ダークリンクの苦労日記
勝利宣言が出されて、お祭り騒ぎの場。ダークリンクはふと、リンクがいないことに気づいた。キョロキョロ辺りを見渡してみるが、影も形もない。なんだか胸騒ぎがする。嫌な予感を拭い切れず、ダークリンクはリンクを探すことにした。
しばらく探したが見つからない。近場にはいないようだったので、捜索範囲をどんどん広げていたが、最終戦直後に一体何をしているのか。あまりに見つからないので焦り始めた時、リンクとこの世界で初めて会った場所が近いことに気付いた。なんだか懐かしい。ダークリンクは探すのをそっちのけでそちらに足を向けた。すると、
「ここ……この世界で初めてダークと会った場所に似ている……。」
なんてほざく自身のオリジナルを発見した。やれやれと思いながら、見つけられたことに安堵する。
「似てるんじゃねぇ。まさにこの場所だ。」
憎まれ口を叩きながら、リンクの元に歩み寄る。リンクは木にもたれかかって座っていた。
「ここにいたか、お人好し。」
ダークリンクが腰に手を当ててリンクを見下ろすと、リンクの目がこちらを向いた。そうかと思うと、なんと脱力しやがった。
「あぁ、ダーク。気付いちゃったの。」
なんとも嫌な言い方をする。そう思いながらも、ダークリンクはリンクに合わせてしゃがんだ。
「こんなところで何してるんだよ。戻るぞ。」
リンクの肩に手を置くも、どういうわけか、リンクは首を振った。
「おい、お前な。」
苛立ちを感じながら抗議すると、リンクはまた首を振った。困った奴だと思いながら、ダークリンクはリンクと目線を合わせた。
「……言いたく、ないんだけどな。」
すると、リンクから不穏な言葉が聞こえてきた。よく見てみれば、リンクに覇気がない。また何かを見落としたのかと冷や汗が背を伝った。
「ああ゛?お前、まだ隠し事があったのか?」
ダークリンクは焦りを隠して威嚇した。すると、どういうわけかリンクは顔を顔を背けた。更に仄暗い感情が心を蝕む。
「見つかった以上、どう足掻いても、君は苦しむか……。」
「何言ってんだよ。」
言葉のとおり、リンクが何を言いたいのか汲み取れなかった。リンクが息を大きく吸うのが見える。そうかと思うと、ヘラリとした顔をこちらに向けてきた。
「オレもさっき知ったばかりなんだけど。オレ、もうダメみたい。」
「は……?」
思考が止まった。リンクが何を言っているのか分からなかった。いや、分かりたくなかった。
「おい、冗談きついぞ。馬鹿なことを言ってないで、ほら、立て。」
嫌な想像を強制的に押しやり、リンクの腕を引っ張る。引っ張るが、リンクは立とうとしない。イライラしながら引く力を強くする。しかし、
「……ごめんね。もう、ホントに力が入らなくて……。」
リンクの体は鉛のように重かった。どんなに引っ張ってもリンクが立たない――立てないことを思い知ったダークリンクは、いよいよ不味いことを感じ取る。
「嘘だろ。」
リンクの首を振る様子が弱々しい。ダークリンクはペタペタとリンクを触り始めた。
「おいマジか、マジなのか!?怪我したのか!?言えよ!!」
リンクがどこを怪我しているのか自分では分からない。そう判断するなり、ダークリンクは立ち上がった。
「待ってろ、誰か呼んで」
呼んでくるから、という言葉は、
「ダーク!!」
というリンクの強い呼びかけに遮られてしまった。既に走りかけていたのだが、ダークリンクは何とか動きを止める。
「そうじゃないんだ。怪我とかじゃなくて。……呪いを、かけられていたみたいで。」
「呪い!?じゃあ、ガノンドロフ様なら……?」
今どこにいるだろうか、と探す算段をつけていたが、リンクはまたしても首を振っている。
「ダーク、もういい……もういいよ……。」
ダークリンクは思わずリンクに駆け寄った。肩を強く掴む。
「諦めんなよ!!弱気なんてらしくないな!!大丈夫だ、助かるから!!」
勢い余って揺すりそうになったが、それはかろうじてこらえた。だが、ダークリンクの励ましにもリンクは応えそうにない。
「もう、間に合わないよ……。それより、悲しむ人を、増やさないで……。いや、オレが死んだら、喜ぶか……。」
「んなわけねぇだろ!」
そんなことない。そんなこと全くない。何を言えば分かってもらえるだろうかとダークリンクは必死になって考える。だが、リンクはそれに対する励ましを求めていないようだった。
「だったら……オレは、旅に、出たことに、でも、しておいて、ガアッ……。」
やはりおかしなことを言い出すリンクだったが、それに反応する余裕もなく、ダークリンクは言葉の途中で押し出されていた。そんな力など残っていなさそうだったのにと思った時には、リンクは何かを吐き出したようだった。音に驚いて慌ててリンクに目を向けると、そこに広がるのは赤。ダークリンクは真っ青になる。
「う、嘘、だろ……!おい、しっかり、しろよ……!!」
自分の声が情けなくも震えているのが分かった。急いでリンクの傍に戻り、リンクをさするも、効果があるように思えない。リンクがこちらを見上げた。優しい光を帯びた強い眼差しが、ダークリンクを射抜く。
「あぁ……ダーク、ごめん、ね……。いろいろ、と、教え、ちゃって……苦し、かった、……ね。最後、の、最後、まで、……こんな、ところ、見せて……。でも……ありが、とう……。ダークが……みんなが……世界が……幸せ、で、あります、よう、に……………。」
ぱたりと、リンクは動かなくなった。ダークリンクは金縛りにあったかのように動けなかった。だがすぐに、ダークリンクはリンクの体にかじりつく。
「おい!お人好し!!起きろよ!おいこら!リンク!!起きろ!!起きてくれ……!!頼むから……!!」
リンクの体を激しく揺さぶった。リンクはされるがままだ。
「こんな、こんなのって……!認めねぇぞ、俺はぜってぇ認めねぇ!!納得できるかっ!!」
揺さぶるのをやめて、リンクを仰向けに転がした。祈る気持ちで脈を取ったが、感じ取れない。
「世界のためならって、どこまで犠牲にするんだよ……!!ふざけるなっ!お前言ったじゃねぇか!!見たいって!!自分が作った平和な世界が見たいって!!半分俺が言わせたようなもんだったけど!!でも願ったんだろ!叶えろよ!!これからだぞ!この世界は、これからなんだぞ!!」
首元で取っても手首で取っても脈が感じられない。そもそも息をしていない。目に生気がない。ダークリンクはどうしたらいいのか分からなかった。ダークリンクはうなだれた。
「なんで、キツい時だけ……。そうか。」
滅茶苦茶な思考の中、頭をかすめた考え。
「……そうかよ!?」
大変な時しか生きられない、いや、大変な時には生きていてくれる、そんな常ならばありえないと分かる幻想に、ダークリンクは取りつかれた。
「だったらこの世界、壊してやる!!こんな世界……!お前がいないこんな世界なんて壊してやる!!そしたら起きるだろ!?起きざるを得ないよな!?起きろよ!?そんで俺を止めに来い!!」
ダークリンクはただただ叫んだ。そして、リンクに掴みかからんばかりの勢いで肩を掴んだ。
「早く……!早くしろよ……!じゃねぇと……こんな世界、俺が壊してしまうぞ!!」
リンクを激しく揺さぶる。
「何を物騒なことを叫んでいるんだ。」
何か聞こえた気がしたが、無視した。
「起きろ、起きろって……!いい加減にしろよっ!!」
手が出そうになるが、それは僅かな理性を総動員して抑える。
「そうか……魔王様はこれを予感して……おい、ダークリンク、おい!!」
何かがダークリンクの肩を掴んだ。だが、ダークリンクは無意識にそれを振り解き、リンクを揺さぶり続けた。リンクを起こさないと、それしかダークリンクの頭の中にはなかった。しばらくダークリンクは喚いていた。起きろと。お前のいない世界なんていらないと。
突然、ダークリンクは強い力でリンクから引き離された。
「何をする!!そいつを、リンクを起こさねぇといけねぇんだよ!!」
相手を確認することもなく、自分をリンクから引き離した手を掴んだ。
「起こしてやる。どけ。邪魔だ。」
低い声で言われ、ダークリンクはハッと我に返った。ようやく自分を止めたのが誰かを認識する。それはガノンドロフだった。近くにゼルダとギラヒムもいる。ダークリンクから勢いが削がれた直後、ガノンドロフに脇へ押しやられてしまった。ガノンドロフはゼルダに目を向ける。
「姫君。先の手筈通りに。」
「……はい。」
ゼルダは弱々しく返事をすると、リンクに近寄った。ガノンドロフとゼルダは、リンクに手をかざす。二人の手に宿るトライフォースが光り出した。
「お願い、リンク。息を吹き返して……!!」
ゼルダの切望の声が辺りに響いた。ダークリンクは縋る思いでその様子を見つめていた。
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しばらく探したが見つからない。近場にはいないようだったので、捜索範囲をどんどん広げていたが、最終戦直後に一体何をしているのか。あまりに見つからないので焦り始めた時、リンクとこの世界で初めて会った場所が近いことに気付いた。なんだか懐かしい。ダークリンクは探すのをそっちのけでそちらに足を向けた。すると、
「ここ……この世界で初めてダークと会った場所に似ている……。」
なんてほざく自身のオリジナルを発見した。やれやれと思いながら、見つけられたことに安堵する。
「似てるんじゃねぇ。まさにこの場所だ。」
憎まれ口を叩きながら、リンクの元に歩み寄る。リンクは木にもたれかかって座っていた。
「ここにいたか、お人好し。」
ダークリンクが腰に手を当ててリンクを見下ろすと、リンクの目がこちらを向いた。そうかと思うと、なんと脱力しやがった。
「あぁ、ダーク。気付いちゃったの。」
なんとも嫌な言い方をする。そう思いながらも、ダークリンクはリンクに合わせてしゃがんだ。
「こんなところで何してるんだよ。戻るぞ。」
リンクの肩に手を置くも、どういうわけか、リンクは首を振った。
「おい、お前な。」
苛立ちを感じながら抗議すると、リンクはまた首を振った。困った奴だと思いながら、ダークリンクはリンクと目線を合わせた。
「……言いたく、ないんだけどな。」
すると、リンクから不穏な言葉が聞こえてきた。よく見てみれば、リンクに覇気がない。また何かを見落としたのかと冷や汗が背を伝った。
「ああ゛?お前、まだ隠し事があったのか?」
ダークリンクは焦りを隠して威嚇した。すると、どういうわけかリンクは顔を顔を背けた。更に仄暗い感情が心を蝕む。
「見つかった以上、どう足掻いても、君は苦しむか……。」
「何言ってんだよ。」
言葉のとおり、リンクが何を言いたいのか汲み取れなかった。リンクが息を大きく吸うのが見える。そうかと思うと、ヘラリとした顔をこちらに向けてきた。
「オレもさっき知ったばかりなんだけど。オレ、もうダメみたい。」
「は……?」
思考が止まった。リンクが何を言っているのか分からなかった。いや、分かりたくなかった。
「おい、冗談きついぞ。馬鹿なことを言ってないで、ほら、立て。」
嫌な想像を強制的に押しやり、リンクの腕を引っ張る。引っ張るが、リンクは立とうとしない。イライラしながら引く力を強くする。しかし、
「……ごめんね。もう、ホントに力が入らなくて……。」
リンクの体は鉛のように重かった。どんなに引っ張ってもリンクが立たない――立てないことを思い知ったダークリンクは、いよいよ不味いことを感じ取る。
「嘘だろ。」
リンクの首を振る様子が弱々しい。ダークリンクはペタペタとリンクを触り始めた。
「おいマジか、マジなのか!?怪我したのか!?言えよ!!」
リンクがどこを怪我しているのか自分では分からない。そう判断するなり、ダークリンクは立ち上がった。
「待ってろ、誰か呼んで」
呼んでくるから、という言葉は、
「ダーク!!」
というリンクの強い呼びかけに遮られてしまった。既に走りかけていたのだが、ダークリンクは何とか動きを止める。
「そうじゃないんだ。怪我とかじゃなくて。……呪いを、かけられていたみたいで。」
「呪い!?じゃあ、ガノンドロフ様なら……?」
今どこにいるだろうか、と探す算段をつけていたが、リンクはまたしても首を振っている。
「ダーク、もういい……もういいよ……。」
ダークリンクは思わずリンクに駆け寄った。肩を強く掴む。
「諦めんなよ!!弱気なんてらしくないな!!大丈夫だ、助かるから!!」
勢い余って揺すりそうになったが、それはかろうじてこらえた。だが、ダークリンクの励ましにもリンクは応えそうにない。
「もう、間に合わないよ……。それより、悲しむ人を、増やさないで……。いや、オレが死んだら、喜ぶか……。」
「んなわけねぇだろ!」
そんなことない。そんなこと全くない。何を言えば分かってもらえるだろうかとダークリンクは必死になって考える。だが、リンクはそれに対する励ましを求めていないようだった。
「だったら……オレは、旅に、出たことに、でも、しておいて、ガアッ……。」
やはりおかしなことを言い出すリンクだったが、それに反応する余裕もなく、ダークリンクは言葉の途中で押し出されていた。そんな力など残っていなさそうだったのにと思った時には、リンクは何かを吐き出したようだった。音に驚いて慌ててリンクに目を向けると、そこに広がるのは赤。ダークリンクは真っ青になる。
「う、嘘、だろ……!おい、しっかり、しろよ……!!」
自分の声が情けなくも震えているのが分かった。急いでリンクの傍に戻り、リンクをさするも、効果があるように思えない。リンクがこちらを見上げた。優しい光を帯びた強い眼差しが、ダークリンクを射抜く。
「あぁ……ダーク、ごめん、ね……。いろいろ、と、教え、ちゃって……苦し、かった、……ね。最後、の、最後、まで、……こんな、ところ、見せて……。でも……ありが、とう……。ダークが……みんなが……世界が……幸せ、で、あります、よう、に……………。」
ぱたりと、リンクは動かなくなった。ダークリンクは金縛りにあったかのように動けなかった。だがすぐに、ダークリンクはリンクの体にかじりつく。
「おい!お人好し!!起きろよ!おいこら!リンク!!起きろ!!起きてくれ……!!頼むから……!!」
リンクの体を激しく揺さぶった。リンクはされるがままだ。
「こんな、こんなのって……!認めねぇぞ、俺はぜってぇ認めねぇ!!納得できるかっ!!」
揺さぶるのをやめて、リンクを仰向けに転がした。祈る気持ちで脈を取ったが、感じ取れない。
「世界のためならって、どこまで犠牲にするんだよ……!!ふざけるなっ!お前言ったじゃねぇか!!見たいって!!自分が作った平和な世界が見たいって!!半分俺が言わせたようなもんだったけど!!でも願ったんだろ!叶えろよ!!これからだぞ!この世界は、これからなんだぞ!!」
首元で取っても手首で取っても脈が感じられない。そもそも息をしていない。目に生気がない。ダークリンクはどうしたらいいのか分からなかった。ダークリンクはうなだれた。
「なんで、キツい時だけ……。そうか。」
滅茶苦茶な思考の中、頭をかすめた考え。
「……そうかよ!?」
大変な時しか生きられない、いや、大変な時には生きていてくれる、そんな常ならばありえないと分かる幻想に、ダークリンクは取りつかれた。
「だったらこの世界、壊してやる!!こんな世界……!お前がいないこんな世界なんて壊してやる!!そしたら起きるだろ!?起きざるを得ないよな!?起きろよ!?そんで俺を止めに来い!!」
ダークリンクはただただ叫んだ。そして、リンクに掴みかからんばかりの勢いで肩を掴んだ。
「早く……!早くしろよ……!じゃねぇと……こんな世界、俺が壊してしまうぞ!!」
リンクを激しく揺さぶる。
「何を物騒なことを叫んでいるんだ。」
何か聞こえた気がしたが、無視した。
「起きろ、起きろって……!いい加減にしろよっ!!」
手が出そうになるが、それは僅かな理性を総動員して抑える。
「そうか……魔王様はこれを予感して……おい、ダークリンク、おい!!」
何かがダークリンクの肩を掴んだ。だが、ダークリンクは無意識にそれを振り解き、リンクを揺さぶり続けた。リンクを起こさないと、それしかダークリンクの頭の中にはなかった。しばらくダークリンクは喚いていた。起きろと。お前のいない世界なんていらないと。
突然、ダークリンクは強い力でリンクから引き離された。
「何をする!!そいつを、リンクを起こさねぇといけねぇんだよ!!」
相手を確認することもなく、自分をリンクから引き離した手を掴んだ。
「起こしてやる。どけ。邪魔だ。」
低い声で言われ、ダークリンクはハッと我に返った。ようやく自分を止めたのが誰かを認識する。それはガノンドロフだった。近くにゼルダとギラヒムもいる。ダークリンクから勢いが削がれた直後、ガノンドロフに脇へ押しやられてしまった。ガノンドロフはゼルダに目を向ける。
「姫君。先の手筈通りに。」
「……はい。」
ゼルダは弱々しく返事をすると、リンクに近寄った。ガノンドロフとゼルダは、リンクに手をかざす。二人の手に宿るトライフォースが光り出した。
「お願い、リンク。息を吹き返して……!!」
ゼルダの切望の声が辺りに響いた。ダークリンクは縋る思いでその様子を見つめていた。
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