったな。」

「……えっと……僕に謝られても……。」

「分かってる。でも、何となく謝りたかった。……後でリンクにも謝っとくよ。」

ロイは行こうとした。

「あ!待って!」

トレーナーの呼び止めに、ロイは振り返った。

「僕の方こそ……ごめんなさい。」

ロイはニッと笑って見せた。

「気にすんなって。お前は悪くない。じゃ、行こうぜ。」

トレーナーははにかむと頷いた。二人はそれぞれコンに帰ることを告げ、戻った。



その頃、リンクの部屋にフォックスがついたところだった。

「フォックス!レッ…………トレーナーは!?」

リンクは、フォックスが部屋に入るなり飛び起きた。隣でスネークがほっと息を吐いた。

「無事だ。なんともない。もうすぐ戻ってくるはずだ。」

“……ってか、こいつ、名前知ってたんだな……。”

「そっか……よかった……。」

「フォックス、遅いぞ。……もう少しで振り切られるところだったのだからな。」

「今回はお前の自業自得だ。」

スネークはうろたえた。

「そういえば……昨日のトラップの犯人、分かった?オレは、ロケット団かギンガ団あたりかと」

「それ、僕だよ、リンク。」

リンクの声を遮るものがいた。言わずもがな、トレーナーである。彼は扉の所に立っていた。困ったような笑みを浮かべている。

「……………え?」

当然のごとく、リンクは問い返した。

「僕がやったんだ。……ごめんね、リンク。妙な心配、かけちゃった。」

「なんだ……敵じゃなかったんだ……よかった……。でも、どうして?」

「それは秘密。」

トレーナーはチラッとフォックスとスネークを見、合図を送った。二人は苦笑した。リンクは困った顔をしていた。

「……あのさ、しんみりしてるところ悪いが、入ってもいいですかね?」

ロイがやってきた。トレーナーは脇にどいて、ロイを通した。

「あ、ロイ!昨日は大丈夫だった?」

何も知らないリンクは、朝会ったことも忘れ、ロイの心配をした。

「大丈夫。ほら、お前と違ってピンピンしてるだろ?」

「オレもホントは大丈」

「夫じゃないからな。」

フォックスにぴしゃりと言われ、リンクはすくんだ。

「それで……リンク。お前ひっかけて、みんなに実力ばらして悪かった。」

ロイは深々と頭を下げた。

「やめてよ!もとはといえばウソ吐いてたオレが悪いんだから……。」

リンクは肩を落とした。ロイは顔を上げた。
ひとまず、一件落着と思われた。



後日、マリオもリンクに謝りに来た。ちなみに、あの後一体何があったのか、しばらくマリオはマルスを見て怯えるようになっていた。




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