名字呼びが多め。
7.家に行く
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ここだよと光希に連れて来られた家はごく普通の一軒家であった。白い小さな門の内側にはいくつか観葉植物が置かれている。母親が手入れをしているのだろうか。それとも光希が手入れをしているのだろうか。光希が遠慮なく門を開けて玄関の取手に手を掛ける。鍵は掛かっておらず、そのまま戸はがちゃりと開いた。
「どうぞ。そんなに広くないけど」
光希が玄関脇に置いてあるスリッパ置きからスリッパを2つとり、そっと置いた。そして靴を脱ぎ、元々置いてあったスリッパに足を入れた。
玄弥も炭治郎も遠慮をして、玄関前で突っ立っていると光希は不思議そうに顔を傾げた。
「どうぞ、上がって?」
「……じゃあ遠慮なく。お邪魔します」
炭治郎が玄弥よりも先に玄関で靴を脱ぎ、スリッパに足を通した。すると奥から人が出てきた。光希の母親である。
「こんにちは。どうぞ上がって下さい。光希が仲良くしてもらっ──」
母親は玄関前に来るとぴたりと足を止めた。
「あら? お友達って……男の子……」
「同じ学年の友達。竈門炭治郎君と、同じクラスの不死川玄弥君」
玄弥がおずおずと玄関から顔を覗かせる。
「おじゃまします……」
母親の目には戸をくぐりながら玄関に入ってくる、奇抜な髪型の凶悪な人相をした男が映った。背も高く、上から人を見下ろす視線は鋭いものでまるで犯罪者のようだった。娘の友達? やっとできた友達とは、つまりはそちらの道にいるそんな仲間の友達なのか。蝶よ花よと大切に育てて来た娘が何てこと。
母親は立ちくらみを起こし、そのまま壁へずるりと背を預けた。
「お母さん!?」
「大丈夫ですか?」
壁に寄りかかり足の力が抜け、気を失いへなへなとしゃがみ込んでしまった。
「何が!? 一体どうしたんだ!」
炭治郎が慌てて光希の母親に手を伸ばし、頭を打たないように体を支えた。
「お母さんたぶん男の子が来るって思って無かったみたい……それに不死川君の姿を見てびっくりしたのかも。お母さん……お嬢様育ちだから」
「そんな、呑気に言ってる場合か?」
「放っておいても大丈夫だよ。血を見ても立ちくらみを起こして倒れる人だし」
「さっき、何気にさらりと傷付く事を言われたような……とりあえずこのままにしとくのも心配だし、どこかに運ぼう」
靴を脱ぎ、家に上がった玄弥も母親にそっと手を伸ばした。
「炭治郎は足を持ってくれないか。俺が体を持つから」
「わかった」
玄弥が母親の脇の下から腕を回し、よいしょと炭治郎が足を持った。光希がリビングに繋がる扉を開け、二人はソファーにそっと母親を横にして置いた。
・・・
薄っすらと母親が目を開けると、リビングからは賑やかな声が聞こえた。
「コーヒーと紅茶……それかジュースどれにする?」
「パンを持って来たんだ。俺は紅茶かな」
「じゃあ俺も紅茶にしようかな」
まさか娘が男子の友達を連れて来るとは思っていなかった。気が動転したがどんな人物達なのかとそのまま寝たふりをして会話を聞こうと母親は考えた。娘が間違った道に進んだのならばそれを戻すのも親の役目である。
やや赤い髪のピアスをした少年にとんでもない髪型の男。この男もまさか娘と同い年なのだろうか。とても信じられない。もし、怪しい仲間だったら父親に相談しなければ……その前に警察に連絡した方が良いのだろうかと、そんなことを考えていた。
「篠藤のお母さんは大丈夫か?」
「うん、いつものことだから平気。まさか私が友達を連れて来るって言って、ピアスをした人と凶悪な顔をした人を連れて来るとは思わなかったんじゃないかな」
「そうか……何か悪い事をしたな。いや、何かいろいろと複雑だけどよ」
「玄弥は背も高いしね。僕らは不死川先生も見てるからあんまり気にならないけど。お母さんには刺激が強かったのかもね」
「いや、だから……炭治郎も遠慮が無いな」
玄弥はじっとりとした目で炭治郎の方に顔を向けている。
台所の方では電気ケトルで湯を沸かす音がしている。食器棚からかちゃりかちゃりとカップを取り、光希が「茶葉はどこだっけ」などとぶつくさ言っている。
「きつい天然パーマなんだよ。好きでこんな髪型にしてるわけじゃない。それに丸坊主にしたら全然射撃の成績が振るわないし、学校から止められてるんだ。剃るのを」
「風を読んでいるんだろう? すごい能力だ」
「髪の毛で風を読むの? そんな話、初めて聞いたよ」
「俺もよくわかんねぇな」
「天才と言われる人達は常人ではわからない事があるのかもね。宇髄先生もいつも美術室を爆破させているし」
母親は驚愕した。光希は学校の話をしたがらなかったが、一体どんな学校生活を送っているのか。髪の毛で風を読む、爆破などと尋常ではない。
「でも、優しそうなお母さんじゃないか」
「だな。そりゃあ娘が俺みたいなのを連れて来たら驚くのは分かる気がする。俺がお母さんと同じ立場でも何か言うだろうな。ぶん殴るかもしれない」
「そう? 大袈裟なんだよね。過保護っていうか……あ、でもそれもそうかも……」
光希は何か思い当たる節があるのか急に口を閉ざした。
「何か手伝おうか」
「ううん、平気。そこでくつろいでて」
炭治郎は辺りを見渡してくんと鼻を鳴らした。
「娘を心から大切にして見守ってる優しい匂いがする。娘を大切に育ててきたのがわかる。この家はそういう家だ。温かい家庭で俺の方も何だか嬉しくなるよ」
「炭治郎は鼻が利くもんな。そんなこともわかるんだな。篠藤って……あんまり学校で人と話してるのを見た事無かったし、心配してただろうな。俺も篠藤と話すようになったのはつい最近だし」
光希がトレーに人数分のカップとソーサーを乗せ運んで来た。にこにこと何やら小声で話をしている炭治郎と玄弥を見て、不思議そうに首を傾けた。
「ああ、ありがとう」
「どういたしまして。でもね、茶葉がどこかわからないんだよね。どこにあるのかな」
突然にソファーで横になっていた母親が勢い良く体を起こした。
「うわ、びっくりした」
「光希、茶葉は戸棚の一番右。何って良い子達なの。お母さん感動しちゃったわよ。ほら、作ったマドレーヌもお出しししなさい」
母親は率先してちゃきちゃきと動き出し、テーブルの上には一瞬にして四人分の紅茶とお菓子が並んだ。