サイドストーリー
注:ニコに感情移入し過ぎると、グロ要素有りかもしれません。
―――――――――――――
ニコは仲間の海賊団一味共々、はるばる中央の城下町にやってきていた。今日はリンク討伐記念日、つまり祭りだ。せっかく城下町まで来たので、海賊団のリーダーテトラ、もといゼルダにも顔を見せた。話せたのは数分だったが、気分は急上昇。そこで、海賊団は、真っ昼間から酒盛りをしようと酒場を求めて歩いていた。しかし、流石に表通りで開いている酒場を見つけることはできず、裏路地にやってきた。
「……?」
ズコが何かを見て足を止める。
「なんだぁ?何があったんだ?」
セネカがズコに問いかける。ズコの眼に狂いはない。何かを見つけたことは明白だった。
「………何か、いる。」
ズコの目線を追うと、ゴミ溜めみたいな場所があった。ニコは疑問符を付けながら、他のみんなに倣ってそちらに近付いた。
「あぁ?なんだこれ?」
皆はズコの見つけた物に気付いたらしい。他の海賊達は物珍し気に眺めている。
「ふむふむ。これはスタルキッドという魔物だな。」
モッコが言うが、ニコはまだ見つけられていなかった。
「……放置だ、放置。」
みんなはもう興味をなくしたらしい。他の海賊たちは離れていく。
“ま、いっか。”
結局見つけられずに、諦めたニコも他の海賊を追おうとした。だが、視線をずらした時、ようやく魔物が目に入った。一見、人間の子供に見える。モッコが魔物と言うからには、魔物で間違いないのだろうが。ニコには馴染みのない存在だった。ニコはじっとそれを眺めた。
「ニコ!早くなさい!」
ニコの不在に気付いたらしいナッジの怒鳴り声が聞こえた。ビクリとしてニコはナッジを見た。チラリと魔物を見る。
“なんでだろ……放っておけない。”
ニコは意を決すると、
「先に行ってて!」
と叫んだ。怪訝そうな顔をする仲間を見送り、ニコは魔物に歩み寄った。魔物はゼェハァと荒い息をして、なんだか苦しそうだ。
「おーい、大丈夫か?」
ニコの呼び掛けにも反応がない。ちょんちょんと突いてみても身じろぎすらしない。ニコは、うーんと考え込んだ。
「………ちょっとだけなら、いいよな。」
一人、己を納得させると、ニコは魔物を物陰から引っ張り出した。
「ちっせーくせに、重いぞ!」
小振りなニコには大変な作業だった。これからのことを思うと、ニコはため息を吐かずにはいられなかった。
「宿まで遠いんだぞ………。」
ニコはよいしょと魔物を背負った。……背負ったといっても、魔物の足は地面についていたが。
「一体何を考えてんだ?」
ビクリとニコは魔物を取り落した。恐る恐る振り返る。すると、ゴンゾが怖い顔をして立っていた。
「あ、あの……いや、これは……。」
下っ端のニコは冷や汗を流す。勝手な行動もいい顔はされていないだろうが、やろうとしたこと――魔物を宿に連れ込もうとしたこと――は逆鱗に触れるだろう。だが、恐らくばれている。ニコは蛇に睨まれた蛙だった。ゴンゾはしばらくニコを睨みつけていたが、やがて、ため息を吐いた。おもむろに魔物に歩み寄り、ひょいと担ぎ上げる。
「え……あれ………?」
状況を理解できず、ニコは呆然とゴンゾを見上げていた。すでに歩き始めていたゴンゾが、チラリとこちらを見る。
「さっさとしろ。」
ゴンゾは、魔物を担いだまま、スタスタと歩みを進めて行った。ハッと我に返ったニコは、慌ててゴンゾを追いかけた。
“どこに行くんだろ……。”
一抹の不安を胸に抱えながら、ニコは小走りでゴンゾに続くのだった。
ゴンゾについて行くと、宿に辿り着いていた。ニコは宿に着いて驚いたが、すぐに納得した。
“なんだかんだ言って面倒見いいんだよなぁ……。”
ゴンゾは何も言わず、魔物をニコのベッドに横たえている。これ以上ゴンゾの手を煩わせるのは悪いので、なんとか説き伏せて酒盛りに戻ってもらった。面倒臭そうに酒場の場所を教えてくれた上で、ゴンゾは宿を出て行った。
“やっぱゴンゾって優しいよな。怒るから言わないけど。”
思わずニコはにやけてしまう。さて、とニコは魔物に向き直った。魔物はやはり苦しそうな息遣いをしている。ニコは魔物を覗き込んだ。表情が全く動かない。なんとなく、違和感があった。ニコは顔に手を伸ばす。だが、すぐに手を引っ込めた。
「……顔とか触ったら呪われるかも。」
ニコはじーと魔物を見つめた。浅い呼吸をしている。きっと心細いだろう。
「オイラだったら、安心したいもんな。」
うんうんと一人結論づけ、ニコはもう一度手を伸ばした。今度は頬に手が当たる。その時、ヒュッと魔物が息を飲んだ。それに驚いて、ニコは大きく動いてしまう。その拍子に、何かを弾いた。肩を強張らせて、ニコは弾いたものに顔を向ける。そこに落ちているものを見て、ゾッとした。魔物の顔が落ちている。とんでもないことを想像して、ニコは鳥肌が立つのを感じた。だが、確認しない訳にはいかない。
「お、オイラは、海賊、だぞ………。」
身の毛がよだつ思いをしながら、ギギギ、と魔物の方に顔を向けた。果たして、そこにはホラーな様相は存在していなかった。魔物にはちゃんと顔がある。だが、その顔を見て、ニコは腰を抜かした。
「え………えぇー!?」
魔物はリンクの顔をしていた。
「な、なんで……!?」
ニコはやっとの思いで立ち上がると、魔物……だと思っていたものに近付いた。
「………リンク、だよな?」
だがすぐ、ニコは思考を無理やり遮断した。
“なんでここにいるかなんて、どうでもいい。”
真相の追及が何を意味するのか、ニコは正確に理解していた。一度リンクから離れ、ニコは弾いてしまった魔物の顔を拾い上げた。それは、お面だった。
“今、オイラは、見つけた魔物を助けたいと思っている。大事なのは、それだけだ。”
それ以外のことを考えれば、リンクを助けることはできない。リンクの側にニコは戻ってきた。
「これは、見なかったことにしよう、うん。」
ニコはそーっとリンクにお面を被せた。不自然にならないように細心の注意を払う。
「これでよし、と……。」
突然、リンクから声が漏れた。ビクリとしてニコはリンクを見つめる。起きたわけではないようだ。だが、息が更に荒くなり、呻くような声をあげている。
“魘されてる……?”
ニコはそれに気付くと、リンクを揺らした。
「おーい、大丈夫か?おーい!おーい!!」
パチリとリンクが目を覚ました。寝ている時は表情に動きがなかったが、起きているとちゃんと連動するらしい。なかなかすごいお面を持っているんだなと思いながら、適当に起こした言い訳をする。しかし、リンクの様子がおかしい。城下町が襲撃されたとか訳の分からないことを言うし、反応がなくなるし。これは自分の手に負えないくらい不味い状況なのでは、と冷や冷やした。だが、一人で解決したらしく、落ち着いたようだった。こちらを見たリンクが己の名を呼んだ時には、
“おいー、オイラの名前呼んじゃダメだろー!!”
と一人心の中で悶えていたが、咄嗟に知らないフリで対応した。すると、リンクも何かを演じ始めた。武勇伝を聞いたことがある設定にしたらしいので、この後は回復するまで自分がひたすら武勇伝を話せばいいかと画策。会話だとボロが出る可能性が高いし。だが、リンクはさっさと宿を出て行ってしまった。回復していたようにはとても見えず、心配だ。しかし、だからと言ってそれ以上できることはない。ふと、ニコは大罪人を見逃したことに気付いた。やっぱり不味いかなぁとニコは苦笑する。
“助けたいと思っちゃったんだ。仕方ないよな。”
ニコはリンクが出て行った方に目を向けた。
“これでいいんだよな、リンク。”
ニコはニヤリと笑う。
“だってオイラはアイツの……あれ、アイツ、どっちのリンクだ?”
同一名の存在は転生していたことを知らないニコは、あれ、あれれ??としばらく頭を悩ませていたのだった。
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ニコは仲間の海賊団一味共々、はるばる中央の城下町にやってきていた。今日はリンク討伐記念日、つまり祭りだ。せっかく城下町まで来たので、海賊団のリーダーテトラ、もといゼルダにも顔を見せた。話せたのは数分だったが、気分は急上昇。そこで、海賊団は、真っ昼間から酒盛りをしようと酒場を求めて歩いていた。しかし、流石に表通りで開いている酒場を見つけることはできず、裏路地にやってきた。
「……?」
ズコが何かを見て足を止める。
「なんだぁ?何があったんだ?」
セネカがズコに問いかける。ズコの眼に狂いはない。何かを見つけたことは明白だった。
「………何か、いる。」
ズコの目線を追うと、ゴミ溜めみたいな場所があった。ニコは疑問符を付けながら、他のみんなに倣ってそちらに近付いた。
「あぁ?なんだこれ?」
皆はズコの見つけた物に気付いたらしい。他の海賊達は物珍し気に眺めている。
「ふむふむ。これはスタルキッドという魔物だな。」
モッコが言うが、ニコはまだ見つけられていなかった。
「……放置だ、放置。」
みんなはもう興味をなくしたらしい。他の海賊たちは離れていく。
“ま、いっか。”
結局見つけられずに、諦めたニコも他の海賊を追おうとした。だが、視線をずらした時、ようやく魔物が目に入った。一見、人間の子供に見える。モッコが魔物と言うからには、魔物で間違いないのだろうが。ニコには馴染みのない存在だった。ニコはじっとそれを眺めた。
「ニコ!早くなさい!」
ニコの不在に気付いたらしいナッジの怒鳴り声が聞こえた。ビクリとしてニコはナッジを見た。チラリと魔物を見る。
“なんでだろ……放っておけない。”
ニコは意を決すると、
「先に行ってて!」
と叫んだ。怪訝そうな顔をする仲間を見送り、ニコは魔物に歩み寄った。魔物はゼェハァと荒い息をして、なんだか苦しそうだ。
「おーい、大丈夫か?」
ニコの呼び掛けにも反応がない。ちょんちょんと突いてみても身じろぎすらしない。ニコは、うーんと考え込んだ。
「………ちょっとだけなら、いいよな。」
一人、己を納得させると、ニコは魔物を物陰から引っ張り出した。
「ちっせーくせに、重いぞ!」
小振りなニコには大変な作業だった。これからのことを思うと、ニコはため息を吐かずにはいられなかった。
「宿まで遠いんだぞ………。」
ニコはよいしょと魔物を背負った。……背負ったといっても、魔物の足は地面についていたが。
「一体何を考えてんだ?」
ビクリとニコは魔物を取り落した。恐る恐る振り返る。すると、ゴンゾが怖い顔をして立っていた。
「あ、あの……いや、これは……。」
下っ端のニコは冷や汗を流す。勝手な行動もいい顔はされていないだろうが、やろうとしたこと――魔物を宿に連れ込もうとしたこと――は逆鱗に触れるだろう。だが、恐らくばれている。ニコは蛇に睨まれた蛙だった。ゴンゾはしばらくニコを睨みつけていたが、やがて、ため息を吐いた。おもむろに魔物に歩み寄り、ひょいと担ぎ上げる。
「え……あれ………?」
状況を理解できず、ニコは呆然とゴンゾを見上げていた。すでに歩き始めていたゴンゾが、チラリとこちらを見る。
「さっさとしろ。」
ゴンゾは、魔物を担いだまま、スタスタと歩みを進めて行った。ハッと我に返ったニコは、慌ててゴンゾを追いかけた。
“どこに行くんだろ……。”
一抹の不安を胸に抱えながら、ニコは小走りでゴンゾに続くのだった。
ゴンゾについて行くと、宿に辿り着いていた。ニコは宿に着いて驚いたが、すぐに納得した。
“なんだかんだ言って面倒見いいんだよなぁ……。”
ゴンゾは何も言わず、魔物をニコのベッドに横たえている。これ以上ゴンゾの手を煩わせるのは悪いので、なんとか説き伏せて酒盛りに戻ってもらった。面倒臭そうに酒場の場所を教えてくれた上で、ゴンゾは宿を出て行った。
“やっぱゴンゾって優しいよな。怒るから言わないけど。”
思わずニコはにやけてしまう。さて、とニコは魔物に向き直った。魔物はやはり苦しそうな息遣いをしている。ニコは魔物を覗き込んだ。表情が全く動かない。なんとなく、違和感があった。ニコは顔に手を伸ばす。だが、すぐに手を引っ込めた。
「……顔とか触ったら呪われるかも。」
ニコはじーと魔物を見つめた。浅い呼吸をしている。きっと心細いだろう。
「オイラだったら、安心したいもんな。」
うんうんと一人結論づけ、ニコはもう一度手を伸ばした。今度は頬に手が当たる。その時、ヒュッと魔物が息を飲んだ。それに驚いて、ニコは大きく動いてしまう。その拍子に、何かを弾いた。肩を強張らせて、ニコは弾いたものに顔を向ける。そこに落ちているものを見て、ゾッとした。魔物の顔が落ちている。とんでもないことを想像して、ニコは鳥肌が立つのを感じた。だが、確認しない訳にはいかない。
「お、オイラは、海賊、だぞ………。」
身の毛がよだつ思いをしながら、ギギギ、と魔物の方に顔を向けた。果たして、そこにはホラーな様相は存在していなかった。魔物にはちゃんと顔がある。だが、その顔を見て、ニコは腰を抜かした。
「え………えぇー!?」
魔物はリンクの顔をしていた。
「な、なんで……!?」
ニコはやっとの思いで立ち上がると、魔物……だと思っていたものに近付いた。
「………リンク、だよな?」
だがすぐ、ニコは思考を無理やり遮断した。
“なんでここにいるかなんて、どうでもいい。”
真相の追及が何を意味するのか、ニコは正確に理解していた。一度リンクから離れ、ニコは弾いてしまった魔物の顔を拾い上げた。それは、お面だった。
“今、オイラは、見つけた魔物を助けたいと思っている。大事なのは、それだけだ。”
それ以外のことを考えれば、リンクを助けることはできない。リンクの側にニコは戻ってきた。
「これは、見なかったことにしよう、うん。」
ニコはそーっとリンクにお面を被せた。不自然にならないように細心の注意を払う。
「これでよし、と……。」
突然、リンクから声が漏れた。ビクリとしてニコはリンクを見つめる。起きたわけではないようだ。だが、息が更に荒くなり、呻くような声をあげている。
“魘されてる……?”
ニコはそれに気付くと、リンクを揺らした。
「おーい、大丈夫か?おーい!おーい!!」
パチリとリンクが目を覚ました。寝ている時は表情に動きがなかったが、起きているとちゃんと連動するらしい。なかなかすごいお面を持っているんだなと思いながら、適当に起こした言い訳をする。しかし、リンクの様子がおかしい。城下町が襲撃されたとか訳の分からないことを言うし、反応がなくなるし。これは自分の手に負えないくらい不味い状況なのでは、と冷や冷やした。だが、一人で解決したらしく、落ち着いたようだった。こちらを見たリンクが己の名を呼んだ時には、
“おいー、オイラの名前呼んじゃダメだろー!!”
と一人心の中で悶えていたが、咄嗟に知らないフリで対応した。すると、リンクも何かを演じ始めた。武勇伝を聞いたことがある設定にしたらしいので、この後は回復するまで自分がひたすら武勇伝を話せばいいかと画策。会話だとボロが出る可能性が高いし。だが、リンクはさっさと宿を出て行ってしまった。回復していたようにはとても見えず、心配だ。しかし、だからと言ってそれ以上できることはない。ふと、ニコは大罪人を見逃したことに気付いた。やっぱり不味いかなぁとニコは苦笑する。
“助けたいと思っちゃったんだ。仕方ないよな。”
ニコはリンクが出て行った方に目を向けた。
“これでいいんだよな、リンク。”
ニコはニヤリと笑う。
“だってオイラはアイツの……あれ、アイツ、どっちのリンクだ?”
同一名の存在は転生していたことを知らないニコは、あれ、あれれ??としばらく頭を悩ませていたのだった。
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