墜ちた先
リンクは目を開いた。真っ暗な場所に自分はいた。
“…………???”
思考が言葉にならず、疑問符ばかりをとばす。リンクは起き上がった。少し暗闇に慣れた目で、辺りを観察する。
「………牢、屋?」
ポツリとリンクはこぼした。ここはどこからどう見ても独房だった。さらにリンクは訳が分からなくなる。なんとか頭を回転させ、状況を整理した。
“オレは長らく世界を襲っていた。ようやく和平が結ばれて、オレは――――。”
リンクはギュッと唇を噛んだ。目元を強く押さえる。
“ゼルダとガノンドロフに敗れ、逃げることに失敗した。”
リンクは深呼吸をする。
“あの場で殺してくれるかと思ったけど、それは浅はかな考えだった。ゼルダはきっと、それを望まない。”
ふとリンクは左手の甲を見た。くっきりと見えていたトライフォースは、今や微かに見える程度になっていた。
“……一応、勇気のトライフォースは残ったのか。”
リンクはトライフォースから目を逸らした。
“もうオレに、これを持つ資格なんてないのに。”
かちゃり。どこかで扉の開く音がした。自身のいる牢の前には少しスペースがあり、そこから通路が延びている。そちらから誰かが歩いてくる音がした。
“悪者調は続行すべき、かな。”
リンクは腕組して通路を睨むように見つめた。人影が見えてくる。足音から薄々察してはいたが、二人だ。そうすると、ここに来たのはきっと……。
「やはり目が覚めていたか、小僧。」
大魔王ガノンドロフと。
「リンク……。」
女神ハイリア、もとい、ハイラル王女ゼルダだ。
“トライフォースは二人に戻った。オレが敗れた今も二人が一緒にいるということは、戦乱の世の中には戻っていないということ。”
二人にばれないようにしながら、リンクは安堵する。
「何?オレをどうする気?」
既に苦しそうだったゼルダの顔が、更に歪んだ。
“あぁ、ゼルダお願い。そんな顔をしないで。オレの為に心を痛めないで。”
リンクは心の中で叫びを上げる。だが、表向きは無表情を保った。ややあって、ゼルダが口を開く。
「あなたの返答次第です。」
リンクは眉を顰めた。
「はぁ?何を言っているの?」
酷い言い方をしている自覚はあるが、内容は本心だ。ゼルダの意図が読めなかった。
「どうしてあんなことをしたのか、教えてください。あなたのことです。きっと理由があったのですよね……?」
ゼルダはすがるような目をしていた。それを眺めながら、リンクは無表情を保つことに苦労した。
“ここで全てを話してしまえば、楽になれるだろうか。”
リンクはフッと自嘲した。
“楽になる?オレにそんなことが許されるとでも?”
「何がおかしい。」
ガノンドロフが低い声で問うた。訝しむような目をしている。思わず自嘲してしまったが、どうやらいい効果を生みそうだ。リンクはクスクス笑いながら口を開いた。
「だってさ。理由?言ってなかったっけ?どうでもよくなったんだ。この世界。だから、己の欲に忠実になって、破壊していたんだよ。」
リンクが適当に言葉を並べると、ゼルダは目に涙を浮かべた。
「リンク……!違う、絶対違う!!あなたがそんなことを考えるわけがない!」
「違う?オレの何を知ってそんなこと。」
リンクが意地悪く言うと、ゼルダは顔面蒼白になった。更にリンクは続ける。
「だけどオレ、上手く演じられていたんだね。あれさ、猫被っていたんだ。あのままの方が上手くいったのかなぁ。」
とうとう、ゼルダの瞳から大粒の涙がこぼれた。
「やめて!やめて!!リンク、お願いだからそれ以上はやめて……。」
泣き崩れるゼルダにリンクは肩をすくめた。ガノンドロフに目を向ける。
「……もういいだろう、姫君。」
ガノンドロフはリンクから目を離さないまま、ゼルダに問いかけた。ゼルダは何も言わない。リンクはチラリとゼルダを見たが、ゼルダは苦しそうな顔をするばかりだった。
「終身刑。」
「は?」
ガノンドロフが唐突に、淡々と告げた。リンクはそれ以上言葉を失った。
「言葉のとおりだ。お前をここへ閉じ込める。態度次第では軽くすることも考えていたが、それではな。」
リンクは目の前が真っ暗になるように感じた。何か言い返したいが、悪役らしからぬセリフしか思い付かない。
「今後のことは、小僧次第で考えてやらんこともない。」
ガノンドロフは踵を返した。そのまま出ていくのかと思いきや、姿が見えなくなる前に振り返った。
「言い忘れていたが、ここは立ち入り禁止にはしていない。あぁ、姫君の要望で手出しされることはないだろうから、安心しろ。」
リンクは呆然とガノンドロフを見ていた。ガノンドロフはゼルダを促して出ていく。ゼルダも、苦しそうな顔をしたままこの場を後にした。かちゃりと再び扉の音がしたのを確認して、リンクは膝をついた。
「ウソ、でしょう……?」
サッと人の気配がないことを確認して、その場に踞った。歯を食い縛って、泣くことだけは堪える。
“こんな風に助かるなんて、思っていなかった……。”
ギュッと、強く、強く、手を握った。
“こんな……こんなことって……。これは、オレへの罰……?世界を、襲ったから……。”
リンクは更に項垂れ、床に額をつけた。これから起こる出来事は、きっと自分にとって何よりも恐ろしいことだ。
“耐えられるのかな、オレ……。”
どんなに努力しても、身体の震えを止めることはできなかった。
次の日。入口の方から激しい音がした。そうかと思えば、足音荒く誰かがやってくる。
「おいテメェ!どういうつもりだっ!!」
それはダークリンクだった。半ば飛び込むように入って来た彼は、鉄格子に突進し、激しく鉄格子を揺さぶった。リンクは怯みそうになるが、さっと体裁を整えた。
「あぁ、君か……。何の用?」
煩わしそうに言いながら、ダークリンクに目を向ける。
「何の用?何の用かだと!?こちとら言いてぇことは山程あるんだ!」
ダークリンクは激昂する。リンクは欠伸をしながら、面倒臭そうにため息を吐いた。
「言いたいこと、ね。例えば?」
「……っ!テメェ、」
「ちったぁ落ち着けよ。」
突然第三者の声がした。声の方を見ると、バドがいた。荒々しいダークリンクばかりに気をとられて、全然気付かなかった。
「それじゃ話になんないぜ。」
ダークリンクはバドに宥められて、一度鉄格子を離れた。軽く頭を振ると、しばらく俯いたまま動かない。次にこちらを見たダークリンクからは、荒々しさが消えていた。目に何とも言えない光をたたえ、ダークリンクはリンクを真っ直ぐ見た。
「なぁ。何で俺が協力してたか知ってるか。」
「えー、オレに絆されて、共生に興味持っちゃったからって言っていたじゃん。」
ふざけたようにリンクは返した。ダークリンクから怒気が溢れたのが分かった。
「ちげぇよ。」
ひどく低い声だった。リンクは内心泣きそうになりながら、背けたい気持ちを殺してダークリンクに顔を向けた。
「俺はお前の力になりたかったんだ。」
リンクは黙ったままダークリンクを見つめた。自身が今、無表情を保てているのか、自信がなかった。
「それなのにお前は共生なんかどうでもいいとか言い出して?いつの間にか世界襲ってて?これ、どういうことだよ!!何してんの!?」
ダークリンクはイライラと怒鳴り散らした。そうかと思えば、こめかみに指を当てて項垂れている。何度か小さく深呼吸をすると、ダークリンクは再び真剣な目でリンクを見た。
「お前がやったことが許されるとは思わない。だが、何か思惑があったなら、話は別だ。んで、お前に裏の意図がなかったとは考えられない。……何がしたかったんだよ。」
リンクはやはり言葉を発せずにダークリンクを見つめた。
「つぅか俺、協力するっつうたのに。チャンスくれって言っただろ。」
“……もしかして、ダークが怒っているのは、テバと同じ理由………?”
テバに見つかったとき、仲間を頼らなかったことを怒ってくれた。もし、今、ダークリンクが怒っているのがそれと同じ理由ならば。
“……オレはまた、ダークを怒らせなきゃならない。”
リンクは二人にばれないよう、グッと握り拳を作った。
「なぁ、頼む。教えてくれ。」
「何を言っているの。」
思ったよりも冷たい声が出て、リンク自身もゾッとした。しかし、そんなことはおくびにも出さず、続ける。
「裏の意図?何それ。破壊活動にそんなもの普通ある?あれで何が出来るって?」
「もういいだろ。何?まだ目的達成されてないのか?だからそんな態度なのか?」
ダークリンクが辛抱強く説得を続けてくるが、リンクはそれを鼻で笑った。
「目的?達成されていないに決まっているでしょ。破壊活動は失敗、オレはこんなところに閉じ込められて、君達の戯言に付き合わされている。」
ダークリンクがムッとした顔をした。
「おい、戯言とはどういうことだ。」
リンクは肩を竦めた。
「戯言でしょ。裏の意図とか目的とか。どういう思考回路でそれが思い付くの?」
ダークリンクがガッと鉄格子を掴んだ。
「お前らしくねぇんだよ!それが分からないほどお前を知らないつもりはねぇ!!」
ダークリンクが吠えるのをリンクは冷めた目で見ていた。
「それ、オレのことを知らなかったって言っているも同然だよね。オレはやりたいようにしていたのに、違うって言うのでしょ?」
ダークリンクは苦しそうな顔をした。泣きそうな声で叫ぶ。
「違うだろ!あれがお前のやりたかったことなわけがねぇ!!お前はいつも、」
「ねぇ、お人好しは一体どっち?」
リンクはダークリンクを遮って、嘲笑った。そして、更に馬鹿にした笑みを浮かべる。
「あんな演技に騙されるなんて。ちょろいなぁ。」
「ふざけんなっ!!」
その後のダークリンクは凄かった。本当に散々、責められた。リンクは耐えるしかない。唯一救いだったのは、ダークリンクがそれ以上反論を許さなかったことだ。望む答えが得られないと踏んだのか、息つく暇もなく、矢継ぎ早にリンクを責め立てた。だが、話す必要がなかったため、リンクは無表情を保つことに集中できた。顔色を変えないことが更に怒りを強めていたとは思う。しかし、傷付いた様子を見せるわけにはいかなかった。
ダークリンクが来たのを皮切りに、入れ替り立ち替り誰かが来て、連日罵倒された。ガノンドロフの言うとおり、直接手出しはされなかったが、鉄格子を蹴りつけられたり、自分すれすれに物を投げられたり、暴力に近いことも多々あった。ゼルダやダークリンクのように、何がしたかったのかと問う者も少なくなかったが、相手を馬鹿にするスタンスを崩さず、適当にあしらった。懲りずに何度も足を運ぶ者も存在し、とりわけダークリンクは数え切れない程やって来た。その度に追い払うのは、非常に心苦しかった。リンクはいろんな意味でかなり無理をしていたが、表向きには一切出さず、気丈に振る舞っていた。
いつの頃からだろうか。日に日にリンクを訪れる者は減っていった。優しい問い掛けも厳しい叱責も、だんだんと無くなっていった。おかげで体勢を保つことは容易くなっていた。誰も来ない牢の中で、リンクは膝を抱えて座り、ぼんやりと過ごした。出される食事にも手を出さない。そもそも、食事は投げ入れられることが多かった。やがて、日常茶飯事だった嫌がらせさえ無くなり、とうとう、食事のためにしか出入りがなくなった。
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“…………???”
思考が言葉にならず、疑問符ばかりをとばす。リンクは起き上がった。少し暗闇に慣れた目で、辺りを観察する。
「………牢、屋?」
ポツリとリンクはこぼした。ここはどこからどう見ても独房だった。さらにリンクは訳が分からなくなる。なんとか頭を回転させ、状況を整理した。
“オレは長らく世界を襲っていた。ようやく和平が結ばれて、オレは――――。”
リンクはギュッと唇を噛んだ。目元を強く押さえる。
“ゼルダとガノンドロフに敗れ、逃げることに失敗した。”
リンクは深呼吸をする。
“あの場で殺してくれるかと思ったけど、それは浅はかな考えだった。ゼルダはきっと、それを望まない。”
ふとリンクは左手の甲を見た。くっきりと見えていたトライフォースは、今や微かに見える程度になっていた。
“……一応、勇気のトライフォースは残ったのか。”
リンクはトライフォースから目を逸らした。
“もうオレに、これを持つ資格なんてないのに。”
かちゃり。どこかで扉の開く音がした。自身のいる牢の前には少しスペースがあり、そこから通路が延びている。そちらから誰かが歩いてくる音がした。
“悪者調は続行すべき、かな。”
リンクは腕組して通路を睨むように見つめた。人影が見えてくる。足音から薄々察してはいたが、二人だ。そうすると、ここに来たのはきっと……。
「やはり目が覚めていたか、小僧。」
大魔王ガノンドロフと。
「リンク……。」
女神ハイリア、もとい、ハイラル王女ゼルダだ。
“トライフォースは二人に戻った。オレが敗れた今も二人が一緒にいるということは、戦乱の世の中には戻っていないということ。”
二人にばれないようにしながら、リンクは安堵する。
「何?オレをどうする気?」
既に苦しそうだったゼルダの顔が、更に歪んだ。
“あぁ、ゼルダお願い。そんな顔をしないで。オレの為に心を痛めないで。”
リンクは心の中で叫びを上げる。だが、表向きは無表情を保った。ややあって、ゼルダが口を開く。
「あなたの返答次第です。」
リンクは眉を顰めた。
「はぁ?何を言っているの?」
酷い言い方をしている自覚はあるが、内容は本心だ。ゼルダの意図が読めなかった。
「どうしてあんなことをしたのか、教えてください。あなたのことです。きっと理由があったのですよね……?」
ゼルダはすがるような目をしていた。それを眺めながら、リンクは無表情を保つことに苦労した。
“ここで全てを話してしまえば、楽になれるだろうか。”
リンクはフッと自嘲した。
“楽になる?オレにそんなことが許されるとでも?”
「何がおかしい。」
ガノンドロフが低い声で問うた。訝しむような目をしている。思わず自嘲してしまったが、どうやらいい効果を生みそうだ。リンクはクスクス笑いながら口を開いた。
「だってさ。理由?言ってなかったっけ?どうでもよくなったんだ。この世界。だから、己の欲に忠実になって、破壊していたんだよ。」
リンクが適当に言葉を並べると、ゼルダは目に涙を浮かべた。
「リンク……!違う、絶対違う!!あなたがそんなことを考えるわけがない!」
「違う?オレの何を知ってそんなこと。」
リンクが意地悪く言うと、ゼルダは顔面蒼白になった。更にリンクは続ける。
「だけどオレ、上手く演じられていたんだね。あれさ、猫被っていたんだ。あのままの方が上手くいったのかなぁ。」
とうとう、ゼルダの瞳から大粒の涙がこぼれた。
「やめて!やめて!!リンク、お願いだからそれ以上はやめて……。」
泣き崩れるゼルダにリンクは肩をすくめた。ガノンドロフに目を向ける。
「……もういいだろう、姫君。」
ガノンドロフはリンクから目を離さないまま、ゼルダに問いかけた。ゼルダは何も言わない。リンクはチラリとゼルダを見たが、ゼルダは苦しそうな顔をするばかりだった。
「終身刑。」
「は?」
ガノンドロフが唐突に、淡々と告げた。リンクはそれ以上言葉を失った。
「言葉のとおりだ。お前をここへ閉じ込める。態度次第では軽くすることも考えていたが、それではな。」
リンクは目の前が真っ暗になるように感じた。何か言い返したいが、悪役らしからぬセリフしか思い付かない。
「今後のことは、小僧次第で考えてやらんこともない。」
ガノンドロフは踵を返した。そのまま出ていくのかと思いきや、姿が見えなくなる前に振り返った。
「言い忘れていたが、ここは立ち入り禁止にはしていない。あぁ、姫君の要望で手出しされることはないだろうから、安心しろ。」
リンクは呆然とガノンドロフを見ていた。ガノンドロフはゼルダを促して出ていく。ゼルダも、苦しそうな顔をしたままこの場を後にした。かちゃりと再び扉の音がしたのを確認して、リンクは膝をついた。
「ウソ、でしょう……?」
サッと人の気配がないことを確認して、その場に踞った。歯を食い縛って、泣くことだけは堪える。
“こんな風に助かるなんて、思っていなかった……。”
ギュッと、強く、強く、手を握った。
“こんな……こんなことって……。これは、オレへの罰……?世界を、襲ったから……。”
リンクは更に項垂れ、床に額をつけた。これから起こる出来事は、きっと自分にとって何よりも恐ろしいことだ。
“耐えられるのかな、オレ……。”
どんなに努力しても、身体の震えを止めることはできなかった。
次の日。入口の方から激しい音がした。そうかと思えば、足音荒く誰かがやってくる。
「おいテメェ!どういうつもりだっ!!」
それはダークリンクだった。半ば飛び込むように入って来た彼は、鉄格子に突進し、激しく鉄格子を揺さぶった。リンクは怯みそうになるが、さっと体裁を整えた。
「あぁ、君か……。何の用?」
煩わしそうに言いながら、ダークリンクに目を向ける。
「何の用?何の用かだと!?こちとら言いてぇことは山程あるんだ!」
ダークリンクは激昂する。リンクは欠伸をしながら、面倒臭そうにため息を吐いた。
「言いたいこと、ね。例えば?」
「……っ!テメェ、」
「ちったぁ落ち着けよ。」
突然第三者の声がした。声の方を見ると、バドがいた。荒々しいダークリンクばかりに気をとられて、全然気付かなかった。
「それじゃ話になんないぜ。」
ダークリンクはバドに宥められて、一度鉄格子を離れた。軽く頭を振ると、しばらく俯いたまま動かない。次にこちらを見たダークリンクからは、荒々しさが消えていた。目に何とも言えない光をたたえ、ダークリンクはリンクを真っ直ぐ見た。
「なぁ。何で俺が協力してたか知ってるか。」
「えー、オレに絆されて、共生に興味持っちゃったからって言っていたじゃん。」
ふざけたようにリンクは返した。ダークリンクから怒気が溢れたのが分かった。
「ちげぇよ。」
ひどく低い声だった。リンクは内心泣きそうになりながら、背けたい気持ちを殺してダークリンクに顔を向けた。
「俺はお前の力になりたかったんだ。」
リンクは黙ったままダークリンクを見つめた。自身が今、無表情を保てているのか、自信がなかった。
「それなのにお前は共生なんかどうでもいいとか言い出して?いつの間にか世界襲ってて?これ、どういうことだよ!!何してんの!?」
ダークリンクはイライラと怒鳴り散らした。そうかと思えば、こめかみに指を当てて項垂れている。何度か小さく深呼吸をすると、ダークリンクは再び真剣な目でリンクを見た。
「お前がやったことが許されるとは思わない。だが、何か思惑があったなら、話は別だ。んで、お前に裏の意図がなかったとは考えられない。……何がしたかったんだよ。」
リンクはやはり言葉を発せずにダークリンクを見つめた。
「つぅか俺、協力するっつうたのに。チャンスくれって言っただろ。」
“……もしかして、ダークが怒っているのは、テバと同じ理由………?”
テバに見つかったとき、仲間を頼らなかったことを怒ってくれた。もし、今、ダークリンクが怒っているのがそれと同じ理由ならば。
“……オレはまた、ダークを怒らせなきゃならない。”
リンクは二人にばれないよう、グッと握り拳を作った。
「なぁ、頼む。教えてくれ。」
「何を言っているの。」
思ったよりも冷たい声が出て、リンク自身もゾッとした。しかし、そんなことはおくびにも出さず、続ける。
「裏の意図?何それ。破壊活動にそんなもの普通ある?あれで何が出来るって?」
「もういいだろ。何?まだ目的達成されてないのか?だからそんな態度なのか?」
ダークリンクが辛抱強く説得を続けてくるが、リンクはそれを鼻で笑った。
「目的?達成されていないに決まっているでしょ。破壊活動は失敗、オレはこんなところに閉じ込められて、君達の戯言に付き合わされている。」
ダークリンクがムッとした顔をした。
「おい、戯言とはどういうことだ。」
リンクは肩を竦めた。
「戯言でしょ。裏の意図とか目的とか。どういう思考回路でそれが思い付くの?」
ダークリンクがガッと鉄格子を掴んだ。
「お前らしくねぇんだよ!それが分からないほどお前を知らないつもりはねぇ!!」
ダークリンクが吠えるのをリンクは冷めた目で見ていた。
「それ、オレのことを知らなかったって言っているも同然だよね。オレはやりたいようにしていたのに、違うって言うのでしょ?」
ダークリンクは苦しそうな顔をした。泣きそうな声で叫ぶ。
「違うだろ!あれがお前のやりたかったことなわけがねぇ!!お前はいつも、」
「ねぇ、お人好しは一体どっち?」
リンクはダークリンクを遮って、嘲笑った。そして、更に馬鹿にした笑みを浮かべる。
「あんな演技に騙されるなんて。ちょろいなぁ。」
「ふざけんなっ!!」
その後のダークリンクは凄かった。本当に散々、責められた。リンクは耐えるしかない。唯一救いだったのは、ダークリンクがそれ以上反論を許さなかったことだ。望む答えが得られないと踏んだのか、息つく暇もなく、矢継ぎ早にリンクを責め立てた。だが、話す必要がなかったため、リンクは無表情を保つことに集中できた。顔色を変えないことが更に怒りを強めていたとは思う。しかし、傷付いた様子を見せるわけにはいかなかった。
ダークリンクが来たのを皮切りに、入れ替り立ち替り誰かが来て、連日罵倒された。ガノンドロフの言うとおり、直接手出しはされなかったが、鉄格子を蹴りつけられたり、自分すれすれに物を投げられたり、暴力に近いことも多々あった。ゼルダやダークリンクのように、何がしたかったのかと問う者も少なくなかったが、相手を馬鹿にするスタンスを崩さず、適当にあしらった。懲りずに何度も足を運ぶ者も存在し、とりわけダークリンクは数え切れない程やって来た。その度に追い払うのは、非常に心苦しかった。リンクはいろんな意味でかなり無理をしていたが、表向きには一切出さず、気丈に振る舞っていた。
いつの頃からだろうか。日に日にリンクを訪れる者は減っていった。優しい問い掛けも厳しい叱責も、だんだんと無くなっていった。おかげで体勢を保つことは容易くなっていた。誰も来ない牢の中で、リンクは膝を抱えて座り、ぼんやりと過ごした。出される食事にも手を出さない。そもそも、食事は投げ入れられることが多かった。やがて、日常茶飯事だった嫌がらせさえ無くなり、とうとう、食事のためにしか出入りがなくなった。
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