墜ちた先
「その格好でか?」
その声音は厳しいものではなく、予想していたどの言葉とも違った。だからリンクは安心した。だが、それ以上は言わせてはいけないと思った。自分を引き留めようとしてくれているのは分かった。ダークリンクに罪を犯させてはいけない。リンクはダークリンクと目を合わせた。
「止めちゃダメだよ。オレは、」
「スタルキッドは間違いなく疑われるな。上手く誤魔化しても、後ろ指は指される。」
リンクを遮り、ダークリンクは早口で言った。リンクは虚を突かれたが、すぐにダークリンクの言いたいことを理解した。動揺し、顔を青くする。
「そんな、オレ、服……。どうしよう……戻らなきゃいけないのに……。」
リンクは呆然としながら、自分の着ている服を眺めた。
「なぁ。ここに居たらダメなのか?」
後ろからかけられた言葉は、甘美な誘惑だった。だが、それは乗ってはいけない誘いだ。リンクは必死にその誘惑を振り払う。
「何言ってるの……。だってオレは、」
「世界を襲った、ってか?だから何だよ?」
なんとか紡いだ言葉も、ダークリンクの前では効力を持ちそうになかった。
「何って……。」
弱々しく反論を試みるが、言葉が続かない。
「あんなじめじめしたところに閉じ込められて、責められ続けることもないだろ。」
リンクはフルフルと首を振った。
「罰は、受けなきゃ……。」
泣きそうになるのを必死でこらえる。
「もう十分受けただろ。」
優しい言葉に、心が折れそうになる。
「それは、オレが決めることじゃない……。」
流されまいと、現実を自分に突き付けた。
「俺は納得できねぇ。お前は悪くないとは言わないが、完全な悪ではない。むしろ……対立してた奴ら、つまり、俺らの方がよっぽど罪は重い。」
「そんなことない!」
即座にリンクは否定する。ダークリンクのリンクを掴む手に力が入った。
「ねぇって?平和を壊す行動には変わりねぇよな?もっというと、お前の行動を引き起こしたのは、対立を深めた俺らだ。最初からお前の言うこと聞いとけば、この平和な世界は作れた可能性がある。」
「違う、違うよ、ダーク……。」
首を振りながら、必死に否定する。あれは我儘な自分が悪いのだ。今の平和な世界を待てず、駄々をこねたのだ。あの行動を否定する気はないが、正当化できないのはよく分かっている。
「違わねぇ。」
だが、ダークリンクは力強くリンクの考えを否定する。そして、リンクが口を開く間もなく、言葉を続けた。
「お前は、俺達全員の罪を一人で背負ったにすぎない。」
リンクはただただ首を振った。
「なんでまだ、苦しまなきゃいけないんだよ。」
ダークリンクの声こそが苦しそうだった。リンクは、自身を掴むダークリンクの手に掴まれていない方の手を重ねた。
「オレは、大丈夫。大丈夫だから……。」
「少しくらい平穏な生活を送ってもいいんじゃないか?」
ダークリンクはリンクの言葉をスルーし、またしても甘い誘惑をする。リンクは力なく首を振った。
「まぁ、お前の言う通り、真実がばれたら、また亀裂が入るかもしれない。それをお前が望まないことは知ってる。お前が望むなら、俺達は黙っているしかない。そうすると、お前は隠れて生きるしかない。不自由は強いられる。……だけど、あそこよりマシだと思うぞ。」
リンクは浅く息を吸った。
「オレは、」
「世界は大丈夫だ。もう、肩の荷を下ろせば?」
リンクは動けなかった。
「自分で見たくねぇ?お前が作った、平和な世界。」
思考がしばしフリーズした。ツー、と知らず知らずのうちに涙が頬を伝っていた。考えないようにしていたことを、ダークリンクが暴いてしまった。リンクは爪先を眺め、口元をわななかせる。
「………………見たい。」
とうとう、心の底で感じていた本当の望みを口に出してしまった。溢れてきた本音を押さえ込むことができなかった。感情に流されそうになりながら俯いていると、頭に重みが乗った。ダークリンクが撫でてくれていた。
「だろ?じゃあ、外にいないとな?」
リンクは小さく頷いた。
「それじゃ、これからの話。しばらくお前、スタルキッドな。」
「へ?」
意味を理解できず、リンクは動きを止める。自分がしばらくスタルキッドとはどういうことだ?そういえば今、自分はスタルキッドの格好をしている。つまり、この格好を続けるということか?そうすると……
“スタルキッド達に迷惑をかけることになる!!”
穏やかな気分が一気にどこかへ飛んでいった。ダークリンクの手を振り払い、ガバッとダークリンクの方に向いた。
「ちょっと待って!これからのことは自分で」
「お前、絶対変なこと考えるから却下。」
リンクが叫ぶも、ダークリンクは容赦なく斬り捨てた。
「もう世界を壊すとか馬鹿なことしないから!」
リンクはダークリンクに訴える。すると、ダークリンクの顔が般若のようになった。
「この期に及んでまだ言うか!やってもないことぬかすな!!つうか、俺が心配してんのはそれだ!変に自分を追い込むな!!」
ダークリンクが怒鳴る。リンクも負けていられない。ダークリンクに掴みかからん勢いで声を張り上げた。
「これ以上迷惑かけられない!って、そうだ!」
ふと、大変なことを思い出した。リンクは顔を真っ青にして叫ぶ。
「君達、オレなんか助けて大丈夫なの!?」
「あー、大丈夫じゃねぇな。」
ダークリンクは腕を組んだ。
「仲良く御尋ね者ですんだらラッキー、みたいな?」
リンクは目を大きく見開き、首をフルフルと振り、視線を彷徨わせた。落ち着きなく動き回る。
「そ、そんな!!御尋ね者!?」
「嘘だよそんな狼狽えんな。」
非常に早口な言葉が聞こえ、ダークリンクを見やる。すると、ダークリンクはリンクに白い目を向けていた。ダークリンクは溜息を吐くと、元の調子で続けた。
「安心しろ。お前を助けた奴はいないことになってる。オレ達のことはばれていない。」
それを聞いて、リンクはひどく安心した。ホッと胸に手を当てる。
「あぁ……よかった……。」
「だけど、この先ばれたらやばいんだよな。だから、お前、残れな?」
ピクリとリンクは身じろぎした。ダークリンクの言うことは最もだ。外に居れば、捜査は続行され、何かの拍子で露見するリスクはなくならない。リンクは頷きかけて、慌てて動きを止めた。
「いやいや待って、おかしいから。逆でしょう。」
ばれるのが困るのは分かるが、残っていいことなどない。
「オレ、消えるから。誰にも迷惑かけないところに消えるから。」
ダークリンクはため息を吐いた。
「だから、その格好で?」
呆れたようなセリフに、リンクは首を振った。
「ちゃんと着替えるよ。スタルキッド達には迷惑かけない。」
「どこで?」
間髪入れずにダークリンクから問いが発せられる。
「それ、は……。」
何の準備もないリンクは、答えに詰まるしかなかった。
「新しい服はどう調達する?」
更なる問いに、リンクは反論できなかった。
「ミスったらお前が避けたい事態になるんだからな。」
厳しいダークリンクの指摘に、リンクは小さく何度か頷いた。
「分かってる。へまはしない。」
「ここを出ることは、迷惑かけるやつを増大させるリスクがあることも理解した上だな?」
リンクはまた動きを止めた。ダークリンクの言う通りであるが、そこまで考えが至っていなかった。
「知ってるか?お前今、けっこういいポジションにいるんだぞ。」
リンクは無言でダークリンクを見る。すると、ダークリンクは指折り数えながら説明を始めた。
「スタルキッドの格好は姿を隠すのにもってこい。お前は森育ちで身も軽いから、スタルキッドのフリができる。ここには食料も寝床もある。お前がスタルキッドに紛れていることを知っているのは、俺とお前を連れてきたスタルキッドのみ。あ、ちなみにあいつ、俺らの時代のスタルキッドな。お前と友達だとか言ってたぞ。」
ダークリンクの説明は、説得力があった。あった、が。
“それを受け入れちゃいけない。それはオレにとって都合がいいだけ。スタルキッドにとってじゃない。”
「抜け出してもメリットはなし。ま、お前の考える迷惑はなくなるのかもしれないが。いや、もしもが起こったら、迷惑なんてもんじゃすまねぇぞ。リスクを冒す価値はねぇ。」
それを言われると、リンクは弱かった。
「今は甘えとけよ。それに、お前が思っているほど迷惑がってもないさ。」
リンクは唇を強く噛む。
“どうしてそう言い切れるんだろう。大体、もし、オレがここにいるのが知られたら、それこそ大変なことになってしまう……。”
ダークリンクは眉を顰めた。
「なんだよ、まだ納得できねぇ?」
ダークリンクは少し首を傾げた。
「あ、ばれたら、とか考えてるな?」
リンクはビクリと反応してしまった。
“何で分かるの……。”
心の中で毒つく。
「その危険は常につきまとう。森を出ようが残ろうが同じだ。諦めろ。」
ダークリンクはそう言うと、黙り込んだ。ここから先は、自分で結論を出せと言うことだろう。リンクは思考を巡らせた。自分の考え、ダークリンクが言ったこと、世界のみんなが思うであろうこと、スタルキッドのこと、いろいろな観点からダークリンクの提案について考える。リンクは暫く決心できずにいた。ふと、ダークリンクに目を向けると、彼は真剣な顔でこちらを見ながら、辛抱強く待ってくれていた。それを見て、リンクはようやく決心できた。小さく笑みをこぼす。
「これだけお膳立てしてもらって、断るのも失礼、だよね。」
ダークリンクの顔が明るくなった気がした。リンクはダークリンクに微笑みかける。
「ありがとう、ダーク。オレ、スタルキッド達にお世話になるよ。」
「はぁ……。やっと言ったか。」
ダークリンクは脱力し、ホッとしたように息を吐いた。しばらくその体勢でいたが、ダークリンクは再び口を開く。
「……なぁ。」
「ん?何?」
何だか清々しい気持ちで、リンクはダークリンクを促した。すると、ダークリンクはまた、真剣な顔をリンクに向けた。
「色々と制約があって、のびのびと暮らせないとは思うがな。少しはエンジョイしろよ、お前の生活。」
リンクはクスリと笑みをこぼした。
「うん、分かってる。」
その声が明るかったことは否定しない。
「後ろめたいとかお前は思うんだろうが。少しでもお前が幸せなら、
………………………ナビィやファイは喜ぶ。」
なおも嬉しい言葉を続けるダークリンクに、リンクの気分はどんどん上がる。
「分かってるってば。」
楽し気な声色を隠しも出来ず、リンクは答えた。ダークリンクはそれでも満足しないらしい。難しい顔でしばらくリンクを見つめていた。やがて、顔を背けてしまう。
“……?どうしたんだろう?”
リンクが不思議に思ってダークリンクを眺めていると。
「…………………………………俺も。」
たっぷり間を開けて、微かな声が聞こえた。リンクはそれを聞いて、目を丸くした。ダークリンクの顔はうかがえない。だが、本気でそう思ってくれているのは分かった。リンクはしばらく目をパチクリさせていたが、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう。」
“あぁ、こんなに嬉しいことはないよ、ダーク。”
リンクはしばらくニコニコとしていた。
二人はスタルキッドの住処に戻った。すると、入口の前に一人立っていた。二人を見つけ、近づいてくる。それは、友達のスタルキッドだった。
「勝手にいなくなるナ。心配したゾ。」
リンクは胸の前で両手を合わせた。
「悪いな。少し借りてた。……話はついた。こいつを頼む。」
ダークリンクの言葉と共に、リンクは頭を下げた。
「ここで暮らすってことだナ?大丈夫ダ。責任もって守る。」
リンクはたじろぐ。ダークリンクは悪戯っぽく笑い、リンクの頭に手を置いた。
「あぁ、頼む。しっかり守ってやってくれ。」
リンクはパシパシとダークリンクを叩いて抗議した。それを適当にあしらうと、急にダークリンクは真剣な顔をした。
「ちゃんと見張っててくれ。こいつが馬鹿なことをしないように。」
リンクは動きを止め、ダークリンクを見上げた。
“あの真実は、ダークを傷つけてしまったかもしれない……。”
ダークリンクはリンクの神妙な様子に気づいたらしい。小さくため息を吐くと、リンクの頭に手を乗せた。だが、それは握り拳で、グリグリと頭を攻撃された。
「なんて空気醸し出してんだよ。大丈夫だ。心配することは何もねぇって。」
ダークリンクは攻撃を止め、スタルキッドに向き合った。リンクは頭を押さえ、しゃがみこんだ。恨みがましい目をダークリンクに向けるが、ダークリンクに気付かれることはなかった。
「じゃ、マジで頼むな。俺はこいつを探す任務を受けてるから、これから旅に出る。」
リンクは驚いて立ち上がった。
「この後、ここにはいなかったと報告書を出すから、しばらく偵察は来ないだろう。ま、来ても誤魔化せるよな?」
「もちろんダ。」
リンクの様子に構うことなく、二人の会話は進む。
「こいつは今までみたいに喋れない設定を通すから、面倒見てやってくれ。」
「りょーかいダ。」
ダークリンクがこちらに顔を向けた。するとまた、小さくため息を吐いた。自分が今、どんな風に見えているのか分からなかったが、問題ないようには見えなかったらしい。取り繕うことは出来なかった。ただ、ダークリンクが心配で、すごく不安だった。
「そんな寂しそうにすんなよ。俺がいないとダメとか赤ん坊みたいだな?」
ダークリンクはふざけたように言った。だが、リンクはそんな風に誤魔化したくなかった。リンクはダークリンクに抱きついた。
「………ごめん。」
小さく、小さく、ダークリンクにしか聞こえない声で呟いた。
「……大丈夫だっての。」
ダークリンクが頭を撫でるのが分かった。だが、それは長くはない時間で、ダークリンクはリンクを離れさせると、
「じゃーな。後はよろしくー。」
と残し、森を後にしてしまった。
こうして、しばらくリンクはスタルキッドとして生活することになった。
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その声音は厳しいものではなく、予想していたどの言葉とも違った。だからリンクは安心した。だが、それ以上は言わせてはいけないと思った。自分を引き留めようとしてくれているのは分かった。ダークリンクに罪を犯させてはいけない。リンクはダークリンクと目を合わせた。
「止めちゃダメだよ。オレは、」
「スタルキッドは間違いなく疑われるな。上手く誤魔化しても、後ろ指は指される。」
リンクを遮り、ダークリンクは早口で言った。リンクは虚を突かれたが、すぐにダークリンクの言いたいことを理解した。動揺し、顔を青くする。
「そんな、オレ、服……。どうしよう……戻らなきゃいけないのに……。」
リンクは呆然としながら、自分の着ている服を眺めた。
「なぁ。ここに居たらダメなのか?」
後ろからかけられた言葉は、甘美な誘惑だった。だが、それは乗ってはいけない誘いだ。リンクは必死にその誘惑を振り払う。
「何言ってるの……。だってオレは、」
「世界を襲った、ってか?だから何だよ?」
なんとか紡いだ言葉も、ダークリンクの前では効力を持ちそうになかった。
「何って……。」
弱々しく反論を試みるが、言葉が続かない。
「あんなじめじめしたところに閉じ込められて、責められ続けることもないだろ。」
リンクはフルフルと首を振った。
「罰は、受けなきゃ……。」
泣きそうになるのを必死でこらえる。
「もう十分受けただろ。」
優しい言葉に、心が折れそうになる。
「それは、オレが決めることじゃない……。」
流されまいと、現実を自分に突き付けた。
「俺は納得できねぇ。お前は悪くないとは言わないが、完全な悪ではない。むしろ……対立してた奴ら、つまり、俺らの方がよっぽど罪は重い。」
「そんなことない!」
即座にリンクは否定する。ダークリンクのリンクを掴む手に力が入った。
「ねぇって?平和を壊す行動には変わりねぇよな?もっというと、お前の行動を引き起こしたのは、対立を深めた俺らだ。最初からお前の言うこと聞いとけば、この平和な世界は作れた可能性がある。」
「違う、違うよ、ダーク……。」
首を振りながら、必死に否定する。あれは我儘な自分が悪いのだ。今の平和な世界を待てず、駄々をこねたのだ。あの行動を否定する気はないが、正当化できないのはよく分かっている。
「違わねぇ。」
だが、ダークリンクは力強くリンクの考えを否定する。そして、リンクが口を開く間もなく、言葉を続けた。
「お前は、俺達全員の罪を一人で背負ったにすぎない。」
リンクはただただ首を振った。
「なんでまだ、苦しまなきゃいけないんだよ。」
ダークリンクの声こそが苦しそうだった。リンクは、自身を掴むダークリンクの手に掴まれていない方の手を重ねた。
「オレは、大丈夫。大丈夫だから……。」
「少しくらい平穏な生活を送ってもいいんじゃないか?」
ダークリンクはリンクの言葉をスルーし、またしても甘い誘惑をする。リンクは力なく首を振った。
「まぁ、お前の言う通り、真実がばれたら、また亀裂が入るかもしれない。それをお前が望まないことは知ってる。お前が望むなら、俺達は黙っているしかない。そうすると、お前は隠れて生きるしかない。不自由は強いられる。……だけど、あそこよりマシだと思うぞ。」
リンクは浅く息を吸った。
「オレは、」
「世界は大丈夫だ。もう、肩の荷を下ろせば?」
リンクは動けなかった。
「自分で見たくねぇ?お前が作った、平和な世界。」
思考がしばしフリーズした。ツー、と知らず知らずのうちに涙が頬を伝っていた。考えないようにしていたことを、ダークリンクが暴いてしまった。リンクは爪先を眺め、口元をわななかせる。
「………………見たい。」
とうとう、心の底で感じていた本当の望みを口に出してしまった。溢れてきた本音を押さえ込むことができなかった。感情に流されそうになりながら俯いていると、頭に重みが乗った。ダークリンクが撫でてくれていた。
「だろ?じゃあ、外にいないとな?」
リンクは小さく頷いた。
「それじゃ、これからの話。しばらくお前、スタルキッドな。」
「へ?」
意味を理解できず、リンクは動きを止める。自分がしばらくスタルキッドとはどういうことだ?そういえば今、自分はスタルキッドの格好をしている。つまり、この格好を続けるということか?そうすると……
“スタルキッド達に迷惑をかけることになる!!”
穏やかな気分が一気にどこかへ飛んでいった。ダークリンクの手を振り払い、ガバッとダークリンクの方に向いた。
「ちょっと待って!これからのことは自分で」
「お前、絶対変なこと考えるから却下。」
リンクが叫ぶも、ダークリンクは容赦なく斬り捨てた。
「もう世界を壊すとか馬鹿なことしないから!」
リンクはダークリンクに訴える。すると、ダークリンクの顔が般若のようになった。
「この期に及んでまだ言うか!やってもないことぬかすな!!つうか、俺が心配してんのはそれだ!変に自分を追い込むな!!」
ダークリンクが怒鳴る。リンクも負けていられない。ダークリンクに掴みかからん勢いで声を張り上げた。
「これ以上迷惑かけられない!って、そうだ!」
ふと、大変なことを思い出した。リンクは顔を真っ青にして叫ぶ。
「君達、オレなんか助けて大丈夫なの!?」
「あー、大丈夫じゃねぇな。」
ダークリンクは腕を組んだ。
「仲良く御尋ね者ですんだらラッキー、みたいな?」
リンクは目を大きく見開き、首をフルフルと振り、視線を彷徨わせた。落ち着きなく動き回る。
「そ、そんな!!御尋ね者!?」
「嘘だよそんな狼狽えんな。」
非常に早口な言葉が聞こえ、ダークリンクを見やる。すると、ダークリンクはリンクに白い目を向けていた。ダークリンクは溜息を吐くと、元の調子で続けた。
「安心しろ。お前を助けた奴はいないことになってる。オレ達のことはばれていない。」
それを聞いて、リンクはひどく安心した。ホッと胸に手を当てる。
「あぁ……よかった……。」
「だけど、この先ばれたらやばいんだよな。だから、お前、残れな?」
ピクリとリンクは身じろぎした。ダークリンクの言うことは最もだ。外に居れば、捜査は続行され、何かの拍子で露見するリスクはなくならない。リンクは頷きかけて、慌てて動きを止めた。
「いやいや待って、おかしいから。逆でしょう。」
ばれるのが困るのは分かるが、残っていいことなどない。
「オレ、消えるから。誰にも迷惑かけないところに消えるから。」
ダークリンクはため息を吐いた。
「だから、その格好で?」
呆れたようなセリフに、リンクは首を振った。
「ちゃんと着替えるよ。スタルキッド達には迷惑かけない。」
「どこで?」
間髪入れずにダークリンクから問いが発せられる。
「それ、は……。」
何の準備もないリンクは、答えに詰まるしかなかった。
「新しい服はどう調達する?」
更なる問いに、リンクは反論できなかった。
「ミスったらお前が避けたい事態になるんだからな。」
厳しいダークリンクの指摘に、リンクは小さく何度か頷いた。
「分かってる。へまはしない。」
「ここを出ることは、迷惑かけるやつを増大させるリスクがあることも理解した上だな?」
リンクはまた動きを止めた。ダークリンクの言う通りであるが、そこまで考えが至っていなかった。
「知ってるか?お前今、けっこういいポジションにいるんだぞ。」
リンクは無言でダークリンクを見る。すると、ダークリンクは指折り数えながら説明を始めた。
「スタルキッドの格好は姿を隠すのにもってこい。お前は森育ちで身も軽いから、スタルキッドのフリができる。ここには食料も寝床もある。お前がスタルキッドに紛れていることを知っているのは、俺とお前を連れてきたスタルキッドのみ。あ、ちなみにあいつ、俺らの時代のスタルキッドな。お前と友達だとか言ってたぞ。」
ダークリンクの説明は、説得力があった。あった、が。
“それを受け入れちゃいけない。それはオレにとって都合がいいだけ。スタルキッドにとってじゃない。”
「抜け出してもメリットはなし。ま、お前の考える迷惑はなくなるのかもしれないが。いや、もしもが起こったら、迷惑なんてもんじゃすまねぇぞ。リスクを冒す価値はねぇ。」
それを言われると、リンクは弱かった。
「今は甘えとけよ。それに、お前が思っているほど迷惑がってもないさ。」
リンクは唇を強く噛む。
“どうしてそう言い切れるんだろう。大体、もし、オレがここにいるのが知られたら、それこそ大変なことになってしまう……。”
ダークリンクは眉を顰めた。
「なんだよ、まだ納得できねぇ?」
ダークリンクは少し首を傾げた。
「あ、ばれたら、とか考えてるな?」
リンクはビクリと反応してしまった。
“何で分かるの……。”
心の中で毒つく。
「その危険は常につきまとう。森を出ようが残ろうが同じだ。諦めろ。」
ダークリンクはそう言うと、黙り込んだ。ここから先は、自分で結論を出せと言うことだろう。リンクは思考を巡らせた。自分の考え、ダークリンクが言ったこと、世界のみんなが思うであろうこと、スタルキッドのこと、いろいろな観点からダークリンクの提案について考える。リンクは暫く決心できずにいた。ふと、ダークリンクに目を向けると、彼は真剣な顔でこちらを見ながら、辛抱強く待ってくれていた。それを見て、リンクはようやく決心できた。小さく笑みをこぼす。
「これだけお膳立てしてもらって、断るのも失礼、だよね。」
ダークリンクの顔が明るくなった気がした。リンクはダークリンクに微笑みかける。
「ありがとう、ダーク。オレ、スタルキッド達にお世話になるよ。」
「はぁ……。やっと言ったか。」
ダークリンクは脱力し、ホッとしたように息を吐いた。しばらくその体勢でいたが、ダークリンクは再び口を開く。
「……なぁ。」
「ん?何?」
何だか清々しい気持ちで、リンクはダークリンクを促した。すると、ダークリンクはまた、真剣な顔をリンクに向けた。
「色々と制約があって、のびのびと暮らせないとは思うがな。少しはエンジョイしろよ、お前の生活。」
リンクはクスリと笑みをこぼした。
「うん、分かってる。」
その声が明るかったことは否定しない。
「後ろめたいとかお前は思うんだろうが。少しでもお前が幸せなら、
………………………ナビィやファイは喜ぶ。」
なおも嬉しい言葉を続けるダークリンクに、リンクの気分はどんどん上がる。
「分かってるってば。」
楽し気な声色を隠しも出来ず、リンクは答えた。ダークリンクはそれでも満足しないらしい。難しい顔でしばらくリンクを見つめていた。やがて、顔を背けてしまう。
“……?どうしたんだろう?”
リンクが不思議に思ってダークリンクを眺めていると。
「…………………………………俺も。」
たっぷり間を開けて、微かな声が聞こえた。リンクはそれを聞いて、目を丸くした。ダークリンクの顔はうかがえない。だが、本気でそう思ってくれているのは分かった。リンクはしばらく目をパチクリさせていたが、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう。」
“あぁ、こんなに嬉しいことはないよ、ダーク。”
リンクはしばらくニコニコとしていた。
二人はスタルキッドの住処に戻った。すると、入口の前に一人立っていた。二人を見つけ、近づいてくる。それは、友達のスタルキッドだった。
「勝手にいなくなるナ。心配したゾ。」
リンクは胸の前で両手を合わせた。
「悪いな。少し借りてた。……話はついた。こいつを頼む。」
ダークリンクの言葉と共に、リンクは頭を下げた。
「ここで暮らすってことだナ?大丈夫ダ。責任もって守る。」
リンクはたじろぐ。ダークリンクは悪戯っぽく笑い、リンクの頭に手を置いた。
「あぁ、頼む。しっかり守ってやってくれ。」
リンクはパシパシとダークリンクを叩いて抗議した。それを適当にあしらうと、急にダークリンクは真剣な顔をした。
「ちゃんと見張っててくれ。こいつが馬鹿なことをしないように。」
リンクは動きを止め、ダークリンクを見上げた。
“あの真実は、ダークを傷つけてしまったかもしれない……。”
ダークリンクはリンクの神妙な様子に気づいたらしい。小さくため息を吐くと、リンクの頭に手を乗せた。だが、それは握り拳で、グリグリと頭を攻撃された。
「なんて空気醸し出してんだよ。大丈夫だ。心配することは何もねぇって。」
ダークリンクは攻撃を止め、スタルキッドに向き合った。リンクは頭を押さえ、しゃがみこんだ。恨みがましい目をダークリンクに向けるが、ダークリンクに気付かれることはなかった。
「じゃ、マジで頼むな。俺はこいつを探す任務を受けてるから、これから旅に出る。」
リンクは驚いて立ち上がった。
「この後、ここにはいなかったと報告書を出すから、しばらく偵察は来ないだろう。ま、来ても誤魔化せるよな?」
「もちろんダ。」
リンクの様子に構うことなく、二人の会話は進む。
「こいつは今までみたいに喋れない設定を通すから、面倒見てやってくれ。」
「りょーかいダ。」
ダークリンクがこちらに顔を向けた。するとまた、小さくため息を吐いた。自分が今、どんな風に見えているのか分からなかったが、問題ないようには見えなかったらしい。取り繕うことは出来なかった。ただ、ダークリンクが心配で、すごく不安だった。
「そんな寂しそうにすんなよ。俺がいないとダメとか赤ん坊みたいだな?」
ダークリンクはふざけたように言った。だが、リンクはそんな風に誤魔化したくなかった。リンクはダークリンクに抱きついた。
「………ごめん。」
小さく、小さく、ダークリンクにしか聞こえない声で呟いた。
「……大丈夫だっての。」
ダークリンクが頭を撫でるのが分かった。だが、それは長くはない時間で、ダークリンクはリンクを離れさせると、
「じゃーな。後はよろしくー。」
と残し、森を後にしてしまった。
こうして、しばらくリンクはスタルキッドとして生活することになった。
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