過去の精算

リンク達は会議室らしき部屋に連れてこられた。そこにはリンク達を連れてきたガノンドロフの他に、ゼルダ、インパ、ミドナ、ギラヒム、ザントが――女神軍・魔王軍のTOP3が――待ち構えていた。彼等に見える大半の感情は、疑心。リンクは気持ちを奮い立たせながら、ゼルダ、ガノンドロフ、そして幹部達に向かい合う。ダークリンク、ナビィ、ファイはリンクの後ろに立っていた。

「起きて早々脱走か。何をしていた?」

インパが低い声で言った。リンクは肩をすくめて見せる。

「別に何も?」

リンクが挑発するように言うと、ギラヒムが鋭くリンクを睨みつけた。

「言い方に気を付けた方がいいよ、リンク君。立場上不利なのは君だよ?」

リンクはクスリと笑って見せた。

「そうだね。で?オレをどうしたいの?」

すると、口をつぐむ面々。彼等をぐるりと見て次の言葉を待つが、なかなか飛んでこない。痺れを切らして、リンクは再び口を開いた。

「先に言っておくと、今のオレに世界を壊す欲求はない。まぁ、今脅威となっているアイツは倒さないと気が済まないけれど。」

再度幹部たちの様子を伺う。難しい顔をしたまま、やはり何も言わない。やれやれと思いながら、リンクは先を続けた。

「誰かに聞いているんでしょ?オレ、そこそこ活躍していると思うんだけどな。今、オレを失うのは結構痛手だと思うよ?」

沈黙がその場を支配する。馬鹿にした風を装いながらも、じっくり幹部達のことを観察していたが、何を考えているのかさっぱり読みとることができない。薄い反応に不安を覚え、さっさとこの場から逃げ出したいとリンクは思った。

「君達はいなかったし、留まれって言われたからいたけど。もしかして、オレ、邪魔?だったら出ていくよ。オレは勝手にやるから、君達は君達で頑張れば?あ、何度も言うけれど、破壊活動はしないから。安心して。」

言うだけ言って、リンクは回れ右した。すると、何か言いたげなダークリンク達の顔が目に入る。三人に小さく首を振り、リンクが足を踏み出したとき。

「あなたを追い出すために呼んだのではありません。」

凛とした声がリンクを引き留めた。ゼルダだった。みすみす見逃してくれるはずなどないか、とリンクは心の中で苦笑しながら、表向きは首を傾げ、心底不思議だという風を装って振り返った。

「じゃあ、何?」

ゼルダの真っ直ぐな瞳が、リンクを貫いた。

「教えてください。真実を。」

うっ、と思ったが、なんとか体裁を保ち、リンクは再度首を傾げた。

「何のこと?」

すると、ゼルダは無表情を崩した。

「あなたが世界を襲った、本当の理由を!教えて……、お願い、リンク……。」

ゼルダは泣きそうな顔で、リンクに詰め寄った。リンクは気を引き締めた。ここが正念場だ。リンクはやれやれとちょっとため息を吐いて見せた後、真っ直ぐゼルダを見た。

「しつこいな。またその話?何回聞かれたって答は一緒だよ。この世界に嫌気が差した、失望さえした。それが理由。」

ゼルダは苦しそうに俯いた。それを見ていられず、興味がなくなった風を装って他の人に目を向けた。みんながみんな、冷たい目をしていた。それに怯みそうになりながらも、リンクは何でもない風を装う。

「この話、まだ続ける必要ある?」

面倒臭そうに聞くと、インパが頷いた。

「あぁ。お前の言うことが真実なら、野放しには出来ないからな。」

リンクはポンと、手を叩いた。

「なるほどね。改心しました、なんて言っても信じてもらえないわけか。だけど……オレ、君達と同じだと思うよ?」

「なんだと!?」

リンクが小首を傾げながら明るく言うと、ザントが不機嫌そうに威嚇した。リンクは肩を竦める。

「君達はもともと対立していた。……オレは女神側としてその対立に加担していたけれど、それは置いておくとして。お互い、相手は敵で、相手にとって自分は征服者だったり侵略者だったり。でも今は、協力しているのでしょう?オレだって変われるよ。」

リンクがいけしゃあしゃあと言ってのけると、痛い沈黙が流れた。沈黙を破ったのはガノンドロフだった。

「気に入らんな。」

ガノンドロフは鋭くリンクを睨みつけた。

「世界を支配しようとした俺と、世界を襲ったお前が同じだと?そう言いたいのか?」

リンクはガノンドロフの真意を読み取れなかった。だが、困惑など見せずに、言葉を返す。

「そうだけど?」

「ふざけるな。」

目にも止まらぬ速さでガノンドロフが殴りかかってきた。リンクは寸でのところで踏み留まり、攻撃を甘んじた。痛みを感じた瞬間、激しく吹き飛ばされる。だが、すぐに柔らかいものにぶつかった。

「おい、大丈夫か?」

ダークリンクが受け止めてくれたらしい。その声は小さかったが、幹部達にも筒抜けだっただろう。それだけ場の空気が張り詰めていた。リンクは答えることができず、咳き込んだ。

「おい、手出しすんなよ。」

ミドナのガノンドロフを諌める声がする。リンクが反射的に瞑っていた目を開けると、ガノンドロフはリンクを鬼の形相で見ていた。

「何故避けなかった。」

地を這うような声でガノンドロフは言った。奥でインパが眉を顰めたのが見えた。

「は?お前、何を言っている?」

ガノンドロフはリンクを見据えたまま口を開いた。

「今の攻撃、小僧、お前には見えていたはずだ。」

「魔王様、それはないかと……。」

ギラヒムが困惑顔をしている。ガノンドロフは苛立たしげに首を振り、リンクの方へ歩み寄ってきた。

「僅かに足が動いた。こいつの体は避けようとしていた。だがこいつは、理性で本能を押さえつけた。」

リンクのところまで来ると、ガノンドロフはリンクの襟首を掴み、ダークリンクからリンクを引き剥がした。リンクには為す術がなかった。

「それが俺への贖いか?世界を襲った自分への罰か?」

否応なしにガノンドロフの目と相対する。ひしひしと怒りを感じ取り、リンクは何も言えなかった。

「そもそも、俺とお前を同列に扱うな。俺は本気だった。本気で世界を支配しようとした。その俺と。世界を襲ったが、壊すつもりはなかったお前と。一緒にするな。」

リンクは目を見開いた。

「……何、言って……!」

ガノンドロフから更なる怒りを感じた。

「違和感は初めからあった。お前の襲撃は何も殺さない。自然破壊さえない。世界を壊そうとしている割には手温いと。」

「ガノンドロフ……!あなたまさか、当時から気付いていたのでは……!!」

ゼルダの悲鳴が聞こえてきた。ガノンドロフはギリと唇を噛んだ。

「そうだと言いたいところだが、違和感自体に気付いたのも全て片付いた後だった。」

ゼルダに向かって言い捨てた後、再度ギロリとガノンドロフはリンクを睨みつけた。

「小僧、俺と戦った時、最終決戦でさえも、手を抜いただろう。」

「そんな、わけ、ぐっ……。」

リンクは当然否定するが、リンクを掴むガノンドロフの力が強くなり、それ以上声を出せなかった。

「お前は本気ではなかった。この世界に来て腑抜けただけかと思っていたが、この間、ヤツとは本気で戦っていたな。動きが全然違った。この俺に手加減するとは。……俺はそれが一番許せん。」

ガノンドロフは手を離した。リンクは床に転がって咳き込む。

「……魔王様は、この三人をリンク君に差し向けた時には、既に予測がついていたとおっしゃった……ヒントはあったわけか……。」

リンクがゴホゴホとしながら息を整えていると、ポツリと呟く声があった。ギラヒムの声だ。それを聞いて、側にいたダークリンクの肩が震えた。

「今……!そうか、あの時の忠告、いやむしろ脅しは……。」

リンクが訝しみながらダークリンクを見やると、ダークリンクは焦りの表情を浮かべていた。

「え?何?どういうこと?」

リンクが声を出せないでいると、ナビィが聞いてくれた。ダークリンクが苦い顔をする。

「ただで済むと思うなって言われててな。つまり……。」

ダークリンクは言い淀んだ。すると、ファイがため息を吐く。

「マスターの真意、及び我々三人の黙秘が露見している可能性75%。」

「え、えぇー!?」

ナビィが仰天して叫んだ。リンクは驚きすぎて声にならない。恐る恐る、幹部たちに顔を向けた。みんながみんな、苦虫を噛んだような顔をしていた。しばらく沈黙がその場を支配する。

「……せめて、あなたの口から話してほしかった……。」

ゼルダの切ない声がポツリと落ちた。リンクが倒れ込んだまま呆然とゼルダを見上げていると、ゼルダはこちらをまっすぐ見据えた。

「あなたが閉じ込められていたあの部屋は、我々がいた場所から様子がよく分かるようになっていました。」

リンクは頭の中でゼルダの言葉を咀嚼する。ハッとして、呟いた。

「見ていた、ということ……?そうか、見られている気はしていたけど、あれは、君達が……!?」

「あぁ。あいつと対面した時からワタシらを助け出してくれるまで、ずっとな。」

ミドナに容赦なく事実を突きつけられ、リンクは額に手をやった。

「嘘、でしょう……じゃあ、どこまで……。」

“まずい。核心に触れる話が結構あったはず……。”

「もう一度お願いします。リンク、全てを、話してください。」

ゼルダに再度問いかけられた。しばらくリンクは項垂れていたが、意を決するとリンクは立ち上がった。

「これ以上、何を知りたいの?」

「おいっ!」

説明する気がないのを感じ取ったらしく、ダークリンクが声を荒げる。だがリンクは、そんなダークリンクを手で制した。

「何を聞いたのか知らないけれど。知ったところで何も変わらない。」

「まだ誤魔化す気か、小僧?」

訝しむように、ガノンドロフが言った。リンクはゆっくりと首を振る。

「そのつもりはないよ。だけど事実は事実。オレが世界を襲ったことに変わりはない。そこにどんな意図があったとしても……あれが正当化されるわけじゃない。」

ゼルダが眉を顰めた。

「つまり過去の罪は水に流せない、と。そういうことですか。」

リンクは頷いた。すると、ガノンドロフが嫌そうにため息を吐いた。

「それは俺達への当て付けか?」

「どういう意味?」

リンクは額に皺を寄せた。ガノンドロフは腕を組んで嘲笑を浮かべた。

「過去の罪が許されないならば、俺は女神陣営に責められ続けなければならないな?」

「え?なんでそうなるの?」

ガノンドロフの言葉に、リンクは戸惑った。ガノンドロフは鼻で笑う。

「俺は世界を混沌へ陥れた。しかもお前と違って本気だった。お前の理論だと、俺の罪は消えない。」

「それは……!」

リンクは狼狽えた。自分の理論が他の人にも当てはまるなど、あってはならない。

「この世界の話じゃ、ない、し……みんなが許しているなら、それで、」

「それはあなたにも言えることです、リンク。」

ゼルダがやはり凛とした声で告げる。だが、リンクは首を振った。

「オレのやったことが許されるとでも?本気で言っているの?」

ゼルダは大きく頷いた。

「そのように話をまとめることは可能です。真意を説明すれば、納得してもらえるでしょう。」

ゼルダの説明に、リンクはギョッとした。

「みんなにあの襲撃の意図は、知られたらダメだ。」

その場にいるみんなが、面倒臭そうな顔をした。中でもザントは、訳が分からないという顔をしている。

「知られてはいけない理由は何だ?」

リンクはザントを見つめた。

「今の状態を壊したくない。意図された協定に反発がおこるかもしれない。」

インパがため息を吐いた。

「それは国政の問題だ。そのくらい抑えられるし、そもそも起こさない。」

インパの自信に、どうしたら伝わるだろうかとリンクは唇を噛んだ。

「それでも、」

「協定を結んでからしばらくは、いざこざが絶えなかったことを覚えていらっしゃいますか?」

援護のためだろう、ファイが口を開いた。だが、これ以上自分が被っていることを知られたくないと、リンクは思った。

「ファイ!」

だからリンクは、ファイにとびかかろうとしたのだが、横からダークリンクに押さえつけられてしまった。その一連のやり取りをなかったかのように、ギラヒムが口を開く。

「一応ね。その責任はリンク君に押し付けさせてもらったけれど、………まさか。」

ギラヒムが動きを止めた。歯軋りをしそうな顔で、リンクに目を向けている。

「負の感情はリンクが引き受けたケド、リンクがその対象でなかったのだと分かったら、その感情はどこに行くの?……って、リンクは言ったの。」

とうとう、ナビィが明かしてしまった。

「ナビィ……。」

リンクは力なく項垂れた。

「それを覆すだけの根拠も自信も俺達にはなかった。だから……こいつ一人が苦しんでいるのを、指をくわえて見ているしか、なかった……っ!!」

ダークリンクはそう言い捨てると、押さえつけているリンクに額を当てた。

「ダーク、オレは、」

「黙れお人好し。」

思わずリンクはダークリンクに語り掛けるが、短く叩き落とされてしまった。リンクは小さくため息をついた。そっとダークリンクの手をほどき、幹部達の方を見る。

「そういうわけだから、他の人には黙っていた方がいい。……君達は民を動かすプロだ。どうするべきかは、オレが言うまでもないでしょう?」
幹部達は何も言わなかった。リンクは気を取り直して、話題を変えようとした。

「さてと。話が随分と、」

「確かに今は、黙っておく方が賢明でしょう。しかし、ここまで知ったのです。話してくれてもよいのではありませんか?」

しかし、ゼルダがそれを許してくれなかった。リンクは唇を噛む。

「今考えるべきことはあいつのことで、既に片がついているオレのことじゃない。」

「あの部屋で話していたことから察するに、お前は城に来る前に既にこの事件に関わっていたのではないか?」

ミドナが難しい顔でリンクに聞く。リンクも険しい顔で返した。

「断言は出来ないけれど。多分。」

「なら、全部話せ。何が関係しているか、分からないからな。」

ミドナの言い分も最もかもしれないと、リンクは考え込んだ。

「そういえば。ダークリンク、ファイ、ナビィの処分は考えないとな?」

「え?」

唐突に、ガノンドロフが言葉を発した。リンクはポカンとしたが、すぐに意味を理解して血の気がひいていく。ダークリンク達の空気が固くなったのが分かった。

「正式な任務ではなかったとはいえ、報告義務を怠った。その上、反逆者である小僧に協力していたな。特にダークリンクは罪状が多そうだ。脱獄にも加担したと見ていい。」

「ま、待って!」

つらつらと述べるガノンドロフに、リンクは叫んだ。心臓がどうしようもなく激しく鼓動していた。

「この三人は悪くない!!確かに話してしまって、本当のことを知っていたけれど、それだけだ!」

「往生際が悪いよ?」

ギラヒムが薄ら笑いを浮かべながら言った。リンクは必死に訴える。

「本当だ!協力なんてされてないし!……むしろ、この三人は被害者だよ。知らなくていいこと、知っちゃったから……。」

すると、インパが眉を顰めた。

「協力されていない?黙っていたことは協力ではないのか?」

リンクは目を見開いた。

「それだけで!?彼らには選択の余地がなかった!!」

「そんなことは関係ない。裏切ったも同然だ。」

ザントが馬鹿にしたように言うと、リンクは狼狽えた。

「違う……違うんだ……。」

「それから、お前を匿っていたのは、スタルキッドだったか。」

更にガノンドロフから痛い事実を突きつけられる。リンクは頭が真っ白になったのを感じた。

「……!違う!そんなところ、行っていない!!」

リンクは必死で否定するが、

「フッ、当人に聞いた方が早いな。」

ガノンドロフは聞く耳を持ちそうになかった。

「待って、」

「脱獄に加担した、いえ、そもそも脱獄させたのは、俺と、俺の時代のスタルキッド一人です。」

なおも悪足掻きをするリンクを遮ったのは、あろうことかダークリンクだった。

「ダーク……!」

リンクはゾッとしてダークリンクを見る。すると、ダークリンクは肩をすくめた。

「こうなったらもう言い逃れできねぇだろ。」

フッとダークリンクは諦めたように笑う。そうかと思えば、真剣な顔をガノンドロフ達に向けた。

「他のスタルキッドは関係ありません。こいつがいた事実も知らないはずです。」

「ほう?」

面白そうにガノンドロフが言う。ダークリンクは臆することなくガノンドロフ達を見ていた。

「俺もあいつも、こいつらも、覚悟は出来ています。煮るなり焼くなり好きにしてください。……反省も更正もしませんが。」

ダークリンクははっきりと言い切った。

「へぇ?認めるんだね?でも……最後の一言は気に入らないな。」

ギラヒムが不服そうに言う。そこでリンクはハッとした。

「やめて!お願いだ!彼らは許して!!悪いのは全部オレだから!!」

リンクは、ダークリンクの言葉を覆らせるために叫んだ。

「リンク!!」

「マスター !!」

ナビィとファイが悲痛な声でリンクを呼びかけるが、リンクに構う余裕はない。

「罰ならオレが受ける!どんな仕打ちも受けるから……!!」

なりふり構わずリンクは懇願する。

「おいテメェ、いい加減にしろよ!」

ダークリンクからも怒りの声が聞こえるが、リンクは懇願を止めなかった。

「お願いします、彼らは許して……!!」

突然、体の自由が奪われた。後ろからダークリンクがリンクを押さえつけたのだ。すると、後ろでハッと息を飲む声が聞こえた。ダークリンクの押さえる手に力がこもる。

「馬鹿。俺らは平気だ。何震えてんだよ。」

そう言われて初めて、リンクは自分が震えていることに気付いた。どうやら恐怖に押しつぶされそうになっているらしい。だが、ダークリンクやナビィ、ファイが罰せられるかもしれないことより怖いことはないとリンクは思った。

「次は何されるのかと怯えたやつが、大口叩いてんじゃねぇ。」

ダークリンクの声は悲壮に彩られていたが、優しさで満ちていた。急に緊張が解けてしまい、リンクはグッと唇を噛み締める。言葉を失ってしまい、何も言うことが出来ないまま、ダークリンクの腕の中にいた。ダークリンクが幹部達を見据えたのが気配で分かる。

「罰があるのなら、自分で受ける。だがこれ以上、こいつを傷つけるのは、」

「「「許さない。」」」

はもった三人からは凄みが溢れていた。それはすごく心強いことだった。だが、これからどうなるのだろうか。リンクには全く予測ができなかった。溢れる不安を持て余しながら、リンクは必死で感情を抑えていた。誰も何も言わないまま、時間だけが過ぎていく。痛いくらいに凍り付いた場の沈黙を破ったのは、ガノンドロフだった。

「小僧。」

「……っ!何故こいつ何です!!」

ガノンドロフが呼びかけたのは、リンクに対してだった。それに慌てたのはリンク自身ではなくダークリンクのようだった。

「こいつはもう、十分罰を、」

「許してほしいか。」

ダークリンクには相手にならず、ガノンドロフはリンクを見据えていた。後ろのダークリンクから勢いが消えた。リンクは口を戦慄かせながら、ガノンドロフを見ていた。

「お前の協力者を、許してほしいか。」

コクンとリンクは頷いた。

「待ってヨ、リンクじゃないでしょ、私たちでしょ!!」

我に返ったように、慌ててナビィが介入する。しかし、ガノンドロフはそれも黙殺した。

「ならば話せ。」

パチクリとリンクは目を瞬かせた。もう誰も、口を挟まなかった。

「全てを、話せ。それでチャラにしてやる。」

リンクは暫く茫然としてガノンドロフを見つめていた。いつの間にか、ダークリンクのリンクを押さえる手からも力が抜けていた。他の幹部達は何も言わずに様子を見守っている。

「マスター。ここは話された方がよろしいかと。」

冷静そうなファイの声がリンクを促す。そこでリンクは我に返った。言われるがまま、口を開きそうになるが、やはり躊躇した。しかし、話す以外の選択肢はないと判断する。リンクは腹を括り、ポツリ、ポツリと、ようやく話した。対立を見てどう思ったのかから、城に連れてこられ、そこで何をしたのかまで、全てを。

「……これで、全部だ……。」

全てを話し終え、リンクはそう締めくくった。深呼吸をして幹部達を見やる。幹部達は難しい顔で黙り込んでいた。リンクが反応を待っていると、ダークリンクが口を開いた。

「ゾーラの餓鬼に頼まれた品があったのが、どこだって?」

いつもどおりの調子で話すダークリンクに度肝を抜かれながらも、リンクはおずおずと答えた。

「ハイリア湖、だよ。」

すると、ダークリンクの顔が曇った。

「……一致したぞ……。」

「え?」

リンクが聞き返すと、ダークリンクは腰に手を当てて説明した。

「例の伝承だ。後5ヵ所あるやつ。お前が気にしてた水の場所、そこだ。」

そこでリンクはハッとする。気になっていた話が先に進み始める気配を感じた。

「そう……。じゃあ他の場所でも何か問題が起こっている可能性が高いね。行かなきゃ……。……いや、でも。その前に。」

リンクは目先の問題がまだ解決していないことを思い出し、未だ固まっている幹部達の方を見た。

「全部、話したよ。許してくれる……?」

リンクはもう何度目になるか分からない懇願をした。やはり沈黙が返ってくる。幹部達はゼルダやガノンドロフをうかがっていた。それに気付いているのかいないのか、ガノンドロフとゼルダは、それぞれリンクをじっと見つめるばかりだ。

「いいだろう。」

やがて、ガノンドロフが告げた。

「お前っ!勝手に決めるな!!」

慌ててインパが声を荒げる。すると、面倒臭そうにガノンドロフはゼルダに目を向けた。

「異論があるのか?」

ゼルダはただ、首を振った。ガノンドロフはリンクに向き直る。

「だが、お前は残ってもらうぞ、小僧。」

リンクは躊躇したが、口を開いた。

「やりたいことがあるんだけど。」

「今言っていた、伝承の確認か?」

リンクはおずおずと頷く。

「それはこちらで動く。人手ならある。」

リンクは弱々しく視線を彷徨わせながら、口を開いた。

「だったら、黒幕を探しに、」

「それもこちらでやる。お前は待機だ。寝ていた客間を使えばいい。」

ピシャリとガノンドロフに遮られた。強い口調に身体を揺らしたが、リンクは更に抵抗を試みる。

「でも、」

「俺達に逆らうか?自分の立場を理解しているのだろうな?」

だが、ガノンドロフはそれ以上の抵抗を許さなかった。リンクは何も言えずに俯いた。それに満足したらしいガノンドロフは肩をすくめると告げた。

「情報はくれてやる。この三人が伝達役になればいいだろう。お前は暫く大人しくしていろ。」

そして、ガノンドロフはしっしっと手を振った。反論は出来なかった。俯いたまま、リンクは踵を返して部屋を後にする。とぼとぼと言われた客間に向かっていると、

「リンク!」

後ろからナビィの声がした。振り向くと、ナビィがヒュンヒュンとこちらに向かってきていた。

「ナビィ……。」

リンクは力なく返事をする。すると、ナビィが温かい光を放った。

「よく頑張ったネ。ナビィ一緒にいるから、後はファイやダークリンクに任せて、休んじゃおう!」

ナビィの取って付けたような様子にリンクは目を丸くしたが、やがて、ふわりと遠慮がちに笑った。

「ありがとう、ナビィ。」





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