ダークリンクの苦労日記
スタルキッドの助言通り、ダークリンクはキングブルブリンを訪ねた。すると、すぐさま戦闘になった。その急展開に、ダークリンクは度肝を抜かれた。だが、元来魔物というものは喧嘩っ早いものだ。ダークリンクとて例外ではない。だから、ダークリンクは文句なしに、それを受けてたった。リンク以外と闘うのは初めてで、ダークリンクには新鮮だった。
“なんか楽しい。”
クックッと笑いながらダークリンクは応戦した。すると突然、キングブルブリンは動きを止めた。
「なにガおもしろい?」
ダークリンクもキングブルブリンに合わせて戦闘を中断する。しかし、すぐに動けるように足を動かしていた。
「楽しくねぇ?」
「……たのしい?」
「あぁ。俺、オリジナル以外と闘ったことなくてさ。あいつ強すぎるから、こてんぱんにやられたことしかねぇんだよ。お前との戦闘で、初めてまともに動けてんだ。三度目の正直ってやつ?」
相変わらずダークリンクは気持ちの高鳴りを抑えられず、クスクスと笑う。そして、剣の切っ先をキングブルブリンに向けた。
「なぁ、早く続きやろうぜ?」
キングブルブリンはしばらくじっとダークリンクを見つめていた。やがて、ゆっくり動き、何故か武器を納める。
「おい、どういうつもりだ。」
ダークリンクは機嫌の悪さを隠しもせず、低い声で聞いた。
「つづけルいみ、ナイ。おまえハつよい。よく、わかっタ。」
「はぁ?」
「おりじなるトハ、りんくダナ?あいつハつよい。しっテる。おまえ、りんくいがい、しらナイ。しかも、おまえハ、これガ3かいめノたたかい。おれニかちめ、ナイ。」
なんだかつまらないと思うが、キングブルブリンに戦意がないのであれば仕方ない。ダークリンクも剣をしまった。ダークリンクはキングブルブリンに歩み寄り、キングブルブリンを見上げた。
「お前に頼みがある。」
キングブルブリンは頷いた。
「わかっテる。ないようハいうナ。」
ダークリンクは眉をひそめた。すると、キングブルブリンは面倒臭そうに言った。
「また、つかまル。」
ダークリンクは思わず身震いした。慌てて辺りを確認する。いくら覚悟したとは言え、避けられるものは避けたい。周辺に怪しい者がいないことを確認し、人知れず安心する。キングブルブリンに目を戻すと、呆れたようにダークリンクを見ていた。やがて、キングブルブリンは肩をすくめた。
「すたるきっどニきいタ。」
「は?スタルキッド?」
ダークリンクはパチクリと目を瞬かせた。キングブルブリンは一つ頷く。
「すたるきっど、みかけニよらナイ。つよい。」
“ま、マジかよ……。”
まさかの情報に、ダークリンクは驚きすぎて声が出なかった。
「だけど、これダケききタイ。」
キングブルブリンは辺りをぐるっと確認した。ダークリンクに目線を戻すと、鋭い眼差しでダークリンクを見据えた。ダークリンクは思わず背筋を伸ばす。
「きょうせい、おまえ、ほんきカ?」
ダークリンクは気を引き締めた。ダークリンクは今、キングブルブリンに試されていた。答えを間違えてはいけない。とはいえ、ダークリンクに何か秘策があるわけではなかった。そのため、いつぞやのリンクのように、自分の思いをそのまま話すことにした。
「それがあいつの願いだ。俺は、あいつを助けたい。」
「おまえたちノきもちだけデ、できルはなしデハ、ナイ。」
「あぁ。お前の言う通りだ。だけどな。対立だけが全てじゃねぇんだよ。協力出来るなら、すべきだ。」
キングブルブリンはしばらく何も言わなかった。表情が変わらないので、何を考えているのか分からない。やがて、キングブルブリンは口を開いた。
「いいダロウ。きょうりょく、しテやる。」
キングブルブリンが何を考えたのかは正直なところ分からない。だが、そんなことはどうでもよかった。ダークリンクは頭を下げた。
「頼む。」
そしてすぐに、ダークリンクは顔を上げ、ニヤリと笑った。
「ありがとな。」
すると、キングブルブリンは変な顔をした。
「おれハ、つよいおまえニしたがうダケ。かんしゃヲいわれル、ちがう。」
「俺達の感覚ではそうだけどな。あいつなら、絶対言うから。だから、代わりに言っとこうと思った。」
キングブルブリンは納得できないらしく、更に変な顔をしている。それにダークリンクは噴き出した。
「理解しなくていい。だが、慣れろ。」
ダークリンクが言うと、キングブルブリンは考えることを諦めたようだ。無表情に戻る。
「すたるきっどニ、どこマデ聞いタ?」
「は?」
何の話だと思いながら、ダークリンクはキングブルブリンを見た。すると、やれやれといったようにキングブルブリンは肩をすくめた。
「あした、ぎらひむハ、とおくニいく。だから、そのときニいけバいい。」
「……お、おぉ。情報感謝するよ。それ、お前が調べたのか?」
思わぬ朗報に、ダークリンクはしどろもどろになりながら答えた。そして、ふと気になったことを聞いた。
「ちがう。すたるきっど。」
「マジかよ……。」
“お前、何者だよ……。”
キングブルブリンから当たり前のように否定が返ってきて、ダークリンクはそれしか言えなかった。ダークリンクはスタルキッドを怖いと思った。
「りんく、ちかろうニいる。あさ、おれノなかまガみはりダ。めしノとき、そいついがい、いなくなる。そのときニこい。」
“そこまでしっかり計画が練られてんのかよ……!!”
ダークリンクは無力な己を恥ずかしく感じた。ふと、キングブルブリンの言葉に違和感を覚える。
「……?今、来いって言ったか?」
「いっタ。おれデハりんく、おどろく。だから、おまえ、ひつよう。」
「ま、待て待て。言ってる意味が分かんねぇ。それじゃまるで、俺以外にも誰か行くみたいじゃねぇか。」
「あたりまえダ。おまえ、ぬけだすつもりカ?」
「抜け出すしかねぇだろ。あいつをこの地に置きっぱなしにするのは不味い。」
キングブルブリンはしばらく何も言わなかった。ジーと、ただひたすら見つめられて、ダークリンクはたじろぐ。
「なにモしらナイ、みたいダナ。さくせんヲさいしょカラせつめいする。」
呆れたようにキングブルブリンは説明し始めた。ダークリンクは頭をかきながら、その説明を聞いた。
次の日の朝、ダークリンクは地下牢に続く入口の手前にいた。念には念を入れて、誰にも気付かれないよう影を通ってきた。陰から入口の方を見ると、キングブルブリンは既にそこにいる。キングブルブリンはブルブリンと話しているようだ。だが、そのブルブリンがキングブルブリンの言っていた仲間かどうか判断がつかず、ダークリンクは出て行っていいものかと迷った。そうこうするうちに朝食の時間を知らせる鐘が鳴り響いた。近場のボコブリンやリザルフォルが移動していく。ダークリンクは今しかないと思い、キングブルブリンの方へ歩いていった。
「よぉ。」
キングブルブリンはダークリンクの方を見た。
「おそかっタナ。」
それだけ言うと、キングブルブリンはブルブリンの方を見た。
「たのんダゾ。」
ブルブリンは無言で敬礼した。キングブルブリンは地下牢へ入って行く。ダークリンクも続いた。
「……なぁ。こんなこと、聞きたくねぇんだけど、」
「うらぎり、ない。あんしんしロ。」
ダークリンクの言葉を遮ってキングブルブリンは言った。ダークリンクは頭をかく。
「悪い。」
「しんぱいニなる、とうぜんダ。」
それからは静かに進んだ。そして、頑丈な扉の前まで来る。そこにはボコブリンがいた。
「お、おい……!」
「あいつモ、なかま。」
キングブルブリンはそれだけを言うと、そのボコブリンの方へ行った。
「わるいナ。」
「(寝るだけなら大丈夫!下手に起きていてギラヒム様に何かされるよりマシ!!)」
ボコブリンはそう言ったかと思うと、手に持っていた瓶の中身を飲み干した。すぐにバタリと倒れる。
「え、おい、これ、」
「すいみんやく。」
あたふたするダークリンクにキングブルブリンは静かに言った。
「すたるきっどガもっテきタ。」
“あいつマジでこえぇ……。”
「いくゾ。」
キングブルブリンは扉を開けた。ダークリンクも気を引き締めて中に入る。中に入ると、血の臭いが充満していた。魔物の自分でも、気分が悪くなりそうな臭いだ。部屋の中は、どこを見ても何らかの拷問器具が散乱していた。
“こんなところ、魔物でもごめんだ。”
ダークリンクは顔を引き攣らせた。
「だーくりんく。」
キングブルブリンの呼ぶ声がする。キングブルブリンを見ると、キングブルブリンは奥の方を示した。ダークリンクはそちらに向かう。そこにリンクはいた。天井から伸びる鎖で立った状態を保たされている。体重を支えるものもなく、ぐったりとしていて苦しそうだ。さらに、体には何かが繋がれていた。
「無様だな。」
言葉を失いそうになるが、なんとか言葉を口にする。思いついた言葉はかなり冷たいもので、他になかったのかと自責の念にとらわれた。その時、リンクがピクリと動いた。反応が返ってきたことに驚愕しながらも、ダークリンクは更に声をかける。
「俺の声、聞こえてるか?」
だが、それ以上、リンクに動く様子がなかった。
「……あー、もう。世話の焼ける。」
憎まれ口しか出てこないが、ダークリンクはいたたまれない気持ちでいっぱいだった。ダークリンクはリンクに歩み寄る。
「これ、何だ?」
ダークリンクはリンクに繋がれたものを見た。早くリンクを下ろしてやりたいが、これを外さないと難しい。しかし、それは外してしまっていいものなのか、ダークリンクには判断できなかった。
「でんき。」
キングブルブリンは短く答えた。いつの間にか、機械の前に立っている。
「たぶん、はずしテいい。」
ダークリンクは怪訝な顔をしてキングブルブリンを見た。
「本当か?それ、壊してしまった方がよくないか?」
キングブルブリンは首を振った。
「きょうりょくしゃノこんせきガのこる。」
作戦では、リンクが自力で逃げたように見せなければならなかった。そのためには、余計な痕跡を残してはならない。ダークリンクは不安に思いながらも、リンクからそれを外した。すると、苦しそうだったリンクの表情が少し和らいだ。
“これが辛かったのか……。”
ダークリンクは自然と手を伸ばし、リンクの頭を撫でていた。そうでもしないとどうにかなってしまいそうだった。キングブルブリンが近づいてくる。ダークリンクの様子を不思議そうに眺めていた。だが、眺めていたのは一瞬で、リンクを繋ぐ鎖を叩き切った。ダークリンクは倒れて来るリンクを支える。
「もう、大丈夫だからな……。」
泣きそうになりながら、ダークリンクはリンクに囁いた。ふと、リンクを繋いでいた鎖が目に入る。
「き、キングブルブリン……!それ切ったら、自力になんか見えねぇじゃねぇか!」
すると、キングブルブリンは煩わしそうな顔をした。
「さけぶナ。」
そして、鎖の方へ歩み寄っていく。
「せつめいしナカッタカ。くさり、つける。」
「わ、悪い……。」
気が動転して、ダークリンクは作戦がところどころ抜けていた。キングブルブリンはため息をつきながら、手際よく天井から延びる鎖の先に、リンクにつけられた部分と同形状のものを取り付けた。そして、ダークリンクとリンクのところへ戻ってくる。ダークリンクは黙ってリンクをキングブルブリンに預けた。
「……ぼろぼろダナ。」
リンクを受け取ったキングブルブリンはそれだけ言うと、持っていた麻の袋にリンクを入れた。そして担ぎ上げる。二人は地下牢を出た。外に出ると、見張り役だったはずのブルブリンは姿を消していた。ダークリンクが首を傾げていると、キングブルブリンが言った。
「おれガしじ、しタ。みナイほうガ、いい。」
そして、ダークリンクを見下ろした。
「ここデわかれル。」
ダークリンクは頷いた。それも作戦の内だった。ダークリンクは拷問を受けるほどやらかしている。そのため、疑われやすい。リンクが自力で逃げた線が濃厚になるまで、この地で待機することになっていた。キングブルブリンは去っていく。ダークリンクはそれに背を向け、適当な場所へ向かった。出来るだけ多くの魔物に見られるようにして歩く。
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“なんか楽しい。”
クックッと笑いながらダークリンクは応戦した。すると突然、キングブルブリンは動きを止めた。
「なにガおもしろい?」
ダークリンクもキングブルブリンに合わせて戦闘を中断する。しかし、すぐに動けるように足を動かしていた。
「楽しくねぇ?」
「……たのしい?」
「あぁ。俺、オリジナル以外と闘ったことなくてさ。あいつ強すぎるから、こてんぱんにやられたことしかねぇんだよ。お前との戦闘で、初めてまともに動けてんだ。三度目の正直ってやつ?」
相変わらずダークリンクは気持ちの高鳴りを抑えられず、クスクスと笑う。そして、剣の切っ先をキングブルブリンに向けた。
「なぁ、早く続きやろうぜ?」
キングブルブリンはしばらくじっとダークリンクを見つめていた。やがて、ゆっくり動き、何故か武器を納める。
「おい、どういうつもりだ。」
ダークリンクは機嫌の悪さを隠しもせず、低い声で聞いた。
「つづけルいみ、ナイ。おまえハつよい。よく、わかっタ。」
「はぁ?」
「おりじなるトハ、りんくダナ?あいつハつよい。しっテる。おまえ、りんくいがい、しらナイ。しかも、おまえハ、これガ3かいめノたたかい。おれニかちめ、ナイ。」
なんだかつまらないと思うが、キングブルブリンに戦意がないのであれば仕方ない。ダークリンクも剣をしまった。ダークリンクはキングブルブリンに歩み寄り、キングブルブリンを見上げた。
「お前に頼みがある。」
キングブルブリンは頷いた。
「わかっテる。ないようハいうナ。」
ダークリンクは眉をひそめた。すると、キングブルブリンは面倒臭そうに言った。
「また、つかまル。」
ダークリンクは思わず身震いした。慌てて辺りを確認する。いくら覚悟したとは言え、避けられるものは避けたい。周辺に怪しい者がいないことを確認し、人知れず安心する。キングブルブリンに目を戻すと、呆れたようにダークリンクを見ていた。やがて、キングブルブリンは肩をすくめた。
「すたるきっどニきいタ。」
「は?スタルキッド?」
ダークリンクはパチクリと目を瞬かせた。キングブルブリンは一つ頷く。
「すたるきっど、みかけニよらナイ。つよい。」
“ま、マジかよ……。”
まさかの情報に、ダークリンクは驚きすぎて声が出なかった。
「だけど、これダケききタイ。」
キングブルブリンは辺りをぐるっと確認した。ダークリンクに目線を戻すと、鋭い眼差しでダークリンクを見据えた。ダークリンクは思わず背筋を伸ばす。
「きょうせい、おまえ、ほんきカ?」
ダークリンクは気を引き締めた。ダークリンクは今、キングブルブリンに試されていた。答えを間違えてはいけない。とはいえ、ダークリンクに何か秘策があるわけではなかった。そのため、いつぞやのリンクのように、自分の思いをそのまま話すことにした。
「それがあいつの願いだ。俺は、あいつを助けたい。」
「おまえたちノきもちだけデ、できルはなしデハ、ナイ。」
「あぁ。お前の言う通りだ。だけどな。対立だけが全てじゃねぇんだよ。協力出来るなら、すべきだ。」
キングブルブリンはしばらく何も言わなかった。表情が変わらないので、何を考えているのか分からない。やがて、キングブルブリンは口を開いた。
「いいダロウ。きょうりょく、しテやる。」
キングブルブリンが何を考えたのかは正直なところ分からない。だが、そんなことはどうでもよかった。ダークリンクは頭を下げた。
「頼む。」
そしてすぐに、ダークリンクは顔を上げ、ニヤリと笑った。
「ありがとな。」
すると、キングブルブリンは変な顔をした。
「おれハ、つよいおまえニしたがうダケ。かんしゃヲいわれル、ちがう。」
「俺達の感覚ではそうだけどな。あいつなら、絶対言うから。だから、代わりに言っとこうと思った。」
キングブルブリンは納得できないらしく、更に変な顔をしている。それにダークリンクは噴き出した。
「理解しなくていい。だが、慣れろ。」
ダークリンクが言うと、キングブルブリンは考えることを諦めたようだ。無表情に戻る。
「すたるきっどニ、どこマデ聞いタ?」
「は?」
何の話だと思いながら、ダークリンクはキングブルブリンを見た。すると、やれやれといったようにキングブルブリンは肩をすくめた。
「あした、ぎらひむハ、とおくニいく。だから、そのときニいけバいい。」
「……お、おぉ。情報感謝するよ。それ、お前が調べたのか?」
思わぬ朗報に、ダークリンクはしどろもどろになりながら答えた。そして、ふと気になったことを聞いた。
「ちがう。すたるきっど。」
「マジかよ……。」
“お前、何者だよ……。”
キングブルブリンから当たり前のように否定が返ってきて、ダークリンクはそれしか言えなかった。ダークリンクはスタルキッドを怖いと思った。
「りんく、ちかろうニいる。あさ、おれノなかまガみはりダ。めしノとき、そいついがい、いなくなる。そのときニこい。」
“そこまでしっかり計画が練られてんのかよ……!!”
ダークリンクは無力な己を恥ずかしく感じた。ふと、キングブルブリンの言葉に違和感を覚える。
「……?今、来いって言ったか?」
「いっタ。おれデハりんく、おどろく。だから、おまえ、ひつよう。」
「ま、待て待て。言ってる意味が分かんねぇ。それじゃまるで、俺以外にも誰か行くみたいじゃねぇか。」
「あたりまえダ。おまえ、ぬけだすつもりカ?」
「抜け出すしかねぇだろ。あいつをこの地に置きっぱなしにするのは不味い。」
キングブルブリンはしばらく何も言わなかった。ジーと、ただひたすら見つめられて、ダークリンクはたじろぐ。
「なにモしらナイ、みたいダナ。さくせんヲさいしょカラせつめいする。」
呆れたようにキングブルブリンは説明し始めた。ダークリンクは頭をかきながら、その説明を聞いた。
次の日の朝、ダークリンクは地下牢に続く入口の手前にいた。念には念を入れて、誰にも気付かれないよう影を通ってきた。陰から入口の方を見ると、キングブルブリンは既にそこにいる。キングブルブリンはブルブリンと話しているようだ。だが、そのブルブリンがキングブルブリンの言っていた仲間かどうか判断がつかず、ダークリンクは出て行っていいものかと迷った。そうこうするうちに朝食の時間を知らせる鐘が鳴り響いた。近場のボコブリンやリザルフォルが移動していく。ダークリンクは今しかないと思い、キングブルブリンの方へ歩いていった。
「よぉ。」
キングブルブリンはダークリンクの方を見た。
「おそかっタナ。」
それだけ言うと、キングブルブリンはブルブリンの方を見た。
「たのんダゾ。」
ブルブリンは無言で敬礼した。キングブルブリンは地下牢へ入って行く。ダークリンクも続いた。
「……なぁ。こんなこと、聞きたくねぇんだけど、」
「うらぎり、ない。あんしんしロ。」
ダークリンクの言葉を遮ってキングブルブリンは言った。ダークリンクは頭をかく。
「悪い。」
「しんぱいニなる、とうぜんダ。」
それからは静かに進んだ。そして、頑丈な扉の前まで来る。そこにはボコブリンがいた。
「お、おい……!」
「あいつモ、なかま。」
キングブルブリンはそれだけを言うと、そのボコブリンの方へ行った。
「わるいナ。」
「(寝るだけなら大丈夫!下手に起きていてギラヒム様に何かされるよりマシ!!)」
ボコブリンはそう言ったかと思うと、手に持っていた瓶の中身を飲み干した。すぐにバタリと倒れる。
「え、おい、これ、」
「すいみんやく。」
あたふたするダークリンクにキングブルブリンは静かに言った。
「すたるきっどガもっテきタ。」
“あいつマジでこえぇ……。”
「いくゾ。」
キングブルブリンは扉を開けた。ダークリンクも気を引き締めて中に入る。中に入ると、血の臭いが充満していた。魔物の自分でも、気分が悪くなりそうな臭いだ。部屋の中は、どこを見ても何らかの拷問器具が散乱していた。
“こんなところ、魔物でもごめんだ。”
ダークリンクは顔を引き攣らせた。
「だーくりんく。」
キングブルブリンの呼ぶ声がする。キングブルブリンを見ると、キングブルブリンは奥の方を示した。ダークリンクはそちらに向かう。そこにリンクはいた。天井から伸びる鎖で立った状態を保たされている。体重を支えるものもなく、ぐったりとしていて苦しそうだ。さらに、体には何かが繋がれていた。
「無様だな。」
言葉を失いそうになるが、なんとか言葉を口にする。思いついた言葉はかなり冷たいもので、他になかったのかと自責の念にとらわれた。その時、リンクがピクリと動いた。反応が返ってきたことに驚愕しながらも、ダークリンクは更に声をかける。
「俺の声、聞こえてるか?」
だが、それ以上、リンクに動く様子がなかった。
「……あー、もう。世話の焼ける。」
憎まれ口しか出てこないが、ダークリンクはいたたまれない気持ちでいっぱいだった。ダークリンクはリンクに歩み寄る。
「これ、何だ?」
ダークリンクはリンクに繋がれたものを見た。早くリンクを下ろしてやりたいが、これを外さないと難しい。しかし、それは外してしまっていいものなのか、ダークリンクには判断できなかった。
「でんき。」
キングブルブリンは短く答えた。いつの間にか、機械の前に立っている。
「たぶん、はずしテいい。」
ダークリンクは怪訝な顔をしてキングブルブリンを見た。
「本当か?それ、壊してしまった方がよくないか?」
キングブルブリンは首を振った。
「きょうりょくしゃノこんせきガのこる。」
作戦では、リンクが自力で逃げたように見せなければならなかった。そのためには、余計な痕跡を残してはならない。ダークリンクは不安に思いながらも、リンクからそれを外した。すると、苦しそうだったリンクの表情が少し和らいだ。
“これが辛かったのか……。”
ダークリンクは自然と手を伸ばし、リンクの頭を撫でていた。そうでもしないとどうにかなってしまいそうだった。キングブルブリンが近づいてくる。ダークリンクの様子を不思議そうに眺めていた。だが、眺めていたのは一瞬で、リンクを繋ぐ鎖を叩き切った。ダークリンクは倒れて来るリンクを支える。
「もう、大丈夫だからな……。」
泣きそうになりながら、ダークリンクはリンクに囁いた。ふと、リンクを繋いでいた鎖が目に入る。
「き、キングブルブリン……!それ切ったら、自力になんか見えねぇじゃねぇか!」
すると、キングブルブリンは煩わしそうな顔をした。
「さけぶナ。」
そして、鎖の方へ歩み寄っていく。
「せつめいしナカッタカ。くさり、つける。」
「わ、悪い……。」
気が動転して、ダークリンクは作戦がところどころ抜けていた。キングブルブリンはため息をつきながら、手際よく天井から延びる鎖の先に、リンクにつけられた部分と同形状のものを取り付けた。そして、ダークリンクとリンクのところへ戻ってくる。ダークリンクは黙ってリンクをキングブルブリンに預けた。
「……ぼろぼろダナ。」
リンクを受け取ったキングブルブリンはそれだけ言うと、持っていた麻の袋にリンクを入れた。そして担ぎ上げる。二人は地下牢を出た。外に出ると、見張り役だったはずのブルブリンは姿を消していた。ダークリンクが首を傾げていると、キングブルブリンが言った。
「おれガしじ、しタ。みナイほうガ、いい。」
そして、ダークリンクを見下ろした。
「ここデわかれル。」
ダークリンクは頷いた。それも作戦の内だった。ダークリンクは拷問を受けるほどやらかしている。そのため、疑われやすい。リンクが自力で逃げた線が濃厚になるまで、この地で待機することになっていた。キングブルブリンは去っていく。ダークリンクはそれに背を向け、適当な場所へ向かった。出来るだけ多くの魔物に見られるようにして歩く。
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