新たな敵の存在
部屋を出ると、街をうろうろしていた奴等が大量にいた。そのうちの1体がゾーラ族の後ろをとっているのに気付いた。攻撃を繰り出そうとしたので、リンクは咄嗟にフックショットを撃ち込む。すると、そいつの注意がリンクに向いた。襲い掛かってきたので、軽く剣でいなす。ゾーラ族は何かを感じたらしく、こちらを振り向いた。それはミファーだった。ミファーは、リンクを見て動きを止めた。
「え………?」
リンクは目の端でそれを確認したが、構わず廊下を走り出す。ミファーを攻撃しようとした奴は、リンクに焦点を変えたまま追って来た。リンクはしめしめと思い、ついでにミファーの前にいたやつにもちょっかいをかけ、引きつけた。道中、同様に見つけた奴等を片っ端からこちらに引きつけるが、
「あれは……っ!」
「リンク!?」
「とうとう来やがった……!!」
「こんなときに……!!」
リンクを見つけた城の者は黙っていない。リンクの予想に反し、城側の存在は混乱に陥ることはなかった。しかし、当然のことながらこちらに攻撃がくる。奴らに追われる上に、城からの攻撃。かなり辛い状態だった。先程から辺りは隈なく確認しているつもりだが、本体を引っ張り出すための光物体は見当たらない。その上、ダークリンクの位置も全く分からない。無敵の奴らに反撃しても意味がなく、城の者を攻撃するわけにもいかない。つまり現在、逃げ惑うしかない状態だ。
“これはちょっと不味いな……っ!”
上空から何かが飛んでくる気配がした。それが爆弾矢だと気付いた時には遅かった。避けられず、リンクは吹き飛ばされる。おかげで追手達から距離が出来たが、安心できる状態では全くない。慌てて体制を立て直し、出所を確認すると。
「覚悟しなよ、リンク!!」
爆弾矢をつがえたリーバルが、自分に照準を合わせていた。それを確認するなり、リンクは横っ飛びする。リンクの居た場所で爆発音が響いた。
“城が壊れても知らないよ、それ……!!”
リンクは心の中で皮肉りながらもすぐに走り出した。城の中を逃げ回る。だが、気付いた時には、大量の奴等を後ろに従えたまま、リーバルの前に立ってしまっていた。
“不味い……!!”
リーバルがニヤリと笑った、その時。
「――――ッ!!」
甲高い、親玉の声が響いた。どうやらダークリンクは光物体を集め終えたらしい。
「何だ?」
「今のは……?」
リンクを追っていた奴等は姿を消した。しかも、城の者はあの声に気を取られた。リーバルでさえ、眉を顰めながら声の方を見ている。これ幸いと、リンクは追撃が来ないうちに走り出した。
敵が現れている場所に辿り着くと、周りで戦闘不能者が踞っていた。リンクはその脇を走り抜ける。敵が倒れこんだダークリンクに腕を振り下ろしたのが見えた。
「ダークッ!!」
リンクが叫ぶと、周りから息を飲む声が聞こえた。
「なっ!?リンク!?」
「ダークリンク!!気を付けろ!!」
周りの声を無視し、リンクは敵の腕をはじき返した。途端に城の者の声が止んだ。リンクは敵を抜かりなく見据えながら、ダークリンクに手を差し出す。ダークリンクが手を掴んだのを確認するなり、リンクはダークリンクを引っ張り起こした。
「ダーク、戦える?」
「ハッ、当たり前だ。こっからなんだろ?反撃タイム!」
嬉々としたダークリンクの声を聞き、リンクは奴から視線を逸らすことなく、クスリと笑った。
「弱点はさっき教えたよね。左側よろしく。あいつの攻撃はこっちで引き受けるから!」
言うだけ言うと、リンクは走り出した。
「ちょっ、はぁ!?」
不平が聞こえたので横目で確認するが、ダークリンクはぶつぶつ言いながらも行動に移していた。その時、敵がダークリンクを攻撃したのが見えた。ダークリンクに向かった腕に、リンクは弓矢を打ち込む。敵の怒り狂った目がこちらを向いた。
「こっちだっ!」
リンクは挑発すると、右側の弱点の攻撃にとりかかった。
城内に現れた敵も無事帰り、戦闘は終了した。リンクはそれを見届けると、ダークリンクに歩み寄る。ダークリンクは息を荒くして、蹲っていた。
「大丈夫?」
リンクはダークリンクのそばにしゃがみ込み、顔を覗き込んだ。
「……なんで、お前は……そんなに元気、なんだよっ!」
ゼェハァ言いながら、ダークリンクは喚いた。リンクは困った顔をする。
「と、言われても……慣れ?」
「っ!こんなところで力の差を見せつけられるなんてなっ!」
「いや、そんなつもりはないんだけど。」
幾分か落ち着いたダークリンクは立ち上がった。リンクもそれに合わせて立ち上がる。
「で?親玉は倒したんだよな?」
ダークリンクの率直な問いに、リンクは視線を彷徨わせた。
「あー、それなんだけど……ごめん、取り逃がした。」
「はぁ?」
ダークリンクの批難に、リンクは笑って誤魔化すしかない。
「と、いうわけで、オレは今からそいつを追うね。城の立て直しはそっちで頑張って。」
リンクがしれっと言うと、ダークリンクは渋い顔をした。
「そう言われてもな……、っ!!」
ダークリンクが突然、リンクを庇うような仕草をした。リンクは首を傾げ、ダークリンクの視線を追う。すると、そこには城の者がずらりと並んでいた。
“あ……これはヤバイ。”
リンクは、冷や汗が伝うのを感じた。
「これ、どういうこと?」
リーバルの低い声が響いた。その周りには、怒り狂った顔でリンクに武器を向ける面々。リンクは胸が痛んだが、それは無視し、にっこりと笑って見せた。
「やぁみんな。ご機嫌よう。酷い有様だね?」
咄嗟に悪役調で話す。すると、ピクピクと皆のこめかみが動くのが見えた。ダークリンクですら怖い顔になった。それにはちょっと泣きそうだと思いながらも、リンクはクスクスと笑ってみせた。
「今なら簡単にんんっ!!」
突然、口を塞がれた。それは、ダークリンクの仕業だった。後ろから腕を回されている。抗議しようと口を塞ぐ腕を掴むが、随分と強い力で押さえているらしくピクリともしない。
「テメェマジでいい加減にしろよ?」
ダークリンクの低い声がすぐ後ろから聞こえた。言いたいことはあるが、ダークリンクのせいで言葉を発せられない。
「(ダークリンク、説明しろ。)」
リザルフォスがリンクを睨み付けながら言った。
「今回の件は、こいつのおかげで乗り越えられた。見ただろ。さっきのやつ倒したの、ほとんどこいつの手柄だ。」
ダークリンクが言葉を発する間、動く者はいなかった。
「こいつはもう、悪さしない。させない。むしろ今は、こいつの力が必要なんじゃねぇの?」
話がおかしな方に転がっているように感じた。リンクはバシバシとダークリンクの腕を叩いて抗議する。
「協力するつもりはないって言ってるよ、それ。」
リーバルがイライラしたように吐き捨てた。
「こいつが本気で抵抗しているように見えるのか。」
ダークリンクの言葉にリンクは項垂れた。確かに本気は出していないが、それならば自分にどうしろと言うのか。
「とにかく、こいつに手伝わせる。魔王側は文句言わせねぇぞ。俺達だけで解決できないのははっきりしている。だが、こいつなら解決できる。」
リンクはゾッとした。ダークリンクがどんどん危ない橋を渡っている。リンクはギュッとダークリンクの腕を掴んだ。だが、何の意味も成さなかった。
「女神側、お前らはどうすんだ?」
「リンクと協力する方向で調整する。とりあえず、リンクには別室で待っててもらうぜ。」
突然第三者の声がした。声の方を見るとバドがこちらに向かって歩いてきていた。突然、リンクに影がかかる。その正体はダルニアだった。ダルニアは無言で手を差し出す。すると、ダークリンクはいとも易々とリンクを引き渡した。リンクはダルニアに連れられてその場を後にするしかなかった。
連れてこられたのは、ヤツがいた部屋だった。
「ちょいと待っててくれ、キョーダイ。」
「ねぇ、ちょっと待って!」
自由になった直後に叫んだが、全く効果はなく、非情にも扉が閉じられてしまった。リンクは扉を睨み付ける。しかし、何も変わらない。やがてリンクは、ため息を吐いた。
「……久々にやると疲れるな、あれ。」
あれとは悪者のフリをすることである。
「それにしても……もうちょっと場所を考えなよ……オレ、危険人物だよ?」
やれやれと思いながら、リンクは窓辺に歩み寄る。
「ここから逃げるなんて簡単に」
「やめておいた方がいいんじゃない?」
「え?」
リンクの独り言を遮る者がいた。リンクが驚きの声を上げると、ヒュンと懐からナビィが出てきた。
「いつの間にかいなくなったと思っていたら、そんなところに……。」
リンクは呆れてナビィを見つめる。ナビィは得意げに光っていた。
「こうすればリンクについていけるかなーと思って。ま、閉じ込められちゃったから、わざわざ隠れなくてもよかったケドネ。」
リンクはいたたまれない気持ちになった。
「……悪いけど、連れていけないよ。」
「その前に、残りなさいって言ってるの!」
リンクが告げると、間髪入れずに叫ぶナビィ。リンクは腕を組んで、ナビィを見た。
「残れるわけがないでしょ。」
「今出ていけば、僅かにある信頼さえもがなくなる可能性80%。しばらく留まることを推奨します。」
さらにリンクの行動を否定する言葉が後ろから聞こえてきた。リンクがガバッと振り向くと、ファイが冷たい目をして佇んでいた。
「ファイ!?……あぁ、そうか。これを持っているから……。」
ファイに驚いたのも束の間、リンクは背負ったマスターソードに手を添えた。だが、今は感慨に耽っている場合ではない。リンクは用心しながら再度二人に向き直った。しかし、リンクが何を言うよりも早く、二人に残れと凄まれ、その要求を飲むしかない状況に追い込まれた。そこへ、バドとキングブルブリン、スタルキッドがやってきた。リンクから離れたところで何か情報交換をすると、ファイとナビィは部屋を後にした。部屋を出る直前、二人には般若のような顔で睨まれた。少なくともファイとナビィが戻ってくるまではここに留まろうとリンクに思わせるには、十分だった。
残ったバドはリンクの方に歩み寄ってきた。そして、リンクを真っ直ぐ見据える。
「リンク。協力してくれるんだよな?」
リンクはバドに気付かれないよう、小さく深呼吸した。
「あのさ。まだ懲りもせずにオレのことを信じているとか言わないよね?」
「何?」
リンクが馬鹿にした風を装って聞くと、バドは眉をひそめた。リンクは両手を上げる。
「まぁ、協力はしてあげるけど。あいつムカつくし。」
バドがリンクの襟首を掴んだ。
「お前、いつまでそんなこと言ってんだ!?あの行動も、やっぱり何か理由があるんだって、」
「だから、ないって言っているでしょ。」
呆れながらリンクはバドを遮る。ため息を吐いて、バドにうんざりした顔を向けた。
「いつまでそんな理想論掲げる気?」
バドは苦しそうな顔でリンクを見ていた。それに流されまいとリンクは表情の維持に集中する。やがて、
「もういい。」
とバドはリンクを放した。そして、悲しそうな顔で首を振る。
「とりあえずお前は、ここにいろ。」
バドの要求に対し、リンクは肩をすくめて見せ、背を向けた。唇をギュッと噛みしめる。
「お前に攻撃的な奴は閉じ込めてある。襲撃はないから、安心しろ。」
続いて聞こえてきた言葉に、リンクは正常な思考を失った。
「は?今何て?」
今までの苦労を顧みず、焦りの表情を浮かべたままリンクは振り向いた。
「閉じ込めた!?ふざけないでっ!!」
なりふり構わずリンクは叫んだ。バドはギョッとした顔をする。
「な、なんでそんなことを言うんだ?お前のためじゃないか。」
しどろもどろに言うバドに、リンクは大股で歩み寄った。
「オレのことを気にしてくれてどうもありがとう!だけど、君達が優先すべきことはオレじゃないでしょう!!」
バドはリンクの気迫に押されるように後ずさる。
「え、いや、だって、」
「出して、今すぐ出して!!解放して!!」
身振り手振り交えながらリンクは訴えた。
「だが、そんなことをしたら、お前が、」
困り果てた様子のバドだったが、とうとうリンクは感情を爆発させた。
「オレなんかで対立してどうするの!?この非常事態に、対立している場合じゃないから!!」
「それは、その通り、だが、」
バドはたじたじだった。
「大体、オレは破壊者、つまり加害者!!オレに攻撃的だと言う人の方が理に適っている!!」
バドはこれ以上ないほど苦しそうな顔でリンクを見つめた。リンクはそんなバドの様子に構うことなく、ピンと人差し指を突き付けた。
「君達、また対立する気!?この世界を、混沌に陥れる気!?」
それはもはや人を脅すような声だったのだが、それに気付く余裕は切羽詰まったリンクにはなかった。
「わ、分かったから……。少し落ち着いてくれ。」
バドの弱々しい懇願に、詰め寄っていたリンクはハッと我に返った。慌ててバドから距離をとる。
「ごめん。だけど、その人達は解放して。そして、ちゃんと話し合って。……オレは、その話し合いで決まったことに従うから。」
バドは頭をガシガシと掻きながら、部屋を出ていった。それを最後まで見送らない内に、リンクはスタルキッドとキングブルブリンに向き直った。スタルキッドが首を振る。
「こっちはダメダ。スゴく殺気立っているカラ。」
「ダメ。出して。」
間髪入れずに、リンクは短く要求した。スタルキッドは困ったような顔をした。
「間違いなくオマエ、コロされるゾ。」
おずおずといった風にスタルキッドは言った。
「生憎、今はただでやられてあげないよ。」
リンクは強い意志を持って、スタルキッドを見た。
「ここで出さなければ、それは差別だ。すぐに対立することになるだろう。それだけは避けたい。」
スタルキッドは怯んだようだった。もじもじと揺れる。
「だけど、」
「わかっタ。」
それでもと言わんばかりに、スタルキッドは反論しようとした。しかし、スタルキッドを遮る者がいた。キングブルブリンだ。とんでもないというように、スタルキッドが勢いよくキングブルブリンを振り返った。だが、キングブルブリンはそれに取り合おうとはしなかった。リンクを真っ直ぐ見据えて、キングブルブリンは言った。
「だが、きヲつけロ。もうすこシせっとくハしテみるガ、とめルじしんハナイ。」
「大丈夫。ありがとう。」
ふわりとリンクは笑った。キングブルブリンは渋るスタルキッドを引っ張って出ていった。途端に静寂が訪れる。暗い部屋の中に、リンク一人が取り残されていた。
.
「え………?」
リンクは目の端でそれを確認したが、構わず廊下を走り出す。ミファーを攻撃しようとした奴は、リンクに焦点を変えたまま追って来た。リンクはしめしめと思い、ついでにミファーの前にいたやつにもちょっかいをかけ、引きつけた。道中、同様に見つけた奴等を片っ端からこちらに引きつけるが、
「あれは……っ!」
「リンク!?」
「とうとう来やがった……!!」
「こんなときに……!!」
リンクを見つけた城の者は黙っていない。リンクの予想に反し、城側の存在は混乱に陥ることはなかった。しかし、当然のことながらこちらに攻撃がくる。奴らに追われる上に、城からの攻撃。かなり辛い状態だった。先程から辺りは隈なく確認しているつもりだが、本体を引っ張り出すための光物体は見当たらない。その上、ダークリンクの位置も全く分からない。無敵の奴らに反撃しても意味がなく、城の者を攻撃するわけにもいかない。つまり現在、逃げ惑うしかない状態だ。
“これはちょっと不味いな……っ!”
上空から何かが飛んでくる気配がした。それが爆弾矢だと気付いた時には遅かった。避けられず、リンクは吹き飛ばされる。おかげで追手達から距離が出来たが、安心できる状態では全くない。慌てて体制を立て直し、出所を確認すると。
「覚悟しなよ、リンク!!」
爆弾矢をつがえたリーバルが、自分に照準を合わせていた。それを確認するなり、リンクは横っ飛びする。リンクの居た場所で爆発音が響いた。
“城が壊れても知らないよ、それ……!!”
リンクは心の中で皮肉りながらもすぐに走り出した。城の中を逃げ回る。だが、気付いた時には、大量の奴等を後ろに従えたまま、リーバルの前に立ってしまっていた。
“不味い……!!”
リーバルがニヤリと笑った、その時。
「――――ッ!!」
甲高い、親玉の声が響いた。どうやらダークリンクは光物体を集め終えたらしい。
「何だ?」
「今のは……?」
リンクを追っていた奴等は姿を消した。しかも、城の者はあの声に気を取られた。リーバルでさえ、眉を顰めながら声の方を見ている。これ幸いと、リンクは追撃が来ないうちに走り出した。
敵が現れている場所に辿り着くと、周りで戦闘不能者が踞っていた。リンクはその脇を走り抜ける。敵が倒れこんだダークリンクに腕を振り下ろしたのが見えた。
「ダークッ!!」
リンクが叫ぶと、周りから息を飲む声が聞こえた。
「なっ!?リンク!?」
「ダークリンク!!気を付けろ!!」
周りの声を無視し、リンクは敵の腕をはじき返した。途端に城の者の声が止んだ。リンクは敵を抜かりなく見据えながら、ダークリンクに手を差し出す。ダークリンクが手を掴んだのを確認するなり、リンクはダークリンクを引っ張り起こした。
「ダーク、戦える?」
「ハッ、当たり前だ。こっからなんだろ?反撃タイム!」
嬉々としたダークリンクの声を聞き、リンクは奴から視線を逸らすことなく、クスリと笑った。
「弱点はさっき教えたよね。左側よろしく。あいつの攻撃はこっちで引き受けるから!」
言うだけ言うと、リンクは走り出した。
「ちょっ、はぁ!?」
不平が聞こえたので横目で確認するが、ダークリンクはぶつぶつ言いながらも行動に移していた。その時、敵がダークリンクを攻撃したのが見えた。ダークリンクに向かった腕に、リンクは弓矢を打ち込む。敵の怒り狂った目がこちらを向いた。
「こっちだっ!」
リンクは挑発すると、右側の弱点の攻撃にとりかかった。
城内に現れた敵も無事帰り、戦闘は終了した。リンクはそれを見届けると、ダークリンクに歩み寄る。ダークリンクは息を荒くして、蹲っていた。
「大丈夫?」
リンクはダークリンクのそばにしゃがみ込み、顔を覗き込んだ。
「……なんで、お前は……そんなに元気、なんだよっ!」
ゼェハァ言いながら、ダークリンクは喚いた。リンクは困った顔をする。
「と、言われても……慣れ?」
「っ!こんなところで力の差を見せつけられるなんてなっ!」
「いや、そんなつもりはないんだけど。」
幾分か落ち着いたダークリンクは立ち上がった。リンクもそれに合わせて立ち上がる。
「で?親玉は倒したんだよな?」
ダークリンクの率直な問いに、リンクは視線を彷徨わせた。
「あー、それなんだけど……ごめん、取り逃がした。」
「はぁ?」
ダークリンクの批難に、リンクは笑って誤魔化すしかない。
「と、いうわけで、オレは今からそいつを追うね。城の立て直しはそっちで頑張って。」
リンクがしれっと言うと、ダークリンクは渋い顔をした。
「そう言われてもな……、っ!!」
ダークリンクが突然、リンクを庇うような仕草をした。リンクは首を傾げ、ダークリンクの視線を追う。すると、そこには城の者がずらりと並んでいた。
“あ……これはヤバイ。”
リンクは、冷や汗が伝うのを感じた。
「これ、どういうこと?」
リーバルの低い声が響いた。その周りには、怒り狂った顔でリンクに武器を向ける面々。リンクは胸が痛んだが、それは無視し、にっこりと笑って見せた。
「やぁみんな。ご機嫌よう。酷い有様だね?」
咄嗟に悪役調で話す。すると、ピクピクと皆のこめかみが動くのが見えた。ダークリンクですら怖い顔になった。それにはちょっと泣きそうだと思いながらも、リンクはクスクスと笑ってみせた。
「今なら簡単にんんっ!!」
突然、口を塞がれた。それは、ダークリンクの仕業だった。後ろから腕を回されている。抗議しようと口を塞ぐ腕を掴むが、随分と強い力で押さえているらしくピクリともしない。
「テメェマジでいい加減にしろよ?」
ダークリンクの低い声がすぐ後ろから聞こえた。言いたいことはあるが、ダークリンクのせいで言葉を発せられない。
「(ダークリンク、説明しろ。)」
リザルフォスがリンクを睨み付けながら言った。
「今回の件は、こいつのおかげで乗り越えられた。見ただろ。さっきのやつ倒したの、ほとんどこいつの手柄だ。」
ダークリンクが言葉を発する間、動く者はいなかった。
「こいつはもう、悪さしない。させない。むしろ今は、こいつの力が必要なんじゃねぇの?」
話がおかしな方に転がっているように感じた。リンクはバシバシとダークリンクの腕を叩いて抗議する。
「協力するつもりはないって言ってるよ、それ。」
リーバルがイライラしたように吐き捨てた。
「こいつが本気で抵抗しているように見えるのか。」
ダークリンクの言葉にリンクは項垂れた。確かに本気は出していないが、それならば自分にどうしろと言うのか。
「とにかく、こいつに手伝わせる。魔王側は文句言わせねぇぞ。俺達だけで解決できないのははっきりしている。だが、こいつなら解決できる。」
リンクはゾッとした。ダークリンクがどんどん危ない橋を渡っている。リンクはギュッとダークリンクの腕を掴んだ。だが、何の意味も成さなかった。
「女神側、お前らはどうすんだ?」
「リンクと協力する方向で調整する。とりあえず、リンクには別室で待っててもらうぜ。」
突然第三者の声がした。声の方を見るとバドがこちらに向かって歩いてきていた。突然、リンクに影がかかる。その正体はダルニアだった。ダルニアは無言で手を差し出す。すると、ダークリンクはいとも易々とリンクを引き渡した。リンクはダルニアに連れられてその場を後にするしかなかった。
連れてこられたのは、ヤツがいた部屋だった。
「ちょいと待っててくれ、キョーダイ。」
「ねぇ、ちょっと待って!」
自由になった直後に叫んだが、全く効果はなく、非情にも扉が閉じられてしまった。リンクは扉を睨み付ける。しかし、何も変わらない。やがてリンクは、ため息を吐いた。
「……久々にやると疲れるな、あれ。」
あれとは悪者のフリをすることである。
「それにしても……もうちょっと場所を考えなよ……オレ、危険人物だよ?」
やれやれと思いながら、リンクは窓辺に歩み寄る。
「ここから逃げるなんて簡単に」
「やめておいた方がいいんじゃない?」
「え?」
リンクの独り言を遮る者がいた。リンクが驚きの声を上げると、ヒュンと懐からナビィが出てきた。
「いつの間にかいなくなったと思っていたら、そんなところに……。」
リンクは呆れてナビィを見つめる。ナビィは得意げに光っていた。
「こうすればリンクについていけるかなーと思って。ま、閉じ込められちゃったから、わざわざ隠れなくてもよかったケドネ。」
リンクはいたたまれない気持ちになった。
「……悪いけど、連れていけないよ。」
「その前に、残りなさいって言ってるの!」
リンクが告げると、間髪入れずに叫ぶナビィ。リンクは腕を組んで、ナビィを見た。
「残れるわけがないでしょ。」
「今出ていけば、僅かにある信頼さえもがなくなる可能性80%。しばらく留まることを推奨します。」
さらにリンクの行動を否定する言葉が後ろから聞こえてきた。リンクがガバッと振り向くと、ファイが冷たい目をして佇んでいた。
「ファイ!?……あぁ、そうか。これを持っているから……。」
ファイに驚いたのも束の間、リンクは背負ったマスターソードに手を添えた。だが、今は感慨に耽っている場合ではない。リンクは用心しながら再度二人に向き直った。しかし、リンクが何を言うよりも早く、二人に残れと凄まれ、その要求を飲むしかない状況に追い込まれた。そこへ、バドとキングブルブリン、スタルキッドがやってきた。リンクから離れたところで何か情報交換をすると、ファイとナビィは部屋を後にした。部屋を出る直前、二人には般若のような顔で睨まれた。少なくともファイとナビィが戻ってくるまではここに留まろうとリンクに思わせるには、十分だった。
残ったバドはリンクの方に歩み寄ってきた。そして、リンクを真っ直ぐ見据える。
「リンク。協力してくれるんだよな?」
リンクはバドに気付かれないよう、小さく深呼吸した。
「あのさ。まだ懲りもせずにオレのことを信じているとか言わないよね?」
「何?」
リンクが馬鹿にした風を装って聞くと、バドは眉をひそめた。リンクは両手を上げる。
「まぁ、協力はしてあげるけど。あいつムカつくし。」
バドがリンクの襟首を掴んだ。
「お前、いつまでそんなこと言ってんだ!?あの行動も、やっぱり何か理由があるんだって、」
「だから、ないって言っているでしょ。」
呆れながらリンクはバドを遮る。ため息を吐いて、バドにうんざりした顔を向けた。
「いつまでそんな理想論掲げる気?」
バドは苦しそうな顔でリンクを見ていた。それに流されまいとリンクは表情の維持に集中する。やがて、
「もういい。」
とバドはリンクを放した。そして、悲しそうな顔で首を振る。
「とりあえずお前は、ここにいろ。」
バドの要求に対し、リンクは肩をすくめて見せ、背を向けた。唇をギュッと噛みしめる。
「お前に攻撃的な奴は閉じ込めてある。襲撃はないから、安心しろ。」
続いて聞こえてきた言葉に、リンクは正常な思考を失った。
「は?今何て?」
今までの苦労を顧みず、焦りの表情を浮かべたままリンクは振り向いた。
「閉じ込めた!?ふざけないでっ!!」
なりふり構わずリンクは叫んだ。バドはギョッとした顔をする。
「な、なんでそんなことを言うんだ?お前のためじゃないか。」
しどろもどろに言うバドに、リンクは大股で歩み寄った。
「オレのことを気にしてくれてどうもありがとう!だけど、君達が優先すべきことはオレじゃないでしょう!!」
バドはリンクの気迫に押されるように後ずさる。
「え、いや、だって、」
「出して、今すぐ出して!!解放して!!」
身振り手振り交えながらリンクは訴えた。
「だが、そんなことをしたら、お前が、」
困り果てた様子のバドだったが、とうとうリンクは感情を爆発させた。
「オレなんかで対立してどうするの!?この非常事態に、対立している場合じゃないから!!」
「それは、その通り、だが、」
バドはたじたじだった。
「大体、オレは破壊者、つまり加害者!!オレに攻撃的だと言う人の方が理に適っている!!」
バドはこれ以上ないほど苦しそうな顔でリンクを見つめた。リンクはそんなバドの様子に構うことなく、ピンと人差し指を突き付けた。
「君達、また対立する気!?この世界を、混沌に陥れる気!?」
それはもはや人を脅すような声だったのだが、それに気付く余裕は切羽詰まったリンクにはなかった。
「わ、分かったから……。少し落ち着いてくれ。」
バドの弱々しい懇願に、詰め寄っていたリンクはハッと我に返った。慌ててバドから距離をとる。
「ごめん。だけど、その人達は解放して。そして、ちゃんと話し合って。……オレは、その話し合いで決まったことに従うから。」
バドは頭をガシガシと掻きながら、部屋を出ていった。それを最後まで見送らない内に、リンクはスタルキッドとキングブルブリンに向き直った。スタルキッドが首を振る。
「こっちはダメダ。スゴく殺気立っているカラ。」
「ダメ。出して。」
間髪入れずに、リンクは短く要求した。スタルキッドは困ったような顔をした。
「間違いなくオマエ、コロされるゾ。」
おずおずといった風にスタルキッドは言った。
「生憎、今はただでやられてあげないよ。」
リンクは強い意志を持って、スタルキッドを見た。
「ここで出さなければ、それは差別だ。すぐに対立することになるだろう。それだけは避けたい。」
スタルキッドは怯んだようだった。もじもじと揺れる。
「だけど、」
「わかっタ。」
それでもと言わんばかりに、スタルキッドは反論しようとした。しかし、スタルキッドを遮る者がいた。キングブルブリンだ。とんでもないというように、スタルキッドが勢いよくキングブルブリンを振り返った。だが、キングブルブリンはそれに取り合おうとはしなかった。リンクを真っ直ぐ見据えて、キングブルブリンは言った。
「だが、きヲつけロ。もうすこシせっとくハしテみるガ、とめルじしんハナイ。」
「大丈夫。ありがとう。」
ふわりとリンクは笑った。キングブルブリンは渋るスタルキッドを引っ張って出ていった。途端に静寂が訪れる。暗い部屋の中に、リンク一人が取り残されていた。
.