サイドストーリー
この日、テルマの酒場は賑わっていた。テルマが酒場を運営していた時代のレジスタンスのメンバーが集まっていたのだ。彼等は積もる話に花を咲かせた。そこへ、ギィィと来客を告げる音がする。それに気付いたテルマは、様子を見に行った。テルマが入り口まで来ると、そこには、酒場に似つかわしくない女の子がいた。
「お嬢ちゃん、こんなところにどうしたんだい?」
テルマが尋ねると、入ってきた女の子は、はきはきと答えた。
「お兄ちゃんがね、私の大事なものを持ってきてくれるって言ったの!だから、待たせてくれる?」
テルマは目を丸くする。そして、こんなところで幼い子供を待たせてもよいものかと頭を悩ませた。すると、
「ほう。大事なものとは何ですかな。」
隣からラフレルが少女に声をかけた。ラフレルも奥で話していたが、場違いな子供の声をいぶかしみ、出てきたのだ。しかし、ラフレルに女の子を帰す気配がない。女の子を一人外に出すのも、それはそれで心配か、とテルマも己を納得させた。
しばらく話しているが、なかなか女の子の言うお兄ちゃんは来ない。夕方近くになり、本当に女の子をこのまま留めていてもよいのかとレジスタンスのみんなが目配せを始めた頃、女性が息を切らして入ってきた。何者かと思えば女の子の母親だった。彼女は、女の子を酒場に留め置いたことで怒り心頭だった。しかも、帰ろうとする母親に対し、女の子は駄々をこねて帰ろうとしない。どうしたものかと、テルマ達が頭を抱えていた時。
「あ!来た!!」
突然、女の子が叫んだ。そうかと思うと、この場の混沌をものともせず、意気揚々と入口の方に走り寄っていく。脱力しながらその様子を視線で追うと、女の子が向かう先にいたのは、なんとも怪しげな人だった。黒いマントに身を包み、フードを被っていて顔も見えない。本当に大丈夫かとレジスタンスのメンバーが密かに警戒する中、その人は、女の子に対して片膝をつき、大事な物らしきものを取り出した。
「遅くなって、ごめんね。」
その人はそう言いながら、女の子の手にそれを乗せた。それを受け取り、女の子は嬉々としているが、レジスタンスのメンバーはそれどころではない。
“この声は……!!”
この声を知っている。その声の持ち主を知っている。今、彼は、一体何を考えているのか。レジスタンスのメンバーは驚きすぎて固まってしまっていた。女の子が礼を言うのもどこか遠くのことのようだ。彼が立ち上がった。その時、
「あなたのせいだったのね。」
母親の地を這う声がその場に響いた。彼の方に向かいながら、ヒステリックに捲し立てる。
「娘が勝手にいなくなって、大騒動だったの。やっと見つけたと思ったらこんな酒場だし。その上、あなたと約束したと言って全く動かない!大体ね、その忌ま忌ましいものがなくなって、清々していたの。それのせいで……っ!!」
「……それにはもう邪悪な力は残ってないよ。だから大、っ!」
突然、母親は手を振りかぶった。パシンと音が鳴り響く。叩かれた彼は、倒れ込んでいた。彼らしくない。レジスタンスのみんなはそう思った。だが、目の前で起こっていることに頭がついていかなかった。金縛りにあったかのように動けない。そうこうしている内に、激高した母親が、何事かヒステリックに叫びながら再度手を上げた。
「ママ!!」
しかし、再度の暴力は、女の子が割って入ったことで、彼に届くことはなかった。
「なんて酷いことするの!?ママなんて、大っ嫌い!!」
そうかと思えば、女の子はそのまま出て行ってしまった。母親はそれを慌てて追いかけて行く。途端に訪れる、静寂。誰も動くことが出来ないでいた。レジスタンスのメンバーが、彼をじっと観察していると、やがて、彼はのそりと起き上った。その様子はやはり、彼らしくない。足元がおぼつかない様子で立ち上がった彼は、ゆっくりとこちらを向いた。身構えたが、次の瞬間、彼は頭を下げていた。
「……お騒がせ、しました。」
それだけを言うと、彼は扉の方へ歩き始める。
「……!待ちな!」
そこでようやく、テルマが我に返った。だが、彼は足を止めない。そこでラフレルが動き、彼の腕を掴んだ。彼の顔がラフレルに向く。
「お前……リンクだな?」
この場にいた誰もが固唾を飲んで様子を見守った。彼はリンクだ、いやきっと違う、その無駄な攻防をラフレルの一言が終わらせた。リンクは何も言わない。突然、ラフレルが息を飲んだ。少し躊躇する様子がうかがえたが、やがて、ラフレルは言う。
「………少し休んだ方がいい。我々も、その状態で城に引き渡すほど鬼ではない。」
ラフレル以外のレジスタンスの面々は首を傾げた。リンクが一体、どういう状態だというのか?一方、それを聞いたリンクは、ラフレルの手を振り解いていた。
「……そんなことをしたら、反逆者、だよ。」
その顔は、フードに隠れてうかがい知れない。こちらが何を言う間もなく、そのまま彼は出て行ってしまった。リンクが出て行った後を茫然とレジスタンスのメンバーは眺めていた。
やがて、シャッドが我に返った。そして気づく。
「今の時間に外にいたら……!」
「……奴らが出てくるな。」
モイも気付き、苦々しい顔をする。今の城下町は謎の敵に脅かされていた。夜、定刻になると現れるが、まさにその時間になろうとしている。ラフレルは、先程のリンクを思い浮かべた。
「あの体調では危ないかもしれんな。」
顔をしかめるラフレルに、レジスタンスの面々はそういえば、と思い出す。代表してモイが疑問を投げた。
「そういえば、リンクの状態がどうのと言っていたな。どういうことだ?」
「息が荒く、掴んだ腕も熱かった。かなり体調が悪いだろう。」
淡々とラフレルは答えた。みんながみんな、苦渋に満ちた顔で押し黙る。
「……………テルマ。いいか?」
長い沈黙の末、突然、アッシュが物申した。彼女は覚悟を決めた顔をしている。テルマはやれやれと思いながら、ニヤリと笑った。
「用意しとくよ。急ぎな。」
それを聞くなり、アッシュは飛び出していった。
「え!?本気!?」
言いながら、シャッドも続く。その二人を見て吹っ切れたか。モイも追いかけていく。残されたラフレルは優しく目を細めながら言った。
「さて。老いぼれは言い訳でも考えておこうか。」
ゆったりと構えた様子で、椅子に腰を下ろすラフレル。その顔も晴れ晴れとしている。
「……気になっていたんだけど、何でわざわざ年老いた姿を選んでいるんだい?」
やはりやれやれと思いながら、しかし、テルマは常々思っていたことを聞くに留める。すると、ラフレルは大きく笑った。
「この頃が一番輝いていたからだよ。」
アッシュ、シャッド、モイが外に出ると、丁度鐘が鳴ったところだった。敵が出てくる時間になったことを知らせる鐘である。不味いと警戒しながら、3人は大通りに出る。すると、リンクはそこにいた。ぼんやりとした様子で、遠くを見ているようだ。その直後、出てきたやつらにリンクは吹き飛ばされた。急いで3人が駆け寄るも、リンクはぐったりとして動かなかった。
「おい、しっかりしろ!」
モイがリンクを揺さぶった。リンクに触れて驚愕する。ラフレルに聞いてはいたが、リンクの体は想像以上に熱かった。
「完全に気を失っているね……大変だけど、運ぶか。」
そんなリンクを覗き込みながら、シャッドがぼやく。
「いや、その前に。私達も危ないぞ。」
「え?」
アッシュの言葉にモイとシャッドが周りを見ると、見事にやつらに囲まれていた。じりじりとやつらは包囲網を狭めてくる。やつらは無敵で、対抗手段は不明。しかし、このままではリンクどころか自らも危ない。苦い思いを噛み締めながら、3人は戦う覚悟を決めた。しかし、武器を構えた瞬間、近くの扉が勢いよく開いた。
「何をしている!!早くこちらへ!!」
戦わずに済むのならばそれに越したことはない。3人はリンクを抱えてその家へ逃げ込んだ。バタンと扉が閉まる音が大きく響く。そして、
「まったく。この時間に外にいるなど、命知らずにも程がある。」
間髪入れずに小言が聞こえた。しかし、3人にはそれに構う余裕はない。息を整えるのに精一杯だった。
「助かった、感謝する。」
一番に息を整えたアッシュが礼を言う。助けてくれた恩人を確認すると、長い白髪の男だった。アッシュの礼に対し、恩人は小さく手を振る。
「困ったときはお互い様だ。しかし、何故………いや、話は後にしよう。まずはその人の手当をした方がいい。」
恩人は放り出された形のリンクに近づいた。
「あ、待って!それはこっちで」
「これは……!リンク!?」
シャッドの制止むなしく、彼はリンクに気付いてしまった。気不味い空気が流れる。条件反射であろう、恩人は苦しそうなリンクの額に手を当てた。
「……本来は見捨てるべきなのだろうが。」
恩人はおもむろに言葉を紡ぐ。そして、3人を振り返った。
「何か事情があるのだろう。手伝ってほしい。まずはリンクをベッドに寝かせよう。」
3人は一先ずホッとした。リンクを奥の部屋に運び、ベッドに休ませる。その後、元の部屋で4人は向き合った。軽く自己紹介をする。恩人はアウールと言い、彼もリンクと面識があるらしい。
「事情を話してくれないか。」
アウールが聞くと、モイは頭を掻いた。
「俺達も成り行きに近いんだが。」
3人は酒場でのことを話した。アウールは口を挟まず、じっと話を聞いていた。
「放っておく気にもならず、追いかけた。私達はそれだけだ。」
アッシュが締めくくると、アウールは少し思案する。
「リンクはやつらのことを知らなかったのか。」
「そうだと思うよ。思いっきり攻撃を受けていたからね。」
シャッドが軽く言うと、アウールは難しい顔をして固まった。
「……攻撃を受けた?」
アウールの指摘に、3人はハッとした。そう、あの無敵のやつらから攻撃を受けてはいけない。傷を負わされてはいけない。謎のやつらではあるが、それだけは判明していた。
「受けていたな、確かに受けていたよな?」
モイが狼狽えてアッシュとシャッドに確認する。アッシュは固い顔で頷いた。
「確かに見た。傷を負わされていたら不味いな。」
アッシュの声は冷静だ。だが、言葉は淡々としていたが、腕組した先で指が小刻みに動き、焦りを隠せていない。
「リンクは鐘が鳴った後、生き物に反応してやつらが出てくることを知らなかったのか。」
気の急く思いを押さえ、アウールは確認した。
「おそらく。」
比較的落ち着いているアッシュが答えるが、しかし、3人としては推測の域を出ない。
「やつらが出現してから1時間でいなくなればいいが……。」
アウールはそう口にしたものの、望みは薄いと思っている様子だった。そこで少し衝撃から回復したシャッドは、首を振って頭を回転させ始める。
「最悪の想定をしておいた方がいいね。もしリンク君が傷をつけられていたら、やつらは彼を探して暴れ出す。」
シャッドが状況を明確に言語化したことで、ようやくモイも諦めの境地に立った。険しい顔で腕を組んで、言葉を続ける。
「そうなると、やつらは獲物を八裂きにするまで収まらないな。室内にいれば安全だが……。」
言い淀むモイに対し、アッシュは首を振った。
「いや、やつらは傷つけた相手を探し出す能力を持っている。ここもすぐ特定され、襲撃されるだろう。」
それを聞いて、やはり難しい顔をするアウール。
「建物を破壊されれば室内ではなくなる。我々も無事では済まない。」
シャッドが落ち着きなく、いつも持っている本を捲り始めた。
「それを回避するにはどうすれば……。」
モイは強く得物を握った。
「倒すにも、やつらは無敵だ。どんな攻撃も効かない。」
ここまで来て、4人は黙り込んだ。薄々嫌な結論が出されようとしていたが、それを認める気はない。何か良い案がないかと考える。しかし、なかなか解決策が思いつかない。困り果てていた時、
「つまり、オレが出て行けばいいんだね。」
突然、第三者の声が響いた。集中していた4人は、驚いてリンクを寝かせた部屋の方を見る。リンクが起きてきて、部屋の前に立っていた。
「お前、大丈夫なのか?」
モイが思わず声を出した。心配しているのを隠せていない。それも当然だ。先ほど見たリンクは、すぐに起きられるような状態ではなかった。
「オレを心配するなんて、お人好しだね。いや……助けたらダメでしょ、オレなんか。」
リンクの返答は想定外のものだった。4人は目を見開く。そして、なんだかすごく胸が苦しくなった。彼は世界を襲った、そう言われている。しかし……今の彼は、そんなことをした人には見えなかった。
「確認させて。」
4人が絶句していると、リンクは話を戻した。
「外にいるというやつらは、もうすぐ凶暴化して、オレを探し始める。」
ハッと我に返る4人。何はともあれ、今は目の前の問題に集中すべきだ。
「それはお前に傷があった場合の話だ。」
リンクには、アッシュが答えた。訓練の賜物だろう、その表情は普段と全く変わらない。アッシュの回答を聞いたリンクは、苦笑いを寄越した。
「それ、あるみたいなんだよね。だから、やつらが凶暴化するのは時間の問題。解決するには、オレがやつらに殺されるか、街から出るか、その2択。」
現状を述べたかと思うと、スラスラと解決策がリンクの口からこぼれ出る。そうかと思うと、リンクは扉に向かって歩き出した。
「待って!今の時間でも外に出ればやつらは襲ってくるよ!」
シャッドが叫んだ。リンクの出した策は、重体のリンクが外に出ることが必須となる。やつらが闊歩する外に、だ。それが如何に無謀か分かっているからこそ、4人はその策を無意識に除外していた。それなのに、リンクは当然のこととして外に出ることを選択している。まるで自分は大丈夫と言わんばかりに。そんなわけがないからこそのシャッドの叫びだった。それを聞いてか、リンクは振り向く。その顔には、微笑みが浮かべられていた。
「どの道1時間経てば襲われるんでしょ?あ、その1時間まで後どれくらい?」
リンクの様子は、とても死地に行くように思えない。それほど軽い口調だった。その問いに答えていいのか。回答すればリンクに全てを任せることになってしまいそうだが、委ねていいのか。4人にそんな葛藤が渦巻くが、リンクは当然答えを得られると信じた顔でこちらを待っている。
「30分……いや、20分くらいだと考えた方がいい。しかし、何故?」
仕方なく、アウールは言葉を絞り出した。だが、質問の意図を確認することは忘れない。
「本来の1時間で事が済めば、少しは不安に思わなくていいでしょ?」
そうこうするうちに、リンクは扉の前に立っていて、ドアノブに手をかけていた。
「オレと会ってしまったこと、知られないようにね。」
そして、扉が開かれる。やはり引き留めるべきでは。4人全員がそう思った時。
「助けてくれてありがとう。嬉しかった。」
リンクは飛び出していってしまった。最後、リンクがどんな顔をしていたか。それは確認できなかった。何故なら彼は、扉に辿り着いてからは一切、こちらに顔を向けなかったからだ。慌てて追いかけようとモイが動きかけたが、アッシュが止める。
「更に傷がついた者を増やしてどうする。」
繰り返しになるが、4人にはやつらに対抗する手段はない。リンクを追いかけたところで、足手まといにこそなれど、手助けできることなどなかった。モイは強く足を叩き、悔しさを紛らわせるしかなかった。
リンクが外に出た後、4人は無言で外を見守っていた。窓から見えるやつらは荒々しく通りを行き交っている。ふと、アウールは時計を確認した。
「……時間が過ぎている。」
固いアウールの声に、大きく反応した3人。
「……助からない、かもな。」
ポツリと、アッシュが呟いた。
「いや。逆に言えば、まだ生きている。彼は頑張っているんだよ。」
シャッドがやけに明るい声で鼓舞した。しかし、その顔は焦燥が隠せていない。モイはじっと黙り込んだまま、外を睨みつけていた。他の面々も落ち着かない気持ちで外を眺める。
突然、モイが扉に向かって歩き出した。
「待て。何を考えている?」
間髪入れずにアウールが声を発した。モイは足を止めたが、外に続く扉に手が置かれている。
「助けにいく。アイツ1人を送り出すなんて、戦士の風上にも置けない。いくらリンクがろくでなしだって……このままでは、俺は俺を許せない。」
「でも危険だ!僕達にどうこうできるやつらじゃない!」
「残念ながら、全く現実的ではない。無駄死にするぞ。」
シャッドとアッシュは声を上げて反対する。しかし、
「分かっている。それでも、だ……!」
そう言い放ち、モイは扉を開けて外に出た。アッシュとシャッドは引き戻そうと遅れて外へ飛び出す。その途端、やつらが反応した。すごい勢いでこちらがロックオンされたのが分かる。近くのやつが武器を向けてきた。モイは構える。だが、やつらが攻撃してくることはなかった。なんと、いきなり粉々になったのだ。3人はそれを唖然と眺めていた。
「何が……どうなって……?」
シャッドが呆然と呟いた。その様子を見て、室内にいたアウールも外へ出てきた。注意深く辺りの様子を探る。
「……まさか。いや、しかし………。」
しばらくアウールは逡巡していた。ぶつぶつと何かを言いながら、考え込んでいる。やがて、アウールは3人に目を向けた。
「リンクはまだこの街にいるかもしれない。」
その意味を正確に理解した3人。彼らは散り散りになってリンクを探した。
4人の捜索のかいあって、中央広場に倒れるリンクを発見し、保護することができた。相談の結果、テルマの酒場で匿うこととなり、それから早二日。
「………な、さい……。」
テルマが片付けをしていると微かな声が聞こえた。テルマはハッとしてベッドに横たわるリンクの方を見る。側で見守っていたモイが前屈みになってリンクの様子をうかがっていた。だが、リンクの目は開いておらず、動く様子もない。
「……寝言、か。」
モイの気落ちした声がやけに大きく響いた。モイは深いため息を吐き、椅子に座り直す。
「もう丸々二日眠っているからねぇ……心配だねぇ……。」
テルマが暗い声で呟いた。するとモイは、少し青白い顔でテルマを見やった。
「リンクは大丈夫だろうか……。」
「アタシは医者じゃないからね……この子を第三者に見せるわけにもいかないし。だけど、この子の生命力を侮っちゃあいけない。信じて待つしかないさ。」
モイは力なく視線を下げた。
「そうだな……。」
「ごめんなさい!」
突然、鋭い声が空気を切り裂いた。テルマとモイはビクリと肩を震わせてリンクに目を向ける。果たして、リンクは目を覚ましていなかった。だが、とても苦渋に満ちた顔をしている。
「どうした、リンク?」
モイは再び身を乗り出してリンクの様子をうかがった。テルマも片付けの手を止めて、リンクに歩み寄った。
「傷付けて、ごめんなさい……酷いことをして、ごめんなさい……。」
テルマとモイは驚いて顔を見合わせた。
「最後は、ちゃんと負けるから……それで終わらせる、から……だから、早く……………。」
その後の言葉は、どれだけ待っても紡がれなかった。テルマとモイはしばらく動けなかった。ただただ、苦しそうなリンクを見つめることしかできなかった。ようやく金縛りが解けると、モイはリンクの肩を強く掴んだ。
「リンク!お前一体、何がしたかったんだ!!」
モイがリンクを揺さぶる直前で、テルマはモイをリンクから引き離すことに成功した。
「テルマ!!」
「落ち着きな。相手は病人だよ。」
モイはぐっと息を詰まらせた。リンクを確認するが、目を覚ました様子はない。先程の行為は確かにふさわしくなかったとモイは反省する。しかし、
「……起きたら、問い質すからな。」
モイはリンクをきつく見つめながら言った。
「それは野暮というものじゃないのかい。」
テルマが言うと、モイは不服そうな目をテルマに向けた。テルマは肩をすくめる。
「この子はあの時苦しんでいた、今の様子でそれだけは分かったよ。それでも、そうせざるを得なかったから続けていたんじゃないのかい。……あれは本心じゃなかった。この子を信じていいんだ。それが分かれば十分じゃないか。」
モイは歯を食い縛った。
「だが……。」
「勿論、アンタの気持ちも分かるよ。」
テルマはリンクに手を伸ばした。
「馬鹿な子だね。」
テルマはリンクの頭を撫で始めた。
「一人で抱え込む必要なんてなかったんだ。こんなにボロボロになるまで、一人で戦わなくてもよかったんだよ……。」
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「お嬢ちゃん、こんなところにどうしたんだい?」
テルマが尋ねると、入ってきた女の子は、はきはきと答えた。
「お兄ちゃんがね、私の大事なものを持ってきてくれるって言ったの!だから、待たせてくれる?」
テルマは目を丸くする。そして、こんなところで幼い子供を待たせてもよいものかと頭を悩ませた。すると、
「ほう。大事なものとは何ですかな。」
隣からラフレルが少女に声をかけた。ラフレルも奥で話していたが、場違いな子供の声をいぶかしみ、出てきたのだ。しかし、ラフレルに女の子を帰す気配がない。女の子を一人外に出すのも、それはそれで心配か、とテルマも己を納得させた。
しばらく話しているが、なかなか女の子の言うお兄ちゃんは来ない。夕方近くになり、本当に女の子をこのまま留めていてもよいのかとレジスタンスのみんなが目配せを始めた頃、女性が息を切らして入ってきた。何者かと思えば女の子の母親だった。彼女は、女の子を酒場に留め置いたことで怒り心頭だった。しかも、帰ろうとする母親に対し、女の子は駄々をこねて帰ろうとしない。どうしたものかと、テルマ達が頭を抱えていた時。
「あ!来た!!」
突然、女の子が叫んだ。そうかと思うと、この場の混沌をものともせず、意気揚々と入口の方に走り寄っていく。脱力しながらその様子を視線で追うと、女の子が向かう先にいたのは、なんとも怪しげな人だった。黒いマントに身を包み、フードを被っていて顔も見えない。本当に大丈夫かとレジスタンスのメンバーが密かに警戒する中、その人は、女の子に対して片膝をつき、大事な物らしきものを取り出した。
「遅くなって、ごめんね。」
その人はそう言いながら、女の子の手にそれを乗せた。それを受け取り、女の子は嬉々としているが、レジスタンスのメンバーはそれどころではない。
“この声は……!!”
この声を知っている。その声の持ち主を知っている。今、彼は、一体何を考えているのか。レジスタンスのメンバーは驚きすぎて固まってしまっていた。女の子が礼を言うのもどこか遠くのことのようだ。彼が立ち上がった。その時、
「あなたのせいだったのね。」
母親の地を這う声がその場に響いた。彼の方に向かいながら、ヒステリックに捲し立てる。
「娘が勝手にいなくなって、大騒動だったの。やっと見つけたと思ったらこんな酒場だし。その上、あなたと約束したと言って全く動かない!大体ね、その忌ま忌ましいものがなくなって、清々していたの。それのせいで……っ!!」
「……それにはもう邪悪な力は残ってないよ。だから大、っ!」
突然、母親は手を振りかぶった。パシンと音が鳴り響く。叩かれた彼は、倒れ込んでいた。彼らしくない。レジスタンスのみんなはそう思った。だが、目の前で起こっていることに頭がついていかなかった。金縛りにあったかのように動けない。そうこうしている内に、激高した母親が、何事かヒステリックに叫びながら再度手を上げた。
「ママ!!」
しかし、再度の暴力は、女の子が割って入ったことで、彼に届くことはなかった。
「なんて酷いことするの!?ママなんて、大っ嫌い!!」
そうかと思えば、女の子はそのまま出て行ってしまった。母親はそれを慌てて追いかけて行く。途端に訪れる、静寂。誰も動くことが出来ないでいた。レジスタンスのメンバーが、彼をじっと観察していると、やがて、彼はのそりと起き上った。その様子はやはり、彼らしくない。足元がおぼつかない様子で立ち上がった彼は、ゆっくりとこちらを向いた。身構えたが、次の瞬間、彼は頭を下げていた。
「……お騒がせ、しました。」
それだけを言うと、彼は扉の方へ歩き始める。
「……!待ちな!」
そこでようやく、テルマが我に返った。だが、彼は足を止めない。そこでラフレルが動き、彼の腕を掴んだ。彼の顔がラフレルに向く。
「お前……リンクだな?」
この場にいた誰もが固唾を飲んで様子を見守った。彼はリンクだ、いやきっと違う、その無駄な攻防をラフレルの一言が終わらせた。リンクは何も言わない。突然、ラフレルが息を飲んだ。少し躊躇する様子がうかがえたが、やがて、ラフレルは言う。
「………少し休んだ方がいい。我々も、その状態で城に引き渡すほど鬼ではない。」
ラフレル以外のレジスタンスの面々は首を傾げた。リンクが一体、どういう状態だというのか?一方、それを聞いたリンクは、ラフレルの手を振り解いていた。
「……そんなことをしたら、反逆者、だよ。」
その顔は、フードに隠れてうかがい知れない。こちらが何を言う間もなく、そのまま彼は出て行ってしまった。リンクが出て行った後を茫然とレジスタンスのメンバーは眺めていた。
やがて、シャッドが我に返った。そして気づく。
「今の時間に外にいたら……!」
「……奴らが出てくるな。」
モイも気付き、苦々しい顔をする。今の城下町は謎の敵に脅かされていた。夜、定刻になると現れるが、まさにその時間になろうとしている。ラフレルは、先程のリンクを思い浮かべた。
「あの体調では危ないかもしれんな。」
顔をしかめるラフレルに、レジスタンスの面々はそういえば、と思い出す。代表してモイが疑問を投げた。
「そういえば、リンクの状態がどうのと言っていたな。どういうことだ?」
「息が荒く、掴んだ腕も熱かった。かなり体調が悪いだろう。」
淡々とラフレルは答えた。みんながみんな、苦渋に満ちた顔で押し黙る。
「……………テルマ。いいか?」
長い沈黙の末、突然、アッシュが物申した。彼女は覚悟を決めた顔をしている。テルマはやれやれと思いながら、ニヤリと笑った。
「用意しとくよ。急ぎな。」
それを聞くなり、アッシュは飛び出していった。
「え!?本気!?」
言いながら、シャッドも続く。その二人を見て吹っ切れたか。モイも追いかけていく。残されたラフレルは優しく目を細めながら言った。
「さて。老いぼれは言い訳でも考えておこうか。」
ゆったりと構えた様子で、椅子に腰を下ろすラフレル。その顔も晴れ晴れとしている。
「……気になっていたんだけど、何でわざわざ年老いた姿を選んでいるんだい?」
やはりやれやれと思いながら、しかし、テルマは常々思っていたことを聞くに留める。すると、ラフレルは大きく笑った。
「この頃が一番輝いていたからだよ。」
アッシュ、シャッド、モイが外に出ると、丁度鐘が鳴ったところだった。敵が出てくる時間になったことを知らせる鐘である。不味いと警戒しながら、3人は大通りに出る。すると、リンクはそこにいた。ぼんやりとした様子で、遠くを見ているようだ。その直後、出てきたやつらにリンクは吹き飛ばされた。急いで3人が駆け寄るも、リンクはぐったりとして動かなかった。
「おい、しっかりしろ!」
モイがリンクを揺さぶった。リンクに触れて驚愕する。ラフレルに聞いてはいたが、リンクの体は想像以上に熱かった。
「完全に気を失っているね……大変だけど、運ぶか。」
そんなリンクを覗き込みながら、シャッドがぼやく。
「いや、その前に。私達も危ないぞ。」
「え?」
アッシュの言葉にモイとシャッドが周りを見ると、見事にやつらに囲まれていた。じりじりとやつらは包囲網を狭めてくる。やつらは無敵で、対抗手段は不明。しかし、このままではリンクどころか自らも危ない。苦い思いを噛み締めながら、3人は戦う覚悟を決めた。しかし、武器を構えた瞬間、近くの扉が勢いよく開いた。
「何をしている!!早くこちらへ!!」
戦わずに済むのならばそれに越したことはない。3人はリンクを抱えてその家へ逃げ込んだ。バタンと扉が閉まる音が大きく響く。そして、
「まったく。この時間に外にいるなど、命知らずにも程がある。」
間髪入れずに小言が聞こえた。しかし、3人にはそれに構う余裕はない。息を整えるのに精一杯だった。
「助かった、感謝する。」
一番に息を整えたアッシュが礼を言う。助けてくれた恩人を確認すると、長い白髪の男だった。アッシュの礼に対し、恩人は小さく手を振る。
「困ったときはお互い様だ。しかし、何故………いや、話は後にしよう。まずはその人の手当をした方がいい。」
恩人は放り出された形のリンクに近づいた。
「あ、待って!それはこっちで」
「これは……!リンク!?」
シャッドの制止むなしく、彼はリンクに気付いてしまった。気不味い空気が流れる。条件反射であろう、恩人は苦しそうなリンクの額に手を当てた。
「……本来は見捨てるべきなのだろうが。」
恩人はおもむろに言葉を紡ぐ。そして、3人を振り返った。
「何か事情があるのだろう。手伝ってほしい。まずはリンクをベッドに寝かせよう。」
3人は一先ずホッとした。リンクを奥の部屋に運び、ベッドに休ませる。その後、元の部屋で4人は向き合った。軽く自己紹介をする。恩人はアウールと言い、彼もリンクと面識があるらしい。
「事情を話してくれないか。」
アウールが聞くと、モイは頭を掻いた。
「俺達も成り行きに近いんだが。」
3人は酒場でのことを話した。アウールは口を挟まず、じっと話を聞いていた。
「放っておく気にもならず、追いかけた。私達はそれだけだ。」
アッシュが締めくくると、アウールは少し思案する。
「リンクはやつらのことを知らなかったのか。」
「そうだと思うよ。思いっきり攻撃を受けていたからね。」
シャッドが軽く言うと、アウールは難しい顔をして固まった。
「……攻撃を受けた?」
アウールの指摘に、3人はハッとした。そう、あの無敵のやつらから攻撃を受けてはいけない。傷を負わされてはいけない。謎のやつらではあるが、それだけは判明していた。
「受けていたな、確かに受けていたよな?」
モイが狼狽えてアッシュとシャッドに確認する。アッシュは固い顔で頷いた。
「確かに見た。傷を負わされていたら不味いな。」
アッシュの声は冷静だ。だが、言葉は淡々としていたが、腕組した先で指が小刻みに動き、焦りを隠せていない。
「リンクは鐘が鳴った後、生き物に反応してやつらが出てくることを知らなかったのか。」
気の急く思いを押さえ、アウールは確認した。
「おそらく。」
比較的落ち着いているアッシュが答えるが、しかし、3人としては推測の域を出ない。
「やつらが出現してから1時間でいなくなればいいが……。」
アウールはそう口にしたものの、望みは薄いと思っている様子だった。そこで少し衝撃から回復したシャッドは、首を振って頭を回転させ始める。
「最悪の想定をしておいた方がいいね。もしリンク君が傷をつけられていたら、やつらは彼を探して暴れ出す。」
シャッドが状況を明確に言語化したことで、ようやくモイも諦めの境地に立った。険しい顔で腕を組んで、言葉を続ける。
「そうなると、やつらは獲物を八裂きにするまで収まらないな。室内にいれば安全だが……。」
言い淀むモイに対し、アッシュは首を振った。
「いや、やつらは傷つけた相手を探し出す能力を持っている。ここもすぐ特定され、襲撃されるだろう。」
それを聞いて、やはり難しい顔をするアウール。
「建物を破壊されれば室内ではなくなる。我々も無事では済まない。」
シャッドが落ち着きなく、いつも持っている本を捲り始めた。
「それを回避するにはどうすれば……。」
モイは強く得物を握った。
「倒すにも、やつらは無敵だ。どんな攻撃も効かない。」
ここまで来て、4人は黙り込んだ。薄々嫌な結論が出されようとしていたが、それを認める気はない。何か良い案がないかと考える。しかし、なかなか解決策が思いつかない。困り果てていた時、
「つまり、オレが出て行けばいいんだね。」
突然、第三者の声が響いた。集中していた4人は、驚いてリンクを寝かせた部屋の方を見る。リンクが起きてきて、部屋の前に立っていた。
「お前、大丈夫なのか?」
モイが思わず声を出した。心配しているのを隠せていない。それも当然だ。先ほど見たリンクは、すぐに起きられるような状態ではなかった。
「オレを心配するなんて、お人好しだね。いや……助けたらダメでしょ、オレなんか。」
リンクの返答は想定外のものだった。4人は目を見開く。そして、なんだかすごく胸が苦しくなった。彼は世界を襲った、そう言われている。しかし……今の彼は、そんなことをした人には見えなかった。
「確認させて。」
4人が絶句していると、リンクは話を戻した。
「外にいるというやつらは、もうすぐ凶暴化して、オレを探し始める。」
ハッと我に返る4人。何はともあれ、今は目の前の問題に集中すべきだ。
「それはお前に傷があった場合の話だ。」
リンクには、アッシュが答えた。訓練の賜物だろう、その表情は普段と全く変わらない。アッシュの回答を聞いたリンクは、苦笑いを寄越した。
「それ、あるみたいなんだよね。だから、やつらが凶暴化するのは時間の問題。解決するには、オレがやつらに殺されるか、街から出るか、その2択。」
現状を述べたかと思うと、スラスラと解決策がリンクの口からこぼれ出る。そうかと思うと、リンクは扉に向かって歩き出した。
「待って!今の時間でも外に出ればやつらは襲ってくるよ!」
シャッドが叫んだ。リンクの出した策は、重体のリンクが外に出ることが必須となる。やつらが闊歩する外に、だ。それが如何に無謀か分かっているからこそ、4人はその策を無意識に除外していた。それなのに、リンクは当然のこととして外に出ることを選択している。まるで自分は大丈夫と言わんばかりに。そんなわけがないからこそのシャッドの叫びだった。それを聞いてか、リンクは振り向く。その顔には、微笑みが浮かべられていた。
「どの道1時間経てば襲われるんでしょ?あ、その1時間まで後どれくらい?」
リンクの様子は、とても死地に行くように思えない。それほど軽い口調だった。その問いに答えていいのか。回答すればリンクに全てを任せることになってしまいそうだが、委ねていいのか。4人にそんな葛藤が渦巻くが、リンクは当然答えを得られると信じた顔でこちらを待っている。
「30分……いや、20分くらいだと考えた方がいい。しかし、何故?」
仕方なく、アウールは言葉を絞り出した。だが、質問の意図を確認することは忘れない。
「本来の1時間で事が済めば、少しは不安に思わなくていいでしょ?」
そうこうするうちに、リンクは扉の前に立っていて、ドアノブに手をかけていた。
「オレと会ってしまったこと、知られないようにね。」
そして、扉が開かれる。やはり引き留めるべきでは。4人全員がそう思った時。
「助けてくれてありがとう。嬉しかった。」
リンクは飛び出していってしまった。最後、リンクがどんな顔をしていたか。それは確認できなかった。何故なら彼は、扉に辿り着いてからは一切、こちらに顔を向けなかったからだ。慌てて追いかけようとモイが動きかけたが、アッシュが止める。
「更に傷がついた者を増やしてどうする。」
繰り返しになるが、4人にはやつらに対抗する手段はない。リンクを追いかけたところで、足手まといにこそなれど、手助けできることなどなかった。モイは強く足を叩き、悔しさを紛らわせるしかなかった。
リンクが外に出た後、4人は無言で外を見守っていた。窓から見えるやつらは荒々しく通りを行き交っている。ふと、アウールは時計を確認した。
「……時間が過ぎている。」
固いアウールの声に、大きく反応した3人。
「……助からない、かもな。」
ポツリと、アッシュが呟いた。
「いや。逆に言えば、まだ生きている。彼は頑張っているんだよ。」
シャッドがやけに明るい声で鼓舞した。しかし、その顔は焦燥が隠せていない。モイはじっと黙り込んだまま、外を睨みつけていた。他の面々も落ち着かない気持ちで外を眺める。
突然、モイが扉に向かって歩き出した。
「待て。何を考えている?」
間髪入れずにアウールが声を発した。モイは足を止めたが、外に続く扉に手が置かれている。
「助けにいく。アイツ1人を送り出すなんて、戦士の風上にも置けない。いくらリンクがろくでなしだって……このままでは、俺は俺を許せない。」
「でも危険だ!僕達にどうこうできるやつらじゃない!」
「残念ながら、全く現実的ではない。無駄死にするぞ。」
シャッドとアッシュは声を上げて反対する。しかし、
「分かっている。それでも、だ……!」
そう言い放ち、モイは扉を開けて外に出た。アッシュとシャッドは引き戻そうと遅れて外へ飛び出す。その途端、やつらが反応した。すごい勢いでこちらがロックオンされたのが分かる。近くのやつが武器を向けてきた。モイは構える。だが、やつらが攻撃してくることはなかった。なんと、いきなり粉々になったのだ。3人はそれを唖然と眺めていた。
「何が……どうなって……?」
シャッドが呆然と呟いた。その様子を見て、室内にいたアウールも外へ出てきた。注意深く辺りの様子を探る。
「……まさか。いや、しかし………。」
しばらくアウールは逡巡していた。ぶつぶつと何かを言いながら、考え込んでいる。やがて、アウールは3人に目を向けた。
「リンクはまだこの街にいるかもしれない。」
その意味を正確に理解した3人。彼らは散り散りになってリンクを探した。
4人の捜索のかいあって、中央広場に倒れるリンクを発見し、保護することができた。相談の結果、テルマの酒場で匿うこととなり、それから早二日。
「………な、さい……。」
テルマが片付けをしていると微かな声が聞こえた。テルマはハッとしてベッドに横たわるリンクの方を見る。側で見守っていたモイが前屈みになってリンクの様子をうかがっていた。だが、リンクの目は開いておらず、動く様子もない。
「……寝言、か。」
モイの気落ちした声がやけに大きく響いた。モイは深いため息を吐き、椅子に座り直す。
「もう丸々二日眠っているからねぇ……心配だねぇ……。」
テルマが暗い声で呟いた。するとモイは、少し青白い顔でテルマを見やった。
「リンクは大丈夫だろうか……。」
「アタシは医者じゃないからね……この子を第三者に見せるわけにもいかないし。だけど、この子の生命力を侮っちゃあいけない。信じて待つしかないさ。」
モイは力なく視線を下げた。
「そうだな……。」
「ごめんなさい!」
突然、鋭い声が空気を切り裂いた。テルマとモイはビクリと肩を震わせてリンクに目を向ける。果たして、リンクは目を覚ましていなかった。だが、とても苦渋に満ちた顔をしている。
「どうした、リンク?」
モイは再び身を乗り出してリンクの様子をうかがった。テルマも片付けの手を止めて、リンクに歩み寄った。
「傷付けて、ごめんなさい……酷いことをして、ごめんなさい……。」
テルマとモイは驚いて顔を見合わせた。
「最後は、ちゃんと負けるから……それで終わらせる、から……だから、早く……………。」
その後の言葉は、どれだけ待っても紡がれなかった。テルマとモイはしばらく動けなかった。ただただ、苦しそうなリンクを見つめることしかできなかった。ようやく金縛りが解けると、モイはリンクの肩を強く掴んだ。
「リンク!お前一体、何がしたかったんだ!!」
モイがリンクを揺さぶる直前で、テルマはモイをリンクから引き離すことに成功した。
「テルマ!!」
「落ち着きな。相手は病人だよ。」
モイはぐっと息を詰まらせた。リンクを確認するが、目を覚ました様子はない。先程の行為は確かにふさわしくなかったとモイは反省する。しかし、
「……起きたら、問い質すからな。」
モイはリンクをきつく見つめながら言った。
「それは野暮というものじゃないのかい。」
テルマが言うと、モイは不服そうな目をテルマに向けた。テルマは肩をすくめる。
「この子はあの時苦しんでいた、今の様子でそれだけは分かったよ。それでも、そうせざるを得なかったから続けていたんじゃないのかい。……あれは本心じゃなかった。この子を信じていいんだ。それが分かれば十分じゃないか。」
モイは歯を食い縛った。
「だが……。」
「勿論、アンタの気持ちも分かるよ。」
テルマはリンクに手を伸ばした。
「馬鹿な子だね。」
テルマはリンクの頭を撫で始めた。
「一人で抱え込む必要なんてなかったんだ。こんなにボロボロになるまで、一人で戦わなくてもよかったんだよ……。」
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