エピローグ
結論から言うと、オレは死ななかった。どうして生き延びられたのかは今も分からない。多分、みんなは知っているのだろうけど、何を聞いても教えてくれなかった。
「知らない辛さが分かって丁度いいだろ。」
と言われたら、それ以上聞けなかった、というのもあるけれど。……でもオレ、知らないという事実も上手く隠していたつもりなんだけどな。
あぁ、オレの襲撃の裏話、というか、オレの想いはいつの間にか公表されてしまっていた。その上で、謝罪の場が設けられた。いつかは謝罪したいと思っていたものの、騙し討ちみたいに連れていかれた時は本当に焦った。心の準備どころか、話す内容さえ用意出来なくて、オレは思いつくままに話した。すごくたどたどしかったと思うけれど、皆は真剣に聞いてくれた。最後はごめんなさいしか言えなくて、頭を下げることしかできなくて……だけど、そんなオレをみんなは温かく受け入れてくれたようだ。最低でも罵倒されるだろうと覚悟していたのに、むしろ優しい言葉が飛んできたくらいだった。……あの時は本当に立っているのがやっとなくらい緊張した。
オレの真意が周知の事実となった後も、女神側と魔王側は協力して暮らしていて、平和な世の中は続いている。また対立に戻ってしまうんじゃないかというオレの心配は杞憂だったみたいだ。
そういうわけで、オレは晴れて普通の生活を送ることができるようになった。住む場所の候補は色々あって、城にも呼ばれたんだけど。城は、ねぇ?地位や権威はいらないし、オレはもともと人の上に立つのは向いていないから、辞退した。今は城下町で何でも屋をやっている。日々いろいろな依頼が舞い込んできて、それなりに忙しい。
なんだかんだ、城に呼び出されることもある。何かと思えば、会議への参加要請。そして意見を求められる。正直勘弁してほしい。やんややんや言われながら、知っていることは伝えるけれど、国政なんて分からないから困る。それなのに、幹部達は手を緩めてくれない。ギラヒムが意地悪してくるのはともかく、ミドナがそれに便乗して揶揄ってくるのは一体どういうことか。そうかと思えば、インパは本気でオレの意見を参考にしようとして、難しいことばかり聞いてくる。……意見を聞くにしても、答えやすく配慮してくれるのは、ザントだけかもしれない。
城に呼び出された帰り、オレはとある部屋を訪れた。軽くノックをして扉を開くと、綺麗な長い金髪の彼女がこちらを振り向いた。気丈で美しく、愛おしい女性――ゼルダは、オレを見てにっこりと笑う。そして、他愛無い話に花を咲かせるのだ。
こうしてゼルダに招かれることも少なくなかった。今でこそ慣れたものだが、初めて招かれた時はすごく驚いた。恐る恐る部屋を訪れたオレに対して、ゼルダは苦笑しながら、
「ただあなたと話がしたかったの。」
と、遠慮がちに言ったものだ。そのゼルダの姿に言い知れぬ気持ちで一杯になった。ゼルダを訪れるこの時間によって、一度失われたと思ったものを取り戻せたと感じることができている。ゼルダも暇ではないだろうに、こうして時間を作ってくれるのはかなり嬉しい。
ゼルダとの会話の後、城を後にしようと廊下を歩いていたが、反射的に前転した。すぐに体制を立て直して振り返ると、さっきまでいた場所に深々と大剣が突き刺さっている。その大剣の持ち主、ガノンドロフはニヤリと笑うと、オレがため息を吐く間もなく襲い掛かってきた。
何故かガノンドロフは、こうやってしょっちゅう奇襲してくる。咄嗟に避ける……というか、気付くと体が動いているんだけど、そうすると決まって決闘を申し込まれて――今回はそれすらなかったけれど――、断る前に襲われる。気を抜くと殺されかねないほどガチの決闘で、本気を出さなきゃいけないのはたまったものじゃない。これは死ねってことか?と思ったりもするけれど、
「お前が死ねば俺は犯罪者だな。俺を犯罪者にしたくなかったら、精々負けないことだ。」
とか言われ、負けるわけにもいかず。……ん?これ、オレにメリットないような?まぁ、ガノンドロフはそれで満足しているみたいだし、いっか。
今日も城で色々あったが、ようやく帰ってこられた。すると、
「遅かったなぁ?次の依頼、来てるぞ?」
ダークが受付に居座って、ニタニタしていた。
「えー。ダークが行って来てよ。」
オレが冗談半分に返すと、
「俺は店番。現場はお前。ほら、行ってこーい!」
2倍以上にして返された。
「ちょっと!自分は楽してリンクばっかに大変な思いさせないでヨ!」
奥からチカチカ光りながらナビィが飛び出してきた。オレは苦笑しながらナビィを宥める。
「はいはい、ナビィ、怒らないで。ちゃんと行くから。それで依頼内容は?」
すると、ダークは1枚の紙をヒラヒラと振った。それを受け取って中身を確認する。
「マスターだけでは重労働である可能性80%。ダークリンクも手伝うべきだと考えます。」
いつの間にか後ろからファイが覗き込んでいて、淡々と告げる。ナビィもファイもダークに厳しいんだよな、と思いながら、オレはファイに顔を向けた。
「ファイ、時間がかかるだけでオレ一人でも大丈夫でしょ?じゃあ行ってくるね。」
そして、今入ってきたばかりの扉を開けると、
「待って!私も行く!!」
「私もお供いたします。」
「おいこらそこのお人好し!手伝えって言えよ!!」
途端に飛んでくる華やかな声達。なんだかんだ言いつつ着いてきてくれるみたいだ、同居人3人は。
そう、彼らは今、オレと一緒に暮らしている。何やらオレは放っておけないんだとか。多分、裏事情を一足先に知っちゃって、苦労させたのがいけないんだと思う。ちょっと過保護な気もするけどね。でも、嬉しいから何も言わないことにしている。
今の生活は、そこそこ楽しい。……フフ、素直じゃないな、って?なんだか幸せすぎて、まだ実感が湧かないんだ。この幸せが、ずっと続きますように。
そう願いながら、オレは光の中へ駆け出した。
.
「知らない辛さが分かって丁度いいだろ。」
と言われたら、それ以上聞けなかった、というのもあるけれど。……でもオレ、知らないという事実も上手く隠していたつもりなんだけどな。
あぁ、オレの襲撃の裏話、というか、オレの想いはいつの間にか公表されてしまっていた。その上で、謝罪の場が設けられた。いつかは謝罪したいと思っていたものの、騙し討ちみたいに連れていかれた時は本当に焦った。心の準備どころか、話す内容さえ用意出来なくて、オレは思いつくままに話した。すごくたどたどしかったと思うけれど、皆は真剣に聞いてくれた。最後はごめんなさいしか言えなくて、頭を下げることしかできなくて……だけど、そんなオレをみんなは温かく受け入れてくれたようだ。最低でも罵倒されるだろうと覚悟していたのに、むしろ優しい言葉が飛んできたくらいだった。……あの時は本当に立っているのがやっとなくらい緊張した。
オレの真意が周知の事実となった後も、女神側と魔王側は協力して暮らしていて、平和な世の中は続いている。また対立に戻ってしまうんじゃないかというオレの心配は杞憂だったみたいだ。
そういうわけで、オレは晴れて普通の生活を送ることができるようになった。住む場所の候補は色々あって、城にも呼ばれたんだけど。城は、ねぇ?地位や権威はいらないし、オレはもともと人の上に立つのは向いていないから、辞退した。今は城下町で何でも屋をやっている。日々いろいろな依頼が舞い込んできて、それなりに忙しい。
なんだかんだ、城に呼び出されることもある。何かと思えば、会議への参加要請。そして意見を求められる。正直勘弁してほしい。やんややんや言われながら、知っていることは伝えるけれど、国政なんて分からないから困る。それなのに、幹部達は手を緩めてくれない。ギラヒムが意地悪してくるのはともかく、ミドナがそれに便乗して揶揄ってくるのは一体どういうことか。そうかと思えば、インパは本気でオレの意見を参考にしようとして、難しいことばかり聞いてくる。……意見を聞くにしても、答えやすく配慮してくれるのは、ザントだけかもしれない。
城に呼び出された帰り、オレはとある部屋を訪れた。軽くノックをして扉を開くと、綺麗な長い金髪の彼女がこちらを振り向いた。気丈で美しく、愛おしい女性――ゼルダは、オレを見てにっこりと笑う。そして、他愛無い話に花を咲かせるのだ。
こうしてゼルダに招かれることも少なくなかった。今でこそ慣れたものだが、初めて招かれた時はすごく驚いた。恐る恐る部屋を訪れたオレに対して、ゼルダは苦笑しながら、
「ただあなたと話がしたかったの。」
と、遠慮がちに言ったものだ。そのゼルダの姿に言い知れぬ気持ちで一杯になった。ゼルダを訪れるこの時間によって、一度失われたと思ったものを取り戻せたと感じることができている。ゼルダも暇ではないだろうに、こうして時間を作ってくれるのはかなり嬉しい。
ゼルダとの会話の後、城を後にしようと廊下を歩いていたが、反射的に前転した。すぐに体制を立て直して振り返ると、さっきまでいた場所に深々と大剣が突き刺さっている。その大剣の持ち主、ガノンドロフはニヤリと笑うと、オレがため息を吐く間もなく襲い掛かってきた。
何故かガノンドロフは、こうやってしょっちゅう奇襲してくる。咄嗟に避ける……というか、気付くと体が動いているんだけど、そうすると決まって決闘を申し込まれて――今回はそれすらなかったけれど――、断る前に襲われる。気を抜くと殺されかねないほどガチの決闘で、本気を出さなきゃいけないのはたまったものじゃない。これは死ねってことか?と思ったりもするけれど、
「お前が死ねば俺は犯罪者だな。俺を犯罪者にしたくなかったら、精々負けないことだ。」
とか言われ、負けるわけにもいかず。……ん?これ、オレにメリットないような?まぁ、ガノンドロフはそれで満足しているみたいだし、いっか。
今日も城で色々あったが、ようやく帰ってこられた。すると、
「遅かったなぁ?次の依頼、来てるぞ?」
ダークが受付に居座って、ニタニタしていた。
「えー。ダークが行って来てよ。」
オレが冗談半分に返すと、
「俺は店番。現場はお前。ほら、行ってこーい!」
2倍以上にして返された。
「ちょっと!自分は楽してリンクばっかに大変な思いさせないでヨ!」
奥からチカチカ光りながらナビィが飛び出してきた。オレは苦笑しながらナビィを宥める。
「はいはい、ナビィ、怒らないで。ちゃんと行くから。それで依頼内容は?」
すると、ダークは1枚の紙をヒラヒラと振った。それを受け取って中身を確認する。
「マスターだけでは重労働である可能性80%。ダークリンクも手伝うべきだと考えます。」
いつの間にか後ろからファイが覗き込んでいて、淡々と告げる。ナビィもファイもダークに厳しいんだよな、と思いながら、オレはファイに顔を向けた。
「ファイ、時間がかかるだけでオレ一人でも大丈夫でしょ?じゃあ行ってくるね。」
そして、今入ってきたばかりの扉を開けると、
「待って!私も行く!!」
「私もお供いたします。」
「おいこらそこのお人好し!手伝えって言えよ!!」
途端に飛んでくる華やかな声達。なんだかんだ言いつつ着いてきてくれるみたいだ、同居人3人は。
そう、彼らは今、オレと一緒に暮らしている。何やらオレは放っておけないんだとか。多分、裏事情を一足先に知っちゃって、苦労させたのがいけないんだと思う。ちょっと過保護な気もするけどね。でも、嬉しいから何も言わないことにしている。
今の生活は、そこそこ楽しい。……フフ、素直じゃないな、って?なんだか幸せすぎて、まだ実感が湧かないんだ。この幸せが、ずっと続きますように。
そう願いながら、オレは光の中へ駆け出した。
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