13.突然の預かりもの
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「今行きます」
突然の来客に、葉子は割烹着を外しながら急いで玄関へと向かった。結っている髪を少し整えながら、玄関に出ると近所に住む若い夫人がいた。腕には最近生まれたという赤ん坊を抱いていた。
「すみません。急に訪ねて来てしまい」
「こんにちは。どうされました? どうぞお上がり下さい」
「いや……それが……急いでますので手短にここで」
赤ん坊は母親の腕の中ですやすやとおくるみに包まれ静かに眠っている。はじけるようなつやつやとしたほっぺが見えている。その愛らしい姿に葉子は思わず顔がほころんだ。
「あの、急で申し訳ないのですが、しばらくこの子を見ていてほしいのです。急な法事がありまして……あの、これおむつと粉乳です。お願いします」
「ええ、それは構いませんけれ……ど」
夫人は葉子の言葉が終わる前に、手にしていた袋を渡し、赤ん坊をぐいと腕に持たせた。
思っていたよりも赤ん坊はずっしりと重く、落とさないように腕に力を入れた。
「すみません。本当にすぐ行かなきゃならなくて。よろしくお願いします!」
夫人は何度も何度も頭を下げて、そのまま逃げるように行ってしまった。よほど急いでいるのだろう。
葉子は赤ん坊と共に玄関に取り残されてしまった。
「行っちゃった……」
赤ん坊はすやすやと大人しく眠っている。葉子は赤ん坊の世話はしたことがない。さて、どうしたものかと途方にくれてしまった。
槇寿郎であれば、赤子の扱いに慣れているかもしれない。何せ子を二人も育てた父親なのだから。しかし、家長の槇寿郎は千寿郎と共に外出中で不在である。
赤ん坊を抱く腕もだんだんと疲れてきた。ぎこちなく変なところで力を入れてしまっているのだろう。赤ん坊はずっしりと重く、体はじんわりと熱い。そろそろ腕からおろしたい。
赤ん坊を抱きながら廊下へ戻ると、ちょうど杏寿郎と出くわした。赤ん坊を抱いた葉子を見るや、大きな目をさらに見開いて固まった。
「杏寿郎さん、この子は……」
「……む、葉子。いつの間に赤子をこしらえたのだ!」
「……説明しますので、こちらへ。声は静かに出して下さいね。寝てますので」
・・・
「なるほど。そういうことか」
赤ん坊は座布団の上に置かれ、すやすやと眠っている。座布団の大きさにすっぽり収まり、それでもまだ座布団に余裕がある。腕の中にいた時よりも穏やかな寝顔をしているような気がした。母親の腕の中ではないのを感じ取っていたのだろうか。
「このまま寝てくれていたら良いのですが、きっとそのうちに起きてくると思うのです。その時にどうしたら良いかわかりません……泣かれでもしたら……」
「おしめを変えて、乳を飲ませ……あとは高い高いだろうな! 俺がやろう! 天高く!」
「ちょっ……もう少し小さな声でお願いします。起きてしまいます」
早く槇寿郎が早く帰って来ないだろうかと葉子は思った。杏寿郎の普段から大きな声にそろそろ起きてくるに違いない。
二人は眠っている赤ん坊を覗きこんだ。ふくふくとしたほっぺに、むちむちとした腕や足。思わず触りたくなるほどに愛らしい。
「でも本当に可愛いですね」
「全くだ」
他人に見つめられているのもつゆ知らず、すやすやと眠っている。小さな胸はゆっくりと上下に動いていた。
「こんなに小さくてもちゃんと息してますし、一生懸命に生きてますね」
「本当だな。当たり前のことだが、生命の力強さを感じる」
葉子は手にしている団扇で赤ん坊をゆっくりと仰いだ。まだ細くて薄い髪がふわりふわりと揺れている。
「あら、見て下さいここ。虫に刺されてますね。可哀想に」
赤ん坊の左腕にはぷつと赤い膨らみが二箇所あった。
葉子は立ち上がると側にある箪笥から薬の箱を取り出した。中から小瓶に入った塗り薬を取り出し、人差し指にほんの少しだけ薬をつける。
「胡蝶様より譲って頂いた虫刺されの薬です。痒くなる前に塗ってあげましょう」
赤ん坊を起こさないようにそっと小さな腕に薬を塗る。くるくると優しく。赤ん坊はくすぐったいのか、ほんの少し口をもごもごとさせた。
「きょ、杏寿郎さん……」
「どうした?」
「信じられないくらいに腕が柔らかくて……」
「柔らかくて?」
「か、可愛いです……」
葉子はあまりの柔らかさに感動し、思わず畳に突っ伏し悶えた。あまりの可愛さに心を射抜かれてしまった。母性本能がくすぐられたようだった。
「葉子がそこまで言うなら間違いないな! 俺も触れてみたい」
「大きい声は出さないで下さいね。そっとですよ……起きてしまいますから。そおっと……」
続いて杏寿郎が赤ん坊のほっぺに手を伸ばす。そっと指でふっくらとした頬に触れてみると
「
そのあまりの柔らかさにいつもの声量で言い放った。