11.お見舞い
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ある日の午後、家の通りの掃除をしていたところ通りの向こうに桜餅のような髪色の人物が手を振っているのに気が付いた。
ぴょこぴょこと飛び跳ね、元気に手を振っている愛らしい仕草に思わず顔がほころぶ。
「葉子ちゃーん!」
「甘露寺さんっ」
お互いに駆け寄り「うわぁ、お久しぶり」ときゃっきゃと歓声を上げた。
「煉獄さんが心配でお見舞いに来ちゃった! 葉子ちゃんは大丈夫?」
「少しずつ体力を戻して、今は稽古もできるようになりました。まだ任務には行けませんが、食欲もあるし、元気ですよ」
「良かったぁ! 葉子ちゃんまで元気無くしてないと良いなって思って。やっぱり……その、旦那さま……が大怪我をして帰って来るとびっくりするもんね」
蜜璃はなぜか「旦那さま」という自分の発した言葉に赤面をしていた。もじもじと縮こまっている。
そして蜜璃の後ろには男が二人。一人は一度会ったことがある。蜜璃よりも胸を大きく開いた隊服を着ている風柱と、もう一人は初めて見る顔だった。首に蛇を巻いている。その蛇はちろちろと舌を出していた。
「あのね、今日は鬼殺隊のみんなで煉獄さんのお見舞いに来たの。こちらは不死川さんと伊黒さん」
「よぉ、久しぶりだなァ」
「…………」
伊黒と呼ばれた男は葉子を見定めるようにじっとりと睨んでいる……ように見える。
「お忙しいところありがとうございます」
深々と頭を下げて顔を上げると、首に巻きついている蛇と目が合った。真っ白な体に赤い瞳。ちろと舌を出したり引っ込めたりしている。なぜ蛇を首に巻いているのだろう。とても気になったが蜜璃と不死川を前にして、考えるだけ野暮だと思った。
「どうぞ、お上がり下さい。家族以外の方とあまり接していないので喜ぶと思います」
玄関の横に手にしていたほうきを立て掛け、からからと引戸を開ける。玄関先に置いてあるいくつかの草履を端によせる。今、この時間は杏寿郎しか在宅していない。その杏寿郎は今は稽古場で一人でいる。
「どうぞお上がり下さい」
三人を家の中に通した。
「おじゃましまーす」
「邪魔するぜェ」
「…………」
各々が玄関で草履を脱ぎ、葉子の後ろをついていった。
客間まで続く廊下を歩きながら葉子は考えていた。
恋柱の蜜璃に風柱の不死川と、初めて会う伊黒。柱二人と一緒にいるということは、この蛇を巻いた人も柱なのではないかと思った。
柱が見舞いにやって来た。鬼殺隊の最高位である柱が三人も見舞いに家にやって来た。これは大変なことなのではないか。
葉子は咄嗟に槇寿郎に助けを乞おうと思ったが今は外出中だとはたと気が付いた。背中に嫌な汗がひと雫おりていく。
蜜璃一人ならともかく、柱が三人もいる。最上の敬意を払っておもてなしをしなければ、煉獄家の品位に関わるのでは?
後ろをついてくる三人は特段会話らしい会話もなく静かに廊下を歩いている。
最上の敬意とは?
葉子は普段より鬼と戦う鬼殺隊には敬意を払っているつもりだが、柱……それが三人もいるとなるとどうしたものかと悩んだ。
お茶は最高級の茶葉が良いかしら。それよりも抹茶を立てた方が良いかな。ん、待って。茶葉切らして無かったっけ。あと、お茶菓子あったっけ? 杏寿郎さん今朝食べちゃってなかったっけ? いや、嘘、まさかお茶がない? 待って、茶菓子なら戸棚の引き出しに槇寿郎さんのとってあった栗饅頭がいくつかあった気がする。勝手にお客様に出したら後で怒られるかな。柱の皆さんにお茶菓子を出さないっていうのも……。そんなことよりも茶葉を切らしてる! 茶葉がない!? お茶を出せない?
ぐるぐると考え事をしているうちに客間に到着し、三人を部屋に通す。この家で一番格式が高く広い部屋だった。
「只今、呼んで参ります。お待ち下さい」
葉子は静かに障子を閉めると、急いで杏寿郎のいる稽古場に向かった。