集合&結成!?スマッシュブラザーズ!!
「あ!リンク、クッキー作ってよ!!」
ピカチュウが思い出すや否や、すぐにリンクにねだった。一瞬唖然としたリンクだったが、直ぐに合点がいったようだ。が、
「あっ!ご、ごめん!ちょっとだけ待ってて!!」
と叫んでターマスを追って行ってしまった。ピカチュウは驚いてそれを眺めていたが、やがてガックリと肩を落とした。長い耳や尻尾も垂れ下がっている。
「……リンク、本当は作りたくないのかなぁ………。」
一部始終を見ていたスネークは、あまりのピカチュウの落胆さを不憫に思って言った。
「いや、単にターマスに用があったんだろう。昨日から探していたようだからな。」
同じく、一部始終を見ていたフォックスは首を傾げた。
“……?一体何の用があるんだ?昨日の件は解決したはずだぞ……?”
一方トレーナーは、リンクが出ていったのを未だに呆然と見ていた。が、やがてため息をついた。
“ずっと一緒にいて、って言ったのに……。”
トレーナーは扉に向かった。しかし、それを遮るように引っ張るものがいた。トレーナーが振り向くと、足下にピカチュウがいる。
「トレーナー……ちょっと一緒に待っててよ。」
「……でも、僕……。」
トレーナーは周りを伺った。幸い、アイクはいないようだった。
「リンクならすぐに戻るよ。約束は守る人だから。」
声のした方を見るとマルスがいた。彼はちょっと微笑むと、部屋を出ていった。マルスはトレーナーとリンクの間でなされた約束を知らないはずだが、トレーナーにはマルスの言う約束がそれを指しているように感じた。けれど、それに反応したのはトレーナーだけではなかった。
「ほら!ね、トレーナー!お願い!!」
ピカチュウは顔を輝かせている。ここまで頼み込まれたら待たないわけにはいかない。そう思ったトレーナーは頷いた。
「……………………。離れないでね。」
トレーナーの声はとても小さかったが、三匹はしっかり聞き届け、頷いた。
「ターマス!」
みんなの部屋を飛び出したリンクは、玄関を出ようとしていたターマスを見つけるなり叫んだ。ターマスは何事かと言わんばかりの表情を浮かべて振り向いた。
「……?あぁ、お前か。」
が、リンクの顔を見て、その場にとどまった。
「マルスに何か言われたか?」
すると、リンクは苦虫を噛んだような顔をした。
「……聞かれた。」
「話したのか?」
間髪入れずにターマスは問う。リンクは首を振った。
「でも、なんでオレが知ってるってばらしたの?マルスも言ってたけど、話していいってこと?」
「いや、だめだ。黙っていろ。」
ターマスはぴしゃりと言った。リンクは眉をひそめ、ターマスを睨み付ける。
「あぁ、そうだ。」
しかしターマスは、リンクの非難がましい視線をものともせずに懐を探ると、一枚の紙を取り出した。
「これがほしいんじゃなかったのか?」
差し出されたそれをリンクは表情を変えずに受け取った。が、その中身を見るなり驚きを示した。
「……確かにこのレシピをもらうのが目的だったけど」
「何の話し合いをしているのかな?」
リンクの疑問は他の声に遮られた。見るとマルスがやってきていた。挑戦的な目をしている。
「話し合い?何のことだ?」
「とぼける気かい?」
ターマスの適当な返事をするが、マルスは更にたたみかける。ターマスは肩をすくめた。
「さっぱり分からないな。あぁ、リンク、早く戻ってピカチュウに作ってやったらどうだ?レシピ通りに作れば大丈夫だろう。」
「え?」
リンクは惚けた顔をした。が、それは一瞬で、
「あ、そうだ!待たせているんだった!!」
と叫ぶと、なんとも慌ただしく去って行った。実は彼、ターマスに誤魔化されたのだが、それに気付くことはなかった。
リンクが去っていくのを見送ると、マルスはターマスに向き直った。
「……さて、ターマス。一体どういうことかな?」
「だから、さっきから何を言っている?」
ターマスは呆れたようにマルスを見やる。
「リンクは教えてくれなかった。」
マルスから穏やかな雰囲気が消えた。その場の空気は冷たい。しばらくターマスは何も言わずにマルスを見つめていた。が、やがて、面倒くさそうに首を振る。
「ヒントはやった。私から話すつもりはない。」
言うだけ言うと、扉に手をかけた。が、さっとマルスがターマスの肩を捕まえる。
「待て。僕は君の秘密を握っているんだけど?」
「だからどうした?」
相変わらずターマスは淡々としている。対してマルスには焦りが見えはじめていた。
「……………っ!ばらしてもいいのか!?」
ターマスはやれやれとため息をついた。そしてあごに手をあてる。
「ふむ……そうだな……。」
そして、顔をマルスに向けた。
「もしばらしたら、この世界に閉じ込めてやる。お前も、他の奴らも。」
「っ!そんなこと」
「できるさ。」
表情が堅くなったマルスを短く遮ると、ターマスは勢い良く振り返った。
「こんな風にな!!」
パチンと指を鳴らす。一瞬辺りをまばゆい光が包み込む。マルスは耐えられず、顔を手で覆った。落ち着いた頃に顔を上げると、そこは何もない無機質な場所だった。足場はないが立ってはいられる。いや、どちらかと言うと、浮いているという表現が正しかった。
「ここ、は………。」
唖然としていたマルスの前に、ターマスが現れた。
「あそこで口論して、他の奴に聞かれては元も子もないのでな、場所を移させてもらった。ここには何もないが、あの建物をここのように脱出不可能にすることは、私にとって容易いことなんだ。……お前がもし、私の正体を話せば、詳細を聞きにくるやつが出るだろう。それは面倒この上ない。私には話すつもりがさらさらないのでね。そうすると……リンクみたいな奴が出てくる。だが、帰られては困るのだよ。」
「だから正体がばれた時点で全員を閉じ込めると?」
マルスが聞くと、ターマスは頷いた。
「流石に私も全員を見張ることはできないのでね。」
マルスはあんぐりと口を開けた。
「君、つまりそれは……!」
「あぁ、言ってなかったな。お前とリンクは見張らせてもらう。」
マルスは怒りで震えた。
「僕らにプライバシーはないと?」
ターマスは手をヒラヒラと振った。
「いやいや。ただ少し、言葉に制限をさせてもらうよ。怪しいことを言ったら警報がなる……勿論、それは私の方で、だ。」
マルスはイライラと髪を掻き上げた。
「やっぱりここは気に入らない。君を困らせるのも悪くないし。………帰らせてもらう。」
「できるなら。」
ターマスは涼しい顔で答えた。二人はしばらく睨み合う。やがて、マルスが口を切った。
「……元の場所に戻せ。」
「断る。帰るという奴は、閉じこめるしかないというのが持論でね。」
マルスは唇を噛んだ。
「卑怯だとは思わないかい?」
すると、ターマスは苦笑した。
「百も承知だ。……あの手この手でお前達を集めた時点で自覚していたからな。」
マルスはまた黙り込んだ。
“……何か抜け穴はないのか?おそらく、力では……力?確かにターマスは魔力は強い。だが、力なら……?”
マルスはターマスを見据えた。ゆっくりとファルシオンに手をもっていく。手が触れる。柄を握った。が、
「変な気はおこさないでほしいな。」
ファルシオンが消え、ターマスの手の中に移動していた。
「君………!!何故そこまで僕達に固執する!?」
「お前達を集めた理由に帰結する。しかし、あえて言うならば、お前達の経歴だな。」
しばらく沈黙がおりた。マルスはターマスをにらみ続けていた。が、俯くとゆっくりと息を吐いた。
「……わかった。しばらくは君の思う通り動いてやろうじゃないか。」
それを見たターマスは一つ頷き、剣を返した。そしてじっとマルスを見る。
「……何かな。」
マルスの声に覇気はなかった。
「まだ何か言いたそうに見えるが。」
マルスはため息をついた。
「あぁ、文句ならたくさんあるよ。言い尽くせない程ね。しかし、いくら喚こうが騒ごうが、君は話さないの一点張りで意味をなさない。だから……いや、やっぱりもう少しだけ。」
マルスは一度口を閉じた。ターマスは何も言わずに待った。
「君から聞き出すのはどうやら不可能だ。しかし……何故かリンクは理由を知っている。だから……彼を尋問するのは構わないかい?」
ターマスはただマルスを見つめていた。が、やがて
「………。お前の良心が痛まないなら、勝手にするといい。」
と言い捨てた。マルスは頷いた。
「とりあえず、次が最後だ。答えないのを覚悟で聞く。……君は、何者だ?」
ターマスは表情を全く変えなくなっていた。
「お前も知っている通り、この大会の主催者だ。……と、言いたいところだが、あまりに秘密ばかりでは悪いな。一つだけ、教えてやろう。……………
……………
……………
全ての起源は我にあり。」
マルスは顔をしかめた。
「何を言って」
マルスは追及しようとしたが、ターマスはそれを許さなかった。パチンと再び指を鳴らしたのだ。辺りはまた、まばゆい光に包まれる。マルスが目を開けると、移動前に見た光景が広がった。しかし、すでにターマスはそこにいなかった。
一方キッチンでは、レシピをリンクが入手してきたことにより、お菓子作りが開始されていた。リンクは卵を混ぜている。隣ではピカチュウとゼニガメが協力して粉を振るっていた。
「リンクー!!こんなカンジ?」
ピカチュウが元気よく叫んだ。人一倍待ち焦がれていたピカチュウは、嬉しくて仕方ないのだった。
「……なんか、ちょっと多いよ?ピカチュウ、計り見てよ。」
ゼニガメがまじめくさって言った。言われて、ピカチュウは数字を確認する。
「あ………。」
「大丈夫だよ。」
それを覗きながらリンクは言う。
「ちょっとくらいの誤差なら問題ないから。えーと、じゃあ次は……。」
リンクはあらかじめ用意してあったバター入りのボールを、それより大きな湯の入ったボールに浮かべた。
「今度はゼニガメの番かな。バターを溶かしてね。あ、ピカチュウ、ちょっとボールを押さえてあげて。」
「「はーい!!」」
二匹は大きな声で返事をすると、作業にとりかかった。
少し離れた机では、不貞腐れた顔をしたトレーナーが頬杖をついて座っていた。近くにはフシギソウとリザードンが待機していた。
「手伝わないの?」
「僕はいい。」
フシギソウが尋ねるが、トレーナーは短く却下する。その声は不機嫌極まりなかった。
「そんなこと言わないで。トレーナーも一瞬にやろう?」
そんな短いやり取りが聞こえたらしい。リンクは振り返って、トレーナーの様子を伺っていた。
「……………………。」
が、トレーナーはふいっと顔を背けてしまった。隣でリザードンが苦笑した。
“うわぁ……これは相当怒ってる……。”
リンクは内心焦っていた。理由を嫌と言うほどわかっているのが更に辛いものとしていた。
「リンク!溶けたよ!!」
ゼニガメの声でリンクは現実に引き戻された。そちらを見ると、二匹が待っている。
「あ……、じゃあ、そこに溶いてある卵があるから、それを入れて混ぜてくれる?次はピカチュウだね。あぁ、もうお湯から出してもいいよ。」
リンクはトレーナーを気にしつつも二匹のところに戻った。そして生地が出来上がった。リンクは麺棒で生地をのばすと、トレーナーのいる机の方へ持っていった。
「ピカチュウ、ゼニガメ、こっちの方が広いから、こっちに来て。形抜きしよう!」
二匹はニコニコ笑顔でやってきた。リンクがお手本を見せてから型を渡すと、二匹は意気揚々と型抜きを始めた。
「トレーナーもやらない?」
様子を伺うようにリンクが聞いた。ついそちらへ目をやっていたトレーナーは、リンクの声ではっとし、顔を背けようとした。が、
「クスクス、これ、おもしろい!!」
「うん!!あ、次はハートにしよう!」
二匹の楽しそうな声が聞こえてくる。それにつられてトレーナーの目線が戻った。
「ほら、やってみたら楽しいと思うよ?」
リンクは型の一つを差し出している。トレーナーは仕方なく受け取った。
「あ!」
楽しんでいるようで、実は手放しで楽しんでいられなかったゼニガメは、トレーナーが型を持っているのに気付いた。
「レッ………トレーナーもするの?ほら、ここ!!空いてるよ!」
ゼニガメは笑顔で自分の近くを指差した。が、トレーナーは表情を固くした。チラッとリンクを見た。
「どうしたの?ゼニガメのところでちゃんとできるよ?」
リンクはトレーナーの不思議な行動を見なかったことにして、促した。
“大丈夫……ばれてない。”
トレーナーは一人、ホッと胸を撫で下ろした。そして型抜きをしてみる。
“……意外と、おもしろい……!”
トレーナーはやがて、ピカチュウやゼニガメと一緒になって型抜きを楽しんでいた。
「……リンク。足りるのか?」
「え?あっ!」
それまで黙っていたリザードンが聞く。三人を見守っていたリンクだったが、リザードンの一言で、まだ休むのは早いことを思い出した。
「大丈夫。まだ作るから。でも先に……ごめん、ちょっとどいてね。」
三人を退けると穴空きになっていた記事を伸ばしなおした。
「これでしばらくやっててね。」
「……ありがとう。」
トレーナーはようやく笑った。それを見て、リンクは一安心した。
その後お菓子作りは順調に進み、ピカチュウも満足したようだった(ここで確認しておくが、彼の目的はトレーナーにクッキーを食べてもらうことである)。リンクとトレーナーはバルコニーに来ていた。ゼニガメ達はボールの中だ。
「さっきはびっくりしたなぁ……だってリンク、いきなりどこか行っちゃうんだもの。」
トレーナーがしみじみと言うと、リンクは苦虫を噛んだような顔をした。
「ごめん……。」
トレーナーは驚いて目を瞬かせた。が、それは一瞬のことで、
「ずっと一緒にいて、って言ったのに。」
と、口を尖らせて更に続ける。すると、リンクは恐縮してみせた。
「……すみませんでした。」
その直後、トレーナーが突然笑いだした。リンクは驚いて、トレーナーを見た。
「……っ!!ご、ごめん、でも、リンクって本当に優しいね。もう気にしてないから、リンクも気にしないで。」
「そ、そう………?」
トレーナーの様子に気圧されて、リンクはなんとかそれだけを返した。トレーナーは相変わらず笑いながら頷いた。
「うん。いなくなった理由、本当は僕も知ってたはずだったし、それにリンク、すぐに戻ってきてくれたから。気にしてない。ただ、ちょっとからかってみたくなって……!」
「そ、そっか……。」
必死で笑いを堪えようとするトレーナーを、リンクは呆気にとられて眺めていた。が、やがてふわりと笑った。
“よかった。トレーナー、ちょっとは元気になったみたい。”
トレーナーは漸く笑いを押さえることに成功したようだった。しかし、今度は笑い疲れて少し息が切れている。だが、そんな大変そうなトレーナーを余所に、リンクはほっと胸を撫で下ろしたのだった。
“……問題は、彼をどうするか……オレも仲直りしたいし……。”
「リンク?」
気がつくと、トレーナーがリンクを覗き込んでいた。いつの間にか落ち着いたらしい。
「怖い顔して、どうかした?……もしかして、怒ってる?」
言われて、リンクは顔をしかめていたことに気付いた。あわてて笑顔を浮かべる。
「怒ってない怒ってない。それよりトレーナー、大丈夫?ずいぶん辛そうだったけど……。」
トレーナーはヒラヒラと手を振った。
「平気。大体、自業自得だしね。」
「そっか。ならよかった。ところで、」
リンクは別の話題を出して、会話を進めていく。トレーナーもそれにつられてお喋りに興じた。が、
“……はぐらかされちゃったな……。”
なんとなく、暗い気持ちは拭えなかった。
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ピカチュウが思い出すや否や、すぐにリンクにねだった。一瞬唖然としたリンクだったが、直ぐに合点がいったようだ。が、
「あっ!ご、ごめん!ちょっとだけ待ってて!!」
と叫んでターマスを追って行ってしまった。ピカチュウは驚いてそれを眺めていたが、やがてガックリと肩を落とした。長い耳や尻尾も垂れ下がっている。
「……リンク、本当は作りたくないのかなぁ………。」
一部始終を見ていたスネークは、あまりのピカチュウの落胆さを不憫に思って言った。
「いや、単にターマスに用があったんだろう。昨日から探していたようだからな。」
同じく、一部始終を見ていたフォックスは首を傾げた。
“……?一体何の用があるんだ?昨日の件は解決したはずだぞ……?”
一方トレーナーは、リンクが出ていったのを未だに呆然と見ていた。が、やがてため息をついた。
“ずっと一緒にいて、って言ったのに……。”
トレーナーは扉に向かった。しかし、それを遮るように引っ張るものがいた。トレーナーが振り向くと、足下にピカチュウがいる。
「トレーナー……ちょっと一緒に待っててよ。」
「……でも、僕……。」
トレーナーは周りを伺った。幸い、アイクはいないようだった。
「リンクならすぐに戻るよ。約束は守る人だから。」
声のした方を見るとマルスがいた。彼はちょっと微笑むと、部屋を出ていった。マルスはトレーナーとリンクの間でなされた約束を知らないはずだが、トレーナーにはマルスの言う約束がそれを指しているように感じた。けれど、それに反応したのはトレーナーだけではなかった。
「ほら!ね、トレーナー!お願い!!」
ピカチュウは顔を輝かせている。ここまで頼み込まれたら待たないわけにはいかない。そう思ったトレーナーは頷いた。
「……………………。離れないでね。」
トレーナーの声はとても小さかったが、三匹はしっかり聞き届け、頷いた。
「ターマス!」
みんなの部屋を飛び出したリンクは、玄関を出ようとしていたターマスを見つけるなり叫んだ。ターマスは何事かと言わんばかりの表情を浮かべて振り向いた。
「……?あぁ、お前か。」
が、リンクの顔を見て、その場にとどまった。
「マルスに何か言われたか?」
すると、リンクは苦虫を噛んだような顔をした。
「……聞かれた。」
「話したのか?」
間髪入れずにターマスは問う。リンクは首を振った。
「でも、なんでオレが知ってるってばらしたの?マルスも言ってたけど、話していいってこと?」
「いや、だめだ。黙っていろ。」
ターマスはぴしゃりと言った。リンクは眉をひそめ、ターマスを睨み付ける。
「あぁ、そうだ。」
しかしターマスは、リンクの非難がましい視線をものともせずに懐を探ると、一枚の紙を取り出した。
「これがほしいんじゃなかったのか?」
差し出されたそれをリンクは表情を変えずに受け取った。が、その中身を見るなり驚きを示した。
「……確かにこのレシピをもらうのが目的だったけど」
「何の話し合いをしているのかな?」
リンクの疑問は他の声に遮られた。見るとマルスがやってきていた。挑戦的な目をしている。
「話し合い?何のことだ?」
「とぼける気かい?」
ターマスの適当な返事をするが、マルスは更にたたみかける。ターマスは肩をすくめた。
「さっぱり分からないな。あぁ、リンク、早く戻ってピカチュウに作ってやったらどうだ?レシピ通りに作れば大丈夫だろう。」
「え?」
リンクは惚けた顔をした。が、それは一瞬で、
「あ、そうだ!待たせているんだった!!」
と叫ぶと、なんとも慌ただしく去って行った。実は彼、ターマスに誤魔化されたのだが、それに気付くことはなかった。
リンクが去っていくのを見送ると、マルスはターマスに向き直った。
「……さて、ターマス。一体どういうことかな?」
「だから、さっきから何を言っている?」
ターマスは呆れたようにマルスを見やる。
「リンクは教えてくれなかった。」
マルスから穏やかな雰囲気が消えた。その場の空気は冷たい。しばらくターマスは何も言わずにマルスを見つめていた。が、やがて、面倒くさそうに首を振る。
「ヒントはやった。私から話すつもりはない。」
言うだけ言うと、扉に手をかけた。が、さっとマルスがターマスの肩を捕まえる。
「待て。僕は君の秘密を握っているんだけど?」
「だからどうした?」
相変わらずターマスは淡々としている。対してマルスには焦りが見えはじめていた。
「……………っ!ばらしてもいいのか!?」
ターマスはやれやれとため息をついた。そしてあごに手をあてる。
「ふむ……そうだな……。」
そして、顔をマルスに向けた。
「もしばらしたら、この世界に閉じ込めてやる。お前も、他の奴らも。」
「っ!そんなこと」
「できるさ。」
表情が堅くなったマルスを短く遮ると、ターマスは勢い良く振り返った。
「こんな風にな!!」
パチンと指を鳴らす。一瞬辺りをまばゆい光が包み込む。マルスは耐えられず、顔を手で覆った。落ち着いた頃に顔を上げると、そこは何もない無機質な場所だった。足場はないが立ってはいられる。いや、どちらかと言うと、浮いているという表現が正しかった。
「ここ、は………。」
唖然としていたマルスの前に、ターマスが現れた。
「あそこで口論して、他の奴に聞かれては元も子もないのでな、場所を移させてもらった。ここには何もないが、あの建物をここのように脱出不可能にすることは、私にとって容易いことなんだ。……お前がもし、私の正体を話せば、詳細を聞きにくるやつが出るだろう。それは面倒この上ない。私には話すつもりがさらさらないのでね。そうすると……リンクみたいな奴が出てくる。だが、帰られては困るのだよ。」
「だから正体がばれた時点で全員を閉じ込めると?」
マルスが聞くと、ターマスは頷いた。
「流石に私も全員を見張ることはできないのでね。」
マルスはあんぐりと口を開けた。
「君、つまりそれは……!」
「あぁ、言ってなかったな。お前とリンクは見張らせてもらう。」
マルスは怒りで震えた。
「僕らにプライバシーはないと?」
ターマスは手をヒラヒラと振った。
「いやいや。ただ少し、言葉に制限をさせてもらうよ。怪しいことを言ったら警報がなる……勿論、それは私の方で、だ。」
マルスはイライラと髪を掻き上げた。
「やっぱりここは気に入らない。君を困らせるのも悪くないし。………帰らせてもらう。」
「できるなら。」
ターマスは涼しい顔で答えた。二人はしばらく睨み合う。やがて、マルスが口を切った。
「……元の場所に戻せ。」
「断る。帰るという奴は、閉じこめるしかないというのが持論でね。」
マルスは唇を噛んだ。
「卑怯だとは思わないかい?」
すると、ターマスは苦笑した。
「百も承知だ。……あの手この手でお前達を集めた時点で自覚していたからな。」
マルスはまた黙り込んだ。
“……何か抜け穴はないのか?おそらく、力では……力?確かにターマスは魔力は強い。だが、力なら……?”
マルスはターマスを見据えた。ゆっくりとファルシオンに手をもっていく。手が触れる。柄を握った。が、
「変な気はおこさないでほしいな。」
ファルシオンが消え、ターマスの手の中に移動していた。
「君………!!何故そこまで僕達に固執する!?」
「お前達を集めた理由に帰結する。しかし、あえて言うならば、お前達の経歴だな。」
しばらく沈黙がおりた。マルスはターマスをにらみ続けていた。が、俯くとゆっくりと息を吐いた。
「……わかった。しばらくは君の思う通り動いてやろうじゃないか。」
それを見たターマスは一つ頷き、剣を返した。そしてじっとマルスを見る。
「……何かな。」
マルスの声に覇気はなかった。
「まだ何か言いたそうに見えるが。」
マルスはため息をついた。
「あぁ、文句ならたくさんあるよ。言い尽くせない程ね。しかし、いくら喚こうが騒ごうが、君は話さないの一点張りで意味をなさない。だから……いや、やっぱりもう少しだけ。」
マルスは一度口を閉じた。ターマスは何も言わずに待った。
「君から聞き出すのはどうやら不可能だ。しかし……何故かリンクは理由を知っている。だから……彼を尋問するのは構わないかい?」
ターマスはただマルスを見つめていた。が、やがて
「………。お前の良心が痛まないなら、勝手にするといい。」
と言い捨てた。マルスは頷いた。
「とりあえず、次が最後だ。答えないのを覚悟で聞く。……君は、何者だ?」
ターマスは表情を全く変えなくなっていた。
「お前も知っている通り、この大会の主催者だ。……と、言いたいところだが、あまりに秘密ばかりでは悪いな。一つだけ、教えてやろう。……………
……………
……………
全ての起源は我にあり。」
マルスは顔をしかめた。
「何を言って」
マルスは追及しようとしたが、ターマスはそれを許さなかった。パチンと再び指を鳴らしたのだ。辺りはまた、まばゆい光に包まれる。マルスが目を開けると、移動前に見た光景が広がった。しかし、すでにターマスはそこにいなかった。
一方キッチンでは、レシピをリンクが入手してきたことにより、お菓子作りが開始されていた。リンクは卵を混ぜている。隣ではピカチュウとゼニガメが協力して粉を振るっていた。
「リンクー!!こんなカンジ?」
ピカチュウが元気よく叫んだ。人一倍待ち焦がれていたピカチュウは、嬉しくて仕方ないのだった。
「……なんか、ちょっと多いよ?ピカチュウ、計り見てよ。」
ゼニガメがまじめくさって言った。言われて、ピカチュウは数字を確認する。
「あ………。」
「大丈夫だよ。」
それを覗きながらリンクは言う。
「ちょっとくらいの誤差なら問題ないから。えーと、じゃあ次は……。」
リンクはあらかじめ用意してあったバター入りのボールを、それより大きな湯の入ったボールに浮かべた。
「今度はゼニガメの番かな。バターを溶かしてね。あ、ピカチュウ、ちょっとボールを押さえてあげて。」
「「はーい!!」」
二匹は大きな声で返事をすると、作業にとりかかった。
少し離れた机では、不貞腐れた顔をしたトレーナーが頬杖をついて座っていた。近くにはフシギソウとリザードンが待機していた。
「手伝わないの?」
「僕はいい。」
フシギソウが尋ねるが、トレーナーは短く却下する。その声は不機嫌極まりなかった。
「そんなこと言わないで。トレーナーも一瞬にやろう?」
そんな短いやり取りが聞こえたらしい。リンクは振り返って、トレーナーの様子を伺っていた。
「……………………。」
が、トレーナーはふいっと顔を背けてしまった。隣でリザードンが苦笑した。
“うわぁ……これは相当怒ってる……。”
リンクは内心焦っていた。理由を嫌と言うほどわかっているのが更に辛いものとしていた。
「リンク!溶けたよ!!」
ゼニガメの声でリンクは現実に引き戻された。そちらを見ると、二匹が待っている。
「あ……、じゃあ、そこに溶いてある卵があるから、それを入れて混ぜてくれる?次はピカチュウだね。あぁ、もうお湯から出してもいいよ。」
リンクはトレーナーを気にしつつも二匹のところに戻った。そして生地が出来上がった。リンクは麺棒で生地をのばすと、トレーナーのいる机の方へ持っていった。
「ピカチュウ、ゼニガメ、こっちの方が広いから、こっちに来て。形抜きしよう!」
二匹はニコニコ笑顔でやってきた。リンクがお手本を見せてから型を渡すと、二匹は意気揚々と型抜きを始めた。
「トレーナーもやらない?」
様子を伺うようにリンクが聞いた。ついそちらへ目をやっていたトレーナーは、リンクの声ではっとし、顔を背けようとした。が、
「クスクス、これ、おもしろい!!」
「うん!!あ、次はハートにしよう!」
二匹の楽しそうな声が聞こえてくる。それにつられてトレーナーの目線が戻った。
「ほら、やってみたら楽しいと思うよ?」
リンクは型の一つを差し出している。トレーナーは仕方なく受け取った。
「あ!」
楽しんでいるようで、実は手放しで楽しんでいられなかったゼニガメは、トレーナーが型を持っているのに気付いた。
「レッ………トレーナーもするの?ほら、ここ!!空いてるよ!」
ゼニガメは笑顔で自分の近くを指差した。が、トレーナーは表情を固くした。チラッとリンクを見た。
「どうしたの?ゼニガメのところでちゃんとできるよ?」
リンクはトレーナーの不思議な行動を見なかったことにして、促した。
“大丈夫……ばれてない。”
トレーナーは一人、ホッと胸を撫で下ろした。そして型抜きをしてみる。
“……意外と、おもしろい……!”
トレーナーはやがて、ピカチュウやゼニガメと一緒になって型抜きを楽しんでいた。
「……リンク。足りるのか?」
「え?あっ!」
それまで黙っていたリザードンが聞く。三人を見守っていたリンクだったが、リザードンの一言で、まだ休むのは早いことを思い出した。
「大丈夫。まだ作るから。でも先に……ごめん、ちょっとどいてね。」
三人を退けると穴空きになっていた記事を伸ばしなおした。
「これでしばらくやっててね。」
「……ありがとう。」
トレーナーはようやく笑った。それを見て、リンクは一安心した。
その後お菓子作りは順調に進み、ピカチュウも満足したようだった(ここで確認しておくが、彼の目的はトレーナーにクッキーを食べてもらうことである)。リンクとトレーナーはバルコニーに来ていた。ゼニガメ達はボールの中だ。
「さっきはびっくりしたなぁ……だってリンク、いきなりどこか行っちゃうんだもの。」
トレーナーがしみじみと言うと、リンクは苦虫を噛んだような顔をした。
「ごめん……。」
トレーナーは驚いて目を瞬かせた。が、それは一瞬のことで、
「ずっと一緒にいて、って言ったのに。」
と、口を尖らせて更に続ける。すると、リンクは恐縮してみせた。
「……すみませんでした。」
その直後、トレーナーが突然笑いだした。リンクは驚いて、トレーナーを見た。
「……っ!!ご、ごめん、でも、リンクって本当に優しいね。もう気にしてないから、リンクも気にしないで。」
「そ、そう………?」
トレーナーの様子に気圧されて、リンクはなんとかそれだけを返した。トレーナーは相変わらず笑いながら頷いた。
「うん。いなくなった理由、本当は僕も知ってたはずだったし、それにリンク、すぐに戻ってきてくれたから。気にしてない。ただ、ちょっとからかってみたくなって……!」
「そ、そっか……。」
必死で笑いを堪えようとするトレーナーを、リンクは呆気にとられて眺めていた。が、やがてふわりと笑った。
“よかった。トレーナー、ちょっとは元気になったみたい。”
トレーナーは漸く笑いを押さえることに成功したようだった。しかし、今度は笑い疲れて少し息が切れている。だが、そんな大変そうなトレーナーを余所に、リンクはほっと胸を撫で下ろしたのだった。
“……問題は、彼をどうするか……オレも仲直りしたいし……。”
「リンク?」
気がつくと、トレーナーがリンクを覗き込んでいた。いつの間にか落ち着いたらしい。
「怖い顔して、どうかした?……もしかして、怒ってる?」
言われて、リンクは顔をしかめていたことに気付いた。あわてて笑顔を浮かべる。
「怒ってない怒ってない。それよりトレーナー、大丈夫?ずいぶん辛そうだったけど……。」
トレーナーはヒラヒラと手を振った。
「平気。大体、自業自得だしね。」
「そっか。ならよかった。ところで、」
リンクは別の話題を出して、会話を進めていく。トレーナーもそれにつられてお喋りに興じた。が、
“……はぐらかされちゃったな……。”
なんとなく、暗い気持ちは拭えなかった。
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