与えられし試練
それから数日して、女神側も民の理解を辛うじて得た。今後の相談のため、ゼルダとガノンドロフ及び幹部達は何度も集まり、話し合った。リンクはスクリーンごしにその様子を見守っていたが、ことあるごとにすぐ口論になり、話にならない。話合いが難航する。
「なんでこんなやつらと話合いなんか。ダークリンクにでも出席させて、勝手にやらせた方がいいんじゃないか?」
休憩時、ザントがぼやいた。ギラヒムがザントを睨み付ける。
「キミ、それ本気で言ってる?ダークリンクなんかに任せたら、こっちが不利になるに決まっているだろう。」
「でもだるい。あいつ、反旗を翻していたし、変なこと言ってた噂もあったし、適役じゃないか?」
“なるほど。ダークなら、上手く話を進めてくれるかも。”
リンクはそう思ったが、ギラヒムはザントを突き飛ばした上、踏みつけた。
「いい加減にしなよ?」
ギラヒムはギロリとザントを睨み付けている。ザントがダークリンクの名を挙げたのは面倒事を押し付けたいだけだろう。そうすると、ダークリンクを疑う他の魔王陣営の者を説得してまで実現させようとは考えないはずだ。だが、リンクには現状を打破するための糸口に思えた。どうにかして、実現の方向に持っていかせたい。どうすればいいかな、と周りの様子を確認した。ガノンドロフが目に入り、おやと思う。ガノンドロフはザントとギラヒムを横目に見ながら、何か思案するような顔をしていた。
「反旗を翻したってどういうことだ?」
女神陣営にもその会話は聞こえていたらしい。ミドナが口を開いた。すると、ギラヒムは大きく舌打ちをした。
「キミ達には関係ないよ。」
ギラヒムの素っ気ない言い方に、ミドナはムッとした顔をした。だが、気を取り直したように言葉を続ける。
「あー、ハイハイ。ワタシはただ、そっちにも反逆者がいたのかと思っただけさ。」
「ミドナ!!」
インパが怒鳴った。鬼のような形相でミドナを睨み付けている。ミドナは肩を竦めた。一方、ギラヒムとザントは訝しむような顔でミドナを見ていた。
「反逆者、か。」
ガノンドロフが呟いた。そして、大儀そうに女神陣営を見る。
「そちらにはいたと。」
ゼルダとインパは顔を歪ませた。しかし、二人とも口を開きそうにない。ミドナはそれを確認して、真っ直ぐガノンドロフを見た。
「あぁ。」
はっきりと、ミドナは肯定した。
「いたな。だが、今の話では、そちらもだろう?」
ミドナの挑発的な問いに、ガノンドロフはフッと笑った。
「否定はできんな。」
ギラヒムはガノンドロフの方を勢いよく振り返った。目を真ん丸にしている。ガノンドロフはギラヒムに見向きもせず、女神陣営に告げた。
「今回は解散だ。次はそちらの反逆者を連れてこい。首謀者が望ましい。」
ガノンドロフは言うだけ言うと、返事も聞かずに部屋を後にした。ギラヒムとザントが慌てて追いかける。
「だ、そうだぞ。姫さん。」
残される形となった、ゼルダ、インパ、ミドナ。ミドナがかったるそうにゼルダに声をかけたが、ゼルダはなんともいえない顔でミドナを見ている。隣でインパが声を荒らげた。
「何がだ!ミドナお前!何を考えている!!お前も我々を破滅させる気か!!」
ミドナはしばらくインパを見ていた。じー、とそれはもう物言いたげに。リンクはそれを見ながら苦笑した。かつてもよく見たミドナの表情だった。ミドナがあんな顔をしたときは、大抵説教が始まったものだ。
「な、なんだ。」
インパもミドナの目に何か感じたらしい。なんだか気まずそうに問を投げた。
「破滅させかねないのはオマエらだろ?」
「何を言う!」
ミドナの言葉に、インパは怒鳴り返した。すると、ミドナは軽く両手を挙げ、やれやれといった風に首を振った。
「アンタら、魔王軍を敵視しすぎて目的を見失ってる。リンクが本気で世界を攻撃しているんだ。ワタシらも本腰入れて対応しなくちゃならない。」
インパは黙り込んだ。
「そのために協力せざるを得ないんだろ?だから、こうやって集まってるんだろ?」
更に続くミドナの言葉に、二人は苦い顔をする。
「だけど現状はどうだ?もう何度も集まっているのに何の進展もない。」
インパとゼルダは顔を背けた。どうやら、進展のなさはミドナに言われなくとも感じていたらしい。
「言ったはずだよ。腹の探り合いは不毛だと。」
「……ですが。」
ゼルダは反論しようと口を開いた。だが、何も思い付かなかったのか、そのまま口を閉ざしてしまった。
「もうワタシ達じゃ無理だね。」
ミドナが冷たく言い放つと、ゼルダは慌てた。
「そんな!ミドナ、なんということを!」
すると、ミドナは肩を竦めた。
「だから反逆者が必要なんだろう。」
「え……?」
ポカンとゼルダはミドナを見る。険しい顔をしていたインパも、ハッとした顔をした。
「アイツらは何をした?魔王軍との戦闘を妨害した。リンクからの襲撃がすぐにあって、アイツらほったらかしになっているが、目的は明らかじゃないか?ここで使わずしてどうする?」
ゼルダとインパは考え込む。だが、ミドナは大して間を空けずに言葉を続けた。
「このままワタシ達だけで話していても無意味だ。恐らく、ガノンドロフは理解している。反逆者を使う意味もな。」
ゼルダとインパは何も言わなかった。そこまで見届けて、リンクはスクリーンを消した。自然と笑みがこぼれる。
「流石ミドナ。」
リンクはそれだけを呟くと、しばらく窓から世界を見下ろしていた。
数日後。再び会議が開かれた。約束通り双方とも、リンクの協力者を連れてきた。女神軍はバドだった。どうやら指揮を執ったのはバドらしい。魔王軍は当然のようにダークリンクだった。幹部達は黙ることにして、彼らに話させた。初めはお互いに困惑して、たどたどしい話し合いだった。しかしすぐに、意思疎通に成功した。彼らだけなら、協力体制はすぐにとれそうな空気だ。ところが、非常に大きな問題が発生した。ゼルダやガノンドロフ、その他幹部がどれほど説明しても、リンクの逆襲を信じないのだ。これには幹部達は頭を抱えた。幹部達にとって、最終目的はリンクを倒すことであり、協力は過程にすぎない。だが、ダークリンクとバドはあくまで共生のために話し合った。これは不味いなぁ、とリンクは思考を巡らせる。共生のために動いてくれるのは非常にありがたいことではあるが、自分を敵と見なしてもらえないのは困る。本当に三巴になりかねない。
「……ちょっと行っておこうかな。」
リンクは意を決した。そこで、あることを思い付く。トライフォースに話しかけた。
「守護者達は今のところ無敵。だけど、協力できたら倒せる。合ってる?」
返答はない。リンクは肩を竦めた。
「違ってたのなら、そうしてね。それで。簡単に倒れるような弱いやつ、用意できる?」
数体、ちっぽけな守護者、かつてはライトを持っていたやつが現れた。
「用意できるんだね。」
“ごめんね。今から酷い使い方をするよ。”
心が軋むのを無視して、リンクはスクリーンに顔を向けた。
「さぁ……ダーク達には引導を渡してあげないと。オレを信じていたらこうなるんだ。」
リンクはワープした。
先に強い守護者を中に入らせる。会議の場は騒然となった。パニックに陥ったのを確認し、リンクは姿を現した。響くようにクスクスと笑い、存在を知らしめる。パンと手を叩くことで、守護者を消した。
「やぁ、みんな。ごきげんよう。」
「貴様……!何をしに来た!!」
インパが剣をこちらに向けながら叫んだ。他も構える。だが、彼らは攻撃できなかった。なぜならば。
「馬鹿野郎!今まで何やってたんだよ!」
ダークリンクがリンクに駆け寄ったからだった。リンクの両手をとり、嬉しそうに言葉を継ぐ。
「なんかよく分かんねぇけど、上手くいきそうなんだ!」
リンクはその手を払った。
「上手く?何が?なんかおかしな空気になってたから、壊しておこうと思って来たんだけど。」
リンクが冷たく言うと、ダークリンクの顔が困惑したように変わった。
「はぁ!?共生したいって言ってたのはお前じゃねぇか!!」
「共生……?あぁ……そういえば言ったっけ、そんなこと。」
リンクは面倒臭そうに言った。ダークリンクは怒りを滲み出しはじめた。
「は?お前、何言ってんだ。」
リンクはフッと笑ってみせた。
「わからない?共生なんてもうどうでもいい。」
「ふざけんなっ!」
とうとうダークリンクはリンクに掴みかかった。リンクはその手をはたき落とし、ついでにトライフォースの力で吹き飛ばした。
「大体さ、今更共生とか何?相手するのが面倒になるからそんなことしなくていいよ。なんでこんなことになってるの?潰しあいで自滅して欲しかったんだけど。」
「おいリンク!!お前一体どうした!?ルトやテバの話と丸っきり違うぞ!」
リンクはうんざりしたようにバドを見た。
「あぁ、あれ?戦力を削いでくれるって言っていたけど、予想以上の働きだったよ。おかげで簡単にトップ争いの場に入り込めた。だけどおかしいな。オレ、トライフォースを奪うって、目的をはっきり伝えたはずだよ?」
「な……オマエ、」
ミドナが呆然としながら言う。それ以上はミドナも他の人も続けられなかった。
「トライフォースといえば。見てみる?その威力。」
状況についてきていない女神陣営に向かってリンクはクスクスと笑った。チラリと魔王陣営を見ると、ダークリンクが魂が抜けたみたいにリンクを眺めているのを除き、全員がリンクを睨み付けていた。
“やっぱりここで狙うべきは。”
リンクはダークリンクに向かって手を伸ばした。ダークリンクは目を見開いてリンクを見ている。
「言い残すこと……別にないよね。」
リンクはクスリと笑みをこぼすと、大技を放つ(素振りの)ために大きく手を動かした。手を動かし始めた瞬間、何かが体にぶつかってきた。リンクはそれによって床に押し付けられた。
「お前……!それ以上の暴挙が許されると思うな!!」
リンクの上にインパがのしかかっていた。リンクはニヤリと笑った。
「へぇ?助けるんだ?あれ、敵でしょ?君にとってはどうでもいい存在なんじゃないの?」
リンクが厭味ったらしく挑発すると、パシンといい音が響いた。インパがリンクをはたいたのだ。
「……最低だな。」
地を這うような声でインパは吐き捨てた。
「最低?事実でしょ?敵でしかなくて、一緒にいるのも嫌な存在だったんじゃないの?」
「お前……!!」
リンクが更に嫌味を続けると、インパはリンクの襟首を掴んで乱暴に引き寄せた。
「その口、二度と利けないようにしてやる……!」
「やってごらんよ!」
リンクはインパを蹴り飛ばした。その勢いで体勢を立て直す。各々が武器を持ってリンクに狙いを定めていた。リンクはニヤリと笑う。次の瞬間、激しい攻撃がきた。リンクはそれを確認すると、弱い守護者を召喚してワープした。
リンクは拠点にしている塔に戻り、映りっぱなしになっていたスクリーンに目を向けた。容赦ない攻撃はまだ続いている。激しすぎて、攻撃対象は確認できなかった。だが、それがリンクの狙いだった。リンクは、弱い守護者をスケープゴートにしたのだ。更に彼らを怒らせるために。
「こんな使い方して、ごめん。」
ポツリとリンクは呟いた。守護者がトライフォースの力によるもので、生物ではなく、意志も思考もないのだとしても、リンクは割り切れなかった。
攻撃が止むと、守護者は見るも無残な姿になっていた。リンクはそれを見て、胸を押さえた。今になって、自分のしたことの愚かしさを痛感した。やはりこんな手段は取るべきではなかったと後悔した。いつもの無機質な声が、リンクの意図を察した見せかけだと諭すのが、どこか遠くで聞こえた。だが、それよりも、怒り狂う声の方がリンクの中で大きく響いていた。彼らは攻撃を止めてすぐに、リンクがその場を去っていたことに気付いた。同時に、無残な姿の手下を見つけた。そして、味方にさえ無慈悲なリンクに激怒したのだ。一方、ダークリンクも怒り狂っていた。ダークリンクは、手下に関してというより、リンクの裏切りに怒り心頭のようだった。
「俺が誰のために動いたと思ってんだ!!俺は一体、何のために!!」
苦しい。苦しい。胸が張り裂けそうだ。心が痛い。悲鳴を上げている。スクリーンからはリンクに向けられた罵詈雑言が響き続けていた。それらを消すことも可能だったが、リンクにはできなかった。胸を抉る言葉を聞きながら、リンクは歯を食い縛ってただ耐えた。これが自分の望んだことなのだと必死に言い聞かせながら。
その後、会議は一時中断された。リンクはそこでようやく、スクリーンをなくした。しばらくして、報告の声に会議の再開を告げられたが、リンクはもうスクリーンを出現させなかった。真っ暗な部屋の端に踞ったまま、じっとしていた。無機質な声が、
「魔王軍、女神軍により条約が結ばれ、打倒リンクが本格的に始動しました。」
と告げたときも、リンクは動けなかった。
.
「なんでこんなやつらと話合いなんか。ダークリンクにでも出席させて、勝手にやらせた方がいいんじゃないか?」
休憩時、ザントがぼやいた。ギラヒムがザントを睨み付ける。
「キミ、それ本気で言ってる?ダークリンクなんかに任せたら、こっちが不利になるに決まっているだろう。」
「でもだるい。あいつ、反旗を翻していたし、変なこと言ってた噂もあったし、適役じゃないか?」
“なるほど。ダークなら、上手く話を進めてくれるかも。”
リンクはそう思ったが、ギラヒムはザントを突き飛ばした上、踏みつけた。
「いい加減にしなよ?」
ギラヒムはギロリとザントを睨み付けている。ザントがダークリンクの名を挙げたのは面倒事を押し付けたいだけだろう。そうすると、ダークリンクを疑う他の魔王陣営の者を説得してまで実現させようとは考えないはずだ。だが、リンクには現状を打破するための糸口に思えた。どうにかして、実現の方向に持っていかせたい。どうすればいいかな、と周りの様子を確認した。ガノンドロフが目に入り、おやと思う。ガノンドロフはザントとギラヒムを横目に見ながら、何か思案するような顔をしていた。
「反旗を翻したってどういうことだ?」
女神陣営にもその会話は聞こえていたらしい。ミドナが口を開いた。すると、ギラヒムは大きく舌打ちをした。
「キミ達には関係ないよ。」
ギラヒムの素っ気ない言い方に、ミドナはムッとした顔をした。だが、気を取り直したように言葉を続ける。
「あー、ハイハイ。ワタシはただ、そっちにも反逆者がいたのかと思っただけさ。」
「ミドナ!!」
インパが怒鳴った。鬼のような形相でミドナを睨み付けている。ミドナは肩を竦めた。一方、ギラヒムとザントは訝しむような顔でミドナを見ていた。
「反逆者、か。」
ガノンドロフが呟いた。そして、大儀そうに女神陣営を見る。
「そちらにはいたと。」
ゼルダとインパは顔を歪ませた。しかし、二人とも口を開きそうにない。ミドナはそれを確認して、真っ直ぐガノンドロフを見た。
「あぁ。」
はっきりと、ミドナは肯定した。
「いたな。だが、今の話では、そちらもだろう?」
ミドナの挑発的な問いに、ガノンドロフはフッと笑った。
「否定はできんな。」
ギラヒムはガノンドロフの方を勢いよく振り返った。目を真ん丸にしている。ガノンドロフはギラヒムに見向きもせず、女神陣営に告げた。
「今回は解散だ。次はそちらの反逆者を連れてこい。首謀者が望ましい。」
ガノンドロフは言うだけ言うと、返事も聞かずに部屋を後にした。ギラヒムとザントが慌てて追いかける。
「だ、そうだぞ。姫さん。」
残される形となった、ゼルダ、インパ、ミドナ。ミドナがかったるそうにゼルダに声をかけたが、ゼルダはなんともいえない顔でミドナを見ている。隣でインパが声を荒らげた。
「何がだ!ミドナお前!何を考えている!!お前も我々を破滅させる気か!!」
ミドナはしばらくインパを見ていた。じー、とそれはもう物言いたげに。リンクはそれを見ながら苦笑した。かつてもよく見たミドナの表情だった。ミドナがあんな顔をしたときは、大抵説教が始まったものだ。
「な、なんだ。」
インパもミドナの目に何か感じたらしい。なんだか気まずそうに問を投げた。
「破滅させかねないのはオマエらだろ?」
「何を言う!」
ミドナの言葉に、インパは怒鳴り返した。すると、ミドナは軽く両手を挙げ、やれやれといった風に首を振った。
「アンタら、魔王軍を敵視しすぎて目的を見失ってる。リンクが本気で世界を攻撃しているんだ。ワタシらも本腰入れて対応しなくちゃならない。」
インパは黙り込んだ。
「そのために協力せざるを得ないんだろ?だから、こうやって集まってるんだろ?」
更に続くミドナの言葉に、二人は苦い顔をする。
「だけど現状はどうだ?もう何度も集まっているのに何の進展もない。」
インパとゼルダは顔を背けた。どうやら、進展のなさはミドナに言われなくとも感じていたらしい。
「言ったはずだよ。腹の探り合いは不毛だと。」
「……ですが。」
ゼルダは反論しようと口を開いた。だが、何も思い付かなかったのか、そのまま口を閉ざしてしまった。
「もうワタシ達じゃ無理だね。」
ミドナが冷たく言い放つと、ゼルダは慌てた。
「そんな!ミドナ、なんということを!」
すると、ミドナは肩を竦めた。
「だから反逆者が必要なんだろう。」
「え……?」
ポカンとゼルダはミドナを見る。険しい顔をしていたインパも、ハッとした顔をした。
「アイツらは何をした?魔王軍との戦闘を妨害した。リンクからの襲撃がすぐにあって、アイツらほったらかしになっているが、目的は明らかじゃないか?ここで使わずしてどうする?」
ゼルダとインパは考え込む。だが、ミドナは大して間を空けずに言葉を続けた。
「このままワタシ達だけで話していても無意味だ。恐らく、ガノンドロフは理解している。反逆者を使う意味もな。」
ゼルダとインパは何も言わなかった。そこまで見届けて、リンクはスクリーンを消した。自然と笑みがこぼれる。
「流石ミドナ。」
リンクはそれだけを呟くと、しばらく窓から世界を見下ろしていた。
数日後。再び会議が開かれた。約束通り双方とも、リンクの協力者を連れてきた。女神軍はバドだった。どうやら指揮を執ったのはバドらしい。魔王軍は当然のようにダークリンクだった。幹部達は黙ることにして、彼らに話させた。初めはお互いに困惑して、たどたどしい話し合いだった。しかしすぐに、意思疎通に成功した。彼らだけなら、協力体制はすぐにとれそうな空気だ。ところが、非常に大きな問題が発生した。ゼルダやガノンドロフ、その他幹部がどれほど説明しても、リンクの逆襲を信じないのだ。これには幹部達は頭を抱えた。幹部達にとって、最終目的はリンクを倒すことであり、協力は過程にすぎない。だが、ダークリンクとバドはあくまで共生のために話し合った。これは不味いなぁ、とリンクは思考を巡らせる。共生のために動いてくれるのは非常にありがたいことではあるが、自分を敵と見なしてもらえないのは困る。本当に三巴になりかねない。
「……ちょっと行っておこうかな。」
リンクは意を決した。そこで、あることを思い付く。トライフォースに話しかけた。
「守護者達は今のところ無敵。だけど、協力できたら倒せる。合ってる?」
返答はない。リンクは肩を竦めた。
「違ってたのなら、そうしてね。それで。簡単に倒れるような弱いやつ、用意できる?」
数体、ちっぽけな守護者、かつてはライトを持っていたやつが現れた。
「用意できるんだね。」
“ごめんね。今から酷い使い方をするよ。”
心が軋むのを無視して、リンクはスクリーンに顔を向けた。
「さぁ……ダーク達には引導を渡してあげないと。オレを信じていたらこうなるんだ。」
リンクはワープした。
先に強い守護者を中に入らせる。会議の場は騒然となった。パニックに陥ったのを確認し、リンクは姿を現した。響くようにクスクスと笑い、存在を知らしめる。パンと手を叩くことで、守護者を消した。
「やぁ、みんな。ごきげんよう。」
「貴様……!何をしに来た!!」
インパが剣をこちらに向けながら叫んだ。他も構える。だが、彼らは攻撃できなかった。なぜならば。
「馬鹿野郎!今まで何やってたんだよ!」
ダークリンクがリンクに駆け寄ったからだった。リンクの両手をとり、嬉しそうに言葉を継ぐ。
「なんかよく分かんねぇけど、上手くいきそうなんだ!」
リンクはその手を払った。
「上手く?何が?なんかおかしな空気になってたから、壊しておこうと思って来たんだけど。」
リンクが冷たく言うと、ダークリンクの顔が困惑したように変わった。
「はぁ!?共生したいって言ってたのはお前じゃねぇか!!」
「共生……?あぁ……そういえば言ったっけ、そんなこと。」
リンクは面倒臭そうに言った。ダークリンクは怒りを滲み出しはじめた。
「は?お前、何言ってんだ。」
リンクはフッと笑ってみせた。
「わからない?共生なんてもうどうでもいい。」
「ふざけんなっ!」
とうとうダークリンクはリンクに掴みかかった。リンクはその手をはたき落とし、ついでにトライフォースの力で吹き飛ばした。
「大体さ、今更共生とか何?相手するのが面倒になるからそんなことしなくていいよ。なんでこんなことになってるの?潰しあいで自滅して欲しかったんだけど。」
「おいリンク!!お前一体どうした!?ルトやテバの話と丸っきり違うぞ!」
リンクはうんざりしたようにバドを見た。
「あぁ、あれ?戦力を削いでくれるって言っていたけど、予想以上の働きだったよ。おかげで簡単にトップ争いの場に入り込めた。だけどおかしいな。オレ、トライフォースを奪うって、目的をはっきり伝えたはずだよ?」
「な……オマエ、」
ミドナが呆然としながら言う。それ以上はミドナも他の人も続けられなかった。
「トライフォースといえば。見てみる?その威力。」
状況についてきていない女神陣営に向かってリンクはクスクスと笑った。チラリと魔王陣営を見ると、ダークリンクが魂が抜けたみたいにリンクを眺めているのを除き、全員がリンクを睨み付けていた。
“やっぱりここで狙うべきは。”
リンクはダークリンクに向かって手を伸ばした。ダークリンクは目を見開いてリンクを見ている。
「言い残すこと……別にないよね。」
リンクはクスリと笑みをこぼすと、大技を放つ(素振りの)ために大きく手を動かした。手を動かし始めた瞬間、何かが体にぶつかってきた。リンクはそれによって床に押し付けられた。
「お前……!それ以上の暴挙が許されると思うな!!」
リンクの上にインパがのしかかっていた。リンクはニヤリと笑った。
「へぇ?助けるんだ?あれ、敵でしょ?君にとってはどうでもいい存在なんじゃないの?」
リンクが厭味ったらしく挑発すると、パシンといい音が響いた。インパがリンクをはたいたのだ。
「……最低だな。」
地を這うような声でインパは吐き捨てた。
「最低?事実でしょ?敵でしかなくて、一緒にいるのも嫌な存在だったんじゃないの?」
「お前……!!」
リンクが更に嫌味を続けると、インパはリンクの襟首を掴んで乱暴に引き寄せた。
「その口、二度と利けないようにしてやる……!」
「やってごらんよ!」
リンクはインパを蹴り飛ばした。その勢いで体勢を立て直す。各々が武器を持ってリンクに狙いを定めていた。リンクはニヤリと笑う。次の瞬間、激しい攻撃がきた。リンクはそれを確認すると、弱い守護者を召喚してワープした。
リンクは拠点にしている塔に戻り、映りっぱなしになっていたスクリーンに目を向けた。容赦ない攻撃はまだ続いている。激しすぎて、攻撃対象は確認できなかった。だが、それがリンクの狙いだった。リンクは、弱い守護者をスケープゴートにしたのだ。更に彼らを怒らせるために。
「こんな使い方して、ごめん。」
ポツリとリンクは呟いた。守護者がトライフォースの力によるもので、生物ではなく、意志も思考もないのだとしても、リンクは割り切れなかった。
攻撃が止むと、守護者は見るも無残な姿になっていた。リンクはそれを見て、胸を押さえた。今になって、自分のしたことの愚かしさを痛感した。やはりこんな手段は取るべきではなかったと後悔した。いつもの無機質な声が、リンクの意図を察した見せかけだと諭すのが、どこか遠くで聞こえた。だが、それよりも、怒り狂う声の方がリンクの中で大きく響いていた。彼らは攻撃を止めてすぐに、リンクがその場を去っていたことに気付いた。同時に、無残な姿の手下を見つけた。そして、味方にさえ無慈悲なリンクに激怒したのだ。一方、ダークリンクも怒り狂っていた。ダークリンクは、手下に関してというより、リンクの裏切りに怒り心頭のようだった。
「俺が誰のために動いたと思ってんだ!!俺は一体、何のために!!」
苦しい。苦しい。胸が張り裂けそうだ。心が痛い。悲鳴を上げている。スクリーンからはリンクに向けられた罵詈雑言が響き続けていた。それらを消すことも可能だったが、リンクにはできなかった。胸を抉る言葉を聞きながら、リンクは歯を食い縛ってただ耐えた。これが自分の望んだことなのだと必死に言い聞かせながら。
その後、会議は一時中断された。リンクはそこでようやく、スクリーンをなくした。しばらくして、報告の声に会議の再開を告げられたが、リンクはもうスクリーンを出現させなかった。真っ暗な部屋の端に踞ったまま、じっとしていた。無機質な声が、
「魔王軍、女神軍により条約が結ばれ、打倒リンクが本格的に始動しました。」
と告げたときも、リンクは動けなかった。
.