過去の精算
「旅に出てたと思ったら人助けかよ。」
リンクの影からダークリンクが現れた。リンクは大きな動作でダークリンクの方を向く。
「いたの!?人払いしてって頼まれたのに!!」
「お前許可とってたじゃねーか。」
「そういう意味じゃなかった!」
面倒臭そうに言うダークリンクに、リンクは噛みつく。しかし、ダークリンクは聞く耳を持たなかった。
「に、しても……薬草摘みに行ったって場所は超危険じゃねぇか?無謀というか、よく行けたよな。マジでなんなの、お前。」
ダークリンクはじとりとした目をリンクに向けた。リンクはため息を吐きながら、言葉を返す。
「フックショットとか鉤爪ロープとか使えば難なく行けたよ。それにしても……今の話、全部聞いていたんだよね?」
「あぁ。ばっちりな。……ナビィとファイには話すからな。」
険しい顔をしてダークリンクは言った。リンクはやれやれと首を振る。
「……あの二人だったら仕方ないか……。それで。さっきの伝承のことだけど、どう思う?」
リンクの質問に対し、ダークリンクは反応に困ったようだった。
「どうって……。そんな伝承あったのか、くらいしかねぇな。」
「似たような話を聞いたことはない?」
畳みかけるようにリンクは聞いた。
「似たような話?」
ポカンとしながら、ダークリンクはオウム返しをした。リンクは頷く。
「彼らの伝承は火属性の話だったけど。他の属性についてとか。」
「んー……。」
ダークリンクは腕を組んで考えているようだった。だがやがて、首を振る。
「そんな形の話は知らないな。だが、6の属性とかいうのは聞き覚えがある気がする。」
「場所は分かる?」
リンクは半ば被せるように聞いた。
「場所?」
ダークリンクは怪訝そうな顔をして聞き返した。
「そう。さっきの話だと、後5ヶ所、それぞれの属性で何かあるはずだよね。調べなきゃ。でもどうしたら……多分、女神側と言うより魔族側、だよね……。いや、両方混ざっているのかな……どっちにしても、オレでは……。」
ダークリンクに話していたのに、焦るあまり途中から独り言のようになっていく。リンクがぶつぶつと考えを巡らせていると、
「あ、の、な!!」
突然、ダークリンクが大声を出した。リンクはビクリと反応する。
「何で一人で動くことが前提なんだよ!!」
リンクはポカンとしてダークリンクを見た。ダークリンクは必死の形相だった。だが、すぐにいつもの表情に戻り、リンクに言う。
「第一、お前はこっから出れない。脱走とか考えんな。」
ちらりと窓を見たリンクに、ダークリンクは早口で最後を付け加えた。リンクは腕を組んでじとりとダークリンクを見る。
「ここにいてもどうにもならないし、そろそろ出たいと思っているんだけど。」
「却下。」
リンクの要望は即座に斬り捨てられた。ダークリンクは呆れたような顔をしている。
「残れって言ってるだろ。で……調べてきてやるよ。幸い、オレはそこそこ伝がある。」
リンクはダークリンクの申し出に驚いた。だが、少し考えて、その方がいいと判断する。
「うん。それはお願いしようかな。オレだと聞ける話も聞けないだろうし……。あのさ、水の場所を早急に頼める?」
ダークリンクは首を傾げた。
「水?何でだよ?」
リンクは慎重に言葉を選びながら答えた。
「ちょっと気になることがあって。場所によっては、いろいろとまずい事態になっているかもしれない。」
ダークリンクが眉間に皺を寄せた。
「だから、」
「まだ聞かないで。」
ダークリンクの怒りの声をリンクは慌てて遮った。
「バイアスをかけたくないんだ。調べてきてくれたら、ちゃんと話すから。」
リンクの説得にもかかわらず、ダークリンクは納得していない顔だった。
「そうは言っても、」
その時、扉が開いた。ダークリンクはそれを見て口をつぐむ。バドやナビィ、ファイが入ってきた。
「やっぱお前すげー。あいつ納得して帰ってったぜ。人探しも必要ないってさ。」
「そっか。」
バドの賞賛に対し、リンクは苦笑いした。――……。
“ん?今、何か……。”
リンクの鼓膜が震えた気がした。リンクは不思議に思い、神経を研ぎ澄ます。
「それにしても、ダークリンクはいつの間に来たんだ?」
「さっきな。」
隣でバドとダークリンクが話している。ドン……。
“やっぱり何か聞こえる。”
僅かだが、今度は確かに音を聞き取った。
「ごめん、静かにして。」
リンクは集中しながらみんなに伝えた。
「どうしたんだ?」
「静かに。」
バドの言葉も短くはねのけると、リンクは耳を澄ませた。ドン。
“後ろ……?”
リンクは振り返った。しかし壁が広がるばかりで、音の発信源はなさそうだ。リンクが首を傾げかけた時、ドン!
“やっぱりこっちだ。それで……”
リンクは壁に歩み寄り、音がした気のするところに手を当てた。
“この辺り……?”
ドン!!
“………!”
振動を感じとった。リンクは衝撃に驚いたものの、何かあると確信する。
「ねぇ、この奥に何があるの?」
リンクは壁を擦りながら、聞いた。
「はぁ?何言ってんだ。この部屋が一番奥だぜ?」
バドの怪訝そうな声に、リンクは首を振る。
「いや、違う。この奥にも空間があるはずだ。ファイ。」
リンクはファイを見やった。名前を読んだだけで意図を察してくれたファイは調べてくれている。だがすぐに、首を振った。
「……サーチ不可能です。」
「そっか。じゃあどうしようかな……。」
リンクは困ったと思いながら、壁に目を戻した。
「何かあるのは間違いなさそうだヨ。」
ヒュン、と窓からナビィが入ってきた。
「建物は続いてる。」
自分を信じて動いてくれる相棒達を頼もしく思いながら、リンクは頷いた。
「何かよく分かんねぇけどよ……この奥の様子が分かればいいのか?確か城の見取り図があったはずだ。持ってきてやるよ。」
ようやくバドもリンクの思いを汲みとってくれたらしい。そう言うと、ガシガシと頭を掻きながら出ていった。
「本当に何かあるのか?」
ダークリンクがなおも不思議そうに聞いた。ナビィが強く光った。
「あったもん。窓から見てみれば?」
リンクは続いている三人の話を聞き流しながら、壁を調べた。手を当てながら移動する。すると突然、壁がクルリと回った。そのまま、奥へ入り込んでしまう。
「うわっ。……やっぱり、奥にも部屋があった。」
リンクは驚きの声を上げるも、すぐに状況を理解した。早速その部屋を探索する。とは言え、部屋には何もなく、一見、何の変哲もない部屋だった。あの音は一体どこからしたのかと考えていると、突然、足元に穴が現れた。
「……!うわぁー!!」
情けなくも、ドサッと下に落ちる。
「……いたた……何、あれ……。」
「考えなしにこちらに来たのは、問題だったな、小僧。」
唐突に響いた低い声。リンクは背筋が凍ったのを感じた。恐る恐る声の方を見る。すると、そこにはガノンドロフが腰を据えていた。側にギラヒムとザントもいる。彼等の様子を確認する間もなく、別の方向からスタスタスタと足音が聞こえた。そちらに顔を向けると、怖い顔でゼルダが近づいてきていた。ゼルダはリンクの前まで来ると、パシーン!と頬を平手打ちした。
「どうして……どうしてっ!」
ゼルダの声は悲痛だった。リンクはぶたれて顔を背けたまま、ギュッと目を瞑った。
“耐えろ、耐えるんだ……!”
しかし、ゼルダの言葉は続かない。
「その様子だと、何で姫さんが怒っているか分かってないね。」
呆れたようでいて、優しさを含む声。これは、ミドナだ。その声を聞いて、リンクは何故か安心した。ふと、ミドナの声に怒気が含まれていないことに気付く。不思議に思いながら、ゆっくりと目を開け、まずはゼルダをうかがった。彼女はリンクを真っ直ぐ見据えたまま涙を流していた。その様子にリンクは驚く。
「……ゼルダ……?」
「気安く姫様の名を呼ぶんじゃない!!」
リンクは思わずゼルダを呼び掛けたが、途端に鋭い叱責がとんできた。リンクはインパの怒鳴り声にビクリとし、俯いた。
「……ごめんなさい。」
自分の罪を、立場を、再確認しながら、リンクは小さな声で謝った。
「その話は後でいいよ。」
リンクが顔を上げられないでいると、心底面倒臭そうな声がした。ギラヒムだ。
「今すぐ君をいたぶってあげたいのは山々だけど、出る方が先だ。リンク君が入って来れたということは、出ることも可能なのでは?」
「だからどうやってだよ。今まで散々試しただろう。」
ギラヒムの問いに、呆れたようなミドナの声が答える。
「それを考えるんじゃないか。」
ザントがむくれたような声で言った。
「さっき魔王様がしたように壁を叩いてみるか?今なら、こいつのように気付くかもしれん。」
インパが固い声で言った。そこまで聞いて、リンクは顔を上げた。側でゼルダが泣き崩れているのが見える。
“だけど、ゼルダを慰めるのは、もうオレの役目じゃない。”
後ろ髪引かれる思いで視線を外した。幹部四人が話し合っている。その奥でガノンドロフがどっしりと座り、じっとリンクを見ていた。目が合ったが、リンクは慌てて逸らし、上を見た。
“みんなはここに閉じこめられていたのか……。ん?あれは……。”
リンクは遙か上空に穴が開いていることに気付いた。立ち上がり、他の人から離れて観察する。
“オレはあそこから落ちたのか。リーバルトルネードが使えれば楽に登れるんだけどな。いや……。”
壁に何かあることに気付き、リンクは目を凝らした。
“なんであんなものがあるのか知らないけど。これなら出られる。”
それが何かを理解してすぐ、リンクはダブルクローショットを取り出し、的に向けて撃った。壁伝いに上へ登る。
隠し部屋まで戻ったリンク。急いで元の部屋に戻った。そこでは焦った顔でダークリンク、ナビィ、ファイ、バドが話し合っていた。
「ねぇ!」
リンクが呼びかけると、肩を大きく震わせて4人がリンクを見た。かと思えば、すぐに安堵の表情が見えた。
「ちょっと!どっから現れるのヨ!大体、いきなり消えたりしないで!」
ナビィが怒鳴った。
「ごめんね。それより。見つけた。」
謝罪もそこそこに、リンクは用件を伝えた。
「はぁ?あ、奥の謎?」
ダークリンクが難しい顔をして聞く。
「それもだけど。いなくなっていたみんなを見つけた。」
「みんなって?」
リンクはナビィの問いには答えなかった。
「お願い、急いで太くて長いロープを持ってきて。後、力のあるやつを呼んできてほしいな。」
「お、おい、お前何言ってんのか全然分からないぞ。」
バドはたじたじだった。リンクは、確かに説明不足かと思い、焦る気持ちを抑えた。
「この奥に閉じこめられている人がいる。引っ張り出してあげなきゃいけない。多分、閉じこめられてから随分経っている。早く出してあげたいんだ。」
リンクが身振りを交えて状況を話すと、バドはようやく頷いた。
「分かった。取り敢えず、ロープだな。俺はロープを探してくるから、ダークリンク、」
「力のあるやつでいいんだな。探してくる。」
簡潔にこれからの行動を決めると、二人は出ていった。それを見送って、リンクは一息つく。
「どなたを見つけたのですか?」
リンクが落ち着いたのを見計らって、黙っていたファイが問いを発した。
「ゼ……すぐに分かるよ。悪いけど、二人はオレに着いてきて。引っ張り上げるとき、伝達役になってほしいんだ。」
「承知しました。」
「任せてヨ!」
リンクが頼むと、ファイとナビィはそれ以上何も聞かず、二つ返事で引き受けた。その後、バドがロープを持ち帰り、ダークリンクがダルニアとキングブルブリンを連れてきた。みんなで奥の部屋に入る。
「この下なんだ。あ、落ちないように気を付けてね。オレは下に降りてロープの強度を確かめる。しっかり固定してね。ナビィかファイが連絡に来るから、そうしたら引っ張って。」
「おう。任せろ!」
「わかっタ。」
ダルニアとキングブルブリンはロープを固定し始めた。
「じゃあ、ファイ、ナビィ。行くよ。」
ロープが固定されたことを確認し、一度深呼吸。覚悟を決めて飛び降りた。今度は上手に着地する。降りてすぐ、ロープを引っ張り、強度を確かめた。
「これなら大丈夫だね。さて……。」
リンクは振り向き、ようやく幹部達を見た。ガノンドロフとミドナ以外が驚きを露にしていた。
「……気に食わないと思うけど。ここから出たいでしょ?このロープは上と繋がっている。ダルニアとキングブルブリンが引っ張ってくれるから、このロープに掴まって。」
すると、ミドナが前に出てきた。
「本来は姫さんを最初に行かせるべきだが。上の安全は確かめなければいけないな。ワタシが最初に行く。」
リンクは黙ってロープを差し出した。その手が震えないように力を込める。ミドナは当然のようにそれを受け取った。
「ちょ、ちょっと待って!見つけたのって、」
それまで黙っていたナビィが慌てたように声をあげた。だが、リンクはそれに被せるように頼んだ。
「ナビィ、上の人に伝えてきて。」
「だけど、リンクは……!」
ナビィの声は震えていた。
「ナビィ。大丈夫。行って。」
固い顔のまま、リンクは重ねて言う。しばらくナビィは躊躇していたが、やがて意を決したように飛び去っていった。少しして、ロープが引っ張られる。ゆっくりとミドナが上がっていった。やがて、ロープが戻ってきて、ナビィも降りてきた。
「ミドナは無事に上がったヨ。みんな驚いていたケドネ。」
リンクは頷くと、幹部達を見た。
「……次は?」
そうして、幹部達は上がっていった。
最後の一人が上がっていき、リンクは思いの外入っていた力を抜く。
「リンク、大丈夫……?」
残っていたナビィが心配そうにリンクを照らした。
「うん。あ、今からは俺の味方をしたらダメだよ。」
「嫌だ!!」
リンクが優しく微笑みかけると、ナビィは拒否の光を発した。
「ナビィ。」
リンクは宥めようと試みるが、ナビィは駄々をこねるように大きく動いた。
「ヤダヤダ、絶対イヤ!リンク、今、城にはリンクの味方、いっぱいいるの。本当のことは言わなくてもいい。だけど……みんな、リンクを信じてる。だから、一緒に頑張ろうヨ。私達なら出来るヨ。」
リンクは動きを止めた。ナビィの言葉を反駁する。一緒に頑張ろう、それは、とても心強い言葉だった。
「……そう、だね………。」
ポツリとリンクは呟く。ふとリンクは不思議なものを見つけた。そちらに行く。
「どうしたの?」
ナビィから質問が飛んできたが、リンクは調べるのに忙しく、しばらく答えられなかった。やがて、リンクはナビィに向き直る。
「ナビィ、悪いんだけど、先に戻ってて?」
「い、や、だ、と言ってるでしょう!!」
すぐさまナビィは噛みついてきた。リンクは苦笑しながら不思議なものに目を向けた。
「ちょっと気になることがあるんだ。時間がかかりそう。」
シュル、と音が鳴った。音の方を見ると、ロープの先が降りてきていた。リンクはそれをしばらく眺めていたが、ナビィに目を向ける。
「申し訳ないけど、ロープはもういいって伝えて。オレは自力で上がれるから、って。」
「リンク、」
「待たせちゃいけないから。お願い、ナビィ。」
焦燥感溢れるナビィの呼びかけを再度遮り、リンクは懇願した。しばらくナビィは葛藤しているようだったが、心を決めたらしく、強く光った。
「じゃあ、リンクも待ってて。ナビィ、戻ってくるから!」
ナビィは飛んでいった。それ以上は何を言っても無駄だろうと諦めたリンクは、不思議なものに向き直る。
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リンクの影からダークリンクが現れた。リンクは大きな動作でダークリンクの方を向く。
「いたの!?人払いしてって頼まれたのに!!」
「お前許可とってたじゃねーか。」
「そういう意味じゃなかった!」
面倒臭そうに言うダークリンクに、リンクは噛みつく。しかし、ダークリンクは聞く耳を持たなかった。
「に、しても……薬草摘みに行ったって場所は超危険じゃねぇか?無謀というか、よく行けたよな。マジでなんなの、お前。」
ダークリンクはじとりとした目をリンクに向けた。リンクはため息を吐きながら、言葉を返す。
「フックショットとか鉤爪ロープとか使えば難なく行けたよ。それにしても……今の話、全部聞いていたんだよね?」
「あぁ。ばっちりな。……ナビィとファイには話すからな。」
険しい顔をしてダークリンクは言った。リンクはやれやれと首を振る。
「……あの二人だったら仕方ないか……。それで。さっきの伝承のことだけど、どう思う?」
リンクの質問に対し、ダークリンクは反応に困ったようだった。
「どうって……。そんな伝承あったのか、くらいしかねぇな。」
「似たような話を聞いたことはない?」
畳みかけるようにリンクは聞いた。
「似たような話?」
ポカンとしながら、ダークリンクはオウム返しをした。リンクは頷く。
「彼らの伝承は火属性の話だったけど。他の属性についてとか。」
「んー……。」
ダークリンクは腕を組んで考えているようだった。だがやがて、首を振る。
「そんな形の話は知らないな。だが、6の属性とかいうのは聞き覚えがある気がする。」
「場所は分かる?」
リンクは半ば被せるように聞いた。
「場所?」
ダークリンクは怪訝そうな顔をして聞き返した。
「そう。さっきの話だと、後5ヶ所、それぞれの属性で何かあるはずだよね。調べなきゃ。でもどうしたら……多分、女神側と言うより魔族側、だよね……。いや、両方混ざっているのかな……どっちにしても、オレでは……。」
ダークリンクに話していたのに、焦るあまり途中から独り言のようになっていく。リンクがぶつぶつと考えを巡らせていると、
「あ、の、な!!」
突然、ダークリンクが大声を出した。リンクはビクリと反応する。
「何で一人で動くことが前提なんだよ!!」
リンクはポカンとしてダークリンクを見た。ダークリンクは必死の形相だった。だが、すぐにいつもの表情に戻り、リンクに言う。
「第一、お前はこっから出れない。脱走とか考えんな。」
ちらりと窓を見たリンクに、ダークリンクは早口で最後を付け加えた。リンクは腕を組んでじとりとダークリンクを見る。
「ここにいてもどうにもならないし、そろそろ出たいと思っているんだけど。」
「却下。」
リンクの要望は即座に斬り捨てられた。ダークリンクは呆れたような顔をしている。
「残れって言ってるだろ。で……調べてきてやるよ。幸い、オレはそこそこ伝がある。」
リンクはダークリンクの申し出に驚いた。だが、少し考えて、その方がいいと判断する。
「うん。それはお願いしようかな。オレだと聞ける話も聞けないだろうし……。あのさ、水の場所を早急に頼める?」
ダークリンクは首を傾げた。
「水?何でだよ?」
リンクは慎重に言葉を選びながら答えた。
「ちょっと気になることがあって。場所によっては、いろいろとまずい事態になっているかもしれない。」
ダークリンクが眉間に皺を寄せた。
「だから、」
「まだ聞かないで。」
ダークリンクの怒りの声をリンクは慌てて遮った。
「バイアスをかけたくないんだ。調べてきてくれたら、ちゃんと話すから。」
リンクの説得にもかかわらず、ダークリンクは納得していない顔だった。
「そうは言っても、」
その時、扉が開いた。ダークリンクはそれを見て口をつぐむ。バドやナビィ、ファイが入ってきた。
「やっぱお前すげー。あいつ納得して帰ってったぜ。人探しも必要ないってさ。」
「そっか。」
バドの賞賛に対し、リンクは苦笑いした。――……。
“ん?今、何か……。”
リンクの鼓膜が震えた気がした。リンクは不思議に思い、神経を研ぎ澄ます。
「それにしても、ダークリンクはいつの間に来たんだ?」
「さっきな。」
隣でバドとダークリンクが話している。ドン……。
“やっぱり何か聞こえる。”
僅かだが、今度は確かに音を聞き取った。
「ごめん、静かにして。」
リンクは集中しながらみんなに伝えた。
「どうしたんだ?」
「静かに。」
バドの言葉も短くはねのけると、リンクは耳を澄ませた。ドン。
“後ろ……?”
リンクは振り返った。しかし壁が広がるばかりで、音の発信源はなさそうだ。リンクが首を傾げかけた時、ドン!
“やっぱりこっちだ。それで……”
リンクは壁に歩み寄り、音がした気のするところに手を当てた。
“この辺り……?”
ドン!!
“………!”
振動を感じとった。リンクは衝撃に驚いたものの、何かあると確信する。
「ねぇ、この奥に何があるの?」
リンクは壁を擦りながら、聞いた。
「はぁ?何言ってんだ。この部屋が一番奥だぜ?」
バドの怪訝そうな声に、リンクは首を振る。
「いや、違う。この奥にも空間があるはずだ。ファイ。」
リンクはファイを見やった。名前を読んだだけで意図を察してくれたファイは調べてくれている。だがすぐに、首を振った。
「……サーチ不可能です。」
「そっか。じゃあどうしようかな……。」
リンクは困ったと思いながら、壁に目を戻した。
「何かあるのは間違いなさそうだヨ。」
ヒュン、と窓からナビィが入ってきた。
「建物は続いてる。」
自分を信じて動いてくれる相棒達を頼もしく思いながら、リンクは頷いた。
「何かよく分かんねぇけどよ……この奥の様子が分かればいいのか?確か城の見取り図があったはずだ。持ってきてやるよ。」
ようやくバドもリンクの思いを汲みとってくれたらしい。そう言うと、ガシガシと頭を掻きながら出ていった。
「本当に何かあるのか?」
ダークリンクがなおも不思議そうに聞いた。ナビィが強く光った。
「あったもん。窓から見てみれば?」
リンクは続いている三人の話を聞き流しながら、壁を調べた。手を当てながら移動する。すると突然、壁がクルリと回った。そのまま、奥へ入り込んでしまう。
「うわっ。……やっぱり、奥にも部屋があった。」
リンクは驚きの声を上げるも、すぐに状況を理解した。早速その部屋を探索する。とは言え、部屋には何もなく、一見、何の変哲もない部屋だった。あの音は一体どこからしたのかと考えていると、突然、足元に穴が現れた。
「……!うわぁー!!」
情けなくも、ドサッと下に落ちる。
「……いたた……何、あれ……。」
「考えなしにこちらに来たのは、問題だったな、小僧。」
唐突に響いた低い声。リンクは背筋が凍ったのを感じた。恐る恐る声の方を見る。すると、そこにはガノンドロフが腰を据えていた。側にギラヒムとザントもいる。彼等の様子を確認する間もなく、別の方向からスタスタスタと足音が聞こえた。そちらに顔を向けると、怖い顔でゼルダが近づいてきていた。ゼルダはリンクの前まで来ると、パシーン!と頬を平手打ちした。
「どうして……どうしてっ!」
ゼルダの声は悲痛だった。リンクはぶたれて顔を背けたまま、ギュッと目を瞑った。
“耐えろ、耐えるんだ……!”
しかし、ゼルダの言葉は続かない。
「その様子だと、何で姫さんが怒っているか分かってないね。」
呆れたようでいて、優しさを含む声。これは、ミドナだ。その声を聞いて、リンクは何故か安心した。ふと、ミドナの声に怒気が含まれていないことに気付く。不思議に思いながら、ゆっくりと目を開け、まずはゼルダをうかがった。彼女はリンクを真っ直ぐ見据えたまま涙を流していた。その様子にリンクは驚く。
「……ゼルダ……?」
「気安く姫様の名を呼ぶんじゃない!!」
リンクは思わずゼルダを呼び掛けたが、途端に鋭い叱責がとんできた。リンクはインパの怒鳴り声にビクリとし、俯いた。
「……ごめんなさい。」
自分の罪を、立場を、再確認しながら、リンクは小さな声で謝った。
「その話は後でいいよ。」
リンクが顔を上げられないでいると、心底面倒臭そうな声がした。ギラヒムだ。
「今すぐ君をいたぶってあげたいのは山々だけど、出る方が先だ。リンク君が入って来れたということは、出ることも可能なのでは?」
「だからどうやってだよ。今まで散々試しただろう。」
ギラヒムの問いに、呆れたようなミドナの声が答える。
「それを考えるんじゃないか。」
ザントがむくれたような声で言った。
「さっき魔王様がしたように壁を叩いてみるか?今なら、こいつのように気付くかもしれん。」
インパが固い声で言った。そこまで聞いて、リンクは顔を上げた。側でゼルダが泣き崩れているのが見える。
“だけど、ゼルダを慰めるのは、もうオレの役目じゃない。”
後ろ髪引かれる思いで視線を外した。幹部四人が話し合っている。その奥でガノンドロフがどっしりと座り、じっとリンクを見ていた。目が合ったが、リンクは慌てて逸らし、上を見た。
“みんなはここに閉じこめられていたのか……。ん?あれは……。”
リンクは遙か上空に穴が開いていることに気付いた。立ち上がり、他の人から離れて観察する。
“オレはあそこから落ちたのか。リーバルトルネードが使えれば楽に登れるんだけどな。いや……。”
壁に何かあることに気付き、リンクは目を凝らした。
“なんであんなものがあるのか知らないけど。これなら出られる。”
それが何かを理解してすぐ、リンクはダブルクローショットを取り出し、的に向けて撃った。壁伝いに上へ登る。
隠し部屋まで戻ったリンク。急いで元の部屋に戻った。そこでは焦った顔でダークリンク、ナビィ、ファイ、バドが話し合っていた。
「ねぇ!」
リンクが呼びかけると、肩を大きく震わせて4人がリンクを見た。かと思えば、すぐに安堵の表情が見えた。
「ちょっと!どっから現れるのヨ!大体、いきなり消えたりしないで!」
ナビィが怒鳴った。
「ごめんね。それより。見つけた。」
謝罪もそこそこに、リンクは用件を伝えた。
「はぁ?あ、奥の謎?」
ダークリンクが難しい顔をして聞く。
「それもだけど。いなくなっていたみんなを見つけた。」
「みんなって?」
リンクはナビィの問いには答えなかった。
「お願い、急いで太くて長いロープを持ってきて。後、力のあるやつを呼んできてほしいな。」
「お、おい、お前何言ってんのか全然分からないぞ。」
バドはたじたじだった。リンクは、確かに説明不足かと思い、焦る気持ちを抑えた。
「この奥に閉じこめられている人がいる。引っ張り出してあげなきゃいけない。多分、閉じこめられてから随分経っている。早く出してあげたいんだ。」
リンクが身振りを交えて状況を話すと、バドはようやく頷いた。
「分かった。取り敢えず、ロープだな。俺はロープを探してくるから、ダークリンク、」
「力のあるやつでいいんだな。探してくる。」
簡潔にこれからの行動を決めると、二人は出ていった。それを見送って、リンクは一息つく。
「どなたを見つけたのですか?」
リンクが落ち着いたのを見計らって、黙っていたファイが問いを発した。
「ゼ……すぐに分かるよ。悪いけど、二人はオレに着いてきて。引っ張り上げるとき、伝達役になってほしいんだ。」
「承知しました。」
「任せてヨ!」
リンクが頼むと、ファイとナビィはそれ以上何も聞かず、二つ返事で引き受けた。その後、バドがロープを持ち帰り、ダークリンクがダルニアとキングブルブリンを連れてきた。みんなで奥の部屋に入る。
「この下なんだ。あ、落ちないように気を付けてね。オレは下に降りてロープの強度を確かめる。しっかり固定してね。ナビィかファイが連絡に来るから、そうしたら引っ張って。」
「おう。任せろ!」
「わかっタ。」
ダルニアとキングブルブリンはロープを固定し始めた。
「じゃあ、ファイ、ナビィ。行くよ。」
ロープが固定されたことを確認し、一度深呼吸。覚悟を決めて飛び降りた。今度は上手に着地する。降りてすぐ、ロープを引っ張り、強度を確かめた。
「これなら大丈夫だね。さて……。」
リンクは振り向き、ようやく幹部達を見た。ガノンドロフとミドナ以外が驚きを露にしていた。
「……気に食わないと思うけど。ここから出たいでしょ?このロープは上と繋がっている。ダルニアとキングブルブリンが引っ張ってくれるから、このロープに掴まって。」
すると、ミドナが前に出てきた。
「本来は姫さんを最初に行かせるべきだが。上の安全は確かめなければいけないな。ワタシが最初に行く。」
リンクは黙ってロープを差し出した。その手が震えないように力を込める。ミドナは当然のようにそれを受け取った。
「ちょ、ちょっと待って!見つけたのって、」
それまで黙っていたナビィが慌てたように声をあげた。だが、リンクはそれに被せるように頼んだ。
「ナビィ、上の人に伝えてきて。」
「だけど、リンクは……!」
ナビィの声は震えていた。
「ナビィ。大丈夫。行って。」
固い顔のまま、リンクは重ねて言う。しばらくナビィは躊躇していたが、やがて意を決したように飛び去っていった。少しして、ロープが引っ張られる。ゆっくりとミドナが上がっていった。やがて、ロープが戻ってきて、ナビィも降りてきた。
「ミドナは無事に上がったヨ。みんな驚いていたケドネ。」
リンクは頷くと、幹部達を見た。
「……次は?」
そうして、幹部達は上がっていった。
最後の一人が上がっていき、リンクは思いの外入っていた力を抜く。
「リンク、大丈夫……?」
残っていたナビィが心配そうにリンクを照らした。
「うん。あ、今からは俺の味方をしたらダメだよ。」
「嫌だ!!」
リンクが優しく微笑みかけると、ナビィは拒否の光を発した。
「ナビィ。」
リンクは宥めようと試みるが、ナビィは駄々をこねるように大きく動いた。
「ヤダヤダ、絶対イヤ!リンク、今、城にはリンクの味方、いっぱいいるの。本当のことは言わなくてもいい。だけど……みんな、リンクを信じてる。だから、一緒に頑張ろうヨ。私達なら出来るヨ。」
リンクは動きを止めた。ナビィの言葉を反駁する。一緒に頑張ろう、それは、とても心強い言葉だった。
「……そう、だね………。」
ポツリとリンクは呟く。ふとリンクは不思議なものを見つけた。そちらに行く。
「どうしたの?」
ナビィから質問が飛んできたが、リンクは調べるのに忙しく、しばらく答えられなかった。やがて、リンクはナビィに向き直る。
「ナビィ、悪いんだけど、先に戻ってて?」
「い、や、だ、と言ってるでしょう!!」
すぐさまナビィは噛みついてきた。リンクは苦笑しながら不思議なものに目を向けた。
「ちょっと気になることがあるんだ。時間がかかりそう。」
シュル、と音が鳴った。音の方を見ると、ロープの先が降りてきていた。リンクはそれをしばらく眺めていたが、ナビィに目を向ける。
「申し訳ないけど、ロープはもういいって伝えて。オレは自力で上がれるから、って。」
「リンク、」
「待たせちゃいけないから。お願い、ナビィ。」
焦燥感溢れるナビィの呼びかけを再度遮り、リンクは懇願した。しばらくナビィは葛藤しているようだったが、心を決めたらしく、強く光った。
「じゃあ、リンクも待ってて。ナビィ、戻ってくるから!」
ナビィは飛んでいった。それ以上は何を言っても無駄だろうと諦めたリンクは、不思議なものに向き直る。
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