ダークリンクの苦労日記

リンクを救出した日の夜、ダークリンクが木陰で眠りについていると、衝撃がきた。驚いて目を覚ますと、目の前に黒い人型のやつがいた。そいつは般若のような顔をしている。ダークリンクは、そいつによって後ろの木に押さえつけられていた。冷や汗を流しながら、口を開く。

「な、なんだよ……。つぅか、お前誰?」

「俺が誰かも分からないか、低能め。」

“わかんねぇよ!マジで誰だよお前!!”

ダークリンクは思ったが、目の前のやつから溢れる殺気が凄まじい。口をつぐむしかなかった。そいつは目を細めた。

「質問に答えろ。今日、どこで何をしていた。」

「きょ、今日……?」

“ギラヒムより先に変な尋問がきた……。”

ダークリンクはしどろもどろになる。

「答えられないか?今すぐ八つ裂きにしてやろうか。」

「ま、待てよ!答えるから!いきなりそんな質問されてびっくりしただけだから!!」

慌ててダークリンクは主張した。イライラしながらも、そいつはダークリンクの言葉を待つことにしたようだ。こちらを睨みつけるようにしながら、ダークリンクを促す。

「つぅても……具体的に言えることがねぇ。適当にあちこちぶらついてた覚えしか、」

「誤魔化しはいい。小僧の居場所を吐け。」

「は?いや、誤魔化してねぇけど……。ってか、小僧って誰だよ……。」

“お人好し以外の件でも疑われんの!?俺!?”

黒い奴はかなり怒っているらしい。腕を振り上げた。ダークリンクは思わず目を瞑る。目を瞑った瞬間、凄まじい音がすぐ隣からした。恐る恐る目を開けると、そいつの腕がダークリンクの頭の真横にあった。後ろの木に何かがに食い込んでいるらしく、ミシミシと嫌な音がしている。。

“なんだよそのスピード……!もし今の一撃が当たっていたら……!!”

こいつは只者じゃない。ダークリンクの思考が警報を鳴らす。体が震え出したのが分かった。怯えた目をそいつに向ける。黒い奴はしばらくダークリンクを睨んでいた。ダークリンクは金縛りにあったかのように動けない。やがて、そいつは舌打ちをすると、伸ばしていた腕を元に戻し、体制を直した。その手に何かが握られていたようだが、すぐに視界から消える。そして、そいつはパチンと指を鳴らした。ビクリと肩を震わせ、ダークリンクは反射的に目を瞑った。目を開けると、そいつはいなくなっていた。ダークリンクは脱力して木に寄りかかった。

「な、何なんだよ、今の……。」

ダークリンクはしばらく落ち着けなかった。



それから数日が経過した。変なやつからの尋問は受けたが、ギラヒムやその他幹部からの尋問はまだ来ない。まさかまだリンクがいなくなったことに気づいていないのかとさえ思うほどである。変だなと思っていると、パチンと音が鳴った。例のごとく肩を震わせ、目を瞑る。この音は聞き覚えがある。またあの黒いやつか、と怯えながら、ダークリンクは目を開けた。だが、目の前にいたのは黒いやつではなく、正反対の白いやつだった。ただし、全く喜べる状況ではない。白いやつとは、ギラヒムである。

“とうとう来たか……。”

ダークリンクは気を引き締めてギラヒムを見た。ギラヒムはつかつかとダークリンクに歩み寄ってきた。人差し指をダークリンクの顎に当てる。

「もう一度だけ聞くよ、ダークリンク君。」

「へ?あ、はい。」

“……俺、このお方と直接話したことあったか?”

ダークリンクの疑問を余所に、ギラヒムは問を発する。

「リンク君がどこにいるか、本当に知らないね?」

「……俺のオリジナルのことですよね?最後に見たのは、俺が殺されかけた時ですが……あの時に殺さなかったのですか?」

ギラヒムは目を細めた。顔を強張らせながら、ダークリンクは既視感を覚えた。何故かと考える。だが、大して考えないうちに、ギラヒムは舌打ちをし、ダークリンクから手を離した。

「キミ、本当に低能だね?情報収集くらいしたらどうだい?」

「……申し訳ありません。」

ダークリンクは、状況についていっていなかったが、とりあえず謝った。

「リンク君は、ワタシが貰っていたんだ。いい玩具だったのに、あの小僧、ワタシから逃げやがった。」

いつぞや感じた殺気をギラヒムから感じ取った。だが、それについて考えている余裕はない。下手をすれば、自分はいい獲物だ。慎重に対応しなければならない。

「徹底的にいたぶってあげたのに、あれでは足りなかったのか?まだ耐えられたということだよねぇ……。全く。ワタシとしたことが。みすみす逃げられるなんて、腑甲斐無いことこの上ない!魔王様にどう顔向けしたらいいのか……折角頂いた褒美を……。」

ギラヒムは地団太を踏んだ。それを聞きながら、ダークリンクは顔を強張らせた。発言を求められても、何も言いたくない。ギラヒムはまだ、ぐだぐだと言っている。ふとギラヒムはダークリンクを見た。

「玩具なら、キミでもいいけど。」

「え、遠慮しますっ!!」

ダークリンクは思わず叫び、後ずさった。寒気がする。すると、ギラヒムは怪しい笑みを浮かべた。

「キミの拷問、ワタシが担当したかったよ。ワタシがいるときに発覚したらよかったのに。きっとキミも、いい声で鳴いたよね?」

ダークリンクは鳥肌が立つのを感じた。

「とはいえ……確か冤罪だったか。キミもあの小僧にいいように使われたね?」

ダークリンクは、顔を強張らせたまま反応が出来なかった。ギラヒムはダークリンクの頬に手を当てた。

「フフッ、いいねぇその顔。やはりコピーなだけあって、リンク君と一緒だ。」

ゾゾッと嫌なものが背中を這ったような感じがした。ダークリンクはガタッと身を震わせ、更に一歩後ずさった。

「おやおや……随分と怖がっちゃって。この間は口も悪くワタシに言い返していたのに。」

「な、何のことですか……。」

余計なことで目をつけられたくない。ましてや、身に覚えがないことなど、否定しておかなければならない。だから、身を振り絞って声をあげた。すると、ギラヒムは心底呆れたような顔をした。

「キミ、低能を通り越して無能だね。この間、真の姿でキミのところに行ったけれど、結局ワタシだと分からなかったのかい。」

「え……、え、もしかして……。」

ダークリンクから血の気が失せた。別の尋問を受けたのだと思っていたが、あの時の黒い奴はギラヒムだったのだ。

“不味い。あの時俺、かなり無礼だった……。”

ダークリンクの怯えに反し、ギラヒムは満足そうに笑うと、パチンと指を鳴らした。落ち着いてから確認すると、やはりギラヒムはいなくなっていた。

“や、やべぇ……。生きた心地がしねぇ……。”

ダークリンクはへなへなとその場に崩れ落ちた。



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