集合&結成!?スマッシュブラザーズ!!

夜が明けて太陽が昇り始めた頃、リンクとソニックはキッチンにいた。昨日のターマスによるやや強制の役割分担に従って、朝食を作っているのだ。だが、納得しているかといえば、そうではなくて………

「あーあ、何で俺が朝食決定なんだよー!!」

特にソニックはさっきからずっと騒いでいた。しかし、手を止めることはしない。隣にいるリンクは野菜を切りながら苦笑するしかなかった。

「……早起きは三文の得というけど……これじゃあ何の得もないね。」

「You're right.」

ソニックはため息をついた。やがて諦めたのか、話を切り替えた。

「そういやお前、何でそんな早く起きてるんだ?」

「……今は修行のため、かな。後、寝すぎると後で起きるのがつらくなるから、それの防止。君は?」

野菜を斬り終えたリンクは今、卵を5、6個ずつボールに分けて割っている。

「俺?もちろん走るために決まってるさ!ひとっ走りしてからの朝食は最高だぜ?本当なら、今もこんなことしてないで………。」

ソニックはリンクの割った卵を混ぜていた。どんどん増えていくボールを見て、再びため息をついた。

「……ねぇ、ソニック。もしオレが、走ってきていいよって言ったらどうする?」

ソニックは手を止めた。じっとリンクを見る。が、間もなく作業に戻った。

「もちろん走りに行くさ。だが、いきなりどうしてそんなこと言うんだ?……そんなこと言わねぇくせに……。」

リンクはクスッと笑った。

「俺の頼みを聞いてくれたら、行ってもいいよ。」

「……条件付きってワケか……。」

しかし、ソニックの目は輝いていた。

「いいぜ。なんだよ?」

「街の方まで行ってきてほしい。それで、街の様子を見る。もし何か異変があれば、オレに知らせてほしいんだ。」

「……それだけか?」

「うん、それだけ。」

ソニックは驚いてしばらくリンクを見つめていた。条件と聞いて警戒していたのだが、内容は趣味のついでにできるものだったからだ。

「……ダメ、かな?」

ソニックが何も答えないのでリンクは不安そうな顔をしている。それに気付いたソニックは慌てて言った。

「いや、全然!むしろ大歓迎だぜ!!」

すると、リンクは笑った。

「じゃあ、明日からよろしくね。」

「え?明日からでいいのか?」

朝食といっても人数が半端ない。しかも、前日の夕食風景を見ているソニックは人数分だけではとても足らないことを知っていた。

「うん。今日一緒に作ってくれたから、大体のことは分かったから。」

「そうか。だったら明日からそうさせてもらうぜ。さてと、さっさと仕上げますか。」

明日から自由に走れると分かったソニックは、文句を言いながらしていた時には想像できない程てきぱきと動いた。

「さぁ、これでfinishだ!」

あっという間に出来てしまった。

「それにしても……朝からこの量……本当に必要なのかな……。」

「そうだと思うぜ。昨日の夜、この三倍はあったが、足りなかったくらいだしな。」

「この三倍……。すごい量だね……。」

リンクは、夕食担当でなかったことにちょっと感謝した。

「あ、俺、もう食うから。」

ソニックは既に皿を取り出していた。セルフサービスなんだな、と思いながらリンクは頷くとキッチンを後にした。

「お前は食べないのかー?」

すると、キッチンからソニックの声が追いかけてきた。

「うん。別に今、お腹空いてないから。」

リンクはみんなの部屋を出た。



リンクが自分の部屋にたどり着き、扉に手をかけた。その時、リンクは動きを止めた。剣の先がリンクの首筋にあてられていた。

「……何故避けない?」

剣の主はアイクだった。リンクは全く表情を崩さずに返した。

「……オレに怒っているのなら、どうぞ。」

アイクは淡々と述べるリンクを見て、眉をひそめた。

「……質問の答えになっていない。」

「…………。あんたがオレを斬ることで気が済むのなら、オレは斬られても構わない。」

アイクは唖然としていた。思わず剣をリンクから離した。

「……それが勇者の言うセリフか……?」

かろうじて発した言葉はそれだった。それに対して、リンクはため息を吐いた。

「昨日も言ったけど」

リンクはアイクに向き直った。

「勇者だと思われなくても構わない。オレは自分の正しいと思ったことをやる。」

アイクは、今度はリンクを珍しいものを見るようにしげしげと眺めた。

「……今まで生きてこられたのが不思議な奴だな。」

リンクは少しむっとしたようだった。

「……オレは……君は少なくとも敵じゃないと思ってる。だから……仮に斬られても、死ぬことはないだろうって思った。……君がもし敵だったら、オレはただやられるなんてことしないよ。」

じっとリンクの話を聞きながら、アイクは考えを巡らせていた。が、答を見つけられなかったようだ。リンクが言い終えるなり問う。

「何故、昨日はトレーナーを庇った?」

「……何故って………条件反射。……人をいきなり攻撃しちゃ、いけないよ。」

リンクの出した答にアイクは微かに首を傾げた。

「……矛盾している。……お前は斬ってもよく、トレーナーはいけない……と?」

「………………それとこれとは話は別。」

リンクにしてみれば、どうして自分を斬ってもよければトレーナーも斬ってもよいことになるのか、アイクのその思考回路が理解できなかった。

「……何が違う?」

リンクは言葉に詰まった。そう突っ込まれると困る。

「……何って………状況も全然違うじゃないか。」

リンクの苦し紛れの答は、しかし、主旨と離れてしまっていた。だが、それでアイクは納得したらしい。

「……そうか。」

と一言言うと剣をしまったのだ。

“つまり、単なるお人好しというわけか。”

アイクの考えはどこをどうすればそうなるのか分からないが、あながち間違ってもいなかった。その時、突然隣の部屋が開いた。

「あれ?2人とも何をしているんだい?」

マルスだった。

「……別に何も。ただ、話してただけだよ。……オレ、部屋に戻るから。」

リンクはそそくさと部屋に入ってしまった。それを見ながら、マルスはホッと胸を撫で下ろす。

“逃げる心配はなさそうだね。”

マルスはアイクに向き直った。囁き声で言葉を発する。

「ところで……アイク、どういうことかな?」

「何故」

「君達の会話、全部部屋の中まで聞こえた。」

マルスはアイクを遮って事実を述べた。そしてアイクを促す。アイクは一つ頷くと話しだした。

「……もとはお前に用があった。お前の部屋に来てみれば……あいつがいた。だから、衝動的に剣を向けた。………それだけだ。」

「それであんな会話になっていった、か。」

アイクは頷くと歩き出した。ふとマルスはアイクの言葉を思い出した。

「僕に用があったのではなかったかな?」

アイクは立ち止まった。マルスに背を向けたまま動かない。が、やがて、

「忘れた。」

と言うと行ってしまった。

“……忘れたって……どうでもいいことならいいのだけど。”

マルスは呆れてアイクを見送った。



その頃、リビングでは……

「だぁー!!カービィ、ヨッシー!そんなに食べんな!また誰か食い損ねるだろ!」

……大騒動だった。ソニックが料理を高々と抱えあげて逃げ回っている。

“リンク、何で食べずに行ったんだよ!?”

その様子を眺めながらサムスはため息を吐いた。

「リンクは自業自得にしても……マルスとトレーナーが遅いわ。もう、アイクとスネークは何してるの!?」

その時、タイミングよくアイクが入ってきた。が、虚をつかれたように立ちつくした。

「……何だ、この騒ぎは……………………しまった。」

アイクの呟きは誰にも聞こえなかった。が、ファルコンは察したようだ。

「……あぁ、その顔は呼んでくるのを忘れたな?」

アイクが頷くとサムスが激怒した。

「どうして忘れるの!?あなたは何をしに出ていったわけ!?」

それに震え上がったのはアイクではなくピットだった。

「さ、サムス、そんなに怒らないでよ。僕が今から行くから!」

ピットは言うなり、駆け足で出ていった。それと入れ違いにスネークが入ってきた。

「……あなたも忘れたのですか?」

オリマーの問にスネークはぽかんとした。が、すぐに質問の意図を理解した。

「忘れちゃいない。だが……どんなに起こしても起きなかった。昨日の事件の後だ、相当疲れているんだろう……ところで、俺も?」

「アイクがマルスを呼ぶのを忘れたんだよ。」

ネスが答えた。そして、そのまま続ける。

「でも……どうしてマルスとトレーナーだけ?他にも来てない人、いるよ?」

「昨日の夕食が抜けてるからだよ。」

「ふーん。」

親切にルイージが答えると、自分で聞いたにも関わらず、ネスは気のない返事を返した。が、すぐにはっとしたことがあるようで、窓の方を見つめた。窓の前にはフォックスが腕を組んで立っていた。

「……ところで、フォックスがこの解決策を考えついたようだよ。」

ネスの一言で一部の視線がフォックスに集まる。フォックスはチラッとネスをみると一つ息を吐き、

「……あぁ、まぁな。」

と答えた。そしてカービィ、ヨッシーを捕まえた。先程と打って変わって明るい声で提案する。

「なぁ、二人とも。一回、外の探索に行かないか?」

カービィとヨッシーは惚けた顔をした。が、それは一瞬で、

「うん!行く!!」

カービィはすぐに話に乗ってきた。その勢いでフォックスの肩に飛び乗った。先が思いやられると思いながら、フォックスはヨッシーにもう一押しした。

「ヨッシー、お前も行くだろ?」

「え?だけど……。」

しかし、ヨッシーは諦めがつかないようだ。ソニックの持つ料理を見つめている。

「ヨッシー!一緒に行こうよ!!」

それが決定打となった。

「えー……うーん…………分かった。行こう!」

渋っていたヨッシーも漸く頷いたのだ。

「そうと決まれば出発だ!行こう行こう!!」

カービィがニコニコと……フォックスの頭を叩いたりしていた。少しフォックスが後悔しているようにも見える。が、ちょっと肩を竦めるとフォックスは扉に向かった。

「分かった、分かった。……耳元で騒ぐな。………………ファルコ!行くぞ!」

「はあぁ!?俺も行くのかよ!?」

急に振られたファルコは盛大なリアクションをもって返した。それを見たフォックスはまた息を吐くと

「……嫌ならば、いい。」

とだけ言い、カービィとヨッシーを連れて行ってしまった。ファルコはそれを横目に見ながらソファーで踏ん反り返っていた。が、
「…………………………………………。分かったよ!行けばいいんだろ!!」

と最終的にはファルコも荒々しく出ていった。残された面々はしばらく呆気にとられていたが、

「……と、取り敢えず、助かった………。」

と言いながらソニックが料理をテーブルに戻したことで、現実に戻ってきた。

「この場はなんとかなったけど……これがずっと続くかと思うと………。」

サムスはため息を吐いた。

「あ、そのことでフォックスから伝言。12時くらいまで粘るから、これからの対処法を考えておいてくれって。なんか、昼食の時も同じような騒動になると思ってるみたいだよ。」

ネスが窓辺に座って言った。

「あぁ……確かに、目に見えてますな。」

オリマーがため息を吐いた。

「おい、ネス。ところでお前、人の考えていることが分かるのか?」

ファルコがいた場所とは違うソファーで寛いでいたファルコンがネスを見上げていた。すると、ネスは髪をかいた。

「あははー……言ってなかったっけ?」

「うん。言われてない。」

ポポが答えた。隣でナナが大きく頷いている。

「フォックスだけにしか言ってないんじゃない?」

すると、ネスは顔をしかめた。

「……まだフォックスとは個人的に話したことないんだけどなぁ……。」

それに答を与えたのはアイクだった。

「……一度読まれれば、頭の回る奴なら気づく。」

「確かに、あのキツネは頭が良さそうだな。」

玄関から飛び出したカービィを追うフォックスを窓越しに見ながら、スネークは同意した。

「ところで……どうするんだ?毎回逃げ回るのはごめんだぜ!」

ソニックが話を戻した。腕を組み、右足でトントントントン音を鳴らしている。

「私が二人によく話して聞かせましょう。」

思いがけず、第三者の声がした。

「うわっ!ターマス!?」

ポポは度肝を抜かれたようだった。ちゃっかりターマスがファルコのいたソファーに座っていたのだ。

「一体いつ来たのよ?」

ポポとは逆に、ナナは呆れていた。

「つい先程です。」

ターマスはしらっと返しただけだった。ターマスへの疑問は考えても無駄だと感じたオリマーは話を戻した。

「……ターマスさん、あの二人は話して直るとは思えませんがな。」

「お任せください。考えがあります。」

オリマーの心配を余所にターマスはにっこり笑った。

“……考え……ってなんだろう……。……?なんでターマスの心は読めないの!?”

ネスはターマスを睨んだ。相変わらずターマスは人好きのする笑みを浮かべている。ネスの葛藤に気付かないサムスがこの話に終止符を打った。

「だったら任せましょう。最悪、次は私が気絶させるわ。」

最初からそうしたらよかったわね、と付け加えたサムスを見て、ルイージは鳥肌が立った。

“……それ、怖いよ!”

しかし、決して口に出すような真似はしなかった。解決したと思ったら突然、ピットが勢いよく入ってきた。その後ろから不思議そうな顔をしたマルスがついてきていた。

「ハァ、ハァ、……あれ?カービィとヨッシーは?」

ピットは余程急いで来たらしく、息を切らしていた。

「フォックスがファルコと一緒に連れ出したぜ。」

「あ………なんだ。」

ファルコンの言葉でピットの力が一気に抜けた。へなへなとその場に座りこんだ。

「だったら……そんなに急がなくても良かったかな……。」

一方、話が読めないマルスは勝手に進められていく話に痺れを切らしていた。

「……みんな、おはよう。……何かあったのかい?」

「……その天使に何も聞かなかったのか?」

アイクが聞き返した。ピットが慌ててきた原因は彼だと予測しながら、マルスは首を振る。

「まだ何も。ピットが取り乱して入ってきて、取り敢えずきて!って言うから慌ててついてきたんだけど………?」

さっきの様子を見れば、ピットに説明する余裕がなかったと考えるのが当然か、と妙に納得しながら、ソニックはマルスに一部始終を話した。近くにいたスネークが時々捕捉している。やがて、マルスは納得したらしかった。

「つまり、カービィとヨッシーが暴走したために夕食の抜けた僕達を急遽呼んだ、ということだね?」

「あぁ、その通りだ。……その必要はなくなったが。」

スネークが言うと、マルスはクスッと笑った。

「とにかく、ありがとう。……みんなはもう食べたのかな?」

各自が頷くのを確認するとマルスは朝食をとりはじめた。



しばらくして、リビングにピカチュウが入ってきた。

「おはよう。あ!ご飯出来てる!……ってことは……リンクどこー?」

ピカチュウはキッチンを覗き込んだ。ソニックは不思議そうにそれを見る。

「よぅ、ピカチュウ。リンクならここにはいないぜ。なんでだ?」

「昨日、リンクがクッキー作ってくれるって言ってたから。」

ピカチュウは嬉しそうにニコニコと笑っていた。

“……そういえば、そんな約束をしていたな……。”

ターマスが前日のことを思い返していると、再び扉が開いた。

「あー、ここ、リビングだっけ?」

ゼニガメだった。ちょっと中に入り、辺りを見渡す。

「こら!ゼニガメ!勝手に出歩いちゃダメだよ!」

ゼニガメの後ろからフシギソウが走ってきた。そしてすぐ、自分たちが注目を集めていたことに気付いた。

「あ、おはようございます。昨日はすみませんでした。」

頭を下げながら、ツルでゼニガメにもお辞儀させる。ゼニガメは訳がわからず、機嫌を損ねた。

「うわ!何すんだ」

「ほら、戻るよ!」

しかし、フシギソウはゼニガメを気にせずにそのままツルでゼニガメを捕まえ、後ろを向いた。

「……確か、昨日の事の発端はあの亀だったな……。」

様子を見ていたアイクが呟いた。それが聞こえたスネークは少し青ざめた。

「あんたさん、」

「ちょっと待て。」

思いとどまらせようと口を開いたスネークには気付かずに、アイクはフシギソウを引き止めた。その声は殺気だっている。フシギソウは驚いてゼニガメを落としてしまった。

“あの人、昨日、すごく怒っていた人だ……!”

けれども、当の本人は全く状況を理解していなかった。

「いって!だから、いきなり上げたり落としたり……………ん?」

とは言っても、流石に気付いたようだった。ゼニガメが振り向くと、そこには鬼の形相をしたアイクが立っていた。サァーとゼニガメの血の気がひいていく。

“……なんか……やばい……よ、ね?”

ゼニガメは廊下に向かって駆け出した。

「待て!」

アイクはゼニガメを追いかけて行った。それを見たフシギソウが慌てて駆け出したところをネスが止めた。

「心配いらないよ。それに……あの方がゼニガメも懲りるんじゃない?」

「……心配なのはゼニガメじゃなくて、レ……トレーナー。次、何かあったら………。」

フシギソウは身震いした。すると、ピカチュウがフシギソウのもとにいき、元気づけようと肩(?)を叩いた。

「大丈夫だよ。トレーナーが起きるまでに事はおさまるって。」

「そう……だといいんだけど。」

フシギソウはその場に座りこんだ。二人の共通認識を読んだネスはため息をついた。そして言う。

「あのさ、どんなに寝坊助のトレーナーでも、自分のポケモンが部屋に逃げ込んだら飛び起きると思うんだけど?」

フシギソウから血の気が失せた。

「ちょっとアイクを追いかけるよ。……心配になってきた。」

マルスが足早に出ていった。それにつられてフシギソウが勢いよく立ち上がった。

「僕も部屋に戻ります!」

フシギソウは部屋を飛び出していった。二度目の嵐が去った後の部屋は、しばらくしーんとしていた。が、すぐにもとの平和な空気が流れだした。

「……今のを聞く限り……」

思い出したようにサムスが呟く。

「トレーナーが起きなかったのは疲れのせいじゃないわね。」

「あぁ。単に寝坊助なだけだな。」

ファルコンが同調した。それを聞いたスネークは、遠くを眺めた。

“あのな……多少は疲れもあるだろうよ………。”

しかし、そんな野暮なことを言うスネークではなかった……。



「うわー!いきなり何だよー!!」

ゼニガメは走っていた。命懸けで走っていた。叫んでいることが近所迷惑等とは勿論、ゼニガメはこれっぽっちも考えない。さて、何故ゼニガメが必死で走っているのか。その原因はゼニガメを鋭く睨みながら追いかけている。

「ボク、何か悪い事したぁ!?」

ゼニガメが叫ぶと鬼、いやアイクは怒鳴り返した。

「忘れたとは言わせん!」

「ええぇぇぇーーー!?」

“何の話だ、何の話だ、何の話だーーー!?”

……どうやらゼニガメは、自分がした事を完全に忘れてしまったらしい。なんとかアイクを振り切ったゼニガメは、トレーナーの部屋に飛び込んだ。

「助けてーーー!!!」

中にいたリザードンは突然の大声に驚いて振り向いた。

「やかましいわ!やっと戻ってきたかと思えば……。」

「……ねぇ、何かあったの?」

ベッドから困惑した声がした。ゼニガメの叫び声で起きたらしいトレーナーが起き上がっていた。

「うわあぁぁあぁん!」

ゼニガメはトレーナーに飛び付いた。トレーナーの頭に疑問符が浮かぶ。困ったようにリザードンを見た。

「……起こしてしまったか。なに、何か怖い夢でも」

「ここに逃げ込んだか!亀!」

開け放されていた扉からアイクが入ってきた。

「! ア、アイクさん!?」

リザードンの作り話も功をなさず、トレーナーは何があったのか一瞬で理解した。

「……っく!この餓鬼は次から次へと問題事を!!」

リザードンは思わず悪態をついた。その声が耳に入り、トレーナーを認めたアイクは一時的に気を静める。

「……トレーナー。その亀と話がしたい。少し、その亀を借りてもいいか?」

トレーナーはアイクから目を逸らした。

「……僕が一緒に行ってもいいですか?」

「え?行く」

トレーナーはさっとゼニガメの口を塞いだ。アイクは辛抱強く説得を試みる。

「……二人で話がしたい。………貸してくれ。」

トレーナーはゆっくりと首を振った。

“大人しく渡せばいいものを……。その方がその餓鬼は反省すると思うのだが………。”

リザードンがじれったく思っていると、漸くフシギソウが部屋にたどり着いた。

「……遅すぎた……!」

フシギソウの嘆きはリザードン以外の耳には入らなかった。

「………渡せ。」

アイクの声は低くなってきている。トレーナーはゼニガメを抱き締めた。

「……昨日の件は、ゼニガメをちゃんとわかってやれていなかった僕が悪いんです。だから……怒るのなら、僕を怒って下さい。ゼニガメには……僕からよく言っておきます。」

それに大きく動揺したのはポケモン達だった。

“あーあー大変なことになって来てるよ!”

“レッド!その言い方はまずい!”

“何?何?ボク、やっぱ悪い事したの?”

三者三様の不安を余所に、アイクの怒りのボルテージはマックスに近づいていた。

「そうか。だったら……。」

トレーナーはギュッと目を瞑り、より強くゼニガメを抱き締めた。

“……くる……しい……。でも……こんなことする時って……レッド、怖い時……。”

ゼニガメは不安そうにトレーナーを見上げた。しかし、リザードンが守りに出るより、アイクが動くより、救世主の到着の方が早かった。

「アイク!!」

マルスが駆けてきたのだった。アイクはそれに不機嫌なのを隠しもせずに応じる。

「……何だ。」

「昨日の話で分かっていると思っていた。」

マルスも頭にきていたらしい。彼の言葉には少しトゲがあった。アイクは視線を逸らす。

「……こちらが用があるのは亀だ。……トレーナーを脅しにきたんじゃない。」

“十分な脅しだ!!”

リザードンはこう思ったが睨むだけにとどめた。

「……ゼニガメにしても、まだまだ子供。今回は許してあげなよ。」

マルスはアイクの耳元で囁いた。アイクはしばらくゼニガメを見つめていた。が、やがて、

「………フン!」

と憤慨して出ていった。しばらくしてから、トレーナーは目を開け、ゼニガメを解放した。

「……僕、またアイクさんを怒らせちゃったかな………。」

「いや、そんなことないよトレーナー。……アイクのことは気にしないでいい。」

マルスの慰めに、トレーナーはただ小さく頷いただけだった。場を和らげるようにマルスはわざと明るく言った。

「さて、トレーナー。一度みんなのところに行こうか。朝食はもう出来ている。お腹も空いているだろう?」

「……それって、ポケモン達の分もある?」

トレーナーはうつむいたまま訊いた。

「……あった……と思うよ。……それでも余るくらいじゃないかな。」

「そう……。じゃあ、もう少ししたら行くよ。……先に戻っていて。」

マルスは心配そうにトレーナーを見た。が、一つ息をはくと、

「あぁ……そうかい?じゃあ、先に行ってるよ。」

と言って出ていった。マルスは放っておいてほしいというトレーナーの遠回しなアピールを理解していた。

「あの……えっと……レッド………?」

おずおずとゼニガメは話し掛けた。

「ごめん。三人でご飯食べに行ってて。」

今やトレーナーは、体育座りで顔を埋めていた。

「え?……でも……。」

フシギソウが渋る。すると弱々しくトレーナーは呟いた。

「……一人に……なりたいんだ………。」

「………………………。」

三匹は何も言えなかった。リザードンが二匹を促す。そのまま、三匹のポケモン達は部屋を後にした。

「……うっ……くっ…。」



廊下に出た三匹はすぐにはその場を離れなかった。

「……レッド……泣いてるよね、今………。」

フシギソウはそっと扉を見上げた。

「お前ら……腹は減っているのか?」

リザードンが聞くと、ゼニガメ、フシギソウは首を振った。

「そうか。」

リザードンは歩き出した。二匹は無言で後に続く。



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