豆まきガチ勢
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「……山下さんも豆まきにいらっしゃいますか?」
葉子の声により、山下の思考は現在に戻って来た。あの時は死ぬかと思った。
そして今年が初めての豆まき参加になる葉子は、何も知らないので呑気にそんなことを聞いてきた。
「あ〜……俺は用事があるんでその日は無理なんですよ」
既に鰊蕎麦を食べ終えた山下以外の2人は、最後につゆをこくんと飲んでいた。
「……それは残念。じゃあ4人で豆まきですかね。杏寿郎さんも任務が無いと良いのですけど」
「今年は葉子さんがいるから楽しみです!」
(いや、そこは千寿郎くんもちゃんと説明しなさいよ。うちのはガチの本気ですって! 死ぬって死人でるって!)
無邪気に喜ぶ千寿郎に山下は心の中で毒づいていたが、そんな事はつゆ知らずの葉子にチクリと良心が痛んだ。
(まさか、葉子さん鬼役やらないよな?)
一抹の不安を抱きつつ、山下は鰊蕎麦を急いでかきこんだ。
・・・
節分当日。
山下は葉子の事が心配になり、こっそり庭の木陰から様子を伺っていた。
自分が煉獄家の豆まきの実態を言わなかったばっかりに葉子が死ぬかもしれないのだ。あの時に正直に話していたら、今度は自分の身が危うかった。山下は自分の身可愛さに保身に走った。
「やっぱりここは鬼殺隊ですから私が鬼をやりますね」
「うむ! わかった!」
言わんこっちゃない。やはり葉子が自ら鬼役を買って出た。
千寿郎が升に豆を入れている側で葉子は面を手に取る。
「般若の面ですね。本格的! 楽しみになって来ました。私は鬼ですから遠慮なく思い切りやって下さいね」
「俺は炎柱だからな! 言わなくとも手加減はしない!」
(いや! しろよ! 手加減しろって! 葉子さん死ぬよ? 嫁さんじゃないの!? 炎柱様、人としてどうかしてるよ! 鬼となると容赦なさすぎ!)
山下は顔面蒼白になりながら見つめていた。いざとなったら身を呈して葉子を守るしかない。全てはあの時に保身に走った自分の責任だ。命が無くなろうとも致し方なし。自分も鬼殺隊の隊士なのだ。矜持を持て。心を燃やせ。
葉子は面を手に取り顔に付けた。
と、思ったら
「お面、何だか正面だと視界が見にくいのでこれでも良いですか?」
葉子は般若の面をずらし、おでこの方へと押し上げた。葉子の顔は丸見えで、ただの般若の面を頭に飾りとしてつけているような格好だ。
「うむ! 前が見えた方が動きやすいだろう!」
「葉子さん! 何だかかっこいいです! 般若の面が似合います」
「そ、そうかな?」
千寿郎が言うように、般若の面を頭につけた葉子は何とも言えず妖艶だった。
朗らかに笑う女の顔の上で鬼の形相をした面がそこにある。同時に存在しない2つの表情が不可思議で不安を駆り立てぞくりとさせる。
そこへ槇寿郎がふらりとやって来た。
「何だその格好は葉子! 今年は葉子が鬼役か。よし、わかった。良いから紅をさして来なさい」
「え? はい、わかりました?」
何を思ったか突然に槇寿郎は葉子に口紅を付けて来るように指示を出し、その通りに真っ赤な紅をさして来た葉子はさらに怪しい美しさになってしまった。昼なのに。
(さすが、槇寿郎さんはわかってらっしゃる……)
物陰から眺めていた山下はごくりと喉を鳴らした。
これで全力で絶妙な匙加減で豆を投げれば着物が破けて良い塩梅になるのではないかと期待をした。
とりあえずこの場には少なくとも最低な人が2人いる。
いろいろな思惑が渦巻いた豆まきだったが、思いの外、杏寿郎たちは普通に豆をまいたので葉子は恥辱を受けずに済んだのだった。
続く。
槇寿郎「豆まき?」へ