集合&結成!?スマッシュブラザーズ!!

「あ!リンク、クッキー作ってよ!!」

ピカチュウが思い出すや否や、すぐにリンクにねだった。一瞬唖然としたリンクだったが、直ぐに合点がいったようだ。が、

「あっ!ご、ごめん!ちょっとだけ待ってて!!」

と叫んでターマスを追って行ってしまった。ピカチュウは驚いてそれを眺めていたが、やがてガックリと肩を落とした。長い耳や尻尾も垂れ下がっている。

「……リンク、本当は作りたくないのかなぁ………。」

一部始終を見ていたスネークは、あまりのピカチュウの落胆さを不憫に思って言った。

「いや、単にターマスに用があったんだろう。昨日から探していたようだからな。」

同じく、一部始終を見ていたフォックスは首を傾げた。

“……?一体何の用があるんだ?昨日の件は解決したはずだぞ……?”

一方トレーナーは、リンクが出ていったのを未だに呆然と見ていた。が、やがてため息をついた。

“ずっと一緒にいて、って言ったのに……。”

トレーナーは扉に向かった。しかし、それを遮るように引っ張るものがいた。トレーナーが振り向くと、足下にピカチュウがいる。

「トレーナー……ちょっと一緒に待っててよ。」

「……でも、僕……。」

トレーナーは周りを伺った。幸い、アイクはいないようだった。

「リンクならすぐに戻るよ。約束は守る人だから。」

声のした方を見るとマルスがいた。彼はちょっと微笑むと、部屋を出ていった。マルスはトレーナーとリンクの間でなされた約束を知らないはずだが、トレーナーにはマルスの言う約束がそれを指しているように感じた。けれど、それに反応したのはトレーナーだけではなかった。

「ほら!ね、トレーナー!お願い!!」

ピカチュウは顔を輝かせている。ここまで頼み込まれたら待たないわけにはいかない。そう思ったトレーナーは頷いた。

「……………………。離れないでね。」

トレーナーの声はとても小さかったが、三匹はしっかり聞き届け、頷いた。



「ターマス!」

みんなの部屋を飛び出したリンクは、玄関を出ようとしていたターマスを見つけるなり叫んだ。ターマスは何事かと言わんばかりの表情を浮かべて振り向いた。

「……?あぁ、お前か。」

が、リンクの顔を見て、その場にとどまった。

「マルスに何か言われたか?」

すると、リンクは苦虫を噛んだような顔をした。

「……聞かれた。」

「話したのか?」

間髪入れずにターマスは問う。リンクは首を振った。

「でも、なんでオレが知ってるってばらしたの?マルスも言ってたけど、話していいってこと?」

「いや、だめだ。黙っていろ。」

ターマスはぴしゃりと言った。リンクは眉をひそめ、ターマスを睨み付ける。

「あぁ、そうだ。」

しかしターマスは、リンクの非難がましい視線をものともせずに懐を探ると、一枚の紙を取り出した。

「これがほしいんじゃなかったのか?」

差し出されたそれをリンクは表情を変えずに受け取った。が、その中身を見るなり驚きを示した。

「……確かにこのレシピをもらうのが目的だったけど」

「何の話し合いをしているのかな?」

リンクの疑問は他の声に遮られた。見るとマルスがやってきていた。挑戦的な目をしている。

「話し合い?何のことだ?」

「とぼける気かい?」

ターマスの適当な返事をするが、マルスは更にたたみかける。ターマスは肩をすくめた。

「さっぱり分からないな。あぁ、リンク、早く戻ってピカチュウに作ってやったらどうだ?レシピ通りに作れば大丈夫だろう。」

「え?」

リンクは惚けた顔をした。が、それは一瞬で、

「あ、そうだ!待たせているんだった!!」

と叫ぶと、なんとも慌ただしく去って行った。実は彼、ターマスに誤魔化されたのだが、それに気付くことはなかった。
リンクが去っていくのを見送ると、マルスはターマスに向き直った。

「……さて、ターマス。一体どういうことかな?」

「だから、さっきから何を言っている?」

ターマスは呆れたようにマルスを見やる。

「リンクは教えてくれなかった。」

マルスから穏やかな雰囲気が消えた。その場の空気は冷たい。しばらくターマスは何も言わずにマルスを見つめていた。が、やがて、面倒くさそうに首を振る。

「ヒントはやった。私から話すつもりはない。」

言うだけ言うと、扉に手をかけた。が、さっとマルスがターマスの肩を捕まえる。

「待て。僕は君の秘密を握っているんだけど?」

「だからどうした?」

相変わらずターマスは淡々としている。対してマルスには焦りが見えはじめていた。

「……………っ!ばらしてもいいのか!?」

ターマスはやれやれとため息をついた。そしてあごに手をあてる。

「ふむ……そうだな……。」

そして、顔をマルスに向けた。

「もしばらしたら、この世界に閉じ込めてやる。お前も、他の奴らも。」

「っ!そんなこと」

「できるさ。」

表情が堅くなったマルスを短く遮ると、ターマスは勢い良く振り返った。

「こんな風にな!!」

パチンと指を鳴らす。一瞬辺りをまばゆい光が包み込む。マルスは耐えられず、顔を手で覆った。落ち着いた頃に顔を上げると、そこは何もない無機質な場所だった。足場はないが立ってはいられる。いや、どちらかと言うと、浮いているという表現が正しかった。

「ここ、は………。」

唖然としていたマルスの前に、ターマスが現れた。

「あそこで口論して、他の奴に聞かれては元も子もないのでな、場所を移させてもらった。ここには何もないが、あの建物をここのように脱出不可能にすることは、私にとって容易いことなんだ。……お前がもし、私の正体を話せば、詳細を聞きにくるやつが出るだろう。それは面倒この上ない。私には話すつもりがさらさらないのでね。そうすると……リンクみたいな奴が出てくる。だが、帰られては困るのだよ。」

「だから正体がばれた時点で全員を閉じ込めると?」

マルスが聞くと、ターマスは頷いた。

「流石に私も全員を見張ることはできないのでね。」

マルスはあんぐりと口を開けた。

「君、つまりそれは……!」

「あぁ、言ってなかったな。お前とリンクは見張らせてもらう。」

マルスは怒りで震えた。

「僕らにプライバシーはないと?」

ターマスは手をヒラヒラと振った。

「いやいや。ただ少し、言葉に制限をさせてもらうよ。怪しいことを言ったら警報がなる……勿論、それは私の方で、だ。」

マルスはイライラと髪を掻き上げた。

「やっぱりここは気に入らない。君を困らせるのも悪くないし。………帰らせてもらう。」

「できるなら。」

ターマスは涼しい顔で答えた。二人はしばらく睨み合う。やがて、マルスが口を切った。

「……元の場所に戻せ。」

「断る。帰るという奴は、閉じこめるしかないというのが持論でね。」

マルスは唇を噛んだ。

「卑怯だとは思わないかい?」

すると、ターマスは苦笑した。

「百も承知だ。……あの手この手でお前達を集めた時点で自覚していたからな。」

マルスはまた黙り込んだ。

“……何か抜け穴はないのか?おそらく、力では……力?確かにターマスは魔力は強い。だが、力なら……?”

マルスはターマスを見据えた。ゆっくりとファルシオンに手をもっていく。手が触れる。柄を握った。が、

「変な気はおこさないでほしいな。」

ファルシオンが消え、ターマスの手の中に移動していた。

「君………!!何故そこまで僕達に固執する!?」

「お前達を集めた理由に帰結する。しかし、あえて言うならば、お前達の経歴だな。」

しばらく沈黙がおりた。マルスはターマスをにらみ続けていた。が、俯くとゆっくりと息を吐いた。

「……わかった。しばらくは君の思う通り動いてやろうじゃないか。」

それを見たターマスは一つ頷き、剣を返した。そしてじっとマルスを見る。

「……何かな。」

マルスの声に覇気はなかった。

「まだ何か言いたそうに見えるが。」

マルスはため息をついた。

「あぁ、文句ならたくさんあるよ。言い尽くせない程ね。しかし、いくら喚こうが騒ごうが、君は話さないの一点張りで意味をなさない。だから……いや、やっぱりもう少しだけ。」

マルスは一度口を閉じた。ターマスは何も言わずに待った。

「君から聞き出すのはどうやら不可能だ。しかし……何故かリンクは理由を知っている。だから……彼を尋問するのは構わないかい?」

ターマスはただマルスを見つめていた。が、やがて

「………。お前の良心が痛まないなら、勝手にするといい。」

と言い捨てた。マルスは頷いた。

「とりあえず、次が最後だ。答えないのを覚悟で聞く。……君は、何者だ?」

ターマスは表情を全く変えなくなっていた。

「お前も知っている通り、この大会の主催者だ。……と、言いたいところだが、あまりに秘密ばかりでは悪いな。一つだけ、教えてやろう。……………
……………
……………
全ての起源は我にあり。」

マルスは顔をしかめた。

「何を言って」

マルスは追及しようとしたが、ターマスはそれを許さなかった。パチンと再び指を鳴らしたのだ。辺りはまた、まばゆい光に包まれる。マルスが目を開けると、移動前に見た光景が広がった。しかし、すでにターマスはそこにいなかった。





一方キッチンでは、レシピをリンクが入手してきたことにより、お菓子作りが開始されていた。リンクは卵を混ぜている。隣ではピカチュウとゼニガメが協力して粉を振るっていた。

「リンクー!!こんなカンジ?」

ピカチュウが元気よく叫んだ。人一倍待ち焦がれていたピカチュウは、嬉しくて仕方ないのだった。

「……なんか、ちょっと多いよ?ピカチュウ、計り見てよ。」

ゼニガメがまじめくさって言った。言われて、ピカチュウは数字を確認する。

「あ………。」

「大丈夫だよ。」

それを覗きながらリンクは言う。

「ちょっとくらいの誤差なら問題ないから。えーと、じゃあ次は……。」

リンクはあらかじめ用意してあったバター入りのボールを、それより大きな湯の入ったボールに浮かべた。

「今度はゼニガメの番かな。バターを溶かしてね。あ、ピカチュウ、ちょっとボールを押さえてあげて。」

「「はーい!!」」

二匹は大きな声で返事をすると、作業にとりかかった。
少し離れた机では、不貞腐れた顔をしたトレーナーが頬杖をついて座っていた。近くにはフシギソウとリザードンが待機していた。

「手伝わないの?」

「僕はいい。」

フシギソウが尋ねるが、トレーナーは短く却下する。その声は不機嫌極まりなかった。

「そんなこと言わないで。トレーナーも一瞬にやろう?」

そんな短いやり取りが聞こえたらしい。リンクは振り返って、トレーナーの様子を伺っていた。

「……………………。」

が、トレーナーはふいっと顔を背けてしまった。隣でリザードンが苦笑した。

“うわぁ……これは相当怒ってる……。”

リンクは内心焦っていた。理由を嫌と言うほどわかっているのが更に辛いものとしていた。

「リンク!溶けたよ!!」

ゼニガメの声でリンクは現実に引き戻された。そちらを見ると、二匹が待っている。

「あ……、じゃあ、そこに溶いてある卵があるから、それを入れて混ぜてくれる?次はピカチュウだね。あぁ、もうお湯から出してもいいよ。」

リンクはトレーナーを気にしつつも二匹のところに戻った。そして生地が出来上がった。リンクは麺棒で生地をのばすと、トレーナーのいる机の方へ持っていった。

「ピカチュウ、ゼニガメ、こっちの方が広いから、こっちに来て。形抜きしよう!」

二匹はニコニコ笑顔でやってきた。リンクがお手本を見せてから型を渡すと、二匹は意気揚々と型抜きを始めた。

「トレーナーもやらない?」

様子を伺うようにリンクが聞いた。ついそちらへ目をやっていたトレーナーは、リンクの声ではっとし、顔を背けようとした。が、

「クスクス、これ、おもしろい!!」

「うん!!あ、次はハートにしよう!」

二匹の楽しそうな声が聞こえてくる。それにつられてトレーナーの目線が戻った。

「ほら、やってみたら楽しいと思うよ?」

リンクは型の一つを差し出している。トレーナーは仕方なく受け取った。

「あ!」

楽しんでいるようで、実は手放しで楽しんでいられなかったゼニガメは、トレーナーが型を持っているのに気付いた。

「レッ………トレーナーもするの?ほら、ここ!!空いてるよ!」

ゼニガメは笑顔で自分の近くを指差した。が、トレーナーは表情を固くした。チラッとリンクを見た。

「どうしたの?ゼニガメのところでちゃんとできるよ?」

リンクはトレーナーの不思議な行動を見なかったことにして、促した。

“大丈夫……ばれてない。”

トレーナーは一人、ホッと胸を撫で下ろした。そして型抜きをしてみる。

“……意外と、おもしろい……!”

トレーナーはやがて、ピカチュウやゼニガメと一緒になって型抜きを楽しんでいた。

「……リンク。足りるのか?」

「え?あっ!」

それまで黙っていたリザードンが聞く。三人を見守っていたリンクだったが、リザードンの一言で、まだ休むのは早いことを思い出した。

「大丈夫。まだ作るから。でも先に……ごめん、ちょっとどいてね。」

三人を退けると穴空きになっていた記事を伸ばしなおした。

「これでしばらくやっててね。」

「……ありがとう。」

トレーナーはようやく笑った。それを見て、リンクは一安心した。



その後お菓子作りは順調に進み、ピカチュウも満足したようだった(ここで確認しておくが、彼の目的はトレーナーにクッキーを食べてもらうことである)。リンクとトレーナーはバルコニーに来ていた。ゼニガメ達はボールの中だ。

「さっきはびっくりしたなぁ……だってリンク、いきなりどこか行っちゃうんだもの。」

トレーナーがしみじみと言うと、リンクは苦虫を噛んだような顔をした。

「ごめん……。」

トレーナーは驚いて目を瞬かせた。が、それは一瞬のことで、

「ずっと一緒にいて、って言ったのに。」

と、口を尖らせて更に続ける。すると、リンクは恐縮してみせた。

「……すみませんでした。」

その直後、トレーナーが突然笑いだした。リンクは驚いて、トレーナーを見た。

「……っ!!ご、ごめん、でも、リンクって本当に優しいね。もう気にしてないから、リンクも気にしないで。」

「そ、そう………?」

トレーナーの様子に気圧されて、リンクはなんとかそれだけを返した。トレーナーは相変わらず笑いながら頷いた。

「うん。いなくなった理由、本当は僕も知ってたはずだったし、それにリンク、すぐに戻ってきてくれたから。気にしてない。ただ、ちょっとからかってみたくなって……!」

「そ、そっか……。」

必死で笑いを堪えようとするトレーナーを、リンクは呆気にとられて眺めていた。が、やがてふわりと笑った。

“よかった。トレーナー、ちょっとは元気になったみたい。”

トレーナーは漸く笑いを押さえることに成功したようだった。しかし、今度は笑い疲れて少し息が切れている。だが、そんな大変そうなトレーナーを余所に、リンクはほっと胸を撫で下ろしたのだった。

“……問題は、彼をどうするか……オレも仲直りしたいし……。”

「リンク?」

気がつくと、トレーナーがリンクを覗き込んでいた。いつの間にか落ち着いたらしい。

「怖い顔して、どうかした?……もしかして、怒ってる?」

言われて、リンクは顔をしかめていたことに気付いた。あわてて笑顔を浮かべる。

「怒ってない怒ってない。それよりトレーナー、大丈夫?ずいぶん辛そうだったけど……。」

トレーナーはヒラヒラと手を振った。

「平気。大体、自業自得だしね。」

「そっか。ならよかった。ところで、」

リンクは別の話題を出して、会話を進めていく。トレーナーもそれにつられてお喋りに興じた。が、

“……はぐらかされちゃったな……。”

なんとなく、暗い気持ちは拭えなかった。



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