広い世界へ

スタルキッドとして生活し始めてから早数年。リンクは友達のスタルキッドにフォローしてもらいながら、他のスタルキッド達と森を駆け回り、楽しく暮らしていた。





ある日、決戦地に作られた城下町でお祭りがあるということで、みんなと城下町へ行った。本当は、そんな危険地帯に行くのは避けるべきなのだが、みんなの熱意に負けて一度行ってしまってから、一緒に行くのが恒例になっていた。細心の注意を払いつつ、他のスタルキッド達について城下町を駆け回る。スタルキッド達のお気に入りである的あて屋に向かう途中。クラリ。急に立ち眩みがした。リンクは慌てて側の壁に手をついて体勢を保つ。目を瞑って不穏な波に耐えた。少しして立ち眩みは治まったが、体全体が怠い。

“何でいきなり……。”

突然の体調不良に困惑したが、いつまでもこうしてはいられない。ゆっくりと目を開けた。しかし、辺りにスタルキッド達はいなくなってしまっていた。不味いと思ったが、スタルキッド達の行先ははっきりしている。今は回復を優先するべきだとリンクは判断した。とはいえ、ここは人目がある。ここで蹲りでもしたら、注目を集めかねない。リンクは壁に体重を預けながら、人気のないところを探して移動した。やっとの思いで裏路地までくると、人の姿は見られなくなった。ここなら大丈夫かと思うが、念のため、隠れられそうなところを探す。乱雑に物が置かれている場所を見つけ、陰に身を潜めた。とりあえず安全だと脱力する。その拍子に、気が遠のいていくのを感じた。危機感を募らせるも時既に遅し、リンクは意識を保っていられなくなってしまった。





気が付くとリンクは暗い場所にいた。疑問符を浮かべて辺りを見渡す。自分が何か壁のようなものに囲まれているのは分かったが、様子は分からない。空を見上げると、嫌な雲が一面を覆っている。

“ここは……?何がどうなっているんだ……?”

首を傾げるが、解を導き出せそうにない。考えていても仕方ないことに気付き、リンクは移動を始めた。少し進み、リンクは息を飲んだ。人や魔物の死骸が転がっている。それも1つ2つではない。大量に、だ。吐き気を感じながら、リンクはまた辺りを見渡した。この辺りは黒焦げた壁が多い。だが、分かったのはそれだけで、やはり得られる情報は少ない。ふと、目線を上げた。すると、聳え立つ建築物が目に入った。存在感のある建物だ。

“あれは、何だろう?”

リンクは近くの壁によじ登った。その建物の全容が視界に入って、リンクは動きを止めた。血の気が引いていくのが分かる。息の仕方がよく分からない。リンクは手を離して壁から降りると、真っ青な顔のまま壁に凭れ掛かった。……自分は知らない土地にいるのだと思っていた。知らない土地にいるのだと思いたかった。だが、その建築物は、知っている。見たことがある。それは、城――同盟軍が建てた平和の象徴――だった。つまりここは、決戦地に作られた城下町だったのだ。

“一体何があったんだ……?ゼルダ達は無事……?”

リンクはハッと我に返ると、城の方を仰ぎ見た。この状態で無事と考えるのは浅はかすぎる。だが、城が健在ということは、まだ間に合うかもしれない。身の毛がよだつ思いを押しやり、リンクは城に向かって走り出した。



城に近付くにつれ、空気が重苦しくなっていった。リンクがいたところは痛い静寂が流れていたが、だんだんと物音が聞こえるようになってきた。全滅ではなかったことに安心する。しかし、更に近づいて、それはいい音ではなかったことを知った。ガン。バン。破裂音。キン。カン。金属音。戦闘の時に聞く音だ。嫌な臭いもしてきている。だが、戦う現場にはまだかち合わせていない。戦闘が城のすぐ近くで行なわれていることに肝を冷やしながら、リンクは足を速めた。ようやくリンクが城の前の広場に辿り着くと、ゼルダやガノンドロフが兵を引き連れて出てくるのが見えた。側では、インパやギラヒムが何かを叫びながら辺りの存在に指示を出している。ゼルダ達が無事だったことに、一先ず安堵した。リンクがゼルダに声をかけようとしたその時。

「逃げろ、逃げるがいい!」

突然、不吉な声が響き渡った。声に驚いたのも束の間、嫌な視線を感じた。リンクはそちらに目を向ける。広場を見渡せるであろうバルコニーに、何かいた。人とは違う、魔物とも違う、この世のものならざる者がそこにいた。

「すぐに私がこの世界を支配する!ハハハ、ハーハッハッハ!!」





「おーい!」

ビクリとして、リンクは目を開けた。見知らぬ天井が目に入る。リンクは荒い息のまま、パチクリと目を瞬かせた。思考が動かない。

「あ、起きた起きた。あんなところで寝てたくらいだからさ、体キツイのかもしれないけど。魘されてたら、起こさないといけないだろ?」

先程の声がする。そこでようやく、リンクの思考が動き始めた。

“室、内……?なんで?さっき、変な声がして……。それに、ゼルダ達は……?”

「オマエ、大丈夫?」

リンクは天井を見つめたまま、とりあえず頷いた。カラカラの口で、問いを発する。

「城下町……襲撃されたの?」

「はぁ?何言ってんの?」

ギョッとした声が返ってきた。リンクの思考が再び停止する。

「もしかして頭打って倒れてた?」

声が困惑したものになった。

“アタマウッテタオレテタ……?”

言われた言葉を理解するまで、何度も頭の中でリピートした。10回程繰り返した頃、ようやく意味を理解する。

“そっか……あれは、現実じゃないんだ……。じゃあ、オレは何を見たんだ……?”

その時、リンクは現状を思い出した。自分はベッドの上。さっき目を覚ました。つまり、それは。

“………なんだ、夢か……。”

リンクは脱力した。あんなところで寝ていたと言っていたが、おそらく立ち眩みの後に隠れた場所を指すのだろう。意識を失ってから今まで、夢を見ていたのならば説明がつく。

「な、なぁ、マジでやばいカンジ?」

再び声が聞こえる。その声はかなり狼狽えた様子だった。そこでリンクは、起こしてくれた人を放置したままであることに気付いた。さらに、助けてもらったことに思い至る。礼を言わなければ、とその人の方に顔を向けた。しかし、礼の言葉はどこかへ吹き飛び、リンクは目を大きく見開いた。

「え………ニコ?」

「うぉっ!?なんかよく分からない魔物がオイラの名前知ってた!!なんでだ!?」

“し、しまった………!!”

ニコが大きく後ずさりながら叫ぶのを見て、リンクは冷や汗を流した。自分が今、スタルキッドの姿をしていることを思い出した。それと同時に、絶対に正体がばれてはいけないことに気付く。自分は破壊者なのだ。ゼルダ達や城下町の心配をしている場合ではない。自分が誰か気付かれてしまうと、城下町は混乱に陥る。それこそ大変な騒ぎになる。リンクは細心の注意を払いながら起き上がった。そっと顔に手をやると、ちゃんとお面がついている。まだばれていない。ならば、疑われないように気をつけなければならない。本当は話してもいけないはずだったが、それに関しては開き直ることにした。

「ゆ、勇敢な海賊だって、聞いたことがある!」

リンクは咄嗟にスタルキッドの口調を真似る。緊張で声が上ずった。冷や汗たらたらでニコを見つめる。すると、先のセリフを聞いたニコはニヤリと笑い、腰に手を当てて胸を張った。

「そーかそーか!ニコ様の武勇伝を知っていたんだな!!」

ニコは上機嫌だ。リンクはコクコクと頷いた。

「それじゃあ、」

「あ!仲間のこと忘れてた!もう、行かないと!」

嫌な予感がし、リンクはニコを遮った。間髪入れずにベッドから飛び降りる。さっき感じた怠さは無くなっていた。それに人知れずホッとし、窓に走り寄った。

「あ、おい、大丈夫じゃないんじゃ、」

「助けてくれて、ありがと!」

おろおろとした声を出すニコを放置して、リンクは窓から外に飛び出した。そのまま脇目も振らずに走る。

“ごめん、ニコ。君の武勇伝を聞いている余裕はない……。”

リンクは思い出したのだ。ニコは紙芝居を作る程、武勇伝を語るのが好きで、新天地を見つけてからは耳に胼胝ができる程聞かされたことを。墓穴掘った、と思いつつ、ばれる前に逃げてこられたことを良しとするリンクであった。





リンクは的あて屋に向かって駆ける。ニコが看病してくれた場所は、隠れた場所から遠かった。ニコが自分を運んでくれたのだとしたら、かなりの重労働を強いたことになる。やっぱり武勇伝を聞いてあげるべきだったかと後悔し始めていた時、

「いえ、黄昏のゾーラの里では大きな異変はありませんね。」

気になる言葉が聞こえた。リンクは足を止め、声のした方を見る。ゾーラ族とゴロン族が話していた。

「そうゴロか……。」

意味深なことを言い、横顔でも分かる程難しい顔をするゴロン族。リンクは興味をそそられ、少し離れたところで耳を傾けた。

「何か気になることでもあるのですか?」

「はっきり何がとは言えないゴロ。ただ、何かがおかしいとみんな言うゴロ。」

「何かがおかしい、ですか。」

ゴロン族は大きく頷く。

「そうゴロ。1人2人だったら聞き流したゴロが、何人もいたんだゴロ。しかも、女神陣営だけじゃなかったゴロ。」

すると、ゾーラ族も腕を組んで考えを巡らせ始めたようだった。

「それは気になりますね……。あちこちを渡り歩いているマルゴさんが言うのですから、なおさら。」

リンクはギクリとした。ゴロン族の顔をよく見ると、神出鬼没のマルゴだった。

“聞いたことがある声のような気はしていたけど……。”

冷や汗を流しながら、まさかと思い、ゾーラ族もよく観察する。誰か分かって、リンクは更に息を潜めた。

“ラルス王子だ……。”

気を引き締め直してリンクは二人をうかがう。しかし、話は終わったようで、二人は去っていくところだった。

“何かがおかしい、か……。”

考え事をしながらリンクは歩き出した。すると突然、腕を引っ張られた。

“え、何……!?”

リンクが驚いて振り向くと、イーガ団の頭、コーガ様がリンクの腕を掴んでいた。

“な、なんで!?!?”

リンクは青ざめながら、コーガ様を見上げた。

「パンパカパーン!お前は幸運だ!このコーガ様と出会えるなんてな!!」

コーガ様がはしゃぐ。彼は器用にもリンクを捕まえたまま、紙吹雪を散らしていた。

“う、嬉しくない……!!どうしよう……!!”

リンクは口元を引き攣らせ、呆然とコーガ様を見つめていた。

「おや?嬉しすぎて声も出ないか。まぁいいまぁいい。そんな君にはこれをプレゼント!」

コーガ様はどこからともなく大きな袋を出現させると、それをリンクに押し付けてきた。袋からバナナがたくさん顔を出している。リンクは反射的に受け取ってしまった。

「それでは、それでは、次もあるから失礼する!」

ボン、とコーガ様は姿を消した。リンクは無駄に大きい袋を抱えたまま、しばらく呆然としていた。

“何故……。って、これじゃ目立つ……!!”

ようやく戻ってきた思考も疑問符しか浮かべられない。しかしすぐに、この大きな袋が人にどう映るか気付き、リンクは慌てた。

“どうする……?これ、捨てていく?的あて屋にこのまま行ったら、みんなにジロジロ見られる羽目になりそうだし。”

「いた!!」

葛藤のさなかに響いた声。ビクリとして振り向くと、スタルキッドが走ってきた。リンクの隣までやってきた彼は、ゼェハァ息を切らしている。友達の彼は、いないリンクを探し回ってくれたに違いない。

「ごめ、」

「シィーっ!!」

リンクが口を開くと、ギョッとした顔でスタルキッドが口に人差し指を当てた。スタルキッドはリンクを睨みつける。

「ココは安全ジャ、ナイんだゾ。」

リンクは大きなバナナ袋を一度地面に置き、手を合わせた。スタルキッドはため息を吐いた。

「マッタク。それで、コレは何ダ?」

リンクは首を傾げてみせるしかなかった。

「ア、バナナダ。おいしそう。」

スタルキッドは目をキラキラ輝かせている。それを見てリンクは、捨てるという考えを改めた。リンクは苦笑しながら、一度森の方角を指さし、袋を持ち上げて、スタルキッドの方に差し出す素振りをした。

「……!くれるのカ!?」

リンクは頷く。そして、片手を大きく横に動かした。

「ウン、ミンナも喜ぶゾ!……デモそれ、重そうダナ。」

スタルキッドはどこからともなく袋を取り出すと、一部持ってくれた。

「帰ろう!」

他のスタルキッド達と合流し、森に帰った。バナナはみんなでおいしく頂いた。バナナを全て平らげてから気付いたのだが、あの大きな袋の中に首刈り刀や旅人の服など、冒険に使えるアイテムも入っていた。リンクはこっそり持っておくことにした。





リンクは暗い場所にいた。疑問符を浮かべて辺りを見渡す。自分が何か壁のようなものに囲まれているのは分かったが、様子は分からない。空を見上げると、嫌な雲が一面を覆っている。

“ここは……?何がどうなっているんだ……?”

首を傾げるが、解を導き出せそうにない。考えていても仕方ないことに気付き、リンクは移動を始めた。少し進み、リンクは息を飲んだ。人や魔物の死骸が転がっている。それも1つ2つではない。大量に、だ。吐き気を感じながら、リンクはまた辺りを見渡した。この辺りは黒焦げた壁が多い。だが、分かったのはそれだけで、やはり得られる情報は少ない。ふと、目線を上げた。すると、聳え立つ建築物が目に入った。存在感のある建物だ。

“あれは、何だろう?”

リンクは近くの壁によじ登った。その建物の全容が視界に入って、リンクは動きを止めた。血の気が引いていくのが分かる。息の仕方がよく分からない。リンクは手を離して壁から降りると、真っ青な顔のまま壁に凭れ掛かった。……自分は知らない土地にいるのだと思っていた。知らない土地にいるのだと思いたかった。だが、その建築物は、知っている。見たことがある。それは、城――同盟軍が建てた平和の象徴――だった。つまりここは、決戦地に作られた城下町だったのだ。

“一体何があったんだ……?ゼルダ達は無事……?”

リンクはハッと我に返ると、城の方を仰ぎ見た。この状態で無事と考えるのは浅はかすぎる。だが、城が健在ということは、まだ間に合うかもしれない。身の毛がよだつ思いを押しやり、リンクは城に向かって走り出した。



城に近付くにつれ、空気が重苦しくなっていった。リンクがいたところは痛い静寂が流れていたが、だんだんと物音が聞こえるようになってきた。全滅ではなかったことに安心する。しかし、更に近づいて、それはいい音ではなかったことを知った。ガン。バン。破裂音。キン。カン。金属音。戦闘の時に聞く音だ。嫌な臭いもしてきている。だが、戦う現場にはまだかち合わせていない。戦闘が城のすぐ近くで行なわれていることに肝を冷やしながら、リンクは足を速めた。ようやくリンクが城の前の広場に辿り着くと、ゼルダやガノンドロフが兵を引き連れて出てくるのが見えた。側では、インパやギラヒムが何かを叫びながら辺りの存在に指示を出している。ゼルダ達が無事だったことに、一先ず安堵した。リンクがゼルダに声をかけようとしたその時。

「逃げろ、逃げるがいい!」

突然、不吉な声が響き渡った。声に驚いたのも束の間、嫌な視線を感じた。リンクはそちらに目を向ける。広場を見渡せるであろうバルコニーに、何かいた。人とは違う、魔物とも違う、この世のものならざる者がそこにいた。

「すぐに私がこの世界を支配する!ハハハ、ハーハッハッハ!!」





ハッとリンクは飛び起きた。雑魚寝しているスタルキッド達が目に入る。自分が森の中にいたことを実感した。リンクは深いため息を吐いて、仰向けに倒れ込んだ。

“またあの夢か……。”

城下町で悪夢を見てから、連日同じ夢を見るようになった。いつも同じ場所で始まり、同じ行動をとり、同じ声で終わる。思考回路まで固定されているのは、いい加減勘弁してほしい。リンクは溜め息を吐いて寝返りをうった。この夢を見ると、もう一度寝付くことが出来ない。今日も朝までこのままかとリンクの気は沈んだ。今ばかりは、気持ち良さそうに眠る周りのスタルキッド達が恨めしい。リンクは何も考えないように、視界をシャットアウトした。





リンクは遊ぶスタルキッド達を眺めながら、もう何度目になるか分からないため息を吐いた。最近悪夢ばかり見て、全然ゆっくり寝られない。

“あれは一体何なのだろう……。”

リンクは首を捻る。あの夢が自分の深層心理だなんてことは信じたくない。

“そういえば、昔からよく夢を見るよなぁ……。ガノンドロフと対峙するシーンなんかも、繰り返し見ていたし。”

そこまで考えて、リンクは動きを止めた。顔を引き攣らせる。

“な、何を考えているんだ。それと同列に考えたらダメだ。あれは悲劇の前触れで、”

リンクの思考は一時停止する。雷に打たれたような衝撃を感じた。

“悲劇の、前触れ……。”

ストン、と落ちるものがあった。だがすぐに、リンクはブンブンと首を振った。

“か、考えすぎだ。今の平和な世界でそんなこと起こるはずが………。”

リンクは口元を引き攣らせていたが、最終的に苦虫を嚙み潰したような顔をした。

“起こるはずがない、って言い切れるのか……?”

リンクはギュッと手を握り締めた。期待すればするほど、否定する力はどんどん弱くなっていく。

“ゼルダとガノンドロフの対立は、起こらない。……そう信じる。だけど、夢での惨劇は、全く知らない奴によって引き起こされていた。”

希望的観測が如何に危険かは、身をもって知っている。リンクは、とうとう全否定することを諦めた。

“調べておいた方がいい。”

備えあれば患いなし、杞憂だとしても損にはならない。そう思うことにした。リンクはいつの間にか下がっていた目線を上げる。仲良く笑うスタルキッド達が目に入った。リンクは彼等をじっと見つめる。楽しそうに笑う友達のスタルキッドから、しばらく目を離すことができないでいた。





その日の晩、リンクはスタルキッド達の住処を抜け出した。思い立ったが吉日、スタルキッド達の住処を発つことにしたのだ。周りに気配がないことを確認し、スタルキッドの格好から大人の旅人風姿に変えた。今回ばかりは、謎のコーガ様の行動に感謝した。あの袋にフード付きのマントまで入っていたのは本当にありがたい。スタルキッド変装グッズを仕舞い込み、リンクは森の外に向かって歩き始めた。森の空気がヒヤリと冷たい。フクロウがホーホーと責め立てるように鳴いていた。

「行っちゃうのカ?」

出口を目前にして、哀し気な声が響いた。後ろからだ。リンクは振り返ることなく頷いた。

「外は、危険ダゾ。」

リンクは再び頷いた。すると、後ろから溜め息が聞こえた。

「今日の様子を見てテ、もしかしたら、とは、思った。ダケド……どうしてダ?」

リンクはようやく振り返った。心許ない様子で、スタルキッドが立っている。リンクは、哀しそうに揺れるスタルキッドの目をしっかり見つめた。

「調べたいことがあるんだ。」

スタルキッドの眼が、更に揺れた。

「それは、オマエのためカ?」

願望を口にするかのように、スタルキッドは聞いた。リンクは大きく頷く。

「世界のためジャ、ナイ?」

スタルキッドの声は、それはそれは苦しそうだった。リンクは苦笑し、やれやれと思いながら首を振った。

「忘れないで。オレは、破壊者だ。」

「そんなコト、どうだってイイ!」

スタルキッドの力強い声が辺りに響いた。スタルキッドはグッと手を握り締めている。そうかと思えば、これ以上ない程真剣な眼が、リンクを射抜いた。

「オマエは、リンク、ダ。大事な、大事な、オイラのトモダチ。」

リンクはハッとして言葉を失った。すごく温かい言葉だった。

「オイラは、オマエが心配ダ。それと……」

スタルキッドはリンクから視線を外し、もじもじと揺れた。

「……オマエがいなくなると、さみしい。」

恥ずかしそうに揺れるスタルキッドを見つめながら、リンクはしばらく動けなかった。じわじわと何かが溶けていくように感じる。世界を壊すなんて大罪を犯してなお、こんな風に言ってもらえるなんて、なんて幸せ者なのだろうか。リンクはスタルキッドを見ていられず、地面に目を落とした。だが、それは一瞬で、すぐに決意を新たにする。地面を見つめたまま、口を開いた。

「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ。だけど……」

このまま目を見ずに言うのは卑怯だと思ったリンクは、もう一度、スタルキッドを見た。

「オレは、行かないと。外の世界がどうなっているか、知りたいんだ。」

「リンク、」

「ごめん………!」

それ以上何かを言われれば、決意が揺らぐと思った。だからリンクは、スタルキッドを遮り、罪悪感を振り切って走り出した。スタルキッドが追ってこないことは分かっていた。だから、平原に出てすぐに足を止める。リンクは深呼吸した。これは再出発だ。今度は、正しい方法で、世界に貢献する。リンクは振り向くことなく歩み出した。





リンクはまず、以前拠点にしていた塔のあった場所、もとい、自身の目覚めた地に向かった。あの時の塔は綺麗になくなっていた。だが、そこに生えていた木々は健在で、驚くことに、塔の根元となっていた洞窟は、上手に隠されたまま存在した。中はボロボロだろうかと思いきや、目覚めた時のままで、かつて使用した道具も変わらず綺麗に並べられていた。リンクは武器や道具を回収する。今回は人目を気にする旅になる。人や魔物が通れない道を使おうと思えば、かつてのアイテムは必須だった。準備を整えたリンクは、再びその地を出発する。そして、ハイラルを旅した。流石はかつての世界が一度に現れた世界。非常に広いがために、制覇に時間を要した。こうして、更に数年が経過した。




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