サイドストーリー
リンクが城に現れ、説得の末、城に留めてから数日が経過した。束の間の休息も許されず、夜中の城内で敵が出現する事態が発生。今日もリンクは駆り出され、無事に制圧したが、9割方リンクの戦果である。そして、休憩を取る様子の見えないリンクを説き伏せて、ようやく就寝したと安堵した頃。悪意は昼食と共に襲来した。
床に投げつけられた昼食――当然、食すことなどできない――を見て負の感情を一切見せず、リンクは淡々と現状を受け止めた。その姿を見て、ファイの心中に生まれた未知の感覚。慣れているという言葉を聞き咎め、問い詰めようとしたが、これがリンクの日常であったと知り、愕然とする。凪いだ表情で片付けを始めるリンクを凝視したまま、ファイは動けずにいた。
“何故……。”
ファイの思考を一言で表すならば、混沌。現在、心中に渦巻く感情は………不明。
“何故………。”
何が不満なのか。何に疑問符を飛ばすのか。ファイは落ち着かない気持ちを抑えて、現状を整理する。リンクは世界のために動いていた。己の犠牲を顧みず、ただただ世界のために身を削った。そして返ってきた理不尽。それを当然のことと甘受するリンク。その上で、優しく笑うリンク。
“これが、マスターのあるべき姿でしょうか……?”
その途端、脳裏に浮かんだのは、感謝を伝えられて喜ぶ姿。照れたようにはにかみながら、嬉しそうに応えるマスター。しかし、今のリンクから感じ取れるのは、遠慮。自身の幸せは無用と考えるその姿は……はっきり言って痛々しい。
“否である可能性、……いえ。否、です。”
慎重だと自負するファイであるが、これだけは断言できた。こんな惨い仕打ちは望むところではない。このような痛々しい姿は………見たくなかった。ファイが思考の渦に浸っている間に、リンクは片づけを終え、外出しようとしていた。自分の望みは、リンクの安寧。そのために、伝えるべき言葉は。ファイは口を開く。
「……マスター……このまま出ていくことを、」
「ファイ、それ以上言っちゃダメ。ちゃんと帰ってくるから、待ってて。」
推奨します、その5文字がファイの口から零れ落ちることはなかった。リンクに阻止されてしまった。身に覚えのない感情が、身体の中心で威力を増す。不可解な感情を持て余しているうちに、リンクはマスターソードを置いて……己を置いて、出て行ってしまった。
「ファイ……?」
呆然としていると、遠慮がちな声が耳に入る。しかし、それに対する最適解は見つからない。一先ず、己の願望を口にした。
「……ここを閉じてしまえば、マスターは帰って来られないでしょうか……。」
「……無駄だと思うよ。」
返ってきたのは、期待に反して否定だった。ファイは驚きをもってナビィに視線を投げる。するとナビィは、飛翔したままその場で軽く揺れた。
「だってリンクは、一度言ったら実行しちゃう。窓が開いていなかったら、別の方法を探すだけ。」
ナビィの発言は、リンクという人物を理解していれば当然の回答だった。ファイは再度、窓の方に視線を向けた。
「戻って来なければ……いえ、城から解放されれば……マスターが幸せになれる可能性80%……。マスターはもう、充分世界に尽くしました……。」
ファイは呟く。ファイの状態は、心ここにあらず、という他なかった。
「それには賛成するケドネ。リンクはそう思っていないヨ。」
ナビィから感じ取れるのは、諦観。重い空気が場に張り詰めたその時。場の空気を破壊する勢いで、扉が開いた。瞬時に警戒態勢をとったが、入室者はダークリンク。ファイは安堵し、張り詰めた緊張を解く。隣にいるナビィも同様だ。ダークリンクに再度目を向けると、しかし、彼は険しい表情で部屋を見渡していた。最後にこちらに向けられた顔は、苦渋に満ちたものだった。
「おい、あいつは!?」
ダークリンクの口調は荒い。不測の事態が発生した模様。
「出掛けたヨ。」
ナビィは不穏な空気に気付いていない様子だ。平時と同様、牧歌的な返答であった。
「はぁ!?ふざけんなよ、あのお人好し!しかも、このタイミングかよ……!」
ついにダークリンクは喚き出した。ナビィは予測していなかったと見る。過大な動きでダークリンクから距離を取っていた。いよいよ、リンクの不在は不都合と判断した。しかし、手遅れと断じざるを得ない状況である。無情にも、扉を叩く音が室内に重く響いたのだ。ダークリンクの入室は非常に荒々しいものであったが、戸締りは怠らなかった模様。そうファイが現実逃避をするくらいには、行き詰った状況だった。
「チッ。この借りはいつか返して貰うからな……!」
行き詰った状況、とファイは腹を括ったが、ダークリンクから不可解な発言。状況を咀嚼する間もなく、ダークリンクはその場で瞑目した。行動の理由を探る目的でダークリンクに視点を定めていると、真っ黒であるはずの彼は、瞬く間に色づき、変貌した。
「え?そんなことができたの?」
ナビィも把握していない能力と推察。当のナビィは、唖然とした様子である。
「黙ってろ。」
ダークリンクが鋭く言い放った時、扉の開閉音が響いた。扉の打音からおよそ30秒。ダークリンクに持っていかれていた意識を扉に戻すと、バドの入室を確認した。
「あー、やっぱりちゃんといるよな。」
此方を視界に入れたバドからうかがえたのは、安堵。ダークリンク、もとい、現状リンクとしか認められない姿をした彼は、わずかに首を傾けた。
「……?オレはずっとここにいるよ?」
ダークリンクの回答に対し、バドは首肯した。
「そうだな、悪い。少し騒ぎになってんだよ。俺もさっき見た気がするが、気のせいだな、ありゃ。」
安心を表情全体に浮かべ、バドは部屋を後にした。扉が閉じるのを見届けることなく、ダークリンクから力が抜けた。重力に抗わず、床に倒れ込む。それを認識した時には、既に黒い姿であった。持続時間の短い技と思慮する一方で、この場を凌げたのはダークリンクの手柄と判断した。
「お見事。」
ファイは素直に賞賛の言葉を紡ぐ。しかし、ダークリンクにはそれを喜ぶ余裕はなかったらしい。
「ハァ、ハァ……これ、滅茶滅茶魔力使うんだぞ……。もう1回とか、無理だからな……。」
力なく伏せた状態から立ち直ることなく、発言後、意識を飛ばしていた。ダークリンクが寝息を立て始めるのを見届けて、ファイは窓の外を見やった。
城が騒ぐ中、リンクは我々のために走り回っている。ダークリンクを見て思った。城から解放されれば幸せになれるはず、という推測は果たして正しいのか、と。リンクの不在を認知したダークリンクは、しかし、姿をくらませたかという問答は一切しなかった。それどころか、即刻リンクに利があるように動いた。それは明確に、リンクの帰りを前提としていた。
ファイの予測は、ナビィも賛同したように、きっと間違いではない。ただ一方で、リンク自身が望まない、そう痛感した。手放しで受け入れられない解決策では、結局リンクを苦しめる可能性が非常に高い。
ではどうすればいいのか。ファイは考える。リンクには心安らかに過ごしてほしい。その願いは絶対だ。その願いを実現するには、助力が不可欠と思慮する。助力とはすなわち、そこで力尽きるダークリンクのような行動。
“マスターのためにできること……。”
自分には、一体何ができるのだろうか。その解はまだ模索中である。しかし、リンクが修羅の道を歩むのであれば、それをしっかりサポートするべきだ。そんな気持ちが芽生えていた。一筋の光が見えたことで、ファイを蝕んでいたほの暗い気持ちは、幾分か和らいだのだった。
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床に投げつけられた昼食――当然、食すことなどできない――を見て負の感情を一切見せず、リンクは淡々と現状を受け止めた。その姿を見て、ファイの心中に生まれた未知の感覚。慣れているという言葉を聞き咎め、問い詰めようとしたが、これがリンクの日常であったと知り、愕然とする。凪いだ表情で片付けを始めるリンクを凝視したまま、ファイは動けずにいた。
“何故……。”
ファイの思考を一言で表すならば、混沌。現在、心中に渦巻く感情は………不明。
“何故………。”
何が不満なのか。何に疑問符を飛ばすのか。ファイは落ち着かない気持ちを抑えて、現状を整理する。リンクは世界のために動いていた。己の犠牲を顧みず、ただただ世界のために身を削った。そして返ってきた理不尽。それを当然のことと甘受するリンク。その上で、優しく笑うリンク。
“これが、マスターのあるべき姿でしょうか……?”
その途端、脳裏に浮かんだのは、感謝を伝えられて喜ぶ姿。照れたようにはにかみながら、嬉しそうに応えるマスター。しかし、今のリンクから感じ取れるのは、遠慮。自身の幸せは無用と考えるその姿は……はっきり言って痛々しい。
“否である可能性、……いえ。否、です。”
慎重だと自負するファイであるが、これだけは断言できた。こんな惨い仕打ちは望むところではない。このような痛々しい姿は………見たくなかった。ファイが思考の渦に浸っている間に、リンクは片づけを終え、外出しようとしていた。自分の望みは、リンクの安寧。そのために、伝えるべき言葉は。ファイは口を開く。
「……マスター……このまま出ていくことを、」
「ファイ、それ以上言っちゃダメ。ちゃんと帰ってくるから、待ってて。」
推奨します、その5文字がファイの口から零れ落ちることはなかった。リンクに阻止されてしまった。身に覚えのない感情が、身体の中心で威力を増す。不可解な感情を持て余しているうちに、リンクはマスターソードを置いて……己を置いて、出て行ってしまった。
「ファイ……?」
呆然としていると、遠慮がちな声が耳に入る。しかし、それに対する最適解は見つからない。一先ず、己の願望を口にした。
「……ここを閉じてしまえば、マスターは帰って来られないでしょうか……。」
「……無駄だと思うよ。」
返ってきたのは、期待に反して否定だった。ファイは驚きをもってナビィに視線を投げる。するとナビィは、飛翔したままその場で軽く揺れた。
「だってリンクは、一度言ったら実行しちゃう。窓が開いていなかったら、別の方法を探すだけ。」
ナビィの発言は、リンクという人物を理解していれば当然の回答だった。ファイは再度、窓の方に視線を向けた。
「戻って来なければ……いえ、城から解放されれば……マスターが幸せになれる可能性80%……。マスターはもう、充分世界に尽くしました……。」
ファイは呟く。ファイの状態は、心ここにあらず、という他なかった。
「それには賛成するケドネ。リンクはそう思っていないヨ。」
ナビィから感じ取れるのは、諦観。重い空気が場に張り詰めたその時。場の空気を破壊する勢いで、扉が開いた。瞬時に警戒態勢をとったが、入室者はダークリンク。ファイは安堵し、張り詰めた緊張を解く。隣にいるナビィも同様だ。ダークリンクに再度目を向けると、しかし、彼は険しい表情で部屋を見渡していた。最後にこちらに向けられた顔は、苦渋に満ちたものだった。
「おい、あいつは!?」
ダークリンクの口調は荒い。不測の事態が発生した模様。
「出掛けたヨ。」
ナビィは不穏な空気に気付いていない様子だ。平時と同様、牧歌的な返答であった。
「はぁ!?ふざけんなよ、あのお人好し!しかも、このタイミングかよ……!」
ついにダークリンクは喚き出した。ナビィは予測していなかったと見る。過大な動きでダークリンクから距離を取っていた。いよいよ、リンクの不在は不都合と判断した。しかし、手遅れと断じざるを得ない状況である。無情にも、扉を叩く音が室内に重く響いたのだ。ダークリンクの入室は非常に荒々しいものであったが、戸締りは怠らなかった模様。そうファイが現実逃避をするくらいには、行き詰った状況だった。
「チッ。この借りはいつか返して貰うからな……!」
行き詰った状況、とファイは腹を括ったが、ダークリンクから不可解な発言。状況を咀嚼する間もなく、ダークリンクはその場で瞑目した。行動の理由を探る目的でダークリンクに視点を定めていると、真っ黒であるはずの彼は、瞬く間に色づき、変貌した。
「え?そんなことができたの?」
ナビィも把握していない能力と推察。当のナビィは、唖然とした様子である。
「黙ってろ。」
ダークリンクが鋭く言い放った時、扉の開閉音が響いた。扉の打音からおよそ30秒。ダークリンクに持っていかれていた意識を扉に戻すと、バドの入室を確認した。
「あー、やっぱりちゃんといるよな。」
此方を視界に入れたバドからうかがえたのは、安堵。ダークリンク、もとい、現状リンクとしか認められない姿をした彼は、わずかに首を傾けた。
「……?オレはずっとここにいるよ?」
ダークリンクの回答に対し、バドは首肯した。
「そうだな、悪い。少し騒ぎになってんだよ。俺もさっき見た気がするが、気のせいだな、ありゃ。」
安心を表情全体に浮かべ、バドは部屋を後にした。扉が閉じるのを見届けることなく、ダークリンクから力が抜けた。重力に抗わず、床に倒れ込む。それを認識した時には、既に黒い姿であった。持続時間の短い技と思慮する一方で、この場を凌げたのはダークリンクの手柄と判断した。
「お見事。」
ファイは素直に賞賛の言葉を紡ぐ。しかし、ダークリンクにはそれを喜ぶ余裕はなかったらしい。
「ハァ、ハァ……これ、滅茶滅茶魔力使うんだぞ……。もう1回とか、無理だからな……。」
力なく伏せた状態から立ち直ることなく、発言後、意識を飛ばしていた。ダークリンクが寝息を立て始めるのを見届けて、ファイは窓の外を見やった。
城が騒ぐ中、リンクは我々のために走り回っている。ダークリンクを見て思った。城から解放されれば幸せになれるはず、という推測は果たして正しいのか、と。リンクの不在を認知したダークリンクは、しかし、姿をくらませたかという問答は一切しなかった。それどころか、即刻リンクに利があるように動いた。それは明確に、リンクの帰りを前提としていた。
ファイの予測は、ナビィも賛同したように、きっと間違いではない。ただ一方で、リンク自身が望まない、そう痛感した。手放しで受け入れられない解決策では、結局リンクを苦しめる可能性が非常に高い。
ではどうすればいいのか。ファイは考える。リンクには心安らかに過ごしてほしい。その願いは絶対だ。その願いを実現するには、助力が不可欠と思慮する。助力とはすなわち、そこで力尽きるダークリンクのような行動。
“マスターのためにできること……。”
自分には、一体何ができるのだろうか。その解はまだ模索中である。しかし、リンクが修羅の道を歩むのであれば、それをしっかりサポートするべきだ。そんな気持ちが芽生えていた。一筋の光が見えたことで、ファイを蝕んでいたほの暗い気持ちは、幾分か和らいだのだった。
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