リーダーは誰だ！？
「マルス！」
マルスが廊下を歩いていると、声をかけられた。それで、自分が前を向いていないことに気付いた。いつの間に俯いていたんだ、と自分を叱責しながら顔を上げると、そこにはロイとアイクがいた。
「あぁ……どうしたんだい？」
すると、アイクが眉をひそめた。
「……それはこちらの台詞だ。どうした？そんな、疲れ切った顔をして？」
マルスはため息を吐いた。
「……あぁ、そんな風に見えるかな？」
「あぁ。まるで戦争帰りだ。」
ロイがあくまでも明るく言った。けれど、その目は笑っていない。
「……僕は馬鹿だった、と思ってね。リーダーなんて作るんじゃなかったよ。」
アイクはまじまじとマルスを見た。
「……何かあったのか？」
「今日は まだ 何も。けれど、そろそろ限界かな。」
ロイは最近のみんなの様子を思い浮べて皺をよせた。
「あー……あれは確かに。大丈夫か？」
「うん……。僕の苦痛も今日で終わるからね。」
「？ どういうことだ？」
「今日の夜、僕はリーダーをなくすことを宣言する。」
アイクはハッと息をのんだ。
「！ お前……リーダーが負担だったのか？ならば……」
「誰がやってもここでのリーダーは負担になると思うよ。……身をもって思い知らされたからね。」
「しかし……。」
「アイク。もっと周りを見ようぜ。」
アイクはムッとしてロイを見た。ロイは肩を竦める。
「マルスがリーダーになってから、みんな変わっただろ。特に……リンクは大ダメージだったんじゃねぇの？」
マルスはポカンと口を開けた。
「ロイ……君、気づいてたのかい？」
「俺だって伊達にお前らの親友してねぇよ。で？俺は何をしたらいい？」
「ロイ、君。」
しどろもどろになりながらマルスはロイの意図を汲み取ろうとする。けれど、ロイはロイだった。
「手伝うぜ。俺も、アイクも。」
「おい、勝手に決めるな。……元よりそのつもりだったが。」
「だったら問題ねぇじゃん。」
アイクはムスッとしたままマルスに顔を向けた。内容を言え、ということらしい。
“ロイはあくまでもロイか。彼はどこまでも真っ直ぐだ。”
マルスは他意があるのかと疑った自分を恥じた。
「……じゃあ、今日の夜、みんなの部屋に集まってほしいと伝えてほしいんだ。……僕が言えば、逆効果になってしまうからね。」
「分かった。」
「りょーかい。」
二人は軽く引き受けた。
「……頼むよ。」
疲れた笑みを見せて、マルスは行ってしまった。それを見送ると、アイクはコツンとロイを殴った。
「いって。何するんだよ！」
「先の返しだ。」
アイクはにやりと笑うと歩き出した。ロイも笑い返して反対方向に向かう。
“ここ数日で疲れ切ってしまったあいつの代わりに”
“一肌脱ぎますか！”
二人は以心伝心で通じていた。同じタイミングで走りだす。
その日の夕方。
リンクはフォックスの部屋まで来ると扉を叩いた。もちろん返事はない。
「……フォックス？」
リンクは困ったような口調で部屋の主を呼んだ。
“……いるん……だよね……。出てくるかな……。来ない方がいいかもしれないケド……。”
が、リンクの意に反して扉が開いた。フォックスが顔を覗かせる。
「……やっぱりお前か。入れよ。」
フォックスは扉を大きく開いてリンクを部屋に招き入れた。が、リンクは部屋に入っても無言だった。フォックスはそんなリンクをしばらく見つめていた。しかし、埒が明かないと思ったようだ。
「……今日の夜の事だろ？」
溜息混じりに、フォックスの方から切り出した。すると、リンクは驚いた様子でフォックスを見た。
「あれ……もう知ってた？」
「あぁ。ファルコに聞いたし、アイクも話しに来た。……まぁ、アイクの場合は一方的だったが。」
“……トビラを開けなかったんだ……。”
リンクはアイクに同情せずにはいられなかった。
「で、ファルコがお前も話しに来るだろうと言ってな。……お前がマルスやトレーナーと話しているのを見たらしい。……聞こえはしなかったようだがな。」
フォックスの話を聞いたリンクは、おずおずと聞いた。
「……じゃあ、オレが来るように頼んでも、無駄……？」
フォックスは暫く黙り込んだ。
「……内容は？」
唐突にフォックスは問うた。
「えっと……リーダーをなくす事の説明。」
が、リンクはそのテンポにはなれているので普通に返す。
「……は？」
フォックスは突然の決定に開いた口がふさがらない。リンクは説明不足か、と苦笑しながら付け加えた。
「マルスは……リーダーは必要なかったと考えた。……オレのなってほしいようになっちゃった、って事。」
“なっちゃったってな……素直に喜べよ。”
フォックスは相変わらずなリンクに心中でため息を吐いた。が、話を進める。
「リーダーをなくす、か。そんな事が出来るのか？」
「……さぁ。でもマルスは説明すればみんな納得すると思ってるみたい。」
「そうか。」
フォックスは再び黙り込んだ。
「……フォックス、やっぱり行きたくないよね……？」
「当たり前だ。」
リンクの確認にフォックスは即答した。リンクは困惑顔だ。
「…………分かった。後は……オレがなんとかしておく……。」
リンクは部屋を後にしようとした。フォックスはそれを横目にみる。そして、溜息を吐いた。
「……待てよ。」
リンクは振り返った。
「冗談だ。」
フォックスはニヤッと笑って見せた。
「……え？」
リンクの顔に驚きの色が見えた。
「行ってやるよ。その、説明会に。」
「……で、でも、フォックス……嫌なんじゃあ……？」
「気が変わった。それに……お前も行くんだろ？」
「うん、まぁ……。」
リンクが弱々しく頷くのを見て、フォックスは降参と言う風に手を挙げた。
「お前が行くのに俺だけ行かねぇわけにはいかないだろ。そろそろ、ちゃんと参加してやるよ。」
「……ごめん。無理言って。」
リンクは申し訳なさを拭えないようだ。
「リンクの気にする事じゃないさ。」
「あ……うん。ありがとう。じゃあ……後で……。」
「あぁ、後でな。」
リンクは部屋を出て行った。それを見送り、フォックスは再びため息を吐いた。
“……あんな顔されたら断るにも断れねぇよ……。”
また息を吐いて、やれやれと首を振った。
その日の夜、みんなの部屋にはマルス、トレーナー、アイク、ロイ、リンクが他のメンバーを待っていた。
「……みんな……来ないね……。」
トレーナーは心配そうに扉を見つめた。
「……全員……いや、フォックスの返事はなかったが……来ると言っていたはずだ。」
アイクが呟いた。誰も来ないのかと扉を睨んだ。
「アイク……みんなには何て伝えたのかな？」
「……話がある。今日の夜、この部屋に集まってくれ。」
「……すごくストレートなのに……曖昧だね…。」
リンクが呟くと、ロイが驚いてそちらを見た。
「おいリンク！お前、どこにいた！？今日ずっと探し回ってたんですけど！！」
「あぁ……ごめん。夕方まではちょっと留守にしてたから。でも……君が来る前にはここにいたんだけど……。」
「……うん、なんですぐ気づかなかったんだ、俺………。」
ロイがへこんでいる隣で、マルスがリンクを見た。
「………リンク？」
マルスの声は、少し咎めるような響きがあった。
「……………大丈夫だよ。あの調子なら、絶対来てくれる。」
リンクは申し訳なさそうな顔をしていた。
「そうか。すまない。今からの事を思うと、ちょっと気が重くてね。」
マルスは疲れた笑みを浮かべた。
「でも……リンク。フォックスと話せたの？」
リンクは頷いた。それに反応したのはトレーナーだけではなかった。
「なんだと！？」
横で信じられないと呟くトレーナーよりもオーバーなリアクションだった。
「お前、今まで無視されっぱなしだもんな。」
俺もだけど、とロイは呟いた。リンクは苦笑する。
「そんなこと言われても……オレ、一応フォックスと仲良いし……。」
「だから、一応って何だよ。」
「うわっ！」
突然の声にみんなが振り返ると、フォックスがリンクの後ろに立っていた。
「……脅かさないでよ。」
「お前、いつ入ってきた？」
「今さっきだ。悪いか？」
フォックスはリンクにはニヤッと笑ってみせるだけにし、アイクの問いに答えた。
「いや……そういうわけではないが……。」
「来てくれたんだね、フォックス。」
アイクが不満そうにしているのを余所に、マルスがフォックスに笑いかけた。
「……あぁ。」
フォックスはマルスに近づいた。
「……お前な、オレを呼ぶためにリンクを使うの、止めろよ。」
「だけど、君はリンクに頼まれたのでなければ来なかった。……違うかな？」
フォックスは渋い顔をして何も答えなかった。
一方、アイクとトレーナーも顔をつきあわせて会話をしていた。
「……フォックス、本当に来たよ……。やっぱりリンクは特別なのかなぁ？」
「……だろうな。オレがその事を話しに行った時には、あいつは返事の一つもしなかった。」
トレーナーは溜息を吐いた。アイクは不思議そうにそれを見る。
“リンクはフォックスにとっても特別な存在、か。”
そしてほったらかし状態のロイとリンク。
「ねぇ、みんなは何をこそこそ話してると思う？」
「さぁ？でも、俺らには関係ないんじゃね？」
「そう……。」
リンクは他の四人を顔を順に見ながらそれで納得する事にした。
「フォックス！？」
いきなり大きな声がした。扉の方からだ。そちらには驚愕の表情をしたファルコがいた。
「テメェ来たのか？一体全体どうして……お前か！？」
ファルコはずんずんこちらに進んでくると、リンクを指差した。そして今度はリンクに歩み寄っていく。
「おめぇあいつに何をした！？言ってる事とやってる事が違うじゃねぇか、リンク！」
「え……えっと……。」
リンクは思わず後ずさった。
「ファルコ、落ち着け！」
フォックスがリンクとファルコの間に立った。リンクは不安そうにフォックスを見やる。
「これは俺の意志だ。」
「そうかよ。だが、俺が教えた時は行かないって言ったよな？」
ファルコはリンクを睨み続けていた。
「気が変わったんだよ。誰にだってあるだろ？」
フォックスはさらに説得を試みるが、ファルコの様子は変わらない。が、だんだん険しさがなくなっている事にフォックスは気づいていた。
「リンクは俺に、この集まりの事を教えてくれただけだぜ。な？リンク？」
「え……えっと……その……。」
フォックスはリンクに同意を求めたが、歯切れが悪い。リンクはチラッとマルスをみた。
“肯定しろよ！”
その時、咳払いの音がした。マルスだった。
「………リンク？」
“あぁ……そっちの問題もあったか……。”
フォックスの尻尾が垂れた。リンクは少し恨めしそうな目でフォックスを見た。
「あぁ、そうか。リンク、わりぃ。」
ファルコの警戒は解けた。が、マルスの表情は険しいままだ。
「……でも、僕には説明してくれるよね、リンク？」
リンクは困ったように俯いた。
「マルス！リンクを責めないでよ！引き受けてくれただけで満足すべきだよ！」
「しかしだね……。」
フォックスは助け船を出す事にした。
「マルス。現に俺は来ているんだぞ。」
フォックスはマルスを睨んだ。少し風向きが怪しくなってきた所で、ロイが仲裁に入った。
「はい、そこまでー！お前ら、ピリピリしすぎ。リラックスリラックス。リンク気にするなよ。トレーナーにフォックス、お前らこそそんなにマルスを責めんな。マルス、」
「ありがとう、ロイ。」
マルスは微笑むとロイは手で制した。大丈夫だから、と蚊の鳴くような声で呟く。そして、リンク、トレーナー、フォックスの方を見た。
「…すまない、僕は……少し疲れているみたいだ。」
マルスはソファに深々と座り込んだ。
「……で、なんだ？この、集まりの悪さは？」
ファルコは現状把握をするとともに、場の空気を和らげようとした。
「分からん。」
が、アイクが首を傾げただけだった。
しばらくして、扉が開いた。ゼルダが入ってくる。
「すみません。遅れてしまいました……もう、終わってしまった後ですか？」
ゼルダは驚いたように部屋を見渡した。
「いや……まだ始まってもないんだ。」
マルスが弱々しく返した。
「それにしては全然人がいないようですね………アイク、全員に声は？」
「俺の担当分はかけた。」
アイクはロイを見た。ロイは少し小さくなって見せた。
「すみません、二人ほど見つかりませんでした……。」
「ロイ、職務怠慢。」
リンクが茶化した。
「うるせー！！これでも一日ずっと走り回ってたんだ！！大体お前がいなかったのが」
「はいはい。」
リンクはロイの抗議を適当に流しながらキッチンを覗き込んだ。
「……料理も始められていない……今日の当番、誰だっけ？」
「今日は確か……ピカチュウとルイージ……。忘れているのかな？」
トレーナーも首を傾げた。
「……違うと思うぜ。」
ソニックがやってきた。その時。
「あーー！！ソニック！！お前はどこにいたんだよ！！！」
ロイが叫んだ。が、すぐに何か疲れた、と座り込んでいる。その様子に驚きながらも、ソニックは質問に答えた。
「俺はずっと外を走り回ってたぜ。それが気持ちいいんだ。But......why？」
口を開く様子のないロイに代わって、ゼルダが答えた。
「今日は集合がかかっていました。……全然、集まっておりませんが。」
「それで、何で違うんだ？」
フォックスが話を戻した。が、ソニックは驚いてフォックスを見た。
「お前いたのかよ。出てくる気になったのか？」
「……聞くな。」
フォックスは溜息を吐いた。ソニックは肩を竦めた。
「まぁいいさ。で、何で違うかって？今の当番なんて全然回ってないぜ。大体の奴がさぼってるんだ。」
「……どういうこと？」
リンクが聞いた。
「言っただろう？僕がリーダーになってから、みんな変わった、って。」
「嘘だ……そんな！」
マルスの呻くような声に、トレーナーが叫んだ。
「……最近、同じようにやってなかった俺が聞くのもなんだが………その間、どうしてたんだ？」
「気がついた奴がやるようにしていた。何を言ってもやらん奴はやらんからな。」
スネークが段ボール箱を持って入ってきた。後ろからサムスも同じように持ってやってくる。
「ありがとう、スネーク、サムス。手伝うよ。」
マルスは立ち上がった。だが、サムスは首を振った。
「いいわ、マルス。ありがとう。でも、私達だけで出来るから。」
そして、二人はキッチンへ入っていった。しばらく何も話さずに待っていると、二人が戻ってきた。
「……夕食、作っておいた方がいいか？それとも待ってみるか？」
スネークが聞くと、ゼルダがゆっくりと言った。
「……待ちましょう。仮に他の方が空腹であったとしても、彼らは文句を言えないはずです。」
「果たして、そんな上手くいくのかな。」
フォックスが言うと、サムスが目を丸くした。先ほどは段ボールで見えていなかったらしい。
「……フォックス？あなたようやく出てきたのね。」
「……俺は一体後何回そんな台詞を聞けばいいんだ……？」
フォックスは頭を抱えた。
「仕方ねぇだろ。他の奴らにとっちゃ、事実だからな。」
ファルコが言う。
「でも、フォックス。どうしてそんな事を？」
トレーナーが聞くと、フォックスはやれやれと両手を上げた。フォックスの言いたい事が分かっていたリンクが説明役をかってでた。
「……みんなの様子は変わった。ある意味、自己中心的に事を動かし始めているんじゃないかな。だとすると……そういう人達は自分の事は棚に上げて、人を責めるんじゃない？それで、責める相手は当番じゃなくて………。」
リンクは悲しそうに、そして、気の毒そうにマルスを見た。マルスは頷く。
「そう………僕だ。ちゃんと指示できない、リーダーが悪い、ってね。」
その言葉を聞いた人達は言葉が出なかった。しばらく沈黙が続く。
やがて、一人、また一人とやってきた。だんだんにぎやかになってくる。
「おなかすいたぁー！ご飯まだぁー？」
最後の一人、カービィが入ってきた。
「まだみたいだよー。」
「しっかりしてよね、リーダー。」
カービィに返したのはアイスクライマーの二人だ。
“……本当だ……リンクの言った通り……。マルスも……いつもこんな調子で……？”
トレーナーが心配そうにマルスを見ると、マルスは険しい表情をしていた。が、カービィを確認すると、立ち上がった。
「みんな、聞いて……」
マルスが声を張り上げると部屋の中はより騒がしくなった。
「ねぇ、早くご飯にしてよ。」
ネスが言うとマルスは黙り込んでしまった。
「話なんて後でいいじゃないか。」
マリオもそれに便乗する。
「な！？お前ら……」
アイクが反論しようとしたが、別の声に遮られた。
「そうだ。俺らを集める前に、やるべき事をやってくれよな、リーダー。」
ファルコンだ。
「俺らに集合をかけたのはアイクだぞ。」
スネークが呆れたように言った。が、
「それでも、元はマルスでしょ？」
とルイージに一蹴されてしまった。
「……分かっているなら、話を聞けよ！」
フォックスが怒鳴ると、プリンが鼻で笑った。
「いままで全然出てこなかったキツネに言われたくないわ。」
「……っ！」
が、それは事実なので、フォックスはそれ以上言い返す事が出来なかった。
「フォックス。」
心配そうにファルコが声をかける。フォックスは大丈夫だと、手で合図した。
室内ではマルスを批判する声がエスカレートしていた。マルスは頭を抱え込み、また座り込んでいる。それを見たリンクはぐるっと室内を見渡した。隣ではマルスが参っている。トレーナー、ゼルダはおどおどと様子を見守っている。フォックスは唇を堅く結んで他の人を睨んでいる。ファルコ、ソニック、スネーク、サムスは呆れたように騒動を見守っている。ロイ、アイクは気丈に言い返している。そして。他の人達。リンクはそちらを睨んだ。
「早くご飯！」
「なんてリーダーだ！」
「何やってんだよ。」
「さっさとしろ。」
どっちの台詞だ。リンクは思った。そして、深く息を吸い込んだ。
「お前ら、いい加減にしろよ！」
リンクが大声で叫ぶと、室内は一瞬で静まりかえった。が、リンクの勢いは止まらない。
「どうしてマルスばっかり責めるんだよ！どうして人の言う事が聞けない！？どうして自分の事しか考えないんだ！？文句があるなら自分で動けよ！自分は動かずに、人の事ばっかり責めるんじゃねぇ！！」
リンク以外の人はあっけにとられて――というより、リンクが怖くて――言葉を失った。リンクは非難していた人達をそれはもう鬼のような形相で睨んでいる。睨まれた者は、金縛りにあったかのように、身動きできなくなった。
「……マルス、早く始めよう。そして……早く終わらせよう。」
リンクが元の口調でマルスを促した。
「あ……あぁ……。」
マルスも例に漏れず、動揺していた。が、リンクが普段通りの口調でマルスに話しかけた事で、気を取り直した。
「……今回話したかった事は……一言で言えば、リーダーをなくす事なんだ。」
「なんだと？ハッ、言い出したお前が……」
「黙れ。」
ファルコンの批判はリンクに一蹴された。リンクがファルコンを睨むと、ファルコンはそれ以上何も言えなくなった。
“……リンク、ありがとう。その言葉だけは……聞きたくないんだ。”
「みんなに聞きたい。リーダーを作った事で、良かった事はあったかな？」
みんなは考え込んだ。
「……ないよな？」
ロイは同意を求めるように言葉を投げかけた。
「あえて言うなら、僕達はリーダーを作るべきじゃないという事がわかったって事だね。」
トレーナーが言うと、マリオが口を開いた。
「そうか？……リーダーが悪かったんじゃねぇのか？」
「……どこにその根拠がある。」
低い声でアイクが問うと、マリオは口ごもった。
「マリオ。私はあなたに言いたい。あなたも、私と同じようにお試しリーダーをやった。けれど、失敗したのよ？」
マリオはハッとした表情になった。
「だけど……リーダーをなくしてしまったら……。」
不安そうにピットが言う。
「どうなるってんだ？」
面倒そうにファルコが聞いた。
「当番が……回らなくなる。」
ピカチュウが呟いた。
「そうか？今だって回ってねぇじゃんか。」
ソニックが言い捨てた。
「でも今は、ちゃんと生活出来てるよ。」
ネスが言うと、ゼルダが重みのある声で言った。
「……代わりにやる人がいるからです。そして……そのことにリーダーは関係ありません。」
部屋の中は水を打ったように静かになった。
「……リーダーを作った事でたくさんの問題が発生した。それらに僕の責任がないとは言わない。けれど……」
「俺達個人にも問題がなかったとは言えないよな？ましてや、マルス一人の責任ではない。」
マルスを引き継いでスネークが言った。すると、おずおずとリュカが質問する。
「ねぇ……リーダーをなくせば…もとに戻る……？」
「たぶんな。時間はかかるだろうが。」
フォックスが答えると、マルス側の人々は相づちを打った。
「でも……どうしてここまで大問題になってしまったのかなぁ？」
ディディが呟いた。
「……リーダーの……」
「まだ言うか！？」
言いかけたファルコンはリンクの怒鳴り声に飛び上がった。やれやれと思いながら、トレーナーが口を開いた。
「ファルコン。スネークの言った事、聞いてなかった？」
「………俺達個人にも問題がなかったとは言えないよな？」
スネークは先ほどよりゆっくりと繰り返した。ファルコンはギクリとする。
「ありがとう、スネーク。……それと、マルスの言ってた事。……みんな覚えているかな？」
トレーナーの問いにみんなは考え込むが、答える者は誰もいなかった。
「……簡単に言うと、リーダーがいても別段変わる事はない。……だよね、マルス？」
マルスは頷いた。
「……ということは、ここまで変わったのはこちらのせいか。」
メタナイトが聞くと、フォックスが腕を組んで言った。
「お前ら、とかじゃなくて……ここにいる全員、だと思う。」
しばらく誰も話さなかった。
「……じゃあ、リーダーはなし、ということでいいかな？」
リンクが聞くと、みんなは頷いた。
「では……これで話を終わるよ。」
「待ってくれ。」
マルスが解散を告げようとすると、マリオが制止をかけた。マルスはマリオを見た。
「……まだ何かあるのか？」
どこか構えながら、アイクが聞いた。
「あぁ、ある。」
マリオは一呼吸置いた。そして、真剣な目でマルスを見る。
「マルス……………………………すまなかった。」
大体の人はハッとした。
「ごめんなさい。」
「ごめん。」
「悪かった。」
そんな言葉が次々と出た。マルスは首を振った。
「……謝るのは僕の方だよ。僕はリーダーのことを持ち出して、みんなを混乱させた……申し訳ない……。」
「やめてくれ。ワタシが思うにマルスは悪くない。ワタシ達は普通の集団ではなかった……個性が豊か過ぎた。」
ルカリオが言う。
「そうね。私達は普通とは言えないわ。」
ピーチが頷いた。
「もともと、特別な人達の集まりだって言っても過言じゃないしね。」
ピットが付け加えた。
「みんな……ありがとう。……他に何か言いたい事がある人は？」
みんなが首を振った。
「じゃあ、この話はおしまい、だね。」
トレーナーが努めて明るく言うと、少し笑顔が戻った。
「では、今日から頑張って元に戻しましょう。ピカチュウさんルイージさん！………何の事かは分かりますな？」
オリマーが言うと、
「う……うん。」
「……はい。」
と二人はキッチンへ入っていった。マルスはその様子を見るとみんなの部屋を出て、部屋に戻った。しばらくして夕食が出来、アイクがマルスを呼びに行った。しかし、アイクはすぐに一人で戻ってきた。
「……寝ていた。そっとしておいた方がいい。」
次の日の朝。
リンクはいつも通り、朝食を作っていた。
「相変わらず早いな。」
フォックスがキッチンの外から顔を覗かせた。
「……フォックス。いつもいきなり出てこないでよ……。」
「悪いな。だが、俺としてはそんなつもり無いぞ？」
フォックスは笑った。リンクもつられて笑う。
「おっはよー！リンク、もう出来てるよね！！」
その時、カービィが飛び込んできた。リンクは更に笑みを深くした。
「カービィはいつも、朝食が出来たのと同時にやってくるんだから……。」
「えぇー？そうなの？」
そう言うカービィはすでによそい始めている。
「……食べ物の事しか頭にない奴みたいだな……。」
フォックスが呟くと思いもよらぬ方向から返事が返ってきた。
「……実際そうじゃないのかなぁ？さぁ、僕もご飯！」
ヨッシーだ。いつの間にか来ていた彼も食事をよそいだした。
“……そういうヨッシーもカービィのすぐ後に来るけどね……。”
リンクはこっそり思ったが心の中に留めておく事にした。
「おはよう、みんな。……二人とも僕らの分も残しておいてよ！」
ピットもやってきた。リンク、フォックスは挨拶を返す。
「さてと、俺ももらうぜ、リンク。」
「どうぞ。俺は修行の続きでもしてくるから。」
フォックスに返すと、リンクは歩き出した。それを見ながら、フォックスは心配そうに言う。
「食べないのか？」
「うん。今はお腹すいてないから。でも、後でちゃんと食べるよ。」
フォックスの心配を感じ取り、そう答えると、リンクは出て行ってしまった。
「……あいつは何で朝早くから朝食を作ってるんだ？」
いくら当番とは言え……とフォックスは呟く。
「お人好しなんだろ。テメェの友達にぴったりだ。」
いつの間にか来ていたらしいファルコはフォックスの声を聞きつけたようだ。茶々を入れながら答を返してやる。
「……どういう意味だよ……。」
フォックスの抗議に、ファルコはさぁな、という風に手を挙げ、朝食を食べ始めた。
リンクは部屋へ武器を取りに戻ってきていた。が、部屋の前で立ち止まる。
“あれ……そう言えばマルス、まだ起きてなかったな……何かあったのだろうか？”
リンクはマルスの部屋の方を見た。
“……様子を見に行ってみようかな。”
リンクはマルスの部屋に近づいた。その時、いきなり扉が開いた。リンクは慌てて下がる。アイクが出てきた。
「あれ？アイク？……あぁ、マルスと話してた？」
「……そうではない。……リンク、何か用か？」
「いや……なにも。ただ、マルスが珍しく遅いから、何かあったのかな、って思ってさ。」
アイクはため息を吐いた。
「……たまにはマルスも寝坊くらいするだろう……と言いたい所だが、あながちお前の予想は外れていない。」
「………何かあったの？」
リンクは表情を引き締めた。
「そんな大したことではない。簡単にいえば……疲れて倒れた。」
それを聞いて、リンクは少し拍子抜けしたようだった。……大したことではあるとは思ったが。
「え？……あぁ……そっか……マルス、大変だったから……。何か手伝える事、ある？」
アイクは少し思案した。だが、すぐに口を開いた。
「……今から少し側を離れる。その間、マルスを、看ていてくれないか？」
「……それだけでいいの？」
「あぁ。……リンク、感謝する。しばらく、マルスを頼む。」
リンクが頷くと、アイクはどこかへ行ってしまった。リンクはマルスの部屋に入る。
部屋に入るとマルスは寝ていた。リンクはマルスに近づき、額に手を当ててみる。
“……熱い……熱があるんだ……。”
リンクは水道でタオルを濡らしてくると、それをマルスの額に乗せた。
「……マルス……ごめん。オレ、やっぱり非協力的だったね。ハハッ……どうしてオレは逃げたりなんかしてたんだろう……。マルス、君はずっと、みんなのためにがんばってくれてたのにね…………。」
リンクが言い終えるのと扉が開くのはほぼ同時だった。独白を聞かれたか、とリンクが振り返ると、そこにはトレーナーがいた。
「あぁ、リンク。いたんだ。」
トレーナーは笑いかけてきた。リンクも笑い返す。
「うん。でも、どうして……？」
「アイクに聞いたよ。僕もマルスの様子を看ようと思ってね。それに……マルスが寝ている間に言っておきたい事があるんだ。」
トレーナーはマルスに近づいた。リンクは不思議そうにトレーナーを見ながら、マルスの前からどいた。
「どうして寝ている間に？っていう顔してるね。……本当に聞かれてたら、照れくさいから。」
自分がさっきやってたようなことをしにきた、そう判断したリンクは部屋を出ようとした。
「リンク、別にいていいよ。本人じゃなければ構わないんだ。」
少し居心地悪そうにしながらも、リンクは部屋にとどまった。それを確認するとトレーナーはマルスに顔を向けた。
「……マルス、ありがとう。短い間だったけど、君はいいリーダーだったと思う。みんなの気持ちを一番に考えてくれた。それと……お疲れ様。」
トレーナーとリンクは顔を見合わせると笑った。その時、アイクが戻ってきた。
「おかえり、アイク。もう用は済んだの？」
「あぁ。……トレーナーもいてくれたようだな。」
「うん……ちょっと……お見舞いがてらに、ね。さ、リンク、僕達は行こうか。」
トレーナーはそそくさと扉の方に向かった。
「え？あ、うん。……アイク、また手伝える事があれば言って。手伝うから。」
そう言い残して、リンクはトレーナーと共に部屋を出て行った。それを見送ってから、アイクはマルスに近づいた。
「……アイク、あの二人、意外と照れ屋なんだね……。」
マルスが起きあがった。
「お前……起きていたのか……って横になっていろ！」
珍しくアイクが声を荒げる。
「そんなに心配する事ないよ。僕は平気だからね。」
マルスは立ち上がろうとした。が、アイクは慌ててそれを押し戻した。
「……平気な訳がないだろう！熱があるんだぞ！」
マルスは、アイクの気迫に押され、負けた。
「……分かった。今日は……一日休ませてもらうよ……。」
マルスは横になると目を閉じた。
“そうだ……リーダーは昨日で終わったんだ……。だから……今日一日くらい休んでも、罰は当たらないだろう。やっとリーダーは終わった……。長かった……。けれど……やったかいはあったかな……。”
マルスの頭の中に、リンクとトレーナーの言葉が浮かんだ。マルスは眠りについた。
それからマルスの熱は、三日ほど下がらなかったという。
.
マルスが廊下を歩いていると、声をかけられた。それで、自分が前を向いていないことに気付いた。いつの間に俯いていたんだ、と自分を叱責しながら顔を上げると、そこにはロイとアイクがいた。
「あぁ……どうしたんだい？」
すると、アイクが眉をひそめた。
「……それはこちらの台詞だ。どうした？そんな、疲れ切った顔をして？」
マルスはため息を吐いた。
「……あぁ、そんな風に見えるかな？」
「あぁ。まるで戦争帰りだ。」
ロイがあくまでも明るく言った。けれど、その目は笑っていない。
「……僕は馬鹿だった、と思ってね。リーダーなんて作るんじゃなかったよ。」
アイクはまじまじとマルスを見た。
「……何かあったのか？」
「今日は まだ 何も。けれど、そろそろ限界かな。」
ロイは最近のみんなの様子を思い浮べて皺をよせた。
「あー……あれは確かに。大丈夫か？」
「うん……。僕の苦痛も今日で終わるからね。」
「？ どういうことだ？」
「今日の夜、僕はリーダーをなくすことを宣言する。」
アイクはハッと息をのんだ。
「！ お前……リーダーが負担だったのか？ならば……」
「誰がやってもここでのリーダーは負担になると思うよ。……身をもって思い知らされたからね。」
「しかし……。」
「アイク。もっと周りを見ようぜ。」
アイクはムッとしてロイを見た。ロイは肩を竦める。
「マルスがリーダーになってから、みんな変わっただろ。特に……リンクは大ダメージだったんじゃねぇの？」
マルスはポカンと口を開けた。
「ロイ……君、気づいてたのかい？」
「俺だって伊達にお前らの親友してねぇよ。で？俺は何をしたらいい？」
「ロイ、君。」
しどろもどろになりながらマルスはロイの意図を汲み取ろうとする。けれど、ロイはロイだった。
「手伝うぜ。俺も、アイクも。」
「おい、勝手に決めるな。……元よりそのつもりだったが。」
「だったら問題ねぇじゃん。」
アイクはムスッとしたままマルスに顔を向けた。内容を言え、ということらしい。
“ロイはあくまでもロイか。彼はどこまでも真っ直ぐだ。”
マルスは他意があるのかと疑った自分を恥じた。
「……じゃあ、今日の夜、みんなの部屋に集まってほしいと伝えてほしいんだ。……僕が言えば、逆効果になってしまうからね。」
「分かった。」
「りょーかい。」
二人は軽く引き受けた。
「……頼むよ。」
疲れた笑みを見せて、マルスは行ってしまった。それを見送ると、アイクはコツンとロイを殴った。
「いって。何するんだよ！」
「先の返しだ。」
アイクはにやりと笑うと歩き出した。ロイも笑い返して反対方向に向かう。
“ここ数日で疲れ切ってしまったあいつの代わりに”
“一肌脱ぎますか！”
二人は以心伝心で通じていた。同じタイミングで走りだす。
その日の夕方。
リンクはフォックスの部屋まで来ると扉を叩いた。もちろん返事はない。
「……フォックス？」
リンクは困ったような口調で部屋の主を呼んだ。
“……いるん……だよね……。出てくるかな……。来ない方がいいかもしれないケド……。”
が、リンクの意に反して扉が開いた。フォックスが顔を覗かせる。
「……やっぱりお前か。入れよ。」
フォックスは扉を大きく開いてリンクを部屋に招き入れた。が、リンクは部屋に入っても無言だった。フォックスはそんなリンクをしばらく見つめていた。しかし、埒が明かないと思ったようだ。
「……今日の夜の事だろ？」
溜息混じりに、フォックスの方から切り出した。すると、リンクは驚いた様子でフォックスを見た。
「あれ……もう知ってた？」
「あぁ。ファルコに聞いたし、アイクも話しに来た。……まぁ、アイクの場合は一方的だったが。」
“……トビラを開けなかったんだ……。”
リンクはアイクに同情せずにはいられなかった。
「で、ファルコがお前も話しに来るだろうと言ってな。……お前がマルスやトレーナーと話しているのを見たらしい。……聞こえはしなかったようだがな。」
フォックスの話を聞いたリンクは、おずおずと聞いた。
「……じゃあ、オレが来るように頼んでも、無駄……？」
フォックスは暫く黙り込んだ。
「……内容は？」
唐突にフォックスは問うた。
「えっと……リーダーをなくす事の説明。」
が、リンクはそのテンポにはなれているので普通に返す。
「……は？」
フォックスは突然の決定に開いた口がふさがらない。リンクは説明不足か、と苦笑しながら付け加えた。
「マルスは……リーダーは必要なかったと考えた。……オレのなってほしいようになっちゃった、って事。」
“なっちゃったってな……素直に喜べよ。”
フォックスは相変わらずなリンクに心中でため息を吐いた。が、話を進める。
「リーダーをなくす、か。そんな事が出来るのか？」
「……さぁ。でもマルスは説明すればみんな納得すると思ってるみたい。」
「そうか。」
フォックスは再び黙り込んだ。
「……フォックス、やっぱり行きたくないよね……？」
「当たり前だ。」
リンクの確認にフォックスは即答した。リンクは困惑顔だ。
「…………分かった。後は……オレがなんとかしておく……。」
リンクは部屋を後にしようとした。フォックスはそれを横目にみる。そして、溜息を吐いた。
「……待てよ。」
リンクは振り返った。
「冗談だ。」
フォックスはニヤッと笑って見せた。
「……え？」
リンクの顔に驚きの色が見えた。
「行ってやるよ。その、説明会に。」
「……で、でも、フォックス……嫌なんじゃあ……？」
「気が変わった。それに……お前も行くんだろ？」
「うん、まぁ……。」
リンクが弱々しく頷くのを見て、フォックスは降参と言う風に手を挙げた。
「お前が行くのに俺だけ行かねぇわけにはいかないだろ。そろそろ、ちゃんと参加してやるよ。」
「……ごめん。無理言って。」
リンクは申し訳なさを拭えないようだ。
「リンクの気にする事じゃないさ。」
「あ……うん。ありがとう。じゃあ……後で……。」
「あぁ、後でな。」
リンクは部屋を出て行った。それを見送り、フォックスは再びため息を吐いた。
“……あんな顔されたら断るにも断れねぇよ……。”
また息を吐いて、やれやれと首を振った。
その日の夜、みんなの部屋にはマルス、トレーナー、アイク、ロイ、リンクが他のメンバーを待っていた。
「……みんな……来ないね……。」
トレーナーは心配そうに扉を見つめた。
「……全員……いや、フォックスの返事はなかったが……来ると言っていたはずだ。」
アイクが呟いた。誰も来ないのかと扉を睨んだ。
「アイク……みんなには何て伝えたのかな？」
「……話がある。今日の夜、この部屋に集まってくれ。」
「……すごくストレートなのに……曖昧だね…。」
リンクが呟くと、ロイが驚いてそちらを見た。
「おいリンク！お前、どこにいた！？今日ずっと探し回ってたんですけど！！」
「あぁ……ごめん。夕方まではちょっと留守にしてたから。でも……君が来る前にはここにいたんだけど……。」
「……うん、なんですぐ気づかなかったんだ、俺………。」
ロイがへこんでいる隣で、マルスがリンクを見た。
「………リンク？」
マルスの声は、少し咎めるような響きがあった。
「……………大丈夫だよ。あの調子なら、絶対来てくれる。」
リンクは申し訳なさそうな顔をしていた。
「そうか。すまない。今からの事を思うと、ちょっと気が重くてね。」
マルスは疲れた笑みを浮かべた。
「でも……リンク。フォックスと話せたの？」
リンクは頷いた。それに反応したのはトレーナーだけではなかった。
「なんだと！？」
横で信じられないと呟くトレーナーよりもオーバーなリアクションだった。
「お前、今まで無視されっぱなしだもんな。」
俺もだけど、とロイは呟いた。リンクは苦笑する。
「そんなこと言われても……オレ、一応フォックスと仲良いし……。」
「だから、一応って何だよ。」
「うわっ！」
突然の声にみんなが振り返ると、フォックスがリンクの後ろに立っていた。
「……脅かさないでよ。」
「お前、いつ入ってきた？」
「今さっきだ。悪いか？」
フォックスはリンクにはニヤッと笑ってみせるだけにし、アイクの問いに答えた。
「いや……そういうわけではないが……。」
「来てくれたんだね、フォックス。」
アイクが不満そうにしているのを余所に、マルスがフォックスに笑いかけた。
「……あぁ。」
フォックスはマルスに近づいた。
「……お前な、オレを呼ぶためにリンクを使うの、止めろよ。」
「だけど、君はリンクに頼まれたのでなければ来なかった。……違うかな？」
フォックスは渋い顔をして何も答えなかった。
一方、アイクとトレーナーも顔をつきあわせて会話をしていた。
「……フォックス、本当に来たよ……。やっぱりリンクは特別なのかなぁ？」
「……だろうな。オレがその事を話しに行った時には、あいつは返事の一つもしなかった。」
トレーナーは溜息を吐いた。アイクは不思議そうにそれを見る。
“リンクはフォックスにとっても特別な存在、か。”
そしてほったらかし状態のロイとリンク。
「ねぇ、みんなは何をこそこそ話してると思う？」
「さぁ？でも、俺らには関係ないんじゃね？」
「そう……。」
リンクは他の四人を顔を順に見ながらそれで納得する事にした。
「フォックス！？」
いきなり大きな声がした。扉の方からだ。そちらには驚愕の表情をしたファルコがいた。
「テメェ来たのか？一体全体どうして……お前か！？」
ファルコはずんずんこちらに進んでくると、リンクを指差した。そして今度はリンクに歩み寄っていく。
「おめぇあいつに何をした！？言ってる事とやってる事が違うじゃねぇか、リンク！」
「え……えっと……。」
リンクは思わず後ずさった。
「ファルコ、落ち着け！」
フォックスがリンクとファルコの間に立った。リンクは不安そうにフォックスを見やる。
「これは俺の意志だ。」
「そうかよ。だが、俺が教えた時は行かないって言ったよな？」
ファルコはリンクを睨み続けていた。
「気が変わったんだよ。誰にだってあるだろ？」
フォックスはさらに説得を試みるが、ファルコの様子は変わらない。が、だんだん険しさがなくなっている事にフォックスは気づいていた。
「リンクは俺に、この集まりの事を教えてくれただけだぜ。な？リンク？」
「え……えっと……その……。」
フォックスはリンクに同意を求めたが、歯切れが悪い。リンクはチラッとマルスをみた。
“肯定しろよ！”
その時、咳払いの音がした。マルスだった。
「………リンク？」
“あぁ……そっちの問題もあったか……。”
フォックスの尻尾が垂れた。リンクは少し恨めしそうな目でフォックスを見た。
「あぁ、そうか。リンク、わりぃ。」
ファルコの警戒は解けた。が、マルスの表情は険しいままだ。
「……でも、僕には説明してくれるよね、リンク？」
リンクは困ったように俯いた。
「マルス！リンクを責めないでよ！引き受けてくれただけで満足すべきだよ！」
「しかしだね……。」
フォックスは助け船を出す事にした。
「マルス。現に俺は来ているんだぞ。」
フォックスはマルスを睨んだ。少し風向きが怪しくなってきた所で、ロイが仲裁に入った。
「はい、そこまでー！お前ら、ピリピリしすぎ。リラックスリラックス。リンク気にするなよ。トレーナーにフォックス、お前らこそそんなにマルスを責めんな。マルス、」
「ありがとう、ロイ。」
マルスは微笑むとロイは手で制した。大丈夫だから、と蚊の鳴くような声で呟く。そして、リンク、トレーナー、フォックスの方を見た。
「…すまない、僕は……少し疲れているみたいだ。」
マルスはソファに深々と座り込んだ。
「……で、なんだ？この、集まりの悪さは？」
ファルコは現状把握をするとともに、場の空気を和らげようとした。
「分からん。」
が、アイクが首を傾げただけだった。
しばらくして、扉が開いた。ゼルダが入ってくる。
「すみません。遅れてしまいました……もう、終わってしまった後ですか？」
ゼルダは驚いたように部屋を見渡した。
「いや……まだ始まってもないんだ。」
マルスが弱々しく返した。
「それにしては全然人がいないようですね………アイク、全員に声は？」
「俺の担当分はかけた。」
アイクはロイを見た。ロイは少し小さくなって見せた。
「すみません、二人ほど見つかりませんでした……。」
「ロイ、職務怠慢。」
リンクが茶化した。
「うるせー！！これでも一日ずっと走り回ってたんだ！！大体お前がいなかったのが」
「はいはい。」
リンクはロイの抗議を適当に流しながらキッチンを覗き込んだ。
「……料理も始められていない……今日の当番、誰だっけ？」
「今日は確か……ピカチュウとルイージ……。忘れているのかな？」
トレーナーも首を傾げた。
「……違うと思うぜ。」
ソニックがやってきた。その時。
「あーー！！ソニック！！お前はどこにいたんだよ！！！」
ロイが叫んだ。が、すぐに何か疲れた、と座り込んでいる。その様子に驚きながらも、ソニックは質問に答えた。
「俺はずっと外を走り回ってたぜ。それが気持ちいいんだ。But......why？」
口を開く様子のないロイに代わって、ゼルダが答えた。
「今日は集合がかかっていました。……全然、集まっておりませんが。」
「それで、何で違うんだ？」
フォックスが話を戻した。が、ソニックは驚いてフォックスを見た。
「お前いたのかよ。出てくる気になったのか？」
「……聞くな。」
フォックスは溜息を吐いた。ソニックは肩を竦めた。
「まぁいいさ。で、何で違うかって？今の当番なんて全然回ってないぜ。大体の奴がさぼってるんだ。」
「……どういうこと？」
リンクが聞いた。
「言っただろう？僕がリーダーになってから、みんな変わった、って。」
「嘘だ……そんな！」
マルスの呻くような声に、トレーナーが叫んだ。
「……最近、同じようにやってなかった俺が聞くのもなんだが………その間、どうしてたんだ？」
「気がついた奴がやるようにしていた。何を言ってもやらん奴はやらんからな。」
スネークが段ボール箱を持って入ってきた。後ろからサムスも同じように持ってやってくる。
「ありがとう、スネーク、サムス。手伝うよ。」
マルスは立ち上がった。だが、サムスは首を振った。
「いいわ、マルス。ありがとう。でも、私達だけで出来るから。」
そして、二人はキッチンへ入っていった。しばらく何も話さずに待っていると、二人が戻ってきた。
「……夕食、作っておいた方がいいか？それとも待ってみるか？」
スネークが聞くと、ゼルダがゆっくりと言った。
「……待ちましょう。仮に他の方が空腹であったとしても、彼らは文句を言えないはずです。」
「果たして、そんな上手くいくのかな。」
フォックスが言うと、サムスが目を丸くした。先ほどは段ボールで見えていなかったらしい。
「……フォックス？あなたようやく出てきたのね。」
「……俺は一体後何回そんな台詞を聞けばいいんだ……？」
フォックスは頭を抱えた。
「仕方ねぇだろ。他の奴らにとっちゃ、事実だからな。」
ファルコが言う。
「でも、フォックス。どうしてそんな事を？」
トレーナーが聞くと、フォックスはやれやれと両手を上げた。フォックスの言いたい事が分かっていたリンクが説明役をかってでた。
「……みんなの様子は変わった。ある意味、自己中心的に事を動かし始めているんじゃないかな。だとすると……そういう人達は自分の事は棚に上げて、人を責めるんじゃない？それで、責める相手は当番じゃなくて………。」
リンクは悲しそうに、そして、気の毒そうにマルスを見た。マルスは頷く。
「そう………僕だ。ちゃんと指示できない、リーダーが悪い、ってね。」
その言葉を聞いた人達は言葉が出なかった。しばらく沈黙が続く。
やがて、一人、また一人とやってきた。だんだんにぎやかになってくる。
「おなかすいたぁー！ご飯まだぁー？」
最後の一人、カービィが入ってきた。
「まだみたいだよー。」
「しっかりしてよね、リーダー。」
カービィに返したのはアイスクライマーの二人だ。
“……本当だ……リンクの言った通り……。マルスも……いつもこんな調子で……？”
トレーナーが心配そうにマルスを見ると、マルスは険しい表情をしていた。が、カービィを確認すると、立ち上がった。
「みんな、聞いて……」
マルスが声を張り上げると部屋の中はより騒がしくなった。
「ねぇ、早くご飯にしてよ。」
ネスが言うとマルスは黙り込んでしまった。
「話なんて後でいいじゃないか。」
マリオもそれに便乗する。
「な！？お前ら……」
アイクが反論しようとしたが、別の声に遮られた。
「そうだ。俺らを集める前に、やるべき事をやってくれよな、リーダー。」
ファルコンだ。
「俺らに集合をかけたのはアイクだぞ。」
スネークが呆れたように言った。が、
「それでも、元はマルスでしょ？」
とルイージに一蹴されてしまった。
「……分かっているなら、話を聞けよ！」
フォックスが怒鳴ると、プリンが鼻で笑った。
「いままで全然出てこなかったキツネに言われたくないわ。」
「……っ！」
が、それは事実なので、フォックスはそれ以上言い返す事が出来なかった。
「フォックス。」
心配そうにファルコが声をかける。フォックスは大丈夫だと、手で合図した。
室内ではマルスを批判する声がエスカレートしていた。マルスは頭を抱え込み、また座り込んでいる。それを見たリンクはぐるっと室内を見渡した。隣ではマルスが参っている。トレーナー、ゼルダはおどおどと様子を見守っている。フォックスは唇を堅く結んで他の人を睨んでいる。ファルコ、ソニック、スネーク、サムスは呆れたように騒動を見守っている。ロイ、アイクは気丈に言い返している。そして。他の人達。リンクはそちらを睨んだ。
「早くご飯！」
「なんてリーダーだ！」
「何やってんだよ。」
「さっさとしろ。」
どっちの台詞だ。リンクは思った。そして、深く息を吸い込んだ。
「お前ら、いい加減にしろよ！」
リンクが大声で叫ぶと、室内は一瞬で静まりかえった。が、リンクの勢いは止まらない。
「どうしてマルスばっかり責めるんだよ！どうして人の言う事が聞けない！？どうして自分の事しか考えないんだ！？文句があるなら自分で動けよ！自分は動かずに、人の事ばっかり責めるんじゃねぇ！！」
リンク以外の人はあっけにとられて――というより、リンクが怖くて――言葉を失った。リンクは非難していた人達をそれはもう鬼のような形相で睨んでいる。睨まれた者は、金縛りにあったかのように、身動きできなくなった。
「……マルス、早く始めよう。そして……早く終わらせよう。」
リンクが元の口調でマルスを促した。
「あ……あぁ……。」
マルスも例に漏れず、動揺していた。が、リンクが普段通りの口調でマルスに話しかけた事で、気を取り直した。
「……今回話したかった事は……一言で言えば、リーダーをなくす事なんだ。」
「なんだと？ハッ、言い出したお前が……」
「黙れ。」
ファルコンの批判はリンクに一蹴された。リンクがファルコンを睨むと、ファルコンはそれ以上何も言えなくなった。
“……リンク、ありがとう。その言葉だけは……聞きたくないんだ。”
「みんなに聞きたい。リーダーを作った事で、良かった事はあったかな？」
みんなは考え込んだ。
「……ないよな？」
ロイは同意を求めるように言葉を投げかけた。
「あえて言うなら、僕達はリーダーを作るべきじゃないという事がわかったって事だね。」
トレーナーが言うと、マリオが口を開いた。
「そうか？……リーダーが悪かったんじゃねぇのか？」
「……どこにその根拠がある。」
低い声でアイクが問うと、マリオは口ごもった。
「マリオ。私はあなたに言いたい。あなたも、私と同じようにお試しリーダーをやった。けれど、失敗したのよ？」
マリオはハッとした表情になった。
「だけど……リーダーをなくしてしまったら……。」
不安そうにピットが言う。
「どうなるってんだ？」
面倒そうにファルコが聞いた。
「当番が……回らなくなる。」
ピカチュウが呟いた。
「そうか？今だって回ってねぇじゃんか。」
ソニックが言い捨てた。
「でも今は、ちゃんと生活出来てるよ。」
ネスが言うと、ゼルダが重みのある声で言った。
「……代わりにやる人がいるからです。そして……そのことにリーダーは関係ありません。」
部屋の中は水を打ったように静かになった。
「……リーダーを作った事でたくさんの問題が発生した。それらに僕の責任がないとは言わない。けれど……」
「俺達個人にも問題がなかったとは言えないよな？ましてや、マルス一人の責任ではない。」
マルスを引き継いでスネークが言った。すると、おずおずとリュカが質問する。
「ねぇ……リーダーをなくせば…もとに戻る……？」
「たぶんな。時間はかかるだろうが。」
フォックスが答えると、マルス側の人々は相づちを打った。
「でも……どうしてここまで大問題になってしまったのかなぁ？」
ディディが呟いた。
「……リーダーの……」
「まだ言うか！？」
言いかけたファルコンはリンクの怒鳴り声に飛び上がった。やれやれと思いながら、トレーナーが口を開いた。
「ファルコン。スネークの言った事、聞いてなかった？」
「………俺達個人にも問題がなかったとは言えないよな？」
スネークは先ほどよりゆっくりと繰り返した。ファルコンはギクリとする。
「ありがとう、スネーク。……それと、マルスの言ってた事。……みんな覚えているかな？」
トレーナーの問いにみんなは考え込むが、答える者は誰もいなかった。
「……簡単に言うと、リーダーがいても別段変わる事はない。……だよね、マルス？」
マルスは頷いた。
「……ということは、ここまで変わったのはこちらのせいか。」
メタナイトが聞くと、フォックスが腕を組んで言った。
「お前ら、とかじゃなくて……ここにいる全員、だと思う。」
しばらく誰も話さなかった。
「……じゃあ、リーダーはなし、ということでいいかな？」
リンクが聞くと、みんなは頷いた。
「では……これで話を終わるよ。」
「待ってくれ。」
マルスが解散を告げようとすると、マリオが制止をかけた。マルスはマリオを見た。
「……まだ何かあるのか？」
どこか構えながら、アイクが聞いた。
「あぁ、ある。」
マリオは一呼吸置いた。そして、真剣な目でマルスを見る。
「マルス……………………………すまなかった。」
大体の人はハッとした。
「ごめんなさい。」
「ごめん。」
「悪かった。」
そんな言葉が次々と出た。マルスは首を振った。
「……謝るのは僕の方だよ。僕はリーダーのことを持ち出して、みんなを混乱させた……申し訳ない……。」
「やめてくれ。ワタシが思うにマルスは悪くない。ワタシ達は普通の集団ではなかった……個性が豊か過ぎた。」
ルカリオが言う。
「そうね。私達は普通とは言えないわ。」
ピーチが頷いた。
「もともと、特別な人達の集まりだって言っても過言じゃないしね。」
ピットが付け加えた。
「みんな……ありがとう。……他に何か言いたい事がある人は？」
みんなが首を振った。
「じゃあ、この話はおしまい、だね。」
トレーナーが努めて明るく言うと、少し笑顔が戻った。
「では、今日から頑張って元に戻しましょう。ピカチュウさんルイージさん！………何の事かは分かりますな？」
オリマーが言うと、
「う……うん。」
「……はい。」
と二人はキッチンへ入っていった。マルスはその様子を見るとみんなの部屋を出て、部屋に戻った。しばらくして夕食が出来、アイクがマルスを呼びに行った。しかし、アイクはすぐに一人で戻ってきた。
「……寝ていた。そっとしておいた方がいい。」
次の日の朝。
リンクはいつも通り、朝食を作っていた。
「相変わらず早いな。」
フォックスがキッチンの外から顔を覗かせた。
「……フォックス。いつもいきなり出てこないでよ……。」
「悪いな。だが、俺としてはそんなつもり無いぞ？」
フォックスは笑った。リンクもつられて笑う。
「おっはよー！リンク、もう出来てるよね！！」
その時、カービィが飛び込んできた。リンクは更に笑みを深くした。
「カービィはいつも、朝食が出来たのと同時にやってくるんだから……。」
「えぇー？そうなの？」
そう言うカービィはすでによそい始めている。
「……食べ物の事しか頭にない奴みたいだな……。」
フォックスが呟くと思いもよらぬ方向から返事が返ってきた。
「……実際そうじゃないのかなぁ？さぁ、僕もご飯！」
ヨッシーだ。いつの間にか来ていた彼も食事をよそいだした。
“……そういうヨッシーもカービィのすぐ後に来るけどね……。”
リンクはこっそり思ったが心の中に留めておく事にした。
「おはよう、みんな。……二人とも僕らの分も残しておいてよ！」
ピットもやってきた。リンク、フォックスは挨拶を返す。
「さてと、俺ももらうぜ、リンク。」
「どうぞ。俺は修行の続きでもしてくるから。」
フォックスに返すと、リンクは歩き出した。それを見ながら、フォックスは心配そうに言う。
「食べないのか？」
「うん。今はお腹すいてないから。でも、後でちゃんと食べるよ。」
フォックスの心配を感じ取り、そう答えると、リンクは出て行ってしまった。
「……あいつは何で朝早くから朝食を作ってるんだ？」
いくら当番とは言え……とフォックスは呟く。
「お人好しなんだろ。テメェの友達にぴったりだ。」
いつの間にか来ていたらしいファルコはフォックスの声を聞きつけたようだ。茶々を入れながら答を返してやる。
「……どういう意味だよ……。」
フォックスの抗議に、ファルコはさぁな、という風に手を挙げ、朝食を食べ始めた。
リンクは部屋へ武器を取りに戻ってきていた。が、部屋の前で立ち止まる。
“あれ……そう言えばマルス、まだ起きてなかったな……何かあったのだろうか？”
リンクはマルスの部屋の方を見た。
“……様子を見に行ってみようかな。”
リンクはマルスの部屋に近づいた。その時、いきなり扉が開いた。リンクは慌てて下がる。アイクが出てきた。
「あれ？アイク？……あぁ、マルスと話してた？」
「……そうではない。……リンク、何か用か？」
「いや……なにも。ただ、マルスが珍しく遅いから、何かあったのかな、って思ってさ。」
アイクはため息を吐いた。
「……たまにはマルスも寝坊くらいするだろう……と言いたい所だが、あながちお前の予想は外れていない。」
「………何かあったの？」
リンクは表情を引き締めた。
「そんな大したことではない。簡単にいえば……疲れて倒れた。」
それを聞いて、リンクは少し拍子抜けしたようだった。……大したことではあるとは思ったが。
「え？……あぁ……そっか……マルス、大変だったから……。何か手伝える事、ある？」
アイクは少し思案した。だが、すぐに口を開いた。
「……今から少し側を離れる。その間、マルスを、看ていてくれないか？」
「……それだけでいいの？」
「あぁ。……リンク、感謝する。しばらく、マルスを頼む。」
リンクが頷くと、アイクはどこかへ行ってしまった。リンクはマルスの部屋に入る。
部屋に入るとマルスは寝ていた。リンクはマルスに近づき、額に手を当ててみる。
“……熱い……熱があるんだ……。”
リンクは水道でタオルを濡らしてくると、それをマルスの額に乗せた。
「……マルス……ごめん。オレ、やっぱり非協力的だったね。ハハッ……どうしてオレは逃げたりなんかしてたんだろう……。マルス、君はずっと、みんなのためにがんばってくれてたのにね…………。」
リンクが言い終えるのと扉が開くのはほぼ同時だった。独白を聞かれたか、とリンクが振り返ると、そこにはトレーナーがいた。
「あぁ、リンク。いたんだ。」
トレーナーは笑いかけてきた。リンクも笑い返す。
「うん。でも、どうして……？」
「アイクに聞いたよ。僕もマルスの様子を看ようと思ってね。それに……マルスが寝ている間に言っておきたい事があるんだ。」
トレーナーはマルスに近づいた。リンクは不思議そうにトレーナーを見ながら、マルスの前からどいた。
「どうして寝ている間に？っていう顔してるね。……本当に聞かれてたら、照れくさいから。」
自分がさっきやってたようなことをしにきた、そう判断したリンクは部屋を出ようとした。
「リンク、別にいていいよ。本人じゃなければ構わないんだ。」
少し居心地悪そうにしながらも、リンクは部屋にとどまった。それを確認するとトレーナーはマルスに顔を向けた。
「……マルス、ありがとう。短い間だったけど、君はいいリーダーだったと思う。みんなの気持ちを一番に考えてくれた。それと……お疲れ様。」
トレーナーとリンクは顔を見合わせると笑った。その時、アイクが戻ってきた。
「おかえり、アイク。もう用は済んだの？」
「あぁ。……トレーナーもいてくれたようだな。」
「うん……ちょっと……お見舞いがてらに、ね。さ、リンク、僕達は行こうか。」
トレーナーはそそくさと扉の方に向かった。
「え？あ、うん。……アイク、また手伝える事があれば言って。手伝うから。」
そう言い残して、リンクはトレーナーと共に部屋を出て行った。それを見送ってから、アイクはマルスに近づいた。
「……アイク、あの二人、意外と照れ屋なんだね……。」
マルスが起きあがった。
「お前……起きていたのか……って横になっていろ！」
珍しくアイクが声を荒げる。
「そんなに心配する事ないよ。僕は平気だからね。」
マルスは立ち上がろうとした。が、アイクは慌ててそれを押し戻した。
「……平気な訳がないだろう！熱があるんだぞ！」
マルスは、アイクの気迫に押され、負けた。
「……分かった。今日は……一日休ませてもらうよ……。」
マルスは横になると目を閉じた。
“そうだ……リーダーは昨日で終わったんだ……。だから……今日一日くらい休んでも、罰は当たらないだろう。やっとリーダーは終わった……。長かった……。けれど……やったかいはあったかな……。”
マルスの頭の中に、リンクとトレーナーの言葉が浮かんだ。マルスは眠りについた。
それからマルスの熱は、三日ほど下がらなかったという。
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