豆まき?
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今年の節分は葉子が鬼役を務めることとなった。
般若の面を頭につけた葉子はなぜか槇寿郎の命により真っ赤な紅をさし、何かの余興が始まるのかと思うような妖艶な姿になっていた。昼なのに。
「うーむ……」
槇寿郎はまじまじと葉子を眺めると、何かが足りないと唸り出した。
「葉子、般若は嫉妬と恨みのこもった女の鬼のことだぞ。もっと鬼っぽさが欲しいな」
「えっと……鬼っぽさって何ですか?」
「嫌だったら別に無理にとは言わないが、もっと着物をはだけさせた方が良い。襟をもっと開くとかな。裾も大胆にたくし上げても良いな。太ももを露にするとか」
「え……それは」
明らかに葉子は引いていたが、全く悪びれる様子もなく言い放つ槇寿郎に側にいた杏寿郎はとうとう痺れを切らした。
「父上、もう良いでしょう。何が目的です?」
「な! ば、馬鹿者! 目的とかではない! 俺はもっと現実に寄せたらどうかと提案しているのだ! 女の鬼はだいたいそうだったろ!? なぁ! 千寿郎!? その方が楽しいだろう!?」
杏寿郎は父の肩に手を置いて、元より開いている瞳をさらに見開き言い放った。
「一体何が目的です? 良い加減にして頂きたい!」
「むぅ……」
杏寿郎の怒っているような気迫に気圧され、槇寿郎は大人しく黙った。
「よし! では玄関の方から庭に周り、外が終われば部屋の中だな! 俺達は葉子について行こう!」
こうして杏寿郎より高らかに宣言され、豆まきが始まった。
「…………」
杏寿郎より強く牽制されすっかり興が覚めた槇寿郎は縁側に座り、きゃっきゃっと豆をばら撒きながらはしゃぐ3人をぼんやりと眺めるばかりであった。
「鬼は外ー!福は内ー!」
千寿郎も楽しそうに声を上げ、豆をまく。仲の良い楽しげな光景だったが、槇寿郎は縁側で寝そべり不貞腐れていた。
(豆まきとかどうでも良い……炒った豆なんぞ食っても嬉しくとも何ともないしな)
とたとたと逃げる葉子に、千寿郎もぽつりぽつりと、杏寿郎も何粒かの豆をやんわりと投げ追いかける。
するとそのうちの一粒が葉子のうなじより、着物の中にするりと入ってしまった。
「ひゃあ!」
突然、葉子は両腕を抱えてしゃがみ込んだ。慌てて杏寿郎と千寿郎は駆け寄る。
「痛かったか? 変なところにぶつけてしまっただろうか?」
「大丈夫ですか? 葉子さん」
「大丈夫です。豆が着物の中に入って来て……変な感じでちょっとビックリしただけです」
その光景を縁側より眺めていた槇寿郎はおもむろに起き上がるとすっくと立ち上がった。
「よし、俺も参加しよう! たくさんの福を招かなくてはな」
こうして葉子を3人で追い掛ける事になったのだが……
槇寿郎は明らかに葉子のうなじや首元を狙っていた。しかも豆は上から下に向かうように投げている。何回か投げたうちの数回はするりと着物の中に入り、その度に葉子は
「きゃ……」「やっ……」「はぅっ!」などと小さく悶えるのであった。
「豆まきは実に楽しいな! わははは!」
楽しそうに葉子を追い掛け回す槇寿郎だったが、ふいに背後から殺気を感じ、身構え、体をとっさにひねった。
その横を豆が恐ろしい速さで通り過ぎ、壁に当たると壁にめり込んだ。とっさに体をひねらなかったら服を貫通していただろう。
「……父上、鬼がついているのはどうやらあなたのようだ。千寿郎、葉子はずっと走って疲れている。鬼は父上に交代だ。今から父上が鬼役だぞ」
「はい! わかりました!」
杏寿郎は升に入った豆を手に握ると、すぅと呼吸を整えた。
その瞳は今、まさに悪鬼を滅さんとする炎柱の怒りの業火のように激しく厳しいものであった。下弦の鬼程度ならばその気迫だけで逃げ出すだろう。それ程の覇気を放っている。
「いや、待て。豆まきに呼吸は駄目だ。呼吸は使っては駄目だ……! 杏寿郎! 目が据わっているぞ」
「何、父上。これも鍛錬の一環としましょう。鬼殺隊である以上、悪しき鬼は殲滅しなければ……」
そうして、炎柱による本気の豆まき……もとい鬼狩りが始まった。
その日、風呂に入った槇寿郎の体には無数の痣があったらしい。