リーダーは誰だ!?

「一応」

「事件解決。」

アイスクライマーがやれやれとして言った。

「…うん…そうだね…。」

しかし、そう答えたマルスは上の空だった。こういう時のマルスは何か考え事をしている。その事を知っているアイクは首を傾げた。

「……まだ、何かあるのか?」

「え?……あぁ、いや、この事件に関してはないよ。」

「……?どういう意味?」

それを聞き留めたルイージが聞いた。すると、トレーナーが口を開いた。

「お試しリーダーのことで問題がある。……違う?」

「うん。君の言う通り。僕はその事を考えていた。」

マルスの答にピットは怪訝な顔をした。

「問題があるって言うの?お試しリーダーに?」

トレーナーが頷いた。

「僕はあると思う。君はお試しリーダー絡みの事件を今回のしか知らないかもしれない。けど、僕が知る中では前にも一度、あったんだ。お試しリーダーをやったのは今の時点で三人。けど、そのうち二人は」

「三人だよ。だから今のところ全員が問題を起こしている。」

静かにマルスが訂正した。トレーナーは驚いて少し硬直している。

「……全員、だったんだ……。」

トレーナーの呻きにマルスは頷いた。

「そ、それで、何を考えたの?」

リュカが先を促した。その場にいるメンバーは耳を傾ける。

「僕は、リーダーについて何か勘違いをしている人が多いと感じた。だから、リーダーとしての責任をとれないんじゃないかってね。」

「責任!?俺、そんなの知らねーぜ!?今とどう違うようにすれば……。」

ソニックが声を上げた。彼は、安易な気持ちでリーダーになると言った事を恥ずかしく思い、また後悔していた。すると、穏やかにマルスが答えた。

「今と同じでいいんだ。責任、っていうのはみんなの責任じゃない。自分のやってる事に責任がとれるか。僕達に必要なリーダーは、まとまらなければならない時にまとめられる。それさえ出来ればいい。後は、リーダーだからって何も違いはないはずなんだ。」

「そ、それじゃあ、ぼく、リーダーなんて……。」

リュカが弱々しく呟いた。それを見ながらピットが提案した。

「……一度みんなを集めて話し合いをしよう。」

マルスは頷いた。

「そうだね……なら、ルイージ。マリオ、ピーチ、ディディ、ドンキーの四人を呼んできてほしい。アイク、君はファルコン、サムス、フォックス、ファルコを頼む。リュカ。ネス、スネークのところに行ってくれるかな。ポポとナナはルカリオとメタナイトのところに行ってきて。…後残っているのは……」

「リンクだ。僕が行く。」

トレーナーが間髪入れずに言うと、返事も聞かずに出て行った。

「僕も行ってくるね。」

それを見たルイージも出て行く。それにアイク、リュカ、アイスクライマーが続いた。それを見送ったヨッシーはマルスに向き直った。

「さてと、マルス。演説、がんばれ!」

「え、演説って……。」

マルスは苦笑いするしかなかった。

「それにしても」

オリマーが言う。

「やはりトレーナーさんはリンクさんと仲がよろしい。彼が残っていると知るとすぐに行きました。」

「それだけどさ、変に感じたのは俺だけか?」

ソニックが身を乗り出して言った。ピットは何も感じなかったので首を傾げる。

“……僕の予想が当たっていれば”

マルスは一人、周りの話を聞きながら考え込んでいた。

“リンクは来ない。”

そんなマルスはしかめっ面をしていた。



トレーナーはリンクの部屋まで来るとノックも何もせずに入った。リンクは外を眺めている。トレーナーに気付き、チラッとそちらを見るが、すぐに元の体制に戻ってしまった。

「レッド…何の用?」

リンクの声から察するに、少し機嫌が悪そうだった。

「やっぱり怒ってる。カービィだから大丈夫かなって思ったんだけど……ごめん。」

「ウソ。」

トレーナーの言い訳をリンクはバッサリと切り捨てた。トレーナーは苦笑いする。

「……でも、オレの事気遣ってくれてのことでしょ?だから別に怒ってはないよ。」

リンクは少し笑った。そこでトレーナーは本題を思い出し、表情を引き締めた。

「…ところで、今から話し合いがあるんだけど…。」

「……リーダーのことについて?」

リンクの声のトーンが落ちた。トレーナーは無言で頷いた。

「……行かなきゃ……いけないよね………。」

リンクは溜息をついた。がトレーナーはそこでにっこり笑った。

「そう言うと思って僕が来たんだ。……策ならあるよ。」

「……?な、何?……策?」

リンクは何か嫌な予感がした。

「レッド……一体何を考えて……?」

トレーナーの笑みは一層深くなった。

「 僕が 君の理由を作った。……来て。」

トレーナーは部屋を出ようとした。だめだ、と思ったリンクは慌ててトレーナーを止めた。

「待って!オレは誰かに迷惑をかけるつもりはない。だから、その話し合いにちゃんと……。」

「出れるの?」

トレーナーは笑みを消し、リンクの近くに戻ってきていた。しどろもどろになりながらもリンクは答える。

「え、えーと…出れないことはないからさ……。」

「…ふーん………………。リーダーを決める事は確実で、それに反対の君に意見を求められる可能性があっても?」

「……う………。」

トレーナーの意見は的を射ていた。流石のリンクも言い返すことができない。トレーナーは無言でリンクを引っ張った。リンクはもう抵抗しない。そのままトレーナーはリンクを部屋から連れ出した。



その頃、マルス達がみんなの部屋で待っていると、ポポ、ナナがルカリオとメタナイトを連れてきた。

「連れてきたよ~。」

「うん、ありがとう。」

けなげに報告する二人にマルスは笑いかけた。

「……リーダーについての話し合いとは?」

ルカリオが聞いた。

「それも含めてみんなが集まってから説明するよ。一人一人に話していたらキリがないからね。」  

マルスの説明でとりあえずルカリオは納得したようだった。座禅を組み、瞑想を始めている。

「おなかすいたよ。」

ネスの声がした。リュカがネスとスネークを連れてきたのだ。

「もう少し待ってください。今、カービィ、ピカチュウ、プリン、ゼルダのみなさんが買い出しに行ってくれています。」

「買い出しだと?どういうことだ?」

オリマーの言葉にスネークが反応した。ソニックは溜息をついた。

「ちょっとアクシデントがあってな。その必要が出たんだ。」

「……なるほど……。」

気になったネスはPSIで何があったのか確認した。

「あれ?まだ全員集まってないや。」

ルイージもマリオ、ピーチドンキー、ディディを連れて戻ってきた。それからは話の内容を知るものは無言で、それ以外の人は思い思いのことをして残りの人を待った。



しばらくしてファルコンとサムスが入ってきた。 

「あれ?アイク達は?」

ピットが不思議そうに聞くと、やけに疲れた顔をしたファルコンが溜息を吐いた。

「フォックスを説得している。俺は、それが長引きそうだったから、サムスを呼んで先に来た。」

サムスはチラッとマルスを見たが、無言で適当な場所に行った。

“サムスの方も説得が必要だった、か。それにしても……フォックス、彼も来ないかもしれない。”

マルスは思案しながら扉の方を見つめた。



そしてまた時間は過ぎる。
扉が開き、買い出しメンバーが帰ってきた。

「あれ?何かあったの?」

大体のメンバーがそこに集合しているのを見てピカチュウは驚いたようだった。

「みんなに行ってもらった後、僕達が呼んだんだよ。話し合いをするから、って。」

ヨッシーが説明すると、ゼルダが首を傾げた。

「……しかし、まだ全員集まっているわけではないようですね?」

メタナイトがイライラと首を縦に動かした。

「それにしても、遅い。」

その時、扉が開き、ファルコが入ってきた。後ろから疲れ切ったアイクがついてくる。

「結局、フォックスを説得する事は出来なかったのね?」

ピーチが聞くと、アイクは力なく頷いた。

「……説得の必要があるのか?」

ドンキーが呆れたように言うと、ファルコが肩をすくめた。

「あいつは今、何故か気が立っている。説得するだけ無駄だと俺は言ったんだがな。」

みんながポカンとしている傍ら、アイクがマルスに近づいた。

「……すまん。無理だった。ファルコの言うように、フォックスの事は諦めた方がいい。」

「お疲れ様、アイク。そうだね……彼の事、忘れていたよ。トレーナーが戻ってきたら始めよう。」

マルスが微笑みながら言うと、ピットが首を傾げた。

「マルス?一人、忘れてない?」

「忘れてないよ。けれど、彼は来ないだろうね。フォックスみたいに。」

「……どーだか。あいつは頼んだらくるぜ?」

ソニックが口を挟むと、マルスは肩をすくめた。

“トレーナーが頼んでいれば、ね。けれど……あの顔は何か……企んでいた。”

「ねぇ……さっきから誰の事を話しているの?」

ディディがピットの足元で見上げていた。

「リンクのことだよ。」

ピットが言葉を言い切ったとたん、扉が開いた。

「えーと……ハァ……ハァ……みんな……揃ってる?」

やけに息の上がったトレーナーがそこにいた。それを心配そうにみながら、ピーチが答えた。

「そうね……フォックスとリンク以外は揃っているわ。ところで………走ってきたの?」

トレーナーは頷いた。そして、息を整える。

「……そのことだけど、リンク、会場にいなかった。」

「……いなかっただと?」

スネークが聞き返した。トレーナーは再び頷く。それを見ながら、ファルコはやれやれと首を振った。

“……フォックス、お前以上に面倒そうなのが一人いたぜ。”

すると、あ、とゼルダが声を上げた。

「……そういえば、買い出しの帰りに彼を見た気がしました。気のせいだと思ったのですが……。」

ロイは首を傾げたが、すぐに横に振った。

「気のせいだろ。ゼルダが気づいてたらあいつは気づいたはずだし、気づいたのなら絶対手伝うだろ?」

すると、トレーナーの後ろに隠れていたフシギソウが前に出てきた。

「ゼニガメがリンクを連れてっちゃったんだよ。トレーナーにはさっき言ったけど。ゼニガメはまだ戻りたくないと思って、リンクをゼルダから遠ざけたのかも。」

マリオは怪しむようにトレーナーを見た。

「……それなのに会場内を探し回っていたのか?」

「まさか。」

トレーナーは手をヒラヒラと振った。

「その話はさっき聞いたばかりなんだ。とりあえず今は、リザードンに探しに行ってもらってる。」

ルカリオはマルスを見た。

「どうする?探しに行くか?」

が、マルスは首を振った。

「いや、始めよう。彼には悪いけど、これ以上待つわけにはいかない。」

「急ぐ事なの?」

プリンが聞いた。

「別に急ぐわけではないけどね。だけどみんな、そろそろ待ちくたびれたんじゃないかな。」

マルスが言うと、さっきからイライラしているメタナイトが頷いた。

「そうだな。内容が分からん上に待たされるのはいい気分ではない。」

「なら仕方ないね。じゃ、マルス、お願い。」

ピットが言うとマルスは頷いた。マルスは集会を始めた。

「まず、この話し合いはお試しリーダーについてのことなんだ。一部の人は知っての通り、お試しリーダーの事で何回か問題が起こっている。」

マリオ、サムス、カービィは俯いた。

「“マルス、ぼくが、さっきあなたが言ってた事、みんなに伝える。それで…いい?”」

リュカの言葉がマルスの中で響いた。マルスは一瞬驚きを露わにしたが、すぐに元の顔に戻った。目配せして、そっと頷いてみせる。そこでリュカは、先ほどマルスが話した辺りから、ソニック、自分、ピットの言った事をみんなの頭の中で再現した。突然のことでみんなは驚いたようだったが、目的は分かったようだった。

「だからみんなを集めた、か。」

マリオが呟くとマルスは頷いた。

「それで、話し合いはここからだ。お試しリーダーをどうするか。」

「……続けたらいいじゃねぇか。」

ファルコンが低い声で言った。すると、ソニックはハッと笑った。

「あぁ、やりたい奴はやればいい。でも、俺はお断りだね。」

ソニックの様子を見ながらゼルダは唸った。

「……しかし……パスはなし、でしたね。」

「やりたくない人、どれくらいいるの?」

ヨッシーが聞くと、大体の人が手を挙げた。

「……パスの有無の問題じゃねぇな。」

ファルコが呟いた。

「手を挙げなかった方は、やりたい、あるいはやっても構わないという方ですね?」

オリマーの言葉にマルス、ファルコン、スネークは頷いた。

「……お試し期間の終わっている私達はどうしたらいいのかしら?」

サムスが聞いた。

「リーダーをしてもいいという気持ちはあるのか?」

逆にスネークが聞き返す。

「あったとしても、俺は力不足で無理だな。」

とマリオ。が、

「そんなことはないだろう。」

とメタナイトが否定した。マリオは驚いてメタナイトを見つめる。メタナイトはふっと笑った。

「私の場合は論外ね。……異議はないはずよ。」

「ボクも……無理。リーダーにはなれない。」

順にサムス、カービィ。

「……これで三人に絞られたな。」

アイクが言うと、何人かが頷いた。

“フォックス……お前、外されても知らねーぞ。”

“……どうやら、リーダーを決める事については暗黙の了解だったみたい…。”

ファルコとトレーナーの思いには関係なく、話は進んでいく。

「ねぇ、僕思ったんだけど。マルス、君がリーダーになったら?」

ヨッシーの唐突な言葉に、一番度肝を抜かれたのはマルスだった。

「……僕が?どうして?」

そう言う彼の声は、心なしか擦れていた。

「僕が知ってる問題は二つ。だけど、マルスは両方とも解決してくれたよ。」

ニコニコ笑うヨッシーにディディが続く。

「……そうだよ。ぼくも二つ知ってる。一つはぼくも関わってたけど……マルスが解決してくれた。」

「……白状するけど、私はマルスに何が大切か、気づかされた。……マルスに一票、投じるわ。」

サムスが言ったのを皮切りに、みんなが口々にマルスに一票!などと言い出した。

「マルスがリーダーになることに賛成のものは?」

ルカリオが聞くと、マルス以外全員が手を挙げた。

「……逆に、僕がリーダーになることに反対の人は?」

誰も手を挙げなかった。

「決定だな。」

アイクが言うと、みんなの部屋は拍手に包まれた。

「……分かった。引き受けよう。けれど、みんな、聞いてほしい。」

その場は静かになった。

「僕はリーダーになった。けれど、普段、だからといって何も変わる事はない。それは覚えておいてほしい。」

「分かってるよ。だから、みんな君がいいと思ったんだと思う。」

トレーナーが言うと、マルスは微笑んだ。

「そうか。なら、いいんだ。……これでこの話し合いは終わろう。……いいね?」

みんなは好き勝手な事を始めた。ロイはポポ、ナナを引っ張ってキッチンに入っていく。ファルコ、トレーナーは部屋を後にした。



フォックスの部屋の前までやってきたファルコは扉を叩いた。が、返事はない。

「……開けろよ。」

低く、呆れたように要求するとようやく、返事が返ってきた。

「……ファルコか?」

「あぁ。」

ファルコがやれやれとため息を吐いていると、扉が開いた。フォックスが用心深く辺りを見渡している。ファルコはそんなフォックスを押し退けて中に入った。

「終わったのか?」

フォックスが扉を閉めながら問うと、ファルコは頷いた。

「……結果は?」

フォックスの低い声にファルコは肩をすくめた。

「リーダーはマルスになった。」

フォックスは眉をひそめた。

「……お試しリーダーはどうなった?」

「みんなはやりたがらなかった。だから、廃止だ。」

すると、フォックスの暗い顔に自嘲の笑みが浮かんだ。

「俺にはチャンスすらないってか。まぁいい。決まった事にケチはつけない。」

「……そうか。」

それだけ言うとファルコは黙り込んだ。何か言おうと思っても、何も浮かばないのだ。沈黙が降りる。

「……そういえば、全員参加、だったよな?」

その沈黙を破ったのは、フォックスの方だった。何の事かとファルコはつまったが、思い当たる事があったので頷いた。

「あぁ。結局、お前とリンクは抜きでやったが。」

「リンクは知らなかったのか?」

フォックスの問にファルコはまた頷く。

「たぶんな。トレーナーが言うには、ゼニガメが連れ出したらしい。奴自身、この建物中探したらしいけどな。」

すると、フォックスは怪訝そうな顔をした。

「……トレーナーは探した?……嘘だな。」

「……?どーゆう意味だ。」

まさかの断定の言葉に、ファルコは少し固まった。

「俺はアイクの話を聞きながら窓から外を見ていた。リンクはその時、リザードンに乗ってどっか行ったぜ。確か……トレーナーも側にいたと思ったが。」

話くらい聞いてやれ、とファルコはアイクに少しだけ同情した。しかし、そのことには微塵も触れず、トレーナーが来たときの周囲の言動に考えをめぐらせた。

「……リンクがどっか行くのをトレーナーは手伝ったと。なるほどな。で、マルスは大体予想がついていた、か。」

フォックスは鼻を鳴らした。

「リンクの方は予想できて俺は出来なかった、というわけか。」

「あぁ。お前の方は予想は出来なかったようだが、来ないと知っても不思議に思わなかったみたいだぜ。」

ファルコはマルスの反応を思い出しながら付け足した。

「………そうか。」

そう言ったきり、フォックスは顎に手を当てて考え込んでしまった。

「……外に行ってくる。」

突然のファルコの声にフォックスは顔を上げた。ファルコが外を顎でしゃくるとそこにはトレーナーとリザードン、フシギソウがいた。

「ん?………あぁ。けど、あんまり詮索するなよ。俺なら、ごめんだからな。」

「はいよ。」

気のない返事をして、ファルコは部屋を後にした。



ファルコが見たのは、トレーナー、フシギソウのところに丁度リザードンが戻ってきたところだった。トレーナーはリザードンを撫でている。

「どこで降ろしたの?」

「近くの町だ。ゼニガメが歩いてハイラルまで行きたいと言ってな。」

ため息混じりでリザードンが言うと、トレーナーは驚愕の表情を露わにした。

「……歩いて行ったの?なら、今どこだろう……。仕方ない、これを使うか。」

トレーナーはある機械を取り出した。そして、機械を見つめる。

「リンクの方には入れてくれた?」

いろんな角度から機械を観察しながらトレーナーが聞くと、リザードンは頷いた。

「あぁ。ゼニガメが入れているのを見た。」

「でも、それ、ちゃんと許可をもらっているの?」

フシギソウが割り込んだ。すると、トレーナーは観察を止めて、にっこりと笑った。

「得てないよ。だから、リンクの所には忍び込ませたんじゃないか。」

いけしゃあしゃあと言ってのけたトレーナーに、二匹のポケモンは溜息を吐いた。

“おいおいあれ……俺らのトランシーバーじゃねぇかよ。やってくれるぜ。”

中庭まで来たファルコはトレーナーの手の中にあるものを見て唖然とした。が、話し掛けることなく、音も立てずに陰に身を隠した。

「えっと……このボタンかな……。」

四苦八苦しながら、トレーナーはトランシーバーを操作している。



一方、リンクとゼニガメはハイラルに着いたところだった。

「ふぅ……着いた。あの道久しぶりに通ったなぁ。……ゼニガメ、大丈夫?」

リンクは額の汗を拭うと、ゼニガメを見た。すると、ゼニガメは飛び跳ねて体力が有り余っているのをアピールした。

「全然平気!それより、リンクの家に行きたい!!」

「? 城下町じゃなかったっけ?まぁ、俺の家の方が騒ぎは起きないからいいけど……。」

突然の申し出に困惑するがリンクは承諾した。間髪入れずにゼニガメはねだった。

「泊まっていい?」

「泊まる!?……話し合いが終わり次第、帰るつもりで……って、連絡方法、なかった……。うーん…………………。仕方ない。一日くらいならいいよ。」

簡単に、とはいかなかったが、リンクの、勝手に外泊することへの罪悪感とゼニガメを喜ばしたい気持ちとの葛藤の結果、ゼニガメのおねだりは通ることとなった。

「やったぁ!」

ゼニガメは飛び上がって喜んでいる。リンクは微笑んだ。

「ちょっと待ってね。今、エポナを呼ぶから。……………………何だ、コレ?」

リンクはトランシーバーを取り出した。

“あ……やばい。いきなり見つかった……。”

喜んでいたゼニガメから一気に血の気が失せた。

「トラン……シーバー……?たしかフォックス達の………。」

その時、トレーナーの声が聞こえた。

『リンク、聞こえる?たぶん、君の荷物のどこかに……』

唖然としていたリンクだったが、トレーナーの声がしたことで状況把握に至ったらしい。ため息を付いて、応えた。

「……今、手に持ってる。」

トレーナーは苦笑した。

“……もう見つかっちゃってた、か。流石、というべきかな……。”

「オレ、無断でここに来てるから……無許可?」

トレーナーの表情が強ばった。

『……いきなり痛いところ突いてくるね……。でも、心配しないで。後で僕が何とかしとくから。』

リンクは再び溜息を吐いた。

「いいよ。元はといえばオレが悪いんだし……。」

“……でも、無許可の物をオレは持ち歩いているのか……。”

トレーナーには簡単にリンクが罪悪感に苛まれているのを想像できたが、今はおいておくことにする。

『……。今は責任問題は後にまわすよ。で、どこにいるの?』

「ハイラル。でも、今着いた所だよ。ところで、話し合いはどうなったの?」

あぁ、本当にキミは、厳しいことばかり聞いてくる……と、話し合いのことを思い出しながらトレーナーは思った。

『結構あっさりと終わったよ。……今からどうする?もう少しそっちにいる?それとも戻ってくる?』

再び葛藤。が、今回はすぐに決着がついた。

「……こっちにいるよ。ゼニガメがオレの家に泊まりたいみたいだし。」

『ゼニガメの心配はしなくていいよ。』

「付き合ってもらってそれは言えない。それに、どっちにしろ急いでないから。」

笑みをこぼして、リンクは答えた。

『じゃあ、さっきの話し合いで決まった事を今、話しておくよ。』

リンクは目を見開いた。

「待って!……悪いけど、帰ってからにしてほしい。……それとも、オレの我が儘はもう通らないかな?」

トレーナーはきょとんとした。しかし、それは一瞬のことだった。

『ハハハ。君の我が儘、か。いいよ。別に今すぐ話す必要のあることじゃないしね。』

リンクが頼ってくれている。そう思うだけでトレーナーは嬉しかった。

“こういう我が儘なら大歓迎だ。”

が、トレーナーはそんなことを言うはずもなく、これからのことを聞いた。

『ところで、帰りはどうする?』

「オレ達で言う、ハイラル入り口から帰るよ。その方がみんなの負担も少ないと思うし。」

リンクらしい、とトレーナーは思った。

『分かった。……ゼニガメ、聞こえてる?』

「うん。どうしたの?」

リンクがかがんで、トランシーバーをゼニガメの高さにもってくると、ゼニガメはトランシーバーを覗き込んだ。

『リンクの迷惑にならないようにするんだよ。楽しんでおいで。……リンク、ゼニガメを頼む。』

「うん……分かってる。」

リンクはトランシーバーを切った。

「じゃあ、行こうか。」

笛を取り出し、エポナを呼んだ。そして、リンクの家へ向かう。



トランシーバーを切ったトレーナーは一息ついた。

「……さてと、二人が帰ってくるまでにこれの話をつけておくか。」

トレーナーはきびすを返した。

「そういうことは先にやっておけ。話が余計にややこしくなるだろうが。」

溜息を吐きながらリザードンがついていく。やれやれと思いながらフシギソウは言った。

「理由を聞かれたらどう説明するの?」

「それは……適当にごまかすよ。」

「その必要はねぇ。」

突然第三者の声がした。ファルコだった。彼は隠れていた陰から姿を現した。

「ファルコ……もしかして、聞いてた?」

顔を引きつらせて、トレーナーは聞いた。すると、案の定、ファルコは頷いた。

「あぁ。お前とリンクの会話、全部な。」

トレーナーはため息を吐くと俯いた。

「……盗み聞きか。けしからん。」

リザードンが鼻を鳴らした。確かにそうだけど、と思いながらトレーナーはリザードンを諫める。

「リザードン……今、僕達はそれを言える立場じゃないよ。」

ファルコはそれに大きく頷いた。

「その通りだ。だが……リンクは知らずに出かけたのではなく、話し合いから逃げるために出かけた……そういうことか?」

「違う。」

トレーナーは即答すると、ファルコを睨んだ。

「リンクはゼニガメに連れて行かれた。……逃げたんじゃない。」

「そうかよ。」

ファルコはハッと鼻で笑った。

「じゃあ、さっきのアレはなんだ?「オレの我が儘はもう通らないかな」?」

トレーナーは叫びたくなるのをグッとこらえた。

“落ち着け、落ち着くんだ……ファルコのペースに乗せられちゃいけない……!”

トレーナーは一度深呼吸をした。

「………。なら、こう言えばいい?リンクは自分勝手な行動なんかしない。……これは、僕がリンクにやらせた。」

「それはあくまでもお前の設定だろ?あいつ自身はどう思ってる?」

“……僕にはこういう応酬は向いてないみたいだ……。”

頭をフルに回転させながらトレーナーは思う。

「誰がどう思おうと、事実は変わらない。リンクははじめは反対した。でも僕はリンクの弱みを突いて行かせた。」

ここまでくると、ファルコが両手を上げた。疲れたような、けれど、どこか優しい笑みを浮かべている。

「……わぁったよ。そうゆうことにしておく。……おめぇも色々大変だな。」

トレーナーは内心安堵しながら、首を傾げた。

「そうかな。……それはファルコじゃない?」

「……あぁ、そうかもな。」

二人はしばらく黙り込んだ。リザードンとフシギソウは黙って二人の動向を伺っていた。

「あ、ところで……トランシーバーのことだけど………。」

おずおずとトレーナーは切り出した。ファルコは一瞬眉をひそめたがすぐに頷いた。

「あぁ。俺からフォックスに言っといてやるよ。」

ファルコは手をヒラヒラと振りながら中に入っていった。


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