リーダーは誰だ!?

翌日。
ヨッシー、ディディ、メタナイト、ネス、ファルコン、ソニック、トレーナーとポケモン達が朝食を食べていた。

「おはよう、諸君!」

元気よくマリオが入ってきた。珍しく朝が早い。

「おはよう。」

やる気なく、しかし何故かそろって返事を返す面々。が、マリオは満足しなかった。

「おや?元気がないな……もう一度」

「マリオ。私達は子供ではない。 お試し リーダーとして張り切っているのは分かるが、幼稚な事は止めてくれ。」

しかし、メタナイトが無駄に元気なマリオに水を差した。マリオはもちろん気分を害す。

「!? 幼稚だと!?挨拶は大切なんだぞ!」

「ごちそうさま。俺、ひとっ走り行ってくる。」

この先の騒動を予想して、ソニックはさっさと朝食を食べ終えると部屋を後にした。

「……あ……逃げた……。」

まさにディディの言う通りである。隣にいたヨッシーは苦笑いを漏らす。

「幼児のような事をさせると!?」

「そう舐めるな!細かいことも一つ一つ大事なんだ!」

「なんだと!?」

「だから」

………メタナイトとマリオは言い争いを始めていた。

「おはよう……こんな朝からどうしたの?」

リンクが入ってきた。怪訝そうな顔をしている。

「……喧嘩。見て分かるでしょ。」

呆れた風にネスが答えた。傍観を決め込み、呑気に朝食を続けている。

「……まぁね。でも、どうして……」

リンクは言いながら現場の方に目を向けた。マリオを見て、動作を止める。

“マリオって確か、今のお試しリーダー……。”

リンクの不自然な様子を不思議に思ったネスが聞いた。

「どうしたの?」

ハッと我に返ったリンクは愛想笑いを浮かべた。

「な、なんでもないよ。」

そして、そそくさと出て行った。

“ハァ……。”

いろいろと裏事情を知っているトレーナーは、ため息を吐くしかなかった。

「……?あいつ、どうしたんだ?来たと思ったらいきなり出て行ったぞ?」

しかし、他の人はリンクの挙動不審な様子を不思議に思うしかない。

「お前などにリーダーはつとまらん!」

「うるさい!自分は……」

マリオとメタナイトの喧嘩は収まる気配を見せていなかった。それを片目に見ながらネスが答えた。

「さぁ。喧嘩はごめんだ、とでも思ったんじゃない?」

「それにしては不自然な出て行き方じゃないか?」

ファルコンの疑問に、ネスはリンクの様子を思い浮かべながら首を傾げた。

「二人ともよせって。何があったんだい?」

いつの間にか来たらしいマルスが、二人の間に立っていた。

「……気にするな。」

第三者に立ち入られたことで喧嘩を続ける気を失ったようだ。メタナイトは素っ気なく言うと、その場を離れようとした。が、マルスが引き留める。

「いや、あんな大事になっていたらほっとくわけにもいかないよ。」

「お前が挨拶を疎かにしたのが悪い。」

マリオが口を挟んだ。まだ喧嘩腰である。それにメタナイトはムッとした。

「何を言う?私はちゃんとしたぞ。……あれ以上幼稚な事をさせるつもりなら、私は帰るぞ。」

が、マルスがいる手前、乱暴になるギリギリのラインを保ちながら、比較的冷静に返した。そして、扉の方へ歩いていく。

「メタナイト、待って!」

トレーナーが切羽詰まった声で叫んだ。思わずその場に立ち上がっている。その様子に気づいたメタナイトが、ため息を吐きながら言った。

「……安心しろ。 まだ 帰りはしない。」

メタナイトは出て行ってしまった。

「……危ない発言、二人目……。」

「トレーナー、何か言ったぁ?」

どこか不安そうにヨッシーが言った。トレーナーは冷静を保ちながら逆のことを答えた。

「言ってないけど?」

「あ……そう。気のせいかな。」

ヨッシーは気になりながらも、深追いはしなかった。遠くでその会話を聞いていたマルスはチラッとトレーナーを見た。が、マリオに向き直る。

「マリオ。あんまり僕達が口出ししない方がいいのかもしれないけど、言わせてもらうよ。君は、メタナイトに「もう一度、大きな声で挨拶しよう!」なんて事を言ったんじゃないかい?」

「……メタナイトに限らず、この場にいた全員に言ったつもりだったが……あぁ、言ったが。」

相変わらずマリオはイライラしているようだった。だから何だ、と目が言っている。

「たぶん、メタナイトはそれが嫌だったんじゃないかな?……僕が言われても少し嫌だしね。」

マリオは目を丸くした。

「そ、そうだったのか?」

意表をつかれたように立ちつくしている。怒りはどこかへ行ってしまったようだ。

「断言はできないけどね。でも、他にもそういう人はいるかもしれない。みんながみんな、同じ感性を持っているわけではないからね。だから、次からはそういうことも頭に入れて言った方がいいよ。」

マリオはしばらく黙って考え込んでいた。やがて頷くと、

「あぁ……そうだな。……。メタナイトに謝ってくるよ。」

と言って部屋を出て行った。

「……ひとまず、一件落着だね。」

何もしてなかったネスが呟いた。

「あぁ……毎日この調子なのかな……。」

ディディが言う。

「ハッ。それでいつまでもつかな。」

フォックスがファルコと共に入ってきた。ファルコンが同調する。

「確かに、一発目であれじゃあ先が思いやられるな。」

「そう言ってる奴ほど同じ事をしているのかもな。」

「……何が言いたい?」

フォックスの皮肉めいた言葉に違和感を感じ、ファルコンが問い返した。一見、普段と変わらない様子なので、彼が気分を害しているのはよく観察をしている人にしか分からなかった。だがフォックスは肩をすくめただけで何も答えず、ファルコンから離れた位置で朝食を食べ出した。

「……気にしないでくれ。」

ファルコンの側を通りすがる時、ファルコが囁いた。

「あいつ、何故か今、気が立っている。……すまねぇな。」

「……お前が謝る事じゃねぇよ。気が立っている、か。覚えておこう。」

ファルコは苦笑いすると、フォックスの隣で食べ始めた。



その後、マリオのお試しリーダーは特に大事もなく(……?)終わった。



一週間後の夜。
みんなの部屋ではリンク、フォックス、ファルコ以外が思い思いのことをしていた。

「なぁ、みんな。」

マリオが立ち上がった。全員がマリオに注目する。

「今日で俺のお試しリーダーは終了だ。……といっても、もう少し時間はあるが、かといってもうやることなんてないだろう。だから、これを最後に、次のお試しリーダーを紹介して終わろうと思う。まぁ……順番なんてみんなは覚えているだろうから、必要ないかもしれないが……いいだろ?」

「えぇ。」

「あぁ。」

「うん。」

等。その場にいた人は好き勝手に返事した。

「じゃあ、紹介するぞ。次のお試しリーダーは………サムス!」

「ってことで、明日からは私がリーダーね。よろしく。」

「……お試し、だけどな。」

ロイがにやけながらこぼすと、サムスがビシッと指さした。

「そこ!何か言った?」

「な、何でもねぇよ!」

“こ、こぇ……。”

ロイは顔を強張らせた。

「なら、いいけど。」

サムスは恐い笑みを浮かべた。一部の者は反射的に顔を見合わせた。

“……先が、心配ね……。”

ゼルダが不安に思っているとドンキーが歩き出した。

「どこ行くの?」

無邪気にディディが聞いた。

「寝る。今日は疲れた。」

「あら、リーダーに一言なくて?」

ドンキーはマリオの方を向いた。マリオは行動の意味を理解し、冷や汗を流す。

「俺は寝るぞ。」

「なっ!」

サムスは怒りで震えた。ドンキーはそれには気づかぬふりをしながら言った。

「あぁそうだ。サムス、お前が今日中に誰かを脅す前に言っておく。今日のリーダーはお前じゃない。マリオだ。」

ドンキーはそのまま出て行ってしまった。部屋には凍てついた空気が残されていた……。



次の日。
ピシ!といっそ気持ちのいい音が響いた。

「いてっ!誰だ!いきなり何だ!?」

それはドンキーの部屋での事だった。言わずもがな、被害者はドンキーである。ドンキーは振り返った。

「サムス!いつの間に!何のつもりだ!」

誰もが想像がついただろうが、そこにいたのはサムスだった。彼女の手には鞭が握られていた。

「あら?分からない?私はリーダーなの。リーダーに逆らう者は罰を受けるのよ。」

もう一度サムスは攻撃する。

「くっ!俺がいつ、お前に逆らったって?」

反撃に出るのは得策でないと判断したドンキーは、自分をかばった。

「昨日、あなたは私に何を言ったのかしらね。」

「お前は今日からだ!昨日は関係ないだろ!大体、あれは逆らったんじゃ」

「逆らったのよ。」

サムスはドンキーをもう一度鞭打つことで遮った。

「フフフ。次のリーダーが誰か分かっている上で、リーダーになる前に逆らったんでしょ?お馬鹿さん。」

「……なん……だと……!」

サムスが口を開く。が、何か言葉が発せられる前にドン、と扉が勢いよく開かれた。

「おっはよー、ドンキー!」

ディディが飛び込んで来た。

「ディディ、今は……」

「ディディ、ノックぐらいしなさい!今は取り込み中よ!」

ドンキーの警告は、サムスの金切り声に消されてしまった。ディディはポカンとしてサムスを見上げた。

「え?だって、サムスがいるなんて思ってなかったし大体、ここはドンキーの部屋だよ?」

「やめろ、ディディ!」

危険を感じたドンキーが叫んだ。ディディは唖然として、今度はドンキーを見る。

「あら、リーダーに口答えするの?」

状況把握まで至ったかどうかは分からないが、サムスの一言でディディも身の危険を感じたようだった。

「ごめん!先、行くね!」

ディディは部屋を飛び出した。

「待ちなさい!」

サムスも後を追おうとした。が、このとき彼女はドンキーの事を忘れていた。

「サムス、これ以上はやらせないぞ!」

ドンキーがサムスを掴んだのだ。しかし、頭に血の上ったサムスには、それは大した足止めにはならなかった。

「それはどうかしら?」

そう言いながら、容赦なく猛烈な一撃をドンキーに見舞う。まさか本気で来るとは思っていなかったドンキーは気絶してしまった。

「しばらく寝ていなさい。」

そう冷たく言い残すと、ディディに制裁を下すべく、サムスは部屋を後にした。



「いやーー!!ごめんなさい!!」

ディディは走っていた。訳も分からず謝罪の言葉を叫んでいる。

「待ちなさいって言ってるでしょう!」

しかし、その程度で許すディディを追う犯人、サムスではない。

「……何事?」

だが、廊下にいたのはサムスとディディだけではなかった。ピーチが叫び声に驚いて立ち止まっていると、ディディがぶつかってきた。かろうじてそれを受け止める。

「あら、ディディ。どうしたの?」

ディディはピーチにしがみついた。

「サムスが!サムスがぁーー!!」

「え?」

ピーチは疑問符を浮かべながらディディの走ってきた方を見た。すると、サムスがやってきていた。

「ピーチ!ディディを私に渡しなさい!」

サムスが叫んだ。ピーチは顔をしかめると、気になった点を訂正した。

「渡す?サムス、あなた、何か勘違いをしているわ。ディディは物じゃないのよ?」

「あなたも!口答えするの!?」

サムスが吠えた。ピーチは平然として答える。

「あら、してはいけなかったかしら?」

「リーダーに対してなんて口の利き方!!あなたも罰の対象よ!」

「罰!?あなた、気でも狂ったの!?」

とうとうピーチもカチンときたようだった。サムスとピーチの間で火花が飛び散る。が、その時、近くの扉がバン!と乱暴に開けられた。

「うるせぇな!こんなところで喧嘩か!?何のつもりだ!!」

フォックスだった。そこは彼の部屋の近くだったらしく、相当ご立腹のようだ。全身の毛が逆立っている。

「フォックス!口出しするわけ?この私に!?」

今度はフォックスにサムスが食ってかかった。

「口出ししちゃいけねぇ理由がどこにある!?」

フォックスも負けじと言い返した。

「フォックス、サムス!どうしたの?一体、何があったの!?」

その時、騒ぎを聞きつけたリンクがスネークとともに走ってきた。が、サムスは構うことなくフォックスに言い返す。

「知らないとは言わせないわ!私は、リーダーよ!」

リンクがいきなり足を止めた。

「どうした?」

スネークはリンクを少し追い越してしまってから振り返った。リンクは少したじろいだが、

「な、何でもない。……応援、呼んでくる。」

と言い残して行ってしまった。

“……変な奴……。”

しかし、スネークは目の前の事に集中することにして喧嘩をしている方に近づく。

「……二人とも一度……落ち着け。」

スネークの仲裁の声は、最後、喧嘩に消されてしまった。

「お前がリーダー!あぁ、そうだったな。だが、だったら何だ!」

ピーチはすでに蚊帳の外だ。やれやれとスネークと顔を見合わせ、首を振る。

「リーダーの言うことは絶対よ!」

「何を言う!?ハッ。ふざけんな!お前みたいな奴はリーダー失格だ!!」

「フォックス……今のは言い過ぎだよ。」

突然第三者の声がした。一行が声のした方を見ると、マルスが歩いてくるのが見えた。フォックスは批判されたことでマルスを怖い目で睨んでいる。それを見なかったことにして、マルスは続けた。

「でも、サムス。フォックスの言うことにも一理ある。」

今度はサムスがマルスを冷めた目で睨んだ。

「あなたも口出しするわけ?」

「そうさせてもらうよ。そうした方がいいと思うからね。」

マルスはやんわりと言うと真顔になった。

「サムス、リーダーっていうのは王様じゃない。それに……王様にしても、王様のいうことは絶対ではないし、勝手をしてはいけないよ。」

サムスは息を呑んだ。その言葉は、マルス自身が王族であることもあって、なかなか説得力のあるものだった。

「じゃあ……マルス。あなたは私が悪いと言うの?」

「さぁ。現状を完全に把握しているわけではないから……。けれど、少しも悪くないとは言えない。……あえて言うなら、喧嘩をしていたことに関してはどっちもどっち、だね。」

「……そう。」

サムスはそれ以上何も言わずに歩き出した。

「サムス、さっき僕が言った事、考えておいてほしい。」

サムスは振り返りもせずに行ってしまった。その場が落ち着いたところでスネークが聞いた。

「で?一体全体、どうしてこんな大事になったんだ?」

「サムスとピーチが喧嘩していた。それがうるさかったから怒鳴ってやった。以上。」

フォックスが間髪入れずに早口で答えた。そして、言うだけ言うとさっさと部屋に戻ってしまった。一同は唖然とする。

「……相当頭にきているな。」

スネークが呟いた。マルスが頷く。

「今はそっとしておいてあげよう。……場所を変えようか。何があったのか、話してくれるかい?」

「えぇ。でも、場所を変える必要はないわ。私も一言で終わるもの。」

ピーチが憤慨して言った。

「なら、歩きながら聞こう。」

スネークは言いながらフォックスの部屋を顎でしゃくった。

「あぁ……そうね。分かったわ。」

ピーチが納得して頷くと、一行は歩きかけた。が、ディディはその場から動かなかった。

「どうしたの?ディデイ?」

ピーチが聞くが、何も答えない。取りあえず、マルスがディディを抱き上げた。すると、

「……怖いよぉ……帰りたいよぉ……。」

と、ディディが漏らした。マルスはディディを覗き込んだ。

「どうしたのかな?何があったの?」

が、ディディは口ごもってしまった。そこでピーチが代わりに答えた。

「……サムスに追いかけられていたのよ。それで私は喧嘩したのよね。」

「あぁ……サムスは何か気に入らない事でもあったのかな。」

マルスは歩き出した。スネークとピーチもついていく。

「なら……なんだ、一番最初はディディか?」

スネークがためらいがちに言った。

“今聞くのは酷、かな……。”

マルスは首を傾げるだけにした。が、

「……ドンキー……。」

ディディが蚊の鳴くような声で言った。

「え?」

思わず三人ははもって聞き返す。すると、ディディがもごもごと答え出した。

「ドンキーの部屋に行ったら……サムスがいて……追いかけられた。」

「じゃあ、一度ドンキーの部屋に行ってみようか。」

マルスの一言で、一行はドンキーの部屋に向かうことにした。



ドンキーの部屋にたどり着き、スネークが扉を叩いた。しかし、返事はない。

「いないのかしら?」

ピーチが呟く。首を傾げながら、マルスが聞いた。

「……カギは掛かっているのかい?」

スネークは無言でドアノブを回した。すると、すんなり開いた。

「……掛かっていなかったようだな。」

スネークは先ほどのマルスの問いに答えた。四人は中に入った。そこにはドンキーが俯せになって倒れていた。

「ドンキー!」

それを見つけたディディはマルスから飛び下り、ドンキーに駆け寄った。

「……ドンキー?ドンキーってばぁ!」

ディディは激しくドンキーを揺らしている。見かねたスネークがディディの肩に手を置いて、事実を伝える。

「落ち着け、ディディ。気絶しているだけだ。」

ディディは不安げにスネークを見上げたが、大人しく揺らすのを止めた。心配そうにドンキーを見つめる。

「ところで……大元はドンキー、ってことかしら?」

ピーチが本題に戻した。スネークが顎に手をやりながら答える。

「いや、分からんぞ。その前に何人いてもおかしくない。」

その時だった。

「……そうか。」

ドンキーを見つめながらマルスが呟いた。その声は確信めいていた。

「何?何か分かったの?」

ピーチが聞いた。彼女は期待のこもった目をマルスに向けている。マルスは頷いた。

「うん。僕の推測ではサムスとドンキーが全ての始まりだね。」

「違う!ドンキーは悪くない!」

ディディがすかさず抗議した。すると、あろうことかマルスはそれを肯定した。

「そうだね。確かに言い方は悪かったけど、基本的には悪くないよ。」

スネークが眉をひそめた。

「……マルス?その言い方じゃあ、まるでお前がその場に居合わせてたみたいじゃないか。」

すると、マルスはクスリと笑った。

「あぁ、その場にいたよ。……みんなもいたじゃないか。」

「何を言い出すの?私、全然分からないわ。」

今度はピーチが訝しげにマルスを見た。すると、ディディが声を上げた。

「あっ!分かった!昨日の夜!リーダーがサムスだって紹介された後!!」

「あぁ、その通りだ。」

ピーチとスネークがハッと思い出した時、正誤のジャッジを下した声はマルスのものではなかった。

「ドンキー!」

四人の声が重なる。ドンキーが起きあがっていた。そういえば、ドンキーを床に放置したままだった、とマルスは密かに思った。ドンキーは咄嗟に耳を塞ぎ、うずくまった。

「……頼むから、大声を出さないでくれ。頭に響く。」

「ドンキー、大丈夫?」

ドンキーの抗議を余所に、ディディが急き込んで言った。ドンキーはただ頷いて返した。

「いつ、気がついた?」

「マルスが推測を話し出した頃、だな。」

スネークが問うとドンキーは呻くように返した。

「僕の推測はあっていた、って事かな?」

今度はマルスが聞いた。

「あぁ。……ところで、俺らが一番はじめって事は……大事にでも発展していたのか?」

「……そうね。とっても大きくなっていたのかしら。」

ピーチが言うと、スネークが腕を組んで説明役をかってでた。

「ディディが追いかけられ、ピーチがサムスと口論。そこへフォックスが怒鳴り込んで、今度はその二人が口論。で、俺とリンクが駆けつける。リンクは、応援を呼びに行くと言ってどっか行ってしまったがな。」

そして、マルスが引き継いだ。

「……僕はリンクに呼ばれてその場に行ったんだ。みんなを落ち着かせて、事情を聞いて、ここに来たってところだね。」

状況把握ができたようでドンキーは頷いて見せた。そして、ディディの方を見る。

「ディディ、大丈夫だったか?」

「わぁあぁぁん!」

ディディはとうとうドンキーに泣きついた。

「もうヤダ!こわい!もう帰ろう!こんなとこ、いやだよぉ!!」

ピーチ、スネーク、マルスは驚いて何も言う事ができなかった。ドンキーが優しくディディを撫でている。三人が様子を見守っていると、ドンキーがディディの顔を覗き込んだ。

「……ディディ、そんな事を言ってちゃだめだ。強くなるために来たんだろ?」

ディディは小さく頷いた。

「だったら、ここに残るんだ。お前は弱虫じゃない、な?」

「……うっ……うっ……分かっ……分かった……。」

様子を見るしかできなかった三人は嬉しそうに顔を見合わせた。その様子に気づいたドンキーが頭を掻いた。

「マルス、スネーク、ピーチ。すまねぇな。迷惑かけた。」

「なんてことないよ。……じゃあ、僕は行くね。」

マルスは微笑むと行ってしまった。

「私もそろそろ行くわ。朝から喧嘩して疲れちゃった。」

ピーチもマルスに続いた。スネークも親指を立てると出て行った。



それからサムスは、お試しリーダーの期間が過ぎるまで部屋に籠もったままだった。



次のお試しリーダーに変わり、少したった頃の夕方。
ピカチュウ、オリマー、ソニック、ピット、ヨッシー、ロイがみんなの部屋にいた。そこに、キッチンからナナとポポが出てきた。

「お、準備出来たか?」

ロイが声をかけた。

「それが……。」

「どこにあるのよ?」

「え?」

ロイは動きを止めた。そのただならぬ雰囲気にその場にいた人達は様子を伺った。

「……ないってどういうことだよ。」

ロイはかろうじてそれだけを言った。しかし、彼は困っている……いや、焦っているのは一目瞭然だった。

「……ねぇ、さっきから何の話?」

ロイの様子は気になるが、しかし、よく分からない話を続けられても気分が悪い。そう思ったピットは代表して聞いた。

「食料。」

ナナが短く答えた。するとピカチュウがあれ、と首を傾げた。

「探すまでもないと思うけど?」

ピットも頷いて言った。

「今日のお昼を作った時は……確かに明日は買い物行かなきゃいけないと思ったけど……夜の分はあったよ。」

「えぇ。分かりやすい所に置いてあるはずですが。」

少し主旨のずれたピットをオリマーが補足した。すると、ポポは首を傾げた。

「おかしいな……。机の上にも、冷蔵庫の中にも何もなかったんだけど……。」

「ちょっと待って。ないってどういう事?」

突然、ヨッシーが声を上げた。顔が真剣になっている。また、話を聞いていないように見えたソニックもこちらに顔を向けた。

「さっき買い物に行く必要があるって言ったよな?俺、昨日行ったぜ?」

一瞬で部屋の中は静まりかえった。どういう事だ、と、それぞれが顔を見合わせる。

「じゃあさ、」

「見に来てよ。」

ポポとナナがため息を吐きながら言うと、ピカチュウとソニックがついていった。一同はそれを目で追いながら様子を伺う。次の瞬間、

「ない!!」

「何でだよ!?」

二人の叫び声が聞こえてきた。やっぱりないのかと、残ったメンバーはガックリと肩を落とした。すぐに四人は戻ってきた。

「ほら。」

「なかったでしょ。」

二人の確認の声を聞きながら、とぼとぼと無言で戻ってくるピカチュウとソニック。

「……なかったのですか?」

念のため、とオリマーが確認する。すると案の定、二人は力なく頷いた。一同は微かな望みも絶たれ、言葉を失った。

「ど、どうしたの?し、静かだね……。」

そこへリュカが入ってきた。ルイージ、アイク、プリンも一緒にいる。

「……何かあったのか?」

いち早く問題発生に気付いたアイクが聞いた。

「うん。食べ物が全部なくなってるんだよ。」

ヨッシーが答えた。本人は至極真面目な顔をしているが、のほほんとした声のため、いまいち説得力が欠ける。しかし、その雰囲気に慣れたルイージにはその緊急性が伝わったようだった。

「全部!?まさか!!ソニック、昨日一緒に行ったよね?」

どうやら前日はルイージが当番だったようだ。ソニックは頷いた。

「あぁ。でも、ねぇんだよ……。……Why?」

「……あ……もしかして……。」

みんなが首を捻っている中、プリンが呟いた。

「思い当たる事があるのか。」

その声をアイクが聞きつけた。

「え?……えっと……。」

プリンは突然聞かれてたじろいだ。

「プリン、教えてよ。このままだと僕達、夜ご飯抜きになっちゃうよ。」

ピットが促すと、プリンは頷いた。

「……分かった。あのね、私、見たの。お昼の後、カービィが台所に入っていくのを。」

ピカチュウが、ん、と首を傾げた。

「カービィって確か、今のお試しリーダーだ。」

「……カービィを探しましょう。リーダーに聞くのが一番です。」

ピカチュウの言葉を聞いたオリマーが歩き出した。が

「ちょっと待て!」

アイクが引きとめた。何ですか、とオリマーが振り返る。

「誰か、カービィが台所から出てきたのを見た奴はいるのか?」

「僕、ずっとここにいるけど、見てないなぁ。」

アイクの問いにヨッシーが答えた。それに頷いてピットも言う。

「僕もいたよ。僕も見てない。でも、入っていったのも知らないんだ。」

「私を疑うの?」

プリンが憤慨していった。頬が膨らんでいる。

「違うよ!」

ピットはあわてて否定した。そして、付け加える。

「僕は、知らないうちに出て行ったかもしれないって事を言いたかっただけ。」

それを聞いたオリマーは、アイクの意図を理解した。

「……ですが、探してみても良さそうですね。皆さんは奥の方までは見ていませんよね?」

「うん。」

「当たり前じゃん。」

「食材のあるはずのところしか見てないぜ。」

「見たとしても、ざっとだし。」

順にナナ、ポポ、ソニックにピカチュウ。

「じゃあ、見に行ってみようか。」

ルイージが入っていくと、プリン、オリマー、リュカ、アイクがそれに続いた。

「ところでさ。」

ナナがロイを見ながら言った。

「ロイ、お昼も誰かに任せたの?」

「……昼間はホントに用事があったんだよ。」

「怪しいなぁ……。」

ポポの呟きにロイは苦笑いした。



「……カ、カービィ?居る?」

リュカが呼びかけた。しかし、もちろん返事はない。傍らでルイージが冷蔵庫を開けている。やはり確認せずにはいられないようだ。

「……本当に何もないね……。」

ルイージの呟きは部屋に吸い込まれるように消えた。

「カービィ、居たら返事して?」

カービィの捜索は続いている。やがて、アイクが奥の箱を開け始めた。五つほど脇にどける。

「……………いた。」

アイクが呟いた。四人はアイクの下にやってくる。すると、アイクは一つの箱を指し示した。

「……返事、してくれないよね……寝ていたら……。」

リュカが思わず呟く。カービィは箱の中で、それはもうぐっすり眠っていた。アイクはその箱をキッチンの中央に持ってくる。

「カービィ、起きてよ。」

ルイージが軽く揺らした。が、カービィは爆睡していて、起きる気配が全くない。しかし……

「うう……もうおなかいっぱい……。」

なんて寝言を宣った。

「……………。カービィさん……全部食べたの、あなたですか……。」

食材がなかった理由が判明した。もちろん、カービィは弁解をしない。

「……とりあえず、みんなのところに戻ろう。夕食の事を考えないと……。」

ルイージの言葉にそれぞれが頷く。アイクがカービィの入った箱を持ち上げ、五人は移動した。



みんなの部屋には新たにゼルダ、マルス、トレーナー、リンクが来ていた。五人が入ってきたのを認めるとゼルダが聞いた。

「カービィはいましたか?」

「……ここにいる。」

言いながらアイクは、カービィの入った箱を机の上に置いた。
そこから離れた場所では……。

「ねぇ……そう言えば、今のリーダー、誰だっけ?」

リンクとトレーナーがひそひそと話していた。

「……安心しなよ。ここにはいないから。」

トレーナーは少し思案してから嘯いた。が、それを聞き取ってしまった人がいた。

「え?」

マルスだ。その声でリンクは振り返る。

「マルス、どうかした?」

彼は少し困った顔を浮かべていた。その隣ではトレーナーが怖い顔をしていた。

「……いや……気のせい、かな。何でもない。気にしないでほしい。」

マルスは真相を聞こうかと思ったが、二人の顔、特にトレーナーを見て、慌てて方向転換をした。が、リンクは何かを聞こうとしたという事には気づいた。

「……もし、オレがリーダーを知らない事に驚いたのだったら、ごめん。オレ、リーダーを決めた時、ちょっっと席を外してたから。」

「あ……あぁ、そうか。なるほど。」

リンクの言葉は全く知りたい事とは異なっていたが、マルスは作り笑いを浮かべてその場をやり過ごした。リンクは何事もなかったように側を離れていった。逆に、トレーナーがマルスに近づいた。

「……今の会話、聞こえてた?」

「……うん。……トレーナー、どうして嘘を……?」

「……そのうち、分かると思う。流石に、あれはすぐにばれると思うから。」

トレーナーはため息を吐いた。
カービィの周りにはみんなが集まっていた。思案顔でカービィを見つめている。

「……寝てるじゃねぇか。しかも、箱の中で。」

「困ったなぁ。リーダーがこれじゃあ、話にならないよ。」

リーダーという言葉が出たとたん、リンクが固まった。が、すぐにもとに戻る。そしてトレーナーを睨んだ。扉の方に行く。

「リンク、どうしたの?」

それに気づいたゼルダが話しかけた。リンクは振り返る。

「え?あ……部屋に戻るよ。この件は、オレがいなくても大丈夫そうだし。」

そしてそのまま出て行ってしまった。ゼルダはリンクの不審な行動に疑問符を浮かべていた。
それを、やはり離れた位置で見ていたマルスとトレーナー。マルスはトレーナーに向き直った。

「……今のが、理由かい?」

「うん、そうだよ。」

「……よく、分からないんだけど。」

「……君なら分かってくれると思ったんだけど。流石にあれだけじゃあ無理か。」

トレーナーは苦笑した。

「教えてはくれないのかい?」

「うん。マルスには悪いけど、これ以上話すと、リンクのプライバシーの侵害になっちゃうから。」

トレーナーは離れていった。

「ど、どうするの?食料、本当に全然なかったし…。」

「まーた買い物に行くのか?俺は行かねぇぜ!」

ルイージの困り果てた言葉とソニックの不機嫌な声を皮切りに、その場にいた人が――一部を除いて――騒ぎ始めた。

「みんな、落ち着くんだ!そんな風に騒いでいても何も始まらない!」

マルスが叫んだ。すると、ヨッシーがヒステリックに返す。

「だけど食べ物がないんだよ!どうするの!?」

「分かり切った事を言わせるか……考えるんだ、冷静に。」

アイクが低い声でゆっくりと言った。すると、やるべき事に気づいたようで、静かになった。

「で、落ち着いたらどうするの?」

ピットが聞いた。

「そうだね……まずは、カービィを起こしてくれるかな。」

「さっきからやってるけど全然起きないの。」

プリンが困ったように言った。

「ねぇ、いっそのこと攻撃してみたら?」

ナナが腕を組んで言った。隣でポポが頷いている。

「え?そ、そんな……いくらなんでも……。」

リュカが呟いた。すると、ポポはハンマーを取り出した。

「何ならやるよ?」

「ピィカァ。」

その隙にピカチュウが弱い電気ショックを放った。

「うわっ!」

効果は抜群だ!!カービィは飛び起きた!!

「……や、やっちゃった……でも起きたし……でも………。」

リュカはオロオロと様子を見守っている。それに気づいたゼルダがリュカの肩に手を置いた。リュカは驚いて見上げる。

「リュカは優しいですね。大丈夫ですよ。カービィはあの程度の攻撃ではなんともないでしょうから。」

「そ、そっかぁ……なら、いいの……か……な………。」

しかし、やはりリュカは納得いかないらしい。ゼルダは困ったように微笑んだ。カービィの方を見れば、いきなりの攻撃を非難していた。

「ごめん。でも、全然起きなかったから。」

すまなさそうにピカチュウが言った。カービィはため息を吐く。

「次はもっと平和的にやってよね。」

落ち着いたのを見て、オリマーがコホンと小さく咳払いをして見せた。

「ところでカービィさん。突然質問しますが、キッチンの食料、全て食べましたか?」

「え、えーと?何の事?」

カービィは冷や汗を流しながら言った。心なしか周りの人の目が怖い気がする、とカービィは思った。すると、ヨッシーが叫んだ。

「カービィ!分かって言ってるでしょう!ずるいよ!」

“……ま、まずいことになってる……。”

……この際、ヨッシーの怒りの原因についてつっこむのは止めよう。

「本当のことを言え!カービィ!」

さらにソニックが畳み掛けた。

「み、皆さん落ち着いて!そのように責めてはいけません!」

このままでは解決に繋がらないと感じたゼルダは、慌ててその場を静めようとした。

「でもさ、悪いのカービィだよ。」

「仕方ないと思うけどな。」

しかし、それをカービィを庇うためだととった人のが多勢だった。客観性に欠けているのをみてとって、マルスが割って入る。

「ちょっと待てって!まだカービィが悪いとは決まっていない!」

「決まってるよ!カービィが言わないだけで!僕は正直じゃないの、嫌いだ!!」

完全に興奮してしまっているピットが言い返した。それでも平静を保っているマルスは落ち着いた声で尋ねた。

「……証拠はあるのかな?」

すると、みんなが口々に―マルスがまとめながら―話し始めた。
一方、それを少し離れて見ていたトレーナーは、カービィに近づいた。カービィは俯いたまま動かない。

「……カービィ。」

トレーナーはカービィを覗き込んだ。

「僕に本当のこと、話してほしい。」

カービィはやはり動かない。

「もし、みんなの言ってる事が本当なら、カービィは謝らないといけないと思う。」

カービィは目をギュッと瞑った。

「……逆に、みんなの言ってる事が間違いなら、みんなはカービィに謝らなきゃいけない。」

「…………。」

トレーナーはじっとカービィを見つめた。すると、カービィが顔を上げた。

「あのね……ボクが、食べた。」

その声はマルス達の方にも聞こえたようだった。一瞬で部屋が静まりかえり、カービィに視線が集まった。

「みんな……ごめんなさい!!」

カービィは頭を下げた。しばらく誰も動けずにいた。

「……カービィ、もういいよ。顔を上げて?」

やがて、ピットが優しく言った。カービィは少し間をおいてからゆっくりと顔を上げた。

「しかし……カービィさん、どうして全部食べたのですか?」

理由だけは確認しようとオリマーが口を開いた。

「ボク、今リーダーでしょ?だから、ちょっとくらい食べても怒られないかな、って思って食べてたんだ。でも、気がついたらほとんどなくなってて……。」

「……カービィらしいといえば、カービィらしいかなぁ……。」

ヨッシーが呆れたように漏らした。

「ねぇ、なんで箱の中で寝ていたの?」

あ、と何人かがカービィを好奇の目で見つめた。

「ごめんなさい。気づいた時にアイスクライマーが入ってきて、思わず隠れちゃった。それで、そのまま寝てしまって……。」

もはや絶句するしかない。

「……と、とりあえず、分からなかった事は分かった。後は……。」

気を取り直してマルスがまとめ始めた。それにアイクが便乗する。

「……次だ。今からどうするか。」

「夜ご飯をどうするか、ってことだよね。」

ルイージが確認をとるように言った。

「抜き、っていうのもありだけどね。」

トレーナーが冗談半分で言うと、

「ダメ!」

とヨッシーが叫んだ。笑いがおこり、場が一気に和んだ。

「でしたら、食料を買いに行かなければなりませんな。」

「そうだね。……誰が行く?」

オリマーが言い、ピットが聞くとみんなは黙り込んだ。が、それは少しの間だった。

「ボク……ボクが行く。」

カービィが名乗り出たのだ。

「カ、カービィが?」

驚いたリュカが思わず聞き返した。

「今度は食べないから安心して。」

カービィが言うと、リュカは罰の悪そうな顔をした。

「ぼ、ぼくは……そんなつもりで言ったんじゃ……。」

「ごめん。……でも、悪いのはボクだから、ボクが買いに行くべきだと思う。」

「……分かった。カービィがそうしたいんだったら、頼んでもいいかな?」

「うん!」

マルスが言うと、カービィは元気よく返事をし、部屋を出て行った。

「よかったぜ。とりあえず俺は行かなくて済む。」

ソニックは言いながらソファにもたれ掛かった。それを横目に見ながらゼルダが言う。

「……ソニックさんは昨日行ってくださったばかりですからね。ですが……カービィ一人では……。」

「ゼルダ、心配しないで!ボクも行くから!」

「私も!」

そう言いながら、ピカチュウ、プリンも出て行った。

「……あの三人で持てるのか?」

ロイが呟く。ため息を吐くとゼルダが言った。

「……私が行きましょう。」

そして、ワープして行ってしまった。


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