オレが為したこと
目を開くと見覚えのない場所にいた。体を起こす。自分は簡易ベッドにいて、どうやらここはテントの中のようだった。
「おー、起きたか、お人好し。」
疲れと安堵が混ざったような声が聞こえた。声の方を見ると、ダークリンクが疲労困憊の顔をして椅子に腰かけていた。
「えっと……状況説明をお願いします。」
何度あったか分からない展開だが、状況が分からないことには話が進まない。さっさと本題に入るリンクに呆れることはなく、ダークリンクは一つ頷くと口を開いた。
あの時、リンクはガノンドロフにすごい勢いで突き飛ばされたらしい。……全然分からなかった。リンクが気絶した後、連合軍は体勢を立て直し、ガノンドロフを筆頭に進軍した。玉座にいたヤツを討ち取りはしたが、またしても偽物だった。だが、そこへ重要な一報が入る。ヤツはガノン城を根城にしているとの情報である。
「今、私達はガノン城の前に拠点を移しているヨ。」
ダークリンクの説明の最中にやってきていたナビィとファイ。ダークリンクの説明がひと段落着いたところで、ナビィは定位置に収まった。
「既に主要メンバーは突入しています。マスターも目が覚めましたら参戦するように、との言付けです。」
ファイも当然のようにリンクの側に控えている。リンクは頷いて、立ち上がった。
「もう行けるのか?」
ダークリンクの心配そうな様子に、リンクは頷いた。少し眠ったことで体力は回復している。相変わらずズキズキと胸は痛むが、戦いに支障がある程度ではない。
「大丈夫。今度こそ終わらせよう。」
テントから外に出る。そこは中央の城よりも更に嫌な雰囲気に包まれていた。周りの様子を見ると、女神側が居心地悪そうにしているのはもちろん、魔王側としても受け付けない空気らしく、嫌そうにしている。早く解決しないと、と意気込んだところへ、突然、何者かが目の前に姿を現した。ギョッとして構えるが、それはツインローバだった。戦闘に参加していたのか、合体した姿だ。
「フン、もう目が覚めていたのかい。ま、丁度良かったけどさ。」
ツインローバは高飛車に言うと、リンクをビシッと指さした。
「伝言だよ。向こうの頭は逃げの態勢をとっている。逃げられる前に終止符を打ちたい。早くしな。」
返事も待たず、ツインローバは姿を消していた。
「急げってことだな。」
リンクの隣に立ったダークリンクも覚悟を決めたような顔をしていた。
「最前線まで案内する。準備はいいか?」
ダークリンクに示され、リンクは目的地、ガノン城を見やる。相変わらず禍々しい場所だが、ガノンドロフが支配していた時とは異なる不気味さを放っている。リンクはダークリンクに顔を戻し、深く頷いた。
「行こう。」
リンク達はガノン城に向かって走り出した。
城内は、意外とすんなり進むことができた。ダークリンクの先導で一直線に向かうことができているのもあるが、それ以上に、連合軍の協力の賜物だ。行く先々で戦闘は発生していたが、みんな、リンク達に道を譲ってくれたのだ。スタルキッド達・モイを始めとしたレジスタンスのメンバー・バドを筆頭とした協力者・キングブルブリン率いる一派などなど、今までお世話になった面々はもちろん、この世界では顔を合わせたことがなかった面々も、快くリンク達の道を作り、時には激励をかけてくれた。負傷者を見かけて手を貸そうとした時でさえも、先を急ぐよう促された。リンク達はたくさんの思いを背に、奥に進むことに専念していた。
「次の大部屋が向こうにとって最後の砦のはずだ!今、最前線はそこみたいだな!準備はいいか!?」
走りながらダークリンクが叫ぶ。
「当然!」
リンクも叫び返した。そして、勢いそのままに大部屋に突入する。敵味方入り乱れ、激しくぶつかり合っていた。ゼルダやガノンドロフ、幹部4人もこの部屋で足止めを喰らっていたらしい。戦闘の回避が難しそうだ。ダークリンクも既に参戦している。その時、大きな攻撃がリンクに向かってきたのに気付いた。前からきた攻撃をマスターソードで弾き飛ばし、後ろから来た攻撃は前転で避ける。体勢を立て直すと、巨体の敵が3体も、リンクに狙いを定めていた。今の攻撃力から鑑みるに、不利ではない。しかし、先を急ぐ今、突破できないのは辛いものがあった。
“手短に終わらせないと。”
覚悟を決めて剣と盾を構えなおす。だが突然、左右の2体が吹き飛んでいった。
「ここはワタシらに任せな。オマエにはやるべきことがあるだろう、リンク。」
左側の敵を見据えてミドナが言う。奥でインパがゼルダを先に行かせるのが見えた。
「邪魔だからさっさと行きなよ?魔王様の足を引っ張ったら許さないからね。」
右側の敵を見据えてギラヒムが言う。奥でザントがガノンドロフを先に行かせるのが見えた。さらに、目の前の敵がのけぞる。リンクの前ではダークリンクが武器を構えていた。
「俺だって戦えるからな!お前は先に進め!」
ミドナ、ギラヒム、そしてダークリンクは既に戦闘に身を投じている。
「ありがとう!」
リンクは次の部屋へと足を進めた。
大乱闘が行われている部屋から次の部屋に入ると、先程とは打って変わって静かな空間だった。奥に向かえば、ゼルダとガノンドロフがリンクを待っていた。その前方には巨大な扉がそびえ立っている。
「この奥にヤツはいるようだ。」
ガノンドロフは扉を睨みつけたまま、口を開いた。ゼルダがこちらを見る。
「ですが、扉を開けることができません。先程から色々と試してはいるのですが、なかなか……。」
ゼルダは苦い顔をしながら、扉を見やった。ガノンドロフは扉に鋭い視線を注いだままじっと考え込んでいる様子だ。
「姫君。」
ガノンドロフの呼びかけに、ゼルダはそちらへ目を向ける。ガノンドロフは、相変わらず忌々しそうに扉を見ていたが、ゼルダの方に体を向けた。そして、ゼルダがいる奥の方を示す。
「その奥に1台、それと反対側に1台、装置がある。それに魔力を込めれば扉を壊せるかもしれん。」
ゼルダは言われた方を目で追った。だがすぐに、ガノンドロフに目線を戻す。
「何故そのようなものが?」
ゼルダは怪訝そうな顔をしていた。
「本来はこの扉を守るための装置だ。」
ガノンドロフが大儀そうに答えると、ゼルダは眉をひそめた。
「強化してはダメではないですか。」
言ってすぐに、ゼルダはハッとした顔をした。
「もしや……過剰に魔力を注入せよ、と?」
ガノンドロフは鷹揚に頷く。
「姫君の魔力ならば、扉を壊すことも可能だろう。」
ゼルダは渋い顔をした。
「それを私一人で……?」
「反対側には俺が行く。」
ゼルダのみならず、リンクも驚いてガノンドロフを見た。
「好き勝手してくれたからな、本来は俺の手で片づけたいところではあるが。この件、小僧では力不足だろう。」
ギロリとガノンドロフはリンクを見据えた。
「小僧、お前の役割は分かっているな?」
リンクは真剣な顔で頷いた。
「しくじってくれるな。」
ガノンドロフは言い捨てると、悠々とゼルダとは反対側に向かって歩いていった。
「リンク。」
ガノンドロフを見送っていると、後ろから声がかかる。リンクがゼルダに顔を向けると、彼女は意思の強い表情をしていた。
「大丈夫と信じていますが……くれぐれも気をつけて。」
ゼルダは力強く頷くと、奥に歩いていった。
しばらく待つと、扉が不穏な音を立て始めた。だが、あと一歩というところでなかなか崩れ落ちない。
「これは……オレも何かした方がいい?」
リンクは扉を見上げながら呟いた。ナビィは近くをそわそわと飛び回っている。一方ファイは、じっと扉を見つめていた。
「いえ。」
しばらくして、ファイは口を開いた。
「マスターは最終決戦のため、力を温存すべきかと。」
リンクは不服感を拭えないままファイを見た。
「この扉については、ファイに考えがあります。」
ファイはそう言うと、ナビィを顧みた。
「ナビィ、助力をお願いします。」
「私にできること?」
不安そうにナビィは言う。
「はい。しかし、負担は大きいです。」
「大丈夫!やるヨ!」
ナビィは強い光を発した。
「え、ちょっと、」
「リンクは黙ってて!」
「マスター、お任せください。」
リンクの制止は頼もしい2人に弾き飛ばされた。2人は扉の前に進んでいく。なにやら話していたかと思えば、
「えいっ!」
「ハアッ!」
二人は掛け声を上げ、力を放出した。眩い光に辺りは包まれ、リンクは顔を覆う。やがて、ガラガラとものが崩れる音がした。辺り一面に砂埃が舞う。辺りが落ち着いてリンクが目を開けると、辺りは瓦礫だらけだった。その中で、ファイは倒れ、ナビィは地面に落ちていた。
「大丈夫!?」
リンクは二人に駆け寄る。ナビィを拾い上げ、ファイの顔を覗き込んだ。ナビィもファイもぐったりしている。ナビィに至っては意識がないようだ。
「マスター……大丈夫です……ファイも、ナビィも、力を使いすぎただけですので……少し休めば戻ります……。」
そう言うファイの声は弱々しい。リンクは顔を歪めたが、すぐに安心させるために微笑みかけた。
「よかった。だったらゆっくり休んで。すぐに片づけるから。」
「申し訳ありません……。マスターソードは問題なく使えると思いますが、意識を保つのが難しくなってきました……。」
リンクはたまらずファイに手を添える。
「ファイ、無理はしないで。後は任せてゆっくりお休み。」
ファイはマスターソードの中に戻った。力なく呼吸するナビィは一時ビンの中に退避させる。ここでようやく、リンクは扉があった方を見た。見事に扉は破壊された。リンクは意を決して中に歩みを進めた。
その部屋の中心に、ヤツはいた。
「とうとうここまで来たか……。」
リンクに背を向けて立っていたヤツだったが、こちらを向く。いつにも増して、不気味な顔をしていた。リンクは武器を構える。
「もう容赦しない。ここで終わらせる!!」
リンクはヤツに襲い掛かった。
想定よりもあっさりとリンクはヤツを追い詰めた。ヤツは蹲っている。追い打ちをかけようと、リンクは剣を構えて突進した。だが、ヤツにそれを受け止められてしまう。ヤツは必死の形相だった。
「待て!お前は世界を壊したかったのだろう!!協力すれば可能だ!それだけの実力があれば……。」
往生際悪く、ヤツは取引を持ち掛けてきた。リンクは思わず、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「まだ言うの?オレにそのつもりはなかったって言ったよね?」
すると、ヤツは悔しそうな顔をした。だがすぐに、不敵な笑みを浮かべる。
「いいのか。このままだとお前……死ぬぞ。」
リンクはポカンとした。つい、力を抜いてしまい、ヤツが動く。慌ててリンクはヤツを押さえつけた。
「何を言っているの?」
低い声で、リンクは聞いた。ヤツを押さえつける手に力がこもる。
「気づいていないのか気づかないフリをしているのか知らないが、城でお前を窓から突き落とした時、死の呪いをかけた。」
リンクは絶句した。まさかの情報だった。
「じわりじわりと命を削る呪いではあるが、私がこの世界からいなくなれば呪いの進行が早まるだろう。数時間ともつまい。」
冷え冷えとした空気が辺りを覆う。ドクドクと心臓の波打つ音が聞こえそうなくらい、辺りが静まり返った。ともすれば、ヤツの動きを封じる手から力が抜けそうである。青冷めたリンクに対し、ヤツはニタリと嗤った。
「私を助けろ。そうすれば、呪いは解いてやる。」
悪魔の囁き。リンクはギュッと唇を噛み締めた。
「呪い、か。時々痛みを感じたのは、それのせいか。」
浅い息をしながら、リンクは呟く。それを聞いてヤツは余裕を取り戻したらしい。ニタニタと嗤っていた。
「そうだ。助けてやる。だから、私を、」
その瞬間、リンクは覚悟を決めた。
「悪いけど。その取引、応じる気はないよ。」
リンクは宣言する。ヤツの目がこれでもかと見開かれた。
「何故だ!!死ぬぞ!!間違いなく死ぬのだぞ!!」
おぞましい顔を更に醜く歪ませ、ヤツは唾をまき散らして訴えかけた。その様子を見て、リンクは勝ちを確信する。その先にあるものを心の中に描いて、穏やかな気持ちになった。
「それで世界が救われるなら、本望だ。」
ヤツは、突然、リンクの拘束を逃れた。火事場の馬鹿力というべきか、まだ力が残っていたようだ。
「馬鹿な!馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!そんなことがあってたまるか!!!やっと手に入れたこの美味な世界、今更手放すなど……!!」
ヤツは喚き散らしながら闇雲に攻撃を繰り出す。だが、怒りで我を忘れた攻撃など、脅威ではない。リンクはヒラリヒラリとそれらを避けながら、ヤツとの距離を詰めていった。近寄る最中、トライフォースの力がみなぎってくるのを感じた。ハイラルの全ての力がヤツを排除するために動き出している。次で最後とするために、リンクはマスターソードを持つ手に力を込めた。
「君は君の世界に帰れ。ハイラルはもう、君にとって美味しいものではないし、再び混沌の世界に戻らない。戻らせない!」
十分な距離まで近づき、最後は駆け足でヤツに襲い掛かる。一撃を食らわせた。
「まだだ、まだだーーー!!!」
ヤツは諦め悪くあがいていた。しかし、今までの敵同様、体が光り始めた。ヤツはギョッとして体を見下ろした。だんだんと体が消え始めている。
「私はまだ何も成し得ていないのに……!!」
その言葉とともに、ヤツの姿が消え去った。シーンと痛いくらいの静寂に包みこまれる。終わった……と思った直後。ズキン!今までにない、激しい痛みがリンクを襲った。リンクは思わず胸を押さえて蹲った。
『私がこの世界からいなくなれば呪いの進行が早まるだろう。数時間ともつまい。』
ヤツの言葉が頭の中で木霊する。
“……オレは、死ぬのか………。”
リンクは力なく上を見上げた。
“もっと見ていたかったな……この、平和な世界……。”
最終決戦後、部屋から出ると、丁度ゼルダとガノンドロフが戻ってきたところだった。ヤツの魔の手が終わったことを伝えると、彼らの魔法で外にワープした。ゼルダとガノンドロフによる完全勝利の宣言で歓声が上がる。その頃、ファイとナビィは目を覚まし、外に出てきた。そうかと思いきや、何故かインパに捕まって連れ去られてしまった。それをぼんやりと見送って、辺りに目を向ける。みんなは喜びを分かち合っている。その場はお祭り騒ぎだ。それを横目に、そっと、そっと、リンクはその場を後にした。
フラフラと歩いてガノン城から離れる。ヤツとの戦闘後、体調が一気に悪くなった。回復のために精霊の泉か妖精の泉まで行きたいところだが、それだけの体力はなさそうだ。漫然と歩いてきた道を振り返る。随分歩いたつもりだが、まだ大して離れていない。不味いなと思いながら足を進める。早くももう視界が定まらない。歩くのもやっとになってきた。ヤツが言っていたのは本当のことだったようだ。死期が近い。認めざるを得なかった。リンクは覚悟を決める。だが、見つかるような場所で死ぬと、後味が悪いだろう。ふと、リンクは脇を見る。
“道なりに歩いていてはダメだ。せめて通り道から離れよう……。”
そして、とうとう、リンクは膝をついた。これ以上進むことは難しそうだ。息を荒くしながら、手近な樹木の方へ這い寄る。どうにか木の根元までたどり着くと、幹を背に身体を落ち着かせた。そこでようやくちゃんと辺りを見る。そして、気付いた。
「ここ……この世界で初めてダークと会った場所に似ている……。」
「似てるんじゃねぇ。まさにこの場所だ。」
ビクリと、リンクは体を震わせた。聞こえるはずのない声が聞こえた。恐る恐る声の方を見る。すると、安堵の表情を浮かべたダークリンクがいた。
「ここにいたか、お人好し。」
ダークリンクの姿を認めて、リンクは力なく肩を落とした。
「あぁ、ダーク。気付いちゃったの。」
思わず出した声は、呻くようなものだった。
「こんなところで何してるんだよ。戻るぞ。」
ダークリンクはリンクの側までやってくると、肩に手を置いた。だが、リンクは力なく首を振る。
「おい、お前な。」
呆れたようなダークリンクに対し、リンクはやはり首を振った。ダークリンクはやれやれとした顔をしながら、膝をついてリンクに目線を合わせる。その様子を見て、リンクは嬉しいような苦しいような複雑な気持ちになった。
「……言いたく、ないんだけどな。」
ボソリと言ったが、ダークリンクには聞こえたらしい。呆れたような顔に不安と苛立ちが混じった。
「ああ゛?お前、まだ隠し事があったのか?」
リンクはダークリンクの顔から目を背ける。
「見つかった以上、どう足掻いても、君は苦しむか……。」
「何言ってんだよ。」
ダークリンクは焦れたように言う。リンクは一度深呼吸をすると、困った笑みを浮かべてダークリンクを見た。
「オレもさっき知ったばかりなんだけど。オレ、もうダメみたい。」
「は……?」
ダークリンクの動きが止まる。目がまん丸に見開かれていた。だが、すぐに首を振り、傍から見ても無理に浮かべたと分かる笑みを貼りつけた。
「おい、冗談きついぞ。馬鹿なことを言ってないで、ほら、立て。」
ダークリンクはリンクの腕を引っ張った。リンクを立たせようとしているのが分かる。しかし、
「……ごめんね。もう、ホントに力が入らなくて……。」
立つだけの力も出せそうになかった。想定以上に速くなくなっていく生気に、正直リンクもぞっとしている。ダークリンクから笑みが消えた。
「嘘だろ。」
リンクは力なく首を振る。ダークリンクから余裕が消えていくのが見て取れた。
「おいマジか、マジなのか!?怪我したのか!?言えよ!!待ってろ、誰か呼んで」
ダークリンクは一通りリンクに触れ、だが訳が分からなかったようで、立ち上がっていた。
「ダーク!!」
そのままその場を後にしそうなダークリンクにリンクは強く呼びかける。ダークリンクは勢い余ってつんのめりながらも動きを止めた。心配そうな顔を隠しもせずにこちらを見る。
「そうじゃないんだ。怪我とかじゃなくて。……呪いを、かけられていたみたいで。」
おずおずと、リンクが事情を説明すると、ダークリンクは驚愕したようだった。
「呪い!?じゃあ、ガノンドロフ様なら……?」
ダークリンクの目に期待の光が灯っているのを見上げながら、リンクは力なく首を振った。
「ダーク、もういい……もういいよ……。」
ダークリンクはリンクの元に戻ってきて、肩を強く掴んだ。
「諦めんなよ!!弱気なんてらしくないな!!大丈夫だ、助かるから!!」
やはりリンクは首を振るしかない。助かる見込みがないことは、自分自身のことだ、よく分かっていた。
「もう、間に合わないよ……。それより、悲しむ人を、増やさないで……。いや、オレが死んだら、喜ぶか……。」
「んなわけねぇだろ!」
リンクの弱音を間髪入れずにダークリンクは否定する。リンクは嬉しく思う一方、それならば死後の対策を取らなければと口を開いた。
「だったら……オレは、旅に、出たことに、でも、しておいて、ガアッ……。」
だが、言葉の途中で口から出てきたのは鮮血。辛うじてダークリンクを押しのけたが、吐血した体勢から立て直せない。
「う、嘘、だろ……!おい、しっかり、しろよ……!!」
側でダークリンクが狼狽えているのが分かったが、リンクは取り繕うことは愚か、座っていることも辛くなってきた。だんだんと意識が薄れ始めているのも感じ取る。本当にこれが最後だと、リンクには分かった。ダークリンクの目を見据え、必死に言葉を紡ぐ。
「あぁ……ダーク、ごめん、ね……。いろいろ、と、教え、ちゃって……苦し、かった、……ね。最後、の、最後、まで、……こんな、ところ、見せて……。でも……ありが、とう……。ダークが……みんなが……世界が……幸せ、で、あります、よう、に……………。」
プツンと意識が途絶えた。
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「おー、起きたか、お人好し。」
疲れと安堵が混ざったような声が聞こえた。声の方を見ると、ダークリンクが疲労困憊の顔をして椅子に腰かけていた。
「えっと……状況説明をお願いします。」
何度あったか分からない展開だが、状況が分からないことには話が進まない。さっさと本題に入るリンクに呆れることはなく、ダークリンクは一つ頷くと口を開いた。
あの時、リンクはガノンドロフにすごい勢いで突き飛ばされたらしい。……全然分からなかった。リンクが気絶した後、連合軍は体勢を立て直し、ガノンドロフを筆頭に進軍した。玉座にいたヤツを討ち取りはしたが、またしても偽物だった。だが、そこへ重要な一報が入る。ヤツはガノン城を根城にしているとの情報である。
「今、私達はガノン城の前に拠点を移しているヨ。」
ダークリンクの説明の最中にやってきていたナビィとファイ。ダークリンクの説明がひと段落着いたところで、ナビィは定位置に収まった。
「既に主要メンバーは突入しています。マスターも目が覚めましたら参戦するように、との言付けです。」
ファイも当然のようにリンクの側に控えている。リンクは頷いて、立ち上がった。
「もう行けるのか?」
ダークリンクの心配そうな様子に、リンクは頷いた。少し眠ったことで体力は回復している。相変わらずズキズキと胸は痛むが、戦いに支障がある程度ではない。
「大丈夫。今度こそ終わらせよう。」
テントから外に出る。そこは中央の城よりも更に嫌な雰囲気に包まれていた。周りの様子を見ると、女神側が居心地悪そうにしているのはもちろん、魔王側としても受け付けない空気らしく、嫌そうにしている。早く解決しないと、と意気込んだところへ、突然、何者かが目の前に姿を現した。ギョッとして構えるが、それはツインローバだった。戦闘に参加していたのか、合体した姿だ。
「フン、もう目が覚めていたのかい。ま、丁度良かったけどさ。」
ツインローバは高飛車に言うと、リンクをビシッと指さした。
「伝言だよ。向こうの頭は逃げの態勢をとっている。逃げられる前に終止符を打ちたい。早くしな。」
返事も待たず、ツインローバは姿を消していた。
「急げってことだな。」
リンクの隣に立ったダークリンクも覚悟を決めたような顔をしていた。
「最前線まで案内する。準備はいいか?」
ダークリンクに示され、リンクは目的地、ガノン城を見やる。相変わらず禍々しい場所だが、ガノンドロフが支配していた時とは異なる不気味さを放っている。リンクはダークリンクに顔を戻し、深く頷いた。
「行こう。」
リンク達はガノン城に向かって走り出した。
城内は、意外とすんなり進むことができた。ダークリンクの先導で一直線に向かうことができているのもあるが、それ以上に、連合軍の協力の賜物だ。行く先々で戦闘は発生していたが、みんな、リンク達に道を譲ってくれたのだ。スタルキッド達・モイを始めとしたレジスタンスのメンバー・バドを筆頭とした協力者・キングブルブリン率いる一派などなど、今までお世話になった面々はもちろん、この世界では顔を合わせたことがなかった面々も、快くリンク達の道を作り、時には激励をかけてくれた。負傷者を見かけて手を貸そうとした時でさえも、先を急ぐよう促された。リンク達はたくさんの思いを背に、奥に進むことに専念していた。
「次の大部屋が向こうにとって最後の砦のはずだ!今、最前線はそこみたいだな!準備はいいか!?」
走りながらダークリンクが叫ぶ。
「当然!」
リンクも叫び返した。そして、勢いそのままに大部屋に突入する。敵味方入り乱れ、激しくぶつかり合っていた。ゼルダやガノンドロフ、幹部4人もこの部屋で足止めを喰らっていたらしい。戦闘の回避が難しそうだ。ダークリンクも既に参戦している。その時、大きな攻撃がリンクに向かってきたのに気付いた。前からきた攻撃をマスターソードで弾き飛ばし、後ろから来た攻撃は前転で避ける。体勢を立て直すと、巨体の敵が3体も、リンクに狙いを定めていた。今の攻撃力から鑑みるに、不利ではない。しかし、先を急ぐ今、突破できないのは辛いものがあった。
“手短に終わらせないと。”
覚悟を決めて剣と盾を構えなおす。だが突然、左右の2体が吹き飛んでいった。
「ここはワタシらに任せな。オマエにはやるべきことがあるだろう、リンク。」
左側の敵を見据えてミドナが言う。奥でインパがゼルダを先に行かせるのが見えた。
「邪魔だからさっさと行きなよ?魔王様の足を引っ張ったら許さないからね。」
右側の敵を見据えてギラヒムが言う。奥でザントがガノンドロフを先に行かせるのが見えた。さらに、目の前の敵がのけぞる。リンクの前ではダークリンクが武器を構えていた。
「俺だって戦えるからな!お前は先に進め!」
ミドナ、ギラヒム、そしてダークリンクは既に戦闘に身を投じている。
「ありがとう!」
リンクは次の部屋へと足を進めた。
大乱闘が行われている部屋から次の部屋に入ると、先程とは打って変わって静かな空間だった。奥に向かえば、ゼルダとガノンドロフがリンクを待っていた。その前方には巨大な扉がそびえ立っている。
「この奥にヤツはいるようだ。」
ガノンドロフは扉を睨みつけたまま、口を開いた。ゼルダがこちらを見る。
「ですが、扉を開けることができません。先程から色々と試してはいるのですが、なかなか……。」
ゼルダは苦い顔をしながら、扉を見やった。ガノンドロフは扉に鋭い視線を注いだままじっと考え込んでいる様子だ。
「姫君。」
ガノンドロフの呼びかけに、ゼルダはそちらへ目を向ける。ガノンドロフは、相変わらず忌々しそうに扉を見ていたが、ゼルダの方に体を向けた。そして、ゼルダがいる奥の方を示す。
「その奥に1台、それと反対側に1台、装置がある。それに魔力を込めれば扉を壊せるかもしれん。」
ゼルダは言われた方を目で追った。だがすぐに、ガノンドロフに目線を戻す。
「何故そのようなものが?」
ゼルダは怪訝そうな顔をしていた。
「本来はこの扉を守るための装置だ。」
ガノンドロフが大儀そうに答えると、ゼルダは眉をひそめた。
「強化してはダメではないですか。」
言ってすぐに、ゼルダはハッとした顔をした。
「もしや……過剰に魔力を注入せよ、と?」
ガノンドロフは鷹揚に頷く。
「姫君の魔力ならば、扉を壊すことも可能だろう。」
ゼルダは渋い顔をした。
「それを私一人で……?」
「反対側には俺が行く。」
ゼルダのみならず、リンクも驚いてガノンドロフを見た。
「好き勝手してくれたからな、本来は俺の手で片づけたいところではあるが。この件、小僧では力不足だろう。」
ギロリとガノンドロフはリンクを見据えた。
「小僧、お前の役割は分かっているな?」
リンクは真剣な顔で頷いた。
「しくじってくれるな。」
ガノンドロフは言い捨てると、悠々とゼルダとは反対側に向かって歩いていった。
「リンク。」
ガノンドロフを見送っていると、後ろから声がかかる。リンクがゼルダに顔を向けると、彼女は意思の強い表情をしていた。
「大丈夫と信じていますが……くれぐれも気をつけて。」
ゼルダは力強く頷くと、奥に歩いていった。
しばらく待つと、扉が不穏な音を立て始めた。だが、あと一歩というところでなかなか崩れ落ちない。
「これは……オレも何かした方がいい?」
リンクは扉を見上げながら呟いた。ナビィは近くをそわそわと飛び回っている。一方ファイは、じっと扉を見つめていた。
「いえ。」
しばらくして、ファイは口を開いた。
「マスターは最終決戦のため、力を温存すべきかと。」
リンクは不服感を拭えないままファイを見た。
「この扉については、ファイに考えがあります。」
ファイはそう言うと、ナビィを顧みた。
「ナビィ、助力をお願いします。」
「私にできること?」
不安そうにナビィは言う。
「はい。しかし、負担は大きいです。」
「大丈夫!やるヨ!」
ナビィは強い光を発した。
「え、ちょっと、」
「リンクは黙ってて!」
「マスター、お任せください。」
リンクの制止は頼もしい2人に弾き飛ばされた。2人は扉の前に進んでいく。なにやら話していたかと思えば、
「えいっ!」
「ハアッ!」
二人は掛け声を上げ、力を放出した。眩い光に辺りは包まれ、リンクは顔を覆う。やがて、ガラガラとものが崩れる音がした。辺り一面に砂埃が舞う。辺りが落ち着いてリンクが目を開けると、辺りは瓦礫だらけだった。その中で、ファイは倒れ、ナビィは地面に落ちていた。
「大丈夫!?」
リンクは二人に駆け寄る。ナビィを拾い上げ、ファイの顔を覗き込んだ。ナビィもファイもぐったりしている。ナビィに至っては意識がないようだ。
「マスター……大丈夫です……ファイも、ナビィも、力を使いすぎただけですので……少し休めば戻ります……。」
そう言うファイの声は弱々しい。リンクは顔を歪めたが、すぐに安心させるために微笑みかけた。
「よかった。だったらゆっくり休んで。すぐに片づけるから。」
「申し訳ありません……。マスターソードは問題なく使えると思いますが、意識を保つのが難しくなってきました……。」
リンクはたまらずファイに手を添える。
「ファイ、無理はしないで。後は任せてゆっくりお休み。」
ファイはマスターソードの中に戻った。力なく呼吸するナビィは一時ビンの中に退避させる。ここでようやく、リンクは扉があった方を見た。見事に扉は破壊された。リンクは意を決して中に歩みを進めた。
その部屋の中心に、ヤツはいた。
「とうとうここまで来たか……。」
リンクに背を向けて立っていたヤツだったが、こちらを向く。いつにも増して、不気味な顔をしていた。リンクは武器を構える。
「もう容赦しない。ここで終わらせる!!」
リンクはヤツに襲い掛かった。
想定よりもあっさりとリンクはヤツを追い詰めた。ヤツは蹲っている。追い打ちをかけようと、リンクは剣を構えて突進した。だが、ヤツにそれを受け止められてしまう。ヤツは必死の形相だった。
「待て!お前は世界を壊したかったのだろう!!協力すれば可能だ!それだけの実力があれば……。」
往生際悪く、ヤツは取引を持ち掛けてきた。リンクは思わず、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「まだ言うの?オレにそのつもりはなかったって言ったよね?」
すると、ヤツは悔しそうな顔をした。だがすぐに、不敵な笑みを浮かべる。
「いいのか。このままだとお前……死ぬぞ。」
リンクはポカンとした。つい、力を抜いてしまい、ヤツが動く。慌ててリンクはヤツを押さえつけた。
「何を言っているの?」
低い声で、リンクは聞いた。ヤツを押さえつける手に力がこもる。
「気づいていないのか気づかないフリをしているのか知らないが、城でお前を窓から突き落とした時、死の呪いをかけた。」
リンクは絶句した。まさかの情報だった。
「じわりじわりと命を削る呪いではあるが、私がこの世界からいなくなれば呪いの進行が早まるだろう。数時間ともつまい。」
冷え冷えとした空気が辺りを覆う。ドクドクと心臓の波打つ音が聞こえそうなくらい、辺りが静まり返った。ともすれば、ヤツの動きを封じる手から力が抜けそうである。青冷めたリンクに対し、ヤツはニタリと嗤った。
「私を助けろ。そうすれば、呪いは解いてやる。」
悪魔の囁き。リンクはギュッと唇を噛み締めた。
「呪い、か。時々痛みを感じたのは、それのせいか。」
浅い息をしながら、リンクは呟く。それを聞いてヤツは余裕を取り戻したらしい。ニタニタと嗤っていた。
「そうだ。助けてやる。だから、私を、」
その瞬間、リンクは覚悟を決めた。
「悪いけど。その取引、応じる気はないよ。」
リンクは宣言する。ヤツの目がこれでもかと見開かれた。
「何故だ!!死ぬぞ!!間違いなく死ぬのだぞ!!」
おぞましい顔を更に醜く歪ませ、ヤツは唾をまき散らして訴えかけた。その様子を見て、リンクは勝ちを確信する。その先にあるものを心の中に描いて、穏やかな気持ちになった。
「それで世界が救われるなら、本望だ。」
ヤツは、突然、リンクの拘束を逃れた。火事場の馬鹿力というべきか、まだ力が残っていたようだ。
「馬鹿な!馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!そんなことがあってたまるか!!!やっと手に入れたこの美味な世界、今更手放すなど……!!」
ヤツは喚き散らしながら闇雲に攻撃を繰り出す。だが、怒りで我を忘れた攻撃など、脅威ではない。リンクはヒラリヒラリとそれらを避けながら、ヤツとの距離を詰めていった。近寄る最中、トライフォースの力がみなぎってくるのを感じた。ハイラルの全ての力がヤツを排除するために動き出している。次で最後とするために、リンクはマスターソードを持つ手に力を込めた。
「君は君の世界に帰れ。ハイラルはもう、君にとって美味しいものではないし、再び混沌の世界に戻らない。戻らせない!」
十分な距離まで近づき、最後は駆け足でヤツに襲い掛かる。一撃を食らわせた。
「まだだ、まだだーーー!!!」
ヤツは諦め悪くあがいていた。しかし、今までの敵同様、体が光り始めた。ヤツはギョッとして体を見下ろした。だんだんと体が消え始めている。
「私はまだ何も成し得ていないのに……!!」
その言葉とともに、ヤツの姿が消え去った。シーンと痛いくらいの静寂に包みこまれる。終わった……と思った直後。ズキン!今までにない、激しい痛みがリンクを襲った。リンクは思わず胸を押さえて蹲った。
『私がこの世界からいなくなれば呪いの進行が早まるだろう。数時間ともつまい。』
ヤツの言葉が頭の中で木霊する。
“……オレは、死ぬのか………。”
リンクは力なく上を見上げた。
“もっと見ていたかったな……この、平和な世界……。”
最終決戦後、部屋から出ると、丁度ゼルダとガノンドロフが戻ってきたところだった。ヤツの魔の手が終わったことを伝えると、彼らの魔法で外にワープした。ゼルダとガノンドロフによる完全勝利の宣言で歓声が上がる。その頃、ファイとナビィは目を覚まし、外に出てきた。そうかと思いきや、何故かインパに捕まって連れ去られてしまった。それをぼんやりと見送って、辺りに目を向ける。みんなは喜びを分かち合っている。その場はお祭り騒ぎだ。それを横目に、そっと、そっと、リンクはその場を後にした。
フラフラと歩いてガノン城から離れる。ヤツとの戦闘後、体調が一気に悪くなった。回復のために精霊の泉か妖精の泉まで行きたいところだが、それだけの体力はなさそうだ。漫然と歩いてきた道を振り返る。随分歩いたつもりだが、まだ大して離れていない。不味いなと思いながら足を進める。早くももう視界が定まらない。歩くのもやっとになってきた。ヤツが言っていたのは本当のことだったようだ。死期が近い。認めざるを得なかった。リンクは覚悟を決める。だが、見つかるような場所で死ぬと、後味が悪いだろう。ふと、リンクは脇を見る。
“道なりに歩いていてはダメだ。せめて通り道から離れよう……。”
そして、とうとう、リンクは膝をついた。これ以上進むことは難しそうだ。息を荒くしながら、手近な樹木の方へ這い寄る。どうにか木の根元までたどり着くと、幹を背に身体を落ち着かせた。そこでようやくちゃんと辺りを見る。そして、気付いた。
「ここ……この世界で初めてダークと会った場所に似ている……。」
「似てるんじゃねぇ。まさにこの場所だ。」
ビクリと、リンクは体を震わせた。聞こえるはずのない声が聞こえた。恐る恐る声の方を見る。すると、安堵の表情を浮かべたダークリンクがいた。
「ここにいたか、お人好し。」
ダークリンクの姿を認めて、リンクは力なく肩を落とした。
「あぁ、ダーク。気付いちゃったの。」
思わず出した声は、呻くようなものだった。
「こんなところで何してるんだよ。戻るぞ。」
ダークリンクはリンクの側までやってくると、肩に手を置いた。だが、リンクは力なく首を振る。
「おい、お前な。」
呆れたようなダークリンクに対し、リンクはやはり首を振った。ダークリンクはやれやれとした顔をしながら、膝をついてリンクに目線を合わせる。その様子を見て、リンクは嬉しいような苦しいような複雑な気持ちになった。
「……言いたく、ないんだけどな。」
ボソリと言ったが、ダークリンクには聞こえたらしい。呆れたような顔に不安と苛立ちが混じった。
「ああ゛?お前、まだ隠し事があったのか?」
リンクはダークリンクの顔から目を背ける。
「見つかった以上、どう足掻いても、君は苦しむか……。」
「何言ってんだよ。」
ダークリンクは焦れたように言う。リンクは一度深呼吸をすると、困った笑みを浮かべてダークリンクを見た。
「オレもさっき知ったばかりなんだけど。オレ、もうダメみたい。」
「は……?」
ダークリンクの動きが止まる。目がまん丸に見開かれていた。だが、すぐに首を振り、傍から見ても無理に浮かべたと分かる笑みを貼りつけた。
「おい、冗談きついぞ。馬鹿なことを言ってないで、ほら、立て。」
ダークリンクはリンクの腕を引っ張った。リンクを立たせようとしているのが分かる。しかし、
「……ごめんね。もう、ホントに力が入らなくて……。」
立つだけの力も出せそうになかった。想定以上に速くなくなっていく生気に、正直リンクもぞっとしている。ダークリンクから笑みが消えた。
「嘘だろ。」
リンクは力なく首を振る。ダークリンクから余裕が消えていくのが見て取れた。
「おいマジか、マジなのか!?怪我したのか!?言えよ!!待ってろ、誰か呼んで」
ダークリンクは一通りリンクに触れ、だが訳が分からなかったようで、立ち上がっていた。
「ダーク!!」
そのままその場を後にしそうなダークリンクにリンクは強く呼びかける。ダークリンクは勢い余ってつんのめりながらも動きを止めた。心配そうな顔を隠しもせずにこちらを見る。
「そうじゃないんだ。怪我とかじゃなくて。……呪いを、かけられていたみたいで。」
おずおずと、リンクが事情を説明すると、ダークリンクは驚愕したようだった。
「呪い!?じゃあ、ガノンドロフ様なら……?」
ダークリンクの目に期待の光が灯っているのを見上げながら、リンクは力なく首を振った。
「ダーク、もういい……もういいよ……。」
ダークリンクはリンクの元に戻ってきて、肩を強く掴んだ。
「諦めんなよ!!弱気なんてらしくないな!!大丈夫だ、助かるから!!」
やはりリンクは首を振るしかない。助かる見込みがないことは、自分自身のことだ、よく分かっていた。
「もう、間に合わないよ……。それより、悲しむ人を、増やさないで……。いや、オレが死んだら、喜ぶか……。」
「んなわけねぇだろ!」
リンクの弱音を間髪入れずにダークリンクは否定する。リンクは嬉しく思う一方、それならば死後の対策を取らなければと口を開いた。
「だったら……オレは、旅に、出たことに、でも、しておいて、ガアッ……。」
だが、言葉の途中で口から出てきたのは鮮血。辛うじてダークリンクを押しのけたが、吐血した体勢から立て直せない。
「う、嘘、だろ……!おい、しっかり、しろよ……!!」
側でダークリンクが狼狽えているのが分かったが、リンクは取り繕うことは愚か、座っていることも辛くなってきた。だんだんと意識が薄れ始めているのも感じ取る。本当にこれが最後だと、リンクには分かった。ダークリンクの目を見据え、必死に言葉を紡ぐ。
「あぁ……ダーク、ごめん、ね……。いろいろ、と、教え、ちゃって……苦し、かった、……ね。最後、の、最後、まで、……こんな、ところ、見せて……。でも……ありが、とう……。ダークが……みんなが……世界が……幸せ、で、あります、よう、に……………。」
プツンと意識が途絶えた。
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