新たな敵の存在
リンクは、近くの物に寄りかかった。さっきの悪役振りを思い出し、リンクは項垂れる。俯いたまま、何度か深呼吸をして心を落ち着かせようとした。
「大丈夫……大丈夫だ……あんなの、まだなんてことない……もっと酷いことを言ったこともある……もっと傷つけたこともある……この程度…、なんでもないんだ……!」
「おい、お人好し。」
ビクリと肩を揺らし、リンクは顔を上げた。目の前にダークリンクがいた。いつ来たのかは知らないが、いたのがダークリンクだったことにリンクはひどく安心した。
「なんだ、ダークか……。何?」
安心したのだが、どうにも素っ気ない言い方をしてしまった。いや、悪役を演じなければならないのだったとリンクは気を持ち直す。
「何じゃねぇし。大丈夫かよ?」
呆れたような言い方をしていたが、ダークリンクが心配してくれているのは感じとれた。
「……何が。別になんともないし。」
暗い気持ちを押しやりながら、リンクは虚勢を張る。
「なぁ知ってるか?今ここにいるの、俺とお前だけなんだけど。」
やれやれと言った風にダークリンクが言った。ダークリンクの思惑に流されまいと、リンクは顔を背けた。
「……だから何。大丈夫だって言っているでしょ。」
「そうは見えねぇけど?」
リンクの弱い抵抗では、ダークリンクは崩れない。とうとうリンクは、ほとんど見えていた白旗に手を伸ばした。
「……大丈夫だよ。久々だったから、ちょっと参っているだけで。前も出来たんだ。すぐに慣れる。」
ダークリンクのため息が聞こえた。
「……なぁ、お人好し。」
その呼びかけに、そういえば言っておかなければいけないことがあった、とリンクは口を開いた。
「あのさ、ずっと気になっていたんだけど。仮にもオレ、世界を襲った破壊者だよ?お人好しではないよね?」
次の瞬間、リンクはダークリンクに肩を強く掴まれていた。
「破壊するつもりなんざ微塵もなかっただろうが!魔王側と女神側を協力させるために自分を犠牲にするやつを、お人好しと言わずに何と言う!?」
息も荒くダークリンクは捲し立てた。そろそろとリンクがダークリンクをうかがうと、悔しさを噛みしめたような顔をしていた。リンクは再度顔を逸らす。
「声が大きい。誰かに聞かれたらどうしてくれるの。」
淡々と、事実だけの文句を垂れる。
「知らねぇ。」
ダークリンクの返答は投げやりだった。痛い沈黙が流れる。
「それで、何?」
暗くなりすぎた空気を変えようとリンクは話を戻した。すると、ダークリンクはリンクの肩を放した。そうかと思うと、リンクはダークリンクに覗き込まれていた。
「辛いんならさ、もうやめねぇ?」
あまり本題が変わらなかったとリンクは思った。あえてリンクは惚ける。
「何を?って、辛いこととかないよ。」
「虚勢張んなよ。自覚してねぇようだから言うが、お前今、メッチャ苦しそうな顔してんぞ。」
リンクは押し黙った。やがて、声を絞り出す。
「してない。オレは、大丈夫。」
自分で自分に言い聞かせているようだと自分でも思った。
「そんなことをして、誰が喜ぶって言うんだよ。もうやめろよ、悪役なんて。そもそも、お前には向いてねぇんだよ。」
優しい声でダークリンクは言った。リンクはギリと唇を噛む。
「だからさ、オレを何だと思っているの。」
「お人好し。」
やっとの思いで発した抵抗も、ダークリンクの即答によって自分を追い詰める手段に変わった。リンクはただ、力なく首を振った。
「どうしてもって言うんなら。改心したことにでもすれば?あいつが言ってたみたいに。」
ダークリンクの提案がすぐに理解できなかった。
「……改心?」
リンクはオウム返しする。ダークリンクは頷いた。
「あぁ。改心しました、なら、世界を襲った理由なんて、問題にならなくなるだろ。」
リンクは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……上手くいくと思えない。」
ダークリンクはとうとうカチンときたようだった。
「じゃあそのまま続ければ?そのうち、お前の精神がおかしくなって、ボロが出るだけだろうがな。」
ダークリンクの突き放すような言い方にリンクは焦った。
「……っ!オレ、」
このままでは不味い、はじめてその可能性に気付いた。リンクは真っ青になる。素っ気ない言い方をしたダークリンクだったが、次の言葉には優しさが戻ってきていた。
「なんてな。もうお前は一人じゃない。俺達が支えてやる。」
リンクはダークリンクを振り払った。声を張り上げて訴える。
「やめて、ダメだってば!何を考えてるの?そんなことをしたら、」
「だったらせめて改心したことにしとけ。」
震える声で訴えるリンクを、ダークリンクは遮った。
「もう俺らは……いや、俺は。お前を見捨てない。もう、間違えない。」
「君は何も間違えてなんかいない……!」
悲痛な声でリンクは主張した。ダークリンクは優しい顔でリンクに微笑みかける。その時、突然扉が開いた。ひょこっとルージュが顔を出す。
「ダークリンク、お主も来てくれ。」
「おう。難航してんだな。」
驚くこともなく、ダークリンクは言葉を返した。ルージュは難しい顔をする。
「あぁ。反対派が全然納得せん。そろそろファイとナビィだけでは辛い。」
「分かった。今行く。」
ダークリンクが言うと、ルージュは戻っていった。その会話の間に、リンクは落ち着きを取り戻していた。嫌な予感を押しやりながら、リンクは聞く。
「反対派……ファイとナビィ……。ダーク、今、何を話し合っているの?」
ダークリンクは肩をすくめた。
「心配すんな。ちゃんと話付けて来るから。」
全く取り合おうとしないダークリンクに、リンクは不安を覚えた。
「変な説得とかしてないよね?」
「お前が心配することじゃねぇ。」
ダークリンクの返答する声は固い。それでリンクは、自分の望まぬ有益を求めていると判断した。
「何を説得しているのか知らないけれど。オレのせいで君達が不利になるのは見たくない。ここに居られないのなら、出ていく。」
ダークリンクは舌打ちをした。仕方なさそうに口を開く。
「残念ながら、あいつらの要求はお前を野放しにすることじゃない。お前に刑罰を与え、またあの地下牢に入れることだ。」
リンクは狼狽えた。だが、当然のことだとすぐに受け入れる。
「それが必要なら、オレは」
「ふざけんじゃねぇ!させてたまるかっ!」
突然ダークリンクが叫んだ。怒り狂った顔をしている。だがすぐに、決意を新たにしたようなキリっとした顔をした。
「絶対防いでやる。お前は大人しくここで待ってろ。」
ダークリンクはリンクに背を向けた。
「ダーク。」
頼もしいダークリンクの背にリンクは声をかける。その背に重荷を乗せるつもりはなかった。
「オレの為に、君達が頑張る必要はない。……みすみす地下牢に戻すのが嫌だっていうのなら、オレは、自力で逃げるから、」
クルリとダークリンクはこちらを向いた。その顔は必死の様相だった。
「逃げんなよ、ぜってぇここにいろ!」
「だけど、」
「言っとくが、俺も、ナビィやファイも、その他お前を信じる何人かも、もう動き始めた!今お前がいなくなったら、それこそ俺らは立場がなくなるんだよっ!!」
リンクから血の気が失せた。自分が思っていた以上に深刻な状態だった。リンクは狼狽するしかない。
「そ、そんな……、君達、一体何しているの……!」
カラカラの声で、リンクはダークリンクに聞いた。
「大丈夫だから。ここで待ってろ。」
だが、ダークリンクは詳細を話すことなく部屋を出て行ってしまった。リンクはその場に崩れ落ちる。自然と、胸元で手を組んでいた。
「お願い、お願いだから、彼等だけは、助けて………。」
暫くして、扉が開いた。リンクは蹲ったまま動けずにいたのだが、そろそろと顔を上げる。ファイ、ナビィ、ダークリンクが入ってきていた。
「ちょっと!なんて顔をしているの!?」
リンクの顔を見たナビィが叫ぶ。だが、それに構う余裕はリンクになかった。
「大丈夫、なの……?」
恐る恐る、リンクは問いかけた。
「話はつきました。問題ありません。」
ファイが答えたが、リンクの安心材料にはならなかった。
「君達は、大丈夫なの……?」
震える声で、再度リンクは問いかけた。すると、ダークリンクがため息を吐いた。
「テメェ、それしか考えてなかったのかよ。大丈夫だって言ったろ。話はなかなかまとまらなかったが、俺達にダメージはねぇよ。」
「本当……?」
「あったりまえじゃない!」
ダークリンク、ナビィ二人の証言があってもリンクの不安は拭えなかった。
「我々が劣勢だという根拠は何ですか?」
ファイが質問を投げかけた。それに対し、リンクは眉間に皺を寄せた。
「普通に考えて、オレの肩を持ったら疑われるよね。」
「なるほど。マスターの思い込みですか。その考えは間違っています。我々の身の安全は保証しますので、ご安心を。」
ばっさりとファイが切り捨てた。そこでようやく、三人の無事を確信する。突然、リンクの力が抜けた。リンクは力なく床に横たわる。
「そっか……よかった……。」
「り、リンク!?大丈夫!?」
ナビィの慌てた声が聞こえた。リンクはなんだか笑いそうになる。
「大丈夫、大丈夫だよ……。ちょっと怖かっただけ。君達を巻き込んだんじゃないかって、怖かっただけ、だから……。」
リンクは、ナビィを安心させようと、今の心境を吐露した。
「その心配、ちょっとは自分に向けろよな。」
ダークリンクの呆れ切った声が聞こえた。とうとう、リンクは力なく笑った。
「で、さっき決まったことだが、聞けるか?少し休む?」
「あぁ、そうだったね。」
一度深呼吸をして、リンクは起き上がった。しっかりと地に足をつけてダークリンクを見据える。
「オレは、どうしたらいいの?」
「ここで待機。」
ダークリンクはただそれだけを言った。リンクは拍子抜けする。だが、いくら待ってもそれ以上の回答が返ってこなかった。
「……それで?」
仕方なく、リンクは先を促した。すると、ダークリンクは肩をすくめた。
「以上。とりあえず、こっから出るな?」
リンクは思考を巡らせた。やはりどう考えても、それだけでは納得できない。リンクは更に口を開いた。
「……あのさ。オレ、協力するためにここに留まることになったんだよね?」
「まぁ、それは追々ってことで。」
ナビィがあっけらかんとして言った。
「ヤツのことはどうなったの?って、オレには話せないか。」
自分で言ってハッと気付く。破壊者である自分に、全ての情報が開示されるわけがないのだ。しかし、ファイが首を振った。
「いえ。情報を伏せることは要求されませんでした。しかし、敵勢についての話し合いはまだ行われておりません。」
リンクは少し固まる。色々と言いたいことはあるが、とりあえず。
「ヤツを野放しにしたら、何をし出すか分からないんだけど。」
「それはお前だ。」
ダークリンクの短い反論に、リンクは言葉を詰まらせた。それを言われると何も言えなかった。
「そーいや、お前こっちのことどれだけ分かってんの?」
ダークリンクが逆に質問してきた。リンクは、何が分かっていただろうか、と少し考えて、ほとんど情報を持っていないことに気付いた。
「それが……この城下町が、毎晩現れる敵に悩まされていたことすら最近知ったくらいで……。」
じとりとした目でダークリンクはこちらを見た。だがそれは一瞬で、すぐに現状の説明をしてくれた。ダークリンクの話をまとめるとこうだ。連合軍の拠点だった中央の城は襲われ、女神側の城に避難した。避難先を決める際に知ったことだが、魔王側の城は既に陥落していた。女神側の城で態勢を立て直そうとしていたが、いつの頃からか、ゼルダ、ガノンドロフ、そして幹部4人が姿を消した。現在は有志で城を保たせている状態で、実はかなり危うい状況だ。ここまで聞いて、リンクは自分の不甲斐なさにどうにかなりそうだった。世界に危機が迫っているかもしれないと思い、情報収集をしていたのに、少し別のことをしている間に大変なことになっていた。リンクが顔を歪ませていると、目の前が眩しくなった。ナビィが目の前で光ったのだ。
「まーた変なこと考えてるでしょ!リンクのせいじゃないんだからネ!むしろ、いいタイミングで来たんじゃない?」
リンクは力なく首を振った。
「頼むから今度はお前一人で何とかしようとすんな!?確かにお前が来るまで手も足も出なかったがな!!」
ダークリンクが慌てたように叫ぶ。リンクはダークリンクに微笑みかけた。
「そんなことないよ。ダークが居てくれてオレは心強かった。」
もちろんファイとナビィもね、と付け加えながら二人を見やる。
「とにかく、リンクはしばらくここで待機!こっちも情報整理したいから、それまで待ってヨ。」
照れたように光りながら、ナビィは強い口調で言った。隣でファイも頷いている。
「何か分かりましたらお伝えします。今は休まれるべきかと。」
リンクは諦めて待つことにした。
「分かった。ありがとう。君達はもう、戻った方がいいよ。」
すると、ナビィがヒュンヒュンと大きく動いた。
「あ、言い忘れていたケド。ナビィとファイ、リンクの見張りをすることになったから。」
「え?」
ポカンとしてリンクはナビィを見る。
「俺もだ。何省いてんだよ。」
不服そうな顔でダークリンクが文句を言った。
「だって、ダークリンクは色々やることあるじゃない。ここにいるのは基本的にナビィとファイになるんだから、間違ってないでしょ?」
勝手に続けられる会話に流されそうになるが、リンクは慌てて間に入る。
「ちょ、ちょっと待って。見張りって……君達、ここを離れられないの?それでいいの?」
「なぁに?まさかイヤとか言うワケ?アタシとリンクの仲でしょ?」
顔が分かるならばニヤニヤしているだろうナビィに気が遠くなる。だが、気力を振り絞ってリンクは口を開いた。
「オレは問題ないけど。でも、」
「マスターの心配が無意味である可能性99%。これ以上考えないことを推奨します。」
突然、ファイがリンクを遮った。リンクはぐうの音も出なくなった。
「ファイ、そこは100って言っておこうヨ……。」
呆れたようにナビィが言う。
「物事に絶対は言えませんので。」
「さっき200って言ったクセに!!」
間髪入れずにナビィは叫んだ。その勢いのまま、ナビィはグチグチと続けている。一方ファイは、どこ吹く風だった。
「ま、そういうことだ。諦めろ、お人好し。」
ダークリンクに言われ、リンクは不服感を拭えないながらも頷いた。
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「大丈夫……大丈夫だ……あんなの、まだなんてことない……もっと酷いことを言ったこともある……もっと傷つけたこともある……この程度…、なんでもないんだ……!」
「おい、お人好し。」
ビクリと肩を揺らし、リンクは顔を上げた。目の前にダークリンクがいた。いつ来たのかは知らないが、いたのがダークリンクだったことにリンクはひどく安心した。
「なんだ、ダークか……。何?」
安心したのだが、どうにも素っ気ない言い方をしてしまった。いや、悪役を演じなければならないのだったとリンクは気を持ち直す。
「何じゃねぇし。大丈夫かよ?」
呆れたような言い方をしていたが、ダークリンクが心配してくれているのは感じとれた。
「……何が。別になんともないし。」
暗い気持ちを押しやりながら、リンクは虚勢を張る。
「なぁ知ってるか?今ここにいるの、俺とお前だけなんだけど。」
やれやれと言った風にダークリンクが言った。ダークリンクの思惑に流されまいと、リンクは顔を背けた。
「……だから何。大丈夫だって言っているでしょ。」
「そうは見えねぇけど?」
リンクの弱い抵抗では、ダークリンクは崩れない。とうとうリンクは、ほとんど見えていた白旗に手を伸ばした。
「……大丈夫だよ。久々だったから、ちょっと参っているだけで。前も出来たんだ。すぐに慣れる。」
ダークリンクのため息が聞こえた。
「……なぁ、お人好し。」
その呼びかけに、そういえば言っておかなければいけないことがあった、とリンクは口を開いた。
「あのさ、ずっと気になっていたんだけど。仮にもオレ、世界を襲った破壊者だよ?お人好しではないよね?」
次の瞬間、リンクはダークリンクに肩を強く掴まれていた。
「破壊するつもりなんざ微塵もなかっただろうが!魔王側と女神側を協力させるために自分を犠牲にするやつを、お人好しと言わずに何と言う!?」
息も荒くダークリンクは捲し立てた。そろそろとリンクがダークリンクをうかがうと、悔しさを噛みしめたような顔をしていた。リンクは再度顔を逸らす。
「声が大きい。誰かに聞かれたらどうしてくれるの。」
淡々と、事実だけの文句を垂れる。
「知らねぇ。」
ダークリンクの返答は投げやりだった。痛い沈黙が流れる。
「それで、何?」
暗くなりすぎた空気を変えようとリンクは話を戻した。すると、ダークリンクはリンクの肩を放した。そうかと思うと、リンクはダークリンクに覗き込まれていた。
「辛いんならさ、もうやめねぇ?」
あまり本題が変わらなかったとリンクは思った。あえてリンクは惚ける。
「何を?って、辛いこととかないよ。」
「虚勢張んなよ。自覚してねぇようだから言うが、お前今、メッチャ苦しそうな顔してんぞ。」
リンクは押し黙った。やがて、声を絞り出す。
「してない。オレは、大丈夫。」
自分で自分に言い聞かせているようだと自分でも思った。
「そんなことをして、誰が喜ぶって言うんだよ。もうやめろよ、悪役なんて。そもそも、お前には向いてねぇんだよ。」
優しい声でダークリンクは言った。リンクはギリと唇を噛む。
「だからさ、オレを何だと思っているの。」
「お人好し。」
やっとの思いで発した抵抗も、ダークリンクの即答によって自分を追い詰める手段に変わった。リンクはただ、力なく首を振った。
「どうしてもって言うんなら。改心したことにでもすれば?あいつが言ってたみたいに。」
ダークリンクの提案がすぐに理解できなかった。
「……改心?」
リンクはオウム返しする。ダークリンクは頷いた。
「あぁ。改心しました、なら、世界を襲った理由なんて、問題にならなくなるだろ。」
リンクは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……上手くいくと思えない。」
ダークリンクはとうとうカチンときたようだった。
「じゃあそのまま続ければ?そのうち、お前の精神がおかしくなって、ボロが出るだけだろうがな。」
ダークリンクの突き放すような言い方にリンクは焦った。
「……っ!オレ、」
このままでは不味い、はじめてその可能性に気付いた。リンクは真っ青になる。素っ気ない言い方をしたダークリンクだったが、次の言葉には優しさが戻ってきていた。
「なんてな。もうお前は一人じゃない。俺達が支えてやる。」
リンクはダークリンクを振り払った。声を張り上げて訴える。
「やめて、ダメだってば!何を考えてるの?そんなことをしたら、」
「だったらせめて改心したことにしとけ。」
震える声で訴えるリンクを、ダークリンクは遮った。
「もう俺らは……いや、俺は。お前を見捨てない。もう、間違えない。」
「君は何も間違えてなんかいない……!」
悲痛な声でリンクは主張した。ダークリンクは優しい顔でリンクに微笑みかける。その時、突然扉が開いた。ひょこっとルージュが顔を出す。
「ダークリンク、お主も来てくれ。」
「おう。難航してんだな。」
驚くこともなく、ダークリンクは言葉を返した。ルージュは難しい顔をする。
「あぁ。反対派が全然納得せん。そろそろファイとナビィだけでは辛い。」
「分かった。今行く。」
ダークリンクが言うと、ルージュは戻っていった。その会話の間に、リンクは落ち着きを取り戻していた。嫌な予感を押しやりながら、リンクは聞く。
「反対派……ファイとナビィ……。ダーク、今、何を話し合っているの?」
ダークリンクは肩をすくめた。
「心配すんな。ちゃんと話付けて来るから。」
全く取り合おうとしないダークリンクに、リンクは不安を覚えた。
「変な説得とかしてないよね?」
「お前が心配することじゃねぇ。」
ダークリンクの返答する声は固い。それでリンクは、自分の望まぬ有益を求めていると判断した。
「何を説得しているのか知らないけれど。オレのせいで君達が不利になるのは見たくない。ここに居られないのなら、出ていく。」
ダークリンクは舌打ちをした。仕方なさそうに口を開く。
「残念ながら、あいつらの要求はお前を野放しにすることじゃない。お前に刑罰を与え、またあの地下牢に入れることだ。」
リンクは狼狽えた。だが、当然のことだとすぐに受け入れる。
「それが必要なら、オレは」
「ふざけんじゃねぇ!させてたまるかっ!」
突然ダークリンクが叫んだ。怒り狂った顔をしている。だがすぐに、決意を新たにしたようなキリっとした顔をした。
「絶対防いでやる。お前は大人しくここで待ってろ。」
ダークリンクはリンクに背を向けた。
「ダーク。」
頼もしいダークリンクの背にリンクは声をかける。その背に重荷を乗せるつもりはなかった。
「オレの為に、君達が頑張る必要はない。……みすみす地下牢に戻すのが嫌だっていうのなら、オレは、自力で逃げるから、」
クルリとダークリンクはこちらを向いた。その顔は必死の様相だった。
「逃げんなよ、ぜってぇここにいろ!」
「だけど、」
「言っとくが、俺も、ナビィやファイも、その他お前を信じる何人かも、もう動き始めた!今お前がいなくなったら、それこそ俺らは立場がなくなるんだよっ!!」
リンクから血の気が失せた。自分が思っていた以上に深刻な状態だった。リンクは狼狽するしかない。
「そ、そんな……、君達、一体何しているの……!」
カラカラの声で、リンクはダークリンクに聞いた。
「大丈夫だから。ここで待ってろ。」
だが、ダークリンクは詳細を話すことなく部屋を出て行ってしまった。リンクはその場に崩れ落ちる。自然と、胸元で手を組んでいた。
「お願い、お願いだから、彼等だけは、助けて………。」
暫くして、扉が開いた。リンクは蹲ったまま動けずにいたのだが、そろそろと顔を上げる。ファイ、ナビィ、ダークリンクが入ってきていた。
「ちょっと!なんて顔をしているの!?」
リンクの顔を見たナビィが叫ぶ。だが、それに構う余裕はリンクになかった。
「大丈夫、なの……?」
恐る恐る、リンクは問いかけた。
「話はつきました。問題ありません。」
ファイが答えたが、リンクの安心材料にはならなかった。
「君達は、大丈夫なの……?」
震える声で、再度リンクは問いかけた。すると、ダークリンクがため息を吐いた。
「テメェ、それしか考えてなかったのかよ。大丈夫だって言ったろ。話はなかなかまとまらなかったが、俺達にダメージはねぇよ。」
「本当……?」
「あったりまえじゃない!」
ダークリンク、ナビィ二人の証言があってもリンクの不安は拭えなかった。
「我々が劣勢だという根拠は何ですか?」
ファイが質問を投げかけた。それに対し、リンクは眉間に皺を寄せた。
「普通に考えて、オレの肩を持ったら疑われるよね。」
「なるほど。マスターの思い込みですか。その考えは間違っています。我々の身の安全は保証しますので、ご安心を。」
ばっさりとファイが切り捨てた。そこでようやく、三人の無事を確信する。突然、リンクの力が抜けた。リンクは力なく床に横たわる。
「そっか……よかった……。」
「り、リンク!?大丈夫!?」
ナビィの慌てた声が聞こえた。リンクはなんだか笑いそうになる。
「大丈夫、大丈夫だよ……。ちょっと怖かっただけ。君達を巻き込んだんじゃないかって、怖かっただけ、だから……。」
リンクは、ナビィを安心させようと、今の心境を吐露した。
「その心配、ちょっとは自分に向けろよな。」
ダークリンクの呆れ切った声が聞こえた。とうとう、リンクは力なく笑った。
「で、さっき決まったことだが、聞けるか?少し休む?」
「あぁ、そうだったね。」
一度深呼吸をして、リンクは起き上がった。しっかりと地に足をつけてダークリンクを見据える。
「オレは、どうしたらいいの?」
「ここで待機。」
ダークリンクはただそれだけを言った。リンクは拍子抜けする。だが、いくら待ってもそれ以上の回答が返ってこなかった。
「……それで?」
仕方なく、リンクは先を促した。すると、ダークリンクは肩をすくめた。
「以上。とりあえず、こっから出るな?」
リンクは思考を巡らせた。やはりどう考えても、それだけでは納得できない。リンクは更に口を開いた。
「……あのさ。オレ、協力するためにここに留まることになったんだよね?」
「まぁ、それは追々ってことで。」
ナビィがあっけらかんとして言った。
「ヤツのことはどうなったの?って、オレには話せないか。」
自分で言ってハッと気付く。破壊者である自分に、全ての情報が開示されるわけがないのだ。しかし、ファイが首を振った。
「いえ。情報を伏せることは要求されませんでした。しかし、敵勢についての話し合いはまだ行われておりません。」
リンクは少し固まる。色々と言いたいことはあるが、とりあえず。
「ヤツを野放しにしたら、何をし出すか分からないんだけど。」
「それはお前だ。」
ダークリンクの短い反論に、リンクは言葉を詰まらせた。それを言われると何も言えなかった。
「そーいや、お前こっちのことどれだけ分かってんの?」
ダークリンクが逆に質問してきた。リンクは、何が分かっていただろうか、と少し考えて、ほとんど情報を持っていないことに気付いた。
「それが……この城下町が、毎晩現れる敵に悩まされていたことすら最近知ったくらいで……。」
じとりとした目でダークリンクはこちらを見た。だがそれは一瞬で、すぐに現状の説明をしてくれた。ダークリンクの話をまとめるとこうだ。連合軍の拠点だった中央の城は襲われ、女神側の城に避難した。避難先を決める際に知ったことだが、魔王側の城は既に陥落していた。女神側の城で態勢を立て直そうとしていたが、いつの頃からか、ゼルダ、ガノンドロフ、そして幹部4人が姿を消した。現在は有志で城を保たせている状態で、実はかなり危うい状況だ。ここまで聞いて、リンクは自分の不甲斐なさにどうにかなりそうだった。世界に危機が迫っているかもしれないと思い、情報収集をしていたのに、少し別のことをしている間に大変なことになっていた。リンクが顔を歪ませていると、目の前が眩しくなった。ナビィが目の前で光ったのだ。
「まーた変なこと考えてるでしょ!リンクのせいじゃないんだからネ!むしろ、いいタイミングで来たんじゃない?」
リンクは力なく首を振った。
「頼むから今度はお前一人で何とかしようとすんな!?確かにお前が来るまで手も足も出なかったがな!!」
ダークリンクが慌てたように叫ぶ。リンクはダークリンクに微笑みかけた。
「そんなことないよ。ダークが居てくれてオレは心強かった。」
もちろんファイとナビィもね、と付け加えながら二人を見やる。
「とにかく、リンクはしばらくここで待機!こっちも情報整理したいから、それまで待ってヨ。」
照れたように光りながら、ナビィは強い口調で言った。隣でファイも頷いている。
「何か分かりましたらお伝えします。今は休まれるべきかと。」
リンクは諦めて待つことにした。
「分かった。ありがとう。君達はもう、戻った方がいいよ。」
すると、ナビィがヒュンヒュンと大きく動いた。
「あ、言い忘れていたケド。ナビィとファイ、リンクの見張りをすることになったから。」
「え?」
ポカンとしてリンクはナビィを見る。
「俺もだ。何省いてんだよ。」
不服そうな顔でダークリンクが文句を言った。
「だって、ダークリンクは色々やることあるじゃない。ここにいるのは基本的にナビィとファイになるんだから、間違ってないでしょ?」
勝手に続けられる会話に流されそうになるが、リンクは慌てて間に入る。
「ちょ、ちょっと待って。見張りって……君達、ここを離れられないの?それでいいの?」
「なぁに?まさかイヤとか言うワケ?アタシとリンクの仲でしょ?」
顔が分かるならばニヤニヤしているだろうナビィに気が遠くなる。だが、気力を振り絞ってリンクは口を開いた。
「オレは問題ないけど。でも、」
「マスターの心配が無意味である可能性99%。これ以上考えないことを推奨します。」
突然、ファイがリンクを遮った。リンクはぐうの音も出なくなった。
「ファイ、そこは100って言っておこうヨ……。」
呆れたようにナビィが言う。
「物事に絶対は言えませんので。」
「さっき200って言ったクセに!!」
間髪入れずにナビィは叫んだ。その勢いのまま、ナビィはグチグチと続けている。一方ファイは、どこ吹く風だった。
「ま、そういうことだ。諦めろ、お人好し。」
ダークリンクに言われ、リンクは不服感を拭えないながらも頷いた。
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